Ⅰ.は じ め に 急性冠症候群(ACS)においては,速やかに適切 な治療を必要とする多彩な不整脈が合併する.特に 急性心筋梗塞(AMI)に合併する心室細動(VF)は, 心臓突然死の中で最も頻度が高い不整脈であり,ま た心房細動や房室ブロックなどは血行動態の悪化を 伴う不整脈である.近年,coronary care unit(CCU)
の普及および早期収容による不整脈の心電図モニタ リング,致死的不整脈に対する適切な治療によっ て,AMIの院内死亡率は減少している1). 本稿では,ACS,特に AMIに伴う各種不整脈と その対処について論じる. Ⅱ.心室頻拍/心室細動 1.心室頻拍 /心室細動の発症頻度 冠動脈インターベンション(PCI)時代の APEX-AMI試験によると,心室頻拍 /心室細動(VT/VF) の発症率は,ST上昇型急性心筋梗塞(STEMI)5,745 症例中 329症例(5.7%)に見られ,そのほとんどの 症例(282症例)が STEMI発症後 48時間以内に生じ ている2).そのうち,205症例でカテーテル治療終 Keywords ⃝急性冠症候群 ⃝心室不整脈 ⃝上室不整脈 ⃝治療 筑波大学医学医療系循環器内科 (茨城県つくば市天王台 1-1-1)
Treatment for Arrhythmias Associated with Acute Coronary Syndrome Akira Sato
急性冠症候群(ACS),特に急性心筋梗塞(AMI)においては,速やかに適切な治療を必要とする多彩な 不整脈が合併する.AMI に合併する心室細動(VF)は,心臓突然死のなかで最も頻度が高い疾患である. 近年,coronary care unit(CCU)の普及および早期収容による不整脈の心電図モニタリング,致死的 不整脈に対する適切な治療によって,AMI の院内死亡率は減少している.また,心電図における早期再 分極が ACS の心室頻拍(VT)/VF の発症に寄与していることが報告され,AMI 症例にて発症前の 12 誘 導心電図を評価できた連続 220 症例において,早期再分極の存在が VT/VF の発症の独立した危険因子 であった.AMI に対する緊急冠動脈インターベンション(PCI)治療を行う機会が多いインターベンショ ン医は,ACS に伴う不整脈の対処法を習得するとともに,不整脈専門医との密な連携を図り,致死的 な不整脈に対して最善の治療を施すべきである.早期の冠血行再建術が普及した時代においても,致死 的不整脈の早期発見と早期治療が患者の予後を改善させるためにも重要である.ACS,特に AMI に伴 う各種不整脈について臨床的背景,診断および治療について記述した. (心電図,2014;34:108 〜 117)
虚血と不整脈
急性冠症候群に伴う不整脈とその対処
第 30回日本心電学会学術集会 学術諮問委員会提言シンポジウムより
佐藤 明了まえに不整脈が見られている.また,血栓溶解療 法時代の GUSTO-1 試験では VT/VF の発症率は, STEMIで 10.2%,80 〜 85%で発症 48 時間以内に 生じ,非 ST上昇型急性心筋梗塞(NSTEMI)で 2.1% (VT 0.2%,VF 0.1%,VT および VF 0.3%)であり, 発症時間の中央値は 78時間であった3). VT/VFの発症の予測因子については,いくつか の臨床試験やメタ解析にて報告がなされている. STEMI 57,158症例のメタ解析によると,ST上昇の 存在は,オッズ比(OR)3.0,95% CI 2.43〜 4.62で 独立した危険因子であり4),GISSI-2試験では低 K 血症(< 3.6 mEq/L)において 2倍の発現頻度が報告 されている5).また,低血圧(入院時< 120 mmHg), 大きな梗塞,男性(OR 1.27,95% CI 1.12〜 1.43), 喫煙歴(OR 1.26,95% CI 1.04〜 1.53)で VT/VFの 発症率が高くなり,梗塞前狭心症では,虚血プレコ ンディショニングの効果から,院外 VFの発生を抑 制している.最近,われわれは AMI症例にて発症 前の 12誘導心電図を評価できた連続 220症例にお いて,早期再分極の存在が OR 7.31,95% CI 2.21〜 24.14と VT/VFの発症の独立した危険因子である ことを報告した(表 1)6).早期再分極の特徴として は,下壁誘導の J点上昇,より高い J点上昇,早期 再分極のノッチ形状,水平 /降下型 ST部分を伴っ た早期再分極が VT/VFの発症と関連していた. 2.心室頻拍 /心室細動の治療 VFおよび血行動態の破綻した VTに対しては, 早急に電気的除細動を行い,洞調律に戻すことが重 要である.AMI発症 24〜 48時間以内の早期 VFは 院内死亡に関連するが,退院後 1〜 2年の死亡率増 加には関与していない7).また,2〜 3週間後に生 じる遅発性 VFは,右脚ブロックを合併した前壁 AMIと左室駆出率(LVEF)≦ 35%などの進行性の ポンプ機能障害に起因している.AMIに対する緊 急 PCI治療を行う機会が多いインターベンション 医にとって,急性冠症候群に伴う VT/VFに適切に 対処していかなければならない(図 1).PCI中およ び PCI直後に生じた VT/VFに対して,不整脈専門 医が病院に在籍している場合には,アブレーション を含めた最善の治療が可能である.また,専門医が いない場合は,日本循環器学会の「ST上昇型急性心 筋梗塞の診療に関するガイドライン」に従って, VT/VFを安定化させる必要がある8).VF/pulseless VTに対しては,ただちに電気的除細動を行う.VF が停止した場合は,再発予防のためにカリウムとマ グネシウムを 4 mEq/L, 2.0 mg/dl以上に保ち,VF
Variables OR(95% CI) *Multivariable p値 Age 00.97(0.91∼1.02) 0.2 Male gender 07.35(0.66∼81.54) 0.10 Time from onset to ER < 180min 03.77(1.13∼12.58) 0.03 A Killip class > I 13.60(3.42∼53.99) <0.001 Peak creatine kinese levels > 3000U/L 00.69(0.21∼2.25) 0.5 Multi-vessel disease 03.26(0.93∼11.46) 0.07 ST elevated myocardial infarction 02.57(0.22∼29.70) 0.4 Early repolarization 07.31(2.21∼24.14) 0.001 CI : confidence interval, ER : emergency room, OR : odds ratio
*All the variables in the columns were used in the multivariate model. 〔文献6)より引用改変〕
表1 多変量解析による急性心筋梗塞発症48時間以内の持続性 心室細動の発症を予測する因子
が停止しない,あるいは再発した場合には,アミオ ダロン 125 mgやニフェカラントを 0.15〜 0.3 mg/kg を静注し,再度電気的除細動を行う.近年プロカイ ンアミドは,ほとんど使われていない.持続性 VT のときは,多形性 VTであれば電気的除細動を行 い,治療抵抗性であればアミオダロン 125 mg,ラ ンジオロールなどのβ遮断薬を投与し,血行動態が 保てない場合は IABP, PCPSを躊躇することなく挿 入する必要がある.単形性 VTの場合にも狭心症, 肺水腫,血圧低下があれば,電気的除細動を行う. 症例を呈示する.症例 1は 55歳男性,STEMI患 者(図 2).来院時の心電図では,Ⅱ,Ⅲ,aVFで ST上昇が見られ,救急外来で VFを呈していた. 電気的除細動を行い洞調律に戻るも,その後も連結 の短い心室期外収縮(VPC)が頻発するためにラン ジオロールの持続点滴を行いながら,緊急冠動脈造 影検査を施行した.左回旋枝 13番の 99%狭窄を呈 しており,ステント留置にて再灌流に成功した. VFは再灌流性不整脈によるものと考えられた. 症例 2は 56歳男性,透析後に STEMIとなり,冠 動脈造影検査にて seg. 6,seg. 11に高度石灰化と高 度狭窄病変を認め,緊急冠動脈バイパス術を施行さ れた.術後 4日目から,血行動態の破綻する多形性 VTが頻発し,VT stormに対してアブレーション を行った.頻回に出現した VTは右脚ブロック型 で,上方軸のほとんど同じ VPCをトリガーとして 出現を繰り返していた(図 3).心内膜の voltage mappingでは,異常低電位の部位は見られず,中 部前側壁の部位に最早期興奮電位を認め,同部位の 心内膜電位も超低電位ではなかった.また,図中オ レンジのタグで示すプルキンエポテンシャル記録部 位とも離れていた.Activation mapping では,同 部 位 か ら 同 心 円 状 に 興 奮 が 伝 播 す る い わ ゆ る centrifugal patternを示しており,同部位が最早期 部位であることが示された.同部位の局所電位で は,VPC1から 54 msec先行するpre systolic potential を認め,単極誘導では QS型を示していた.最早期 興奮部位における pace mapping では,トリガー VPCと完全に一致する perfect mappingが得られた ため,同部位にカテーテルアブレーションを行った ところ,VPCの出現はまったく見られなくなった. しかし,アブレーション終了 6時間後より若干形の 異なる VPCが出現し,それをトリガーとして再び VT/VF stormを繰り返すようになったため,2回 目のアブレーションを施行した.トリガー VPCは, 1stセッションとは異なり,右脚ブロックで下方軸 を呈していたため,この VPCをターゲットにマッ ピングを行った.1stセッションとほぼ同じ部位に QRSから 55 msec先行する prepotentialを認め,同 部位からのペーシングで perfect pace mapが得ら れた(図 4).左冠動脈造影を行ったところ,心内に おける最早期興奮部位は,左室中部の前側壁に位置 しており,対角枝(D2)の還流域であることが判明 した(図 5).還流型カテーテルを用いて,低濃度の 50%エタノールを毎分 0.5 mlの割合で,10分かけ て緩徐に持続注入した.開始後 30秒より VPCの減 少を認め,約 1分後には VPCの出現をまったく認 めなくなった.入院後の経過表を図 6に示す.血行 動態の破綻する VT stormは,第 1回目のカテーテ ルアブレーション後に 6時間見られなくなり,その 後再び形の若干異なる VPCをトリガーとして VT stormが再発し,第 2回目のエタノール注入による 化学的アブレーション後にはまったく見られなく なった. 図 1 インターベンション医による急性冠症候群に 伴う不整脈の対処法 不整脈専門医あり 不整脈専門医なし コンサルテーション 急性心筋梗塞の 診療 ガイドライン
心室頻拍(VT)/心室細動(VF)
最善の治療可能3.心室頻拍 /心室細動の予防 電解質補正:血清カリウム 4.0 mEq/L,血清マグネ シウム 2.0 mg/dl以上に維持するように,電解質・ 酸塩基平衡を是正する. 抗不整脈薬:Ic群不整脈薬の予防投与は,VFの発 症リスクを減少させず,逆に死亡率を増加させたた め,禁忌となっている.また,急性期のリドカイン 投与も,大規模臨床試験のメタ解析より VFの発症 リスクを減少させたが,むしろ死亡率は増加する傾 向を示すため,推奨されていない. β遮断薬:2007年の米国心臓病学会および米国心 臓協会の ACC/AHA ガイドラインでは,禁忌が なければβ遮断薬の急性期投与を推奨している. 29,000症例以上を含む解析では,急性期の投与によ り急性期死亡率を 13%低下させ,VFの予防が可能 であることが示されている9). 植込み型除細動器(ICD) : 本邦の不整脈の非薬物治 療ガイドラインでは,AMI後の突然死二次予防の ための ICD植込みは VFが臨床的に確認されている 場合,クラス I適応である10).AMI発症後,急性 期以降(> 48時間)に出現する VFや持続性 VTは, その後も再発する危険性があり,ICDの適応につい て考察されるべきである. Heart rate (beats/min) Blood pressure (mmHg) Landiolol 20μg/kg/min VF PVC
Baseline angiogram Final angiogram
VF出現 来院時 Ⅰ Ⅱ Ⅲ aVR aVL aVF V1 V2 V3 V4 V5 V6 図 2 【症例 1】 55歳男性,STEMI/VFの患者
Ⅲ.上室不整脈 1.発作性心房細動(PAF) AMI後に生じる心房細動(AF)は,5%から 18% で,心不全,腎臓病,高血圧,糖尿病などを合併し た 患 者 に 生 じ や す い と 報 告 さ れ て い る.LVEF 40%未満を伴う AMI患者の AFの発症頻度と予後 を調査した CARISMA試験によると,39%の症例 で AFが発症し,そのうち約 50%が 2ヵ月以内に, 約 80%が 1年以内に生じており,ほとんどの症例 が無症状であった.AFの持続期間は,約 50%の症 例で 30秒以上であった.また,AFの新規発症は, 心血管イベントの独立した危険因子であり,持続期 間が 30秒以上では 30秒未満に比べて有意に心血管 イベントのリスクが上昇した11).持続する頻脈性 AFや心房頻拍は,心筋酸素消費量を増加し血行動 態を増悪させるため,速やかな心拍数のコントロー ルが重要である.治療の第一選択は,β遮断薬であ り,血行動態の不安定な患者に対しては,速やかな 電気的除細動を考慮すべきである.また,除細動に て洞調律に回復しない場合や短時間に再発する場合 は.アミオダロンの静注を考慮する8). 2.洞性徐脈 洞性徐脈は,AMIの 15〜 25%に生じ,特に下壁 AMIにしばしば合併する.洞性徐脈は,しばしば 一過性であり,24時間以内に回復する.治療が必 要な場合は硫酸アトロピンの静注を行い,血行動態 の不安定な徐脈に対しては,一時的なペースメー VPC VPC VT
Trigger VPB s
Voltage Mapping
Ⅰ Ⅱ Ⅲ aVR aVL aVF V1 V2 V3 V4 V5 V6 図 3 トリガー VPC/VTと Voltage Mapping(CARTO)
Perfect Pace Mapping new VPC Pre Potential new VPC His7-8 His1-2 MAP1U MAP1-2 MAP3-4 Ⅰ Ⅱ Ⅲ aVR aVL aVF V1 V2 V3 V4 V5 V6 Ⅱ Ⅲ V1 V2 V5 図 4 2ndセッションにおけるトリガー VPCとペースマップ D2
RAO view LAO view
Relation of SOO-VPC and Coronary Anatomy
Micro catheter(D2)
図 5 左室中部の前側壁/対角枝(D2)の還流域の最早期興奮部位とケミ カルアブレーション
ABL(1st) ABL(2nd) 11 10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 0 AM PM VT/VF アミオダロン ランジオロール 病日 投与薬 35 30 25 20 15 10 5 0 回数 ニフェカラント リドカイン 図 6 入院後経過表(心室頻拍 /心室細動の回数と投薬内容) RCA : #1 100%閉塞 Driver 3.0/23mm 来院時 PCI後 Ⅰ Ⅱ Ⅲ aVR aVL aVF V1 V2 V3 V4 V5 V6 Ⅰ Ⅱ 図 7 【症例 2】82歳女性,急性下壁右室梗塞+房室接合部調律(心電図と冠動脈造影検査)
カー治療を行う.特に,右室梗塞を合併した徐脈に 対しては,心室ペーシングより心房および心房心室 同期ペーシングを考慮する. 症例 2は 82歳女性,急性下壁右室梗塞と房室接 合部調律を呈した患者である(図 7).来院時の心電 図では,Ⅱ,Ⅲ,aVFで ST上昇が見られ,緊急冠 動脈造影検査を施行,右冠動脈 1番で完全閉塞を呈 し,ベアメタルステントを留置して再灌流に成功し た.バックアップに VVI のテンポラリーペース メーカーを留置するが,右室梗塞の合併も見られた ため,高用量の輸液とカテコラミンの持続点滴を行 い,房室接合部調律となった.房室接合部調律と洞 調律を繰り返し,房室接合部調律時は血圧および尿 量が低下し,洞調律時には血圧と尿量の上昇が見ら れるために,心房ペーシングを留置したところ血行 動態が安定した(図 8).房室接合部調律時と心房 ペーシング時の左室流入血流速波形と心拍出量を示 す.心房ペーシング時には心房波 A波が,心房心 室の同期性に伴い心拍出量の増加が見られている (図 9). 3.房室ブロック 右冠動脈を責任病変とする下壁 AMIの場合,約 10%にⅡ度以上の房室ブロックを合併する.また, 前下行枝を責任病変とする前壁中隔梗塞の場合,約 3%にⅡ度以上の房室ブロックを合併するが,His 束以下の障害であることが多く,補充調律のレート が低いことから,心機能が悪く予後も不良である. 下壁梗塞の場合は,His束より上位の障害であるこ とが多く,補充調律のレートも 40回 /分以上で, 一過性である.房室ブロックに対する恒久的ペーシ ングの適応は,His-Purkinje系,あるいはより末梢 での伝導障害があるか否かによる.STEMI急性期 において一時的ペーシングが必要とされても,その 全例が恒久的心室ペーシングの適応条件を満たすわ けではない.房室ブロックの消失が期待される場合 や長期予後に悪影響を及ぼさない場合は,ペース メーカーの植込みを急ぐ必要はない.一時的ペーシ ングが必要になっても,できるだけ恒久的ペース 図 8 房室接合部調律と洞調律時の血行動態 0 20 40 60 80 100 120 140 160 180 200 0 100 200 300 400 500 600
メーカーの植込みは避けるべきである. Ⅳ.お わ り に ACS,特に AMIに伴う各種不整脈とその対処法 について記述した.早期の冠血行再建術および積極 的な薬物療法が,AMIの急性期死亡率を減少させ ているものの,VT/VFは ACS後の死亡リスクの一 因となっている.インターベンション医は,ACS に伴う不整脈の対処法を習得するとともに,不整脈 専門医との密な連携をはかり,致死的な不整脈に対 して最善の治療を施すべきである.早期の冠血行再 建術が普及した時代においても,致死的不整脈の早 期発見と早期治療が患者の予後を改善させるために も重要である. 〔文 献〕
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E E A <房室接合部調律> <心房ペーシング 90/ 分> 心拍出量 1.8L/ 分 3.8L/ 分 60 60 172 165 161 59 57 49 53 138 141 149 140 49 49 52 48 177 180 160 140 120 100 80 60 40 160 140 120 100 80 40 180 160 140 120 100 80 60 40 図 9 心エコー図による左室流入血流速波形と心拍出量
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