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糖尿病性ケトアシドーシス59例の病態生理学的検討および膵島免疫組織学的検討

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原  著 〔東女医大誌 第62巻 第12号頁1598∼1607平成4年12月〕

糖尿病性ケトアシドーシス59例の病態生理学的検討

および膵島免疫組織学的検討

東京女子医科大学 第三内科学教室(主任:大森安恵教授)        マツ    モト      ヒロシ

       松  本    博

(受付 平成4年8月20日) Pathophysiological Studies on 59 Patients with Diabetic Ketoac且dosis and      Immunohistological Exan箪ination on Pancreatic Islets

      Hiroshi MATSUMOTO

Depaftment of Medicine III(Director:Prof. Yasue OMORI)      Tokyo Women’s Medical College   The clinical profiles of 59 patients(66 episodes)with diabetic ketoacidosis(DKA)who were admitted to the Diabetes Center of Tokyo Women’s Medical College during 1965 to 1989 were investigated and two recent−oncet young insulin・dependent diabetic patients(IDDM)who died due to DKA were studied immunohistologically. Their mean age was 38.6±2.3(M±SE)years and the mean diabetic duration was 6.0±0.8 years. The treatment of DKA by low dose insulin infusion was very efficient and safe method。 During the first 3 hours of treatment, the rate of insulin infusion was 8。4 U/hr, that of total fluid replacement was 467 ml/hr and the mean decrease in serum glucose was 98.6 mg/dl/hr(5.6 mmo1/1/hr). During the treatment of DKA, attention should be paid to compl量cations such as cerebral thrombosis, myocardial infarction and cerebral edema. Five of 8 cases were positive and three negative for islet cell antibody, which is one of the markers of immunologic abnormalities and can precede IDDM. Immunohistological examinations did not demonstrate clear董y the expression of HLA−DR antigen on the pancreatic islets in two patients.   These results might show that other causes besides HLA・DR antigen play some role in B cell destruction in the pancreas.          は.じめに

 糖尿病性ケトンアシドーシス(diabetic

ketoacidosis:DKA)は未治療または治療不充分 な症例にみられる糖尿病の極端なインスリン不足 の病態である.いままでもしぼしば少数の報告例 はみられたが一施設でDKA 59例計66回の多症例 を治療し検討した報告はわが国では殆どみられな い1)∼3).またインスリン依存型糖尿病(IDDM)に おける発症早期の未治療段階における膵島の免疫 組織学的検討は膵生検による報告4)を除けば稀で

ありIDDMの発症機序を考察する上に極めて重

要と考えられる.今回膵の免疫組織学的検討を行 う機会に恵まれ,また当センターの過去25年間の DKA症例を詳細に検討したのでその成績を報告 する.        対象および方法  対象は1965年から1989年までに東京女子医科大 学糖尿病センターに入院したDKA 59例66回であ り,男性20例,女性39例の計59例,年齢は平均38,6 歳,糖尿病の罹病期間は平均6,0年である(表1).. WHOの病型分類によるとIDDM 41例,インスリ ン非依存型糖尿病(NIDDM)18例である.1965年

(2)

から1974年までの15例はインスリン皮下注入法に より,それ以後51例はインスリン少量持続注入法 により治療したものである.後者は,速効型イン スリンを生理食塩水で希釈しdisposal syringe (テルモ並製)を用いたツルース万能注入器または マイフユーザー(日機装)で,原則として1時間 あたり2∼10単位のインスリンを静脈内に注入し た.血糖値は静脈血清を用いglucose oxidase法

により測定した.また,血中ケトン体はdi−

azonium法のkit(三和化学)を用いて測定した. 膵島細胞質抗体(ICA)はrhesus monkeyの膵凍 結切片を抗原として抗ヒトIgG(蛍光標識)を抗体 とした間接蛍光抗体法により測定した5).  DKAの定義は,①尿中または血中ケトン体陽 性,②300mg/d1以上の高血糖,③動脈血pH−7.3

以下またはHCO315mEq/1以下の3項目を満た

すものとした.

 DKAで死亡した発症早期IDDM患者2症例の

膵島における免疫組織学的検討は剖検膵の3μm に薄切したパラフィン包埋切片をヘマトキシリン ーエナジソ染色し観察するとともに,同切片につ いてインスリン,グルカゴン,ソマトスタチンの 局在を酵素抗体法により検索した.またHLA−DR

染色はmouse antihuman HLA−DR(DAKO−

HLA−DR, CR3/43(モノクローナル), DAKO社) を一次抗体とした酵素抗体法を用いた.なお対照 として非糖尿病患者の剖検膵を用いた.  統計解析はStudent’s t testを用いた.          成  績  1.DKAを起こした糖尿病患者の臨床分析  1)年齢,性別とbody mass index  全症例のDKA発症年齢は11歳より84歳におよ び平均年齢は38.6歳であった.性別では男性20例 (21回),女性39例(45回)の59例(66回)であっ た(表1).body mass indexは,男性平均20.6kg/ m2,女性平均19.9kg/m2であった.  2)糖尿病の罹病期間および合併症

 平均罹病期間はNIDDMの推定罹病期間も含

めて6.0±0.8(M±SE)年で,男性4.6±1.3年, 女性6.7±0.9年である(表1).DKAになるまで 糖尿病を発見されていない症例が14例(21%)を 表1 性別,糖尿病型,年齢および糖尿病罹病期間

Sex Type No. Age

iyr) Duration @ of ciabetes IDDM 13 26.5±3.6 2.7±1.1 ♂

NIDDM

7 57.0±6,9 8ユ±2.8* Tota1 20 37.2±4.7 4,6±L3 IDDM 28 32.8±2.3 6.1±1.1 ♀

NIDDM

11 55,9±4.1 8.1±1.8* Tota王 39 39.3±2.6 6,7±0.9 IDDM 41 30.8±L9 5.0±0.9 TotaI

NIDDM

18 56.3±3.4 8.1±1.4* Total 59 38.6±2.3 6.0±0.8 *NIDDMの罹患期間は糖尿病発見からの推定罹病期間を意 味する. 占めた.糖尿病発見または発症から10年以上のも のが22例あり最高18年の罹病歴があった.合併症 については1979年から1989年までの45例で,神経 障害のみを認める症例7例,神経障害および網膜 症を有する症例19例,慢性腎不全で血液透析中の 症例1例,また合併症を認めない症例が18例あっ た.  3)糖尿病以外の基礎疾患  59例中12例で糖尿病以外の他疾患がみられた. 膀胱炎2例,妊娠,腎孟腎炎,歯槽膿漏,甲状腺 機能低下症,橋本病,くも膜下出血,ダウン症候 群,十二指腸潰瘍,toxic epidermal necrolysis (TEN),血液透析のそれぞれ1例を認めた.

 4)DKAの誘因

 DKAの誘因を表2に示した.誘因として最も

多いものが急性上気道炎の23例(34.8%)であり,

次にインスリン自己中止または減量例が17例

(25.8%)みられた.また暴飲暴食6例,肺炎3例 を認めた.特異なものの原因として他院で50g経 ロブドウ糖負荷試験後DKAとなり,当センター 』に入院した症例が1例みられた.

 5)DKAの月別発症件数

 月別発症件数を図1に示した.2月をピークに 冬期にやや多い傾向がみられ,7月と9月が最も

少なかった.2月に発症したDKAの原因または

誘因としては急性上気道炎4例,インスリン自己

(3)

表2 DKAの誘因または原因 10 UpPer respiratory tract infection Cessation of insulin se玉f injection Heavy drinking and overeatlng Pneumonia Pyeユonephritis Pregnancy Subarachnoid hemorrhage 5090GTT* Toxic epidermal necrolysis Unknown 23 (34.8%) 17 (25.8%) 6(9.1%) 3(4.5%) 1(1.5%) 1(1.5%) 1(L5%) 1(1.5%) 1(1.5%) 12(18.2%) 器 詔 o Tota1 66 串OGTT:oral g}ucose tolerance test 中止例2例,50g経ロブドウ糖負荷試験後1例,不 明例3例であった.  6)入院時血糖,動脈血ガス分析および一般検査 所見

     123456789101112

       month       図l DKAの月別発症件数 DKAの月別発症件数を示した.2月をピークに冬期 にやや多い傾向がみられた.「  DKAに陥った入院時の血糖,動脈血ガス分析, 血算,生化学検査およびHbAlcを表3に示した.  血糖値は最低300mg/dl,最高1,431mg/d1で平 表3 検査成績 ♂ ♀ Total

Mean(Range) N Mean(Range)

N

Mean(Range)

N

Serum glucose(mg/d1) 694(350−1,350) 20 631(300−1,431) 46 650(300−1,431) 66 artery pH 7.170(6.90−7.3) 20 7.106(6.75−7.3) 41 7.13(6.75−7,3) 61 HCO,一 (mEq〃) 8.9(1.9−15.0) 19 6.9(1.8−15.0) 34 7.6(1.8−15.0) 53 WBC  (/mm3) 12,844(4,600−29,800) 20 17,361(4,250−44,700) 38 ユ5,803(4,250−44,700) 58 RBC  (×103/mm3) 487.2(371−643) 20 437.2(246−586) 35 455.4(246−643) 55 Hb  (9/dl) 15.0(11。2−19.8) 20 12,7(7.9−17.5) 35 13.5(7.9−19.8) 55 Ht   (%) 46.1(34.6−64.0). 20 40,4(23.6−58.2) 38 42.4(23.6−64.0) 58 ESR  (1h)(mm) 12.3(3−23) 10 25.7(4−88) 27 22.1(3−88) ゴ7 CRP  (mg/dl) 1.6(0.0−5.6) 11 4.0(0.0−35.4) 21 3.2(0.0−35,4) 32 Na  (mEq〃) 139.0(120−170) 20 138.6(117−156) 39 138.7(117−170) 59 K   (mEq〃) 4,6(2.8−6.6) 19 4.5(2.8−7.1) 40 4.5(2,8−7.1) 59 Cl  (fnEq〃) 101.6(83−145) 19 102,4(75−115) 37 102.1(75−145) 56 GOT  (KU) 39.3(5−265) 18 31.1(4−196) 35 33.9(4−265) 53 GPT  (KU) 23.9(4−78) 17 15.8(2−55) 35 18.4(2−78) 52 LDH  (mU/ml) 251.4(107−644) 18 240.8(91−748) 33 244.5(91−748) 51 BUN  (mg/dl) 28.6(6.0−68.0) ユ9 31.0(8.1−89.8) 37 30.2(6.0−89.8) 56 Creat (mg/dl) 1.5(0.8−4.0) 17 1.6(0.6−7.1). 31 1.6(0.6−7.1) 48 P   (mg/d1) 2.2(0.8−5.9) 10 2.6(0.9−6.2) 22 2.5(0.8−6.2) 32 Mg  (mEq〃) 2.0(1,7−3.0) 7 1.9(1.3−2.8) 12 1.9(1.3−3.0) 19 Amy  (U〃) 920.3(63−5,000) 15 530,2(52−3,039) 27 669.5(52−5,DOO) 42 HbA1。 (%) 12.3(9,2−15.9) 13 12.4(7.3−17.2) 17 12,3(7.3−17.2) 30

(4)

均650mg/dlであった.動脈血ガス分析では, pH は最低6.75,最高7.30で平均7.13,HCO3は最低 1.8mEq/1,最高15.OmEq/1で平均7.6mEq/1と アシドーシスを認めた.血算では白血球は平均 15,803/mm3,また血沈(1時間値)は平均22。1 mm, CRPは平均3.2mg/dlと炎症反応を認めた. 電解質は,Na+は平均138.7mEq/1, K+は平均4.5 mEq/1, Cl』は平均102.1mEq/1であった.GOTは 平均33.9KUとやや高く,GPTは平均18.4KU,ま たLDHは平均244.5mU/mlとともに正常上限で あった.血清尿素窒素は平均30.2mg/dl,また血清 クレアチニンは平均1.6mg/dlと軽度上昇してお り,それぞれ最高89.8mg/d1,7.lmg/dlと急性腎 不全を呈する症例も存在した.血清Pは平均2.5 mg/dlと正常下限を示しており,血清Mgは平均 1.9mEq/1と正常上限を示していた.血清アミ ラーゼは平均669.5U/1と上昇していた.また, glycosylated HbA、cは平均12.3%と上昇してい た.  7)血中ケトン体  表4にDKA 19例(男性7例,女性12例)の入 院時血中ケトン体を示した.総ケトン体は平均 10.2±1.8mmol〃,アセト酢酸は平均2.7±0.5 mmol〃,β一ヒドロキシ酪酸は平均7。5±1.3 mmol/1と上昇していた.男女差は認めなかった. なお,対照となる健常者91例6)の血中ケトン体は 総ケトン体74±2.4μmol/1,アセト酢酸41±1.4 μmol〃,β一ヒドロキシ酪酸34±2.1μmo1/1であ る.  また図2に治療開始前および治療開始後24時間 の血中ケトン体を測定し得たDKA 5例の変動を 示した.DKAのインスリン治療により24時間後 には血中ケトン体は有意に低下した(p<0.05).  8)DKAの治療に要したインスリン量  1965年から1974年までのDKA 15例はインスリ ン大量皮下注法で治療し,来院時より24時間のイ ンスリン投与量は392.7±86.2Uであった.一方, 1975年以後のDKA延べ51例はインスリン少量静 脈内注入法で治療し,そのインスリン投与量は 127.2±20.8Uであった.  9)DKAの治療に伴う血糖の変動 表4 DKA19例のケトン体   Ketone

base Tota1 AcAc 3−OHBA

19 10.2±1.8 2.7±0.5 7.5±1.3 ♂(7) 8.3±1.8 2.1±0.7 6.2±1.4 ♀(12) 11.4±2.6 3.0±0.7 8,3±2.0 Mean±SE(mmol〃). AcAc:acetoacetate,3−OHBA:3一β一hydroxybutyrate. 20.0   15.0 § 婁 ε10,0 5,0 0

A

A

*P<0.05 n=5 Before After 24h「s      ’「otal   AcAc   3.OHBA        AcAc:acetoacetate        3・OHBA:3・β一hydroxybutyrate   図2 DKAの治療に伴うケトン体の変動 AcAc: acetoacetate, 3・OHBA: 3一β一hydroxy− butyrate. DKAの治療前と治療後24時間のケトン体を示した. 治療後24時間のケトン体は治療前と比較し有意に低値 であった(p<0.05).  DKAのインスリン治療のうち1974年以降静脈

内インスリン少量持続注入法により治療した

DKA 29例の血糖の経時的変動を図3に示した. 静脈内インスリン注入速度8.4±1.2U/hrで治療 開始より3時間までの平均血糖降下率は98.6mg/ dl/hr(5.5mmo1/1/hr)であり,また血糖300mg/ d1になるまで要した平均インスリン量は41.7± 11.8Uであった.速効性インスリンの量は若干差 があっても使用量の範囲内では血糖の降下にあま り差はなかった,また検討した症例では特にイン スリン抵抗性を示す症例はみられなかった.  10)Islet cell antibody(ICA)ならびにhuman leukocyte antigen(HLA)の検出について

(5)

表5 DKA 6例のHLA

Case Age(yr) Sex Type HLA・A HLA−B HLA・C HLA・DR HLA・DQ

1 19 Male IDDM 24 w48 w3 w9 w3 2 24 Male IDDM 2.24 w60, w61 w3 w9 w3 3 50 Female IDDM 24.26 7,w62 w1 w1, w9 w3 4 19 Female IDDM 24.31 44.51 w9, w13 5 20 Male IDDM 2.24 w54, w61 w1 4,w8 w3 6 29 Female IDDM 11,w33 w54, w61 w1, w3 4,w8 一  1,500 署 も

5

霧 81・ooo 号 雪 蕾   500        n=29 高?≠氏@decrease rate of serum №撃浮モ盾唐?i0−3hr).98,6mg/dl!hr @      (5.5mmol〃hr)

    06121824

       time〔hrs〕  図3 DKAの治療に伴う血糖値の経時的変動 DKAの治療に伴う血糖値の経時的変動を示した.治 療開始より3時間までの平均血糖降下率は98.6mg/ dl/hrであった, 表6 DKAによる4死亡例

Case Age(yr) Sex Type Cause of death

1 19 Female IDDM Delayed diagnosis

2 84 Male

NIDDM

Pneumonia 3 16 Female IDDM Delayed diagnosis

4 37 Male

NIDDM

Cerebral thrombosis

 ICAを測定し得た8例中5例においてICAは

陽性であり,すべてIDDMであった.

 DKA症例の中でHLAを検索し得た症例は6

例ですべてIDDMの症例であった. DRw9陽性が

6例中4例,DR4陽性が6例言2例に認められた

(表5).  11)DKAによる死亡例 図4 DKAならびに高浸透圧性糖尿病昏睡に合併し  た内頸動脈血栓症  左内頸動脈の血栓を部位を変えて2ヵ所示した。  DKAと診断し治療したにもかかわらず死亡し た例が59例中4例みられた(表6).症例1および 症例3はDKAと診断された当センターに転送さ れるまでに長い時間を要しDKAの治療を開始し たが既にショック状態で死亡している.症例2は 84歳という年齢の要因も加わり肺炎の治療に反応 せず死亡した.また症例4は37歳の症例でDKA の際,脳血栓を合併し死亡した.  12)特異な病態を示したDKA症例  3例に特異な合併症が認められた.  (1)高浸透圧性糖尿病性昏睡ならびにDKAを 合併した1例,37歳,男性.DKAの治療による改 善中に内頸動脈の血栓(図4)を起こし死亡した.  (2)DKAの治療中に急性心筋梗塞(前壁)を合 併した71歳女性.DKAの治療により血糖値1,105 mg/d1より約250mg/dlに改善したが胸痛を訴 え,心電図上V2−V4でSTの上昇およびCPK 709 mU/mlと血清酵素の上昇を認めたため急性心筋

(6)

      図5 DKAに合併した脳浮腫 左:側脳室,脳溝の狭小化,消失を認める脳浮腫の頭部CT像を示した. 右:9日後の同部位のCT像を示した,側脳室の狭小化はほぼ正常に回復している. 梗塞(前壁)と診断した.CCUに転科し集中治療 した結果救命し得たDKAに合併した心筋梗塞で あった.  (3)DKAで脳浮腫を来した29歳女性. DKAで 治療中,一度改善した意識レベルが再び低下した ため頭部CTを施行したところ著明な脳浮腫を認 めた(図5左).ステロイドとグリセオールを投与 したところ,9日後の同部位の頭部CT像(図5 右)では脳浮腫は改善していた.  13)DKAを繰り返した10症例の特徴  ①インスリンを自己中止すること,②暴飲暴食 をすること,③感染症(上気道炎,尿路感染症) の際に著明な脱水を来し治療が遅れていること,

④2回目のDKA発症年齢が27.9歳と全体の

DKA発症平均年齢38.6歳より若いこと,および, ⑤男性が2例,女性は8例と女性に多いこと(全 体では男性20例,女性39例である)が特徴として 挙げられる.

 2.発症早期IDDM患者膵島での免疫組織学

的検討  症例1は24歳男性で,数日間の上気道炎後激し い口渇を訴え意識消失したため当院救急外来を初 診した.来院高血糖1,278mg/dl, pH 6.98, HCO3 4.9mEq/1で補液およびインスリン治療にもかか わらず,来院当日に死亡した.  剖検による組織所見では膵島へのリンパ球浸潤 は認められず膵B細胞は減少し,A, D細胞は膵 島の周辺に散在性に観察された.また膵島周囲の .血管内皮細胞および膵島自体でのHLA−DR抗原 は明らかではなかった(図61a∼e).  症例2は36歳女性で,約5ヵ月前に口渇,多飲 が出現していたが放置.その後数日間の上気道炎 後に口渇を訴え意識消失したため当院救急外来を 初診した.来院時呼吸停止を来したため挿管後人 工呼吸器管理とした.血糖400mg/dl以上, pH 7.20,HCO36.4mEq/1,尿ケトン体陽性であり補 液およびインスリン治療にもかかわらず約7時間 後に死亡した.  剖検による組織所見では症例1と同様に膵島へ のリンパ球浸潤は認められず膵B細胞は減少し, A,D細胞は膵島の周辺に散在性に観察された.ま たHLA−DR抗原の発現は認めなかった.          考  案  DKAについて本邦では少数例の報告は数多く

(7)

       撫 図6 1a ヘマトキノリンーエオノン染色,×400(症例1).1b  1).死後剖検まてに10時間経過しているため,著明な自己融解像を認める.lc  色,x400(症例1).グルカゴン陽性細胞は膵島の周辺に散在性に認められる.1d  ン染色,×400(症例1).ソマトスタチン陽性細胞は膵島の周辺に散在性に認められる.1e DR染色,×400(症例1).膵島周囲の血管内皮細胞およひ膵島自体てのHLA DR抗原は明らかで  ない.2 インスリン染色,×400(対照)       インスリノ染色,×1,000(症例        グルカゴン染        ソマトスタチ       HLA みられるが,ここに示したような多数例でのまと まった治療観察例の報告はなく,その臨床データ は極めて貴重であるといえる.

 25年間に及ぶDKAの症例のうち1965年から

1974までの15例はインスリン大量皮下注入法によ り,それ以後の延べ51例はインスリン少量静脈内 持続注入法により治療したものである.後者は Sonksenら7)およびその後多数の追加報告8)∼12)に よりDKAの治療に有効であるとされた.今回報 告した成績も前者では来院時より24時間のインス

(8)

リン注入量は392.7±86.2Uに対して後者では 127.2±20.8Uであり,インスリン少量持続注入 法の効果を認めた.成人では1時間に1単位のイ ンスリンを静注すると末梢血には20μU/ml増加 するといわれている13).またインスリンの作用に はヒエラルキーがあり,lipolysis, proteolysisの 抑制は10∼20μU/mlのインスリン濃:度で認めら れる.glycogenolysis, gluconeogenesisの抑制や glucose uptakeの充進は100∼200μU/mlのイン スリン濃度であれば完全に認められる13).注入さ れたインスリンは,末梢血には計算上170μU/ml 前後となりインスリン作用としては飽和量と考え られる.ζこれらのことよりインスリンの面から必 要かつ十分量の少量のインスリンで治療が可能で ある.またインスリンの血中半減期は約4分であ り注入量を加減することにより容易に低血糖を予 防できる.そして治療開始後3時間の平均血糖降 下率は98.6mg/dl/hrと比較的一定しており血糖 値をある程度予測できることは,治療上大ぎなメ リットと考えられた.  インスリン少量持続注入法が導入されたことに よりJoslin Clinicでは1979年以降DKAによる死 亡率は4.7%となった14).最近本邦におけるDKA のまとまった報告はなく,今回の報告では1975年

以降DKAの死亡率は51例中1例で2%であっ

た.また当センターの1975年以降のDI∼Aの糖尿 病入院患者に占める割合は0.5%であった.

 DKAを発症した症例に占めるNIDDMの割合

を示した報告はみられない.当センター59例中18

例はNIDDMであった. NIDDMでインスリン使

用例での自己中止によるDKAはもちろん,経口 血糖降下剤であってもその誘因となる上気道炎や 暴飲暴食等によりDKAとなることは注意を要す る.  Singhalら15)は糖尿病昏睡130例中31例が高浸 透圧を示し,そのうち16例がrhabdomyolysisを 合併していたとしている,当センターの症例では 8例のrhabdomyolysisを認めており,血清浸透 圧の上昇例では血清クレアチニン値の上昇を認め た.急性腎不全を呈するなどの重篤な状態に進展 する場合はrhabdomyolysisの可能性を考慮する 必要がある.  ICAは膵島細胞の細胞質成分に反応する自己 抗体で,Bottazzoら16)により初めて報告された. ICAはIDDMの発症直後には陽性を示し17),そし

てIDDMの急激発症以前にもICAは陽性となる

ことが報告されている18).検索した8例はいずれ

もIDDMでありしかも5例のICA陽性例は発症

直後から7ヵ月までに検査したものであった.

 欧米白人のIDDMではHLA−DR3およびDR 4

とIDDMとの関連があるとされている.日本人に おいてBw54, Bw61, Cw1, DR4およびDRw9の IDDMの相対危険率はそれぞれ3.43,2,28,2.81, 2.29,3.04である19).またHLA抗原ハプロタイプ

Bw61−DRw9のIDDMになる相対危険率は2.64

であり,Bw54−DR4の相対危険率は4.76であっ た20).症例6は兄弟3人とも同じBw54−DR4のハ

プロタイプで,妹はすでにIDDMを発症してい

る.弟は,発端者のDRタイプとハプロタイプに

よる同胞の危険率を求めると1L1となり今後

IDDM発症が示唆される.

 DKAを繰り返している症例では2回目の

DKA発症平均年齢は27.9歳と全体の発症平均年 齢38.6歳よりも若い.しかも男女比でも女性が10 例中8例と全体の男女比よりも高くなっている. Snorgaardら21)はデンマークのコペンハーゲン におけるDKA発症は各年代を比較すると10代の 女性に多いと報告している.当センターにおいて も若い女性が繰り返しDKAを起こしており,こ の年齢層に対する対策が強調される.  DKAにおいて脳浮腫の起こるメカニズムとし てWinegradら22)は, DKAの治療中に脳毛細血 管内皮が高血糖や浸透圧差,膠質浸透圧の低下に さらされ,脳の間質の水分量を上昇させることに よるとしている.Adrogueら23)は成人において DKAの治療開始後4時間の輸液速:度は1,000m1/ hr(=14ml/kg/hr)よりも500ml/hr(=7ml/kg/ hr)の方が安全であるとしている.当センターで は467±41m1/hrであり(ただし治療開始後3時 問),これとほぼ一致している.本報告例の29歳の 脳浮腫を合併したDKAでは,輸液量:は1,500ml にもかかわらず脳浮腫を起こしたことは輸液量以

(9)

外の因子の関与が示唆される.

 膵島炎はIDDMの発症時における基本的な病

理像といわれている24)が,今回報告したIDDMの 昏睡死亡2例においては,膵島炎は認められな かった.しかしIDDMの発症機序に関する仮説と

して花房らは膵B細胞におけるMHCクラスII

抗原の発現を重要視している25)26).つまり膵B細 胞にもともと存在する膵B細胞特異抗原とウイ ルスあるいはガンマ・インターフェロンによって

新たに誘導されたMHCクラスII抗原が揃うこ

とにより,ヘルパーT細胞が膵B細胞特異抗原を 自己のものでありながら外来抗原のように認識し てしまう.そして膵B細胞に対する自己免疫反応 が開始され糖尿病が発症するものとしている.今

回発症早期IDDM 2例については2例とも膵島

にDR抗原の明らかな発現は認められなかった.

花房らは3例中1例においてDR抗原が陽性で

あったとしているが,IDDMのすべての症例で陽 性であるわけではな:い.このことは今回のIDDM

の2例が膵B細胞障害機序として自己免疫の関

与を必ずしも否定するものではないが,ウイルス 等による膵B細胞の直接障害の可能性も否定で きない.          結  論

 1)DKAは11歳より84歳に及ぶ平均発症年齢

は38.6歳であった.  2)DKAは女性に起こりやすく,特に若い女性 で繰り返す症例(59例中女性8例,男性2例)が

みられた.またIDDMのみではなくNIDDMに

もみられ,59例中18例の31%に認めた.

 3)DKAの治療開始後3時間の平均インスリ

ン静脈内注入量は8.4U/hrでありその際の平均 血糖降下速度は98.6mg/dl/hr(5.5mmol/1/hr)で あった.

 4)DKAに伴う合併症として脳血栓や心筋梗

塞等の動脈血栓症,rhabdomyolysisならびに脳 浮腫には十分な注意を要する.

 5)DKAを伴うIDDM 8例中5例において

ICAが陽性であった.またIDDM 6例のHLA抗

原ではIDDMの相対危険率の高いBw54, DR4, DRw9のいずれかを認めた.  6)発症早期IDDM 2症例での膵島の免疫組織 学的検索では膵B細胞障害機序として自己免疫 の関与は明らかではなかった.          結 .語  一施設におけるDKA 59例計66回を治療し臨床 検査成績を検討,その特徴および問題点を挙げ本 邦における今後の治療に寄与するため報告した.

また膵島の免疫組織学的検討を行ったがIDDM

の発症機序に自己免疫が明らかに関与している成 績は得られなかった.  稿を終えるにあたり,御指導,御校閲を賜りました 大森安恵主任教授に深甚なる感謝の意を表すととも に,御指導頂いた平田幸正名誉教授および直接御指導 頂いた田坂仁正教授に深謝申し上げます.  また本研究に御協力頂きました当教室各位に御礼 申し上げます.  さらに本研究に御協力頂きました第一病理学教室 の小林愼雄i教授ほか諸先生方に深謝申し上げます.  本論文の要旨は第33回日本糖尿病学会総会(東京, 1990)および第14回国際糖尿病学会(ワシントンDC, 1991)において発表した.          文  献  1)Schade DS, Eaton PR, Alberti KGMM et a1:   Diabetic Coma:Ketoacidotic and Hyperos・   molar。 University of New Mexico Press, Albu・   querque(1981)  2)Halnb監in PS, Topliss I)J, Chosich N et a置:   Deaths associated with diabetic ketoacidosis   and hyperosmolar coma,1973−1988. Med J   Australia 151:439−444,1989  3)Japan and Pittsburg㎞ Childhood I)iabetes   Reseamh Gmups:Coma at the onset of   young insulin−dependent diabetes in Japan.   Diabetes 34:1241−1246,1985  4)山田研太郎,花房俊昭,栗原宏子ほか:1型糖尿   病患者の生検膵組織におけるHLA・DR抗原発現   の証明.糖尿病 30:453−455,1987  5)Cmssley JR, Lendrum BD, Elliott RB:   Rhesus−monkey pancreas for measuring islet・   cell antibodies, Lancet 1:164,1977  6)Harano Y, Kosugi K, Hyosu T et ah Ketone   bodies as markers for type l DM and their   value in the monitoring of diabetic control.   Diabetologia 26:343−348,1984  7)S6nksen PH, Srivastava瓢C, Tompkins CV et

(10)

   al:GrQwth hormone and cortical responses    to insulin玉nfusion in patients with diabetes    mellitus. Lancet 2:155−159,1972 8)Page建lM, Alberti KGM[M,.Greenwood R et    al:Treatment of diabetic coma with continu−    ous low.・dose infusion of insulin, Br Med J 2:    687−690, 1974 9)Kidso且W, Casey J, Kraegen E et al:Treat−    ment of severe diabetes mellitus by insulin    infusion. Br Med J 2:691−694,1974 10)Semple PF, White C, Manderson WG et al:    Continuous intravenous infusion of small doses    .of insulin in treatment of diabetic ketoacidosis.    BrMedJ2:694−698,1974 11)鱗谷佳和,河盛隆造,大角誠治ほか:インスリン    少量持続.注入療法による糖尿病性昏睡,ケトーシ    スの治療.糖尿病 20(1):98405,1977 王2)田坂仁正,竹居真知子,大井一輝ほか:インスリ    ン少量持続注入法による糖尿病性昏睡の治療。糖    尿病 2G(5):636−644,1977 13)Genuth S: Di.abetic ketoacidosis. Clinical    Diabetes:Modern Management(Podolsky S    ed)pp180−182, Prentice−Hall, New York(1980) 14)Marble A, Krall LP, Bradley RF et al: Jos・    lin’s Diabetes Mellitus。!2th ed, p542, Lea&    Febiger, Philadelphia(1985) 15)Singhai PC, Abramov量ci M, Venkatesan J 3    Rhabdomyolysis in the Hyperosmolar State.    AmJMed88:9−12,1990 16)Botta彩zo GF, Florin・Christensen A, Doniach    D et al: Is!et cell antibodies in d三abetes    meUitus with autoimmune polyendocrine    deficiencies. Lancet ii:1279−1282,1974 17)Kobayasi T, S皿gimoto T, Itoh T et al: The    prevalence of islet cell antibodies in Japanese    insulin・dependent and  non−lnsulin・dependent    diabetic  patients studies by  indirect    immunofluorescence and by a new method.    Diabetes 35二335−340,1986 18)Eisenbarth GIS:Type I diabetes mellitus:A    chronlc autoimmune disease,.N Engl J Med    314:1360−1368, 1986 19)三村悟郎,永吉道子,比嘉清憲:遺伝形式と遺伝    相談.日臨 49(増刊,糖尿病,下巻):474−488,    1991 20)Kida K, Mimura G, Kobayashi T et al:Im−    munogenetic heterogeneity in Type 1(insulin−    dependent)diabetes amGng Japanese−HLA    antigens and organ specific autoantibodies.    Diabetologia 32:34−39,1989 21)Snoτgaard O, Eskildsen PC, Vadstrup S et al:    Diabetic ketoacidosis in Denmark:    Epidemiology, incidence rates, precipitating    factors and mQrtality rates. J Inter Med 226こ    223−228, 1989 22)Winegrad AI, Kern EFO, Simmons DA:    Cerebral edema in diabetic ketoacidQsis. N    Engl J Med 312:1184−1185,1985 23) Adrogu6 HJ, Barrero J, Eknoyan G: Salu−    tary e仔ects of modest Huid replacement in.the    treatment of adults with diabetic ketoacidos孟s.    JAMA 262:2108−2113,1989 24)Gepts W:Pathologic anatomy of the pan・    creas in luvenile diabetes mellitus. Diabetes    14:619.一63孕, 1965 25)Hanafusa T, Fujino・Kurihara H, Miyazaki A    .et al:Expression of.class II major his・    tocompatibility cornplex antigen on pancreatic    Bcells in the NOD mouse. Diabetologia 30:    104−108, 1987 26)花房俊昭:1型糖尿病の発症機序一膵島細胞にお    けるMHCクラスII抗原の発現とその分析.糖尿    病31(9):729−731,1988

参照

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