〔綜
説〕 (東京女医大孔第27回忌11号頁627−637昭和32年11月)いわゆろBright病に属する若干め主要
疾患の形態学的連関性について(其の一)
東京女子医科大学病理学教室 教 授 松 Yツ本
モト武
タケ 四 シ(受付昭和32年9月28日)
郎
ロウ 1 歴史的事情ならびに本論丈の胃的Bright病という疾患概念は周知の如く,1827
年にBrightが蛋白尿と浮腫が腎疾患に由来する
と指摘したことからはじまっている。Brightは
その際形態的に腎病変を三型に分類してその相互 の関係を論じたり,前脚肥大の合併に注目したり しているのであるから,単なる疾患名の提唱者で はない。 こうしていわば方法的に一つの方向を与えられて以 来,研究は堰をきったように活磯となり,広汎となっ た。其の結=果は機能病理学的及び形態学的な観察のお びただしい集積をつくりつつ現在にいたっている。「こ のような状況下では研究者の努力の一面がこの集積を 整理分類して,全般の見通しをつけることにむけられ るのは当然であろう。それゆえBright病研究の歴史 は:或る面ではBright病分類の歴史とも見倣し偲るわ けであって,この間の消息はVolhard!)の古典的著述 や,最近のW。Frey2)の記述によってよく窺うことが 出来る。そしてこれらに挙げられた先人達の努力によ って現在では一応教科書的な分類が堤出されるまでに なった。 ところがこれで事態がおわったわけではない。この 種の教科書的な分類なるものには各著者によってなお かなりのくいちがいがあるというのが現状であって, 読者としては去麓に迷う点が少くないことは周知の通 りである。しかしそれはまた反面において,現段階に おける.Bright病についての見解め相違をL種の整理 された形であらわしているともいえるであろう。 いま上記の書その他によって歴史の流れを辿り現状 に及ぶとき,初期のいわば模索的な時代に次いで段々 と個々の場合の臨床的及び組織学的の観察が細くなる のはもとより当然であるが,それと共に二つの問題が 姿を1あらわしてくる。その第1はBright病の範囲限 界についてでありプ第2は分類された各項目相互の関 係である。 第1の問題はつきつめれば次の必然性にもとづいて いる。Brightが最初に指漏したのが蛋白尿と浮腫とい う症状と腎の解剖的病変との関係である以上,問題の 一面は腎の形態的変化の追究におかれざるを得ない。 然るに時代と共に発達レた病理組織学は臓器組織の変 化の中で崎形や腫瘍以外を変性,循環障碍,炎症の三 範疇に分けるようになった。 .そこで問題の症状のあった例の腎変化をこの枠に引 きあてて見ると,その三範疇の全部にまたがってい る。そうなれば今度はこの組織学約の枠にもとづいて 腎疾患を系統づける試みがあらわれるのは自然の成り 行きである。こうしてまとめた系統をまた症状面から 再検討した場合,Brightの指摘した特徴を具えていれ ば問題はないが実際はそうは行かない。ここでもしも 新しい病理組織学的体系の方を重んずればBright病 の枠はどうしても破れてくる。実際この面からBright 病という名を捨てる入がだんだんとあらわれるにいた った。この典型はAschoffの体系であって,彼の教科 書その他を見ると版を改める度に細部は変更されてい るが,.根本の原則は最終版(1936)まであごされてい る。これはその後の組織学的な体系づけと分類に多か れ少かれ影響しているので次に掲げて見よう。ここに 出したのは原型ともいうべき1911年5)の分類系統であ る(表1)。Takeshiro MATS UMOTO (Department of Pathology, Tokyo Women’s Medical Co]lege) : Morphological
interrelationship ’among some groups of tfBright’s diseases{f.
A
表 1
Die akuten Entztindungen.
1. EntzUndungen.mit vorwiegender Reaktion am Geftissbindegewebe. ・
a) Die exsudativ se.r.Ose Form.
b) Die exsudativ leukozyttire Form−entrige Nephritis.
1. Hamatogene, deszendi.erende For.rn, embolische Nephritis und metastatische oder
dungsnephritis.
2. Urinogene, aszendierende For皿. 3. Traumatische, eitrige Nephritis.
Die exsudatiV lymphozyt’are oder ’Proliferierende Form‘Nephritis interstitialis・・acuta.
Ausschei一
c)
1[. EntzUndungen rr. iit vorwiegender’ Reaktion am Filtrations・一und Sekretionsapparat.一G1omerulotubU!are Nephritiden,
a) . Die tubultire Form7tubulare Nephritis.
b) Die g16merulare Form−Glomerulonephritis.
Abart : Hti.rnbrrhagische Herdnephtitis nach LOhlein.
Beide zusammen glomerulotubultire 一parenchy.matdse−Nephriti,s.
B. Das chronische Nierenleiden. ・’ ’・.’ ・一’@一’
1. Nephropathia chronica inflammatoriq (sekundtire Schrumpfniere).
一ll・ N. ephropathi.a .chfbnica degeperativa auf der Basis von Stotfwechsejsg6rungen.. ’NePhroPathia=glycQsurica,’diabetica, ’urica, gravidarum, amYloidea.
M. .Nephropathia chronica circulator{a.
1. Nephropathia aJbuminutica erth. ostatica adolescentium.
2. ’ Nephropathia ’athero$clerotica r.enilis (fortge]eitete Atherosklerose, der Nierepgefasse).
3. Nephrocirrhosis gemユina(sdbs憤ndige Atherosk星erose der Nierengef註sse). .
この分類は’形態的の状態.像に基いているのでL面た しかに明瞭といえないことは.ない。.し.か.しひ.とたびそ の状態の成り立ちを問題にし出すと.たちまちある種.の 混乱が生じてく.驕DBごく一部の例を.あげて見よう。変 化め形成過程を追求する場合.は,この.表中.で独立し.て いる各項目相互の関.係があらためて中心課題になる..は ずである。具体的には炎症と循環障碍との関.係,あ..る いはそれらと退行変性との関係などである。がこ.こで は与えられた状態像が上記三種の範疇のどれの目.印を. そなえているかが問われ,その判定結果1こもとついて いわば「割切った」分類が行われている。 それでこの体系.と.臨床経過を対比綜合し.よ.う.と.いう ことになると.,こ.の種の分類.原則.では満足できないひ とびとが現われ.て.来たのも.無理はない。そ.う.した立場 から提出されたのが有名な.VolhardTFahr4)の体系で ある.〈表.2)。 . ...... ....1 表 2
Pathogenetisches System.der. Brightschen Nierenkrankheiten.
ロ コ
A・D・g・n・・ati・・..E・k・ank・hg・P.・N・ph…en・. A9・nuin・ゆd b・k・皿t・・Ati・1・gi・・mit.・hd.・hri・.・PaYI.6id・l Entartung der Gefasse. .
1.AkUter... Vbrlauf. .1』...
H・.C恥ronisch♀r Verlauf・. . : . . . ...1...... ・..
皿.Endstadium:Nephrotische Schrumpfniere ohne Blutdrucksteigerung.
Un・terζrt;Nekroti島ierehqe NePhrose箪・、
B.EntzU且d]iche Erkrankungen:Neph士itiden.
・1.. ge士dfδrmige. Nb⇒hritiden ohne Blutdrucksteigerung... a).Die herdf6rmige Glomerulonephritis. .
1..Akutes Stadium. .. .......
II. Chronisches Stadium.
.b).Die(septische一). interstitie1}e.HerdnePhritis, . ・ c).Die e面bolische.HerdnephritiS.
.2. D三ffu呂e..Glomerulolleihritiden・. mit.:obligatorischer Blutqrqcksteigerung..Verユauf.in.drei. Stadien:1
..
P;lii諜藤纏鑑・ff一画膿翻三三濫・
C.Arteriosklerotische Erkねnkungen:Sk16rosen,
1.D三e b〕ahde gutartige宜yp6!tonie」r6ine.Sklerose.der.Niereng6ftisse.
ll. Die Kombinationsform.:Ma工igne genuine Schrumpfhiere・=Sklerdse plロs.Nephritis,1. .......1∫
いま表2を見ると炎症性とか退行性とかという見出 しは表1と似ている。しかしながらその条下に病期 (Stadium),経過(Verlauf),傾向の加わり(Einschlag) といった観念を密接に融合させ,静的な状態像を超え て病態の流れをとらえようとする苦心のあとがうかが われる。 むろんAschoffとても卓越した病理学者であり, 単なる静的分類で事足れりとしたわけではない。現に 1916年の教科書には動脈硬化性腎の病期や経過に洞察 を加えた表を掲げている。ただここでは上掲の表1及 び2の対比が与える示唆に興味をそそられるのであ る。 つまり以上二つの分類体系はそのおのおのが特徴的 な性格をもつているというだけでなく,さらに歴史的 な意義をももっている。それはこの分類以後各方面か ら提案された分類方針を煎じつめると,上掲の二つの 行き方のいずれかに傾いているという事実に徴しても 明らかである。換言すれば対象の受取り方,扱い方に 二つの流れがあることがここに示唆されているといえ よう。 例えばドイツとは色々な意昧で考え方の違うアメリ カでもFishberg5)の分類は彼自身認めているように Volhard−Fahrの「成り立ち」を主とする方針を踏襲 しているし,一方BelゆのMonographは組織学的 状態像に依る傾向が著しい。手際よく編輯された写真 集Kidneyの著者A]len7)も分類方式ではBe]iに近 い立場をとっている。 面白いのは表2の分類の提唱者たるVolhardとFahr のその後である。両・者とも当然この共通の体系から出 発して研究を続けているが,Fahrは漸次組織学的状 態像に重きをおいて,各病変間の境界を明確にする方 向に進み8),一方Volhardは病変の成り立ちと病態の 推移の関係を益々潔く追求する道を歩んで生涯を終っ ているユ)9)10)。 Br三ght病研究の進展につれて生じた第2の問題,す なわち整理された体系内における各病変相互の関係と いうことは,これまで述べた第1の問題と密接不可分 のつながりをもっている。換言すれば分類体系を獲て る際の視角なり立場なりが大きな意味をもつ。しかし それだけではない。もう一面としては個々の状態像を どう読むかということも病変の位置づけに少なからず 影響する。具体的な例をあげれば,このようにしてネ フ・一ゼや,遷延性敗血症時の腎変化や,あ.るいはま た悪性腎硬化症などの分類的位置づけが論議の的とな って来たし,また現在も的となっているわけである。 以上極めて簡略にBright病の体系づけの流れを通 覧した。ここまで来て更めて想いおこされるのは,自 らは広汎な体系の樹立者ではないが,しかも何等かの 意味で卓抜な観察をのこした人々のことである。 いまその中からごく一部だけの名をあげるとすれ ば,それはかえって片手落のそしりを免れないであろ う。それをも承知の上でなお言及せずにはおられない 若干の業績を次に記しておきたい。 VolhardやFahrを読むと,その申にL6h]einの 名が頻繁に現われるのに気づかされる。これだけでも 彼の腎病理組織学に対する貢献がうかがわれるが,実 際に腎炎に関する彼の初期の記述11)12)を見ればこの 理由が首肯出来る。現在と比べればなお幼稚とも云え る標本作成技術を以てL6hleinが行った糸球休病変の 観察はたしかに劃期的なものであった。急性,亜急性, 漫性腎炎の組織学的把握の試みはこ.こに始めて具体的 な基礎を得たといっても過言でない。 こうして礎石をすえられた糸球体変化の観察は,そ の後検査技術の進歩と共にますます詳細となった。そ の系譜を辿るとMcGregor15), Jonesi4)15)の名が浮 ぶ。これはもう現状に直結する段階である。ここまで くると局面はすでに糸球体変化の各型が,臓器として の腎にとってどんな意味をもつかが更めて再検討され るべき時期に入りつつあるといえるであろう。 一方Fr. v. Mtilierに端を発したネフ・.一心の定i義 は,その内容の曖昧さの故に多くの形態学者の研究を 刺戟した。その中でRanderath16)がそれまで細尿管 変性におかれていた比:重を糸球体側に向けたことは, 爾後の研究に大きな影響を与えることになった。彼の この仕事は単にネフn一ゼの伝統義に対する異議とし てのみ評価きるべきではない。この問題を介して糸球 体と細尿管の関係の機能形態学が一歩推進されたとこ ろが大いに注目に価する点である。 このような入体材料の研究に鼓古して行われた無数 の動物実験の中では,その世界中に与えた刺戟の点で 馬杉腎炎17.の右に出るものは挙げ難い。しかしそれに してもこの成果を人体材料の意味づけの上でどう用い るかは依然として今後に残された問題である。 以上述べて来たところは多少とも病理組織学者の主 流か又はそれに近かった人々の研究活動である。とこ ろがここに意外な方面から形態学に対して新しい道が 暗示される事態が生じた。それは1947年に発表された Trueta18)等の腎循環に関する研究である。ここでは 動的な臓器循環と血管樹構築の閲の有磯的関係がはじ めて具体的なテーマとして扱われている。その上この Monographの巻頭にあるEIIisの序文は極めて印象 的である。その中にはこの研究が従来問題となってい た「急性間質性腎炎」の解釈に曙光を投げかけるのみ でなく,.すでに腎病理学だけの枠を超えた意義をもつ 一 629 一一
ことが,深い経験に照しつつ示唆的に説かれている。 そしてこの道は実際に我が国において一段と開拓さ れることになった。すなわち諏訪19)は腎の血管構築と 種々な形の循環障碍との関係を剖検材料を駆使しつつ 系統的に扱い,その成果を次々と報告した。 こうした段階を経た今日では一r動的な循環条件に関 する考慮の形態学に於ける意義はもはや確定されたと .いっていいであろう。 以上甚だ簡略ながら一応通観した歴史の流れを参考 とし,又その貴重な成果を基盤としながら,筆者の経 験したBright病中の若干について考察して見ようと おもう。 この場合問題の核心はBrigh亡病の範囲劃定よりも 各種の疾患群の問に有機的な脈絡があるかどうかとい う点におくことにする。それはなお研究の途半ばで歴 史的論争の仲間入りを志すがゆえではない。 いま腎が一つのOrganであることを思えば,これ は種々な与件に対して一一Ptの有機的なまとまりのある 反応を示す筈である。ところが種々な与件といっても 所詮は生体側として反応し得る限界内の出来事である から,或る範囲内の連続的な変異動揺の形式をとるも ののみが問題となる。したがってこの二二の条件変動 に対応して腎が動くとすれば,おのおのの動きが有機 的であるばかりでなく,それぞれの動きの間に通じる 「臓器性格」とでもいうべきものが考えられてくる。 このような「性格」が種々な腎疾患の形態から何ら かの形で読みとれるだろうか。このことを本論のテー .マとするのである。先きに脈絡という言葉をつかった のもこの意味に外ならない。
■ 機能形態に関する2,3の予備的考察
腎の形態的構成は曇る程度まで周知のことがらであるけれどもi以下の老察は先づこの班知の事
実から出発するのであるから,はじめにこの点に 少しばかり触れておかなければならない。 腎の主な構成要素としては次の三つがあげられ る。第1は中胚葉性の起源を有する細尿管上皮, 第2は大動脈から分岐する腎動脈に始まって,最: 後は腎静脈にまとまる」血管系,第3はこれらの間 隙をうづめる結合織である。 .この三者が主な形態要素であるというのは1そ れらが正常腎で量的に主役を占めているというだ けのことではない。種々の腎疾患においてこの三 つのそれぞれに多様の変化が生ずる二合,この三 者相互の形態的関係にある種の規則的な変動が見 られるという点が重要なのである。換言すれば正 常ζ病的とを問わず,或る局百の腎形態を三つの 座標軸に投影しアこものがとりもなおさず上記三要 素のあり:方であるということができる。 ここで問題はさらに腎構造の特殊性にうつる。腎実質割面で際立っ二つの区域一皮質と髄質の
区別は,何よりもまず結合織と上皮性成分の比率 の違いに基いてはいるが,さらに立入って見ると 両者それぞれがいくつかの重要な特徴をそなえて いる。図1はこの関係をあらわすためのものであ る。. A,ta, A:iPM G, 1一(一・ Jitl ] G4 Mr. 劇 一U”. A16. V, r. ) ’].s
c
と 図1 Gi,G2,G3…皮質糸球体 G4,Gr)…髄近傍糸球体 A.lbl…A. Iobularis A.1b.…A. lobaris
V.r.…Vasa’recta A.a.…A. arciformis.
国内の動脈各部の名称の中でA.lobularisはvL
M611endorff20)に随つたが, A. arciformis, A. lobaris
は従来の慣行に従い,彼の提唱するA.term無allsを とらなかった。筆者も合成樹脂注入材料の観察等を通 じて彼の主張の趣旨には二面同感なのであるが,組織 学的標本では何等かの形で彼のいうA.terminalisの 内部区分が欲しい場合が生ずるこども否み難い。ただ AarciformisなりA. lobarisという名称はv. M6− Iendorffの主張する通り,実際にそぐわないところが あることはたしかであるから,将来解剖学者の側から 一層適当な名称が提案されることが望ましい。 A.arciformis, A. lobularis, Vas afferens等
の機能的境界は,解剖上の名称程はつきりしたも
のではない6機能形初上A・lobularisのごく本
のところは,時としてA.arciformisに近い態度
をとり,また末部はVas afferensと似た様子を示すことがある。そこで以下の記述では解剖名の厳 :重な区分の感じをさけてA.arciformisまたはそ れ以上の機能区間を高位動脈,A. lobularis辺を 中位動賑と呼ぶ揚合があることを附記しておく。 実質の主成分である細尿管と血管系との密接な 接触は二段階に三って行われる。第一段階は糸球 体を媒介とする関係である。ここはまた細尿管の 起点をなすから接触の発端である。第二段階は細 尿管周囲毛細管を通じてなされる。ここの毛細管
網は原則として糸球体通過後の血液を容れる一
すな・わちpostglomerularの一ものである。そ
れゆえこの第二段階は一血管側,細尿管側のいずれ から見ても,いわば接触の仕上げである。 ここに注意すべきは皮質の外層%位の町内にあ る糸球体(皮質糸球体)と,髄質に接する層内に ある糸球体(髄近傍糸球体)との違いである。図 1で見られるように,’邇ソの大部は皮質糸球体に
属する毛細管系で灌流される。これをTrueta18) は皮質循環と名付けた。 この循環は皮質内の細尿管主部や,中部(Mit− telstUck一一v. M611endorff)の量から考えても 機能的に重要なコースであることは想像に難くな い。この循環が満足に行われるには,その部の1血 管がよく.血液を通すのはむろんのこと,その上当 の領域に必要かつ十分な血圧効果がはたらいてい ることが前提となる。 以上に対して髄近傍糸球体を通ずる血.路では, その一部は直ちに毛細管網に移行するが,大部分 は比較的分岐の少いVasa rectaとなって髄質を灌流する。これはTruetaがNeoprene等の注入
により美事に示したコースで,彼によって髄循環 と呼ばれたものである。 この循環路は図から明らかなように皮質循環に比べれば,一種の短絡的血路の面をも具えてい
る。したがって或程度まで一血圧効果の減じた際で も利用され得るであろう。皮飾球体極
/
A. tobutctrts・n.N・i
A.。,cif。,mし、ノN一
顧近榜糸球体
/
ALobαrしs
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毛細管
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V
V. tobdrts
ひ
表3
皿皿皿rr皮噴循環
幽■薩雌鶏1環
両循環共通部 一631一a 毛紬管α勿合
表3は以上述べた腎内循環系だけとりだして図
式化したものである。 実質細胞の生活活動と一血液の細流効果の相互関 係は,どの臓器の初筆でも基本的な問題であるこ とはいうまでもない。この基本的関係が腎におい ては上記のような特異な様式の細尿管一一血管系 の接触を通じて展開される,という点にその臓器 性格の一端が看取される。 この重:要な有機的構成の一方の支柱たる1血管系 については,なお附言しておきたい若干の事項が ある。それは血管系の中でもとくに能動的な役割 を演ずる動脈系に関してである。 S 図 D1
A
BC 静脈
s最嵩血圧 M 平均一血圧 D最低血圧図 3
図3は心臓からの血圧の勾配が動脈,小動脈, 毛細管にどう分布されているかを示すシェーマで 既に広く知られた関係である。いまこれを以下の 記述に援用する便宜上,やや不正確にはなるがい いかえてみると次のようになる。大きな動脈領域Aは主として血圧の担い手である。これに対しB
領域は一面には同じく1血圧の担い手であるが,他 面血圧の著しい消費者でもある。一方毛細管領域Cはおもに血圧の消費者ということになる。Cで
は組織液の平均圧にまたがるhydrostatischの圧
の消費を通じて毛細管と組織の問に出入りがある わけである。以上のような関係の中で,B領域の動脈の態度
が全身的ならびに局所的の循環条件に極めて大き な影響を及ぼすことはあきらかである。この領域における管壁のTonusはいわゆる末梢抵抗を定
める主要な要素となり,その効果の総体は心臓の 当面する」血圧に決定的な影響を及ぼす。また身体各部なり臓器内各部毎について見る
と,それぞれの部の動脈のTonusはたえず動揺
して,それより末梢の区域の灌流状態を変動させ ている。換言すれば臓器組織内の血量分布を,あ る時は甲の部に多く乙の部に少く,他の時には乙に多く甲に少くといった風に消長交替させてい
る。つまりここの動脈の性格は動揺的且つ調節的 であるといえる。 そして当然のことながら,この血管の形態がど うあるかということが,その区間での血圧の担い 方や,i1圧消費の状況を大きく左右する。他面あ る偏った担い方,消費の仕方が永くつづけば,当 の動脈の形態にそれ相応の変化が生じてきて,こ れがまた逆にそこの機能に影響を及ぼすことにな る。ところでこのB領域に属する動脈の範囲である
が,普通にいうArterioleの類で覆いきれないことは明らかである。腎でいえば少くもAlobaris
からVas afferensないしVas efferensまでは
含まれるであろう。Zweifach21)が腸間膜で指摘したMetarterioleなどもこの領域に吸収さるべ
きものと考えられる。大切なのはこのようなB領域の拡がり方が,臓
器組織によってかなり違うことである。たとえば 腸聞膜一興の如き所では大きく拡がっている。 いいかえれば血圧に勾配を与える機能が広い領域 にわたって分担されている。これに反して腎では 大動脈に対する局所的位置や,腎内部の血管樹の 状態からも明らかなように,Ml圧勾配が狭い範囲 にたたみこまれている。ということは短い血管区 間でも機能的負担が甚だ大きくなることを意味し ており,これが形態面にいろいろな点で反映され るのはむしろ当然であろう。ここに腎の性格のま た一つの重要面がみとめられるのである。なお次の本文では叙述の便宜上第1部と第2部
を分ち,第1部でいわゆる腎硬化症を,第2部で
腎:炎:およびその近接疾患群を扱うことにした。通 例の順序に反して腎硬化症を旧きにしたのは,そ うする方が各種病変の関係を辿りやすいと考えた からである。第1部
1 老人性腎
ここで「老人性」というのは限界の明瞭な規定 詞ではない。次下に挙げる諸変化にしても,個々 についてさかのぼれば,:或るものは壮年期に,又 一 6]32 一あるものは青年期においてさえも見出しうる。た だ変化の総体として観るとき,60才を境としてい わゆる老人性臓器の特色が目立ってくるというま でである。 またこの意味の腎を観察するには特別な腎疾患 例はむろんのこと,年令に対して異常な高血圧が ある例なども除外しなければならない。心臓には 褐色萎縮があり,各種臓器にもいわゆる老人性萎 縮が見られるといった例が,多くの場合適当とい うことになる。 肉眼的所見 一応条件にかなった例について腎を見ると,肉 眼的に軽度∼中等度の縮小がある。だから重量は かなりの幅で動揺し得る。被膜は多少剥ぎ難くな っている。表面はほぼ平滑といえる程度から心持 ち穎粒状の感じを与えるものまで見られるが,い わゆる二次的萎縮腎のような顕著な穎粒化はな い。割面では皮質の幅の減少が:先つ目立つ。皮質 紋理は乱れ気味であるけれども,これまた全く不 明ということはまずない。皮髄質の境はわりには っきりしている。高位一中位動脈の総轄は多少
写真11…A.lobaris, a…A. arciformis,1…内膜,
M…中膜。(Elastika van Gieson染色)
目につきやすい。・.一口にいえば萎縮に伴って当然 腎構成要素の形態的変動があるにはあるが,その 綜合的印象では比較的穏和という感じである。 組織学的所見およびそれにもとつく考察 組織学的所見ではまつ動脈系から始める。 次の写真1∼5の例(例1)は70才女,胃癌手術後再 発による衰弱に,十二指腸潰瘍穿孔が合併して死亡。 剖検前入院期間は僅かに1週間,入院時血圧122−67。 心重量270g,腎は左95g,右110g,被膜剥離困難でな く,表面はほとんど平滑であった。 鏡検上高位動賑(写真1),中位動脹(写真2) を通ずる特色は中膜の筋要素の萎縮減少である。 そして萎縮した筋線維間には膠原物質が沈着して いる。他面,内膜は中等度の肥厚を示している。 この肥厚の内訳は膠原物質の増量と,その中に発 達した弾力線維増生である。 これを青年期正常腎の同位動脈と比較すると次 の結論を得る。若い頃この動脈区間で血圧を担う 主成分は中膜の筋であった。ところが筋が漸次萎 縮するに及んで,血圧の張りを支える機能のかな りの部分は内膜に肩代りされることになったわけ 写真21月目…A. lobularis.他の記号は写真1に同じ。 所により中膜はほとんど消失している。(Elastika van Gieson染色) r’ 688 一
である。 細胞活動の後退につれて,細胞間または細胞群 周囲.に膠原物質が増しやすいのは組織の一般的性 質といえるが,こめ膠原部分にある規則的な張力 が加わると弾力線維の発達が促される。これは一血 管に限ら・ず,肝硬変や肺硬化の一一部などで普通に 見られるところである。老人性腎の場合にも,同 様め局面があう区間の動脈の中瑛萎縮を中軸とし て発現したと見ることが出来る。
一囎蟻
藁 写真3比較的よく保たれているVan afferens.糸, 球体係蹄の血液通過性も良妊(McManus染色) そこで疑問がおこる。この例でもVas afferens 系(A.lobularis末部を含めて)では中膜の筋が かなりよく保たれている(写真3)。所によっては 軽い肥大の観を与えるものすらある。何故このよ うな区間による差異が起つたか。この疑問に対し ては,緒論で述べた腎1血管樹における機能分布の 考察がある程度手がかりを与える。 此処の高一中位動脈にかけての比較的短い区 間にはtt.大動脈に直結する一血圧を支えるだけでな 鵡 これに勾配を与える機能がいわばかなり圧縮 的に畳み.こまれている。この部分がよくはたらい ている間は,中膜筋の適当なTonusにより.血圧 は適度に低められて末梢に伝えられるであろう。 またその間中位動脈は経過中に’多数の分枝を出 し,温きに行く程急激に流床が増す。こうしたこ とからVas afferens系では圧の上の負担がはじ めから相当緩和されていると考えられる一。ただし それは上位の動脈区間に多くを儲託した上での緩 和である。ここに永年にわたって機能負担の分布 差をきたす有力な要因が看取される。 そこである時期にこの無理が表面に出ると,負 担過重の部分に特徴的な変化が見られるようにな る。この際正常発育において中膜がどの程度まで 発達しているかが少なからぬ意味をもつ。も「し中 膜が比較的な意味で弱ければ,そのような区間は 遂に負担にたえられなくなって機能不全に陥るか らである。この意味では中位動脈幹部は経験上locus minoris reεistentiaeといい得るようであ
る。 以上のような機能局面がつづく間に,他方全身 的な背景をもつ中膜筋の萎縮減少が加わると,管 壁栄養の様相は漸次変らざるを得ない。こうして 遂に上に挙げたような血管形態に達するものと思 われる。なおこの問題は皿の総括で再び取りあげ ることにする。 とにかくこれは一種の硬化に属する変化である から,一応老人性硬化と呼んでおく。この定型的 な揚合では,圧をになう機能が中膜から内膜へと 肩代りされる過程がかなり徐々に進行するため, この区間の血流はずっと続けられる。従って内腔 はよく通じているのが普通である。老人性硬化は A. arciformisからA. lobularisの半ばにかけ
ての辺が最も強く,そこから徐々に両方向に進ん で行くようである。
このような硬化区間では,血圧を担い,また
Poiseuilleの法則により血圧に勾配を与える機能 は量る程度まで保持されるけれども,もう一方の一血圧勾配を微妙に調節する一機能は著しく
低下する。それ故上記の硬化の強い区間を老慮す ると,海内循環の調節機能は高位動脈の一部と, Vas afferens系にしわよせされることになる。 ことに元来仕上げ的な調節に任ずるVas affe− rens系に,その上流区問で受けもつべき調節負担 までかかることは,系全体としての調和的な動き を阻碍する.と見えて,所々のVas afferensに所 属する糸球体に形態異常があらわれてく.る。その 一634一写真4 虚脱におちいりつつある糸球体係蹄。 Bowman嚢腔の一部には硝子様物質(h)の沈着が 始まっている。又周囲の細尿管には萎縮が進行中 である。(McManus染色) 異常の傾向を見ると,係蹄毛細管の内灘が虚脱状 に狭ばまると共に(写真4),その壁が硬化ないし は互いに融合し,遂に荒廃に陥るという形が多 い。これから判断すると,この場合のVas affe− rensの機能破綻の様式は,そこを通る1血流の制限: が強まりすぎるような性質であるらしい。 この制限はそうはげしいものではないが,比較 的持続的ではあると考えられる。というのは種々 な荒廃段階における懇懇は緩漫に進行する虚脱縮 小ゐ型を示すのが通例で,たとえL部にせよ急性 糸球体炎型の変化は認め難いからである。だから
H.E標本で硝子球状に見える荒廃Malpighi小
体の中でも,係蹄自身は縮小していて硝子球の一 部を占めるにすぎない。これはAzan, McManus 等の染色によれば容易に見分けられる(写真5)。 このように糸球体が荒廃する時,そこを通ずる 血路はどうなるかというと,全く閉塞されるよう なことは稀である。すっかり硝子化したと見えて も,連続切片で辿ると大ていVas afferensから若干の残有毛細管を経るか,域いは直接にVas
緩速響、 写真5荒廃糸球体。虚脱した係蹄と硝子様物質と が明らかに区別出来る。周囲の細尿管では上皮の 萎縮と基底膜の肥厚が明瞭。(McManus染色) A.tbし1欝
S’Ei”:L:S:di 醸r >’L,,ji,11’,“tN, V,q.轍。甑
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tz 図3Gv…荒廃糸球体 Gd…血液通過性糸球体V.a.…Vas afferens V.e.・・一Vas efferens A.lbl.
…A.10bularis始部。 GvのVas afferensは所 属糸球体の血管極を抜けてVas efferensに直通 している。(GdのVas efferensは図に書き入れ てない) efferensまで通っている。図3はこの状況を連続 切片から再構成したものである。 一方この荒廃糸球体に属する細尿管は漸次萎縮 し,それをとりまく基底膜は胞厚渉る。老人性腎 一 635’ “
でその皮質がせまくなるのは,以上の過程から来 た迂曲細尿管の萎縮によるところが大きい。 次に老人性腎における一般の細尿管周囲循環を 考えて見る。荒廃糸球休を通ずる循環がたとえ宿 る程度まで抵抗をうけ,場合によっては不通にな ることがあっても,この場合,Cl)糸球体荒廃が散 発的であること,(2)その数がせいぜい切片糸球体 総数の15%くらいまでであること,〔3)残存糸球休 の多くでは,概して係蹄毛細管の通過に支障がな いこと,から糸球体後の循環(postglomerulare Zirkulation)はほぼ一様に,かっ量的にも不足な く行き亘ることが可能である。皮質の概観はこれ を裏書きしている(写真6)。 写真6老人性腎の皮質概観。矢印1は荒廃糸球体。 2は硬化性A.10bularis.(ヘマリキシリンーエオ ジン染色) 写真6の例(例2)は71才男。1956年8月4日交通事 故で後頭部挫創,左腰部打撲,左下肢挫創を負う。当 日入院して検査したが重い変化は認められず3日後退 院。その後元気なく,同月16日以来尿失禁。20日過入 院。一般状態不良,言語不能。血圧100∼80。21日尿所 見比重1025,蛋白(一),円柱(一)。入院以来肺炎症状 を呈しつつ24日死亡。 剖検上右側前頭葉内側面皮質内胡桃大の,又左前頭 葉髄質内に大豆大のやや古い出血巣。両側後頭部より 頭頂部にわたる新しい蜘蛛膜下出血。脳浮腫。高度の 両側吸引肺炎。心重量2809,腎左909,右1009,被膜 剥離困難,表面騒粒状,割面皮質狭いが紋理は割に規 則的。 以上のような次第で老人性腎の変化は決して曖 昧なものではなく,その上進行性ですらあるけれ ども,その機能実質の減り方にはある種の調和性 があって,残存部の働きがかなりよく保持される ような形をとっている。この意味ではまた生理的 萎縮とも呼べるであろう。 従って身体他部の萎縮が之と同一歩調をとり,. それに応じて新陳代謝の規模も縮小される限り, 腎機能不全のおそれはないわけである。(未完)
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