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「中古マンション価格とマンション維持管理に関する考察」

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中古マンション価格とマンション維持管理に関する考察

< 要 旨 >

マンション管理組合の運営には、法律・建築・会計等の専門的な知識が必要で、通常 こうした知識のない区分所有者のみで対忚するには限界がある。また、 多数の区分所有 者の間での意見調整を必要とするため取引費用が多大 であるとともに、公共財であるが 故、フリーライダーが発生する可能性があるなど、管理が円滑に機能していないマンシ ョンの問題が指摘されている。 本論文では、首都圏一都三県における中古マンション価格をもとに、マンションの維 持管理に影響を与える項目について実証分析を行った。分析の結果、 管理費や修繕積立 金の滞納が発生している可能性の高い競売が行われたマンションは、競売が行われてい ないマンションより価格が下落していることが確認された。さらに、大規模修繕 が中古 マンション価格に影響を与えている可能性があることなども確認された。 以上を踏まえ、マンション管理を向上させることを目的とした、専門家の活用のため の体制整備について提案を行った。

2012 年 2 月

政策研究大学院大学 まちづくりプログラム

MJU11026 横 手 昌幸

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<目次>

第 1 章 はじめに ... - 1 -

第 2 章 マンション管理について ... - 2 -

第 2-1 節 区分所有法及び標準管理規約 について ... - 2 -

第 2-2 節 マンション管理組合の運営について ... - 4 -

第 3 章 マンション維持管理に関する実証分析 ... - 6 -

第 3-1 節 管理費及び修繕積立金の滞納等が及ぼす中古マンションの維持

管理への影響 ... - 7 -

第 3-2 節 大規模修繕と中古マンション価格に関する分析 ... - 9 -

第 3-3 節 マンション評価と中古マンション価格に関する実証分析 . - 12 -

第 3-4 節 維持管理の評価が高いマンションのプロビット分析 ... - 14 -

第 4 章 まとめと政策提言 ... - 16 -

Appendix1 新築及び中古住宅価格と競売価格の比較 ... - 20 -

Appendix2 公共財の供給を私的財に任せた場合のフリーライダー問題 21

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-- 1 --

第 1 章 はじめに

1 日本における分譲マンションのストック数は平成 22 年末現在で約 571 万戸で、国民の1割(約 1,400 万人)が生活しており、マンションは都心部において主要な居住形態の一つとなっている。 また、毎年約 10 万戸以上が新たに分譲される一方で、築 50 年以上の老朽化したマンションは現 在の約1万戸から 20 年後には約 106 万戸へと急増していく状況となっている。このような中、一 つの建物を多くの者で区分所有するマンションにおいては、各区分所有者のマンション生活に対 する意識の違いから生じるマナー違反などによるトラブル、多様な価値観をもった区分所有者の 間の意見調整、大規模修繕に代表される建物の維持管理など様々な専門的問題が存在し、その内 容は法律・建築・会計など多岐に亘る。 しかしながら、老朽化したマンションにおいては、高齢化や賃貸化が進行していき、役員のな り手不足やマンション管理への無関心もあり、こうした専門的な業務に区分所有者のみでは対忚 できず、管理の機能不全に陥る管理組合の増加が懸念されている。マンション管理の機能不全に より、適切な維持管理が行われないままでいると、最悪の場合、修繕も建替もできず、スラム化 を引き起こし、当該マンションの居住者だけでなく、周辺環境に対しても影響を与えてしまう可 能性がある。 本稿では、マンション管理組合が円滑に機能しない要因を経済学的に分析するとともに、実証 分析において、ヘドニックアプローチによりマンションの維持管理の質が中古マンション価格に 影響を与える可能性があることを示した他、プロビット分析によりマンション管理におけるフリ ーライダーの発生が維持管理に影響を与えていることなども示した。そして、得られた知見をも とに、マンション管理組合が抱える問題に対して、改善策の提案を行っている。 なお、マンションにおける意思決定の非効率性などの問題を論じた研究は、以下のものが挙げ られる。 岩田(1997)は、区分所有者間の取引費用が極めて大きいことが分譲マンションの大きなデメ リットだと指摘し、維持管理などを一人の人間、あるいは経済主体が長期的な観点から純利益が 最大になるように意思決定を下すことができるという意味で、定期借家権と証券化を組み合わせ た権利形態が効率性基準に照らして最も優れていると提案している。 また、中川(2009)は、マンションに対する投資が全体的には効率的な投資であっても、その 投資が資産価値に与える影響が各区分所有者間で異なるため、集団的意思決定が行いにくいと指 摘している。しかし、区分所有者間でナッシュ交渉を行えば、全体として効率的な投資が実現で きるとし、ナッシュ交渉解を示し交渉を円滑化するためには、マンション管理の専門家の活用が 有効であるとしている。 瀬下(2009)は、マンションは、専有部分に対して所有者の自由な意思決定が尊重され、効率 的な利用が追求されると同時に共有部分に規模の経済性が働くというメリットがあるが、共用部 分と専有部分の意思決定が同時になされるような場面、典型的には建替えの場面では、効率的な 1 本稿は、筆者の個人的な見解を示すものであり、筆者の所属機関の見解を示すものではないことをあらかじめお 断りしておきます。なお、本稿にある誤りはすべて筆者の責任です。

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- 2 - 意思決定がなされないという問題があると指摘。その解決策として、専有部分と共有部分の意思 決定を分離する必要があると指摘し、「プット・オプション付きの権利床転換手続き」を提案して いる。プット・オプション付き権利床転換手続きを前提とすれば、資産の持分比率に基づく単純 多数決は効率的投資のみを実現する可能性があるとしている。 福井(2008)は、マンション管理組合は、住宅という資産の財産的価値を確保していくための 財産管理組織であるとし、政策として目指すべきは、区分所有者が、極力労力、時間や金銭の負 担を強いられない前提で、個々の区分所有者の権利が適切に守られるとともに、マンション全体 の財産価値をも維持保全できるような管理の実現を、特に取引費用の極小化の観点から支援する ことであるとしている。このためには、マンション管理の専門的な知識に乏しい区分所有者が自 ら管理に当たるのではなく、株式会社などのように経営の専門家を活用し、専門家に対してイン センティブを引き出す報酬と引き換えに区分所有者の財産権の劣化が生じないよう厳格な責任を 負わせ、それを的確にモニタリングし、結果を担保できるような仕組みを設けることが必要であ ると指摘している。さらに、福井(2012)は、マンション管理組合及び標準管理規約等について、 議決権設定方法のあり方や総会における議決権の代理行使の範囲のあり方など、様々な問題を提 議し論じている。 また、日本におけるヘドニックアプローチにより住宅価格をテーマにした分析は、次のような ものがある。 新築マンションを対象とした研究は、藤澤ほか(2004)や梅田(2010)のように住宅性能表示 制度の効果を分析したものや吉田・清水(2010)のように東京都のマンション環境性能表示制度 の効果を分析したものがある。中古マンション価格を対象とした分析は、藤澤ほか(2003)、中川 ほか(2008)、岩田・山鹿(2008)のように専有部分のリフォームの効果を分析したものが多い。 また、清水(2006)は新築及び中古マンションを含めた不動産市場全般を対象に分析し、住宅価 格構造を詳細に分析している。以上のように、マンション価格を対象とした分析は行われている が、集められるデータの制約があるためか、中古マンション価格と維持管理の関係に着目して実 証分析を行なっている研究は見当たらない。 本稿は全4章から構成されている。第2章では、マンション管理の問題について経済学的に分 析する。第3章では、中古マンションの取引データを用いた実証分析を行うことにより、維持管 理が中古マンション価格に与える影響について論じる。第4章では、第2章及び第3章で得られ た知見を下に、マンション管理の質を向上させるために、マンション管理に精通した専門家の活 用とその活用にあたっての制度設計について提案を行う。

第 2 章 マンション管理について

本章では、マンション管理について経済学的に整理を行う。第1節では、区分所有法や標準管 理規約などのマンションに対する政府の介入について整理し、第2節では、マンション管理組合 の運営における市場の失敗について整理する。

第 2-1節 区分所有法及び標準管理規約について

マンションは、敷地及びその上にある構造上一体となった建物を多数の者で区分所有する形態 をとるが、区分所有者が排他的に使用・収益できる専有部分と、廊下やエレベーターのような区

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- 3 - 分所有者全員で所有・管理する共用部分とに分かれる。 マンションにおいては、共用部分の管理、管理規約の改定、長期修繕計画の策定、大規模修繕 や建替え2など、様々なことを全区分所有者の意思によって決定しなければならない。民法の原則 で言えば、共有財産については、基本的には当事者全員の合意の下、使用・収益・管理していく 必要があり、戸建て住宅のように利害関係者が一定に限定される場合にはさほど大きな問題はな いが、マンションのように多数の区分所有者や利害関係者が存在する中で、全員が合意して管理 していくことは非常に調整が困難である。 利害関係のある当事者の数が多いと、全員の調整に費用がかかるため、効率的な契約に到達す ることは困難なものとなる3。このような取引費用の問題から、マンションについては一定の多数 決ルールに従って円滑な意思決定ができるように民法の特別法として区分所有法が制定されてい る4 マンションにおける取引費用対策としての区分所有法の基本的根拠について、福井(2008)は、 マンションに関わる多数当事者の複雑な権利関係を前提に、当該財産権が最も有効利用される状 態に移行しやすい管理処分手続きを定めると共に、最小の労力、時間、費用で財産権の価値を最 大化できるよう、当事者の取り決めに対する補完的な政府関与により、取引費用の減尐を図って いるものであるとし、マンションについての法的な関与による取引費用軽減とは、あくまでも当 該敷地における土地の最有効使用の実現を迅速・安価・確実かつ臨機忚変に支援することである としている。 さらに、福井(2012)は、取引費用を最大限極小化せよというコースの定理をマンションに関 する法制に当てはめるならば、区分所有法や円滑化法は、新築当初の区分所有関係発生時に区分 所有者が「決め忘れたこと」についての当事者の意思を補完するルールとして位置づけ、強行規 定を極力排除した一種の意思推定規定による「標準書式」として通用するようにしておくのが適 切であると指摘している。 また、マンションは前述したとおり、多数の区分所有者により共有財産を使用・管理していか なければならないため、マンションの基本ルールを決める必要があり、ほとんどのマンションに おいて管理規約が制定されている。 なお、マンション黎明期においては、指標となる具体的な手がかりがないために、管理規約の 作成を諦めるか、あるいは分譲事業者や管理会社が個々に作成していた。このような状況下で作 成された管理規約は一部の地権者に一方的に有利な条項が盛り込まれているものなど、不公平な 定めがあるものもあり、問題が多かった。 このような状況を鑑みて、管理組合が各マンションの実態に忚じて、管理規約を制定、変更す る際の参考として、1982 年に標準管理規約が策定された。当初は単棟型のみを想定したモデルと なっていたが、その後、マンションの形態に忚じて、住居と店舗が混在する複合用途型と複数の 建物で構成される団地型を対象とした規約の作成が行われた。 現在は、これら3つの標準管理規約を参考に、各管理組合で管理規約が制定されている状況で ある。 2 マンション建替えをはじめとしたマンションを取り巻く諸問題を網羅したものとして、浅見・福井・山口編著 (2012)が参考になる。 3 マンキュー(2005)286 頁 4 この他にも取引費用を軽減するための行政法分野の関与として、建替え決議以降の手続きの法的安定性を高める ことなどを目的とした、マンション建替えの円滑化等に関する法律(以下、円滑化法という)がある。

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- 4 - このように、標準管理規約は区分所有者間の私的交渉の結果策定されるマンション生活の基本 的ルールである管理規約に対して、参考書式として、その策定費用が迅速かつ安価になるよう、 区分所有法と同様に取引費用の軽減に資するものであると考えられる。

第 2-2 節 マンション管理組合の運営について

マンションにおいては区分所有者全員で構成される総会が意思決定機関であるが、ほとんどの マンションにおいて決定した事項を執行する機関として理事会を設置している。標準管理規約に おいては、理事会の構成員である役員は、区分所有者の中から選任され、選任された役員の中か ら理事長を互選する5。理事長は区分所有法上の管理者となる。 管理者は、次頁の表1-1にあるものをはじめとした多岐にわたる業務を執行しなければなら ない。その業務においては、管理組合の代表として契約の締結その他法律行為を行い、場合によ っては区分所有者を代理して、原告にも被告にもなる必要がある(区分所有法第 26 条3項)。さ らには、管理費や修繕積立金という、マンションによっては億円単位に上る巨額の金銭を管理・ 運用しなければならないなど、その責任は重大であるとともに、価値観や生活スタイルの異なる 多くの区分所有者がいる中で、管理組合の合意形成を図っていかなければならず、その負担は多 大なものとなる。また、大規模修繕などの工事を行う際には、建物に関する最低限の知識の持っ ていなければ意見をまとめることは困難である。さらに、管理費等の滞納や、居住者の迷惑行為 があれば、督促したり注意したりという他の区分所有者を相手にした業務もある。当然のことな がら、マンションの規模が大きくなればそれに忚じて業務も多くなり、場合によっては他の区分 所有者との軋轢を生むこともある。以上のように、管理者になることは、時間的、精神的にも相 当な犠牲を伴う。 5 平成 20 年度マンション総合調査によると、理事長を管理者として選任している割合は 89%という状況である。 表1-1 標準管理規約における管理組合の業務(出典:国土交通省「標準管理規約」) 第2節 管理組合の業務 第32条 管理組合は、次の各号に掲げる業務を行う。 一 管理組合が管理する敷地及び共用部分等(以下本条及び第48条において「組合管理部分」という。)の保 安、保全、保守、清掃、消毒及びごみ処理 二 組合管理部分の修繕 三 長期修繕計画の作成又は変更に関する業務及び長期修繕計画書の管理 四 建物の建替えに係る合意形成に必要となる事項の調査に関する業務 五 適正化法第103条に定める、宅地建物取引業者から交付を受けた設計図書の管理 六 修繕等の履歴情報の整理及び管理等 七 共用部分等に係る火災保険その他の損害保険に関する業務 八 区分所有者が管理する専用使用部分について管理組合が行うことが適当であると認められる管理行為 九 敷地及び共用部分等の変更及び運営 十~十五 省略 十六 管理組合の消滅時における残余財産の清算 十七 その他組合員の共同の利益を増進し、良好な住環境を確保するために必要な業務

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- 5 - 51.1% 24.0% 3.0% 20.2% 24.4% 29.6% 35.9% 27.5% 11.8% 20.8% 28.3% 4.5% 2.9% 12.2% 5.2% 0.0% 10.0% 20.0% 30.0% 40.0% 50.0% 60.0% 区 分 所 有 者 の 高 齢 化 賃 貸 住 戸 の 増 加 居 住 目 的 外 利 用 住 戸 の 増 加 管 理 費 等 の 未 払 い の 増 加 修 繕 積 立 金 の 不 足 理 事 の 選 任 が 困 難 管 理 組 合 活 動 に 無 関 心 な 区 分 所 有 者 の 増 加 大 規 模 修 繕 工 事 の 実 施 建 替 え 大 規 模 地 震 に よ る 建 物 の 損 壊 居 住 ル ー ル を 守 ら な い 居 住 者 の 増 加 マ ン シ ョ ン 内 の 犯 罪 の 増 加 そ の 他 特 に 不 安 は な い 不 明 表1-2 管理組合運営における将来への不安(重複回答) 出典:国土交通省「平成20年度マンション総合調査」 一般的に、マンション購入者はマンションの利用・収益が目的で、自らが区分所有者として管 理組合の構成員としてマンション管理を行うという意識が希薄であり、管理組合の運営のような 面倒なことには関わりたくないと考えている者が多い。さらに、役員に就任しても無報酬で役員 の義務を果たさなければならないことがほとんどであるため6、仕事等で多忙という理由で役員を 引き受けない区分所有者や高齢化等により体力的に役員の任務をこなせない区分所有者が増加す るようなことになれば、一部の区分所有者に役員の負担が集中し、表1-2にように役員のなり 手不足が深刻な問題となる。 また、管理組合活動に無関心な区分所有者の増加は、表1-3のようなトラブルの発生や大規 模修繕に関する合意形成に困難さを生じさせる等、管理組合活動の沈滞化を招く。 6標準管理規約第 37 条2項において、「役員は、別に定めるところにより、役員としての活動に忚ずる必要経費の 支払いと報酬を受けうことができる。」とされているが、平成 20 年度マンション総合調査によると、実際には 75.9% の管理組合において報酬を支払っていない状況となっている。 63.4% 36.8% 3.8% 18.4% 12.2% 31.2% 1.9% 9.6% 12.9% 22.3% 5.4% 0.0% 10.0% 20.0% 30.0% 40.0% 50.0% 60.0% 70.0% 居 住 者 間 の 行 為 、 マ ナ ー 違 反 建 物 の 不 具 合 管 理 業 者 近 隣 関 係 管 理 組 合 の 運 営 費 用 負 担 ( 管 理 費 等 の 滞 納 ) 費 用 負 担 ( 管 理 費 等 の 不 足 ) 管 理 規 約 そ の 他 特 に ト ラ ブ ル は 発 生 し て い な い 不 明 表1-3 トラブルの発生状況(重複回答) 出典:国土交通省「平成20年度マンション総合調査」

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- 6 - 以上のように、マンション管理組合の運営において、管理者の負担は重く、一方で、役員のな り手不足など、各区分所有者の協力が十分に得られないケースが多いことを示したが、マンショ ン管理は区分所有者にとって公共財であると考えられる。公共財とは、排除可能でも競合的でも ない財である7。人々が公共財を利用することを妨げることはできないし、ある人が公共財を利用 したからといって、他の人の利用できる量が減るわけではない。マンションにおいては、廊下な どの共用部分は、自己の専用部分につながるものであり、基本的にはその使用を排除することは できない。また、エレベーターの利用を抜きにすれば、誰かが通路を使用しているからといって、 他の者の利用が制限されるわけではない。さらには、役員就任の拒否など、マンション管理に協 力しなくても、共用部分の利用が制限されることはない。 公共財を私的財からの自発的な供給に任せる場合、フリーライダーが発生することが知られて いる。フリーライダーとは、ある財からの便益を得るが、それに対する支払いを避ける人のこと である8。各区分所有者は他の区分所有者のマンション管理への私的財の供給量を見ながら自己の 私的財の供給量を決定するため、マンション管理はナッシュ均衡においてサミュエルソン条件を 満たす最適な水準よりも過小なものとなる。 さらには、マンションの管理には、法律・建築・会計等の専門的な知識が必要で、多くの区分 所有者はそうした知識を備えておらず、何か問題が発生したときに対忚できない可能性があり、 こういった面でも供給水準が低下してしまうことが考えられる。 また、役員のなり手不足への対忚策として、公平性を保つ目的で、役員の選任方法を1~2年 程度の短期間の任期で輪番又は抽選としているケースも多い。短期間の任期のため、管理会社の 業務を十分にチェックできないなどにより、管理組合の財産が毀損される場合もある。 このように、マンション管理は公共財であるが故、その水準が最適なものより過尐となる性質 があり、通常マンション管理の専門家でない一般の区分所有者が主体となって運営することで、 さらに供給水準が低下してしまうことを示した。こうした状況は、最悪の場合、マンション管理 の機能不全となり、共有地の悲劇に例えられるようなマンションのスラム化を引き起こし、当該 マンションの居住者だけでなく、周辺環境に対しても影響を与えてしまうことになる。 法と経済学の立場では、資源配分の効率性の観点から、政府による市場介入が正当化されるの はいわゆる「市場の失敗」がある場合に限られる9 本章で述べたように、マンション管理における「市場の失敗」は、「取引費用」、「公共財」及び 「外部性」であり、このような問題に対して、政府が適切に対処することが必要である。

第 3 章 マンション維持管理に関する実証分析

本章では、中古マンションの取引データを用いて、ヘドニックアプローチ及びプロビット分析 により、維持管理に関する実証分析を行う。第1節では、管理費及び修繕積立金の滞納等が維持 管理に与える影響を分析する。第2節では、第1節で用いたデータについて、築年数をダミー変 数に変換し、大規模修繕が中古マンション価格に与える影響を分析する。第3節では、インター 7 マンキュー(2005)304 頁 8 マンキュー(2005)305 頁 9 福井(2007)。政府の介入が正当化されるのは、「公共財」「外部性」「取引費用」「情報の非対称性」「独占・ 寡占・独占的競争」の市場の失敗がある場合に限られ、政府の失敗が市場の失敗よりも尐ないことが必要。

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- 7 - ネットサイトの維持管理に関する評価を用いて、中古マンション価格との関係について分析する。 第4節では、第3節で用いた維持管理の評価が高いマンションについて、プロビット分析により フリーライダー等の問題を分析する。

第 3-1 節 管理費及び修繕積立金の滞納等が及ぼす中古マンションの維持管理への影

第 3-1-1 項 検証する仮説 不動産競売が申立てられる場合、債務者は金銭的に窮していることから、管理費や修繕積立金 を滞納していることが多い。 マンションの良好な居住環境を確保し、資産価値の維持・向上を図るためには、計画的な修繕 工事の実施が不可欠であり、その対象となる箇所ごとに、修繕時期及び費用について長期修繕計 画として定めることが推奨されている10。修繕工事の費用は多額であり、修繕工事の実施時に一括 で徴収することは困難であるため、前もって毎月の修繕積立金として徴収することがほとんどで ある。修繕積立金が不足すると、必要な修繕工事が実施できず、マンション全体の資産価値に影 響をもたらすことが考えられる。 また、管理費及び修繕積立金の滞納状況はマンション売買時の重要事項説明で説明することが 必要とされており、こうした滞納状況が明らかとなることで、消費者はマンション内のコミュニ ティの質や将来の修繕工事に不安を覚え、付け値を下げている可能性も考えられる。 これらを踏まえ、管理費及び修繕積立金の滞納等が及ぼすマンション価格への影響について検 証する。 第 3-1-2 項 データ内容 計測データは首都圏1都3県(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)にて、平成 21 年4月から 平成 23 年9月までに取引のあった中古マンションを対象とした。なお、平成 21 年度以降とした 理由は、不動産競売の入手できたデータが平成 21 年度以降からとなったためである。 住宅価格や専有面積などの個別の取引データは、独立行政法人住宅金融支援機構の申込データ を用い、最寄駅からの所要時間や戸数などのマンションの基本情報に関しては、株式会社不動産 経済研究所が集計し発行している首都圏マンション新築物件データを用いて分析を行った。 また、不動産競売のデータについては、平成 23 年 11 月末時点で最高裁判所事務総局『不動産 競売物件情報サイト(http://bit.sikkou.jp/)』に掲載されている、平成 21 年度から 23 年度に おける中古マンションの入札結果データを用いた。この入札結果データの中にマンションの所在 地等の情報が掲載されており、この情報をもとに入札のあったマンションと住宅金融支援機構の データをマッチングした11 なお、コントロール変数に欠落や異常値があるデータは除外している。 10 国土交通省「長期修繕計画作成ガイドライン」1頁 11 ここで得られた情報をもとにした新築及び中古住宅価格と競売価格の比較を Appendix1に掲載している。

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- 8 - 第 3-1-3 項 推計モデル式 住宅価格を被説明変数として、マンション内の競売申立ての有無や、その他住宅価格に影響を 与えると考えられる項目を説明変数として以下の推計モデルを設定した。 <推計モデル式> ln HP = 𝛼1+ ∑ 𝛼𝑖 2𝑖𝐷𝑎𝑢𝑐𝑖+ ∑ 𝛼𝑖 3𝑖 𝐷𝑎𝑢𝑐_𝑓𝑟𝑒𝑞𝑖+ ∑ 𝛼𝑖 4 𝑋𝑖+ 𝜖 HP は住宅価格、Daucは競売申立てダミーでマンション内の他の部屋で競売申立てがある場合に 1をとるダミー変数であり、Dauc_freqは競売件数の割合がマンション総戸数の5%以上となってい る場合に1をとるダミー変数である。また、Xはその他のコントロール変数で、以下の表3-1 にまとめられる。ただし、実際の推定では、大手事業者ダミーを除き、対数をとっている。 表3-1:コントロール変数 変数 内容 専有面積(㎡) 取引のあったマンションの専有面積 築年数(年) マンションの竣工日から取引日までの期間 専有階 取引のあった部屋の所在している階数 バス所要時間 最寄駅から建物までのバス利用の場合の時間(未利用の場合は0) 徒歩所要時間 最寄駅から建物までの徒歩時間(バス利用の場合はバスの乗車時間を除く) 鉄道乗車時間 東京駅から最寄駅までの乗車時間 マンション階数 マンション全体の階数 マンション総戸数 マンション全体の総戸数 大手事業者ダミー 新築マンションポータルサイト「メジャーセブン」128社による販売ないし、「スーパーゼネコ ン」135社による施工が行われた建物を大手事業者による販売物件とするダミー変数 市区町村ダミー 市区町村ごとのダミー変数 年度ダミー 年度ごとのダミー変数 鉄道ダミー 鉄道ごとのダミー変数 12 メジャーセブン:新築マンション販売情報とマンション選び関連情報を提供する新築マンションポータルサイ ト(平成 12 年4月に開設。))を運営する大手不動産会社8社(住友不動産株式会社、株式会社大京、東急不動産 株式会社、東京建物株式会社、藤和不動産株式会社、野村不動産株式会社、三井不動産レジデンシャル株式会社、 三菱地所株式会社の不動産大手8社による共同運営。) 13 スーパーゼネコン:鹿島建設株式会社、清水建設株式会社、大成建設株式会社、株式会社大林組、株式会社竹 中工務店の5社

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- 9 - 第 3-1-4 項 分析結果と考察 分析結果を表3-2に示す。 表3-2:分析結果 (1) (2) ln 住宅価格 係数 標準誤差 係数 標準誤差 定数項 5.4350 0.3885 *** 5.4393 0.3884 *** ln 面積 0.7918 0.0128 *** 0.7910 0.0128 *** 築年数 -0.0260 0.0007 *** -0.0261 0.0007 *** ln 専有階 0.0434 0.0034 *** 0.0434 0.0034 *** ln バス -0.1154 0.0049 *** -0.1151 0.0049 *** ln 徒歩 -0.0743 0.0047 *** -0.0737 0.0047 *** ln 東京駅からの所要時間 -0.0957 0.0157 *** -0.0957 0.0157 *** ln マンション階数 0.0062 0.0077 0.0066 0.0077 ln マンション総戸数 -0.0058 0.0039 -0.0069 0.0039 * 大手事業者ダミー 0.0648 0.0055 *** 0.0647 0.0055 *** 競売申立マンションダミー -0.0248 0.0062 *** -0.0209 0.0064 *** 高競売申立ダミー - -0.0391 0.0171 ** 市区町村ダミー Yes Yes 年度ダミー Yes Yes 鉄道ダミー Yes Yes 観測数 11909 11909 自由度修正済決定係数 0.6681 0.6682 ※ ***、**、*はそれぞれ1%、5%、10%水準で統計的に有意であることを示している。 競売申立てダミー及び高競売申立てダミーの符号が負であることが1%水準で統計的に有意な 値として示された。また、競売申立てがマンション内であった場合、2.5%程度価格が下落する結 果となった。これは、仮説で述べたとおり、不動産競売の差押え対象者が金銭的に窮しているた め、管理費及び修繕積立金を滞納している可能性が高く、こうした滞納の発生が中古マンション 価格に影響を与えているものと考えられる。 さらに、競売件数が総戸数の5%以上の場合、6.0%程度価格が下落する結果となった。これは 滞納金額が大きい程、価格もより大きく下落することを示している。 また、コントロール変数も予測していた符号通りの結果となった。築年数が1年経過するごと に、2.6%下落し、都心や最寄駅から離れるほどに価格が下落する結果となった。さらに、大手事 業者のプレミアムは中古住宅市場においても存在することが確認できた。

第 3-2 節 大規模修繕と中古マンション価格に関する分析

前節で管理費の滞納等が中古マンション価格を下落させていることが確認できた。管理費及び 修繕積立金の確実な徴収は、マンションの適切な管理を行う上での根幹的なものであり、管理費 等の滞納者への対忚は管理組合の重要な業務の一つである。 ただ、第2章で述べたように、管理組合の業務は滞納者への対忚以外にも、長期修繕計画の策 定や大規模修繕の実施等、様々な業務を行わなければならない。特に大規模修繕が適切に実施さ れないと、劣化が進行し、マンションの資産価値が大きく毀損されることが考えられる。

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- 10 - そこで、大規模修繕の実施が中古マンション価格に与える影響を分析する。 第 3-2-1 項 検証する仮説 大規模修繕がマンション価格に与える影響を分析するため、仮説1で用いた築年数について、 ダミー変数に変換し、非線形で分析する。これは、築年数による価格の下落は線形で落ちていく ものではなく、大規模修繕を実施すれば、価格の下落のスピードも変わってくると考えたためで ある。 さらに、修繕積立金の滞納により、大規模修繕のための予算が不足することが考えられる。予 算が不足すれば、大規模修繕の規模が縮小してしまう可能性があり、修繕積立金の滞納の影響を 分析するため、競売申立てダミーと築年数の交差項を用いて分析する。 なお、データ内容は仮説1と同様である。 第 3-2-2 項 推計モデル 仮説1と同様に、住宅価格を被説明変数とし、築年数ダミー及び競売申立ダミーと築年数の交 差項や、その他住宅価格に影響を与えると考えられる項目を説明変数として推計モデルを設定し た。 <推計モデル式> ln HP = 𝛼1+ ∑ 𝛼𝑖 2𝑖𝐷𝐴𝐺𝐸 𝑖+∑ 𝛼𝑖 3𝑖𝐷𝑎𝑢𝑐𝑖∗ 𝐴𝐺𝐸𝑖+ ∑ 𝛼𝑖 4 𝑋𝑖+ 𝜖

HP は住宅価格、DAGEは築年数ダミー、Daucは競売申立てダミー、AGE は築年数である。また、X

はその他のコントロール変数で、仮説1と同様である。

第 3-2-3 項 分析結果と考察

分析結果を表3-3に、築年数をダミー変数に変換した下落率の推移のグラフを表3-4に示 す。

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- 11 - 表3-3:分析結果 表3-4:築年数ごとの下落率の推移 -1.0% -1.4% -1.1% -11.5% -17.0% -15.5% -15.0% -19.4% -27.1% -31.8% -34.5% -30.9% -30.6% -29.9% -30.8% -30.1% -37.5% -40.0% -35.0% -30.0% -25.0% -20.0% -15.0% -10.0% -5.0% 0.0% 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 築年数 下落率 (1) (2) ln 価格 係数 標準誤差 係数 標準誤差 定数項 4.9163 0.2004 *** 5.3150 0.4576 *** ln 面積 0.8772 0.0055 *** 0.8269 0.0128 *** ln 専有階 0.0547 0.0017 *** 0.0420 0.0034 *** ln バス -0.1334 0.0025 *** -0.1220 0.0049 *** ln 徒歩 -0.0910 0.0023 *** -0.0806 0.0047 *** ln 東京駅からの所要時間 -0.1089 0.0077 *** -0.1062 0.0156 *** ln マンション階数 0.0110 0.0038 *** 0.0070 0.0076 ln マンション総戸数 -0.0048 0.0018 *** 0.0010 0.0038 築 1 年目 -0.0103 0.0034 *** -0.0183 0.2487 築 2 年目 -0.0137 0.0053 *** -0.0892 0.2460 築 3 年目 -0.0111 0.0136 -0.0781 0.2455 築 4 年目 -0.1145 0.0138 *** -0.1797 0.2455 築 5 年目 -0.1700 0.0138 *** -0.2391 0.2456 築 6 年目 -0.1554 0.0139 *** -0.2245 0.2456 築 7 年目 -0.1495 0.0139 *** -0.2205 0.2456 築 8 年目 -0.1941 0.0139 *** -0.2609 0.2456 築 9 年目 -0.2705 0.0139 *** -0.3293 0.2456 築 10 年目 -0.3178 0.0136 *** -0.3820 0.2456 築 11 年目 -0.3450 0.0135 *** -0.4096 0.2456 * 築 12 年目 -0.3087 0.0141 *** -0.3726 0.2456 築 13 年目 -0.3060 0.0144 *** -0.3690 0.2457 築 14 年目 -0.2992 0.0149 *** -0.3620 0.2457 築 15 年目 -0.3080 0.0152 *** -0.3712 0.2457 築 16 年目 -0.3013 0.0183 *** -0.3675 0.2462 築 17 年目 -0.3747 0.0368 *** -0.4450 0.2499 * 競売申立ダミー - 0.0002 0.0150 競売申立ダミー×築年数 - -0.0030 0.0016 * 市区町村ダミー yes yes 年ダミー yes yes 鉄道ダミー yes yes 観測数 11909 11909 修正済決定係数 0.6780 0.6744 ※ ***、**、*はそれぞれ1%、5%、10%水準で統計的に有意であることを示している。

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- 12 - 築年数による価格の下落は一定ではなく、表3-4のように非線形となることが明らかとなっ た。また、それぞれの築年数ダミーの有意水準も概ね高い結果となった。 さらに、その下落のかたちは、11 年目以降から横ばいに推移している。これは、マンションの 大規模修繕の周期は概ね 12 年程度で一巡するため、この修繕の効果が資産価値に影響を与えてい るものと考えられる。大規模修繕には、外壁塗装などの外見を良くする工事も含まれることから、 このような設備投資により、消費者の付け値が変わった可能性が考えられる。 また、競売申立てダミーと築年数の交差項も有意に負の結果となった。これは、修繕積立金の 滞納により必要な資金の確保ができず、大規模修繕の規模を縮小させていることが考えられる。 修繕積立金が適切に積み立てられていないと、マンション全体の資産価値も下落してしまう結果 となる。

第 3-3 節 マンション評価と中古マンション価格に関する実証分析

前2節で、管理費等の滞納や大規模修繕の実施が、中古マンション価格に影響を与えることが 確認できた。 次に、個別の業務によるマンション価格への影響の分析ではなく、これらの業務も含めた維持 管理の質が中古マンション価格に与える影響について分析する。なお、実際に消費者が維持管理 の質にプレミアムをつけているかを分析している研究は見当たらない。 第 3-3-1 項 検証する仮説 「マンションは管理で買え」とよく言われており、マンションの維持管理はマンション価格に 影響を与えるものと考えられている。しかし、一方で、消費者は購入しようとしているマンショ ンの維持管理の情報を十分に取得できないか、取得できてもその情報がどのような意味を持つか 判断できず、情報の非対称性の問題に直面していることも考えられる。そこで、インターネット サイトの評価を用い、マンションの維持管理の評価が高い場合、価格も上昇しているか検証する こととする。 当該サイトで高く評価されているマンションについて、価格が上昇していれば、消費者がこの サイトの評価を参考とし、維持管理が高いマンションにプレミアムをつけている可能性があるこ とが確認できると考えている。 第 3-3-2 項 データ内容 被説明変数は仮説1と同様に中古マンション価格を対象とした。 なお、マンションの維持管理の水準については、中古マンションの調査及び評価情報を提供し ているインターネットサイト「マンション評価ナビ」における評価を用い、分析を行う。 当該サイトで評価されている中古マンション数は平成 24 年1月現在で 412 団地となっている14 この中から、中古マンション取引データとマッチングを行い、2,695 件がマンション評価ナビで 評価されているマンションの取引データとなった。 14 マンション評価ナビ(http://www.mansion-hyoka.com/)によると、評価の対象とするマンションは、山手線の 主要駅から乗車時間 20 分以内の駅を最寄駅とし、かつ最寄駅から徒歩 10 分以内の都心居住エリアのマンション。 中古マンションについては、優先的に総戸数 200 戸程度以上の流通量の多い物件を調査し、評価しているとのこ とである。

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- 13 - 第 3-3-3 項 推計モデル式 住宅価格を被説明変数として、各評価項目のダミー変数や、その他住宅価格に影響を与えると 考えられる項目を説明変数として推計モデルを設定した。 <推計モデル式> ln HP = 𝛼1+ ∑ 𝛼2𝑖𝐷𝑒𝑣𝑎𝑖+ ∑ 𝛼3𝑖 𝑖 𝑖 𝑋𝑖+ 𝜀 HP は住宅価格である。Devaはマンション評価ダミーで、マンション評価ナビの評価が高い場合 に1をとるダミー変数である。評価項目は表3-5のとおりであり、それぞれ5点満点の評価で あるが、4点以上の評価となっている場合に1をとるダミー変数としている。Xはその他のコン トロール変数で、仮説1と同様である。 表3-5:マンション評価ダミー 説明変数 内容 拠点性ダミー 交通の便利さ、生活施設の充実度及び街の発展性を踏まえた評価 住環境ダミー 閑静な住環境、将来にわたる環境の維持、自然災害の危険度及び犯罪・交通事故の危険度を踏まえた 評価 居住性(共用部分) ダミー 構造の長期使用度、省エネ・環境対忚、バリアフリー対忚、敷地や共有スペースのゆとり、街並みと の調和及びセキュリティを踏まえた評価 維持管理ダミー 管理形態、管理組合の運営状況、修繕計画・実施の状況及び居住者コミュニティの質を踏まえた評価 第 3-3-4 項 分析結果と考察 分析結果を表3-6に示す。 表3-6:分析結果 ln 価格 係数 標準誤差 係数 標準誤差 定数項 4.7628 0.2931 *** 4.7093 0.2402 *** ln 面積 0.9194 0.0196 *** 0.9129 0.0198 *** 築年数 -0.0126 0.0027 *** -0.0149 0.0027 *** ln 専有階 0.0540 0.0054 *** 0.0575 0.0054 *** ln バス -0.0691 0.0315 ** -0.0933 0.0317 *** ln 徒歩 -0.0231 0.0147 -0.0508 0.0142 *** ln 鉄道時間 -0.0346 0.0288 -0.0483 0.0289 * ln 階数 0.0344 0.0170 ** 0.0444 0.0167 *** ln 総戸数 -0.0361 0.0099 *** -0.0184 0.0095 * 拠点性ダミー 0.0316 0.0165 * - 住環境ダミー 0.0980 0.0209 *** - 居住性ダミー 0.0893 0.0254 *** - 維持管理ダミー 0.0465 0.0179 *** - 市区町村ダミー yes yes 年ダミー yes yes 鉄道ダミー yes yes 観測数 2695 2695 修正済決定係数 0.5948 0.5851 ※ ***、**、*はそれぞれ1%、5%、10%水準で統計的に有意であることを示している。

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- 14 - 拠点性ダミーについては、正の符号で 10%水準で統計的に有意に、住環境、居住性(共用部分) 及び維持管理ダミーについては、正の符号で1%水準で統計的に有意な結果となった。拠点性ダ ミーは約 3.2%、住環境ダミーは約 9.8%、居住性(共用部分)ダミーは約 8.9%、維持管理ダミ ーは約 4.7%、住宅価格が上昇する結果となっている。 これは、消費者がマンションを購入する際に、マンション評価ナビの評価を参考にした可能性 及び、仲介事業者からの説明や現地での確認により得られた消費者自身のマンションに対する評 価とマンション評価ナビの評価が相関していたことが考えられ、消費者はマンションの維持管理 について、住宅価格の中でプレミアムをつけている可能性があることが確認できた。 なお、維持管理の評価項目として、管理費や修繕積立金の㎡当たりの単価を取り入れており、 管理費や修繕積立金の単価が高いと評価点数も高くなる。管理費や修繕積立金の金額が高いマン ションは共用部分のグレードが高い傾向があるため、こうした影響がプレミアムとなっている可 能性がある。 また、このサイトの評価は法定の調査ではないため、マンションによっては調査に非協力的で ある場合があるためか、維持管理に関する評価項目全てを調査できずに評価しているものもあり、 今後、消費者が維持管理のどういった項目にプレミアムをつけているか詳細に分析する必要があ ると考えている。

第 3-4 節 維持管理の評価が高いマンションのプロビット分析

前節で消費者が維持管理にプレミアムをつけている可能性があることが確認できた。次に、維 持管理に影響を与える要因とはどのようなものであるかを分析する。 第 3-4-1 項 検証する仮説 維持管理に影響を与える項目を分析するため、前節で用いた維持管理ダミーを被説明変数とし てプロビット分析する。 着目する項目は、フリーライダーや取引費用の影響である。マンション管理という公共財の供 給を、各区分所有者の私的財からの自発的な供給に任せると、ナッシュ均衡な状態においては、 フリーライダーが発生し、サミュエルソン条件を満たす最適な供給水準よりも過尐供給となって しまうことが考えられる。そして、その公共財の供給量は区分所有者が多いほど過尐となってし まう15。また、区分所有者数が多いと、意見調整のための取引費用も増加することになる。 さらに、フリーライダーなどの問題は、年数が経過するほど顕在化することが考えられる。 そこで、マンションの規模が大きい場合、維持管理に影響をもたらすか、また、その影響は年 数が経過するほど顕在化していくのか検証することとする。 第 3-4-2 項 データ内容 データセットは仮説3で使用したものを用いる。 第 3-4-3 項 推計モデル マンションの戸数が多い場合、フリーライダーや意見調整のための取引費用が増加するため、 15 この理論について Appendix2 に示す。

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- 15 - 維持管理に影響をもたらすことが考えられる。さらに、年数を経過することにより、維持管理へ の影響が顕在化していくことが考えられる。 そこで、維持管理の水準と戸数及び築年数の関係について検証する。 推計モデルは、維持管理ダミーを被説明変数として、戸数と築年数や、その他マンションの品 質を表すと考えられる項目を説明変数としてプロビットモデルを設定する。 <推計モデル式> 𝐷𝑃𝑀 = 𝛼1+ ∑ 𝛼2𝑖𝑇𝑈𝑖+ ∑ 𝛼3𝑖 𝑖 𝑖 𝐴𝐺𝐸𝑖+ ∑ 𝛼4𝑖 𝑖 𝑋𝑖+ 𝜀 DPMは仮説3で用いた維持管理ダミーで、TU は総戸数で、AGE は築年数である。X はその他のコ ントロール変数で、マンションの属性を表すと考えられるものを採用した。 第 3-4-4 項 分析結果と考察 分析結果を表3-7に示す。 表3-7:分析結果 総戸数について、負の符号で1%水準で統計的に有意な結果となった。これは前述したように、 マンション管理にはフリーライダーや取引費用という問題が発生するため、戸数が多い場合、よ りその影響が大きくなっている16 さらに、築年数も、負の符号で 1%水準で統計的に有意な結果となった。フリーライダーなど によるマンション管理への影響は、築年数が経過するほど顕在化してくるものと考えられる。 16 平成 20 年度マンション総合調査によると、区分所有者が実際に総会に出席していた割合は、50 戸以下で平均 42.8%、200 戸超で平均 19.9%であり、戸数が多い場合、出席率が低く、マンション管理に関心のない者の比率 が高いと考えられる。 維持管理ダミー 係数 標準誤差 定数項 -12.3416 3.5807 *** ln 総戸数 -1.2453 0.1259 *** 築年数 -0.2474 0.0349 *** ln 単価(価格/面積) -0.1260 0.2642 ln 面積 5.2149 0.8342 *** ln 徒歩 -1.5072 0.1728 *** ln 東京駅からの距離 -0.9523 0.1994 *** 大手事業者 0.0310 0.2080 都心5区 5.7402 1.0614 *** 東京23区(都心5区以外) 4.1375 1.0482 *** 観測数 2695 修正済決定係数 0.2944 ※ ***、**、*はそれぞれ1%、5%、10%水準で統計的に有意であることを示している。

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- 16 - なお、現在の標準管理規約のコメント17において、役員の人数や理事会の運営について表3-8 の記載がある。大規模マンションにおいては、理事会のみで実質的な検討を行うことは困難であ るため、理事会の運営の中に部会を設ける18などの体制整備について触れられており、戸数の多さ に対して特別な配慮が望まれるとされている。 表3-8:標準管理規約コメント

第4章 まとめと政策提言

これまで述べてきたとおり、本稿では、マンション管理組合において、取引費用やフリーライ ダーなどの問題があるため、管理が円滑に機能しないことを論じ、実証分析において、中古マン ションの取引データを用い、管理費等の滞納や大規模修繕の実施といった管理組合の業務と中古 マンション価格に及ぼす影響や維持管理とフリーライダーの関係などを分析した。本章では、こ れらの分析のまとめと、それを踏まえた提案を行い、最後に今後の課題について触れる。 マンション管理組合の業務は、管理費及び修繕積立金の管理や大規模修繕の実施等、様々なも のがあり、それらが適切に執行されていない場合、マンションの資産価値に影響を与えることを 示した。資産価値の下落の影響は区分所有者全員に跳ね返ってくるものであり、管理組合を運営 する理事長の責任は非常に重たいものであると言える。 また、マンション管理は区分所有者にとって公共財であるが故、フリーライダーが発生するこ とや、意見調整のための取引費用の問題から、マンションの戸数が多くなるほど管理水準が低下 する傾向が強くなることも示した。 これらの結果は、マンション管理においては、運営に専門的な知識が必要であることやフリー ライダー及び取引費用の問題から、一般の区分所有者が管理者となって運営していく現行の方式 では、管理が円滑に進まない可能性が高いことを示唆している。 こういった問題に対処する施策として、福井(2012)などが示しているように、取引費用の低 減をはかり、全体としての効率的な維持管理を実現し、マンション全体の財産価値を保全するこ とを目的として、マンションの管理に精通した専門家の活用が有効であると考える。 17 標準管理規約とは別に、標準管理規約の解説版として、標準管理規約のコメントが作成されている。 18 平成 20 年度マンション総合調査によると、200 戸超のマンションにおいて、66.3%の管理組合が実際に何らか の専門委員会を設定している状況である。 ② 理事の員数については次のとおりとする。 1 おおむね 10~15 戸につき1名選出するものとする。 2 員数の範囲は、最低3名程度、最高 20 名程度とし、○~○名という枠により定めることもできる。 ③ 200 戸を超え、役員数が 20 名を超えるような大規模マンションでは、理事会のみで、実質的検討を行うのが難しくな るので、理事会の中に部会を設け、各部会に理事会の業務を分担して、実質的な検討を行うような、複層的な組織構成、 役員の体制を検討する必要がある。 この場合、理事会の運営方針を決めるため、理事長、副理事長(各部の部長と兹任するような組織構成が望ましい。) による幹部会を設けることも有効である。なお、理事会運営細則を別途定め、部会を設ける場合は、理事会の決議事項 につき決定するのは、あくまで、理事全員による理事会であることを明確にする必要がある。

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- 17 - しかし、国が定めている標準管理規約は、役員の資格要件を区分所有者に限定しており、外部 の専門家を役員とすることは想定されていない19。福井(2012)が指摘しているように、標準管理 規約に専門家を活用するための選択肢を追加するべきである。 なお、当然であるが、専門家を活用するためには報酬が必要であり、その費用対効果を踏まえ て管理組合で決定することが前提である20 また、専門家による管理の導入にあたっては、専門家が維持管理の質を向上させる報酬体系と ともに、利益相反や管理費等の横領を防ぐ仕組みの構築が必要であり、管理者の恣意的な管理が 行われないよう、管理者の業務をチェックする監事についても、外部の専門家を活用していくこ とが望ましい。 とくに、管理会社が管理者に就任して業務執行する場合、管理者と受注者が同一となるなど、 利益相反取引等の問題が生じてしまう。契約の透明性を損なわないためには、管理者は契約の当 事者となれないような措置も検討する必要がある。 なお、タワー型等の大規模マンション、投資用マンション、リゾートマンションなど、マンシ ョンの形態が多様化している現状では、現在の標準管理規約が規定している3つのモデル(単棟 型、複合型、団地型)では、様々な事情を抱える管理組合の実情に対忚できていない。取引費用 を最大限極小化するためにはマンションの形態に忚じた標準管理規約を整備する必要がある。 また、現在、国の施策として中古住宅の流通・リフォームの活性化が行われているが、マンシ ョンの場合、構造耐力上主要な部分は共用部分に属しており、建物がどれだけ長持ちするかは管 理組合の維持保全にかかってくる。消費者がマンションを購入して後悔しないよう、各マンショ ンの維持管理に関する情報を提供することも検討すべきではないか。 今後の課題としては以下のものが挙げられる。 まず、今回の分析では、データの制約から築 17 年目までのマンションを分析対象としたが、よ り築年数を経過したマンションの方が、維持管理に支障が出ている可能性が高いことが考えられ る。とくに老朽化マンションでは、建替えをするか改修をするか区分所有者の意見がまとまらな いため、マンションに対する設備投資が凍結し、外壁の剥がれなどへの修繕が実施されないなど、 周辺に悪影響を与えてしまうケースもあり、定量的に分析していく必要がある。 東京都が都内のマンションの実態調査を行い、都内全マンションのデータベースを構築する予 定と聞いており、こうしたデータを活用し、建築後相当年を経過した老朽化マンションを含めた 分析を進めていきたいと考えている。 さらには、リゾートマンションや投資用マンションなどは一般の自己居住型マンションよりも、 維持管理の問題が顕在化していると考えられるので、こうしたマンションも含めて研究する必要 がある。 19 標準管理規約第 35 条2項において、「理事及び監事はマンションに現に居住する組合員のうちから、総会で選 任する。」とされている。 20 機能不全に陥っている管理組合においては、集会を開いてこうした意思決定を行うこと自体が困難になってい ることが多く、円滑な管理への移行のために何かしらの支援を検討すべきである。

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謝辞

本論文の執筆にあたっては、北野泰樹助教授(主査)、福井秀夫教授(副査)、黒川剛教授(副 査)、植松丘客員教授(副査)から丁寧なご指導をいただくとともに、安藤至大客員准教授をはじ めとしたまちづくりプログラムの関係教員の皆様からお忙しい中大変貴重なご意見をいただきま したことを心から感謝いたします。加えて日頃から様々な相談に忚じていただいたまちづくりプ ログラム及び知財プログラムのメンバーの皆様にもお礼申し上げます。 最後に、政策研究大学院大学で1年間研究の機会を与えていただいた派遣元に感謝いたします。 【参考文献】 ・浅見泰司・福井秀夫・山口幹幸編著(2012)『マンション建替え』日本評論社 ・岩田喜久男(1997)『マンションの法と経済分析』(岩田喜久男・八田達夫編「住宅の経済学」 第2章)日本経済新聞社 ・岩田真一郎・山鹿久木(2008)『中古住宅市場における転売外部性の実証分析』(季刊住宅土地 経済 2008 年夏季号) ・梅田利孝(2010)『住宅性能表示制度が住宅価格に与える効果について』(政策研究大学院大学 まちづくりプログラム修士論文) ・戎正晴ほか対談(2006)『分譲マンションをめぐる諸問題(上)、(下)』(ジュリスト 1309、1310 号) ・大水敏弘(2009)『マンション所有のリスクとは』(都市住宅学 65 号) ・大守隆(2002)『東京圏マンション流通価格指数』(季刊住宅土地経済 2002 年秋号) ・熊谷則一(2007)『中古住宅物件流通における消費者保護』(日本不動産学会誌第 21 巻第2号) ・齊藤広子(2009)『日本の集合住宅管理の現状と課題』(日本不動産学会誌第 22 巻第4号) ・清水千弘(2006)『不動産市場分析』住宅新報社 ・清水千弘・唐渡広志(2007)『不動産市場の計量経済分析』朝倉書店 ・瀬下博之(2009)『区分所有権の経済分析』(日本不動産学会誌第 22 巻第4号) ・中川雅之(2009)『区分所有法とマンションの再生投資』(日本不動産学会誌第 22 巻第4号) ・野上雅浩(2009)『住宅瑕疵担保履行法における供託と保険の選択に係る経済分析』(政策研究 大学院大学まちづくりプログラム修士論文) ・藤澤恵美子・中西正彦・中井検裕(2003)『中古集合住宅市場におけるリフォーム情報の開示・ 査定方法に関する一考察』(都市住宅学 43 号) ・藤澤恵美子・中西正彦・中井検裕(2004)『住宅性能表示制度が分譲マンション価格に与える影 響と役割』(都市住宅学 47 号) ・藤澤恵美子・中西正彦・中井検裕(2006)『中古住宅市場の売出段階の情報開示のあり方につい ての一考察』(都市住宅学 55 号) ・福井秀夫(2006)『司法政策の法と経済学』日本評論社 ・福井秀夫(2007)『ケースからはじめよう 法と経済学』日本評論社 ・福井秀夫(2008)『マンション建替え・管理の法と経済分析』(自治研究 84 巻 12 号) ・福井秀夫(2009)『マンション建替え法制の抜本的な刷新を』(住宅 58 巻第5号) ・福井秀夫(2010)『韓国・米国の老朽マンション法制』(税務経理 9007 号) ・福井秀夫(2012)『マンションの建替え・管理の法的隘路』(浅見泰司・福井秀夫・山口幹幸編

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- 19 - 著(2012)『マンション建替え』第2章 日本評論社) ・水永政志・小滝一彦(2007)『不動産価格のヘドニック分析における品質バイアス』(季刊住宅 土地経済 2007 年冬号) ・丸岡浩二(2011)『第三者占有が不動産競売市場に与える影響について』(政策研究大学院大学 まちづくりプログラム修士論文) ・山崎福寿(1999)『土地と住宅市場の経済分析』東京大学出版会 ・山崎福寿(2001)『経済学で読み解く土地・住宅問題 都市再生はこう進めよ』東洋経済新報社 ・吉田次郎・清水千弘(2010)「環境配慮型建築物が不動産価格に与える影響:日本の新築マンシ

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- 20 - Appendix1 新築及び中古住宅価格と競売価格の比較 平成 21 年度~平成 23 年度(9月末)の新築及び中古住宅並びに競売落札価格の比較を最小二 乗推定法により分析した結果を表4に示す。 なお、新築住宅のデータは中古住宅と同様、住宅金融支援機構のデータを用い、競売落札価格 のデータは不動産競売物件情報サイトに掲載されていたものである。 結果としては、築年数に関わらず、新築から中古になるだけで、価格が約 5.8%下落する結果 となった。いわゆる新築プレミアムが存在していることが確認できる。 また、競売落札価格は新築住宅価格と比較して約 35.5%、中古住宅価格と比較して、約 29.7% 下落する結果となった。 さらに、大手事業者によるプレミアムは新築と中古で有意な差はなく、競売の場合にさらなる プレミアムがある結果となった。競売落札者の大層を占める法人においては多くが転売目的であ り、大手事業者というプレミアムが販売上、有利なものになっていると考えられる。 表4:分析結果 新築&中古&競売 ln 価格 係数 標準誤差 定数項 4.8716 0.1185 *** ln 面積 0.8763 0.0056 *** 築年数 -0.0280 0.0004 *** ln 専有階 0.0564 0.0017 *** ln バス -0.1389 0.0024 *** ln 徒歩 -0.0943 0.0023 *** ln 東京駅からの所要時間 -0.1033 0.0079 *** ln マンション階数 0.0146 0.0038 *** ln マンション総戸数 -0.0142 0.0019 *** 中古ダミー -0.0581 0.0048 *** 競売ダミー -0.3548 0.0058 *** 大手事業者 0.0484 0.0037 *** 大手事業者×中古 0.0040 0.0052 大手事業者×競売ダミー 0.0803 0.0089 *** 市区町村ダミー yes 年ダミー yes 鉄道ダミー yes 観測数 32568 修正済決定係数 0.8304 ※ ***、**、*はそれぞれ1%、5%、10%水準で統計的に有意であることを示している。

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- 21 - Appendix2 公共財の供給を私的財に任せた場合のフリーライダー問題 マンション管理という公共財の供給を、各区分所有者の私的財からの自発的供給に任せた場合、 フリーライダーが発生する。この状況下では、サミュエルソン条件を満たす社会的に最適な水準 よりも過尐供給となり、さらに、区分所有者の数が多くなるほどその供給量が過尐となっていく。 その理由については、以下のように示すことができる。 消費者 i の効用関数が、マンション管理の投資量Qと合成財 x から成り立っているとし、以下 のように定義する。 Ui(Q, x𝑖) , Q = q1 + 𝑞2 + ⋯ + 𝑞𝑁 Q:マンション管理の投資量 x:合成財の消費量 i:区分所有者 N:全ての区分所有者 x𝑖= 𝑦𝑖− c𝑞𝑖 C:限界費用 yi:i の所得 qi:i の管理への投資量 Yi=Y で共通 Ui=U で共通 とする。 公共財の供給を私的財からの自発的供給に任せ、フリーライダーが発生する場合 𝑞1 𝑚𝑎𝑥 𝑈(𝑄, 𝑥 𝑖) = 𝑈(𝑄, 𝑦𝑖− 𝑐𝑞𝑖) F.O.C: 𝜕𝑈 𝜕𝑞𝑖− c 𝜕𝑈 𝜕𝑥𝑖= 0 -① となる。 U=√𝑄𝑥 :コブダグラス 𝜕𝑈 𝜕𝑞𝑖 = 1 2√ 𝑥𝑖 𝑄 , 𝜕𝑈 𝜕𝑥𝑖 = 1 2√ Q 𝑥𝑖 上式に①を代入すると、 𝜕𝑈 𝜕𝑞𝑖 ⁄ 𝜕𝑈 𝜕𝑥𝑖 ⁄ = 𝑐 となるので、 𝑥𝑖 𝑄 = 𝑐 が得られる。 ここで、Q = q1 + 𝑞2 + ⋯ + 𝑞𝑁、また、合成財の消費量は、x𝑖= 𝑦𝑖− c𝑞𝑖であるので、 𝑦𝑖−𝑐𝑞𝑖 ∑ 𝑖𝑞𝑖 = 𝑐となる。 ここで、モデルの対称性により、𝑞𝑖= 𝑞∗∗ と出来るので、 y−𝑐𝑞∗∗ N𝑞∗∗ = 𝑐 が得られる。 このとき、私的供給の場合の各消費者の最適供給量は、𝑞∗∗ = 𝑦 𝑐(1+𝑁) となるので、 Q∗∗= 𝑁 𝑁+1 𝑦 𝑐 -② となる。

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- 22 - 次に社会的に最適な場合 𝑞1 𝑚𝑎𝑥 ∑ 𝑖 𝑈(𝑄, 𝑥 𝑖) = 𝑈(𝑄, 𝑦𝑖− 𝑐𝑞𝑖) F.O.C: ∑ 𝑖𝜕𝑞𝜕𝑈 𝑖− c 𝜕𝑈 𝜕𝑥𝑖= 0 -③ となる。 ③を同様に展開すると、 q∗= 𝑦 2𝑐 となり、 Q∗=𝑁 2 𝑦 𝑐 -④ となる。 よって、フリーライダーが発生する場合と、社会的に最適な場合を比較すると、 ② ④→ 𝑄∗∗ 𝑄∗ = 2 𝑁+1 -⑤ となる。 ⑤のとおり、公共財の供給を、私的財からの自発的供給に任せた場合、社会的に効率的な結果 をもたらさない。さらに、区分所有者が多くなるほど、私的供給はマンション管理の投資量を過 尐にさせてしまうことになる。 以上のように、マンション管理は公共財であるが、その供給は各区分所有者の私的財から供給 されるため、最適な水準よりも過尐になってしまう性質を持っていることが分かる。

参照

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