一 は じ め に
1問題の所在2考察の対象3考察の順序
二民事訴訟法学における管理処分権の意義
1
概念の定着
2
現在の訴訟法学での用いられ方
3
管理処分権に対する批判
4小括
三 訴 訟 担 当 と 実 体 法 ー管理権をめぐる実体法学︵民法学︶との整合性 於保不二雄﹁財産管理権論﹂をめぐる議論
ー
管
理 処 分 権 に 関 す る 考 察
2
訴訟法学が管理処分権を用いざるをえない理由 四 管 理 処 分 権 の 間 題 点
1内容の不明確さ2
管理権と処分権 五 管 理 処 分 権 と 訴 訟 担 当
1考察の前提2
訴訟担当の効果と管理処分権
3
担当者の提訴根拠と管理処分権 六 お わ り に
堀
野
二
0
九出
21 3・4 511 (香法 2002)
る︒ところが︑訴訟担当の根拠に関しては︑﹁管理処分権﹂の枠を踏み出て別の説明がなされることはなく︑訴訟担当
の効果である権利主体への既判力拡張も︑管理処分権が担当者に帰属するからという理由でかつては正当化されてき
た︒判決効拡張の場面においてこういった説明をなすことの問題性は︑債権者代位訴訟など一部の訴訟をめぐってす
でに指摘されているところであり︑
けなければならない点であろう︒この点に関しては︑詳しくは後述するが︑担当者による提訴が許され請求棄却判決
① 第 一 に
︑
ように思われる︒ ー問題の所在
現在の民事訴訟法理論では︑第三者が自己の名で他人の権利関係につき訴訟追行することが許される訴訟担当の根 拠に関して︑職務上の当事者とされるケースをのぞき︑管理処分権により一元的︑画一的な説明がされている︒すな
わち︑担当者は他人の権利ないし権利関係について﹁管理処分権﹂を有するがゆえに︑当該権利について訴訟をする
ことが可能であるという説明がされている︒管理処分権とは︑担当者の権能を表していることに相違ないにしても︑
狭義の法定訴訟担当において︑およそ管理処分権をもたない担当者が想定されていないことを考え合わせれば︑具体
的な権能を指すのではなく︑担当者に共通する訴訟上の地位を一般的に説明するために用いられているといって差し
支えない︒しかし︑このように訴訟担当の根拠を管理処分権のみによって説明することには︑
一口に管理処分権といっても︑
は じ め に
以下の点で問題が多い
その具体的内容は訴訟担当の事案ごとに区々であることがいわれてい
あらためて取り上げる意義に乏しいが︑管理処分権論の問題点としてまず目を向
二 ︱ °
21~3-4~512 (香法2002)
管 理 処 分 権 に 関 す る 一 考 察 ( 堀 野 )
(4)
ない
︒
理論
は︑
ように受け取られかねないし︑実際そのように解されているようにみえる︒
者に実体法上の権能が認められないにもかかわらず提訴が許される場合︑言い換えると︑少なくとも提訴がされるま では︑担当者が争われる権利関係につき何ら実体法上の権能を行使できない場合も存在する︒しかし︑現在の訴訟法 そうである︒
ろ
う (3)
ヵ
ゞヽ また︑訴訟機能の拡大の要請を素直に受けとめれば︑訴訟担当による提訴が必要な領域も拡大されることにな
ば︑人格権にもとづく差止請求権についての訴訟担当などが問題となるように思われる︒
根拠を管理処分権のみで説明してきたのだから︑
理論的枠組みを持たないことになりはしないだろうか︒もしそうであれば︑
さらに︑訴訟上の和解の場面では︑管理処分権の内容のうち︑処分権の存否がまず考慮され︑担当者にそれさ え認められれば︑権利主体に対する訴訟上の和解の拘束力も肯定されることになっている︒
担当者の有する実体法上の権能が和解の拘束力とどう関係しているのかも︑
(2)
が出されるとそれに権利主体が拘束されるという効果︵結果︶
てきた経緯があること︑
さらに検討してみる意義があろう︒ そのことによる不備・不都合は否定しえ
これらの場合に関し訴訟担当の根拠たりうる
を説明するために︑管理処分権という概念が用いられ そしてその名残りというわけでもないのだろうが︑提訴が許されるところにはおよそ管理処 分権も存在するという思考パターンが︑なお維持されていることを指摘しておきたい︒
このような訴訟担当者
11
管理処分権者という図式は︑管理処分権の存在が担当者による提訴の要件であるかの
しかしながら︑株主代表訴訟など︑担当 この場合についても管理処分権を用いた説明により提訴を正当化しており︑これが妥当がどうか間題があり
そうすると︑他人の管理になじまない権利関係についての訴訟担当も要請されてくることになろう︒
わが国の訴訟法学は︑ たとえ
しかし︑従来は訴訟担当の
しかし︑実際のところ︑
21~3-4~513 (香法2002)
整理する 考察の対象
根拠論の当否およびそれ以外の根拠論の可能性を考察してみたい︒
考察の対象としては︑
;
以上の関心にもとづき︑本稿では︑法定訴訟担当のうちから職務上の当事者をのぞいたうえで︑管理処分権という
ひとまず給付訴訟における原告側の訴訟担当が中心となる︒第三者による確認訴訟は通常は
訴訟担当ではなく︑管理処分権にもとづく説明もなされていないので対象外とし︑形成訴訟に関しては現在のところ 訴訟担当を論じる実益に乏しいため︑対象から外す︒また︑管理処分権にもとづいた提訴共同が説明されている固有
必要的共同訴訟についても︑個人的には訴訟担当の枠組みで把握できると考えてはいるが︑以下では取上げない︒
なお︑管理処分権論に対しては既に有力な批判が存在する︒ただし︑
当の例を︑他人の権利が行使されつつも主張されているのは担当者自身の法的利益と捉えることにより︑これらの訴
訟を訴訟担当ではないとし
( 1 1
固有適格にもとづく訴訟であるとし︶︑権利主体への既判力拡張は直ちにはなされない
ことを帰結するものである︒それゆえ︑訴訟担当者による提訴およびその効果がいかなる根拠により基礎付けられる
かに直接答えるものではない︒訴訟担当の枠内でその根拠を考察する本稿とは目的を異にするものであり︑こうした
以下では︑管理処分権と総称される実体法上の権能が︑訴訟法学においていかなる役割を果してきたかをまず概観︑
︵二︶︒次いで︑管理権概念をめぐる実体法学︵民法学︶
管理処分権の問題点を明らかにする︵四︶︒そのうえで︑
3
考察の順序 見解の検討も以下では中心には行わない︒2
の議論との整合性を検討することを通じて
︵ 三 ︶ ︑
かかる権能が敗訴判決の効力や和解の拘束力と︑実際のとこ これは︑債権者代位権訴訟など一部の訴訟担
21~3-4~514 (香法2002)
管 理 処 分 権 に 関 す る 一 考 察 ( 堀 野 )
( 5
)
(4
( 3
)
( 2 )
(l
ろどう関係しているかを分析し︑
のかという点に関し今後用いられるべき視座を明らかにしたい
兼子―•新修民事訴訟法体系〔増訂版〕四)一八六頁、新堂幸司•新民事訴訟法
ニニ四頁など︒ ︵酒井書店︑昭和二九︶一六
0
貞 ︑
︵弘文堂︑一九九八︶二五q
一 貞 ︑
二ヶ月章・民事訴訟法︹法律学全集︺︵有斐閣︑昭和︱
1 ‑
上田徹一郎・民事訴訟法
f第二版︺︵法学書院︑一九九七︶
訴訟開始権能という用語は︑古四田裕成﹁株主代表訴訟における原告株主の
伊藤慎・民事訴訟法︵有斐閣︑一九九八︶一四七頁は単に﹁管理権
l
と 表 現 す る
︒ 同 一 四 七
︑ 一 四 八 頁 で は
︑ 職 務 上 の 当 事 者を除く法定訴訟担当にも二つの場合があり︑権利主体の権利関係について実体法
t
の権能が与えられている場合とそうでない場 合があるとされる︒後者の例として︑株主代表訴訟が挙げられている︒
高橋宏志・里点講義民事訴訟法︹新版︺︵有斐閣︑二
0 0 0 )
ニ︱五貞︑ニ︱六貞︵以下︑高橋・重点講義として引用する︶は︑
管理処分権を用いることについてその問題点を指摘されつつ︑とりあえずその枠組みに従う︑とされる︒
伊藤慎・民訴法一四八頁注︵
4 3 ︶参照︒このように捉える方が一般的であろう︒
ただし︑提訴要件を充たした株主は︑裁判外での権利実現のための行為をなしうるとするものもみられる︒新版注釈会社法
( 6
) ︵ 有
斐閣、一九八九)三ヒヒ頁f北沢lE啓〕、北沢正啓「株主の代表訴訟と差止権」同•株式会社法研究II(有斐閣、一九七六)二九六 頁︑池田辰夫﹁株主代表占訟における和解﹂小林秀之
11
近藤光男編・株主代表訴訟体系︵弘文堂︑一九九六︶二四五頁は︑代表訴訟 の提起に先立って︑訴訟外で株
F が取締役の責任を追及することができる︵商二六七条の裁判外の行為への類推ないし準用︶とする︒
幅永有利一当事者適格理論の再構成﹂山木戸還暦︵上︶︵有疫閣︑一九七
O )
三四頁︒以ド︑福永・再構成として引用する︒
中野貞一郎﹁当事者適格の決まり方﹂︵初出︑一九九三︶民事訴訟法の論点
I︵判例タイムズ社︑一九九四︶九三貞所収︵以下︑
中野・論点ーとして引用する︶も︑基本的に面永説による管理処分権論批判を支持される︒とりわけ︑取立訴訟の差押偵権者の地位 について︑同・民事執行法︹祈
a T
四版︺︵青林書院︑︱: 0 0 0 )
六
0
‑ 1
頁︒第三者の当事者適格の基準は︑第三者のもつ﹁法的利益
︵についての管理処分権︶﹂︵論点
‑10
九頁︶とされる︒
より正確には訴訟開始権能と管理処分権の関係である︒
︵ 五
︶ ︒
また
︑
~
かかる権能が訴訟担当者による提訴に際して必ず必要とされなくてはならないも
21 3-4~515 (香法 2002)
担当の基礎にある権能を一括して
﹁管理処分権﹂と称された︒
わが国民事訴訟法学において︑訴訟担当の根拠として﹁管理処分権﹂という概念が用いられ定着をみたのは︑兼子
一・民事訴訟法体系︵酒井書店︑昭和二九(‑九五四︶︶
分権﹂という用語が用いられはじめたのは昭和一五年(‑九四
0 )
︵厳密に言えば︑兼子理論において﹁管理処
( 6 ) ( 7 )
︵8
)
の﹁破産財団の主体性﹂からである︶︒民訴法体系
では︑管理処分権を有し訴訟担当者となる者の典型例として︑まず破産管財人が挙げられ︑
位訴訟における債権者︑取立訴訟における債権者︑株主代表訴訟における原告株主が挙げられている︒破産管財人が 財団に含まれる債務者の権利に関し有する実体法上の権能と︑債権者が債務者の債権につき有する実体法上の権能︑
さらには原告株主が会社の損害賠償請求権につき有する実体法上の権能には︑
によってである
︵ 一 ︶
が多大な影響を受けてきたドイツ法も参照しておく︒
概念の定着
かなりの相違があるが︑これらの訴訟
これにつづいて債権者代
地位
﹂民
商法
雑誌
︱一
五巻
四・
五号
五四
四頁
(‑
九九
七︶
︵以
下︑
高田
︵裕
︶・
民商
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︑
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(
19 92 ),
S
.
88
に
{5
らったものである︒
訴訟担当の根拠に関する考察に先立って︑わが国の訴訟法理論において管理処分権という概念がどのように定着し︑
それが現在どのように用いられているか確認しておくことにする︒合わせて︑訴訟担当論においてもわが国訴訟法学
管理処分権概念の定着
ー
民事訴訟法学における管理処分権の意義
二︱四
21-3•4-516 (香法 2002)
管理処分権に関する一考察(堀野)
たは防御を行う権能である︒
(
‑
︱ )
ドイツ
( K .
H e l l w i g )
の管理権論 のちに兼子博士は︑
果として敗訴判決を受ければ︑
なぜ管理処分権が訴訟担当の根拠となるかについて︑権利主体の権利につき訴訟追行をした結
これを処分するのと同様の結果となることを理由とされている︒
とによって︑債権者代位権制度︑株主代表訴訟制度における訴訟担当者が敗訴判決を受けた場合に︑
が拘束されるという結果の説明がなされた︒逆から言えば︑現在と異なり︑訴訟担当者の受けた判決の既判力が権利
主体に拡張されることが疑われていなかった当時において︑
追行が認められているのであれば︑
そこには管理処分権が存在するという考え方が採られていたわけである︒
兼子理論およびそれ以前のわが国の当事者適格理論が︑
その当時までのドイツ理論に少なからぬ影響を受けている ことは疑いない︒ドイツ訴訟法学に初めて管理権
( V
e r w a l t u n g s b e f u g n i s )
の概念を採り入れたのは︑
K .
H e l l w i g (一 九
0
三年︶である︒その説くところ︵概念内容︶を最初に確認しておきたい︒H e l l w i
は管理権の内容として次のようにいう︒管理権とは︑質権︑用益権などのように母権から創出される個別的g
な権利ではなく︑それ自体で独立した絶対権であり︑財産権を行使する権利︵権能︶
上の行為︵たとえば︑ある物の使用・経済的な利用など︶
この管理権は個別的権利についても認められるし︑
二︱
五
の総称である︒
一方では︑事実
をする権能を含み︑他方では︑法的行為
( R e c t h s h a n d l u n g ) をなす諸権能ーすなわち︑①実体的にはある権利につき法律行為をなす権能︑②手続的にはある権利につき訴訟追行
をする権能''を含むとされる︒①の内容には︑財産を増加させる行為をする権能︑あるいは特定の権利の譲渡︑負担
の設定︑内容の変更および権利の消滅など︑権利を処分する権能が含まれる︒②は︑訴訟を通じてある権利の追求ま
それが含まれる包括的財産全体についても認められる︒
また
︑
おおよそ訴訟担当者として他人の権利につき提訴︑訴訟
それに権利主体
このように捉えるこ
21--3•4 517 (香法2002)
このように日独両者とも︑管理
︵現
在で
も依
然相
違す
る︶
︒
訴訟追行権の根拠
( Q u e
l l e )
としての管理権においては︑原則として︑処分権の存否が決定的な意味をもつとされる︒
H e
l l
w i
g は︑こうした管理権を採用する理由として︑訴えの提起が訴訟を通じて訴訟物たる権利関係の管理行為を行
( 1 6 )
うことに他ならないから︑第三者の提訴が許されるには管理権を有している必要があるとし︑さらに︑兼子説と同様︑
訴訟担当の効果︵判決効拡張︶へのイムプリケーションを提訴の根拠たる管理権に込めている︒すなわち︑担当者に
よる訴訟が敗訴判決の結果︵とりわけ不当認定判決による敗訴︶となると︑訴訟物たる権利が処分されたのと同じ結 果となるがゆえに︑担当者には原則的に処分権が要求されるという︑その後しばしば用いられることになる論拠が採
( 1 8 )
︵1 9
)
られている︒このような理由から︑
H e
l l
w i
は管理権の内容的中核を処分権とする︒g
しかし一方で︑担当者による訴えが適法となるために処分権が常に必要と考えられているわけではない︒むしろ︑
( 2 0 )
第三者の有する処分権はしばしば制限が付けられているものであることが指摘されている︒ただし︑このことを前提
としたうえでの
H e
l l
w i
g の次なる考察は︑管理権に含まれる処分権が制限されているからといって︑訴訟手続上の諸
行為が制約されることにはならないことを示すことに向けられている︒最も端的な例として︑訴訟係属中に係争物が 譲渡された場合における譲渡人の︑譲受人の権利についての訴訟担当が挙げられており︑管理権にもとづく訴訟追行
( 2 1 )
︵2 2
)
権理論では説明できないとされ︑例外的に管理権なしで許容されるという︒
︵ 三 ︶
日独間での概念のズレー制度の相違ー
︵処分︶権を給付訴訟の当事者適格の基礎に置く︒しかし︑両者の用いる概念内容
が厳密に一致したかについては疑問が向けられる︒管理権ないし管理処分権を用いて説明をこうじた︑当時の日独双 方における実体法上の制度に留意すると︑無視できないほどの相違がみられるからである
たとえば︑債権者代位権制度︑株主代表訴訟制度はドイツには存在せず︑
H e
l l
w i
はこれらの制度を念頭に置いてはいg 二︱六
21-3•4-518 (香法2002)
管 理 処 分 権 に 関 す る 一 考 察 ( 堀 野 )
これらの制度における訴訟担当者の地位を管理処分権として一括されている︒
このような現象がはっきりと出ている例として︑取立訴訟にいう差押債権者の地位が挙げられる︒ドイツでは︑差 押と同時に被差押債権に債権者のための質権が設定されたことになるという柑違があり︑取立訴訟で直接行使される のはこの差押質権であることを主たる理由として︑差押債権者は訴訟担当者ではないとする立場の方が有力である︒
結果として︑債務者の被差押債権につき処分権をもたない差押債権者は︑管理権・処分権への関連付けなしで適法に 取立訴訟を提起しうることになっている︒これはそもそも
H e
l l
w i
g が取立訴訟を管理権で説明せず︑差押債権者の地
位を債権者・債務者間の権利関係に依存しない固有適格と説明したことに由来するといわれる︒これに対し︑兼子博
士は︑これを担当者︵差押債権者︶が管理処分権を持つ場合とされ︑法定訴訟担当とされた︒つまり︑ドイツ
( H e l
l w i g
) は︑管理権を用いて訴訟担当を説明しながらも︑第三者にそれを認める範囲を一部限定していたわけである︒代位訴 訟︑代表訴訟はそもそも存在せず︑取立訴訟には管理権による説明をしていない︒
職務上の当事者をのぞいた︑第三者が他人の権利関係につき提訴しうる場合全般につき︑管理処分権を用いて説明し
この概念の射程に関しかなりの相違がみられ︑どうしてもここに曖昧さが残ることになる︒とりわ け︑既判力拡張や訴訟上の和解の効力等︑訴訟担当の効果が論じられる場面でこの点からくる問題がのちに露呈する
この点でさらにいえば︑ドイツ法は︑訴訟担当の効果についてわが国民訴法一
二項︑大正改正により明文化︶
にあたる規定を有していない︒それゆえ︑訴訟担当における被担当者への既判力拡張 は少なくとも条文上は必然的ではない︒ドイツ法
( H
e l
l w
i g
に限定されない一般的傾向を指す︶が例外的にせよ︑効果
の点を考慮から外して訴訟担当論を展開することが可能であったのに対し︑ ことになっている︒ た︒したがって︑
︑
qO
なし一方で︑兼子博士は︑
わが国︵兼子理論︶
二︱七 では︑結果︵効果︶ 一五条一項二号︵旧民訴法︱
1 0
一 条
一 方
︑ わが国の多数説は︑代理と
21~;3.4~519 (香法 2002)
③
判決効の正当化原理として用いられる場合であり︑争われる権利関係の管理処分権を担当者が有するがゆえに︑ するがゆえに提訴が許される︑
とさ
れる
︒
②提訴許容の説明原理として用いられる場面であり︑
一般的に︑担当者は他人の権利関係につき管理処分権を有
①
を脱みながら訴訟担当の説明をしなければならなかったのであり︑
れていたことも否定できない︒
右の状態で定着した管理処分権が現在のわが国でどのように用いられているかを確認しておきたい︒
管理処分権の中身としてより重要であるのは処分権能であるが︑担当者に実体法上の処分権がある場合のみが管理
処分権にもとづく訴訟担当であると解されているわけではない︒債権者代位訴訟や株主代表訴訟でみられるように︑
管理処分権が認められるとされる場合であっても︑
るのであって︑管理処分権は他人の財産・権利関係に干渉ないし介入しうる何らかの権能を示す広い意味で用いられ
( 2 8 )
てい
る︒
つまり︑担当者の権能を表していることに相違ないにしても︑
こうした意味合いで用いられる管理処分権は︑現在の訴訟法学においては主として以下のような手続上の場
担当者︵第三者︶ 面で発現しているといえよう︒
( 2 )
位の一般的説明に用いられている︒
( 1
)
2
現在の訴訟法学での用いられ方
そのための説明の道具として管理処分権が用いら それには実体法上の処分権を含む場合もあれば含まない場合もあ
具体的な権能を指すのではなく︑担当者の地 が有する実体法上の権能の表現であり︑実体法学ではあまり用いられないにせよ︑訴訟の場
面に限らず担当者たりうる者が実体的な権限を行使する場合に用いられる︒ 二︱八
21~3.4~520 (香法2002)
管 理 処 分 権 に 関 す る 一 考 察 ( 堀 野 )
︵ 一 ︶
管理
︵処分︶権批判 容を確認しておきたい︒
管理処分権概念はおおよそ右のように用いられているが︑周知のようにその後の学説理論には︑この概念を前提と するものばかりではなく︑有力な批判を向けるものもみられる︒これらによる管理処分権論批判と本稿の問題意識と は必ずしも合致するものではないが︑管理処分権の内容・役割をはっきりさせないまま訴訟担当の根拠に用いること
に対して警戒しなければならないとする点は共通である︒ここで︑
幅永有利教授は︑固有適格説を主張される前作業として︑管理処分権を次のように批判される︒
①まず︑管理処分権の対象が明らかでない︒管理処分権が︑財産全体についてのものであるか︑あるいは財産に属 3
管理処分権に対する批判 その者による訴訟追行の結果に権利主体は服することになる︑と説明される︒
株主代表訴訟をめぐり顕在化した点であるが︑和解など訴訟追行の内容に関する担当者の手続上の権能を根拠 付ける際に用いられる︒管理処分権のうち処分権まで有していれば︑権利主体を拘束する和解も許される︑
もっとも︑以後の論述で繰返し指摘することになるが︑管理処分権の具体的内容は各訴訟担当のケースごとに区々
であることも言われており︑ れているように見受けられる︒ ④
二 ︱ 九
これまで管理処分権論に対してなされた批判の内
とさ たとえば︑債権者代位訴訟では︑担当者たる債権者のもつ管理処分権には︑実体法上の
処分権までは含まれていないこともあって︑③の場面においては︑現在のところ管理処分権のみで債務者への判決効 拡張が正当化されているわけではない︒この点を含めた考察は︑後述四︑五において行いたい︒
21‑3・4 521 (香法 2002)
ニ ニ
〇
する個々の権利についてのものであるかも不明確である︒③次いで︑権利主体が管理処分権を剥奪されるのではない
場合を典型としてー破産管財人による訴訟等の場合を別にしてー︑誰に訴訟物たる権利の管理処分権が帰属するのか
が明確でない場合がある︒
人のいずれにも属さないことになるのではないか︒
る場
合︑
たとえば︑条件付で譲渡された権利が条件未成就である場合︑管理処分権は譲渡人︑譲受
また︑環境権など未だ確立していない生成中の権利関係が争われ
それにつき管理処分権を有する主体は誰かがはっきりしない︒③第三に︑管理処分権を基準としたのでは︑
訴訟上︑代理と訴訟担当の区別をなしえず︑
( 3 2 )
をもって批判される︒
むしろ両者の共通性を前提としなければならなくなる︑などといった点 ドイツ法における管理権批判
( 3 3 )
ドイツにおいては
W .
H e
n c
k e
l が ︑
H e
l l
w i
g の管理権論を以下の点で批判する︒①
H e
l l
w i
g のいう管理権には
︵不
可分
債権
( B G B
四三二条︶︑共同所有関係
( B G B
1 0 1
処分権が含まれない場合もある
( 3 4 )
( B G B
二
0
三九条︶など複数人によって権利関係が共同される場合の一部の者による訴えなど︶︒訴訟担当者が請求棄却判決を受けた場合︑訴訟物たる他人の権利が担当者により処分されたのと同一の結果になるが︑これの説明が管
理権ではできない︒③
H e
l l
w i
g が管理権を導くために視野に入れた諸制度は︑必ずしも網羅的でなく︑重要な意義をも
つ制度のいくつかが管理権の例外とされている︒例えば︑訴訟係属後の係争物の譲渡人による譲受人のための訴訟担
当
( N P o
二六
五条
︶ などが視野に入れられていない︒これらの制度まで視野に入れた場合︑統一的な説明原理とし
ての管理権は維持できない︒③管理権は︑被告側における第三者の訴訟追行権の基準として機能しえない︒
右を踏まえて
H e
n c
k e
l は︑訴訟追行権の根拠となる実体法上の権能として︑より厳密に第三者に訴訟物たる権利関
係︵より正確には︑係争物たる権利の属する財産︑利益財産
I n
t e
r e
s s
e v
e r
m o
g e
n )
についての処分権を要求する︒そし
( 1 )
︵ 二 ︶
一条︶︑共同相続関係
21-3•4 522 (香法2002)
管 理 処 分 権 に 関 す る 一 考 察 ( 堀 野 )
て︑そこから導き出される第三者の法的利益が訴訟担当の根拠となるという結論に至る︒加えて︑場合によっては︑
第三者︵訴訟担当者︶が争われる権利につき実体法上の処分権を有していなくとも︑当該第三者に訴訟追行を正当化
するに足る法的利益があれば︑
有関
係︑
︵ 三 ︶
それのみで訴訟追行権は基礎づけられるとする︒典型例として︑不可分債権︑共同所 共同相続関係など複数人によって権利関係が共同される場合︑訴訟係属中に係争物が譲渡された場合︑ドイ
( 3 5 )
ツ旧法定財産制のもとで妻の持参財産につき夫が提訴する場合などを挙げる︒
( 3 6 )
比較的近時のドイツにおいては
C .
Be r g e
が︑管理権概念の内容が空虚に過ぎる点r
( l e e r f o r m e
l と
呼ば
れる
︶ を批判する︒すなわち︑訴訟担当者が他人の権利関係につき訴訟をすることのみが可能で︑訴訟以外での処分や取立
具体的事例における担当者の訴訟追行権の基準たりえない︑ といった行為は許されていない場合もありうるが︑こうした場合をも管理権で説明したのではその内容が広がり過ぎ︑
( 3 8 )
とす
る︒
管理権論に対するこれらの諸批判には︑現在ではすでに理論的に克服された点に対するものも含まれている︒
としてその者に訴訟追行が許されるものだと考えるべきであり︑ たとえば︑実体法上の概念である管理権に訴訟上の権能である訴訟追行権が含まれるとする考え方は現在の訴訟法理
( 3 9 )
論では採りえないであろう︒訴訟追行権は実体法上の権能の一部をなすのではなく︑第三者の実体法上の権能を基礎
このように解するのが一般的であり妥当であろう︒
これ以外にも︑提訴ー訴訟追行の結果︑請求棄却判決を受けた場合には︑訴訟物たる権利を処分したのと同一の結果
管理︵処分︶権にもとづく訴訟担当とされる場合でも︑ となるが︑管理権論ではこれを説明できないとする批判も同様であろう︒現在一般に採られている前提からみれば︑
そのなかに処分権が含まれていることは必須ではない︒
( 2 )
~
21~3.4~523 (香法2002)
意識
は︑
次い
で︑
察にあたって︑次の点に注意しておきたい︒
本稿の目的は︑冒頭に示したように︑訴訟担当の根拠を問い直すことにある︒第三者の提訴根拠としての管理処分
( 4 2 )
権を批判する右諸見解には傾聴すべきところも多く︑それぞれの批判の当否も検討されなくてはならないが︑そのた
めの作業としても︑
かなる実体法上の制度にもとづいた訴えの根拠として用いられているかを視野に入れておく必要もあろう︒以下の考 当者の地位が説明されている法制度に少なからぬ鮒齢があるという点である︒異なる制度をほぼ同一の概念で説明す
ま ず
︑
H e
l l
w i
g が管理権による説明を予定したドイツの法制度と︑現在のわが国において管理処分権をもって担
ることによって︑内容的なズレを生じることにならないか︒
一般論として以上のことの自覚が訴訟法学に欠けていたのではないか︑
2
し管理処分権という概念は実体法学よりもむしろ訴訟法学により特に用いられているのが現状である︒
く︑それは訴訟法上のものではなく実体法上のものとして用いられている︒このこともあって︑訴訟法学において︑
その内容的検討はあまりされることはなく︑その概念的不明確さを残したまま定説化してしまっている︒だとすれば︑
その過程で意味内容の変遷を生じていながらそれに気付かないことがあったとしてもさほど不思議なことではない︒
③管理権に対する諸批判が指摘するように︑管理権ないし管理処分権といった概念は不明確であり︑その内容を
明らかにしないまま用いることには問題が多い︒管理権批判の目的は論者によってさまざまであるが︑
︱つ
には
︑
H e
n c
k e
l が
H e
l l
w i
の管理権を批判的に検討することによって処分権を抽出した作業にみられるg
ように︑処分権を中心とした議論に向かわせる︒しかしこれまでの議論は︑担当者に処分権まで認められない場合に︑ 4
4
ヽ括
いうまでもな
~
︱‑︳以後の考察でいま少し概念内容および機能を詰めておきたい︒この絡みでは︑管理処分権がい
という点である︒管理権ない
こうした問題
21‑3・4 524 (香法 2002)
管 理 処 分 権 に 関 す る 一 考 察 ( 堀 野 )
(6
作業はほとんどされておらず︑加えて︑ れまでの議論では︑管理処分権に過大な役割が担わされてはしないか︑肥大化してはいないか︒
そしてそのことが︑概念の不明確さを増大させることになっていないだろうか︒
念があるにもかかわらず︑訴訟法学においては
H e
l l
w i
g をのぞいて︑管理︵処分︶権の内容を明らかにしようとする
右図に示唆したとおり︑実体法学との関連付けも欠いていた︒そこで︑右切 を補完する意味でも︑次三で手がかりを実体法学に求めてみたい︒管理処分権が実体法上の権能であるとされている
のなら︑それに関する実体法学の議論が参考になるであろう︒
法学協会雑誌五八巻七号︑八号︒その後︑兼子・民事法研究ー︵酒井書店︑一几五
0 )
一頁
所収
︒
(7 i)
兼子博士のそれ以前の著作では︑単に﹁管理権﹂という語が用いられている︒たとえば︑昭和六年(‑九三一︶に刊行された﹁訴
訟承継論﹂︵兼子・民事法研究I一頁︶では︑承継前後の当事者の地位に関し管理権という表現がとられている︒
( 8
)
もっとも︑兼子体系より前の学説においても︑管理権を当事者適格の説明の用いるものは多数見られた︒福永・再構成三八頁注
( 1 )
掲記の諸文献を参照︒
( 9
)
兼子﹁労働組合の訴訟当事者適格﹂︵初出︑一九五︱︱)民事法研究
I l
︵酒井書店︑一九五四︶︱
1 0
五頁以下所収︑ニ︱一頁︑同・
実体法と訴訟法︵有斐閣︑一九五七︶九六頁︒
( 1 0 )
ただし︑後掲の
He ll wi Vg の教科書では︑
er fu gu ng sr ec ht という表現がとられている︒このコンテクストのなかで
r e c h t (
権利
︶
という表現が用いられる場合︑通常の意味で用いられる﹁権利﹂と同じ意味ではないことについては︑於保・後掲注
( 4 3 )
﹁財
産管
理
担当者の地位・権能を表す管理処分権は包括的概念であり︑ こちらの方の検討も必要なのではないだろうか︒機に乏しかったが︑ 担当者の提訴をどう正当化するかに向けられている︒
~
こうした懸またそうした役割を果たすために概念内容が
ある程度の抽象性を帯びるものではある︒しかし︑こ
それゆえ︑担当者に処分権がある場合については議論される契
21~3.4~525 (香法2002)
( 2 1 ) ( 2 2 )
( 2 0 )
( 1 9 )
( 1 8 )
( 1 7 )
( 1 6 )
( 1 5 )
( 1 4 )
( 1 3 )
( 1 2 )
( 1 1 )
K. Hel lw ig , Le hr bu ch de s d eu ts ch en Z i v i l p r o z e B r e c h t s ,
Bd
. 1
( 1 9 0 3 ) , S . 3 1 6 . He ll wi g の管理権概念がどのようにして彼の訴訟法理論に採り入れられたかー何を根拠に管理権概念がとり入れられたかーにつ
あまり定かではない︒その著書を参照するかぎりでは︑ドイツ破産法
(K on ku rs or dn un g, K. 0 . )
六条︵の表現︶が拠りどこ
ろの
一
つとなっていることが明白である︒
He ll wi g, Le hr bu ch , S . 3 1 7 .
ドイツ破産法は︑一八九八年に制定されている︒その規定を訳出しておく︒
ドイツ破産法六条一項破産者は︑手続の開始により︑破産財団に属する財産を管理し処分する権能を失う 二項管理および処分権は破産管財人が行使する
訳出には︑斎藤常三郎・現代外国法典叢書︹独逸民事訴訟法>破産法︺︵有斐閣︑一九三八︶を参考にした︒
なお
︑ K. O.
六条は︑基本的に︑ドイツ新倒産法
(I ns ol ve nz or dn un g,
I n s O . ) 八
0
条一項に引継がれている︒He ll wi g, L eh rb uc h, B d. 1 , S . 3 17
; d e r s , S ys te m d es de ut sc he n Z i v i l p r o z e B r e c h t s ,
T e i l
I ( 1
9 1 2 ) , 福永有利﹁民事訴訟における﹃正当な当事者﹄に関する研究
一般に︑法律行為よりやや広い概念として用いられる︒
He ll wi g, S ys te m, T ei
二
S . 1 6 2 .
ただし︑両知のとおり︑ H
el lw ig , Le hr bu ch , Bd . 1 ,
§ 4 8 ; d e r s , S ys te m, T e i
! I
§7 0.
兼子博士の既判力︵本質︶論に立てば不当認定判決は存在しえないので︑
たとえば本文中後述するように︑
He ll wi g, L eh rb uc h, B d. 1 , S . 3 1 7 f . He ll wi g, S ys te m, T e i l I , S . 1 6 2 .
関連条文を訳出しておく︒ He
ll wi g, S ys te m, T e i l I . S . 1 62
違することになろう︒ この点は
He ll wi
gの説明とは相 ︵三︶﹂関西大学法学論集一七巻五号三五頁以下参照︒
>
よ
︑
してー
21-3•4-526
権論序説﹂六
0
頁参
照︒
があるわけではない︒
つま
り︑
be fu gn is 権 能 と r e c h t 権
利︑
ニ ニ 四
さらには権限
be re ch ti gu ng
のこの文脈における使い分けに殊更含意
担当者に処分権のない取立訴訟は訴訟担当と解されていない︒
S . 1 6 2 .
(香法2002)
管理処分権に関する一考察(堀野)
( 2 3 )
訴訟係属は︑当事者の一方または他方が係争中の物を譲渡し︑または主張された請求権を移転する権
NPo
第二六五条一項
利を妨げない︒
二項︹係争物の︺譲渡または︹請求権の︺移転は︑訴訟に影響を及ぽさない︒承継人は︑相手方の同意がある場合をの ぞき︑前権利者に代わりじたる当事者として高訟を引受け︑または主参加する権利を有しない︒承継人が哺助参加人に
なるときには︑第六九条は適用されない︒
三項原告が︹係争物︺の譲渡または︹請求権の︺移転をしたときには︑第三︱一五条により判決が承継人に対して効力を 及ぽさないかぎり︑被告は︑原告に対し諮求を主張すべき権利を有しないという抗弁を対抗できる︒
NPo 第三二五条一項確定判決は︑当事者および訴訟係属後に当事者の権利承継人となった者または係争中の物について︑
当事者の一方もしくはその権利承継人が間接占有者となるような占有を取得した者のために︑およびこれらの者に対
して︑その効力を生じる︒
訳出には︑三ヶ月章編集代表・各国民事訴訟法参照条文︵信山社︑一九九五︶を参照した︒
訴訟係属中の係争物の譲渡に関する規律︑およびその場合の譲渡人︑譲受人の手続上の地位をめぐるドイツ法の状況については︑
日比野泰久﹁係争物の譲渡に関する一考察︵一︶
s (
三︶﹂名古屋大学法政論集一0
五号九三頁︑一︱四号一〇六頁︑一︱五号︱︱1 0
五
頁︵一九八七︶を参照︒
S t
e i
n /
J o
n a
s /
B o
r k
,
Ko
mm
en
ta
r z
u r
i Z
v i
l p
r o
z e
B o
r d
n u
n g
,
2 1 A
u f l .
B ,
d .
1 §
4 3
a .
ま
た︑
中野・前掲注
( 4
) 民事執行法六︱
1 0
頁注
( 4 ) を
参照
︒ ( 2 4 ) 取立訴訟の性質︑およびそこにおける差押債権者の地位をめぐるドイツの判例学説については︑上原敏夫﹁取立訴訟の判決の債務 者に対する効カードイツ及びわが国の学説史を中心としてー﹂︵初出︑一九八二︶同・債権執行手続の研究︵有斐閣︑一九九四︶一
0
七︑一︱六頁を参照︒( 2 5 )
法学教室二五七号八頁︹高橋宏志発言︺を参照︒
( 2 6 ) たとえば︑権利関係︑義務関係を共同する者のうち一人がする訴えは︑他の者との関係では訴訟担当と解されながらも︑他の者へ
の判決効拡張は論理必然とはされていない︒
このあたりのドイツ法の状況については︑高橋宏志﹁必要的共同訴訟論の試み﹂法学協会雑誌九二巻六号六二五頁(‑九七五︶以
ニ ニ 五
21 3•4-527 (香法2002)
下を
参照
︒ ( 2 7 )
こうしたドイツ法との比較からは︑わが国の訴訟担当の定義としては︑被担当者への判決効拡張を含めるのが素直であろうし︑そ
のように解するのが一般的である︒
ただし︑高田︵裕︶・民商五六九頁では︑少なくとも現在のところ︑訴訟担当の定義に判決効拡張を含めることを留保されている︒
( 2 8 )
ここには︑敗訴判決の結果を処分と同視しこれを担当者の地位の説明に包含させたことが関係しているだろうし︑さらに兼子博士
が訴訟担当者の例としてまっ先に挙げられた︑破産管財人の権能を規定した条文の文言表現も少なくとも間接的には影響している
と考えられる︒すなわち︑破産法七条﹁破産財団ノ管理及処分ヲ為ス権利ハ破産管財人二専属ス﹂という文言である︒兼子博士が︑
破産財団の主体性を扱った論稿︵﹁破産財団の主体性﹂前掲注
( 6
) )
以降︑﹁管理処分権﹂の語を用いるようになったことからも︑当
条文の表現を参考とされていることが窺われる︒
( 2 9 )
代表訴訟における和解に関する文献は多数にのぽる︒
網羅的に挙げるわけにはいかないが︑高橋宏志﹁株主代表訴訟と訴訟上の和解ー民事訴訟法学の観点からー﹂商事法務一三六八号
七四頁︵一九九四︶︑前田雅弘﹁株主代表訴訟と和解﹂法学論叢一三四巻五・六号(‑九九四︶二四七頁︑新谷勝﹁株主代表訴訟と
訴訟上の和解﹂判夕八八一二号四
0
頁(‑九九五︶︑池田辰夫・前掲注( 2 ) 二 三
0
頁︑高田︵裕︶・民商五七九頁以下︑中島雅弘﹁民事手続法の観点からみた株主代表訴訟﹂ジュリスト︱︱九一号九頁︵二
0
0 0 )
など
参照
︒ ( 3 0 )
新堂幸司・新民事訴訟法二五五頁︑池田辰夫・債権者代位訴訟の構造︵信山社︑一九九五︶︒
( 3 1 )
福永・再構成三七頁以下︒また︑高橋・重点講義ニ︱五頁も参照︒
命
︶ 同 様 に
︑ 中 野
・ 論 点
I九六頁以下も︑以下の理由を挙げ管理処分権論を批判する︒
①訴訟追行権は管理権たる実体法上の権能の一内容ではなく︑管理に服する権利関係につき訴訟をすることが実体法上是認され
るにとどまる︒それゆえ︑
He
ll
wi
gの管理権のように︑訴訟追行権という訴訟法上の概念を︑実体法上の権能の一内容とみること
はで
きな
い︒
②管理の対象および管理の主体が不明確である︒環境権訴訟のように︑訴訟物たる権利関係が果たして実体法上是認されているか
未定である場合や︑債務不存在確認訴訟のように︑存在しない権利義務関係が訴訟物となる場合がある︒また︑停止条件付譲渡の
なされた権利につき条件成就が未だ定まらない場合など︑誰に管理権が帰属するか判明しない場合もある︒
ニ ニ 六
21-3•4-528 (香法2002)
管 理 処 分 権 に 関 す る 一 考 察 ( 堀 野 )
︐
(3
( 3 4 )
[3
ノ
/ 3
j ③訴訟の結果︑敗訴したことが権利を処分したのと同一の結果となるとするのは︑訴訟法と︑市後的な仔否の判断および追認の可
能性のある実体法の相違を踏まえたものではない︒処分と同一の結果となるかどうかは︑判決の確定をまたなければならないが︑
当事者滴格は本案判決の前に判定されなければならない︒
W .
He nc ke l, P a r t e i l e h r e un d S tr ei tg eg en st an d
(1 96 1) ,
S
37 ff , 41 ff , lO Sf f.
関連条文を訳出しておく︒訳出にあたっては︑外国法典叢書︹独逸民法
I I ︑
I I I
︑
I V ︺︵有斐閣︑一九三八\一九四
O )
を参照した︒
BGB 第四三二条一項数人が不可分給付を請求する場合において︑それらが連帯債権者でないときは︑債務者は︑全員に対 して共同でのみ給付することができ︑各債権者は全員に対する給付のみを請求することができる︒各債権者は︑債務者 が目的物を債権者全員のために供託することを︑または︑それが供託に適さないときには︑裁判所の選任した保管者 (V er wa hr er ) に引渡すことを請求することができる︒
BGB
第一
0 1
︱ 条 各 共 有 者 は
︑ 所 有 権 に も と づ く 請 求 権 を 第 二 者 に 対 し て 共 有 物 全 部 に つ い て 主 張 で き る
︒ た だ し
︑ 引
渡請求権については四三二条によってのみ主張できる︒
BGB第二
0
三 九 条 請 求 権 が 遺 産 に 属 す る と き は
︑ 義 務 者 は 相 続 人 全 員 に 対 し 共 同 で の み 給 付 を な し か つ 共 同 相 続 人 は 相続人全員に対してのみ給付を請求することができる︒各共同相続人は︑義務者に対して︑目的物を柑続人全員のため に供託することを︑またはそれが供託に適さないときには︑裁判所の選任した保管者に引渡すことを請求することがで
きる
︒
C .
B e r g e r . a . a .
0
••
S .
95 .
( 3 5 )
この場合︑判決効の拡張は必然的でない︒そのため︑被告は一一重に応訴する負担を負う危険があるが︑
担当者の有する利益の強さが被告の利益に優先するとされるのである︒
( 3 6 )
C .
B e r g e r , Di e su b j
e k t i v e n G re nz en de r R ec ht sk ra ft be i d er r P oz eB st an ds ca ft (
19 92 ),
S .
9 3f f.
( 3 7 ) ( 3 8 )
﹁ワンクッショ
なお Be rg er
は︑同時に
He nc ke lの用いる︑訴訟追行の一利益﹂とそれが導き出される﹁処分権﹂という判断基準も批判している
が︑これについては︑後述四参照︒
実体法上の権能に訴訟追行権能が含まれるのではなく︑かかる実体法上の権能が認められることに相応して︑訴訟追行権も認めら
れることになる︒高橋・重点講義︱︱︱五頁はこのような管理権概念の役割を﹁中間概念︐一と表現し︑中野・論点ーは
前注 ( 2 6 )
で示したとおり︑
ニ ニ 七
21--3-4~529 (香法2002)