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RIETI Discussion Paper Series 13-J-047
2013 年 6 月
サードセクター組織の経営実態と
セクター構築への課題
―分断による多様性から横断的多様性へ―
後 房雄(経済産業研究所)
要 旨
第1回のサードセクター調査(2010 年)に続く第2回調査(2012 年)の結
果を紹介、分析することによって、日本において政府行政セクター、市場セク
ターと並ぶサードセクターを構築するための現状の実態と課題を検討する。特
に注目されるのは、2008 年から制度が施行された一般社団法人、一般財団法
人の急増である。しかも、これらの一般法人のなかではあえて「非営利型」を
選ぶ団体が大半となっている。
1998 年以降の特定非営利活動法人に続いて同じく主務官庁制から脱却した
一般法人の急増は、日本の非営利セクター全体の分断構造を解体していく潜在
的可能性を秘めているものとして注目に値する。それだけに、一般法人に関す
る制度の不備の是正、公的、および民間の支援体制の整備が急務である。
本稿の後半では、筑波大学の研究グループによる社会集団などの広範な調査
(2006 年)の結果をも参照しつつ、日本におけるサードセクターの「旧構造」
が根本的な変化の兆しを見せていることを指摘する。
キーワード: サードセクター、NPO、非営利セクター、一般法人、公益法
人、協同組合、地縁組織、主務官庁制
RIETI ディスカッション・ペーパーは、専門論文の形式でまとめられた研究成果を公開し、活発な議論
を喚起することを目的としています。論文に述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであ
り、(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
本稿は、後房雄が独立行政法人経済産業研究所ファカルティ・フェローとして、2011 年 6 月から開始した研究プロジェ
クトの成果の一部である。本稿を作成するに当たっては、研究会メンバーである太田達男(公益財団法人公益法人協会
理事長)、田島誠一(財団法人日本老人福祉財団理事長、日本社会事業大学教授)、辻中豊(筑波大学大学院人文社会科
学研究科教授)、山本英弘(山形大学准教授)、高橋睦春((財)経済産業調査会理事・経済統計情報センター所長)、藤岡
喜美子(公益社団法人日本サードセクター経営者協会執行理事・事務局長)、栗本昭(公益財団法人生協総合研究所理事・
主任研究員)、初谷勇(大阪商業大学総合経営学部教授)、喜多見富太郎(大阪府庁政策企画部企画室・統括参事、RIETI・
CF)の諸氏から多くの有益なコメントを頂いた。
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それゆえ、
1998 年に主務官庁制から脱却した形で創設された特定非営利活動
法人や、
2006 年の公益法人制度改革で主務官庁制から脱却した社団法人、財団
法人が、団体数において非営利法人の第一位と第二位を占めるようになること
が確実だとしても、それだけで従来の日本の非営利セクターの分断的な「旧構
造」が変わるということはできない。
とはいえ、主務官庁制から脱却した法人格、とりわけ小規模で弱体な特定非
営利活動法人に比べて財政規模や組織的力量が大きい社団法人、財団法人がそ
の団体数を加速度的に増加させていくとすれば、非営利セクター全体を代表す
る法人形態としての存在感を強めていくことは確実だと思われる。そのなかで、
原理的には分立させ続ける根拠のない医療法人、社会福祉法人、学校法人など
を社団法人、財団法人へと制度的に合流させるべきだという主張も説得力を高
めていくであろう。
図表
B 法人数の推移見通し
もちろん、そうした制度論だけで統一的非営利法人制度が実現するわけでは
なく、前回の報告書で指摘したように、むしろそれに先行して、公共サービス
の分野ごとの参入規制(特定法人格による事業独占)を撤廃することがより有
効であり、現実的であろう。
ともあれ、
2006 年の公益法人制度改革が予想をはるかに超えて主務官庁制を
30000
35000
40000
45000
50000
55000
60000
「みなし解散」による減少
医療法人
特定非営利活動法人
社団法人・財団法人
法人数