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巻頭言 歴史の深層を耕す

著者 稲田 敦子

雑誌名 聖学院大学総合研究所Newsletter

Vol.21

No.3

ページ 1‑1

発行年 2014‑03

URL http://id.nii.ac.jp/1477/00003024/

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Title

巻頭言 歴史の深層を耕す

Author(s)

稲田, 敦子

Citation

聖学院大学総合研究所 Newsletter, Vol.21-No.3 : 1-1

URL

http://serve.seigakuin-univ.ac.jp/reps/modules/xoonips/detail.php?item_i d=3534

Rights

聖学院学術情報発信システム : SERVE

SEigakuin Repository for academic archiVE

(3)

巻頭言

歴史の深層を耕す

 歴史の女神クリオは、ギリシャ神話の女神たちの中で一番はずかしがりやであり、自らの顔のすべてをめったに出すこ とはしない。この歴史の女神を主題とした名著のE.ハーバード・ノーマンによる『クリオの顔―歴史随想集』が出版されて、

今年で半世紀余の55年となる。

 「クリオは大変内気で謙遜な娘でありながら、きわめて仕えにくい主人でもある。しかも彼女は気どり屋である。彼女は、

煽動的な新聞やデマゴーグがまきちらす劣悪な通貨である常套語や符牒に理解力を曇らされないきわめて平凡な市民 にも、また人間の作った制度はいずれ普遍なものでなく社会全般および他の制度にとって相対的なものであっても、たえ まない歴史の大きな運動そのものの一部として、微妙に変化し変質するものであると見ることを学んだ学徒にも、ひとしく

彼女の愛らしく物思わしげな顔を現わすであろう。」(ハーバード・ノーマン『クリオの顔』全集Ⅳ p.188)

 ハーバード・ノーマンによる『クリオの顔』の衝撃は、非常に大きいものであった。それは、ノーマンの悲劇的な死によって、

より深く心に刻まれたことによるかもしれない。本著の副題が歴史随想集となっていることからも明らかなように、序文にある

「クリオの苑に立って」をはじめとして、今日に至るまで大きな課題となっている「説得か暴力かー現代社会における自由 な言論の問題」、そして原題が「クリオの謙遜について」となっていた「クリオの顔」、「『ええじゃないか』考―封建日本と ヨーロッパの舞踏病」などそれぞれの主題のもとに、歴史への洞察が深められている。

 クリオは、歴史を内的に深く耕すこと、すなわち歴史の表層では捉えられない部分を掘り下げることを求めるがゆえに、

他の女神たちのうちで、彼女の信奉者にもっとも重い要求を課したように思われる。ノーマンの主著である『忘れられた 思想家―安藤昌益のこと―』では、昌益の『刊本・自然真営道』、『稿本・自然真営道』および『統道真伝』を読み込み、

その深層をさぐることによって、クリオによる厳しい要求への最大限の応答を果たしたといえよう。安藤昌益は、幕藩体制 下の東北地方の自然災害による飢饉などの危機状況という厳しい現実に対し、その矛盾を身をもって受けとめ、直接生 産にたずさわることを「直耕」という形で提起し、現実の「法世」に対置する「自然世」を位置づけた。そこでは「自然」を 危機状態に陥らせた状況に対する強い危機意識が基盤となっているとともに、医師であった昌益による人間の根源的 なあり方が問われている。自然の「妙序」を知らず「自然ノ気行ニ違ルコト」を改めないままの現状に対して、より深く人々 の生き方の問題として考えぬくところに昌益の「自然世」が成立した。ノーマンによる昌益研究は、まさに「歴史の女神クリ オの社に真の尊崇をささげた」あり方であり、歴史の深層を耕すクリオの課題を想起させてくれるのである。

聖学院大学人文学部長 稲 田 敦 子

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