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剰余金概念の再検討

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(1)

剰余金概念の再検討

辺 和

§12つ の剰 余金概 念

§2剰 余 金概 念 の導入

§3「 企 業会 計原 則」 上 の剰 余 金概念

§3‑1昭 和38年 前 半 までの剰 余金 概 念

§3‑2昭 和38年 後 半以 降の剰 余金 概念

§4商 法 上 の剰余 金概 念

§5剰 余 金概 念 の純化

§12つ の 剰 余金 概 念

わ が 国 に は2つ の剰 余 金 概 念 が あ り,混 乱 を引 き起 こ して い る 。

ひ とつ は 「企 業 会 計 原 則 」に お け る剰 余 金 概 念 で あ り,注 解 の 注19に お い て 「会 社 の 純 資 産 額 が 法 定 資 本 の 額 を こ え る部 分 」 と規 定 さ れ て い る。 す な わ ち,こ の 第1の 意 味 にお け る剰 余 金 は,自 己資 本 の う ち資 本 金 を除 い た 部 分 に相 当 す る 。 こ れ は 会 計 研 究 者 の 間 で 一 般 に用 い られ て い る剰 余 金概 念 で あ る。

も う ひ とつ は 「株 式 会 社 の貸 借 対 照 表,損 益 計 算 書,営 業 報 告 書 及 び附 属 明 細 書 に 関 す る 規 則 」(以 下,計 算 書 類 規 則 と略 称 す る)に お け る剰 余 金 概 念 で あ る。 計 算 書 類 規 則 は商 法 第281条 第1項 の 貸 借 対 照 表,損 益 計 算 書,営 業 報 告 書 お よ び 附 属 明細 書 の 記 載 方 法 な らび に 公 告 す べ き貸 借 対 照 表 お よび 損 益 計 算 書 の 要 旨 の 記 載 方 法 を 定 め た も の で あ る。 同 規 則 の 第34条 に よ れ ば,「 資 本 の 部 は,資 本 金,法 定 準 備 金 及 び 剰 余 金 の 各 部 に 区分 し な け れ ば な ら な い」 と

〔43〕

(2)

規 定 され て い る 。 したが っ て,第2の 意 味 に お け る剰 余 金 は,自 己 資 本 の う ち 資 本 金 と法 定 準 備 金 を 除 い た 部 分 に 該 当 す る。 商 法 に も とつ い て 作 成 され る貸 借 対 照 表 に は こ の 剰 余 金 概 念 が 適 用 され る。

前 者 は会 計 学 上 の剰 余 金,後 者 は商 法 上 の 剰 余 金 と い わ れ る こ と もあ る1)。

剰 余 金 とい う ひ とつ の 用 語 が2つ の異 な る意 味 を もつ こ と は適 切 で な い。 そ れ は混 乱 を ま ね く も と に な る 。 ひ とつ の用 語 に は ひ とつ の 意 味 を 割 り当 て るべ き で あ る 。 なぜ こ の よ う な状 況 が 生 ま れ た の で あ ろ うか 。 そ の解 決 方 法 は な い の で あ ろ うか 。2つ の 剰 余 金 概 念 は そ れ ぞ れ 登 場 した 時代 背 景 を異 に して い る。

第1の 意 味 の剰 余 金概 念 が 導 入 され て か ら,第2の 意 味 の 剰 余 金概 念 が 現 わ れ る ま で に,十 数 年 の 隔 た りが あ る 。本 稿 で は,そ う した 事 情 を まず 明 らか に し, そ の うえ で 解 決 策 を 検 討 した い と考 え る 。 そ の た め に は 剰 余 金 概 念 の 歴 史 的 変 遷 を た ど る こ とが 必 要 とい え よ う。

§2剰 余 金 概 念 の導 入

剰 余 金 概 念 は 当初 ア メ リカ で用 い られ,第 二 次 大 戦 後 に わが 国 に 導 入 され た とい っ て よい で あ ろ う。 そ こ で まず 最 初 に,ア メ リカ に お け る歴 史 的 経 緯 に つ い て 少 しふ れ て お く必 要 が あ る と思 わ れ る 。

コ ー ラー 会 計 学 辞 典 』 の 第6版 は 「剰 余 金 」 をつ ぎの よ う に 定 義 す る2)。

1.=利 益 剰 余 金 。

2.株 式 の額 面 また は表 示価 額 を超 え る株 式 会 社 の株 主持 分:払 込 剰 余 金, 利 益 剰 余 金 お よび 評価 替剰 余 金 を含 む一 般 的 名称 。 貸 借 対 照 表 で 用 い るに

はそ の 性 質 を示 す 限定 形 容 詞 が必 要 で あ る。

こ こ に は2つ の意 味 が 示 さ れ て い る。 ひ とつ は利 益 剰 余 金 に 限 定 され た狭 い 意 味 で あ り,も う ひ とつ は払 込剰 余 金,利 益 剰 余 金 お よび 評 価 替 剰 余 金 を含 む

1)飯 野 利 夫 著 『財 務 会 計 論(三 訂 版)』 同 文 舘,平 成5年,10‑18ペ ー ジ 。 2)W.W.CooperandY.Ijiri,ed.,Kohler'sDictionaryforAccountants,6thEdition,

Prentice‑Hall,1983,p.494.

(3)

剰 余 金概念 の再 検討 45 広 い 意 味 で あ る 。

また,『会 計 史 国 際 百 科 事 典 』の 項 目 リス トに は 「剰 余 金 」が 見 当 た らな い 。「 益 剰 余 金 」 は あ る も の の,「 留 保 利 益(RetainedEarnings)」 を参 照 す る こ と

とな って い る 。 そ の 「留 保 利 益 」 の 説 明 か ら要 点 を抜 粋 す る とつ ぎの よ う に な る3)。

留 保 利 益 」 は,ア メ リ カ公 認 会 計 士 協 会(AICPA)の 前 身 で あ る ア メ リ カ会 計 士 協 会(AIA)に よ り1949年 に認 め られ る 用 語 か ら除外 さ れ た 「利 益 剰 余 金 」 の代 替 語 で あ る 。 しか し,「 利 益 剰 余 金 」 の 用 語 は ほ ぼ1960年 代 中 頃 ま で 貸 借 対 照 表 で 用 い られ て い た 。

剰 余 金 」 お よ び 「利 益 剰 余 金 」 の 用 語 は,1880年 代 後 半 の トラ ス ト時 代 か ら1900年 代 の初 め にか け て 一 般 化 した 工 業 会 社 に よ っ て用 い られ た。 鉄 道 業 は こ れ ら の用 語 を用 い な か っ た 。低 い 額 面 の 普 通 株 式 は 工 業 会 社 に剰 余 金 を 発 生 させ る こ と に な り,な か に は 「額 面 超 過 額 」 を 過 去 の 利 益 か ら配 当金 を 差 し引 い た残 高 と一 緒 に す る会 社 もあ っ た よ うで あ る 。

資 本 剰 余 金 と利 益 剰 余 金 の 混 同 は,会 計 専 門 家 に よ っ て望 ま し くな い と見 な さ れ た に もか か わ らず,「 剰 余 金 」 と い う一 般 的 名 称 の も とで 一 部 の 会 社 に よ り1920年 代 の あ い だ 存 続 した 。1922年 にAIAの 会 計 用 語 特 別 委 員 会 が 報 告 書 を 出 した が,効 果 は な か っ た 。

1929年 に も利 益 剰 余 金 の 定 義 に 関 す るAIA特 別 委 員 会 か ら報 告 書 が 出 され た。 そ し て,貸 借 対 照 表 で 無 限 定 の 「剰 余 金 」 お よ び 「資 本 剰 余 金 」 を使 用 す る こ とは,不 適 切 で あ る と して 排 斥 され た 。

1938年 に は 「剰 余 金 」 を 会 計 用 語 か ら排 除す る キ ャ ンペ ー ンが 行 な わ れ,有 力 な 会 計 人 の 支 持 が 得 ら れ た 。 に もか か わ らず,AIAは1941年 の 会 計 研 究 公 報(ARB)第9号 で そ の 用 語 の 変 更 を ち ゅ う ち ょ し た 。 そ の 後,1941年 ARB第12号 は,「剰 余 金 」の 一 般 的 使 用 中 止 の 可 能 性 に関 す る調 査 を勧 告 した 。 1942年,剰 余 金 に 関 す るAIA小 委 員 会 は,「 剰 余 金 」 が 不 適 切 な名 称 で あ る と

3)M.ChatfieldandRVangermeersch,ed.TheHistory(ゾ.4ccounti〃g'。4n乃zter‑

〃atio'nalEncッclopedia,GarlandPublishingInc.1996,pp.499‑50α

(4)

して 排 除 す る勧 告 を した 。1949年10月 のARB第39号 に お い て,AIAは 一 般 用 語 と して の 「剰 余 金 」 お よ び特 殊 用 語 して の 「利 益 剰 余 金 」 が 認 め られ な い

旨 を宣 言 した 。

以 上 が ア メ リ カ に お け る 「剰 余 金 」 の 簡 単 な歴 史 で あ る。 『コー ラ ー会 計 学 辞 典 』 にお け る広 義 の 意 味 だ け で な く,狭 義 の 意 味 も否 定 され て い る 。 ア メ リ

カ で は 剰 余 金 概 念 はす で に 過 去 の もの に な っ て い る とい っ て よい で あ ろ う。 紆 余 曲折 の 末,結 局 は廃 止 され た わ け で あ る。 この 点 は わ が 国 の 事 情 とか な り異 な っ て い る。わが 国 で はい ま な お 広 く使 用 され て お り,し か も商 法 上 の 「剰 余 金 」 とい う ア メ リカ に は存 在 し ない 意 味 まで 加 わ っ て い る。

と ころ で,剰 余 金 概 念 は どの よ う な経 緯 で わ が 国 に導 入 され た の で あ ろ うか 。

剰 余 金 論 』 を著 し た佐 藤 孝 一 氏 は つ ぎの よ うに 述 べ て い る 。

剰 余 金 な る 問 題 が 公 的 に我 国 で採 り上 げ られ た の は,昭 和23年6月 経 済 安 定 本 部 内 に設 置 され た 「企 業 会 計 制 度 対 策 調 査 会 」(現 在 の 「企 業 会 計 審 議 会 」 の前 身 〉 が,昭 和24年7月 にそ の 中 間 報 告 と して 発 表 した 「企 業 会 計 原 則 」 の 一 般 原 則 第 三 に お い て,『 資 本 取 引 と損 益 取 引 と を 明 瞭 に 区 別 し,特 に 資 本 剰 一 余 金 と利 益 剰 余 金 と を混 同 して は な らな い 』 と規 制 し,い わ ゆ る剰 余 金 の 原 則

な る もの を掲 げ て か ら で あ り,恐 ら く これ が,我 国 にお け る剰 余 金 論 の 嗜 矢 で あ る と思 わ れ る4)。」

剰 余 金 の 概 念 は 「企 業 会 計 原 則 」 を通 じて一 般 に 広 く普 及 した わ け で あ る。

そ こ で は 剰 余 金 を資 本 剰 余 金 と利 益 剰 余 金 に二 分 す る考 え が積 極 的 に提 示 され た。 しか し,「 企 業 会 計 原 則 」 以 前 に剰 余 金 概 念 が ま っ た く存 在 しな か っ た わ け で は な い 。

第 二 次 大 戦 後 に い ち は や く剰 余 金 の研 究 に着 手 した 染 谷 恭 次 郎 教 授 は,つ の よ うに 述 べ て い る。

「この こ ろ(昭 和21年 頃 引 用 者),我 が 国 で は,剰 余 金 と い う会 計 用 語 は一 般 に 使 用 され て い ませ ん で した。 私 は長 谷 川 安 兵 衛 先 生 の 著 書 『株 式 会 社

4)佐 藤 孝 一 著 『剰 余 金 論 』 中 央 経 済 社,昭 和30年,37ペ ー ジ 。

(5)

剰余 金概 念 の再検 討 47 会 計 』の なか で剰 余 金 とい う用 語 が使 用 され て い た の を見 た こ とが あ り ます が, そ れ く らい しか 見 当 りませ ん で した5)。」

た しか に,長 谷 川 氏 の 著 書 に は 「剰 余 金 」 とい う用 語 が見 られ る6)。 しか し, そ れ は ア メ リ カ に お け る仕 訳 例 と し て 出 て くる にす ぎな い 。 剰 余 金 の 概 念 は ま

っ た く意 識 され て い なか っ た とい っ て よ い 。

剰 余 金 につ い て」 と題 す る 染 谷 教 授 の 論 文 で は,資 本 性 剰 余 金 ・収 益 性 剰 余 金 とい う用 語 が 使 わ れ て い る7)。 ま だ,資 本 剰 余 金 ・利 益 剰 余 金 とい う用 語 が 定 着 して い なか っ た た め で あ る 。

剰 余 金 概 念 が 導 入 され る に さい し て,注 目す べ き文 書 が あ る。 そ れ は 昭 和22 年12月 に公 表 さ れ た 「工 業 会 社 及 ビ商 事 会 社 ノ 財 務 諸 表 作 成 二 関 ス ル 指 示 書 」

(以下,「 指 示 書 」 と略 称 す る)で あ る 。 「指 示 書 」 は 「企 業 会 計 原 則 」 の 設 定 と重 要 な 関 連 を もつ 文 書 と い わ れ て い る。

指 示 書 」 は ウ ィ リ ア ム ・ヘ ッス ラ ー氏 と村 瀬 玄 氏 の 共 作 で あ り,わ ず か3 週 聞 で作 成 され て い る。 しか も,そ の うち の1週 間 は 「払 込 未 済 資 本 金 」 を貸 借 対 照 表 の 借 方 資 産 之 部 に 記 載 す る か 否 か の 議 論 に 費 さ れ た とい わ れ て い る 8)。 そ れ は 日本 文 と英 文 を並 記 した体 裁 を と っ て い る 。

指 示 書 」 に は2つ の 目 的 が 掲 げ られ て い る9)。 第1の 目的 は,「 連合 軍 司 令 部 ガ 日本 二 健 全 且 民 主 的 産 業 経 済 ヲ樹 立 セ ン トス ル 努 力 二 関連 シ テ 時 々 同 司 令 部 ガ要 求 ス ル明 瞭 ニ シ テ会 得 シ得 ル財 務 報 告 書 類 ノ作 成 二 当 ッ テ 日本 ノ各 会 社 ヲ援 助 セ ン トス ル 」 点 に あ る。 そ して 第2の 目 的 は,「 日本 ノ 商 工 業 会 計 処 理 法 ヲ改 善 標 準 化 ス ル 必 要 ノ基 礎 ヲ作 ル」 点 にあ る。 す な わ ち,そ れ は連 合 軍 司 令 部 に提 出 す る財 務 諸 表 の標 準 様 式 を規 定 した もの で あ る。 そ の さい,ア 5)染 谷 恭 次 郎 著 『あ る 会 計 学 者 の軌 跡 ひ とつ の 会 計 学 史 一 』税 務 経 理 協 会,

平 成9年,93ペ ー ジ。

6)長 谷 川 安 兵 衛 著 『株 式 会 社 会 計 』 東 洋 出 版 社,昭 和9年,241,243ペ ー ジ 。 7)染 谷 恭 次 郎 稿 「剰 余 金 に つ い て 」 『企 業 会 計 』 第1巻5号,昭 和24年5月,44ペ ー

ジ。

8)村 瀬 玄 稿 「企 業 会 計 原 則 制 定 の 由 来 」(日 本 公 認 会 計 士 協 会25年 史 編 纂 委 員 会 編 『会 計 ・監 査 史 料 』 同 文 舘,昭 和52年,219ペ ー ジ所 収)。

9)新 井 清 光 編 『日本 会 計 ・監 査 規 範 形 成 史 料 』 中 央 経 済 社,平 成 元 年,74ペ ー ジ。

(6)

リ カ の 進 ん だ会 計 実 践 が 取 り込 ま れ て い る。 剰 余 金概 念 に 関 して は,剰 余 金 調 整 計 算 書(SurplusReconcilementStatement)の 作 成 が 要 請 さ れ て い る。

指 示 書 」 に お け る 「剰 余 金 」 は ,「 蓄積 未 処 分 利益(accumulatedundi‑

videdpro趾s)」 と 同 義 と解 さ れ て い る10)。 剰 余 金 調 整 計 算 書 とい うの は 「 期 中繰 延 或 ハ 蓄 積 未 処 分 利 益 勘 定 二 何 ノ 変 化 ガ ア ッ タ カ ヲ詳 細 こ示 ス 」 計 算 書 で あ り,つ ぎの4項 目か ら成 って い る11)。

1蓄 積 未 処 分 利 益 当期 期 首 残 高

H当 期 蓄 積 未 処 分 利 益(勘 定 中)貸 方 二記 入 ス ル 分 当 期 蓄 積 未 処 分 利 益(勘 定 中)借 方 二記 入 ノ 分 IV蓄 積 未 処 分 利 益 期 末残 高

こ こ に お け る剰 余 金概 念 は 未 処 分 利 益 を意 味 して お り,今 日一 般 に用 い られ て い る 意 味 よ り も狭 い こ と が わ か る 。 ま た,「 指 示 書 」 で は資 本 剰 余 金 と利 益 剰 余 金 を 区 別 す る考 え は示 され て い な い 。

§3「 企 業 会 計 原則 」 上 の剰 余 金 概 念

企 業 会 計 原 則 」 は 昭 和24年 に設 定 され た 後,29年,38年,49年,57年 と4 回 に わ た っ て 修 正 され た 。 そ の 歴 史 は ま も な く半 世 紀 を迎 え よ う と して い る 。

企 業 会 計 原 則 」 の 歴 史 を振 り返 る と き,昭 和38年 前 半 まで と,そ れ 以 後 とで 大 き く変 化 した とい わ れ て い る 。 新 井 清 光 教 授 は そ の 歴 史 をつ ぎの よ う に2つ

に大 別 す る12)。

(1)自 律 的 拡 充 の 時 代(昭 和24年 か ら38年 前 半 ま で) (2)調 整 的 発 展 の 時 代(昭 和38年 後 半 以 降)

(1)の 自律 的 拡 充 の 時 代 とは,「 企 業 会 計 原 則 」が 昭 和24年 に 設 定 さ れ て か ら, 企 業 会 計 原 則 は 自律 的 ・積 極 的 に 自 己拡 充 し,さ らに 証 券 取 引 法,商 法,法

10)同 書,76ペ ー ジ 。

11)同 書,99,122‑123ペ ー ジ 。

12)新 井 清 光 編 著 企 業 会 計 原 則 の 形 成 と 展 開 』 中 央 経 済 社,平 成 元 年,27‑28ペ ー ジ 。

(7)

剰余 金概 念 の再検 討 49 税 法 等 に 対 し て,そ の 会 計 法 令 の 制 定 ま た は 改 正 を積 極 的 に提 言 した 時 代 で あ る。 ま た,(2)の 調 整 的 発 展 の 時代 と は,企 業 会 計 原 則 の 自 己拡 充 は依 然 続 け ら れ た もの の,法 規 範 と くに 商 法 との調 整 を余 儀 な くされ る に至 っ た 時 代 で あ る。

剰 余 金 概 念 の 歴 史 的 変 遷 を た ど る た め に は,こ う した 時代 区分 を 踏 ま え て お く必 要 が あ る。

§3‑1昭 和38年 前 半 まで の 剰 余 金 概 念

企 業 会 計 原 則 」 に よ る剰 余 金 概 念 の導 入 は 多 くの 人 び との 注 目を 集 め た。

この 用 語 は そ の 後 急 速 に 普 及 し,わ が 国 で定 着 した 。 しか し,「企 業 会 計 原 則 」 が 設 定 さ れ た の は昭 和24年(1949年)で あ り,そ の 年 は皮 肉 に もア メ リ カで 剰 余 金 の 用 語 が廃 止 さ れ た 年 に あ た る 。

剰 余 金 概 念 に関 して は と くに2つ の 議 論 が重 要 と思 わ れ る。 ひ とつ は剰 余 金 計 算 書 の 問題 で あ り,も う ひ とつ は 資 本 剰 余 金 の 範 囲 に 関 す る問 題 で あ る。

財 務 諸 表 の ひ とつ と して 「企 業 会 計 原 則 」 が 剰 余 金 計 算 書 を掲 げ た こ と は大 きな 特 色 と され て い る 。 そ れ は 「指 示 書 」 に お け る剰 余 金 調 整 計 算 書 に 相 当 す る もの と もい え よ う。 剰 余 金 計 算 書 は剰 余 金 の 期 中 変 動 を示 す 計 算 書 で あ り, 利 益 剰 余 金 計 算 書 と資本 剰 余 金 計 算 書 か ら成 っ て い る。当 初,「 企 業 会 計 原 則 」

は 当 期 業 績 主 義 の 考 え を採 用 して い た 。 そ の た め,損 益 項 目 は損 益 計 算 書 と利 益 剰 余 金 計 算 書 に二 分 して 記 載 さ れ る こ と に な っ た 。 昭 和49年 の 修 正 に よ り包 括 主 義 に移 行 す る ま で,剰 余 金 計 算 書 の 作 成 は続 け られ た。

企 業 会 計 原 則 」で は,資 本 を 資 本 金 と剰 余 金 に区 分 し(貸 借 対 照 表 原 則 四 ・ (≡)),剰余 金 は利 益 剰 余 金 と資 本 剰 余 金 に 区 分 され た(同 原 則 四 ・(≡)・B)。そ

の うえ,一 般 原 則 の 第 三 で 明 らか な よ う に,利 益 剰 余 金 と 資本 剰 余 金 は 明確 に 区別 され る必 要 が あ っ た 。2つ の 剰 余 金 の う ち と りわ け問 題 に な っ た の は 資 本 剰 余 金 で あ る。

資 本 剰 余 金 は,「 毎 期 の 純 利 益 以 外 の源 泉 か ら生 ず る剰 余 か ら成 る」(昭 和24 年 の 設 定 時)と され た り,「 利 益 以 外 の 源 泉 か ら生 ず る」 剰 余 金(29年 と38年 の 修 正 原 則)と され た り,あ る い は 「資 本 取 引 か ら生 じた 剰 余 金 」(49年 と57

(8)

年 の修 正 原 則)と され た 。そ の 規 定 方 法 は消 極 的 あ る い は 不 明 確 で あ っ た た め, 資 本 剰 余 金 に は さ ま ざ ま な 内 容 が 含 ま れ る こ とに な っ た 。

資本 剰 余 金 の範 囲 につ い て,昭 和24年 の 設 定 時 と29年 の 修 正 原 則 を比 較 す る と第1表 の よ うに な る。 い ず れ も最 後 に 「等 」 とい う文 言 が あ る の で,例 示 列 挙 で あ る こ と は 明 らか で あ る 。29年 の修 正 原 則 で は 資本 剰 余 金 の例 が 大 幅 に加 え られ た 。 「企 業 会 計 原 則 」 は 自律 的 拡 充 を と げ た の で あ る。 と同 時 に,商 法 の 計 算 規 定 改 正 に対 して 積 極 的 な 働 きか け を 試 み て い る。

第1表 企業 会計 原則 」 にお け る資 本剰 余金 の範 囲 昭和24年 と29年の比 較

① 株 式発 行差 金 (株式発 行割増 金)

② 資 本払 込剰余 金 (無額面株 払 込剰 余金)

③ 減 資差益

④ 合併 差益

⑤ 固定 資 産評価 益等

※損益 計算 書原 則七 ・B, 貸借 対照 表原 則 四 ・(≡…)・B

① 株式 発行 差金(額 面超 過金)

② 無額 面株 式 の払込 剰余 金

③ 合併 差益

④ 資本 的支 出 に充 て られた 国庫 補 助金(建 設 助成 金)及 び工 事 負担 金

⑤ 資本 補填 を 目的 とす る贈 与剰 余 金又 は債務 免除益

⑥ 減資 差益

⑦ 固定 資産 評価差 益

⑧ 再評価 積 立金

⑨ 貨幣価 値 の変動 に基 き生 じた保 険差益

⑩ 自己株 式 の処分 等

※貸借対 照 表原則 四 ・日 ・B,注6 (注)番 号 は引用 者 が付 した もの であ る。

昭 和25年 の 商 法 第288条 ノ2は,資 本 準 備 金 と し て,① 額 面 超 過 金,② 無 額 面 株 式 の払 込 剰 余 金,③ 財 産 評価 純 益 ④ 減 資 差 益,お よ び⑤ 合 併 差 益 の5つ を規 定 して い た 。 そ れ に対 して,昭 和26年 に 公 表 さ れ た 「商 法 と企 業 会 計 原 則 との 調 整 に 関 す る 意 見 書 」(以 下,商 法 調 整 意 見 書 と略 称 す る)は,つ ぎ の諸 項 目 を加 え る提 言 を した(第12・ 五)。

(9)

剰 余 金概念 の再 検討 51 (1)自 己株 式 の 売 却 益

(2)追 出 資 を意 味 す る株 主 の贈 与 並 び に欠 損 填 補 の た め の株 主 お よび債 権 者 に よ る債 務 免 除 益

(3)資 本 的支 出 に あ て た 国 庫 補 助 金 (4)資 本 的 支 出 に あ て られ た 工 事 負 担 金 (5)再 建 設 資 金 に充 当 した 保 険 差 益

昭和29年 の修 正 原 則 で列 挙 され た 資 本 剰 余 金 は,そ の大 部 分 が す で に 商 法 調 整 意 見 書 で 指 摘 され て い た こ と に な る 。

§3‑2昭 和38年 後 半 以 降 の剰 余 金 概 念

昭 和38年 を境 に し て,「 企 業 会 計 原 則 」 は 自律 的 拡 充 の 時 代 か ら調 整 的 発 展 の 時 代 を迎 え る こ と に な っ た 。 そ れ は 昭 和37年 の 商 法 改 正 な らび に38年 の 計 算 書 類 規 則 の 制 定 に 起 因 す る もの で あ る。 商 法 改 正 に よ り,「 企 業 会 計 原 則 」 側 が 提 言 して い た多 くの 会 計 規 定 が 取 り入 れ られ た。 また,計 算 書 類 規 則 の 制 定 に よ り,商 法 は独 自の 貸 借 対 照 表 お よ び 損 益 計 算 書 の 様 式 を 定 め る こ とに な っ た 。 そ の 結 果,「 企 業 会 計 原 則 」 は逆 に商 法 と の調 整 を余 儀 な くさ れ る よ う に な っ た わ け で あ る。昭 和38年 の 「企 業 会 計 原 則 」修 正 は そ の 最 初 の 試 み に な っ た 。

資 本 準 備 金 関 係 と し て は,37年 の 商 法 改 正 に よ り,第288条 ノ2第1項 第3 号 の 財 産 評価 純 益 が 削 除 さ れ る と と もに,第2項(現 行 法 の 第3項)に つ ぎの 規 定 が 設 け られ た。

前 項 第5号(合 併 差 益)ノ 超 過 額 中合 併 二 因 リ消 滅 シ タ ル会 社 ノ利 益 準 備 金 其 ノ他 会 社 二 留 保 シ タ ル利 益 ノ 額 二 相 当 ス ル 金 額 ハ 之 ヲ資 本 準 備 金 ト為 サ ザ ル コ トヲ得 此 ノ場 合 二 於 テハ 其 ノ 利 益 準 備 金 ノ 額 二相 当 ス ル金 額 ハ 之 ヲ合 併 後 存 続 ス ル会 社 又 ハ 合 併 二 因 リ設 立 シ タ ル会 社 ノ 利 益 準 備 金 ト為 ス コ トヲ要 ス 」 す な わ ち,合 併 差 益 の う ち留 保 利 益 部 分 は 資 本 準 備 金 と しな い こ とが 認 め ら れ た の で あ る 。 こ れ は 人 格 合 一 説 的 な会 計 処 理 が 取 り入 れ られ た もの と もい え

よ う。

これ を受 け て,38年 の 修 正 原 則 は資 本 剰 余 金 の 例 示 を 「会 社 更 生 及 び整 理 等

(10)

に基 き生 じた 固 定 資 産 評 価 差 益 」(注7)と 改 め た 。 こ れ に よ り,継 続 企 業 に お け る 固 定 資 産 評 価 差 益 の 計 上 は排 除 さ れ る こ と に な っ た 。 また,注 解 の 注7 に つ ぎ の規 定 が 追 加 され た 。

商 法 第288条 ノ2の 第1項 第5号 の 合 併 差 益 の う ち,同 条 第2項 に よ って 利 益 準 備 金 等 に 繰 入 れ た も の につ い て は,資 本 剰 余 金 か ら除 外 す る も の とす る 。

この よ う な調 整 は,「 商 法 が 強行 法 規 た る こ と に鑑 み,企 業 会 計 原 則 を修 正 しな け れ ば な ら ない こ と に な っ た」(38年 修 正 原 則 前 文)た め で あ る 。

そ の 後,「 企 業 会 計 原 則 」 は 昭 和49年 と57年 に 修 正 され た。 第2表 は 資 本 剰 余 金 の 範 囲 に 関 して3つ の 修 正 原 則 を 比 較 した もの で あ る。 昭和49年 の修 正 時 に,例 示 項 目が極 端 に減 少 し て い る 。 これ は商 法 監査 と証 券 取 引 法 監 査 の 一 元

第2表 企 業 会計 原則」 にお ける資本 剰余 金 の範 囲:

昭和38年,49年 および57年 の比較

昭和38年 の修正 原則 昭和49年 の修正 原則 昭和57年 の修正 原則

①株 式発 行差 金(額 面超 過金) ①株式発行差金 ①株式払込剰余金

②無額面株式の払込剰余金 (額面 超過 金) ②減資差益

③減資差益 ② 無額 面株 式の ③合併差益等

④合併差益 払込剰余金 ※ 注19

⑤再評価積立金 ③減資差益

⑥ 会社更 生 及 び整 理等 に基 き生 ④合併差益等 じた 固定 資産評 価差 益 ※注19

⑦ 資本 的支 出 に充て られ た 国庫 補 助金 健 設助 成 金)及 び工 事負担金

⑧ 資本補 填 を 目的 とす る贈 与剰 余 金又 は債 務免 除益

⑨貨 幣価 値 の変動 に基 き生 じた 保険差益等

※注7

(注)番 号 は 引 用 者 が 付 した もの で あ る 。

(11)

剰 余 金概 念の 再検 討 53 化 を 目指 して,会 計 基 準 につ き商 法 と 「企 業 会 計 原則 」 と を一 元 化 す る必 要 か ら生 じた もの で あ る 。つ ま り,「企 業 会 計 原 則 」は 商 法 に歩 み寄 っ た こ とに な る 。

現 在 で は3項 目だ け が 資 本 剰 余 金 と して 例 示 さ れ て い る。 除 外 され た 主 な項 目 は ひ と言 で い え ば評 価 替 剰 余 金 と贈 与 剰 余 金 と い う こ と に な ろ う。 これ らを 資 本 剰 余 金 とす る見 解 す な わ ち 資 本 説 は,徐 々 に 後 退 し て きた こ と を意 味 す る。

資 本 剰 余 金 は 商 法 上 の 資 本 準 備 金 に相 当す る 。 現 行 商 法 が 認 め て い る 資 本 準 備 金 は,例 外 が あ る もの の,株 式 払 込 剰 余 金,減 資 差 益 お よび 合 併 差 益 の3項 だ け で あ る(第288条 ノ2第1項)。 したが っ て,資 本 剰 余 金 の 例 は これ ら3項 目だ けが あ げ られ て い る。 しか し,「 等 」 と い う表 現 か ら明 らか な よ う に,「 企 業 会 計 原 則 」 は 資 本 準 備 金 以 外 の 資 本 剰 余 金 の 存 在 を容 認 して い る 。 そ れ は通 常,「 そ の他 の 資 本 剰 余 金 」 と呼 ば れ て い る 。 こ う した 歴 史 的 変 遷 に つ い て, 新 井 教 授 は つ ぎの よ う に分 析 す る 。

企 業 会 計 原 則 」 に お け る規 制 は ,贈 与剰 余金 につ いて も評価替剰 余金 につ い て も昭 和29年 を ピー ク と して そ の 後 次 第 に 後 退 して きて い るが,こ の こ とを 反 映 して か 最 近 で は学 界 お よ び 実 務 界 の い ず れ に お い て も,こ れ らの剰 余 金 の

資 本 説 」 を 支 持 す る積 極 的 な 意 見 は少 な くな っ て きて い る。 … …(「資 本 説 」 を支 持 す る積 極 的 な 意 見 や 有 力 な 論 拠 が 出現 しな い の は 引 用 者 注)「 企 業 会 計 原 則 」 の 側 にお け る 「資本 説 」 の論 拠 そ の もの に 無 理 が あ り,そ れ を主 張 す る論 理 を展 開 す る こ とが 困 難 で あ っ て,そ の 結 果 が 上 記 の よ うな 「企 業 会 計 原 則 」 の歴 史 的 推 移 と な っ て現 わ れ て きた とみ るべ きで あ ろ う13)。

そ の他 の 資 本 剰 余 金 」 に 関 す る資 本 説 の 論 拠 は 乏 しい。 そ れ をあ え て 資本 剰 余 金 に含 め る と ころ に無 理 が 生 じた。 これ ま で 資本 剰 余 金 概 念 を明 確 に で き

な か っ た の は そ の た め とい え よ う。

13)新 井 清 光 著 『企 業 会 計 原 則 論 』 森 山 書 店,昭 和60年,73ぺ ジ 。

(12)

§4商 法 上 の剰 余 金概 念

企 業 会 計 原 則 」 上 の 剰 余 金 概 念 が 自己 資 本 の うち 資 本 金 以 外 の 部 分 を さす こ と は は っ き り して い る。 しか し,そ の構 成 部 分 とな る と,必 ず し も 明確 で な か っ た。 剰 余 金 は 資本 剰 余 金 と利 益 剰 余 金 に二 分 され る。 議 論 の 多 い の は 資 本 剰 余 金 の 方 で あ る 。 「企 業 会 計 原 則 」 の 歴 史 上,資 本 剰 余 金 の例 示 項 目 は大 き く変 動 した 。そ して,結 局 は 商 法 と調 和 す る とこ ろ に 落 ち着 か ざ る を え なか っ た。

商 法 上 の剰 余 金 概 念 は昭 和38年 に制 定 され た 法 務 省 令 計 算 書 類 規 則 に よっ て 出 現 した。 そ れ は 自己 資 本 の うち 資 本 金 と法 定 準 備 金(資 本 準 備 金 お よ び利 益 準 備 金)以 外 の 部 分 に相 当 し,「企 業 会 計 原 則 」上 の剰 余 金 概 念 と異 な っ て い る。

そ の 相 違 点 は 資 本 準 備 金 と利 益 準 備 金 を含 む か 否 か に あ る。

計 算 書 類 規 則 の 制 定 は 昭 和13年 の 商 法 改 正 法 律 施 行 法 の 規 定 に も とつ く もの で あ る。 「昭和13年 に こ の よ うな 規 定 が 設 け ら れ た 理 由 は,当 時 商 工 省 に設 置 され て い た財 務 管 理 委 員 会 が,そ の 数 年 前 に 「財 務 諸 表準 則 」 を公 表 し た が, 商 法 の 立 法 関係 者 は,こ れ を と りい れ て 計 算 書 類 に 関す る 規 則 を作 成 し よ う と 企 図 し た の で あ っ た14)。」 しか し,計 算 規 定 が 不 備 で あ っ た た め,そ れ は実 現 しな か っ た。昭 和37年 の 商 法 改 正 に よ り計 算 規 定 が 整 備 され,計 算 書 類 規 則 は38 年 に な っ て や っ と制 定 され た 。 そ れ で も な お,会 計 学 者 の な か に は 時期 尚早 と す る 意 見 が あ っ た よ うで あ る。

計 算 書 類 規 則 は 「会 社 が 株 主 総 会 に 提 出す る 貸 借 対 照 表 お よ び損 益 計 算 書 の 記 載 方 法 に 関 す る標 準 様 式 を示 した 訓 示 規 定 に す ぎ な い15)」 とい わ れ て い る。

に もか か わ らず,い っ た ん 制 定 さ れ る と,そ の 影響 力 は著 しい も のが あ る。 そ れ は す べ て の株 式 会 社 に 適 用 さ れ る 規 定 で あ り,実 務 界 に急 速 に浸 透 して い っ た。 剰 余 金 概 念 が さ らに混 乱 した こ とは 明 らか で あ る。

14)黒 沢 清 稿 「企 業 会 計 原 則 と財 務 諸 表 規 則 会 計 原 則,商 法 計 算 規 定,計 算 書 類 規 則,財 務 諸 表 規 則 等 の 相 互 関 係 に 関 す る 研 究 」(山 下 勝 治 編 『計 算 書 類 規 則 の 問 題 点 』 中 央 経 済 社,昭 和40年,20‑21ペ ー ジ所 収)。

15)同 稿,22ペ ー ジ 。

(13)

剰 余金概 念 の再検 討 55 計 算 書 類 規 則 は資 本 の 部 を資 本 金,法 定 準 備 金 お よ び剰 余 金 の3つ に 区 分 す る 。そ こ に お け る剰 余 金 概 念 は 「法 的拘 束 度 ま た は処 分 可 能 性 に よ って 区分16)」

した 結 果 で あ り,商 法 固 有 の 考 え に も とつ く もの とい え よ う。い う ま で もな く, 資 本 金 は法 的拘 束 度 が 最 も強 く,そ の 取 り崩 しに は 厳 重 な手 続 きが 必 要 と され る。 資 本 準 備 金 と利 益 準 備 金 か ら成 る 法 定 準 備 金 は,資 本 金 へ の 組 み 入 れ な ら び に 欠 損 填 補 に 使 途 が 制 限 され て い る(第289条 第1項)。 資 本 金 お よ び法 定 準 備 金 は ど ち ら も配 当 に利 用 す る こ とが で き な い。

この よ う な観 点 か ら,商 法 は会 計 上 の 剰 余 金 を法 定 準 備 金 とそ の 他 の 部 分 に 区分 し,そ の 他 の 部 分 を剰 余 金 と称 した の で あ る 。 い い か え れ ば,「 商 法 は, 会 計 原 則 の よ うに,利 益 の 源 泉(原 因)に よ っ て 区 別 し な い で,利 益 の処 分 可 能 性 で 区 分 して,配 当 で き な い利 益 で あ る法 定準 備 金 と,配 当 で きる利 益 で あ

る任 意 準 備 金 に 区 分 す る こ と と した17)」 の で あ る 。

また 中 村 忠 教 授 に よ れ ば,「商 法 に は企 業 会 計 上 の 剰 余 金 に 相 当 す る概 念 も, 資 本 剰 余 金,利 益 剰 余 金 と い う概 念 も な い の で あ る18)」 と い わ れ て い る 。 つ

ま り,商 法 独 自の 剰 余 金 概 念 は あ る もの の,会 計 上 の 資 本 剰 余 金 や 利 益 剰 余 金 は商 法 に存 在 しな い こ とに な る。

商 法 との 調 整 が 不 可 避 と され た 昭和49年 の 「企 業 会 計 原 則 」修 正 に よれ ば,「剰 余 金 は,資 本 準 備 金,利 益 準 備 金 及 び そ の 他 の剰 余 金 に 区分 して 記 載 しな け れ ば な ら な い 」(貸 借 対 照 表 原 則 四 ・(≡)・B)と 規 定 さ れ た 。 こ こ に お け る 「 の他 の剰 余 金 」 は 商 法 上 の剰 余 金 に相 当 す る もの で あ る。 従 来 の 剰 余 金 概 念 を 保 持 した 「企 業 会 計 原 則 」は,こ う した 表 現 を と ら ざ る を え なか っ た の で あ ろ う。

しか し,こ れ で は 十 分 な調 整 が 行 な わ れ た とは い い が た い。 や む を え な い と は い え,「 そ の 他 の剰 余 金 」 とい う不 明 確 な概 念 を生 み 出 した こ とは 問 題 で あ る 。 同様 の こ とは 昭 和50年 に 公 表 さ れ た 「連 結 財 務 諸 表 原 則 」 に つ い て もい え よ 16)大 住 達 雄 稿 「計 算 書 類 規 則 の 制 定 を歓 迎 す る」 『税 経 通 信 』 第18巻5号,昭 和38

年5月,137ペ ー ジ。

17)大 森 忠 夫 ・矢 沢 惇 編 『注 釈 会 社 法(6)株式 会 社 の 計 算 』有 斐 閣,昭 和45年,540ペ ー ジ 。

18)中 村 忠 著 『新 稿 現 代 会 計 学 』 白 桃 書 房,平 成7年,162ペ ー ジ 。

(14)

う。 そ こで は連 結 剰 余 金 計 算 書 の 作 成 が 要 求 さ れ る と と も に,そ れ は 「そ の他 の剰 余 金 」 の 増 減 を示 す 計 算 書 と され た(第6・ 一 ・1)。 剰 余 金 計 算 書 とい い な が ら,「 そ の 他 の 剰 余 金 」 の 増 減 を示 す とい う不 思 議 な状 況 が 生 まれ た わ け で あ る。 も っ と も,平 成9年 の 「連 結 財 務 諸 表 原 則 」 の 修 正 に よ り,「 そ の 他 の剰 余 金 」 は 「連 結 剰 余 金 」 に置 き換 え られ る こ と に な っ た 。

いず れ に して も,商 法 上 の 剰 余 金概 念 が 登 場 した こ とに よ り,「企 業 会 計 原 則 」 自体 に もゆ が み が 生 じた とい え よ う。

§5剰 余 金 概 念 の純 化

剰 余 金 概 念 が わ が 国 に導 入 され て か らほ ぼ半 世 紀 が 経 過 した 。 そ の 歴 史 的 な 重 み は きわ め て大 きい 。 商 法 で 異 な る剰 余 金 概 念 が 用 い られ る よ う に な っ て か らで も,す で に35年 の 歳 月 が 過 ぎた。 この 間,剰 余 金 概 念 は混 乱 の 度 を深 め て き た よ うで あ る。 こ う した混 乱 はか な り早 い 段 階 か ら予 想 さ れ て い た 。 た と え ば,林 健 二 氏 は 昭和25年 の論 文 で つ ぎの よ う な指 摘 を して い た 。

剰 余 金 な る語 を企 業 会 計 に新 に導 入 す る に は 充 分 に慎 重 で な け れ ば な ら な い 。 企 業 会 計 制 度 対 策 調 査 会 に於 て も大 い に検 討 され た も の と思 ふ が,剰 余 金 は余 り適 当 な語 で は な い よ うで あ る。 と くに厳 重 に 区 分 す る こ との 要 求 され る 利 益 剰 余 金 と資 本 剰 余 金 に 同 様 な剰 余 金 の 語 を用 ひ る こ と は,誤 解 と混 乱 の も と に な る 惧 れ が 多 分 に存 して ゐ る。 剰 余 金 の 語 を全 く用 ひ な い か,或 ひ は 一 方 に剰 余 金 の 語 を用 ひ る とす れ ば,少 く と も他 方 に 別 の 語 を用 ひ る の が 適 切 で あ る19)。

誤 解 と混 乱 は,計 算 書 類 規 則 に別 個 の剰 余 金 概 念 が 導 入 さ れ る こ とに よ り, 一 層 増 大 した。 剰 余 金 概 念 を純 化 す る に は ど う した ら よ い で あ ろ うか 。 これ ま で の 考 察 を踏 ま えて,こ こで は2つ の提 言 を試 み た い と考 え る 。

19)林 健 二 稿 「剰 余 金 の 計 算 」 『国 民 経 済 雑 誌 』 第81巻3号,昭 和25年3月,4ペ ー ジ(染 谷 恭 次 郎 編 『我 国 会 計 学 の 潮 流(第2巻)』 雄 松 堂 出 版,昭 和59年,472ペ ー ジ所 収)。

(15)

剰余 金概 念 の再 検 討 57

第1の 提 言 は会 計 上 の 剰 余 金 を利 益 剰 余 金 に限 定 した ら ど う か とい う こ とで あ る。 会 計 上 の 剰 余 金 に は雑 多 な 内 容 が 含 まれ て い る。 同 質 的 な 内容 に限 定 す る必 要 が あ る。 ア メ リ カの よ うに 大 胆 に剰 余 金 概 念 を廃 止 す る こ とは 無 理 か も しれ な い 。 資 本 剰 余 金 は 資 本 準 備 金 に置 き換 え られ て も よい の で は な い で あ ろ うか 。 概 念 を明 確 に す る に は そ の 方 が よ い 。 そ の た め に は,い わ ゆ る 「そ の 他 の 資 本 剰 余 金 」に 関 して利 益 説 の 立 場 に 立 つ こ とに な る。「そ の他 の 資 本 剰 余 金 」

とい っ た不 明 確 な表 現 は 避 け るべ きで あ ろ う。 この 提 言 を実 現 す る に は 「企 業 会 計 原 則 」 側 の 意 識 改 革 が 必 要 に な る。

第2の 提 言 は商 法 上 の 剰 余 金 を 「配 当可 能剰 余 金 」 と称 して は ど うか とい う こ とで あ る 。 配 当可 能剰 余 金 とい う表 現 は す で に佐 藤 氏 が 昭和25年 の 論 文 で 用 い て い る20)。 商 法 上 の剰 余 金 は利 益 剰 余 金 も し くは 留 保 利 益 か ら利 益 準 備 金 を除 い た部 分 に な る。 利 益 準 備 金 は 配 当不 能 で あ るか ら,商 法 上 の剰 余 金 は配 当 可 能 剰 余 金 とい う こ とに な る。 も っ と も,厳 密 に は そ の す べ てが 配 当 可 能 と い う わ け で は な い 。 商 法 第290条 第1項 の 規 定 に よ り,配 当 す る た め に は 利 益 準 備 金 の さ らな る積 立 が 要 求 さ れ る か らで あ る 。 しか し,剰 余 金 とい うあ い ま い な表 現 よ り も配 当可 能 剰 余 金 と し た 方 が 内容 は は っ き りす る。 当 然,「 企 業 会 計 原 則 」 に お け る 「そ の 他 の 剰 余 金 」 も配 当 可 能 剰 余 金 に 置 き換 え られ る こ

とに な る。

これ ら の提 言 は か な り商 法 寄 りの調 整 と い え る か も しれ な い 。 こ の結 果,計 算 書 類 規 則 に お け る資 本 の 部 はつ ぎの よ う に 区 分 され る。

資本 金

…呵

配 当可 能剰余金

資本準備金

利益 準備金

20)佐 藤 孝 一 稿 「「剰 余 金 」 の 意 義 と分 類 」 『企 業 会 計 』 第2巻6号,昭 和25年6月, 8ペ ー ジ(染 谷 恭 次 郎 編,前 掲 書,495ペ ー ジ所 収)。

(16)

企 業 会 計 原 則 」 にお け る利 益 剰 余 金 は 利 益 準 備 金 と配 当可 能 剰 余 金 を加 え た部 分 に相 当す る 。 こ れ に よ り,剰 余 金概 念 は 「企 業 会 計 原 則 」 上 も商 法 上 も 明 瞭 に な る と い え よ う。 い ず れ に して も,株 主 に提 供 され る貸 借 対 照 表 と有価 証 券 報 告 書 に 記 載 さ れ る 貸 借 対 照 表 とで,「 剰 余 金 」 の 範 囲 が 異 な る 点 はす み や か に解 消 さ れ るべ きで あ ろ う。

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