保険概念の再検討
平成21年度大会共通論題
質 疑 応 答
[司会・大城裕二]早速,質疑応答を進めさせていただきます。
それでは,刀禰先生から家森先生へ,また安井先生へ2つの質問が入って おります。まず家森先生からお答え頂きたいと思います。質問内容は 金融 学会あるいは金融論のなかで保険が研究されているのは保険議論の一面であ る金融機関としての保険会社,すなわち運用サイド,とくに生保に関する議 論ではないでしょうか。保険の概念もしくは保険の本質論に関わる議論は金 融論のジャンルから関心の外にあるのも当然で,あまり気にすることもない と思います。保険については日本保険学会あるいは保険論研究者が主体的に 研究しているので金融学会での報告がほとんどないということを問題視する ことはないと思いますが,いかがですか。 ということでございます。それ では家森先生,お願いいたします。
[家森信善]名古屋大学の家森です。今いただきましたご質問ですけれども,
まず,このプレゼンテーションの中でも申し上げましたが,金融論の中で保 険が研究されている側面は,資産運用の部分が中心である,ということであ りました。それが広がって,例えば家計の資産分散の分析に保険を取り入れ た研究等も行われているということでございまして,資産運用,金融資産と しての保険を取り上げて分析をしているというのはそのとおりでございます。
つまり,保険会社の機関投資家としての側面以外のところにも議論が進んで きているということを説明したわけです。
2つ目の 保険の概念もしくは保険の本質論に関する議論は金融論のジャ
ンルから関心の外にあるのも当然で,あまり気にすることもないと思いま す という点ですが,私の今日のプレゼンテーションの趣旨は,保険という ものが金融論ではどのように扱われているかということでありまして,金融 論が保険の本質論をこのように語っているといったことをご紹介しようとし たのではありません。保険がこんなふうに金融のところでは見られている,
語られている,ということをお伝えしよう,ということでございました。
それから最後に, 保険については保険学会研究者が主体的に研究してい るので,金融学会での報告がほとんどないことを問題視することはないと思 います という点でありますけれども,もちろんそういうふうな考え方もあ り得ると思います。しかし,最後の部分で,世界の保険研究の動向について ご説明をいたしましたが,世界の保険研究では,保険研究の世界でも金融に 関する研究が扱われ,逆に保険のことが,QJEのようなメジャーな経済系 のジャーナルに論文として出ております。保険は経済的に非常に重要な要素 ですので,これは保険だけで議論するのではなくて,社会科学を勉強してい るみんながそれぞれの立場で勉強してはどうかというふうに私は思っている ということであります。
さらに申し上げますと大学にもよりますが,例えば私が勤めております名 古屋大学の経済学部は学生数が200の小さな学部でありまして,こういうよ うな学部ですと保険論の先生はおりませんで,保険論の講義自体も今年・去 年と生命保険文化センターのご協力を得て,かろうじて集中講義でやってる だけです。我が経済学部を卒業する学生は保険論という科目は勉強せずに,
ナントカ生命とかナントカ損保に勤めております。
ということで,できましたら少しでもそういう一般の学生に保険の知識を 得てから保険会社に勤めてもらったり,あるいはトヨタに行くにしても保険 のことをちょっとは知ってから行ってもらいたいな,ということで今私ども の方では教育をしております。非常に恵まれた大学の場合ですと…例えば安 井先生のいらっしゃるような大学ですと保険論の先生がいらして,ちゃんと 教育があるのですけれども,実は経済学部に関しては,日本全体で見て保険
論があるというのはかなり恵まれている状況ではないでしょうか。そういう 意味で保険学会の会員以外の方が保険のことを研究したりディスカッション したりすることを通じて,大学生レベルで保険について知識が普及していく 1つの…それが決定打というわけではないかもしれませんが,1つの重要な ステップになるのではないかというふうに私は考えております。一応,以上 です。
[司会]以上のとおり,徐々におっしゃるような趣旨,その方向へと環境が 整ってきているような面もあるということでございます。刀禰先生いかがで ございましょうか。何かございましょうか。
[質問](刀禰俊雄)それでは1つだけ。私も,かつて一橋大学の花輪俊哉先 生が金融学会の会長をしておられたときに,金融学会の大会に呼ばれてパネ ラーでやったことがあるのですけれども,保険学会に比べれば確かに金融学 会の方が会員数も多いし,経済学会全体の中でメジャーなのでしょうね。保 険というのは金融の中の一部門という位置付けだと思うのですけれども,保 険そのものについては保険学会にこういった研究者がたくさんおられますの で,そこでもっと研究を深めていく方向になるでしょうし,日本の現状とし ては,そう気にしなくても,保険学会が頑張ればいいのではないかと,希望 を含めてそのように申し上げたわけでございます。
[司会]ありがとうございます。頑張ってやったらいいというようなことで ございますが。もう1問,今度は刀禰先生から安井先生に質問がございます。
そちらに入ってまいります。安井先生への質問は 私もこれまで業界紙のコ ラム等に何度か書いてきましたが 掛け捨て という用語が誤りであるとの ご指摘は全く同感です。ところで安井先生のご説明ではこれに対する対処と して, 万一の場合の保障を買っているので掛け捨てではない とする説よ りも, 危険を大勢で分担する制度に加入する 説をベターとされています
が,私はむしろ前者の方が理解されやすいと考えます。火災保険や自動車保 険加入者が典型的なように,保険加入者は保障,損保の場合は万一の場合の 補償を買っているのであって,危険を分担するために加入するとはあまり考 えていないと思いますがいかがですか ということでございます。安井先生,
お願いします。
[安井敏晃]どうもご質問ありがとうございます。今日報告させていただい たように 万一の場合の補償を買っているので掛け捨てではない と捉える 説明よりは,むしろ危険を大勢で分担する制度に加入すると捉える説明の方 が抽象的でなく,むしろ理解しやすいのではないかなと私は思っています。
もちろん万一の場合の補償を買うという説明は,もちろん間違っているわけ ではないのですが,保険を理解してもらうためには別途保険団体の説明をし ないといけなくなります。ところが 皆で分担していく と説明してしまえ ば,それだけで説明が済んでしまうので,説明としてはベターなのではない かと思っています。
さらに, 保険加入者は補償を買っている と言う説明はすでに多くの場面 でなされていますが,それでもいまだに 掛け捨て という表現がよく使わ れています。 補償を買う という意味を理解しているのであれば,これほ どまでに掛け捨てという言葉が使用されていないと思います。ですから, 補 償を買う という意味を少なくとも消費者は理解していないのではないかな,
というふうに私は考えています。ご指摘のように一般消費者が危険を分担す るために加入するのだと考えているわけでもないと思いますが,だからこそ,
そのことを伝えていく必要があるのかな,というふうに考えております。
[司会]これについて簡単に何かございますでしょうか。
[刀禰] 掛け捨て という言葉は,明治以来,我が国の生命保険が 養老保 険 という商品を主力としていたことに起因すると思います。満期がきたら
支払われる満期保険金と満期の前に保険事故が発生したら支払われる死亡保 険金が同額だという養老保険という考え方が広く浸透していました。それが 戦後,昭和30年代の後半頃から定期付養老保険が市場に普及しましたときに,
定期保険部分は満期がきても戻ってこないものですから,これをマスコミが 掛け捨て という言葉で使い出したと思うんですね。それから,外資系の 保険会社とか,損保系の某生命保険会社ですが,安井先生もおっしゃったよ うに,はっきりと募集パンフレットとか新聞広告などに 掛け捨てだから保 険料が安い って書いてるんですよね。
そういう意味で,掛け捨てではなくて, 保障 という目に見えない商品 を買ってるんだと。資産家が,鳩山総理ではないですけども何十億ものお金 を持ってる人が,セコムに入って泥棒に入られないようにする,そういう保 障を買ってるのと同じような意味で保障(損保の場合は補償)を買っている のだという意識付けを消費者にもっと教育していけば分かるのではないかと 思います。団体でお互いに助け合ってるということ。これは有名なマーネス の言葉 1人は万人のために,万人は1人のために という言葉を説くまで もなく,保険の,大学での講義とか高等学校などでもああいった助け合いと いうことをよく言われますけども,一般的な消費者,保険加入者は保険に入 るときに助け合いのために入っていると思わないのではないのでしょうか。
そのような意味で保障(補償)を,目に見えない商品を買って…先程商品学 の話もありましたけれど 目に見えない商品を買っている。保障(補償)を 買っているのですよ ということで訴えた方が消費者に理解されやすいので はないかと思っているということでございます。
[司会]分かりました。大体,過渡期と言いますか,保険知識の普及に保険 業界は努力されておられますが,そういうところに…今の段階でどっちを取 った方がいいのだろうかというような,そういうところがあります。ぼつぼ つ安井先生がおっしゃるような面が普及しても良いのではないか,というと ころがあるように思いますね。
[刀禰]両面から教育していく。
[司会]時間的な問題がございますので次の質問に入ってまいります。明治 学院大学の松島先生から後藤元先生に 保険業法では固有の業務のほか,金 融商品を含む付随業務も業務範囲に含めているが,このような状況の下で改 めて保険をどのように定義すべきかご教授を願います となっておりますが,
いかがでございましょうか。
[後藤元]ご質問をどうもありがとうございました。どのようにお答えすべ きか少し迷ったところもあるのですけれども。確かに保険業法は固有業務の ほかに付随業務をいろいろと認めているわけでございます。ただ,このとき に改めて保険をどのように定義すべきかというご質問ですが,そもそもその ことを考えるためには,保険の定義を考えるということがどのような意味を 持つのかということ,何のためにその話をするのかというところが,少なく とも法律学にとっては,非常に重要ではないかという趣旨で,本日ご報告を した次第であります。
この場合について考えてみますと,保険会社が何をできるかという問題に ついて,まず固有業務として保険があると。では付随業務を認めているとい うことはどういうことを意味するかといいますと,保険会社は保険以外のこ ともできると。それは本体である保険事業に対しても悪影響を及ぼさないよ うな場合では,やってもいいよ,と。普通の一般事業をすることはできませ んが,関連するようなものですとか金融関連だったらやった方がいいことも あるだろう,ということを考えて付随業務を認めているわけでございます。
そうすると逆に言いますと,保険会社がやっていること全てが保険である というふうに考える必要は全くないわけであります。もし,何か付随業務の うちに保険会社だけにやらせた方がいいもの…保険会社だけにやらせるとい うのは結局,保険業法による監督を特別に課す必要があるもの,そういう業 務がもしあるとするのであれば, それは付随業務に入っているけど,これ
は保険だよね ということを言っていく意味があるかもしれませんが。その ようなものがあるか,私は今日,パッとは思いつかないのでお答えはしかね るところですけれども,もしそういう要請がないのであれば,付随業務があ るからといって保険をどのように定義すべきかということを改めて考える必 要はそんなにないのではないかというふうに思っているところでございます。
ただこれは,あくまで法律学の見地からのお話でございますので,保険論と してどのような,保険の定義を考え直すニーズとしてどのようなものがある のかというところは,私は不勉強で存じ上げておりませんので,もし何かあ ればご指摘をいただければと思っています。
[司会]松島先生,いかがでございましょうか。
[質問](松島惠)いろいろルールの説明をしていただいたのですが,本日の 共通論題として保険概念の再検討ということをここにも掲げておられるわけ ですから,昨日の新保険法の問題の分析とも関係いたしますけれども,金融 商品という厳密に言えば保険との関わりを持っていないものも,保険業法で はその一部を取り扱っているわけです。そこで,そのようなものまで含めて 保険の本質,保険概念の中に含められるのかということが問われると思いま すね。さっきご説明にありましたように,リスクの移転,リスクの集積,リ スクの分散,学者によってはそれ以外に利得禁止の問題も,保険概念の基準 として取り上げる方もいますが,要するに,保険の本質的概念を把握した上 での,固有の保険業務の引き受け,さらに,保険の本質,保険の概念には入 らないけれども,保険業としては拡大化して,固有の業務に付随・関連した 付随業務までも取り扱うのかというような理解でよろしいのかということに ついて,お訊きしたかったわけです。
[後藤]どうもありがとうございます。私の考えも,おそらく松島先生のそ れとあまり違っていないかと思うのですが。コアは何かということを問題と
する場合には,周りが広がったからといって勝手にコアが動いては,多分,
それはコアではないというふうになってしまうと思いますから。おそらく保 険概念のコアは何かという場合に問われたときには,それはそんなに変わる ものではないだろうと。コアは多分コアとして,今までどおり,今まで積み 重なってきた学説にあるとおり,今日のお話で言えばリスクの移転と集積と 分散であるとか,そういうものが存在していると思うのです。松島先生がお っしゃったとおり,その周辺概念がよく分からなくなってきるということで すが,保険の今申し上げたようなコアの要素が欠けているようなものがあっ たり,また,そろっているけれども保険という名前が付いていなかったりと,
いろいろなものがあるかと思います。
私のスタンスとしては,それらに対して保険法を適用するという話であっ たり,保険会社や保険会社以外の会社が何ができるかという場合について,
コアとしての保険はこれだけれども,ほかの取引にも同じような問題はある だろうとか,それは保険会社以外の会社にもやらせた方が社会的にいいから やらせるべきである,ということを考えていけばよいのではないかと思って おります。そこを私の方から保険論に対して何か定義をし直すということは,
これをすることは非常に差し出がましいと思いますので,できませんが,そ こを今までどおりと言いますか,コアのところは今までどおりに捉えた上で,
その周辺にあるものを個別に見ていって,適切な規律をしていくということ でいいのではないかなというふうに思っているところでございます。ありが とうございました。
[松島]ありがとうございます。
[司会]ありがとうございました。われわれは共通論題に対して分担的アプ ローチ,経済学的,法学的,商学的,あるいは金融論的なアプローチをもっ て話し合ってきたところがございます。そこで後藤先生の場合は法学的なと ころでございますので,松島先生がそのようなご質問をされるというのはも
っともですが,全体的にも見ていただかなければならないかなという感じも しつつ,若干アプローチが違うと,全面的に対応できる答えをする姿勢は取 れない面もございます。
時間の面もございますので,次の質問の方に入ってまいります。もう一度 家森先生にお答えいただきたいと思います。松島先生から家森先生に 報告 のまとめとして,保険業者と金融業者,経済学者の共同研究の発展に期待す ることを強調されたが,具体的提案があればご教授ください ということで ございます。
それからあわせて,関西学院大学の前田先生から家森先生に 金融業界の 保険に関する理解不足を指摘されていました。金融業界の保険に関する関心 が薄いのではないか。また,保険業界の金融に関して理解しようとする努力 が欠けていると思う。 こういう2つの質問について,あわせてお願いいた します。
[家森]松島先生のご質問にまずお答えしたいと思います。 具体的な提案 を ということでありますけれども,例えば,先ほどの後藤先生が独禁法で 保険の売り上げが何かということを問題にされました。龍谷の井口先生は,
私は経済学者であり保険学者であると思っているのですが,その井口先生た ちがやられていますように,保険についての生産関数とかコスト関数,費用 関数などを分析する研究がたくさん内外で行われておりまして,そういうよ うな研究から,簡単に言えば生産関数として最も当てはまりの良いものを探 してみることで,法律学者と協力するというようなアプローチが考えられま す。何が最も現実を説明できるかというプラグマティカルな観点からアプロ ーチをしていく,それが保険理論的には非原理的なので止めておくべきだと いうことになるのかもしれませんけれども,例えばそういうようなことが考 えられるのではないかというふうに思います。
多少,まだ時間的余裕がありそうではないですか?
[司会]ええ,あります。
[家森]それでは,こういう発展を期待するという点について,もう少しバ ックグラウンド的なことを申し上げたいと思います。先ほどのプレゼンテー ションの中でも示しましたが,世界の研究の動向を見ますと ジャーナル・
オブ・リスク・アンド・インシュアランス とか,そういう欧米の雑誌に論 文を掲載しないといけない。これはアメリカが勝手にやっていればいいとい うような感じもあるかもしれませんが,昨年,北京大学と清華大学のプロフ ェッサーとそれぞれ北京に出張したときに会いまして話をしていると,今,
そういった一流大学での昇進はSSCIに論文がないと,もう話にもならない という状態になっているのだそうです。
SSCIとは ソシアル・サイエンス・サイテーション・インデックス のこ とでして,トムソンというデータベースの会社が作っている引用文献の情報 です。ノーベル賞候補者が誰かといった際に,トムソンの サイエンス・サ イテーション・インデックス SCIに基づいて報道がされたりしています。
SSCIは,その社会科学版です。経済学の分野ではこのSSCIにランクされ ている雑誌は280ほどですが,結局これに入っている雑誌に書かないと中国 の有力大学ではもう昇進できない,あるいは採用されないということになっ ています。
そうするとわれわれが,今,中国から留学生を受け入れているのですけれ ども,彼らは仮に良い論文を日本語で書いても向こうの有力大学に入れない という問題が起こりつつあります。そうするとわれわれは欧米の大学と競争 できなくなってしまうという,危機感があります。
2つの対応方法があります。実力のある先生なら,日本独自の,あるいは アジアで共通のSSCIみたいなものを作れというふうな意見もあるはずです。
もう1つはやはりこの土俵に乗って,なかなかアメリカの大学の上には行け ないにしても同列に行くような戦いをするかです。どちらかをやらないと,
良い学生が外国から来てくれないというような問題が起こっています。
そのためにはわれわれ,まずは日本にいる学者がこういうところで最小限 業績を出しておいて,日本でもこのレベルの研究は…実際には日本語を英語 にすれば,こういうレベルに載る論文はいっぱいあると,私は思うのですけ れども,そういうものがあるのだということを示さないといけないのです。
この土俵では,経済と保険とか,金融と保険とかという人達の共同論文が多 くなっておりまして,そういう土俵でやらざるを得ないというのがあります。
このようなことがちょっと申し上げておきたかったことでございます。
それからもう1つ,前田先生からの質問に行かせていただいてよろしいで すか?
[司会]どうぞ,お願いします。
[家森]前田先生からいただいたご指摘は, 金融業界では関心が薄いのでは ないか あるいは 保険業界の理解しようとする努力が欠けていると思う という点です。
これはむしろ前田先生のような,そういうところに近い方のほうがご存じ だろうと思います。ただ,例えば証券に関しての金融経済教育 貯蓄から投 資へ という点に,私も多少関与したりして,いろいろなことをやっている のですけど,これもなかなか進まないというのが現状です。株式投資も現状,
日本の大人の1割ぐらいしか株を持っていてくれないとか,そういうような 問題は今も起こっております。
今後も,地道ではあると思いますけれども,保険会社・業界あるいは保険 の研究者の方々がどんどんと一般の方に入っていく,ちょうど安井先生が,
一般の人がどうやって保険を理解するかという問題意識をお持ちになってご 説明されたようなアプローチが必要ではないかというふうに思います。保険 というのはほとんどの人が持っている必需品でありながら非常に複雑なわけ ですので,それを上手に理解してもらうように情報発信していくというのは ますます必要ではないかと思われます。
それから,先ほどの話になりますけれども,小さな経済学部ではなかなか 保険の講義ができないというような状況が各大学で多分起こっていると思い ます。景気が良くなりましたら業界の方はご協力をいただきたいというふう なこともあわせてお願いをしたいということでございます。
[司会]ありがとうございます。簡単にもしございましたら,前田先生,た だいまの回答に何かございますか。
[質問](前田祐治)未熟な研究者である私がコメントさせていただいて恐縮 します。実は私は大学で金融(ファイナンス)の科目も担当しています。保 険業界にずっと身をおいて,一方ファイナンスを教えてると強く思うのです が,保険は金融の一手段なのだと。そして,実際アメリカでもすごい勢いで,
保険の研究がファイナンスの研究者によってなされているということを知っ ています。その事実を垣間見ると,もっと保険の研究者が金融の研究を進め るべきではないかと,それにより新たなものも発見されるのではと思います。
その意味で,私は今の世界の保険学会に一種の危機感を感じます。それで私 たちはもっと努力しないといけないと思い質問しました。金融の研究者から 見ると保険は複雑で未知の世界であると考えられています。その意味でも 我々は,これから金融も学び切磋琢磨するチャンスではないかと思います。
このような意見を持ってる次第ですからコメントさせていただきました。家 森先生の誠意あるご回答,誠にありがとうございました。
[司会]ありがとうございます。それでは,松島先生,ただいまの家森先生 のご回答で何か簡単にご指摘いただくことはございましょうか。
[松島]基本的には,今後の方向としまして大変良い示唆をいただいたと思 っています。
ある面では,保険は金融機関・金融部門の1分野として位置づけられてい
ますが,学問分野では専門分化が進みすぎてそれぞれの関連性が希薄化して きたように思います。この金融・銀行・保険なども,そのような状況にある ことを踏まえたうえで,まさに今度はそれぞれ独自の分野を持ちながら,相 互に取り入れながら,広い意味の経済学,あるいは社会科学分野の一部門と しての保険学の発展を期するために,家森先生が大変ご尽力なさって今回の ご報告をなされたということは,大変貴重なものとして感謝しています。あ りがとうございます。
[司会]ありがとうございます。それでは時間の点もございますので,次の 質問に移ってまいりますが。安井先生の方に2通まいっております。元日本 生命の村上英雄さんから 一般に 掛け捨て と言われているのはwの有無 によって,無い場合(ex.定期保険等)を掛け捨てと言っているのでは?
というのがございます。もう1つあわせて,三井住友海上の村田毅さんから リスクの分担を一般契約者に分かりやすく言うとしたら 万一の場合の経 済的補償を同じような危険を負っている多くの人たちと分け合う(分担し合 う)システム( 保険)に加入する とでも表現すれば良いのでしょうか ということでございます。2つの問題,よろしくお願いします。
[安井]どうもご質問ありがとうございました。まず最初のご質問に対して お答えしたいと思います。ご質問は 事故がないときには,保険金を支払わ ないことを掛け捨てと言っているのでは? という意味だと思うのですけど も,私ももちろんその通りだと思っております。保険料を払っておきながら 事故が起こらなければ何も返ってこないという仕組みの保険,生命保険のな かでも定期保険,そしてほとんどの損害保険がそうですけれども,そのよう な保険を一般に 掛け捨て と言うのだろうと私も思っております。
続きまして, 万一の場合の経済的補償を同じような危険を負っている多 くの人たちと分け合うシステムに加入する とでも表現すれば? というご 提案をいただきました。本当に分かりやすいご説明だと思います。ただ,今
回の報告内容は,少し論点がぼやけてしまったのかもしれませんが,保険の 不可欠な概念というのを何か1つ取り出してお話しするということです。1 つに絞るというのは,そもそも難しい話ではありますけども,何か消費者に 保険を伝えていくとすると,最初から難しい話,難解な話を展開していくわ けにはいきませんから,まず最初の取り掛かりとして保険の全体像を正しく 捉えてもらう必要があると思うのです。最初に伝えるべきことを探すことで,
保険の不可欠な概念,保険概念にとって不可欠な条件が見つかるのではと考 えた次第です。もちろん余裕があれば,細かく説明していかなければいけな いのですけども,とりあえず,最初の取り掛かりとしてリスクの分担という ことを説明すれば,保険をイメージでき,また少なくとも掛け捨てという誤 解も防ぐことができるのではないかなと考えて,報告させていただきました。
もちろん,保険をさらに詳しく説明できる場合には, 経済的補償を同じよ うな危険を負っている人たちと分け合うシステムに加入する と,このような 分かりやすい言い方で表現していけばより良いのではないかと思っています。
[司会]いかがでございますか。村上さん,いらっしゃいましょうか。何か コメントございますか。
[質問](村上英雄)われわれの認識としては, 掛け捨て と言う場合は,
キャッシュバリューのない保険,例えば,定期保険とかそういうものを指し て使うのが通例です。保険販売の現場においても 掛け捨て と言うときは そのような意味で使っています。
養老保険などは,例えば解約しても何がしかの解約返戻金,キャッシュバ リューがあるという意味で 掛け捨て 保険と言いませんね。そのような意 味で使い分けて 掛け捨て という言葉を使っています。そのような意味で 掛け捨て という言葉を使うのが一般の消費者と言うか契約者の認識では ないかと思っていました。保険契約の履行内容としての給付と反対給付とい う概念での保険料に対価する保険金支払給付…事故があった場合に保険金請
求権があるという,そういう学理的な意味での認識ではなくて。保険は当然,
安全を買っている認識は一般的にあると思うのです。キャッシュバリューの 点で…まあこれはどちらが一般の消費者の認識かというのはちょっと分から ないのですけど,私はそういう認識でいたので,ちょっと唐突感を覚えたと いうことでご質問をさせていただいたということです。
[安井]どうもありがとうございます。掛け捨てというのは保険料を払って も保険金が払われない場合です。だから,養老保険は生死混合保険で死亡し たら死亡保険ですし,生きていければ生存保険金が支払われますから,もち ろん掛け捨てとは思わないわけですよね。終身保険もいつかは結局,人間は 死亡しますから支払われるということで,これも掛け捨てだとは思わない。
生命保険の中でも定期保険というのは,そもそもそれを購入できる人々の死 亡率が低いですから,ほとんどの場合は保険料を払いっぱなしになるので,
まさにそれが掛け捨てだと思われる点だと思うのです。正直申し上げてお答 えになっているかどうか分かりませんが。
[司会]よろしいですか。何かございますか。
[村上]これは受け止め方の問題で,どちらが正しいとかいう問題ではない とは思いますが。ですから,そのへんの捉え方が,そういう見方もあるのか なという感想を述べただけなのですけどね。保険の仕組みから言えば, 給 付 対 反対給付 の関係は契約の履行内容として当然あるわけです。保険 料を払うことによって,保険事故の発生という停止条件によって保険金請求 権に転化するという,そういう学理的にはそのとおりなのですけども,一般 に,われわれが 掛け捨て と言っているのは,そういう解約返戻金,つま りキャッシュバリューがないという意味での使い方が一般的ではないかなと いう,まあ認識の問題ですけどね。ですから,その是非を論じてもあまり実 益はないと思うのですけども。ちょっと,そういう感想を持ちましたので,
あえて質問させていただいたのです。
[安井]どうもありがとうございました。
[司会]よろしいですか。
それではご意見をいただいているうちに,時間がいよいよ迫ってまいりま した。従来,保険概念論が非常に華々しく展開され,概念標識の提起を競う ということが実に多かったことをご存知の方は多いと思います。技術的特徴 等を指摘するといったことが華々しく, ああでもない,こうでもない と。
しかしながら,そういう保険概念を確定するということは,社会環境の大き な変化にさらされている近年においては,ずっと簡単ではなかったというこ とができます。大きなパラダイム転換があるかどうかで,これまで共同体的 関係,連合的関係,利益社会的関係という大きな変換を指摘する見解が有り ますが,今,利益社会的関係の市場経済にあって,その中で指摘されている ような問題,また昨年の 今,保険とは何かを考える という共通論題で指 摘されたいろいろな変化に揺さぶられていることは確かでございます。
しかしながら,ここでパラダイムを転換した新たな社会関係の下に保険と いうものが必要かどうか,まだ考えていかなければならない。報告者ともそ のあたりを打ち合わせでお話ししておりましたが,ここで何かを提案できる とか,そんな状況ではないようにも思われます。ただ,永遠の課題と言いま すか,保険学者に宿命的に課せられておる課題であるということだけは認識 しておかなければ,保険の意義が見失われてしまうということでございます。
報告者には,非常に難しい問題に対して果敢に挑戦していただき,的確に ご自身の範囲内でご報告いただいた面がございます。フロアからもその部分 部分についてご質問,ご討議をいただけたということは,新しい保険概念の 模索に向かって歩み続ける第一歩…第二歩になりましょうか。それでは共通 論題をこのあたりで終えたいと思います。ありがとうございました,報告者,
質問者,会場の皆さん,どうもありがとうございました。