ガルブレイスの現代資本主義危綴論
ガルブレイスの現代資本主義危機論
−日本講演を基にして−(上)
田口信夫
47
(−・J
「不確実性の時代」という言葉がもてはやされているように,今日の資本 主義は混迷の度合を深め,多くの人々を不安と混乱のうずの中におとしいれ ている。資本主義混迷の原因はいったい何か,また資本主義社会はどういう 方向に向おうとしているのか。こういった問題は,経済学者ならずとも,多
くの人々がもっとも関心をもつところであろう。それだけに,こういった問 題に対する解明は,現在の経済学者に試せられている重大な責務ともいえ
る。
この点で,最近,日本でおこなわれたガルブレイスの講読は,まことにタ イムリーなものであり,現代資本主義の危機を考察するに際しての1つの興 味ある示唆を与えている。ガルブレイスの現代資本主義論はこれまでも,
「アメリカの資本主義」,「ゆたかな社会」,「新しい産業国家」およびそ れらを集大成したものとしての「経済学と公共目的」等を通じて明らかにさ れてきたが,本邦講演は従来の成果をふまえた上での最新の見解の披樫であ り,現代資本主義研究にとって大いに注目されるところである。
本邦講演は「不確実性の時代を超えて」(東京講演),「不確実性の時代 と世界経済」(大阪講漬)と遺して,「エコノミスト」誌(毎日新聞社,昭 和53年11月10日号)に邦訳集録されているので,以下,「エコノミスト」誌 に依拠してガルブレイスの現代資本主義危機論を整理し,問題点を指摘して いきたい。なお,必要なかぎり,他の文献を参照することによって説明の不 足な点を補っていくことにする。
(二〉
力、、ノレプレイスは「現在の経済運営における不安や,不満,苦悩を引き起こ している原因には
6
つの特徴がみられますJ
(エコノミスト,1 4 8
頁)とし て,現在,資本主義がかかえている諸問題を次の6
つに分類している口①先進国における持続的失業の存在,②失業とならぷインフレの存在=ス タグプレーションの問題,③米ドノレの弱体化と為替相場の動揺,④古い工業 国の地位の低下と新しい工業国の地位の台頭,⑤一次産品とくに石油価格の 大きな動揺,⑤各国経済内部における発展の不均衡。
力、ソレプレイスによれば,こうした諸問題は現代の資本主義を旧来の資本主 義のイメージでとらえる新古典派経済学では説明できず,正しい理解のため には,資本主義そのものが大きく変容していることを認識することが必要で ある。では旧来の資本主義と現代の資本主義を区別するその大きな変容とは いったい何であろうか。おそらくこの点は,現代の資本主義を研究する各論 者によって,力点のおき方がさまざまに具ってこようが,ガノレプレイスによ れば, もっとも大きなそしてガノレブ、レイス理論の骨格をなす基本的な変化 は,なによりも大企業体制が発展したことによって市場機能が大幅に減退し たことである。すなわち「市場からの離脱
J
,これこそが現代資本主義の最 大の特徴であり,ガノレプレイス現代資本主義論の大前提をなすのであるo大企業体制の発展=寡占の進展によって,小数の大企業は市場支配力を確 保し,自らの生産物の価格を需給状態,従って市場には関係なく,計四的に 決定することが可能になった。また大企業体制の発展は,その発展過程にお いて,大企業の権力に対抗するものとしての強力な労働組合をその内部に生 みだし,労働組合は労働市場における労働力の需給状態とは関係なく,企業 との交渉によって賃金を決定することが可能になった。かくて,ガノレ7"レイ スによれば,
r
今日の資本主義は自由競争経済ではなく, ビッグ・ビジネス と巨大な労働組合が存在し,平衡力( c o u n t e r v a i l i n gp o w e r
, 乙の用語は 一般的には出抗力として使われており,本稿でも措抗力という訳語を使用するー引用 者)という新しい市場力の作用する経済1)J
へ転換したのであるD 彼は次ガノレプレイスの現代資本主義危機論 49 のように述べている。
「市場からの離脱の程度は各国内の各産業,各職業問でまちまちです。ま た各国間でもその程度は同じではない。概して,産業社会が成熟すればする ほど,産業は価格への文配力を増し,個々人は組合その他の組織あるいは国 家を通じて自らの所得への支配力を増大しています
J
(エコノミスト,1 5 0 頁)
0力、、ノレプレイスは現代資本主義をこのように,拾抗力が作用する経済と把握 し,このような認識の上に立って,資本主義が現在かかえている諸問題を説 明するのであるo
(三〉
( l )
まずインフレについてであるが,ガルプレイスは現代のインフレは,古典的なインフレのように,需要が供給を上回ることによってひきおこされ るインフレ=ディマンド・プル・インフレではなく,競争的に所得を押し上 げようとする圧力によってひきおこされるインフレ=コスト・プッシュ・イ
ンフレと規定するO
「個々人および彼らの組織が,非人格的な市場の束縛から逃れ,価格と所 得を左右するのに必要な力を獲得すると,次に彼らは当然より高い所得を求 める。これが現代のインフレの形態です
J
(エコノミスト,1 5 3
頁)。たとえば,現代の大企業で働く労働者は強力な組合をパックに,経営者と の交渉において,有利な賃金を獲得することができる。他方,大企業の方は 寡占によって市場に対する支配力を確保してしまっているので,賃上げによ るコスト上昇分をそっくり価格に転稼することができる。すなわち,労組の 賃上げ要求一→企業による賃上げコストの価格転稼,乙れが現代のインフレ の基本的形態をなすのである。ガノレプレイスは「対決に代わるものとして,
労組と経営者は合意に達し,その結果のコストを一般大衆に移転することが できる
J
(エコノミスト,1 6 3
頁)と述べているD現代のインフレをかく定義づければ,このインフレはもはや伝統的な財政
‑金融政策によっては収束できない。まず財政政策についていえば,ガ、jレプ レイスは労働者の消資財とサービスを求める圧力にその理由を求め,次のよ うに述べている1"この大企業部門には,その職業のゆえに消費を少なくし なければならないと思っているような人は,もういません。労働者が泊賀財 とサービスの両方に対しまた必要な賃金のために発揮する圧力は,インフレ の
1
つの原因です。教育,保健,都市サービスといった公共サービスを求め る圧力も,もうl
つの原因です口より多くの個人所得と消費およびより多く の公共財と公共サービスの双方を求める突きあげる力は,同じ根を持っており,同様に強力です口
そして,その要求を効果あらしめるために,権力一一大企業によって分散 された権力ー一ーと結びつく。こういうことだから,税制措置によって個人消 費を,公共支出削減によって公共消賀をカットする一一双方とも古典的なイ ンフレ対策一ーやり方は,ますます困難となるでしょう
J
(エコノミスト,1 6 5
頁)0次に,金融政策について,彼は金融政策はインフレ対策としては一番抵抗 の少ない手段であり,財政政策より好ましいとしながらも,大企業の自己金 融能力の増大という現象に着目し,次のように述べている。1"財政・金融政 策が大企業部門に影響をおよぼす前に,それは競争的な個人企業部門で表れ はじめるD 乙の部門では,前述したように,物価は,需要抑制のための財政
・金融手段に反応を示します。また,この部門に属する産業は,住宅および 建設業がもっとも目立つケースだが,借り入れ金の上に成り立っているD そ の結果こうした企業は,金融活動一一銀行貸付の制限一ーに特に弱いことに なります(乙の弱みは,資本蓄積の利益をもち,かつまた外からの資金を必要とする ときは銀行の優先顧客となれる大法人企業の立場と全く対照的である)。
かくて,経済の大企業部門でインフレが続行しながら,他の半分の経済部 門には農産物価格の低下や痛ましい景気後退がありえます
J
(エコノミスト
,
1 6 3
頁)。以上のように,カツレプレイスは日本諮演の中で,現代のインフレに対する
ガソレフ'レイスの現代資本主義危機論
5 1
財政・金融政策の無力化の理由を説いているのだが,少しばくぜんとしているので, この点を鹿島涜彦氏によって補足すると,ガノレフ。レイスは財政・金 融政策が現代において無力になった理由を,次のようにみている2)口
財政政策が有効でない理由
増税で需要をおさえインプレーションを防止しようとしても,人びとの抵 抗にあうし,公共支出の削減は,波及効果を及ぼして完全雇用を維持するよ う生産水準を高く保つことができなくなって,失業者を出すので,完全雇用 という前提と矛盾する。したがって実行不可能である。
金融政策が有効でない理由
(イ) 公定歩合の引き上げによる投資と消賀の抑制は,消費者・金融関係者 の反対に合う。さらに, この政策を強行すれば,消費需要を縮小してしま い,経済の縮小という悪影響を招くO
( ロ )
金融の引締めは,完全雇用をめざす成長政策と矛盾する。け 引締めの影響をうけるのは小規模企業であって,大企業ではない。ビ ッグ・ビジネスには自己金融調達方式(社内留保を十分とってあり,投資を このような自己資金でまかなう)が発達しているので,影容をうけず, した がってインフレーションの根源に効果を与えることはできない。
以上のような理由をもって,ガソレプレイスは伝統的なケインズ的財政・金 融政策は,現代の新しいインフレーションに適用できないと主張するのであ
る
O( 2 )
次にインフレと失業の並存,いわゆるスタグフレーションの問題につ いてであるが,この点についてのガノレプレイスの説明は,それほど説得力を もっているようには思われない。彼はスタグフレーションが発生する理由を 次のように説明しているI
インフレに対処するための伝統的な方法,言い 換えればケインズ学派の方法は,インフレは総需要の過剰によって引き起こ されると仮定しています。そこで,インフレと闘う方法として財政政策と金 融政策が指摘されることになります。財政政策は公共支出が生み出す需要を 低減し,あるいは租税政策を通じて個人消費支出の需要を低減します。金融 政策は借り入れ資金が生み出す需要を低減するO しかし,財政・金融政策は価格および所得を左右する力を獲得した個人および組織の所得を押し上げよ うとする力を抑制することはできません。財政・金融政策はやり方によって は生産高と売上高を柏少し,失業を招くように作用するはずのものです。だ が,失業がiti大し景気後退が深刻である時にだけ,所得を押し上げようとす る力が抑制されることになるO そうした時だけ企業は売上高を守るために値 下げし始め,組合は失業を恐れるあまり賃上げ要求を低く抑えるのです。そ の問,われわれは失業とインブレの双方を制せ持つことになるO 以上の説明 で,失業とインフレの並存の理由がおわかりになったと思う
J
(エコノミスト,
1 5 3
頁)0この説明は,インフレがなぜ持続するのかという乙とに対して回答を与え ても,スタグプレーションがなぜ生じるのかということに対しては,十分な 回答を与えておらない。なぜなら,もっとも説明を要する失業あるいは不況 という問題に対して,ほとんど説明がなされていないからであるO インフレ が持続している状況の中で,失業という事態が発生すれば,スタグフレーシ ョンという現象が生じるのは当然であるO しかし,ただそれだけであれば,
それは単なる現象の指摘でしかない。問題はどうしてインフレという情況の 中で失業あるいは不況という事態が生じたかということであるO この点につ いての説明がないかぎり,スタグフレーション発生の理由に関するガノレプレ イスの説明は,不十分だというそしりを受けてもいたしかたないであろうD
インプレーションは説明できても,不況あるいは失業の原因は説明できない ー一一これが彼の理論の弱点であり,その怠味でケインズ理論とは対照的なよ うに思われるD もっとも,
r
資本主義の社会的問題=、病弊グであった貧困,不平等,不況,失業などはほぼ解決した 」とするガノレフゃレイスの現実認識3)
からすれば,現在,資本主義世界が経験している不況,失業などは問題にな らないのかもしれないが。
( 3 )
次に対外的な問題,為替相場の不安定についてであるが,ガルプレイ スによれば,これは各国聞におけるインフレ率格差によって説明される。し かし,インフレは先にもみたように,各国における所得を押し上げようとす る力によって説明されるから,為替相場の不安定は結局,各国聞における労ガノレプレイスの現代資本主義危機論
53
働組合を典型とする圧力団体の交渉能力の相違によって説明される乙とになるD 具体的に言うと,所得を押し上げようとする力の強い国ほど,あるいは 労働組合の力の強い国
(α
・米・英)ほどインフレ率は高く,その力が弱 い国ほどインフレ率は低くなるD このような圧力団体の交渉能力のちがいに よって生ずる各国間のインフレ率格差が,W J
揺きわまりない現在の為替相場 の不安定を説明するのであるD かくて,為替相場の動揺という国際的問願 も,ガノレ7+レイスによれば,現代の資本主義を措抗力経済(=賃金の労働市 場からの離脱)ととらえる基本的な線に沿って説明されることになる。( 4 )
次に古い工業国の地位の低下と新しい工業国の台頭という国際経済に おける不均衡発生の問題についてであるが,ガルプレイスは乙れを産業の成 熟とそれに伴う労働者の労働に対する態度の変化から説明している。大企業 体制の発展につれて,労働者はそれに対抗するものとしての強力な組合を組 織し,賃金を圧力によって支配する手段を獲得することが可能になってくるo 他方,産業の老齢化および、成熟につれて,労働者の労働に対する態度は 変り,過酷で卑しい仕事は拒否され,人々は一生懸命働かなくなるo かく て,老熟化した経済社会では,高賃金と生産性の低下が支配的となり,この ことが米・英のような老熟化した国と, 日本のように比較的若い工業国で,
最良の資本設備と働く怠欲ある若い労働者とを結ひ、つけることができる国と の間の,不均衡な発展を説明する理由なのだとガルプレイスは主張するので ある心。われわれは,ここにも彼の拾抗力理論が貫徹しているのをみること ができる。
(5) 次に一次産品,特に石油価格の大きな劫揺という問題についてである が,この問題も現代の資本主義を
J
古抗力経済ととらえるガノレプレイスの理論 大系からすれば,それほどの説明を要しないであろう。前にも述べたよう に,市場からの離脱によって,すなわち所得が市場機能に従属しなくなるに つれて,所得はそれを押し上げようとする強い圧力に服するようになった。今や,大企業は写占によって,労働者は強力な組合をパックに自らに有利な 所得を決定できるD 石油価格の問題もこのように考えられるのであって,石 油価格を左右する
OPEC
も,カツレプレイスによれば,先進国に対する1
つの国際的レベノレでの措抗力なのであるo すなわち,
rOPEC
は,先進工業 国で市場が管理されているように,第三世界諸国による市場支配を実現さ せ,価格をコントローノレしようとする努力の成功例なのであるJ
(エコノミ スト,1 5 0 頁)
0 従って, 石油価格の大幅な上昇, 不安定はこのような拾抗 力関係のアンバランスに帰因していることになり,その安定のためには拾抗 力のバランスがどうしても必要ということになるoかくて,石油価格の動揺という問題も彼の措抗力理論から説明されることになるo
( 6 )
最後に各国経済内部における発展の不均衡の問題であるが,これは産 業聞における発展の不均衡の問題=いわゆる経済の2
重構造の問題と,私的 に生産される財貨およびサービスの供給と国家によるそれとの聞のアンバラ ンス=いわゆる社会的アンバランスの問題とにわけることができる。前者の 問題は,大企業とそれ以外の競争的な個人産業,たとえば住宅産業,消費者サ ービス業,農業等との聞の発展のアンバランスの問題であり,基本的lこは, 大企業が技術革新能力,市場支配力, 自己金融能力によって強力に発展で きるのに対し,それ以外の企業はそういった能力をもたないことに帰因する
Dまた,インフレ抑制策としての金融政策も,ガノレブ、レイスによれば,こう いった不均衡を拡大する作用をもっO なぜならば,金融政策は自己金融能 力,市場支配力を兼ねそなえた大企業にはあまり効力はなく,借入金に大き く依存している住宅その他の競争的個人産業にきわめて不利な差別的な影響 をおよぼすからである。
こうした不均衡は,また,大企業部門と競争的個人産業部門聞の所得の不 平等をも説明する。というのは,経済の発展が不均衡なのは,基本的には,
両部門間における支配力に差があるからであり,部門聞の所得の不平等も同 じところからきているからであるo一般的にいって,大企業体制は,市場体 制への売渡し価格と,市場体制からの買入れ価格を左右する力をもっているD
そのため,取引条件はいつも大企業体制に有利になる傾向があるD い い か えれば,大企業が小企業を搾取する能力をもっていること, これこそが両 部門間の所得の不平等を説明する最大の要因なのである。また,小企業部門
ガJレプレイスの現代資本主義危機程
5 5
(低所得部門)から大企業部門(高所得部門)への労働者の移動が困難なの ふ大企業で働く労働者と小企業で働く労働者の所得の不平等を説明する1
つの要因になるoそれではこうした不均衡および所得の不平等はどのようにして是正される のであろうか。ガルプレイスによれば,それは大企業を規制する乙とによっ てではない。むしろ,彼の観点からすれば,寡占や独占は,現実の生活を最 良に発展させるもっとも賛美される対象なのである口彼は次のように述べて いるo
「高度に組織化された経済部門は,重役に高い俸給を支払い,労働者には 高い賃金を支払うo この体系の内側の人々はその結果,その外側の人々に比 べて,高い所得増加傾向をみせます。われわれが注目すべきはまさにこの点 なのだが,新古典派経済学の最も主要な教義の
1
つは,ほとんど無残なほど この点を無視しています。その教義は独占や寡占について心配し,競争的市 場を賛美しているが,現実の生活では,われわれは寡占によってこそ最良の 発展を得ているのです。売り手が小規模でかつ無数に存在する場合には,多 くの問題を抱えることになる。教科書の説く内容が妥当なものとなるために は,全く逆に解釈されねばなりませんJ
(エコノミスト,155‑156
頁)口それではこうした不均衡・不平等はどのようにして是正されるのか?この 点について,ガルブ、レイスは,講演の中ではl'住宅産業,無数の消費者サ ービス業および良業等の部門においては,政府の補助なしには発展はとても 期待できません
J
と述べるだけで,具体的な方策をほとんど示していない。そこで,彼の「経済学と公共目的」に依拠して,この点を補ってみると,
彼は大企業部門と競争的個人産業部門との関係を根本的に是正するには,両 者の支配力を平等にすることが必要だと考えている5) 口そのためには,国家 の補助によって,競争的個人産業部門の市場支配力を強化しなければならな いD その具体的処方策は次のようなものである。
( イ )
価格と生産の安定をはかるための共同行為を禁じている,反トラスト 法のあらゆる禁止規定から,小企業を全面的に免除する乙とO( ロ )
市場休制の価格と生産を,政府が直接規制すること。このことによって,もぐりの防止と生産の効率を高めることができるO
け
市場体制下の労働組合づくりを強力かつ効果的に促進することD この ことによって,競争的個人産業部門で働く労働者の交渉力を強化することが できる。( ニ )
最低賃金の適用を拡大するとともに,大幅な増額をおこなう乙とD 乙 のことによって,大企業部門と小企業部門との賃金格差を縮少することがで きるo(
村
国際商品の仕組を見直すとともに,市場体制での関税保護についても 慎重に考え方を改めること。これは国際商品協定や関税を競争的個人産業部門の強化に役立たせることを意味する。
ト) 教育,資本およびテクノロジーについて,市場体制の必要とするもの を政府が強力に援助することo
以上がガjレプレイスが言う不均衡是正のための改革案であるが,この改革 案の基本的柱は,大企業部門と対等の交渉力をもつための足がかりとして,
中小企業の経営者と自営業者を組織すること,最低賃金制を今よりはるかに 強力に活用する乙と,および,これまで最も必要とされながら最も軽祝され てきた分野における,労働組合の組織を強力に支援することであるo ガノレブ、 レイスは,このような改革案によって,大企業部門と競争的個人産業部門間 の不均衡および所得の不平等は解消されると主張するのである口
次に社会的アンバランスの問題であるが,乙の点、も,カツレフ、、レイスは詰演 の中で詳しく述べていないので,若干の補足を必要としようD 社会的アンが ランスの問題とは,前にも述べたように,私的に生産される財貨およびサー ビスの供給と国家によるそれとのギャップを言うのであるが,ガ、ノレプレイス によれば,ギャップを生みだす基本的内在的傾向は, .現代資本主義に内在す る、依存効果H によって生じる口依存効果とは次のようなものであるO
「社会が裕福になるにつれて,欲望を満足させる過程が同時に欲望をっく り出していく程度が大きくなる。これが受動的におこなわれることもある。
すなわち,生産の増大に対応する消貨の増大は,示唆や見栄を通じて欲望を っくり出すように作用するD あるいはまた,生産者が積極的に,宣伝や販売
ガソレプレイスの現代資本主義危機論
57
術によって欲望をっくり出そうとする乙ともあるD 乙のようにして欲望は生 産に依存するようになるD 専門的な用語で表現すれば,全般的な生産水準が 低い場合よりも高い場合の方が福祉はより大きい,という仮定はもはや妥当 しない。どちらの場合でも同じなのかもしれない。高水準の生産は,欲望造 出の水準が高く,欲望充足の程度が高いというだけのことであるo欲望は欲 望を満足させる過程に依存するということについて今後もふれる機会がある と思うので,それを依存効果( D e p e n d e n c eE f f e c t )
と呼ぶのが便利であろう
6〉」。簡単にいえば
r
欲望<=需要>はいまや欲望を満足させる過程<=生 産>に依存するの」という現象が依存効果なのである。社会的アンバランス の問題は,公共的な生産と私的な生産との聞の決定にどんな影響力が働いて いるかという問題であり,依存効果がその決定に重要な役割を果すのであ るD たとえば,消費者は広告と見栄の力によって影響されている。それらに よって生産はそれ自身の需要をっくり出している。広告と見栄は,私的に生 産される財貨とサービスに対して作用するo広告と見栄の効果とが私的生産 にとって有利な倒きをするので,公共的サービスは本質的におくれをとる傾 向をもつのであるD 次のガノレブ、レイスの言葉は,この点でまさに示唆的であ るor
今や最高の発展段階に達したマスコミの力は,社会の耳目をより多く のビーノレに向けるけれども,より多くの学校には向けない」。かくて,現代 資本主義は,依存効果の作用によって,公共的サービスを私的な生産より常 におくらすという,社会的アンバランスの問題をひきおこす内在的な傾向を もつのであるoこの他,ガノレプレイスによれば,公共的サービスの改革や新しいサービス を提供する場合の財源調達の問題や,インフレも社会的アンバランスをひき おこす要因となる。財源調達の問題については,説明するまでもないと思わ れるので,インフレについて説明すると,ガノレプレイスは,インフレが社会 的アンバランスをひきおこす理由を次のようにみているD
インフレとは,雇用が労仰の供給を上廻り,民間の賃金・体給が上昇する ことを;古味する。賃金の上昇がインフレ過程の一部である以上,大企業で働
く労働者は,インフレに対して自動的に適応する。また,未組織の労働者も 物価が上れば,給料をあげてもらえる。それに対して,公務員は,彼の給与 表が形式的であり,給与体系の改訂には長い時間を要するため,インフレに 対して即座の対応措置がとれない。
r
インフレによって最も救いがたい犠牲 を受ける人は公務員」なのであるoかくて,インフレは公共的な仕事から民 間の仕事へ移る絶好の機会を提供することになり,佼秀な人材が民間へ苓わ れる乙とによって,社会的アンバランスはますます促進されることになるの である。では,どのようにしたら社会的アンバランスは解消されるのであろうか。
それは,部門聞の不均衡是正の所で述べたのと同じように,大企業体制をコ ントローノレする乙とによってではない。ガlレフ、、レイスはその解決策を,連邦 政府および地方自治体の財源に求めている。
まず,連邦政府について言うと,連邦政府はもっぱら個人および法人所得 税に依拠して社会的ノマランスを達成することでなければならないD そのため には,連邦政府が州および市町村の自己資金による支出(連邦政府からの補 助金を除いたもの)にほぼ等しい戦争,国防,および宇宙関係、の支出の大部 分を削減して,各段階の政府の非軍事的サービスに使えるようにする乙とで なければならない。
次に,社会的アンバランスがもっともひどい州および、市町村について言う と,乙れらの地方自治体は,社会的アンバランスを解消するために,売上税 を広範に活用しなくてはならない。ガソレフ、、レイスによると,売上税と社会的 ノてランスとの関係、はきわめて直接的であり,社会的バランスの達成に,たと えば,次のような効果をもっ。
r
映回,テレビ,ラジオ,タバコをより高価 にすることによって,学校にーそうかねをまわす乙とができるD 石鹸,洗 剤,真空掃除機を買う場合に余計に支払う乙とによって,都市をもっときれ いにし,それらのものをすこししか使わないですむようにすることができ る。自動車とガソリンをもっと高くすることによって,自動車がその上を走 るもっと快適な道路と街路をつくることができるD 食料品は比較的安いか ら,それに課税することによって,医療は改善され,よりよい健康状態で食カ、ソレフ'レイスの現代資本主義危機論
5 9
料を享受するととができる 」。すなわち,売上税は私的財貨をより高価に8)することによって,公共的財貨およびサービスをよりいっそう豊富にすると いう効果をもつのであるロガルプレイスは,このように,公共当局の努力に 社会的アンバランス解消の道を求めるのであるo
(四)
以上, 日本講演をもとに,ガルプレイスの現代資本主義危機論を紹介して きたが,全体を通して,彼の資本主義危機論は「市場からの離脱」という現 象に着目した,拾抗力理論の上に組み立てられてきたという乙とがいえるo
インフレは労働組合,大企業,消費者との拾抗力関係で説明され,為替相場 の動揺,先進国聞における発展の不均衡も各国経済内部における拾抗力の相 違によって説明された。石油価格の高騰も
OPEC
と先進国との措抗力関係 によって生じた一種のインフレであり,部門聞の不均衡発展,社会的アンバ ランスも,大企業と競争的個人産業部門,大企業と公共当局間の拾抗力関係 で考えることができる。そして,これらの諸問題はほとんどすべて,インフ レと社会的アンバランスの問題に集約できるといってよいだろう。それで は,乙れら二つの問題はどのようにして解決できるのであろうか。部門聞の 不均衡・不平等,社会的アンバランス解消の道についてのガ、jレプレイスの意 見はすでに述べたので,ここでは,インフレについての彼の考えを紹介するととにする。
カツレプレイスは,現代資本主義を出抗力経済ととらえる視点から,インフ レに対応する道を,政府の直接介入による包括的所得・価格政策に求めてい るo彼は次のように述べている。
「かくして,経験から得る結論は,より成熟した産業国家で、は,非常に多 量の失業を喜んで受け入れる意思のないかぎり,インフレは財政・金融政策 のみによって食い止めることはできない,という乙とになります。残る唯一 の選択,それは,失業によって所得と物価を抑制するのではなく,直接介 入一一所得・価格政策によって抑制する方法です。そのような方法は,オー
ソドックスな財政・金融政策による需要管理法に代わるものではなく,それ に対する不可欠の補足手段なのです
J
(エコノミスト,163‑164
頁〉。「すべての政治家が約束するように,失業とインフレを効果的に減らそう とするならば,抑制策がなければならない。私が
CIPP
(包括的所得・価格 政策ComprehensiveIncomes and P r i c e s P o l i c y )
と呼んできたものがな ければならない。進化している産業組織は,それなしにはうまく機能できま せんJ
(向上,1 6 4
頁)0「私は,所得を直接抑制し,そうすることで低失業率と安定価格とを調和 させる努力が,今後,長年の間の経済政策の中心主題であろうと,確信して います
J
(向上,1 6 4
頁)0それでは,その包括的所得・価格政策の中味とは,具体的にどのようなも のであろうかロ残念ながら,ガノレプレイスは, 日本での諮演では,そこまで ふれていない。そ乙で,再度,彼の「経済学と公共目的」に依拠して,この 部分を補足してみたい的。
力、、ノレフやレイスによれば,①まずコントローノレが適用されるのは,団体交渉 によって決まる賃金,および計画化体制(大企業部門)のもとにある企業の 製品価格だけに限られるO この場合,コントローノレは総需要と
1
国の経済 が供給できるものとをほぼ一致させる財政政策にとって代わるものではな く,その実現になくてはならぬ補助手段にすぎなし九②次に, コントローノレ は必ずしも賃金や物価の凍結を必要としない。賃上げは大企業部門の平均生 産性が上昇するかぎり,その範囲内で認める乙とができる口③次に,賃金の コントローノレは賃金や所得の格差を凍結しではならない。それど乙ろか,そ うした格差を縮めるために,積極的に利用されるべきであるo ④次lこ,コン トローノレの実施にともなう不平等と不公正は,低生産性部門の低すぎる価格 や賃金を次第に引き上げていく乙とによって,緩和されなければならばい。この場合,物価の上昇が予想される (なぜならば,高い価格の引下げを命ずるこ とによって,調整をはかる乙とほ困難だからである) が, 乙のようにしてお乙る 物価上昇ほ,賃金と価格との相互作用によって生じる物価上昇とは性質が呉 るので,許されなければならない口⑤最後に, コントローjレを効果的なもの
ガソレフ.レイスの現代資本主義危機論 6 1
にするには,どうしても,公的権力の行使が必要になる
o政 府 は , 公 共 利 益 の達成という目標に照らして,妥当な価格と賃金を決定し,企業と労組をそ れに従わせなければならない。
これが,ガソレフ、、レイスが念頭にえがいている包括的所得・価格政策の中味 であり,現代の新しいインフレ=コスト・プッシュ・インフレは,このよう な政策の実行によって解消されるのである
D以上, 日本での講演をもとに,力、ソレプレイスの現代資本主義危機論,およ び 危 機 に 対 す る 対 応 策 と い っ た も の を み て き た 。 彼 の 現 代 資 本 主 義 危 機 論 は,みごとなほど,措抗力理論大系の上に構築されてきているが,問題とす べき点も多い。しかし,ここでは,彼の現代資本主義危機論を紹介したにと どめ,詳しい検討は別稿にまわすことにしたい。
(注)
1 ) 鹿島暁彦「ガソレブ、レイスーー寡占経済と平衡力の理論」長州一二・宮塚文太郎約
「現代の資本主義観』至誠堂新書, 1 9 6 5 年 , 1 1 7 頁 。 2) 同書, 135‑136 頁 。
3) 同書, 1 2 9 頁 。
4) 乙の問題ば,黒人労働者,外国人労働者の移入によって,ある程度緩和される と,ガノレプレイスは考えている。
5) J . K. 、 ガ
jレフーレイス,久我笠雄訳『経済学と公共目的』河出書房新社, 1 9 7 5 年.
第