米国における外貨換算会計
基準の発展とその問題点(2)
嶺輝子
〔目 次〕
1.はじめに
2.FASB基準書第8号以前の外貨換算規定 3.FASB基準書第8号の検討
(1)基準書第8号の基本的な考え方
(2)基準書第8号の規定する換算手続
(3)為替(換算)差損益の処理
(4)基準書第8号に対する批判 4.FASB基準書第52号の検討
(1)基準書第52号の基本的な考え方
(2)機能通貸アプローチによる換算手続
(3)換算差損益の会計処理
(4)基準書第52号に対する批判 5.外貨換算方法の選択上の問題点
6 おわりに
(以上,前号)
(以上,本号)
(以下,次号)
4.FASB基準書第52号の検討
FASBは,1979年から,基準書第8号に向けられた不満や批判を解消な いし回避するための作業を開始し,1980年8月に,外貨換算に関する新しい 提案を盛り込んだ公開草案(35)を公表した。この公開草案に対して360通以上の コメントが寄せられ,また,公聴会でも意見が述べられた。これらに基づい
FASB, Exposure Draft: Foreign Currency Translation, August 28, 1980.
て討議した結果,修正を加えて,
1981年
6月に,改訂公開草案。。が公表された。
この改訂公開草案に対しても
260通以上のコメントが寄せられたので,再度,
討議し修正を加えて
1981年
12月に公表されたのが,基準書第5
2号「外貨換算」
である。
(1)
基準書第5
2号の基本的な考え方 ( イ ) 外貨換算の目的
基準書第
52号は,外貨換算とは「他の通貨で建てられたり,又は測定され ている金額を企業の報告通貨に表示替えするための手続」
(3nであると定義する。
そして,外貨表示財務諸表の換算に当たっては,企業グループの各構成事業 単位の業績なり,各構成単位相互間の関係がもつ意味までも変えるべきでは ないという。そのためには,各構成事業単位のそれぞれの外貨表示財務諸表 の換算は,次の目的を達成しなければならないと規定する。
r a.
為替レートの変動が,企業の資金の流れ及び、持分に与えると予期さ れる経済的効果と一般的にいって首尾一貫した情報を提供する。
b.
米国で一般に認められた会計原則に従って機能通貨(
functional currencies)で測定された個々の連結事業単位の財務成績や項目聞の 相互関係を連結財務諸表の上に反映する。
J38)基準書第5
2号は
aの目的を基本的なものとして位置づけた。これは,基 準書第
8号に向けられた,会計上の結果(換算結果)が在外事業単位(測の経 済的現実を適正に反映していないよいつ批判に応えたものである。経済的現実 を適正に反映させるためには,為替レートの変動が企業の二つの経済的局面
(36) F ASB
,
Exposure Draft侭
evised):Foreign Currency Translation,
June 30,
1981 .
(37) FASB2,
op. cit.,
para. 162;国際委員会訳『前掲訳書.!l
372頁 。
側
FASB2,
op. cit.,
para. 4;国際委員会訳『前掲訳書.!l
309頁 。
仰)1 r
在外事業単位
J(foreign entity)と は 財 務 諸 表 が
(a)報告企業の報告通貨以外の 通貨で作成され
(b)報告企業の財務諸表と結合されたり,連結されたり,又は持分法で 会計処理されたりする事業(例えば,子会社,部門,支庖,合併事業なとー
)J(FASB2,
op. ci. , t
para. 162;国際委員会訳『前掲訳書.!l
372頁)のことであった。実質的には,
基準書第
8号でいう「在外事業体
J(foreign operation)と同じである。
米国における外貨換算会計基準の発展とその問題点(
2 )9 5
一ーキャッシュ・フローと持分ーーに及ぽす影響と,会計上の結果とが整合 していなければならない。例えば,為替レートの変動が企業に有利な影響を 与えている場合には,会計上の結果も持分の増加となるように,逆に不利な 影響を与えている場合には,会計上の結果も持分の減少となるように,また,
為替レートの変動がキャッシュ・フローに流入または流出として影響を与え ると予想される場合には,会計上においても損益計算上の利益ないし損失と して反映されるように, もし為替レートの変動のキャッシュ・フローに及ぽす 影響が実現までに程遠く,かっ不確実で、あれば,当期の損益計算に含めない
ような結果になるように,換算が行われなければならない。
以上述べたように
aの目的は,為替レートの変動が在外事業単位に与え る影響(経済的効果)を換算の結果(換算後の財務諸表)に適正に反映させ ることを意図したものであるが,その影響は,比較的自己充足的かつ自己完 結的な在外事業単位と,本屈または親会社の国内事業の単なる延長に過ぎな い在外事業単位とでは,異なると考えられているのである。この独立的在外 事業単位と従属的在外事業単位との聞に存する経済的実態の相違点が十分に 認識されなければ,いかなる換算方法も信頼に値する結果を生み出すことは できないというのが,基準書第
52号の基本的な考え方の一つである。ここで 注意すべきことは,独立的在外事業単位であるといっても,それは単一経済 実体である企業グループの構成員としての基本的性格を有しているという点 である。つまり,単一経済実体の構成員の中に,報告企業(本庖または親会 社)との関係が比較的独立的な事業単位と,一層従属的な事業単位とが存在 するということである これら二種類の事業単位を識別することの意義は,
先に述べたように,為替レートの変動が与える影響の相違という点と,後に 述べる,測定単位としての機能通貨の相違という点に求められるのである。
次に, bの目的は,機能通貨によって測定された結果(経営成績および財
政状態)の原型を,そのまま換算の結果に反映させることを意図したもので
ある。したがって,この場合には,換算によっても測定単位の変換は行われ
ない。換算は,ただ単に,表示単位を機能通貨(外貨)から報告通貨(本庖
または親会社が本支庖合併財務諸表または連結財務諸表を作成し公表すると
ころの通貨)に変換することを意味するにすぎない。換言すれば,機能通貨を も報告通貨と同様に測定単位として認めるといつことであり,複数測定単位アフ。
ローチの採用ということになる。この点で,換算を,測定単位と表示単位の両 者の変換と解して,単一測定単位アプローチを展開した基準書第
8号と異な る特徴を示している。それはともあれ,基準書第
52号は在外事業単位の機能 通貨を測定単位として認めるところから,この複数測定単位アプローチのこ とを「機能通貨アプローチ
J(functional currency approach)と呼んでい る。そして,基準書第
8号が採用した単一測定単位アプローチに代わるこの 機能通貨アプローチを,換算目的
aおよび
bを達成するための基本的な考え 方として採用したのである。
(司機能通貨概念
基準書第52 号によれば r ある事業単位の機能通貨は,その事業単位が事 業を行っている第一次的に重要な経済環境における通貨である。通常それは,
事業単位が主として資金を稼得し,かっ費消している経済環境における通貨 である」
(4l)と定義されている。そして,比較的自己充足的でかつ自己完結的な 在外事業単位の場合には,その機能通貨は,一般的にいって,その現地図の 通貨(外貨)であると考えられる。というのは,かかる在外事業単位は,主 として外貨を稼得し外貨を費消するし,また,当該事業の生み出した外貨の 正味キャッシュ・フローをそのまま再投資したり,あるいは,その外貨を報 告通貨(親会社ないし本屈の通貨)に換えた上で親会社ないし本庖へ送金し たりするからであり,このような場合には,外貨こそが,上記の機能通貨の 定義を満たしているといえるからである。これに対して,その事業内容が親 会社ないし本屈の事業にとって直接的かっ不可欠な部分であったり,また,
親会社ないし本底の事業の単なる延長にすぎないような在外事業単位の場合 には,その機能通貨は,一般的にいって,親会社ないし本庖の通貨であると 考えられる。というのは,かかる在外事業単位は,主要な資産を親会社ない
(40) FASB2
,
Op.c it , .
para. 69;国際委員会訳『前掲訳書.!
340頁。 (4
1 )
FASB2,
op. ci, . t
para. 5;国際委貝会訳
r前掲訳書.!
310頁。米国における外貨換算会計基準の発展とその問題点(2) 97
し本庖から支給されるか,さもなければ報告通貨で取得し,また資金も,主 に親会社ないし本庖から直接支給されるか,さもなければ報告通貨により調 達するというように, 日々の事業活動が報告通貨の経済環境に依存しており,
また,当該在外事業単位の個々の資産および負債の移転が,報告通貨による 報告企業のキャッシュ・フローに直接的に影響を与えるからであり,このよ うな場合には,報告通貨が上記の機能通貨の定義を満たしているといえるか らである問。
ある在外事業単位の機能通貨がどれかという問題は,基本的には事実の問 題であるが,事実に照らしても,常に機能通貨を明確に決定できるとは限ら ない。機能通貨の決定は,最終的には経営者の判断に依存しなければならな いが,その判断をする上で,個別的かつ全体的に考慮、しなければならないも のとして,基準書第 52 号は,次の六つの経済的指標を掲げている問。
指 標 外貨が機能通貨と判断される場合 親会場社の通貨が機能通貨と判断さ れ る 合
a.キャッシュ・ 在外事業単位のキャッシュ・フロ 在外事業単位のキャッシュ・フロ フロー ーが基本的に外貨によるものであ ーが常時,親会社のキャッシュ・
って,かつ親会社のキャッシュ・ フローに直接的な影智を与え,か フローに直接的な影響を及ぼさな つ親会社の送金についても利用で
い場合。 きる状況にある場合。
b.販 売 価 格 在外事業単位の製品の販売価格が 在外事業単位の製品の販売価格が 短期間には為替レートの変動より 短期には為替レートの変動に敏感
もむしろ当該国内の競争や当該国 に反応して決定される場合。
政府の規制によって大きな影響を 受け決定される場合。
c . 版 売 市 場 在外事業単位の裂品について,カB 販売市場が主として親会社の国内 なりの輸出がある一方,当該国内 に存在するか,または販売契約が での活発な販売市場が存在する場合。 親会社の通貨建てである場合。
d. 1? 用 在外事業単位の製品やサービスの 在外事業単位の製品やサービスの 労務
n .
材料費,その他の原価の 労務費,材料費,その他の原価の 大半が当該国内で調達されたもの 大半が継続的に親会社の国内から(42) FASB2, op. ci, t.paras. 6, 80 and 81;国際委只会訳 r前掲訳書.s310頁および344 頁。
( ω
F ASB2, op. ci ,t.para.
42; 同際委貝会訳U" jìîH~ 訳書.!
329‑330頁。の原価である場合。 調達されたものから構成されてい る場合。
e
.財 務 資金調達が主として外貨建てであ 資金調達が主として親会社に依存 り,在外事業によって稼得される するかまたはドル建てであり,イ
:1資金が現在の,または通常予想、さ 外事業によって稼得される資金が れる債務を賄うのに十分で・ある場 親会社の追加投資なしには,現在
メ
E3L。 の,または通常予想される債務を 賄うのに不十分である場合。
f .関係会社間 在外事業単位と親会社との間の取 在外事業単位と親会社との問の取 の取引およ 引 が 少 な し ま た 両 者 の 事 業 聞 に 引が多く,広範囲な相互依存関係 び契約 も広範囲な相互依存関係がみられ がある場合。
る場合。
上記のような指標に関する事実および状況が個別的かつ全体的に考慮され て,在外事業単位の機能通貨が一旦決定されたならば,その事実および状況に 著しい変化が生じ,機能通貨の変更が明白にされない限り,その機能通貨は,
変更されるべきではなく,一貫して測定単位として使用されることになる刷。
付 機 能 通 貨 ア プ ロ ー チ
外貨換算についての機能通貨アプローチの背景には,二つの基本的な考え 方がある。その一つは,報告企業が為替リスクに晒されているのは在外事業 に対する純投資額の範囲においてであるという考え方である。この考えは広 義のへッジングの概念
(45)から来るもので,事業単位に対して機能通貨建ての収
制)
FASB2,
op. ci, . t
para. 45;国際委員会訳『前掲訳書.!331頁 。
(45)
このへッジング概念は,イギリスの相殺補填概念
(coverconcept)と同種のもの である。イギリスは,かねてから純投資額理論に基礎を置く決算日レート法を主張し ていた。ここでは
r親会社の外貨建て債務の換算に決算日レートを採用する場合に,
海外子会社に対する投資の資金の調達に用いられた借入額の換算によって生ずる換算 差額は,その子会社に対する純投資額の換算によって連結財務諸表上の資産額に生ず る換算差額によって相殺補填
(cover)されているといっ考えをとって」いたのであ る。なお,
F A S Bが資産と負債のへッジングを一つの根拠として決算日レート法を 主張した背景には,
1980年の春に,
F A S Bとイギリスの会計基準委員会 (A. S.c
.)とカナダの勅許会計士協会
(C. 1. C. A.)との代表が懇談し,合意に達し
たという事実を見逃すことはできないであろう(中島省吾「外貨表示財務諸表換算基
準の新展開」企業会計3
4巻
1号
(1982年
1月 ) ,
6頁 ) 。
米国における外貨換算会計基準の発展とその問題点(2 ) 99
益を生み出す資産は,同じ通貨での支払を要求される負債の有効なへッジン
グになり得るのて三つまり,同じ通貨建ての資産と負債は為替リスクに対し て相互にへッジしあうので,実質的には正味資産額だけが為替リスクに晒さ れるということを根拠にしたものである附
もう一つは,報告企業は在外事業単位に投資しているが,その報酬は,当 該在外事業単位がその現地国の経済的,法的および政治的環境の中で稼得し た,外貨による利益の報告通貨相当額であるという考え方である。「この考 え方に従えば,米国で一般に認められた会計原則に準拠し,しかも機能通貨 で測定されたところの在外事業の財務諸表こそ,その業績及び財政状態につ いての最も有用な指針であるということになる」
(47)のである。つまり,このこ とは,報告通貨を測定単位として算定された「報告通貨による利益」額より も,機能通貨を測定単位として算定された「機能通貨による利益」の報告通 貨相当額の方が当該在外事業単位の業績を適正に示しており,また,報告企 業の投資に対する報酬として寄与するのも,在外事業単位の真の業主立を示し た「機能通貨による利益」の報告通貨相当額であるということを意味してい る 。
上 記 の よ う な 機 能 通 貨 ア プ ロ ー チ の 背 景 に あ る 二 つ の 基 本 的 な 考 え 方 は,為替リスクに対して相互にへッジされだ資産および負債からはいかな る為替換算差損益も発生せず,正味資産=純投資額についてのみ為替換算 差損益が発生するょっな結果となり,かつ,外貨表示財務諸表に表示され ている業績および財政状態の本質をそのまま維持することのできる換算方 法として,すべての資産および、負債項目に決算日レートを適用する決算日
(46) F ASB 2
,
Op. ci, . t
para. 94;国際委只会訳「前拍訳者J349頁 。
臼
) F 7 ASB2,
op. ci, . t
para. 97;国際委只会訳
liiiii拘訳書
J350頁 。
レート法
(48)を導き出すことになるのである。
( 2 ) 機能通貨アプローチによる換算手続
基準書第
52号によれば,機能通貨アプローチは,次のような諸点が内包さ れているといっ。
fa. 事業単位の経済環境の機能通貨を確定する。
b.
財務諸表の全項目を機能通貨で測定する。
c.
機能通貨と報告通貨が異なっている場合には,機能通貨から報告通貨 への換算にカレント・レートを用いる。
制) イギリスの標準会計実務基準書
(SSAP)20号「外貨換算
(Foreign currency translation)は , ほ と ん ど の 外 貨 表 示 財 務 諸 表 の 換 算 に は 決 算 日 レ ー ト ニ 純 投 資 法
J(The c1
0sing rate / net investment method)が適用されるべきであると規定し ている。その論拠は,次のように考えられる(J
ohn Flower,
F oreign Currency Translation, "
in Christopher W. Nobes&
Robert H. Parker ed.,
Comparative International Accounting,
Philip Allan,
1981,
pp.310‑311)。
(a)
多くの場合,在外子会社は,かなり自律的である。例えば,どの資産を取得する とか,あるいは保有するとか,さらには輸入するかどうかに関する決定は,現地の 取締役会に任せられている。
(b)
その上,これらの在外子会社では,しばしば,現地資金や留保利益による自己金 融が大部分である。
(c)
かかる情況では,在外子会社に対する親会社の主要な関心は,利益配当である。
利益配当が満足のいくものであれば,親会社は,在外子会社の財政状態や活動に関 して,特に干渉することはないであろう。
(d)
このため,親会社は,在外子会社の資産,負債,収益および費用には関心がない であろう。親会社の関心は,唯一の有形な利潤である利益配当の源泉となっている 在外子会社への純投資である。
(e)
純投資の価値は,正味財産を決算日レートで換算することによって,最も良〈示 すことができる。したがって,もし一つのレートが用いられるべきであるとすれば,
それは決算日レートでなければならない。
(f)
貸借対照表は貸借平均しなければならないので,正味財産が決算日レートで換算 されなければならないとすれば,その他の貸借対照表項目もまた,すべて同じ決算日 レートで換算されなければならない。
フロワー(J
ohn Flower)は,上記のような推論に基づく「決算日レート=純投資法」
の主張は本国通貨の価値が下落し,現地通貨の価値が上昇しているときには,非常に
説得力があると述べている一一ただし,彼は,決算日レート=純投資法を支持してい
ない
(Ibid.,
p. 311)。
米国における外貨換算会計・基準の発展とその問題点(
2 ) 101 d.為替レートの変動が,純投資に与えるところの経済的影響と機能通貨
以外の通貨で将来受払されるところの個々の資産及ぴ負債に与える影響 とを峻別する J 9 )
上記の機能通貨アプローチに内包されている諸点を参考にして,換算手続 を説明すると次のようになる。
①換算前の準拠段階として,外貨表示財務諸表が報告企業の所在国(本国) で一般に認められた会計原則に準拠して作成されているかどうかを調べる。
本国で一般に認められた会計原則に準拠して作成されていない場合には,準 拠した外貨表示財務諸表を再作成する。この点は,基準書第
8号の場合と全
く同じである。
②当該在外事業単位の経済環境を考慮、して機能通貨を確定する。
③外貨表示財務諸表の外貨(現地通貨)と機能通貨が同一で、あるか否かを 調べる。両者が同じである場合には,当該外貨表示財務諸表は機能通貨で
iJ l i
J定・表示された財務諸表(機能通貨表示財務諸表)であるので,①外貨表示 財務諸表のすべての資産および負債項目を一律に決算日レートで報告通貨に 換算し,③収益,費用,利益および損失項目については,それらの項目が認識 された日の為替レート(または期間中の為替レートを適当に加重平均したレ ート=加重平均為替レート)で報告通貨に換算する(機能通貨から報告通貨 に換算するのは,いうまでもなく,機能通貨表示財務諸表を報告通貨表示の 連結財務諸表に含めるためであるが,その換算の過程では,先に検討した換 算の目的
aおよび
bが達成されなければならない。その換算目的達成のため の最も適切な換算方法が決算日レート法であると考えられている)。
④外貨と機能通貨が異なっている場合には,機能通貨と報告通貨が同一で、
あるか否かを調べる。外貨と機能通貨が異なり,機能通貨と報告通貨が同じ である場合には,当該外貨表示財務諸表の全項目を機能通貨で再
il l 1
J定する
(ここでいう再測定とは,測定単位を当該外貨から機能通貨に変換すること であるが,これは,機能通貨での測定が未完了であることから行われるので
(49) FASB2
,
op.c i , . tpara. 69; 国際委只会訳 r lÌíH~訳書J
340‑34Hi。
ある。また,機能通貨=報告通貨であるとすれば,機能通貨で再測定するこ とは, ~WJ 定単位を外貨から報告通貨に変換することと同じであるから,基準 書第
8号でいうところの「換算」を意味している。この場合の再測定(換算) の方法としては,テンポラル法が用いられる。というのは,外貨と機能通貨
とが異なっているということは,当該在外事業単位が従属的な事業単位であ ることを示唆し,かかる従属的な在外事業単位の外貨表示財務諸表の換算に ついては,当該在外事業単位の会計記録が当初から機能通貨でなされていた のと同様な結果を生み出すような換算方法を用いるのが合理的で、あると考え られているからである)。
⑤外貨と機能通貨が異なっており,かつ機能通貨と報告通貨が異なってい る場合がある。これは,第三国の通貨が機能通貨であることを意味している。
このような場合には,①外貨表示財務諸表の全項目を機能通貨で再測定し (この場合の再測定も,④で説明したようにテンポラル法が用いられる) , そして,@再 ~ftiJ 定された結果としての機能通貨表示財務諸表を報告通貨に換 算する(この場合の換算では決算日レート法が用いられ,②で説明したよう な方法で行われる)。
図 l
換算手続のフローチャート外貨表示財務諸表は報告通貨に換算されなければならない。
現地通貨から機能通貨へのNiWJ 定*(テンポラル法)そして,報告 通貨に換算(決算日レート法)
*再ifiiJ定は外貨(現地通貨)から機能通貨にiWJ定単位を変換することを意味するが,機能 通貨=報告通貨である場合には,外貨表示財務諸去の報告通貨への再iWJ定(基準書第8 号でいうところの「換算J)を意味する。
出所:
Frederick D. S. Choi & Gerhard G. Mueller,
International Accounting,
1984,
n 14fl
(主平安壬U~ 体
π Iィ ぃ 又
1米国における外貨換算会計基準の発展とその問題点(2 ) 103
以上が,基準書第
52号が提唱する機能通貨アプローチによる換算手続であ る(ただし,⑤については,明確な説明はない)。これをフローチャート形式 で示すと,前ページの図 1 のようになる。
最後に,記帳通貨,機能通貨および報告通貨が何であるかによって再測定 (テンポラル法)および換算(決算日レート法)の必要性は異なるのである が,この関係を要約的に表示すると,次のようになる。
表1 三つの通貨の結び付きと再測定および換算の必要性との関係 上説記換明算手番続号の 記帳通1't*1 機能通貨*2 報告通貨同 再
i
I!JJ定 財表示務さ諸れ表ていがな外い貨場合で 本国通貨 本国通貨 本国通貨 不 要③
現地通貨 現地通貨 本国通貨 不 要④
現地通貨 本国通貨 本国通貨 必 要⑤
現地通貨 第三国通貨 本国通貨 必 要*
1記帳通貨は,原初(換算前)財務諸表のiWJ定および表示単位通貨である。* 2
機能通貨は,換算後財務諸表の測定単位通貨として位置づけられている。*3報告通貨は,換算後財務諸表の表示単位通貨として位置づけられている。
換 算 不 要 必 要 不 要
必望│
表 1 から明白であるょっに,外貨表示財務諸表の換算方法の決定にとっ て最も重要な通貨は,機能通貨である。機能通貨が現地通貨である場合(③) には,決算日レート法によって換算される。機能通貨が本国通貨である場合 (④)には,テンポラル法によって再測定(=換算)される。そして,機能通 貨が第三国通貨である場合(⑤)には,テンポラル法によって再測定され,
その後,決算日レート法で換算されるのである。
(3)
換算差損益の会計処理
換算差損益は,在外事業単位の外貨表示財務諸表の項目を,取引日レート または前期末の決算日レートとは異なる決算日レートによって,報告通貨に 換算することによって生ずる。つまり,為替レートの変動に起因して生ずる。
為替レートの変動が与える経済的効果は,独立的な在外事業単位と従属的な
在外事業単位とでは異なると考えられている。すなわち,独立的な在外事業
単位の場合には,為替レートの変動によって影響を受けるのは,個々の特定
の資産および負債項目ではなく,資産および 負債項目の全体であり,正味の 影響は,両者の差額の純投資額(=正味財産額)の範囲においてであると考 えられている。そして,純投資額に対応する為替レートの変動によって生ず る換算差損益は,換算調整勘定
(translationadjustments)として処理され る。換算調整勘定は,単に換算手続の結果として生じたものにすぎず,機能 通貨のキャッシュ・フローが存在するものでもないし,報告通貨のキャッシ ュ・フローに直接影響を与えるものでもない。「為替レートの変動は,純投 資に間接的影響を与える……が,その影響はあくまでも純投資に関係したも のであり,投資先の事業には関係ない。売却又は清算の行われる以前の段階 では,その影響は不確実で、あるとともに遠い先のことであり,換算差額が当 期生じたからといって,それを直ちにその期の経営成果に組み込み報告する ことを要求するのは妥当でない」 と考えられ,換算調整勘定は,資本の部 における独立項目として表示され,かつ,純投資の売却または清算が行われ る時点まで累積されることが要求されている。
これに対して,従属的な在外事業単位の場合には,為替レートの変動によ って影響を受けるのは個々の貨幣資産および貨幣負債項目であり,正味の影 響は,両者の差額の正味貨幣資産(または正味貨幣負債)であると考えられ ている。というのは,従属的な在外事業単位の場合には,その各事業活動は 親会社の事業活動の延長であり,親会社の報告通貨の経済環境下にあると考 えられ,それぞれの在外事業活動は当初から報告通貨で、行ったものと仮定さ れるから,換算に当たっても,親会社の投資の基礎にある個々の資産および、
負債項目が報告通貨で再測定されることになり,しかも,取得原価主義会計 原則の下での再測定によって為替レートの変動の影響を受けるのは,決算日 現在の貨幣価値で表示されている貨幣資産および貨幣負債であるからである。
そして,これら貨幣資産および貨幣負債は,現金を除けばすべて将来,決済 ないし清算が予定されているものである。在外事業単位の活動を当初から親
(50) FASB2
,
op. ci, . t
para. 111;国 際 委 員 会 訳 r前掲訳書.!l354‑355頁 。
(51) FASB2
,
op. ci, . t
para. 13;国 際 委 員 会 訳 r前掲訳書.!l312頁 。
米国における外貨換算会計基準の発展とその問題点(
2 ) 105会社の報告通貨で行われたものと仮定して換算する立場からすれば,在外事 業単位の貨幣資産および、貨幣負債は,親会社(報告会社)の外貨建取引に基 づく未決済の金銭債権・債務と同じように換算されなければならないし,ま た,換算差損益も同じように取扱われなければならない。
基準書第 52 号は,外貨建取引による換算差損益の処理について次のように 述べている。すなわち,機能通貨と外貨との聞の為替レートが変動した場合,
取引の決済(外貨建取引に基づく金銭債権・債務の将来の決済)のために予 期される機能通貨のキャッシュ・フローが増減する。この予期される機能通 貨のキャッシュ・フローの増減が為替差損益
(foreigncurrency transaction gain or 10ss)であり,たとえそれが未実現損益であっても,為替レート が変動した期の損益として処理しなければならない。というのは,キャッ シュ・フローに影響を与えるような為替レートの変動は,かかる影響を生ぜ しめる原因となる事象が発生した時点で報告するのが発生主義会計の思想、と 一致するからである
(53)と。このことから,機能通貨が親会社の報告通貨で あるような従属的事業単位の外貨表示財務諸表の換算から生ずる換算差損益 は,親会社の報告通貨(これは親会社の機能通貨であると同時に,在外事業 単位の機能通貨でもある)のキャッシュ・フローに直接影響を与えると考え られるので,換算差損益発生の原因となった為替レートの変動が生じた期に,
為替差損益として処理されるのである。
以上のように,基準書第 52 号では,換算差損益は,為替レートの変動がキ ャッシュ・フローに影響を与えるか否かによって,その会計処理が異なる。
換言すれば,連結財務諸表(本支屈の合併財務諸表でも同様で、あるが)にお いて換算差損益が損益として認識されるか否かの規準は,報告通貨のキユツ シュ・フローへの影響の有無である。為替レートの変動がキャッシュ・フロ ーに影響を与えないと考えられる換算差損益は,当期の損益計算に含めず,
換算調整勘定として,資本項目の一種として繰延べ処理されるが,為替レー
(52) FASB2
,
op. ci, . t
para. 15;国際委只会訳「前掲訳書.!I
312頁 。
(53) F ASB2,
op. ci, . t
para. 124;国際委只会訳「前掲訳者.!I
358頁 。
トの変動がキャッシュ・フローに影響を与えると考えられる換算差損益は,
為替差損益として当期の損益計算に含められるのである。
(4)
基準書第
52号に対する批判
基準書第
52号に対する主要な批判は,次のようなものである
(51)①基本的な考え方(前提)に対する批判:
a
)機能通貨アプローチの基本的前提に対する批判;
b )換算目的と基本的前提との矛盾に対する批判。
②会計処理方法および換算結果に対する批判:
c
)換算差額の処理方法に対する批判;
d )同一状況に対して同ーの会計処理が行われないことに対する批判;
e
)無意味な換算数値を産出すること(取得原価主義会計からの逸脱) に対する批判。
以下,これらの批判について検討してみよう。
a
)機能通貨アプローチの基本的前提に対する批判
これは,機能通貨アプローチの基本的前提が既存の基礎概念ないし通念と 相違していることに対する批判である。機能通貨アプローチの基本的前提は,
(イ)報告通貨のみならず,各在外事業単位の機能通貨をも測定単位として承認 すること, (司為替レートの変動によるリスクに晒されているのは,報告企業
制)
FASBの
7人の委員のうち,ブロック
(FrankE . B l
ock),カーク
(DonaldJ. Kirk), およびモル方、ン
(RobertA .
Morgan)の三氏は,基準書第
52号に対して,次の四つ の点で反対立見を表明した。
r a
.相矛盾する二つの前提の上に立っており,その結果として,変則を生み,また 重要で、はあるがまだ一般に是認されていない為替差損益と換算調整勘定との間の 報告書の差別をもたらす。
b.
現行の財務報告の基礎にある根本的概念と相違した目的及び方法を採用する。
c .
ドルで測定された連結結果ではなく,機能通貨で測定されドルで表示された在 外事業の成績の合計こそが,米国の投資家や債権者にとって将来の資金の流れを 評価するのに役立つものであると誤って考えている。
d.
同ーの事象に対して同ーの会計処理が行われない叫
(F ASB2
,
op. ci, t .
dissenting opinions of Mr .
Block,
Mr. Kirk and Mr. Morgan;国際委員会訳『前掲訳書
J321頁。)
米国における外貨換算会計基準の発展とその問題点(
2 ) 107の在外事業に対する純投資であるということ,および,付報告企業の在外事 業に対する投資の報酬は,当該在外事業単位がその所在国の経済的,法的お よび政治的環境の中で稼得した,外貨による利益の報告通貨相当額であると いうこと,である。
(イ)は,複数測定単位概念の主張であり,従来から連結財務諸表の作成に採 用されてきている単一測定単位概念と相違する。複数測定単位概念は,機能 通貨による測定結果を,その本質を変えないように連結財務諸表に投影させ ようとする意図(換算目的)を達成するために主張された概念であり,この 背景には,機能通貨で測定された在外事業単位の財務諸表こそ,その業績お よび財政状態について最も有用な情報を提供できるといっ考え方がある。在 外子会社は,その所在国における固有の経済的,法的および政治的環境にお いて活動しているので, その環境に最も適合した会計原則およびび、 j 羽 測 H 即則│リ定単位でで 、 在外子会社の j 活舌動を 測 川
i江 訓 川 J [ 川 H 印
lリ定するのが適切でで、あることは確カかミでで、ある。したがって,
もし個別財務諸表のレベルで、の有用な情報をそのまま連結財務諸表のレベル に反映させようとするのであれば,外貨表示財務諸表で採用された会計原則 および測定単位を,換算においても保持しなければならない。しかるに,
基準書第 52 号は,換算に当たって,親会社の所在国で一般に認められた会計 原則に準拠することを要求している。これは,親会社の会計情報と最低限の 同質性を確保し,連結の意味を失わないようにするためであると推察される。
このことは,基準書第 5 2 号が,各個別財務諸表のレベルでの有用な数値を単 に集計しただけでは,連結財務諸表は有用な情報を提供できないということ を認めていることを物語っている。連結財務諸表が有用な情報を提供できる ためには,連結企業グループ全体の数値の同質化が必要で、あり,そのための 最低限の要件として,グループ全体での会計原則および測定単位の同一性が 要求される。基準書第 5 2 号は,会計原則の同一性については要求するが,測 定単位の同一性については要求しない。測定単位の同一性に代えて,表示単
(
5
日R.MacDonald P
arkinson,
Translation of Foreign Currencies,
A ResearchC :
h"l肝f
.........,1;司r'¥T't""IC"'+;f‑,什n ~ç (、1、司 ~φ~~~ ,1 ^戸内...,....-t...合~ 10勺') ~にに位の同一性を要求する。測定単位の同一性は,数値の実質的同質性を担保す るが,表示単位の同一性は,数値の形式的同質性を担保するにすぎないので ある。
(吋に関しては,①為替レートの変動によるリスクに晒きれているのは,在 外事業単位の保有する個々の資産および負債ではなく,全体としての純投資 であるという考え方は,財務諸表項目を個々に連結するところの連結財務諸 表の表示方法と矛盾するという批判と,⑥純投資(正味財産)にとっての適 切な換算方法が,個々の資産および負債の換算方法にとっても適切で、あると
は限らないという批判がある。
①の批判については,基準書第52号は,余りメリットがないと述べてい る
(56)。@の批判については,基準書第52号は触れていないが,重要で、ある。
純投資の価値は正味財産を決算日レートで換算することによって最も適切に 表示することができるというのは,真実である。報告企業の見地からすれば,
外貨表示純投資の価値は,報告通貨(本国通貨)の価値が下落し,外貨(現 地通貨)の価値が上昇する場合には増加し,逆の場合には減少する。かかる 為替レートの変動による純投資の価値への有利な,または不利な影響は,正 味財産を決算日レートで換算することによって,最も良〈投影できる。しか し,連結に当たっては,純投資が一つの項目として換算され,表示されるので はなく,個々の資産および負債が個別的に換算され,かつ,それぞれ別個に 表示されるのである。純投資にとって決算日レートが適切な換算レートであ るからといって,取得原価で測定されている個々の資産の換算レートとして も,同じく決算日レートが適切で、あるとはいえないのである。
最後に,やすに関してであるが,この前提も,機能通貨で測定された在外事 業単位の財務諸表こそ,その業績および財政状態について最も有用な情報を 提供できるという考え方から派生したものであるといえる。これに関しては,
機能通貨で測定された利益の報告通貨換算額の方が,報告通貨で測定された
(56) FASB2
,
op. ci, . t
para. 89;国際委員会訳『前掲訳書.JJ347頁 。
(57) John Flower
,
op. ci, . t
p.311 .
米国における外貨換算会計基準の発展とその問題点(2 ) 109
利益額よりも,報告企業の投資家にとって有用であるという誤った考え方に 基づいているといっ批判がある。ある批判者は,その根拠として,連結財務 諸表作成の目的は,親会社(報告企業)の通貨で投資し,親会社の通貨での 利益配当および親会社の通貨での株価の上昇という形での報酬を期待してい る株主に,報告通貨て測定・表示した連結財務諸表を提供することである, と 批判する
(58)。また,別の批判者達は,その根拠として,親会社が自己の投資家 および債権者に対して最終的に現金払いするための通貨は報告通貨であるから,
企業グループの業績についての情報は,これを報告通貨で測定した上で提供し なければならないと主張する
(59)。さらに,報告通貨の将来のキャッシュ・フロー を予測するのに必要な情報は,機能通貨で測定され,報告通貨に換算された損 益計算書よりも,報告通貨で再測定された損益計算書の方が,親会社の投資 家および債権者に対して,よりよく提供できると主張されている。その理由と
して,機能通貨で測定され報告通貨に換算された損益計算書には,
r(a)連結企 業には存在しない項目(例えば,関係会社関取引による受取勘定やドルで契 約された貨幣性項目などから生ずる為替差益),又は ( b ) 不正確に測定された項目 (例えば, ドルに対しては非常に強くなっているが,機能通貨に対してはそれほ ど強くなっていない第三の通貨の保有から生ずる利益など)を含む可能性があ る……。また,連結企業に存在する項目(例えば,在外事業の機能通貨がド ルに対して強くなっているときに,その通貨建てとなっている貨幣性資産の 利益など)を除外する可能性もある」
(60)ということが指摘されている。
b
)換算目的と基本的前提との矛盾
基準書第52 号は,外貨換算の目的のーっとして,機能通貨で測定された外 貨表示財務諸表上の経営成績や項目聞の関係を連結財務諸表に反映できるよ
うに換算することを掲げている。他方,基準書第52 号は,基本的前提のーっ として,為替レートの変動によるリスクに晒されているのは,親会社の在外
(
5
助
FASB3,
Public Record,
Statement of Financial Accounting Standards No. 52: Foreign Currency Translation,
Section B,
p. 534.(印刷)
FASB2,
op. ci, . t
dissenting opinions of Mr. Block,
Mr.
Kirk and Mr.Morgan;国際委只会訳「前掲訳書.D326頁。