NDC 401
量関係式処理法の認識論的検討
谷 臼 摩* 河 合 雅 弘*
(平成2年8月28日受付)
The Epistemological study on Method of Processing the Relationshp among Physical Quantities
Mamoru TANIOKA and Masahiro KAWAI
(Received August 28, 1990)
Abstract
In the PRPQ皿ethod, that stands for the method of Processing the Relationship among the Physical Quantites, the quantity−symbol notation and the new abstract concepts, namely the abstract generalized unit [UQ] of an individual physical quantity Q(= QU [UQ]), the value QU measured formally by this abstract unit [UQ] 4nd the abstract unit sys−
tem based on the generalized units of the fundamental quantities, are used for the expression of quantity−symbol equa−
tion before the decision of the concerte unit system as the SI, ln this paper, the concepts and the problems, concerned with this PRPQ method, are studied epistemologically.
1。はじめに
本研究は,一人の教官(谷岡)が,本校金属工学科の創 設以来,物理,応用物理,分析化学,物理化学,固体物理 学,自動制御,情報処理と広い学問領域にわたって講義を 持ち,昭和44年置1969年)から,これらの科目を一つの統 一的視野で講義したいと言う願望から始めたものである。
金原寿郎著『基礎物理学』8>中での『量の関係式sと言う 概念をヒントに,関連科日の一つ一つをこの観点で再構成 し,講義してきた。この金属工学科は,平成2年(1990年)
3月末で閉学科となり,著者らは,現在,新たに創設され た情報工学科に所属し,谷岡は,基礎ディジタル技術,基 礎情報工学,電気磁気学,電子物性,電気磁気学特三等を 担当し,適用可能な科日については,この立場で講義して
いる。
初めは,数式表示ではなく,量表示で法則等を表すこと 自体,多くの教官に批判されてきたが,1975年前後から始 まるSI(国際単位系)の普及以後,量表示は当然のこと となり,著者らも本格的にこの量表示方法を研究の対象と した訳である。初期の研究では,SIを基礎に据えた量関 係式処理の検討2)一4)を行い,この方法を分析化学,物理
* 情報工学科
化学,電気磁気学などに適用した。この段階では,ある量 Qの単位一般[UQ]およびその単位で測った形式的数値 QUと言う概念を導入した。化学関係の理論には,量表現 の観点では,量として曖昧な概念,式の誤り,物理的意味 の誤り等が多く,量の再定義を必要とした。また,電気磁 気学の検討では,歴史的に多くの表現体系が使用されてお り,これら諸体系を,関連付け,表現するだけではなく,
これらを包括する枠組を見出すことが心要となった。電気 磁気学の諸体系の中には,歴史的に古い体系もあり,単位 系に密着した理論位系があること,単位系の構成法に3元 系と4元系とが用いられていること等多くの問題を残して いるため,著者らが『単位一般の単位系5)』と呼んでいる
ものを基礎においた量関係の表現方法,すなわち,具体的 単位系を決める以前の量表現方法を備えた方法を見出し,
これによって電磁気学の全体的枠組を構築した5)。この方 法を量関係式処理法(The method of Processing the Re−
lationship among the Physical Quantities)と呼び,
PRPQ法と略記する。さらに, PRPQ法を量子力学の 基本的部分に適用するために,量子力学での物理量を表す Hermite演算子の表現方法等を追加し,この拡張された PRPQ法を量子力学の基本部分に適用し,その検討の結 果を報告した6)。これで一応,自然科学,工学全般に適用 できるPRPQ法が完成したと考えている。
この方法が有効な方法であることは,この方法を各分野 の理論体系に適用して確認できたが,PRPQ法では,新
しく導入した概念,すなわち,(1)量Qの単位一般[QQ]と その単位で測った形式的数値QU,(2)各量の単位一般につ いて,基本量の単位一般を用いた単位一般の次元式で表さ れること等,抽象性が高く理解きにくい概念を導入してい るため,本荘では,歴史的な道筋に沿いながら量の取り扱 いの変遷を述べ,PRPQ法およびそれに関連した問題に ついて,認識論的な立場で検討を行う。ここで言う認識論 的検討とは,科学基礎論的検討と言う意味でもあり,各分 野の枠にとらわれず,学問全体を一つの視野におさめ,各 分野の体系の抽象性を吟味し,これらを一つの抽象的レベ ルに揃え,この立場で各体系での問題を検討することを意 味する。
2.これまでの量取り扱いの変遷とPRPQ法
2.1 古典論の範囲での物理的量の表現
2.1.1 Sl(国際単位系)提案以前 歴史的に見 ると,生活の中での情報伝達の必要性から,学問上の抽象 的諸概念も形成され,体系化されてきた様に思える。動物 の個数,鳥類の個数を数える場合,10匹とか5羽とか呼び,
数えるものの種類によって匹,羽角の接尾語が異なってい た。この接尾語は数えるものの違いを表していたに過ぎな い。この様な個数を数えることから正整数が抽象されたこ とは周知のことである。この抽象の際,接尾語で表された ものの種類と関連した性質が捨象されている。
長さ,面積,力等の物理的量は,これらの量を測るため には,まず単位を決める必要があり,その量を測定し℃い た。この数値部分には実数が使用され,:量がベクトル量や テンソル量の場合には,その数値部分が数学でのベクトル やテンソルとなる。この様な量を表すには,使用した単位 を明確にした上での数値表現が使用されていた。これは,
数学上での諸関係,定理等が適用できるのが,数値部分で あるからである。しかしながら,この数値部分も単位の選 び方に依存して変化する。この単位の大きさも,地域,国 の違い時代の違いによって異なり,標準化の必要が生じた。
この外,主となる単位から副単位を作る場合に3倍とか12 倍とか10進法以外のものが使用されていたことも問題の一 つであった。百番十年前のメートル法の制定と普及がこの 問題の解決策と言えよう。
2.1.2 Slで提案されている物理的量の表現 自 然科学,工学,科学技術の急激な発展に伴って,各分野で の諸法則の表現の基礎となる標準的な単位系が必要とな り,国際的および学際的な検討の結果,提案されたのが SI1>であった。この普及活動は,1975年前後から国際的,
学際的に推進され,国によっては,教育の現場で採用され
ている。
SIの説明書1)では,
物理的量=数値×[単位] ,1)
の形式で物理的量を表現することが述べられている。ここ では,単位表現に用いる括弧に著者等の報告2)〜6)で使用 している角括弧を用いた。すなわち,初めて量表示の使用 が明示的に提案されたことになる。
例えば,単位の大きさの換算表を使用すれば,1[m]の 長さを表す量記号11mは,
hm=1[皿]=100[cm]=1000[mm]
==1.094 [yd] =3.281 [ft] = 39.37 [in]
,2)
の様に表示できる。ここで,[yd]はヤード,[ft]はブート,
[in]はインチであり,[cm]の。及び〔mm]の前のmはSI 接頭語と呼ばれているものである。ただし,
1iyd =1 [yd] =3 [ft]= 3 ×12[in] ,3)
である。
この量表現で特に重要なことは,この様に一つの量の 種々の単位を使用しても量としての等号で結べることであ
り,この等号は,量としての等号であって,従来の数値の 等号と量の等号とは別の記号で表すべきであろうが,著者
らは,どちらにも記号=使用している。
また,2)式及び3)式では,等号で結ばれた各辺は単位が 異なり,結果として数値が変わっても,具体的な一つの量 を表している。単位の大きさの選定は全く任意であり,そ れぞれの単位は同等性を持つので,2)式及び3)式の等号で 狭まれた部分は一つの具体的量の別の表現にすぎない。こ のため,世界的,学際的な意味での標準的な単位が必要と 考えられ,SIが提案された訳である。とは言え,人間の 歴史の中では,SIも一つの時代の一つの要請に過ぎない かもしれない。すなわち,SIは整備され首尾一貫した単 位系ではあるが,一つの具体的単位系に過ぎないからであ る。一方,各分野の法則等は不変であり,表現の仕方に変 化があってはならない。このため,より抽象的な量表現が 必要となった。
2.2 古典論の範囲での各種量間の関係の表現 2.2.1 SIの提案以前 各分野で様々な表現が使 用されてきたが,一般に,.下記の様な手続きが取られてい た様に思われる。すなわち,各種量の測定に用いられた単 位を明確にした上で,それぞれの単位で測定した数値(ベ クトルやテンソルの場合もある)についての関係式一数値 方程式一によって各分野の法則が表現されていた。
一方,物理的諸量:の次元に関しては,別に検討がなされ,
量の定義,各分野の法則等を用いて,各量の次元式が定式
量関係式処理法の認識論的検討 谷岡・河合
化されていた。例えば,力Fの次元式は,
[F] == [M ・ L ・ Tm2] ,4)
で表されていた。
すなわち,SIの提案以前は,物理的量の本質と関連し た内容が別々に取り扱われていたことになる。
2.2.2 Slでの量関係の表現 表面的にはSI提
案の内容は,単位系のことだけであるが,1)式に従って量 を表せば,量記号表示の量関係式を使用することになる。
SIの構成のされ方もこれを前提にしている。
(1)単位の次元式2) さて,1)式の数値と単位の積の内,
数値は次元と無関係であるから4)式の形式で示された量の 次元的性質は,1)式の単位部分に含まれることになる。著 者等は,SIでの単位の定義式,例えば,力のSI単位[N]
の定義式
[N]= [kg m・s fi 2] ,5)
等を単位の次元式と呼んでいる。これは,Newtonの第2 法則F=m・d2 r/dt 2を使用し,1[kg]の質点に1[m/s 2]
の加速度を生じさせる力として定義されている。
(2)Sl(国際単位系)1) SIでは,自然科学,工学 全般に適用可能にするために基本量として質量,長さ,時 間,電流,物質の量,絶対温度および光度を選び,基本単 位として,[kg],[n1],[s],[A],[mol],[K]および[Cd]
を使用して,組立量の単位を表している。ある量QのSI 単位を[UQSI]で表せば,この単位の次元式は,
[U Qsi] = [kga ・ mb ・ sC ・ Ad ・ mole ・ Kf・ cdg] ,6)
で表される1)。ここで,a, b, c, d, e, f, gは,量Qの 次元を表す指数である。さらに,この単位の副単位の構成 法には,接頭語を用いる方法が採用され,10進法が基本と なっている。
(3)量関係の表現一如関係式一2)〜6)それぞれの量を,
Q == QSi [UQ,i]
,7)
== Q SI [kga ・.mP ・ sc ・ Ad ・ mole・ Kf・ Cdg]
の形式で表した上で1),量記号(7)式ではQ)を用いて 各種量間の関係を表す。これを量記号表示の量関係式と呼
んでいる。この段階の量関係式は単位が明示的に現れてい ない式である。また,7)式のQSIは単位[UQSI]を用いて 測定したQの数値を表し,さらに各量の単位は,6)式の形 式の単位の次元式で表される。例えば,立方体の体積およ
び速度の量記号表示:量関係式は,
V == 13
v = dl/dt
,8)
となり,数値・単位表示の量関係式2)は,
vSI [m3] = nSI [m]} 3 vSi [m/s] =i dlSi [m] /dtSi [s]
,9)
となり,これから数値方式方程式と単位の次元方程式2)と が分離される。
この段階までは,SIで提案されているものの自然な拡 張であり,著者らが,概念を明確にするために,幾つかの 名称を与えたことになる。
2.3 ある量の単位一般と単位一般の単位系
2.3.1 ある量Qの単位一般2)…4)前項でも述べ た様に,SIの提案された時期を境にして量表示に移行し つ・あるが,単位についてはSIの使用が前提となってい る。すなわち,単位系の標準としてSIが採用されている ため,他の単位系を使用していた場合には,一応SIに変 換して各種検討を行うことになる。
著者らは,研究の初期の段階では,SIに基づいた量関 係式処理法の開発を行い,その結果を,量関係式の立式・
演算規則2),物理化学の領域への適用3),電磁気学の領域 への適用4)に発表した。著者らは,具体的な単位系の単位 を明示しない,すなわち単位系の選択とは無関係な量関係 の表示方式を追求したが,各分野の量の定義,法則などの 内には,数学での諸演算を使用し,量表示の関係式に数値 部分が現れる矛盾が生じた。この数値部分は,具体的な単 位系の選択と直接関係しており,著者らの初期の目的の達 成は困難となった。この問題を解決するために導入された のが,著者らが単位一般と呼んでいる形式的単位とその形 式的単位を用いた形式的に測った数値と言う概念であっ
た2)一4)。
ある量Qの形式的単位[UQ]と,[UQ]を用いて測った 形式的数値QUとを用い,
Q=QU[UQ]
の様に表す。また,QUは,
QU=Q/[UQ]
, 10)
,11)
と表してもよい。この様な量Qの単位一般[UQ]と[UQ]
で測った数値QUとを用いて量記号表示を拡張することに より,具体的な単位が明示されない量関係式の表現が可能 となった。また,7)式と10)式とを結び付けると,
Q−QU[UQ]
=QSi[UQ,,] ,12)
= Q SI [kga . mb. sc ・ Ad . mola. Kf. Cd g]
が成立する。ここでは,12)式は,単位系の選択以前のQ,
Qu[UQ]と具体的な単位系選択後の表示QsI[UQsl]とを結
び付ける式と考えることができる。この様に考えると,
[UQ]は,具体的な単位を格納する入れ物であり, QUは 具体的単位が選定された後で定まる数値を格納する入物と 言うことになる。た・ し,Quと[UQ]とには,同時に具 体的数値と単位を代入しなくてはならない。
また,具体的な単位の大きさは一度決めると変化するも のではないので,[UQ]も定数的なものである。この外,
量のQの具体的な単位の大きさは,様々であるが,QUの 値として,Qや±・。は,単位の大きさに依存しないので使 用できることとした。
2.3.2 基本量の単位一般を用いた単位系5)前項 で述べた様に,量Qの単位一般は形式的に導入されたもの ではあるが,具体的単位を格納する入れ物の性質を持ち,
定数的なものであることを利用して,単位系選定前におけ る量の次元検討に下記の概念を用いる。
ここでは,力学系に対して絶対単位系での基本量,すな わち質量m,長さ1,時間tを選び,さらに,これらに電 流1,物質の量n,絶対温度Tおよび光度Liを加えたも のを基本量とし,それぞれの単位一般.を[Um],[Ul],
[Ut],[Ui],[U。],[UT]および[ULi]で表し,任意の 量Qの単位一般[UQ]は,
[UQ]=[U.a.Ulb.U,C.Uld.U.e.UT .ULig] ,13)
で表す。これを量の単位一般の次元式と呼ぶ。力学系に工 学単位系(重力単位系)の基本量を選ぶ場合は,質量m の代わりに重力Wを基本量に選び,工学単位系での量Qの 単位一般を[UQW]で表せば,
[UQw]=[UwaW.UlbW.utCW.uld.u.e .UTf・ULIg]
, 14)
の様に表される。[Uw]は重力すなわち力の単位一般であ
り,
w(==F)=mg
の関係があるので,
w=wU [U.] := mU[U.] gU[Ui UtL2]
が成立し,16)式より,
,15)
,16)
[u.]=(wU/ (m gU)) [U. Ui−i Ut2] ,17)
が導かれ,これを13)式に代入すれば,
[U Q] = (wU/ (mU gU))[U Q.]
が成立する。たX し,
bw=b−1
cw == c十 2
,18)
である。各量の単位一般は,具体的な単位系の選定前と言 う意味では未確定なものであるが,この入れ物に定数的な 具体的単位が代入されるので,次元演算は可能である。
この様な取り扱いは,多くの表現体系を持つ電磁気学の 枠組の検討に有効な手段となった5)。
2.3.3 単位一般の単位系を用いた量記号表示 特 にSIを標準の単位系とすることを避け,すなわち,SI も一つの具体的単位系に過ぎないとし,単位系の選択以前 の量関係表示として,量記号および単位一般で測った数値 を用いる方式を採用して,各分野での諸法則を表現する。
この段階の表現では,具体的単位系としてはなにを選択し てもよい訳で,量関係式の表現上より抽象的な表現と言え る。さらに,各量の単位一般の次元式を代入し,次元に関 する演算を行えば,その量関係式の次元的意味での正当性 が確認できる。この抽象的な段階でも,0,±・。を用いる QUの演算は可能となった。
具体的な単位系が,選択された後,12)式の形式で同時 に具体的単位と数値を[UQ]とQUに代入入して,数値と 単位のそれぞれについて演算を行う。勿論各分野の諸法 三等は,この段階で十分検証されなければならない。
この様に量を中心に据え一た取り扱いは,量の定義が特に 重要であり電磁気学の様に多くの表現体系を持つ場合は,
異なる2つの体系での同種の量が等しいかどうかを十分検 討する必要がある。
著者らの研究の目的は,国際的,学際的ならびに歴史的 な範囲に渡って,各種量問の関係を表し得る表現形式を得 ることであった。一応,古典理論の範囲では,本項でこれ まで述べた表現方法で目的は達成されたと考えている。
2.3.4 PRPQ法の概観 著者らのPRPQ法は
Fig.1に示す様に,具体的単位系選定以前の抽象的表現・
演算段階と単位系選定後の具体的表現・演算段階とに分離 され,この2つの段階は,関連する各量について,.12)式 と13)式とを用いて導いた
Q=QU[UQ]
=QU[u.a.ulb.u,C.uld.U. .UTf.ULig]
=QSi[UQsi]
=QSI[kga.mb.sc.Ad mole.Kf.Cdg]
.. Q CGSeS [CGSesu] Q
.. Q CGSesu [ga.cmb.sC] × [cGSesu] id
× [.oie・Kf・cdg]
,19)
等の形式で表した関係で結び付けられる。これらの関係を,
ここでは,量記号への具体的量代入式とよぶ。特に注意し たいことは,表現された量関係式の検証は具体的段階でな されるが,検証された量関係式は,抽象的段階でも正しい とすることである。すなわち,単位系の選択以前でも検証
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された式として扱う。
Abstract Stage of PRPQ method The Expression of the Laws
(1) The Expression of the Laws by the Quantity equa−
tion of the quantity−symbol notation in the Abstract Stage.
(For the numerical values Q/ [UQ] are used.)
(2) The Substitution of the dirnensional formula of the generalized unit [UQ] and the numerical values QU into the quantity Q.
(3) The dimensional and numerical operation of the Quantity equation in the abstract stage.
Substitution of the concrete into the abstract quantity−symbol notation
2.4.2 Hermite演算子の量記号表現 前項で述べ た様に,PRPQ法の適用範囲を量子力学の分野まで拡げ るためには,物理量を表すHermite演算子の量記号表示方 法を明確にしておく必要がある。すなわち,量子力学では,
物理量概念の表現が大きく変化したが,著者らは,これま で展開してきたPRPQ法の手法をHermite演算子にその まま適用できることとした。ここでは,21)式を量記号表 示の関係式と見ることにする。この式は,量演算子の定義 式で,あらたに,
物理量のHermite演算子=Hermite演算子[単位] ,22)
の表現を導入したことになり,さらに,1)式と比較すれば,
Hermite演算子は,1)式の数値部分に対応し,まさに数学 におけるHermite演算子である。また,単位一般を用いた 表現では,21)式は,
Concrete Stage of PRPQ method
(1) Sllbstitution of the cocrete value and unit into QU
[UQ] and of the concrete dimensional formula into the concrete unit,
(2) The dirnensional and numerical operation of the Quantity equatien in the concrete stage.
Verification ef the Laws
Fig. 1 The outline of the PRPQ method.
2.4 PRPQ法の拡張6)
2.4.1 量子力学における物理量 著者らの報告,
量子力学の分野に適用するための量関係式処理法
(PRPQ法)の拡張6)において述べた様に,量子力学に おける物理量の測定は,Hermite演算子としての物理量Q の演算子HQを波動関数ΦQiに作用させ,
,20)
Hp=HpU[U.]
= 1 fi U[u.・ u,2・ u,一i] /i 1 a/arU [u i] , 23)
= 1(EU/i) o/arUl [U.・ U i・Utnti]
と表される。
3.PRPQ法に関する諸問題
HQO pi = HQi ¢Qi
を満たす演算子HQの固有値HQiを求める形式が基本であ る。量子力学での物理量演算子は,演算子の表現にどの量 を基本とするかによってその表現が異なるが,例えば,位 置rを用いた場合の運動量演算子HQは,
HQ−lfi/ila/ar ,21)
で表される。この場合の等号は,演算子に関する等号であ り,丘は,丘=h/2πで定義される。hはPlanck定数で
ある。
3。1 PRPQ法の適用範囲
主として,量記号表示で量関係を表し,.この中に数値が 含まれる場合,その量の単位一般で測った形式的数値,す なわち,QU=Q/[UQ]の形式で表すPRPQ法は,具体 的な単位系の制約を受けないため,量子力学まで含めた自 然科学・工学全般に適用可能であり,量の定義が,次元的 意味およびその量の大きさの両面で明確であれば,歴史的 なもののかなりの部分をも包括で. ォる表現体系である。
すなわち,過去の諸体系に量の再定義等の若干の手を加え れば,おおむね歴史的もの全体を表現できる体系と言える。
3.2 この方法の抽象性と具体性
著者らが,この量表現体系を整備しつ・ある段階で絶え ず疑問に思ったことであるが,どの手続きが,抽象化かか,
具体化か,どちらが抽象性の高い概念か,具体的な意味で の抽象化操作一抽象的概念を作る操作一があるか等の問題 であった。
著者らが,単位一般と呼ぶ概念は,単位の一般的性質を すべて持ちながら,一つの量のあらゆる単位を代表する概 念で,ここでは,各具体的単位の種々の大きさの側面が捨 象された概念である。この観点では,各具体的単位よりも 単位一般の方が,より抽象的概念と言える。しかしながら,
1 = IU [Ui] = 1 [m] =:100 [cm] =1.094 [yd] ,24)
では,1は,具体的に定まった量であり,この式は具体的
なものと言える。た・ ,量記号1および1u[Ui]の部分は,
単位系を明示していないので,上記の意味で抽象性の高い 部分である。24)式では,抽象性の高い概念に具体的なも のを代入する意味で,具体化の操作である。
通常,数は抽象的概念と言われているが,抽象と言う言 葉自身曖昧なところがある。著者らは,2つの概念を比較
した上で,どの様な側面で,どちらが抽象性が高いかと言 う判断をしている。この様に考えると,量関係式の両辺を 同じ単位で割り,数値方程式を求める操作が,量から数へ の具体的抽象操作と言うことになる。
3.3 電算機システムとPRPQ法
自然科学・工学と関連した電算機システムの利用のされ 方は,初期から,各分野での数値計算,シミュレーション による予測がなされ,さらに,システムの高速化と巨大化 およびデータ・ベース関連のソフトウェアの充実は,制御 用データ・ベース,知識ベース等の高度な総合的システム の構築を可能にしつ・ある。電算機システムの側から見る と,これが汎用である限り,人間の様な狭い自己の専門領 域に限定されることはない,しかしながら,利用者,利用 グープの専門領域知識の範囲で,それぞれの好みに従っ て,利用のためのソフトウェア・システムが構築されてい るのが現状である。
汎用電算機システムは,上述の意味で限定されていない ものであるが,人間達が長い歴史の中で構築した知識の体 系は各個人の個性が強く現れている狭い領域の体系である 場合が多く,これら諸体系の国際化,学際化を含めた統合 化が必要な段階にきている。1975年前後からのSI提案と 普及は,正にこの様な企ての一環と言えよう。著者らの PRPQ法は,このSIを基底に据えて検討を始めたもの で2)一4),具体的なものにこだわる限り統合的,総合的な 表現体系の開発は困難なため,著者らが『各量の単位一般 および単位一般で測った形式的数値』と呼ぶ概念を導入し た訳である。この呼び名は,より適切なものに変えた方が 良いかもしれない。
PRPQ法の体系を知識ベース化するためには,量関係 処理のプログラム群の作成と,このプログラム群で処理可 能な専用データ・ベースの構築とが必要である。プログラ ム群は,以下の内容をプログラム化したものである。
(1)PRPQ法は,単位を明示しない量記一号表示が中心 であり,表現に数値が現れた際に,Q/[UQ]またはQUの 形式で表示する。
(2)次の段階で,各量に,Q=QU[UQ]の形式の表現 を代入し,さらに,[UQ]形式の部分に各量の単位一般の 次元式を代入・演算し,次元的検討を行う。この段階で各 量の物理的意味も明確となる。また,QU形式の数値部分 が演算可能の場合,その演算を行う。[UQ]で測った形式
的数値QUの形式で表された量関係式の数値部分について は,この数値として,単位の大きさと関係のない0および
±Q。のみを使用した数値演算が可能である。
この段階までは,具体的単位系の選択以前のもので,こ の点で抽象的段階と言える。
(3>次は,具体的単位系選定後の取り扱いであるが,例 えば,同時にそれぞれの量記号に,7)式の形式の数値と単 位を代入し,単位と数値との演算を行い,具体的結果を求
める。結果は,一つの量関係式の形式でも,数値方程式と 単位の次元方程式とに分離した形式でも良い。くどい様で あるが,各分野の諸法則等の検証は,この段階で行われる。
各手続きをプログラム化し,統一的なソフトウェア・シ ステムを構成する。当然,背後には,このシステムで使用 される知識の集積が,データ・ベース化されていれば,全 体が,PRPQ法知識ベーース・システムとなる。
3.4 電磁気学での諸問題
著者らの研究の最も大きな成果は,.今まで一つの枠組の 中に納められなかった電磁気学幹理論体系全体を,知識 ベース化可能な一つの枠組に納めたことである。この項で は,若干,観点を変え,関連した諸問題を認識論的な立場 で再吟味しよう。
3.4.1 従来の各種理論体系 電磁気学の理論体系 には,有理化系か非有理化系か,さらにE−H対応かE−
B対応かで,4種類の理論体系があり,具体的な単位系と して,CGS静電単位系, CGS電磁単位系, CGSガウ ス単.位系,MKSA単位系が使用されてきた4) 5)。現在で もさらに新しい理論体系の提案さえ行われている7)。真理 は,一つの表現で十分であろうと著者らは考えるが,多く の研究者のそれぞれの主観的体系が混在している感じであ る。また,著者らは,学際的立ち場で各種分野の理論体系 の検討を行った」が,電磁気学の諸体系の中には,歴史的に 古く,物理的量が単位と強く結び付いた体系があり,抽象 性が低く認識論的側面で遅れている部分を内包している。
すなわち,電磁気学諸体系を全体的に取り扱う手法がない 状況であった。
3.4.2 単位系の次元 電磁気学では,組立単位の 表現に,[ga・cmb・sc]の形式を用いる3諸系と,さ. 轤ノ,
これに電流を加えた[kga・mb・sc・Ad]の形式を用いる4 元徳とが使用されてきた。歴史的には,初め3元系が使用 され,電磁気学の体系化が進む過程で,4元系が採用され た。この単位系構成での次元の異なる諸体系が混在するこ とも,電磁気学体系の統合化を妨げる原因の一つであった。
ここで,PRPQ法でこの問題を処理してみよう。まず,
量記号表示で,静電気学での真空中のCoulombの法則は,
有理化4元系では,
F= qi×q2/4 7r e Ro r2 ,25)
量関係式処理法の認識論的検討 谷岡・河合
と表され,非有理化3元系では,
F= qi × q2/ e iRo r2 ,26)
で表される。ただし,ε・IRO =:1である。また,この両面 の中で,F, q1, q2およびrは全くおなじ量であるため,
4 rr e Ro =elRo
= (qi × q2)/(F ・ r2)
,27)
が成立する。すなわち,量関係式では,量(ここではq および誘電率)を,3元期で表そうと,4元系で表そうと 量式の両辺は等しいことを意味する。
非有理化静電単位系(3純系)では,電荷の単位は,
1 [CGSesu], = 1 [dyne /2・cm]
一1[91/2・cm3/2・S−1]
,28)
で定義されるが,4元系では,27>式のεROとεRIoとを,
4 rr eRoU[U.Ll Ui−3 Ut4 UI2]
,29)
== e RioU[U.uai Ui−3 Ut4 . ui]
で示す様に,同じ次元持ち,同種の量ではあるが,大きさ のみが違う別の量の扱いをする。勿論,εRloは, CGS静 電単位系での電流の単位を基本単位に用いた4元系では,
e Rio = 1 [CGSesu].2/ i[dyne] ・ [cm]21 = 1 [gmi cm−3 s4] × [CGSesu]i2
,30)
と表される。これに,28)式を代入すれば,3元化され,
1となる。また,電荷の単位については,
1 [C]=10−i(2.9979×10iO) [CGSesu], ,31)
が成立するので,27)式に,30)式および31)式等を代入す
れば,
e Rlo == e Rlo/ 4 7r
=:= 1 [CGSesu],2/1[dyne] [cm]24 n l =.1 llO−i (2.997g×loiO)1 一2[c]2
,32)
/ lio−5[N] ・ io−4[m]24 rr}
={10−9/(4π×2.99792)}[C2・N−1・m−2]
=8.8543×10−i2[F/m]
が求められ,この値は,SIが用いられた教科書で良く見 られものである。著者らの検討では,3元系から4元系に 展開することは不可能であったが,4元系から3元系への 展開は,上述のように可能であり,統合化のためには,4 元三を選択すμば良いことが判った。また,一つの量の表 現の際,単位系の選択は任意であるので,3元系の単位で 測ろうと,4元系の単位で測ろうと,同じ量の扱いとなる。
これも,量関係式処理の特徴であり,数値処理だけの世界
では,考えられなかったことである。
3.4.3 各種体系での同種の量の定義4) 5)著者ら の検討によれば,.電磁気学での各種理論体系で良く用いら れている体系としては,量記号表示の段階で4種の理論体 系が存在することが導かれた。すなわち,非有理化E−H 対応体系(IR−EH系),非有理化E−B対応体系(IR
−EB系),有理化E−H対応体系(R−EH系)および 有理化E−B対応体系(R−EB系)である。勿論量記号 表示の段階であるから,この4つの理論体系のそれぞれに,
どの具体的単位系を採用しても良いことになる。これまで の電気磁気学では,それぞれが,専用の単位系を持ってい たので,この様な飛躍は,理解しにくいものと思われる。
量記号表示の4つの体系間で同種の量の関係は,何時も 等しく訳でなく,例えば,誘電率ε,透磁率μでは,
4 lr e R=eRI
,33)
ptR == 4 ngRI
の様に4π倍の違いがある。詳しくは,著者らの報告4) 5)
を参照されたい。また,33)式に示した関係は,E−H対応,
E−B対応の違いとは無関係な式である。著者らは,この 4種の体系について検討を行い,典型的な電磁気量につい て,18個の,33)式と同じ段階の変換関係式を導いた4) 5)。
従来の扱いでは,等しいものと考えていたものが多くあり,
その結果,その矛盾が単位系にしわよせられ,電磁気学の 諸体系間では,一応つじつまがあっている取り扱いとなっ ていた。しかし,おかしなことであり,他の分野の諸理論 体系とは,一一・一緒には扱えないことになる。
元来,従来の電磁気学諸理論体系は,それぞれ専用の単 位系を備えた形で構築され,使用者としては,その枠の中 で利用する限りはは問題はなかったが,電算機システムの 発達とも関連し,学問全体の統合化が必要な現在,矛盾が 表に現れたことになる。
また,一つの体系の専用単位系の使用,すなわち,単位 系に密着した量の定義は,科学の進展の上では,抽象性が
.低い段階に対応していると思う。
3.4.4 単位換算表での矛盾 電磁気学の教科書,
各種データブック,百科辞典等で現在使用されている電磁 気学の単位換算表では,例えば,
電荷
電束
1 [C] =10Ui[CGSemu],
= 3 × 109 [CGSesu] ,
,34)
1 [C]= 4 n ×10M [CGSemu]v = 4 n × 3 ×109 [CGSesu]v
の様に表されている。一見別種の関係の様に見えるが,著 者らのPRPQ法による単位定義式では,
1 [C] == 1 [A s]
1[CGSemu]q。.Ψ=1[CGSe皿u]1。[s]
1 [CGSesu],.. sy = 1 [CGSesu]i [s]
,35)
の様に,電荷と電束とは同じ式で単位が定義される。著者 らの方法では,単位変換式に4πは現れ様がない。3.4.
2.の項で述べた様に,4元系を使用した吟味方法である が,簡単に3元化できるので,証明方法としては,問題は ない訳である。すなわち,大概の教科書等に誤りがあった ことになる。従来の単位換算表では,この種の誤りが十数 個あり,どの様な訂正を行うかが今後の問題となる。
3.4.5 電磁気学諸体系を包括する枠組 従来,包 括できなかった電磁気学の諸体系を,著者らのPRPQ法 によって,まず,具体的単位系決定以前の量記号表示の4 つの体系,すなわち,非有理化E−H対応体系,非有理化 E−B対応体系,有理化E−H対応体系および有理化E−
B対応体系の各種法則を明示した上で,3.4.4項で述 べた同種の量の変換式で,4体系を一体化する。こ・では,
どの体系が最も良く電磁気学を表現するかと言う問題には 立ち入らず,形式的にどれかの体系を標準に選び,全体の 枠組を構成する。この段階では,この4理論体系に,どの 具体的単位系を適用しても矛盾はない状態ちなっている。
詳細については,著者らの報告4) 5)を参照されだい。
3.5 基本量の選択と次元
元来,単位系を構成する際,基本量の個数,その種類等 の選択はかなり人為的で,そのため,この種の問題につい ての法則的なものは,明示されていない。すなわち,一つ の約束事の扱いであった。とは言え,この様な量の取り扱 いでは,この次元が主役の働きをしている様に思える。こ の種の法則性の吟味は今後の問題であろう。
3.6 当量概念3)
前項の基本量の選択と関連して,物質の量と当量の概念 の問題がある。
分析化学で通常使用されてきた当量の概念は,現在でも 化学関係の殆どの研究室で規定度で濃度を表した試薬瓶が 使用されているのにも関わらず,SIでは採用されていな い。すべてが物質の量で表されると言う立場であろう。当 量概念は,各物質の化学的な意味での働きの概念であり,
これを無視するのは,これまでの化学の歴史を否定する側 面があると考える。化学の分野は,数値方程式ですべてを 表してきたもので,各量の次元的検討は十分でなかった様
に思われるが,SIの構成に参加した化学系の方々が特に 主張すべき事柄であったと思う。当量概念のPRPQ法で の表現は,著者の報告3)を参照されたい。
4.おわりに
広い学問領域での,種々の分野での各種理論体系を著者 らのPRPQ法と言う枠組の中に納めることが,研究の一 つの目的であったが,この枠組中に理論体系を納めるため には,認識論的に見て種々の段階にある体系を同じレベル に揃える必要があり,こ・では,量記号表示の関係式(数 値を含む場合は,QUまたはQ/[UQ]の表現を使用)で 表される段階まで抽象性を上げることで,すひわち,単位 系の選択から自由になることで,この枠組に納まることが,
これまでの検討の結果2)〜6),確認された。
それぞれの分野では,それぞれの認識論的段階のなかで,
すなわち,その分野での常識に照らして理論の体系化が進 められてきたことになるが,電算機システムと言う途方も ない道具を前にして,我々は,自分での主観と言うか,常 識と言うか,その様なものから脱皮する時期に来ている様 に思える。また,また,学問の諸体系を,巨大な知識ベー ス・システムの中に収め,これを利用する時代がすぐそば まできている様に思える。自然科学・工学の分野では,ま さに計算機嫌いが認められない時代となった。著者らの研 究は,その脱皮の一つの結果である。
文 献
1)M.LMacGlasham著,関集三ら共訳;SI単位と物 理・化学量,(1974),化学同人
2)谷岡 守;津山工業高等専門学校紀要,第19号(1981),
29
3)谷岡 守;津山工業高等専門学校紀要,第23号(1985),
87
4)谷岡 守,河合雅弘;津山工業高等専門学校紀要,第 24号(1986),77
5)谷岡 守,河合雅弘;津山工業高等専門学校紀要,第 25号(1987),11
6)谷岡 守,河合雅弘;津山工業高等専門学校紀要,第 27号(1989),47
7)飯田修一著;新電磁気学上,(1975),丸善 8)金原寿郎編;基礎物理学上,(1963),p.13裳華房