論 壇
企 業価 値が意 味 す るもの
青 木 茂 男・
〈論 壇 要旨〉
経営者は企業価値, 株主 価値の 向上 が 求め られて い るが , 企 業 価値の概念は 必ず しも 明確
でない.企 業 価 値の測定におい てはフ リー ・
キ ャ ッシ ュ フ ロ ーの
予 測, 資 本 コ k トの推定な ど様々 な工 夫や, 主観, 判 断が入 り込 み, 職人芸的 な要素も反 映 され る.DCF 法によっ て測 定した 株 主 価 値の うち,構 成 要 素 とし ての 無形資 産 (R&D 資産お よ び ブラン ド等)の金額 は
公表されてい る他の測 定モ デル に よ る結果と は大 き く異 な る.無 形 資 産の うち R&D 資産の部 分は大きいが, ブラン ド等の部 分は極め て小 さい.株 主 価値と株価との関係にっ い て は, DCF
法では 継 続価値よ り も 予測期間価値 が関係 が 強い, 割 引超過 利益法は DCF 法 に 比べ て株価と の 関係が強いが 自己資本の影 響に よ る, など が指摘 さ れ る.企業価値の測定に あ たっ ては, 統計処 理の ような 画一的測定で はなく,各企業の特 性 を 考 慮 して測 定 する 必要があ る.
〈 キーワー ド〉
企 業 価 値,株 主 価 値,R&D 資産, 無 形資産, DCF 法
Issues in Firm Valuation
Shigeo Aoki*
Abstract Creating行 value or sh田凾eholders
value is expec 芝ed fbr company 照 magement , however, the
concept of 行rm value is vague . Ingenuity, subjectivity and ;nference are required 長)r e就imation of free
cas団 ow and cost of capital. The amount of intangibles measured using DCF differs significantly 丘om amounts using other models . While R&D assets are m勾or components of intangible母, brand
assetS are minor . ln terms of the relationship between shareholder value and stock price, terminal
value has a stronger relationship than period value ;and shareholde!s value has a stronger relationship
in the Residual lncome Model (IUM )than in DCF . We should measure 且ex {b】y ∬ value byねking
account of a
.firm’s individuality rather than sirnplistic statistical analysis. Key Words
Firm va}ue , Shareholder value , R&D assets , Intang}ble assets, DCF model
2008 年 11月30日 受理
*青 山 学 院 大 学 大 学 院 会計プロフ ェ ッシ ョ ン研 究 科
Accepted 30 November 2008
Graduate Scheol of Professional Accountancy ,
1 . は じめ に
本稿の 目的 は次の 4点であ る.1)多様 な意 味に 使 わ れてい る 「企 業価値」概念 を 整 理 する,
2)企業価値 ・株 主価 値を測 定し, その 過 程で直面する諸 問題を整理する, 3)株 主価値構成 要 素 とし ての インタンジ ブル ズ (R&D 資産と ブ ラン ド等)を推 定する, 4)株 価と株主価値の関係
を検討する.本稿は 日本管理 会 計学会 統一
論 題 (2008 年 8 月 )で報 告 した 内 容に加筆修正 した ものであ る.
2 . 多様 な 「企業 価値」 概 念
「企業価 値」 の概念は多義に使 わ れて お り, 企業の 品 格, 社 会 的 評価, 競争 力,収益性な ど 非 計数 的要素を含め て総合 的に判断する 立 場 と,金額で測 定で き る もの だ け に限 定 す る立 場と が あ る,総合 的 に 判 断 す る 立 場 はビ ジネ ス社 会に多い が, 金額に限 定 する立場は学術 的 な立場が多い.n{[}
1)企 業 価値を 総 合 的 に 判 断 す る 立 場
ステーク ホル ダー全体に とっ て の 価値を意 味する 場合が多い が ,東急電 鉄の よ うに 倫 理, 環境保 全 まで を も 広 く捉 え る 企業も あ る.非計数的 要素を含め る 立場では貨幣金額によ る測 定は不 可能で ある.
トヨ タ 自動車 (有価証券報告書 2008 .3期 fコ ーポレー
ト・ガバ ナ ン ス 」 の 項 )
「当 社 は,長 期 安 定的な 企 業 価 値の 向 上 を経営の最 重 要 課 題 と して い る.その 実現のた めに は, 株主の 皆様 や お 客 様 を は じ め, 取 引 先, 地 域 社 会, 従業 員等の 各ス テーク ホル ダーと良好な 関係を築 き,お 客様に満足 し てい た だ け る商品 を提供するこ とに よ り長 期安定 的 な 成 長 を遂 げてい くこと が 重 要 と考 えてい る 」
東急電鉄 (事業報告 20e6. 3ue)
「企業倫理の 遵守, 地球環境保 全活動および各社 社会貢献活 動など を引き続き進め,企業価 値の最 大 化に努 めて一一一」
日本経 済団体連合 会 (報告書 .「企業価 値最大化に向けた経 営戦略」 2006 .3. 22)
「ゴーイン グコ ンサーン と して の企 業の 価 値 は
, 企 業 が 将 来 に わ た り生み出すこと を期待さ れてい る付 加価値の合計である.企業価値は,配当 や キャ ピ タル ゲ イン と して 『株 主 に帰属 す る 価 値』 (株主 価 値)と顧 客 ・従 業 員 ・地域社 会 な ど 『株 主 以 外の ステーク ホル ダーに帰属す
る価値 』の 源泉 で ある.企業価値の最大化こそ経営者の使 命で あるが,近年 ,さ まざま な次元 で, 企業価 値の最 大 化 に 向 け た経営戦 略の あ り方 が 議論の焦 点 と なっ て い る。経 営者は企業 価値の 最 大化 を 目指し て い るにもか かわ らず ,企業価値 その もの は 計 測 が 難 しい.経営者は 実際には, 把 握 可能 な株式時 価総額を 参考としつ つ , 企業価値の最 大化に取り組ん でい る」
2)企業価値を 金額で測定で き るものに限定する立場
下 記の リコ ーの よ うに企 業が企業 価値を金 額で 測定で き る もの に 限 定 するの は少数派で あ る.ま た, 経済産 業省や概念フ レーム ワーク で は測定方 法とし て キャ ッ シ ュ ・フロ ーza(DCF 法 )に 特定して いる.企 業 価 値の測 定方法 に は 残 余 利 益 法 (割 引 超 過 利 益 法 ), 配 当還元法も あ るが, DCF法が 基本的 な測定 方 法である と認識されて いる.
リコ ー (事 業 報 告2008.3期 )
「創 出した利益 を 大 き な 成長が期 待され る事 業領 域 や 技 術 力 強 化の た めの 投 資に も振 り向 け ることに よ り,業績を伸ば し, さらな る 企 業 価値の 増大 を 図っ て まい り ます」
経 済 産 業 省 (厂企 業 価 値 研 究 会」報 告, 2008.6)
「『指針』」及び本報告書にお ける 『企業価値』と は, 概 念 的に は, 『キ ャ ッ シュ フ ロ ーの割 引現在価 値』を 指 すこ と を 確 認 して おく.こ の概 念 を恣意的に拡 大 して, 『指針』及び本 報告 書を解釈し て はな らない 」
企 業 会計基準 委 員 会 討 議資料 (「財 務 会 計の概念 フ レーム ワーク
」2006 .12)
財務 報告の 目的 を 「企業価 値の評価に役立つ ような, 企業財務 状況の開示に ある」 (序文〉 とし, 利益 情報 は 「企業価値評価の 基 礎 と な る 将 来キ ャ ッ シュ フ n 一の 予 測 に 広 く 用い られ てい る 」 と してい る.
本 稿で は2)の 立 揚か ら,金 額で測 定で きる もの に 限っ て 検討 する.
3 . 企業価 値 ・ 株 主価値の 測 定 と測 定上 の 諸 問題
企 業 価 値 ・株 主 価 値 を 過去 の財 務 データで測定 し,測定過程で 直面 す る 諸 問 題 を検 討する. 企 業価 値と株 主 価値を 必 ず し も 明 確に区分せず両者を 同 じ意 味で使 用 す る ことも多い が,本 稿で は, 企業価値= 負債価値+株主価値,とす る.た だ, M &A に お け る評価な ど実 務では,
キャ ッ シ ュ ・フ ロ ー(DCF 法で用い る フ リー ・キ ャ ッ シ ュ フ ロ ー FCF は金 融 損 益 加 減 前 )を創 出しない現預金,有価証券,投資その 他資産, 遊休資産 を非事業用資産として DCF 法で求め た 企 業 価値に 加 え る.こ の 場 合 に は, DCF 法で測定し た企業価値 を 事 業 価 値 と表現し, 企業 価 値 =事業価値+非事業価値 ,とする が本稿で も 同 様 に扱 う.FCF が 同 じ で も非事業 価値に 大き な差が あ る 2 つ の企 業を 同 列 に は扱え ない し, 財 務データ で実 際に測定す る 場 合で も 非 事業価値を考慮しない と, 株 価との乖離が大き くな り理 論 的 には ともか く現 実問題とし て , 株 価との 関連づ けが 困難にな る.米 国 企 業 に 較べ て金融資 産 を多く保有す る 日本 企 業 に おい
て は と くにこ の必 要 性が強い .非事業 価値 を加 えた企業価 値 か ら負債 価値を控 除し た株主価 値の う ち, 株 主 資 本 と評 価 ・換 算差額を 超 え る部分はインタン ジブル ズ であり,イン タン ジ ブル ズ は R&D 資産と ブ ラン ド等 か ら構 成 され るもの とする.
企業価 値 (事 業価 値+非事業価値)一
負債価 値 = 株 主 価値
=株主資本+評 価 ・換算差額+イン タン ジ ブル ズ (R&D 資産+ブ ラン ド等 )
3− 1DCF 法に よる事業価値の 測 定 使 用 財務データ
・ 日本 ;日経NEEDS企業財 務デー
タの連結財務諸 表.米 国 :Compustat .
・ 対 象 企 業 と期間
日本 :日経225の企業の うち,1998年3月期か ら2007 年3月期まで継 続 し てデー
タが とれ る,製 造業, 決算期変更が ない, 上 場会社 同士 の合 併がない,親 会 社が 上 場 してい る場合は 子 会社
を除く,とい う条件を満たす企業 135社.
米国 :S&P500に採用 さ れて い る企業の うち,1997年 か ら2007 年まで継続 してデータ が とれる
製造業194社
資 本コ ス ト(WACC)
・べ 一タ 日本 :日経NEEDSのTOPIX 60ヶ月べ 一タ
, 2008年3月 (東京 証券取引 所).
米 国 :S&P50060 ヶ月(Compustat 財務デ「 タ)
・リス ク ・フ リーレ ー ト 日本 :1.53%, 10年物利付 国債 (新発債流通利回 り, 目本銀行 公 表1 997 . 4〜2007 .3月次利回 平均 ).米 国 :10年 物 財務省 証券4. 86% (1998/1−2007/12月 次 平 均 )
・リス クプレ ミ アム 3% FCF予測方 法
・1998年3月期か ら2007年3月期 (10年 )の 実績CF (キャ ッ シュ ・フ ロ ー)か ら2008年3期のFCFを 予 測 し, その予 測 値 が 無 限 に 継 続 す る もの と す る.企 業 外 部の 立場か ら長 期にわたるFCFを 予 測するの は困難だか ら, 実績 数値か ら翌期の数値 を予測 し, そ れ を資本還 元 し た.
・2008 年3期のFCF予測に はDecisioneering 社の ソフ ト 「CB Predict。r Ver .7.22」 を 用い る. 非 季節平 滑 法 を 採 用.予 測の方法には,シ ングル 移 動 平 均 法,ダ ブル移 動 平 均 法, シ ン グル
指数平 滑 法, ダブル指 数 法が あ る が, 各 企 業 毎 に 予 測 誤差が最 も小 さい方法選択し て予 測 す る (各方法の計算式はDecisi。neering Inc.,構 造計画研 究所 訳,2005 ,129−131頁). ARIMAモ
デル は使用 しない (サ ンプル 年 数が 1Q年 と 少 ない ので適 用で き ない).
・FCF: 営 業キ ャ ッシa ・フ ロ・・一(CFO)一投資等キャ ッシ ュ ・フ ロ ー(CFI)
営業 キャ ッ シ ュ ・フロ ー; 営業利益 X (1一実効税 率O.4)+減 価償却 費一受取 手 形 ・売 掛 金増+割 引手形増+棚卸資産増)+支払 手 形 ・買 掛 金増
投資等キャ ッ シュ ・フ ロ ー
(CFD
= 有 形固定資産 (簿価)増+無形固定資産 (簿価)増+減価 償却費 事業価値測定 上の問題点
a)FCF予 測の 困難性
DCF法で は 将 来のFCF無 限 流 列 を 前 提 と するが, 無限 流列の予測は実 際に は 不 可 能 だ か ら, 通常は5年を各 年毎に予 測(予 測 期 間 価 値 ),その 後 は一定 と仮 定 (継 続 価
値)するこ と が多い.
し か し,割 引率5%とする と事業価値に 占め る割合は予 測期 間価 値21 .6%,継続 価 値78 .4%であ り,事業価 値のかな りの部 分 は 予 測 期 間 後のFCF
、.]に依存するこ とにな る.
n
曝 諧 ・ 1;/.lllF,:,:,;一’”
また,FCF実績値 はマ イ ナス の こ と も あ るの で (2007年度は 日本の上場企業3,069 社の うち1,1
79 社がマ イ ナス), 予測FCFがマ イナス にな るこ とも あ る.本稿ではFCFがマ イ ナス の 場合は事 業 価値ゼ ロ として計算 した.必ずしも現実的では ない が, この 場合の企業価値は 非 事 業 価値
の み となる.本稿で は単純にFCFを 予測し たが, A . Damodaran は成長 率, 成 長期 間な ど多 くの 考慮 すべ き項目 を検討して い る(A.Damodaran , 2006, pp.117−156.)
b)CFI予 測の 困難性
CFIは現状設備 能力を 維持す る た めの投 資で あ り, 拡 大投資を含まない とされて い る.し か し, 現 状 設 備 と 同 じ設備を 更新する とい うこ とは通常は ない し, 設 備 投 資は経 済情勢, 製品 の需給動 向などの影 響で変 動が激しい.CFIの 合 理 的 な 金額を測定する の は容易でない .
c)資 本コ ス ト (WACC)
本稿で も 自己資本 コ ス トrはCAPMに よっ た が, CAPMに 対 して多 くの批判が あるの は周 知の 通