パブリシティ価値の定義と﹁パブリシティの権利﹂ い
堀 江 亜以子
一 わが国における﹁パブリシティ権﹂保護理論の展開
ニ パブリシティ価値が発生するもの
ー.生物
ω 著名人︵芸能人︑スポーツ選手等︶の氏名・肖像 ・
② 動物
③ 植物 ︑
2.非生物
ω 著作権との交錯
② 商標権との交錯
㈲ 意匠権との交錯 ︐ ︑ − ︑
パブリシティ価値の定義と﹃パブリシティの権利﹄ . ︵都法四十四ー二︶ 二七五
、
・ 二七六
3.小括
三 ﹁物のパブリシティ権﹂対象物の類型化
1.﹁物﹂の性質に基づく四類型
2.﹁物のパブリシティ権﹂論は必要か
四 不正競争防止法の適用可能性
1.﹁パブリシティ価値﹂と差止請求権
2.出所表示・品質保証機能との乖離
五 今後の課題
一 わが国における﹁パブリシティ権﹂保護理論の展開
︵1︶ いわゆる﹁パブリシティの権利﹂論は︑当初米国において発生・発展したものであるが︑この概念が日本に紹介さ ︵2︶ れ︑実際に判決として登場したのはマーク・レスター事件判決が最初である︒この事件では︑子役俳優が主演した外
国映画の一部を︑映画の内容とは関係のないチョコレート菓子の広告に使用した行為につき︑当該俳優に損害賠償請
求権が生ずるか否かが争われた︒この判決においては直接に﹁パブリシティ権﹂という文言は用いられていないもの
の︑わが国の判例上初めて︑俳優等の氏名・肖像について人格的利益︵精神的利益︶とは別個独立した﹁氏名及び肖
像に関する財産的利益﹂の存在が肯定された︒ ︵3︶ その後いくつかの裁判例を経て︑﹁パブリシティ権﹂という文言が使用されるに至ったのは﹁光GENJI﹂事件
︵4︶ 判決である︒これらの裁判例を通じて︑著名人の氏名・.肖像等を広告に使用したり︑あるいはそれ自体を商品化する
ことによって︑プライバシー権等の人格的利益とは異なる経済的利益が発生し︑これが法的な保護の対象となること
が明らかにされた︒ ︵5︶ さらに︑﹁おニャン子クラブ﹂事件控訴審判決は︑著名人の氏名・肖像等に生ずる経済的利益の侵害につき差止請
求権を行使しうると判示した︒差止請求権が発生する明確な条文根拠は示されなかったものの︑この判決以後︑﹁パ
ブリシティ権﹂とは﹁固有の名声︑社会的評価︑知名度等を獲得した著名人がその氏名︑肖像から生ずる顧客吸引力
の持つ経済的利益ないし価値を排他的に支配する財産的権利﹂として認知されていくことになる︒ ︑ ︵6︶ その後︑﹁パブリシティ権﹂の対象は拡大する傾向を見せる︒﹁キング・クリムゾン﹂事件第一審判決は︑著名なロッ
クバンドに関する情報を網羅的に掲載した書籍にレコード・ジャケットを掲載する行為も﹁パブリシティ権﹂侵害に ︵7︶ ︵8︶ 当たると判断した︒さらに︑ギャロップレーサー事件判決では︑競馬ゲーム・ソフトの中で実在の競走馬の馬名を使
用した行為につき﹁物のパブリシティ権﹂の侵害を認め︑その権利の帰属主体を物︵H競走馬︶の所有権著︵H馬主︶
であると判示した︒
これに対し︑同様に競走馬育成ゲームソフトの中で実在の競走馬の名称を使用した行為が問題となったダービース
︑ ︵9︶ タリオン事件控訴審判決は︑﹁パブリシティ権﹂は人格権に根ざすものであって︑物に﹁パブリシティ権﹂を認める
ことはできないと判示した︒ここに至って︑裁判例の積み重ねによって明らかにされつつあるかに思われた﹁パブリ
シティ権﹂の内容や対象は\再び混迷の状況に陥ったといってよいであろう︒
﹁パブリシティ権﹂を定義するに当たって︑その発生のメルクマールとなる﹁顧客吸引力﹂はしばしば﹁パブリシ
ティ価値﹂と呼ばれる︒そして︑﹁パブリシティ権﹂侵害の有無が問題となるのは︑﹁パブリシティ価値﹂自体が商品
パブリシティ価値の定義と﹃パブリシティの権利﹄ ︵都法四十四ー二︶ 二七七
二七八
化され︑あるいはその宣伝・広告効果を利用された場合である︒本稿は.いわゆる﹁パブリシティ権﹂論を展開する前
提として︑﹁パブリシティ権﹂が保護の対象としている﹁パブリシティ価値﹂とは何かを明らかにすることにより︑
﹁パブリシティ権﹂の内容を明らかにする道筋を示すことを目的とする︒
次節ではまず︑現在﹁パブリシティ権﹂論において議論の対象とされているものに限らず︑﹁パブリシティ価値﹂
が発生しうると考えられるものとして︑その名称や外観自体に商品価値が発生して商品化事業や宣伝・広告に利用さ
れうるものを分類・列挙し︑﹁パブリシティ価値﹂とは何かを明らかにする︒
次に昨今の﹁物のパブリシティ権﹂論について︑対象の側面から考察することにより︑議論の妥当性について検討
する︒ その後︑現行法上適用しうる可能性のある法規として︑不正競争防止法の適用可能性に言及し︑従来からの各論的
問題解決への足がかりを作りたいと思う︒
ニ パブリシティ価値が発生するもの
一でみた通り︑現在︑わが国の裁判例において︑芸能人や有名スポーッ選手といったいわゆる著名人の氏名・肖像
については﹁パブリシティ権﹂に基づ︑いてその﹁パブリシティ価値﹂の保護がなされているが︑動物その他の﹁物﹂ ︵10︶ については見解が分かれている︒他方︑学説上においては︑商品化事業と宣伝・広告という利用態様に着目して漫画 ︵11︶ のキャラクターや︑プロ・スポーツ・チームのシンボルマーク等をも視野に入れた論考がみられる︒以下では︑商品
化事業あるいは宣伝・広告に利用されうると考えられるものを︑まず生物と非生物とに分け︑それらが従来求められ
ている社会的役割と商品化事業や宣伝・広告利用との関係について分類・分析することを通じて︑﹁パブリシティ価
値﹂とは何かを定義する︒
・1.生物 ︐
ω 著名人︵芸能人︑スポーッ選手等︶の氏名.肖像
現在わが国において︑著名人の氏名・肖像等に﹁パブリシティ価値﹂が発生するということについては︑判例.学
説ともに見解の一致しているどころであろう︒また︑商品化事業・広告宣伝のいずれにおいても利用されうることに
︐ ついても疑いの余地はない︒しかしながら︑その﹁著名人﹂の﹁業務内容︵11社会的役割︶﹂によって︑﹁パブリシティ
価値﹂の発生の仕方に相違がみられる可能性があるだろう︒
a.歌手︑俳優︑スポーッ選手等
歌手︑.俳優︑スポーッ選手等については︑まず︑その芸能活動や競技における活躍を通じて著名となり︑そこから
﹁パブリシティ価値﹂が発生し︑商品化事業への利用可能性が生ずると考えることができる︒広告.宣伝についても
^利用価値が発生するめは著名性の獲得後である︒この場合︑彼らの氏名・肖像は﹁パブリシティ価値﹂を有する氏名.
肖像であると同時に︑その活動や競技といった﹁本来的業務︵‖歌唱・演奏︑演技︑競技︶﹂をするに当たって彼ら
を識別する標識でもあり︑両者の機能を区別することが可能である︒仮にこの﹁本来的業務﹂を一次的コン一プクスト
とすれば︑彼らの氏名・肖像は一次的コンテクストの主体を示す表示として機能すると同時に︑そこから離れた二次
∨的コンテクストにおいて商品化し︑あるいは宣伝・広告に利用しうると考えることができる︒すなわち﹁パブリシティ
パブリシティ価値の定義と﹃パブリシティの権利﹄ ︵都法四十四ー二︶ 二七九
二八〇
価値の発生﹂とは﹁二次的コンテクストの発生﹂ということができるであろう︒
b.著名性先行型の芸能人等
しかしながら︑現在﹁パブリシティ価値﹂の発生する著名人とは︑必ずしも前項で述べたような本来的業務を通じ
て著名になった者ばかりとはいえないのではないか︒特に芸能人においては︑著名性の獲得が先行する場合がかなり ロ 増えているのではないだろうか︒このような場合には︑一次的コンテクストが未定または欠如したまま二次的コンテ
クストが発生する︑もしくは二次的コンテクストの発生そのものが目的であるということもできるであろう︒
② 動物
動物に関しても︑商品化事業や広告宣伝に利用されることが少なくないことから︑﹁パブリシティ価値﹂が発生し
ていると考えることができる︒実際には動物タレント専門の事務所に所属し︑訓練されている動物が︑映画やドラマ︑
CMなどに登場して人気を博す場合が典型的であるが︑その他にメディアで紹介された珍しい動物が人気を博し︑商
品化事業に利用されることもある︒その際前者の場合にはその動物個体自体に識別力が生じているのに対し︑後者の
場合は個体ではなく動物種に人気が発生していることが多いという特徴がある︒
a.個体識別力を獲得した動物の名称・肖像
動物個体自体に識別力が生じている場合︑著名人の例に模して︑その個体の名称・姿態は︑動物タレントとしての
業務という一次的コンテクストにおける動物個体に関する表示であると同時に︑二次的コンテクストにおける﹁パブ
リシティ価値﹂の発生源であるといいうる︒しかしながら︑動物の場合︑商品化事業の対象となりうることは間違い
ないが︑宣伝・広告に利用する場合には︑その動物個体が出演することによって宣伝・広告の効果が高くなるという
相関関係は︑否定はできないものの︑著名人の場合に比して薄いのではないだろうか︒
b.個体識別力はないが︑新たに種としての識別力・人気を得たもの
他方︑個体識別力が発生していない場合︑当然一次的コンテクストは存在しない︒商品化事業の対象として二次的
コンテクストが発生する余地はあるが︑そこに﹁権利﹂を措定するとした場合︑その主体が想定しうるのだろうか︒
その動物が主体になり得ないのは当然として︑種全体の名称や姿態が二次的コンテクストの発生源である場合︑それ
を特定人に帰属させることはできるのであろうか︒この点につき︑野生生物の場合と︑人工交配やその他の技術によっ
て人為的に作られた生物種とを分けて考えることができるが︑この点については﹁物のパブリシティ権﹂との関連に
おいて後述する︒
③ 植物
植物については︑一次的コンテクストを想定することはまず不可能であるが︑個体識別力を獲得している場合にそ
れを商品化する可能性はある︒個体識別力を持たない場合はどうか︑また動物におけるのと同様︑野生の場合と人工︑ .
の場合との異同はどうかといった問題については﹁物のパブリシティ権﹂どの関連において後述する︒
2.非生物 ・ ︑ わが国の裁判例において主に﹁パブリシティ権﹂の対象として議論されているのはほとんどが人や動物についてで
あるが︑﹁物のパブリシティ権﹂肯定論者が﹁物のパブリシティ権を認めた事例﹂としてあげる判決の中には生物以
パブリシティ価値の定義と﹃パブリシティの権利﹄ ︵都法四十四ー二︶ 二八一
︑二八二
︵13︶ 外のものも含まれている︒また前述の通り︑﹁パブリシティ価値﹂の発生源としてはキャラクターやシンボルマーク
等も視野に入れる必要がある︒生物以外のもの一般を対象とする﹁物のパブリシティ権﹂論については節を改めて言
及するので︑ここでは実際に商品化事業が行われる一方で︑その対象物が他の知的財産法によっても保護の対象たり
うる場合に限定して検討する︒
ω 著作権との交錯 −
a.漫画・アニメのキャラクター
漫画やアニメーション等のキャラクターについてはその商品化に関する権利を中心に従来様々に議論され︑判例上 ︵14︶ ︵15︶ も著作権法による保護を認めた事例と不正競争防止法による保護を認めた事例とが存在する︒このうち著作権法によ
る保護を認めた事例において特徴的なのは︑キャラクターを特定の容姿・外観・性格等を備えた人格的なものとして
とらえ︑キャラクターそのものについての著作物性は否定するものの︑結論としては原著作物の複製や変形に該当す
るものとして原著作物の著作権に基づく保護が与えられていることである︒
漫画やアニメのキャラクターは︑一次的コンテクストにおいて︑原著作物のストーリーを展開させるための登場人
物であって︑その名称や外観・姿態は当該キャラクターを表す記号的なものとして著作物の一部を成すものである︒
しかしながら︑二次的コンテクストにおいて︑キャラクターの名称・外観・容姿は︑原著作物から離れて商品化され
うるパブリシティ価値の源泉として存在するものであるから︑著名人の氏名・肖像に生ずる﹁パブリシティ価値﹂に
類似するものと考えることができる︒また︑著名人と同様に︑キャラクターの名称・外観・姿態から生ずる宣伝・広
告効果を︑原著作物から離れて利用しうることも既に周知の事実であろう︒だとすれば︑﹁パブリシティ価値﹂とい
う観点からすれば︑著名人と漫画・アニメのキャラクターとは同列に扱われてよいはずである︒
しかしながら︑ここで問題となるのが︑原著作物の著作権保護期間との関係である︒漫画・アニメキャラクターの
商品化権については原著作物の著作権によるものとする裁判例が既に多数蓄積されていることを勘案して︑一次的コ
ンテクストにおいて著作権法で保護されるものは二次的コンテクストにおいても著作権法で保護されるべきであると
いうのであれば︑原著作物の著作権保護期間終了と同時に﹁パブリシティ価値﹂もパブリック・ドメイン化すること
になる︒果たしてこれが妥当な解決であるか否かについてはさらなる検討を要する︒また︑近年において不正競争防
止法によって保護を与える裁判例もみられる点も留意すべきであろう︒
b∵キャラクター商品のためにのみ創作されたキャラクター ︑
前述の原著作物たる漫画やアニメのキャラクターとして著名になったものに﹁パブリシティ価値﹂が発生する場合
以外にも︑架空の存在であるキャラクターが商品化され︑あるいは宣伝・広告に利用されることが往々にしてある︒
これは最初から﹁キャラクター商品﹂として販売するためにデザインされたキャラクターを︑文具や食器︑衣類その
他の商品に付して販売するような形態である︒最近は︑このようなキャラクターが特に人気を博した場合に︑その後
に絵本や漫画が出版されたり︑アニメ化されたりすることはあるが︑当初は﹁商品化を目的として創作されたキャラ
クター﹂をのみが存在するにすぎないから︑︐二次的コンテクストのみを目的とし︑一次的コンテクストが欠如したキャ
ラクターということができるであろう︒このようなキャラクターも﹁パブリシティ価値﹂が発生すれば︑商品化事業 ︵16︶︑− ︑ のみならず︑宣伝・広告に利用されうることはもちろんである︒
c.美術著作物︵絵画・彫刻・写真︶の商品化
パブリシティ価値の定義と﹃パブリシティの権利﹄ − a ︵都法四十四ー二︶ 二八三
二八四
従来あまり論じられることはなかったが︑漫画やアニメ以外の美術著作物についても実際に商品化されたり︑宣伝・
広告に利用されたりしている現実に鑑みれば︑その﹁パブリシティ価値﹂を論じる余地は存在するであろう︒美術作
品も︑美術館の売店などで︑ポスターや絵葉書のみならず︑Tシャツや文旦ハ︑灰皿などに印刷されて販売されること
があるが︑作品全体が複製されている場合︑特に絵画や写真などに関しては︑未だ著作物としての鑑賞対象の範疇に
あるというべきであり︑印刷されている媒体が何らかの商品であるにすぎないから︑著作権法プロパーの問題として
把握しても何ら問題は生じないと思われる︒
しかし︑著名な絵画作品に描かれた人物等について︑その部分だけが抜き出され︑立体化され︑商品化されること ︵17︶ は起こり得る︒この場合は鑑賞の対象というよりも︑むしろ漫画・アニメのキャラクターに類似すると言えるであろ
う︒ 但し︑彫刻等の立体作品についてはいずれに分類されるのかを一概にいうのは困難であり︑個別具体的な事例に即
して判断するしかないと思われる︒
② 商標権との交錯
著名な商標は︑それが表章するものを離れて︑﹁パブリシティ価値﹂を生ずることがある︒この場合︑当該商標が
付されている商品が指定商品であるか否かは関係がなく︵むしろ指定商品外であることも多いであろう︶︑また当該
商標が本体表すべき出所とは異なる出所によって製造され︑当該商標とは別に商品出所が表示されていることも多い ︵18︶ から︑このような態様で使用される限りにおいて︑当該商標それ自体は出所表示機能も失われているといってよい︒
商品を購入する消費者側も︑当該商標の本来的に有する出所表示機能や品質保証機能とは全く関係なく︑商品デザイ
︵19︶ ンとしての商標にひかれて購入しているにすぎない︒
すなわち︑商標その他の標章についても一次的コンテクスト︵11商品等の出所表示・品質保証︶を離れて︑二次的
コンテクストとして﹁パブリシティ価値﹂が発生しうるということができるであろう︒この場合︑商標権の対象であ
る登録商標と︑不正競争防止法上の商品等表示としての保護のみを受けうる標章とに分けられるが︑前者につき︑ギャ の ロップレーサー事件控訴審判決は︑﹁商標法によって商標として登録した馬名が保護されるのは・登録した商標を自
己の業務にかかる商品又は役務について使用する場合に限られるのであって︑本件のように競走馬の馬主が競走馬の
有する名声︑社会的評価︑知名度等から生じる顧客吸引力という経済的利益ないし価値を支配し︑これを利用しよう
とするときには︑必ずしも有効とはいえないことが明らかである﹂として︑商標法の適用を否定している︒確かに︑.
自他商品識別力が認められれば︑たとえ未使用の段階であっても登録しうる商標権を︑全く異質な﹁パブリシティ価
値﹂についても援用するのは妥当な解決とは言えない︒
他方︑不正競争防止法によって保護される商品等表示である場合については︑二条一項一号における出所表示・品
質保証機能を捨象して︑二号の著名表示保護規定を適用することになるであろう︒
③ 意匠権との交錯
意匠権の対象となっている物品のデザインが人気を得た場合はどうか︒意匠権の保護期間内であれば︑同一類似物
品についてはまさに意匠権侵害の問題であるし︑非類似物品においては意匠の転用の問題である︒また当然の事なが
ら保護期間終了後であれば当該意匠はパブリック・ドメイン化するのであるから︑何人も自由に利用できるはずであ
る︒しかし︑当該意匠が︑不正競争防止法上の商品等表示としての機能を果たすに至っていた場合はどうか︒これは
パブリシティ価値の定義と﹃パブリシティの権利ピ ︵都法四十四ー二︶ 二八五
二八六
意匠法と不正競争防止法の適用関係の問題ということになり︑本稿の射程からはずれるが︑商品等表示としての機能
を維持・管理する行為が継続的に適切に行われている場合には︑不正競争防止法プロパーの問題となるであろう︒
3.小括 歌手・俳優・スポーッ選手等の人物や︑個体識別力を獲得した動物︑漫画・アニメ等のキャラクターは︑その本来
担う業務・役割︵一次的コンテクスト︶において著名となり︑そこから各々の氏名︵名称︶︒肖像︵外観︒姿態︶に
ついて発生した﹁パブリシティ価値﹂を商品化事業や宣伝・広告に利用しうる︵二次的コンテクストの発生︶という
ことができる︒商標についても︑本来的に商標として果たすべき機能︵一次的コンテクスト︶を離れて︑それ自体に
﹁パブリシティ価値﹂が発生し商品化事業が可能となる︵二次的コンテクストの発生︶点で同様である︒また一般の
美術著作物の中にも︑鑑賞の対象たる著作物︵一次的コンテクストの存在︶を離れて︑それ自体が商品化事業や宣伝︒
広告に利用しうる︵二次的コンテクストの発生︶ものが含まれている︒
このことから︑従来の﹁パブリシティ権﹂論において保護の対象とされている﹁パブリシティ価値﹂とは︑従来議
論されている﹁芸能人︑スポーツ選手等の著名人の氏名・肖像等に生ずる経済的利益﹂の枠に限定されるものではな
く︑生物であると否とに関わりなく︑それが社会的に期待されている役割を超えて︑それ自体に独自の商品価値や宣
伝・広告効果を備えたもの全般に認められるものであるといえる︒さらには︑グラビアアイドルやキャラクター商品
のために創作されたキャラクターのように︑最初からその肖像・外観・姿態等に商品価値や宣伝︒広告効果を生じさ
せ利用することを目的とするものは︑一次的コンテクストが欠如したまま︑﹁パブリシティ価値﹂の追求をその本旨
としているものであって︑むしろ︑純粋に﹁パブリシティ価値﹂の範疇にあるといえるから︑価値の源泉たるものが
、
一次的コンテクストにおいていかなる法的保護を受けているかによって︑﹁パブリシティ価値﹂の保護の可否を検討
することは妥当とは言えない︒
三 ﹁物のパブリシティ権﹂対象物の類型化
二では﹁パブリシティ価値﹂の源泉たりうると思われるものを生物と非生物︵知的財産権の客体︶とに分け︑一次
的コンテクストにおける法的保護との関係という視点から見てきたが︑これらと︑近年問題とされている﹁物のパブ
リシティ権﹂論とはどのような関係に立つのか︒また︑﹁パブリシティ価値﹂の保護対象の範囲として︑どこに境界 ︐
がひかれるべきなのか︒ここでは︑﹁物のパブリシティ権﹂論において取り上げられそいる裁判例に現れた保護客体
を足がかりに分類.分析を加え︑さらにニー②および⑧で積み残した動・植物と﹁パブリシティ価値﹂の問題を検討
したい︒ 1. ﹁物﹂の性質に基づく四類型
いわゆる﹁物のパブリシティ権﹂論がその対象にしているのは︑生物以外の﹁物﹂︐であり︑基本的には有体物の名
称.外観に﹁パブリシティ価値﹂が発生しうることを前提としている︒二2.では非生物については一次的コンテ
クストとして知的財産法による保護が認められるものに限定して検討七たが︑﹁物のパブリシティ権﹂論において取
り上げられている物は既存の知的財産法による保護が認められないか︑あるいは前述の競争馬名のように︑それによ
る保護が妥当ではない︑もしくは不明確なものである︒
パブリシティ価値の定義と﹃パブリシティの権利﹄ ︐︵都法四十四−二︶ 二八七
二八八
一方︑動・植物に関する検討からすると︑﹁人﹂以外のものについては﹁生物/非生物﹂という切り分けのみなら
ず︑﹁自然物・人工物﹂という分類も可能であり︑その結果﹁人﹂以外のものについては以下の4類型に分類するこ
とができる︒
a 生物×自然物
b 非生物×自然物
c 生物×人工物
d 非生物×人工物
まず︑aの類型についてであるが︑野生動物の珍種が衆目を集め︑その姿態を撮影した写真や戯画化した絵画が商
品化されることは珍しくない︒しかし︑野生動物である以上︑個体識別力を得ることは非常に稀であって︑特定種の
有する一般的特徴までしか認識されないのが通常であるから︑その商品化はむしろ商品等に使用される写真や絵画の
著作権の問題に集約されるであろう︒野生植物に関しては︑特に古い巨木などはその所在を特定することができるか 身
ら個体識別力を得る可能性はあり︑また当該個体に所有権が発生していることもあり得る︒商品化事業を行うに値す
る商品価値が発生する場合︑法律上の権利としては商品化に当たって使用される写真等の著作権と︑当該個体の所有
権が関わることになるが︑個体識別力ある植物の全てに商品化事業上の価値が発生するわけではないことに留意する
必要がある︒
b類型についても︑生物以外の自然物が商品化事業の対象たりうるには個体識別力が必要であろう︒例えば︑景勝
地の山や岩︑河川等である︒この場合も︑野生植物と同様に︑所有権の客体たる可能性がある︒
だとすると︑aとbは︑むしろ﹁個体識別力のある自然物﹂と﹁個体識別力のない自然物﹂とに分類し直すことが
ノ