序 文
レジオネラは市中肺炎および院内肺炎として重 要な原因菌である.その危険因子として旅行歴お よび 24 時間風呂使用歴が重要視され, 本邦では特 に温泉地旅行と関連して本症を発症することがあ る.今回著者らは,ヨーロッパ(トルコ)旅行中 に発症し,帰国後に施行した尿中抗原検査にて早 期に診断することができたレジオネラ肺炎の 1 邦 人例を経験したので報告する.
症 例
症例:75 歳,男性.
主訴:発熱,呼吸困難,全身倦怠感.
職業:20〜40 歳 鉱山勤務.41 歳〜事務職.
喫煙歴:20〜40 本
!日,20 年間.
現病歴:1995 年の検診で胸部 X 線検査にて両 側下肺野に網状影を指摘されたが自覚症状がない ため放置していた.2002 年より塵肺の診断にて当 科外来に通院し経過観察されていた.2003 年 12 月 17 日から 10 日間トルコへのツアー旅行に参加 した.出発前の体調には問題なく,国内の温泉旅 行歴,24 時間風呂の使用はなかった.最初の 2 日 間(12 月 17・18 日)滞在したトルコ・イズミール のホテルでは,プールや客室バスルームに温泉水 が引かれており, 温泉プールは利用しなかったが,
入浴時および洗面時に自室バスルームを使用し た.12 月 22 日から腰痛が出現,23 日には熱感・
呼吸困難を伴うようになった.26 日に帰国し,全 身倦怠感が強くなったため,27 日朝に当院救急外 来を受診した.胸部 X 線検査にて両側下肺野に浸 潤影を認め,肺炎と診断され,同日当科に緊急入 院した.
入院時現症:身長 158cm, 体重 68kg, 意識清明,
体温 38.2℃,呼吸数 22 回! 分,血圧 128! 68mmHg,
脈拍 82 回
!分 整,両側下肺野にて fine crackles を聴取,そのほか異常所見はなし.
入院時検査所見(Table1) :白血球は 9,200
!µl と 軽 度 上 昇 し,LDH 663mU
!ml,CRP 23.9mg
!dl,CPK 6,315mU
!ml と高値を示した.入院時施 行したレジオネラ尿中抗原検査(Binax Now le- gionella)が陽性であった.
入院時胸部 X 線写真(Fig. 1):両側下肺野に浸 潤影を認め,横隔膜の挙上を伴っている.
2002 年当科初診時および今回入院時胸部 CT
(Fig. 2,3) :初診時には両下葉背側胸膜下に網状 影を認め,軽度の胸膜肥厚を伴う.今回は新たに 両側下葉に浸潤影およびスリガラス影を認め,下 葉の volume loss を伴っている.胸水は認めない.
入院後経過(Fig. 4):CRP 高値および低酸素血 症を認め,日本呼吸器学会市中肺炎ガイドライン の重症度分類に基づき重症肺炎と診断した.尿中 抗原が陽性を示したため原因菌としてレジオネラ
外国旅行中に発症し,帰国後の尿中抗原検査にて診断された レジオネラ肺炎の 1 例
自治医科大学呼吸器内科
石井 義和 坂東 政司 大野 彰二 杉山幸比古
(平成 16 年 9 月 8 日受付)
(平成 17 年 1 月 31 日受理)
別刷請求先:(〒329―0498)栃木県河内郡南河内町薬師 寺 3311―1
自治医科大学呼吸器内科 石井 義和
urinary antigen, Legionnaires disease, imported infectious disease Key words:
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感染症学雑誌 第79巻 第 4 号
Table 1 Laboratory data on admission
< BGA(NC 2l/min)>
< Biochemistry >
< Hematology >
pH 7.446
TP 6.4 g/dl
WBC 9,200 /µl
PaCO2 32.7 Torr
ALP 224 mU/ml
RBC 351 × 104 /µl
PaO2 72.4 Torr
AST 224 mU/ml
Hb 12.1 g/dl
SaO2 98.0 %
ALT 73 mU/ml
Ht 35.4 %
LDH 633 mU/ml
Plt 17.4 × 104 /µl
< urine >
CPK 6,315 mU/ml
Streptococcus pneumoniae
BUN 20 mg/dl
< Serology >
antigen positive
Cr 1.17 mg/dl
CRP 23.9 mg/dl
Legionella antigen(Binax) positive
Na 134 mmol/l
KL-6 671 U/ml
K 4.2 mmol/l
Mycoplasma pneumoniae < 40
< nasal cavity >
Cl 98 mmol/l
Chlamydia pneumoniae IgG 2.26
Influenza antigen negative
GHbA1c 5.7 %
Chlamydia pneumoniae IgA 2.75 Legionella pneumophilia < 64 Chlamydia psittaci < 4
が考えられた.入院当日からパズフロキサシン 1 g
!日の点滴静注とクラリスロマイシン 400mg
!日 の内服を開始した.また混合感染も考慮し,メロ ペネム 1g
!日の点滴静注も 3 日間併用した.第 3 病日には解熱し,第 5 病日には低酸素血症も改善 した.20 日間上記 2 剤による治療を継続したのち 退院した.
考 察
今回著者らはヨーロッパ(トルコ)旅行中に発 症し,帰国後,尿中抗原検査にて早期に診断可能 であったレジオネラ肺炎の 1 例を経験した.外国 旅行後に発熱をきたした場合の原因疾患として,
肺炎を含めた呼吸器感染症は 24% を占め, マラリ アについで 2 番目に多いとの報告がある
1).また,
外国旅行後の肺炎の原因菌として肺炎球菌やマイ コプラズマのほかに,レジオネラも挙げられてい る
2).本邦と同様に, ヨーロッパにおいてもレジオ ネラは市中肺炎や院内感染の主要な原因菌である
Fig. 1 Chest radiograph taken on admission, show-ing reticular shadows in bilateral lower lung fields and reductions in bilateral lung volumes
Fig. 2 Chest CT scan taken on first visit, showing subpleural reticular shadows in bilateral lower lung fields
外国旅行後に診断されたレジオネラ肺炎 291
平成17年 4 月20日
とともに,旅行者肺炎の原因菌としても重要視さ れており,レジオネラ感染のアウトブレイクを防 ぐ目的でヨーロッパ・レジオネラ感染症ワーキン ググループでは 1987 年から毎年,加盟国(2001 年度は 31 カ国) におけるレジオネラ肺炎の発生状 況をま と め て い る
3).2001 年 の 報 告 で は,年 間 3,470 名がレジオネラ肺炎を発症し,旅行による感
染例が約 20% を占めている.そのなかの 62% が 国外への旅行で,旅行先のほとんどがヨーロッパ 圏内であった.旅行国別ではイタリア,フランス,
トルコ,スペイン,ギリシャの順に多く,旅行者 100 万人あたりのレジオネラ肺炎罹患率でみる と,イタリア 3.7 人,フランス 0.7 人,スペイン 3.1 人に対して,トルコは 16.0 人と最も高率であっ た.この傾向は 1999 年,2000 年の報告でも同様で あった.レジオネラの潜伏期が 2〜10 日であるこ とや出発前の体調には問題なく,国内の温泉旅行 歴,24 時間風呂の使用はなかったことから,本症 例はトルコ 10 日間の旅行中に感染した可能性が 高いと考えられた.
本症例では,旅行歴や Winthrop 大学病院のス コアリングシステム
4)にて 5 点を示したことなど からレジオネラ肺炎を疑い入院当日に尿中抗原検 査を施行し,迅速診断できた.ニューキノロン系 とマクロライド系抗菌薬の併用により順調な臨床 経過をたどった.1999 年に感染症法が改正され報 告が義務づけられてから,本邦でもレジオネラ肺 炎の症例数は増加し,2002 年には年間 168 例の報 告があった
5).そのうち尿中抗原検査により診断 された症例が 51% を占め, 尿中抗原検出による迅 速診断法の進歩も症例数の増加に寄与しているも
Fig. 3 Chest CT scan taken on admission, showingconsolidations and ground-glass opacities in bilat- eral lower lung fields and reductions in bilateral lung volumes
Fig. 4 Clinical course
石井 義和 他
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感染症学雑誌 第79巻 第 4 号
のと考えられている.現在臨床使用が可能である 3 種類の尿中抗原検査キットのうち,これまで研 究用試薬として利用されていた Binax 社の免疫 クロマトグラフィ法による尿中抗原検出キット Now レジオネラが 2004 年 8 月に保険適応として 承認された.本 キ ッ ト は 主 に
L. pneumophiliaの serogroup 1 を検査対象としている.検出感度は レジオネラ属全体では 80%,serogroup 1 に限る と 96%,特異度は 95% と報告されている
6).sero- group 1 以外の菌種による肺炎は診断できないこ とや肺炎治癒期においても陽性を示すなどの問題 点はあるが, 検体採取が容易であることに加えて,
検査時間が 15 分と短く操作が簡便で, ベッドサイ ドでも行える利点がある
7).レジオネラ肺炎では 早期に有効な治療が行われない場合には 7 日以内 に死亡することが多く, 致死率は 60〜70% との報 告もあり
8),早期診断が極めて重要であり, 尿中抗 原検査は不可欠な迅速診断法と考えられる.
今回著者らは,ヨーロッパ旅行中に発症し,帰 国後の尿中抗原検査にて早期に診断・治療し得た レジオネラ肺炎の 1 症例を経験した.昨年の Se- vere Acute Respiratory Syndrome:SARS の ア ウトブレイクは航空機を利用する旅行者を中心に
急速に全世界に拡がったことが注目されたが,外 国旅行後の旅行者肺炎においては本症例のような レジオネラ肺炎の可能性も十分考慮する必要があ るものと考えられた.
文 献
1)Daniel O, Sean T, Graham V.B, Joseph T:Fever in returned travellars:Review of hospital admis- sions for a 3-year period. Clinical infectious dis- ease 2001;33:603―9.
2)Severine A, Oliver P, Jean-Philippe G, Valerie Z, Elise K, Lucia P,et al.:Peumonia among travel- ers returning from abroad. J travl Med 2004 ; 11:87―91.
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A Travel Abroad-associated Case of Legionella Pneumonia Diagnosed by Urinary Antigen Detection Test
Yoshikazu ISHII, Masashi BANDO, Shoji OHNO & Yukihiko SUGIYAMA
Division of Pulmonary Medicine, Department of Medicine,Jichi Medical School
A 75 year-old male was admitted to our hospital with high fever and dyspnea. He had traveled in Turkey 10 days before. His chest X-ray showed infiltrations in bilateral lower lung fields. His urinary antigen detection test for
Legionella pneumophiliawas positive . He was treated with pazufloxacin added to clarithromycin and his symptons were promptly resolved.
〔J.J.A. Inf. D, 79:290〜293, 2005〕
外国旅行後に診断されたレジオネラ肺炎 293
平成17年 4 月20日