︿論説﹀
プ ラ ト ソ の ﹁ 法 律 の 国 ﹂ ⇔
白 石 正 樹
プ ラ トンの 「法 律 の 国 」(二)
1 目次
序論シラクサ事件と晩年のプラトン
一徳と教育
ークレタ・スパルタ・アテナイ
2人間論・快苦の修練
二国制の検討
1原始状態・共同体・トロイア・スパルタ
2支配と服従・ペルシア・アテナイ
三建国論
1建国の条件と立法者
2土地配分・次善の国・模範(以上二二巻一号) 四五結論 法律論
ークロノス・神・法の前文
2公法・官職・アテナイとの比較
(以上本号)
3諸々の法律
4犯罪と刑罰
神学と政治
1無神論・神の存在証明・濱神罪
2夜の評議会
2四法律論
ークロノス・神・法の前文
対話者たちは国の設立にあたって神の来臨を願ったが︑今度は立法に先立って一つの神話(ミュトス)をもちだす︒
それはクロノス(昏◎ミの)時代の話である︒クロノスはウラノス[天]とゲー[地]との問に生まれたティタン族
の末弟で︑全世界の支配者となった︒クロノスはレアー(︑℃ぎ)を妻とした︒彼は子が生まれる度にその子に支配
権を奪われるのを恐れて︑次々に子供(ヘスティア︑デメテル︑ヘラ︑プルートン︑ポセイドン)を飲み込んだ︒し
ユ かし︑レアーの隠し子としてイダ山中の洞窟に生まれたゼゥスによって︑一〇年の戦闘の後タルタロスに幽閉された︒
このクロノス時代に人間に対する一種の支配が行なわれていて︑それが極めて幸福なものだったと伝えられている
(ヌ母ωぴ)︒プラトンの解釈によれば︑クロノスは人間の国々に王ないし支配者として︑人間でなく︑より神的な
存在つまりダイモーン(軌黛ミoて黛ハ)をあてがった︒ダイモーンは人間の世話をし︑平和・慎み・秩序・あふれるば
かりの正しさ(瓢怠ミ℃鶉養甲ミ&蓬申・Oξミミ養申息魅ミ幅ミ勲忌()を与え︑人間の種族を争いのな
い幸福なものにした(アテナイからの客人の話︒§ω?Φ)︒この話(沁②︒ら)の教えるところは︑次のようである︒
﹁国が神によらず死すべき者によって治められる限り︑人々の不幸や苦難は止むことがない︒我々はあらゆる手
段をつくして︑クロノス時代の生活をまねるべきである﹂(二Goo)︒すなわち︑我々の内なる不死なるもの(セ蜥鳶て
お 融ミ黛q贈の)に服しながら︑家々や国々を治めるべきであり︑﹁知性の分配﹂(℃ミ軌ミξ§ヒ)を﹁法律﹂(℃曾ミ)
の名で呼ぶべきである(アテナイからの客人︒謡蒔9・)︒なお知性・ヌース(と尉)とノモス(て曾︒の)︑分配・ディ
アノメー(野黛ヒoな黛ハ)と不死なるダイモーン(鏑ざミ8)とは語呂合わせで︑ノモスが神的支配に連なること︑
プ ラ トン の 「法 律 の 国 」(二)
3 あるいはヌースの分配として.の法律が︑クロノス時代のダイモーンにとって代わることを示唆している︒
一般には正義は﹁強者の利益﹂(竃鳳自ミ︒ハ讐悪曾ミ)であるとされ︑政権(アルカイ)を争奪の具にし︑国
制が何であれその統治者の利益を法律の目標にすることが行なわれている(︑N一蔭01㌔N一q餌)︒自分の詩のなかでヘラク
かいなレスについて﹁もσみな統べるその腕はいかなる無理にも正義を与う⁝⁝﹂と歌ったピンダロスは︑はなはだしき暴
ら 力をも自然の正義にかなうものとしてもちあげている(刈一α餌)︒しかし︑﹁国全体の公共利益(ト・コイノン)を目
指して制定されたのでない法律は︑真の法律ではない﹂︒法律がある一部の人間を目当てにしている場合︑そこに集
まる人々は党派人(スタシオーテース)であって市民(ポリテース)でない︒かれらが言うところの法律の正しさな
お るものは︑空しい言葉にすぎない(謹qげ)︒また︑法律が被支配者の立場におかれ無力である場合︑そのような国の
破滅は目に見えている︒しかるに︑法律が為政者たち(書Nミ需ハ)の主人となり︑彼らが法律に服従しているとこ
レろ(いわゆる法の支配)では︑国の安全と天の恵みが現出する(刈騙o19)︒
次に︑入植者に語りかける言葉として︑多分オルフェウス教に由来する次のような言葉が用意される︒﹁神
(躊8)は︑万物の始めと終りと中間とを手中にして︑神の本性にそった周遊の道を︑まっすぐに突き進んでいく︒
き これに常時随行するのは︑神の掟を見捨てる者に復讐する正義の女神(ディケーB詳邑である︒⁝⁝⁝﹂(§①鋤)︒
この言葉は︑未来の市民たちにテオクラティア受容を説得するために提出されたものであり︑きわめて敬慶である︒
ここでプラトンは︑古きよき時代の啓蒙の代表者プロタゴラスの有名なテーゼ﹁人間は万物の尺度である﹂に否定的
な態度を示し︑我々人間にとって﹁神こそ何よりも万物の尺度(誌耳e℃竃ミ騨§息是ミ)であろう﹂(謬①o)
という︒可能なかぎり﹁神に似ること﹂を目標にすべき人間にとって︑敬慶と尊敬の対象は︑第一にオリンボスの神々
と国の守護神たち︑第二に地下(N魅o℃へoヘハ)[冥土]の神々である︒つづいて第三︑第四に︑ダイモーン︑英雄た
む ち︑そして第五に祖先神︑第六に生きている両親(Nミ④§.:八§§℃)である(謡臼oiげ)︒このように義務が上位
4 者に対する関係において設定される以上︑﹁両親に対する義務﹂は当然視される︒それに続くべき﹁子供︑親戚︑友
人︑同胞に対する義務﹂や﹁外国人接待の聖なる義務﹂(㍗ミ鈷還狩躊9濤ミ蕊量ミ黛"謡c︒飢︒h・蕊09)
ー同等者または劣等者を含む人間関係に現われる義務ーは︑法律の内容として規定されるものもあるが︑しか
し法律の条文に表わすのに不似合いなこともあり︑その場合は国民一般のために模範(評ミミ)をつくりだすのが
よいとされる(母c︒9ーげ)︒
また︑法律制定に先立って︑法の前口上(網もO黛NObOqも)ないし﹁前文﹂(ξ8ざヘミ)の必要性が協調される
(謡⑩ρ刈G︒蔭Φ)︒その理由を説明するために︑アテナイからの客人は次のように二種類の医者の例を引く︒奴隷の患
者をみる奴隷の医者は︑個々の奴隷の病気に一々説明を与えようとせず︑層主さながら専断的に患者に処方する︒こ
れに対して︑自由人の病気の手当てをする自由人の医者は︑病気の始まりに遡り事の本質にそって吟味したうえで︑
当の患者(やその身内)と話し合う︒そして︑できるかぎり教えてやってその同意を得るまでは処方を下さない︒そ
ル の後もこの医者は︑説得によって患者を従順にする手を打ちながら︑健康を回復させようと努力する(謡O?α)︒法
律に関しても同様であって︑ラコニア風の簡潔な法律﹁単純式﹂(ハプルーン︒威嚇だけ愚響黛計ご息てミを手て2段とするもの)より﹁二重式﹂(デイプルーン︒説得と威嚇を併用するもの)の方がはるかに勝る︒立法に当っては
教養のない大衆(ヒ ︒§ミ)相手であっても可能なかぎり︑二つの手段﹁説得と強制﹂(鶉ミ︒へ︑へ勘勲寝)を用い
ることである︒こうしてアテナイからの客人は︑一方の手段だけ(﹁強制﹂あるいは威嚇)に頼るのでなく︑﹁説得﹂
を必然(凋︑黛て黛﹃嵐唱℃)[強制]に混ぜ合わせること︑そして第三の要素として法の﹁前文﹂を備えるべきことを提唱す
る(刈Bげーo)︒実はこれまでの議論の大半は︑法の﹁前文﹂に相当する内容であったことが確認される(鵡卜︒q)︒ま
た︑魂は神的なものであるとか︑有徳者の人生は幸福であるといった論(<"詰①餌‑謡○︒ρ刈ωG︒曾↓G︒軽Φ)も﹁前文に﹂
ふさわしいものであるとされる︒
プ ラ トン の 「法 律 の 国 」(つ
5 注(1)○野アポロドロース﹃ギリシア神話﹄H.H‑口●
(2)クロノス時代の人間とは︑ヘシオドス﹃仕事と日々﹄§§︑嚢卜目O㌣一b︒卜︒における﹁五時代の説話﹂中︑い
わゆる人間の﹁黄金の種族﹂を暗示している︒松平千秋訳﹃仕事と日﹄岩波文庫︑二四‑五頁参照︒ただし︑ダイモーン(創9Φ白o涙●半神)は︑ヘシオドスでは次のように歌われていて︑﹁黄金の種族﹂のこの世を去った後の働きであるとされ
ている︒ー﹁しかし大地がこの種族を隠した後は︑大神ゼウスの思し召しによって︑彼らは地上の善き精霊となり︑人間
の守護神として︑人間に富を授ける︒﹂前掲訳︑二五‑六頁︒
(3)プラトン全集の訳では﹁知性(ヌゥス)の行う規制(ディアノメー)﹂(二六六頁)︒また..冨舘o口︑︒・oaΦ目一ロσq㌦.︑.夢①
g善Φ羅ぎ器︒=①霧︒昌..噂貫ξしuξ図﹄・Φげ①傷:署鱒︒︒①幽︒︒刈鴇卸・・一.♂冨爵9げ註︒・︒a9︒冨αげ三昌叶Φ詩㊦5︒Φ︑.・
け7ξ勺9口σq5b.HOO●なお﹁知性の分配としての法律﹂について9.GQ#p話︒・讐寒鳴婁ミ§駄黛ミ艦ミ国ら職§ミ蝕魯味︒︑砺
卜鋤§℃P①ρ①一"飽①斜・
(4)O弛し口ξ図(け7)"いo①げ巴こ唱bQ︒ρP一.このテオクラシー的コンテクストのなかで︑老年と知恵の差異は︑法律と真の
ロゴスの差異とともに︑視野から消えている︒oQ訂o⊆の潮o腎.ミこb・q⑩・
(5)Oミ讐蕊"軽Q︒らσ●﹃プラトンー﹄世界の名著︑三〇九頁︒
(6)Oh.ぎミ§博おOσ‑ρ
(7)シュトラウスはいう(魯.ミこb●$)立法の目的を問うことは︑正義が何であるかを問うことと同じである︒この
点で﹃ポリテイア﹄と﹃法律﹄を導いている問題は同一であるようであるが︑同一でない︒[その違いは﹃ポリテイア﹄に
おけるような]厳密な意味で正しい生活は哲学的生であるのに︑哲学的生はクレイニアスやメギロスとの会話にとってふさ
わしい主題でないからである︒○やくoΦσq呂PミミPb・卜︒ω野
(8)式部久訳による︒プラトン著作集二︑一六〇頁︒隷爵はゼウス(N①骨)を指す︒じσg同図(け円曾ンい︒Φげ㊦山こも﹄㊤ω噛
昌.b︒罰9.℃碧σqδ(けづγb︒認⑳鴇ロoけ①扇●ただしシュトラウスの次のような指摘も参照︒‑..爵Φσq﹃Φ︒♂①ω⇔σq︒伽(︒︒曽︒)
μ○Φ¢づoげ鼠魯oロロαo$惹警け○げΦ壼日ΦqNΦ垢..(魯●ミこb﹂一①)●また国貯ぎ国碧8卿G︒魯o鵠①冠・§鳴等$ミ§︑簿
︑ミ§書声卜︒巳巴:b●卜︒ob︒⁝冨§&霧誌︒︒]︑.写・︒・︒.警8q息曾竃Oミ℃轍需ミミ包瓢窯鳶へ融寝郡象渇①.
Nミ昇警︒麩・9Φけぎα・""冨︒昌霞爵惹︒・pg①ω昌︒3巳gΦ︒・︒︒§巳8げ⑩︒9︒ 巴ξ夢Φ昌9日Φ︒hN①口頓・..
(9)G︒け冨話︒︒噂愚.ミこO・α⑩.
(10)︒き窪φまた.匿霧︒・§甕︒h§σ・§.とぎ︒・Φω§二①窪三︒ご弓舞霊・・①曾器霧曽巳・・§音9円①暮ω.