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【学位論文審査の要旨】

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Academic year: 2021

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【学位論文審査の要旨】

1 研究の目的

動物の素早い刺激反応性や脳での情報処理を支える上で、神経細胞(ニューロン)が 持つ長い突起、神経線維(軸索)を伝導する活動電位(インパルス)の伝導速度を高め ることは重要である。基本的に伝導速度は軸索直径の平方根に比例することが知られて おり、イカやミミズ、エビ類などが持つことで知られている「巨大軸索」は直径を数百 ミクロンにまで巨大化することで通常の細い軸索の伝導速度に対して10倍以上の秒速 数十メートルを示し、迅速な逃避行動などを担っている。一方、ヒトを含む脊椎動物は、

軸索の周囲に幾重にも層状にグリア細胞が巻き付いて髄鞘化(ミエリン化)することに より特段に速い伝導が実現させた有髄神経線維を持ち、例えば末梢の運動神経線維は直 径20ミクロンで伝導速度は秒速約120メートルにも及ぶ。

有髄神経線維は幅数十ミクロンから数ミリメートルの髄鞘とそれに比較して非常に短 い約1μのランビエ絞輪の繰り返しパターンを特徴としており、田崎一二(1938)はラン ビエ絞輪からランビエ絞輪へと活動電位が「跳躍伝導」する現象を発見した。その後、

A. L. HodgkinとA. F. Huxleyを始めとする多くの生理学者により活動電位の発生機序 や伝導機構について研究が続いている。しかし、現在まで有髄神経線維での高速な伝導 速度についての説明が完全にはなされていない。シミュレーションモデルでは秒速120 メートルの値が示されているが、細胞膜の電気的特性に関する従来の等価回路を用いて の理論的計算では実際の値を実証出来ていない。そこで、本研究では、従来の細胞膜等 価回路を再検証し、新たな等価回路モデルに通信方程式を適用することで有髄神経線維 における伝導速度を理論的に解析し検証することを目的とした。

2 研究の方法と結果

著者は有髄神経線維における活動電位の伝導機構解析のために、先ず電気回路的に従 来提示されて来た等価回路の再検討を行った。従来型軸索等価回路において、細胞膜容 量Cm1によって細胞膜を横切る変位電流による漏れ電流は考慮されているものの、軸 索の長軸方向に存在する軸索原形質の誘電率に基づく容量成分Cm2による変位電流が 考慮されていない。そこで、軸索原形質の誘電率を適用した新たな軸索等価回路を設定 した。分布定数回路による解析を進めた結果、この新規等価回路に取り入れた軸索原形 質の誘電率による長軸方向の容量が軸索膜の漏洩電流による活動電位の減衰を補完し、

且つ長軸方向の信号減衰量の減少と信号到達距離の増加が起こることを示した。直径20 ミクロンの軸索に対し、活動電位の立ち上がり速度を2000ヘルツとしたときの活動電 位の電気緊張的な伝播速度は、従来型等価回路では秒速81メートルと算出されたのに対 し、新規等価回路では秒速1769メートルと顕著に速い値が算出された。これに対し上 記の活動電位の立ち上がり速度と到達距離の増加を組み込み、結果的に実測値に相当す る秒速120メートルの伝導速度が算出できることを示した。また、異なる直径の軸索に

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ついてこの新規等価回路を適用したところ、各直径で伝導速度が実測値と一致した。次 に新規等価回路で算出した活動電位の減衰特性から、一度発生した活動電位が軸索の直 径に関わらず常に先にある5個のランビエ絞輪を発火させること、即ち安全数(Safety

factor)が常に5である事を示した。更に、軸索液に類似させた0.1モルの塩化カリウム

溶液を誘電媒体として2枚の電極板で構成した容量を用いて誘電率を測定した結果は、

上記の新規等価回路の解析で得られた軸索液の長軸方向の誘電率とほぼ一致した。

3 審査の結果

本学位論文は、以下の三部から構成される。第1部では、軸索内液の高誘電率に基づ いて新たに導入した軸索長軸方向の容量成分を加味した新規の軸索等価回路を用いるこ とで、有髄神経線維において実測通りの高速な伝導速度が求められることを証明した。

これは、これまで神経生理学的に完全に説明されないままにあった跳躍伝導による活動 電位の伝導機構を電気通信理論によって初めて明快に示したものであり高く評価できる。

第2部では、軸索内液の誘電率測定実験の結果を示し、新規軸索等価回路に基づく計算 で得られた軸索原形質の長軸方向の誘電率とほぼ一致することを明らかにした。第3部 では、新規の軸索等価回路に基づき分布定数回路による解析を進めた結果、髄鞘の厚み の平方根と伝導速度が比例するなどの大変に興味深い新知見を導きだした。

本論文の主要部分は、すでに国際的な学術雑誌に発表され、高い評価を得ている。こ れらの事から本論文は、博士(理学)の学位に十分に値するものであると判定した。

4 最終試験の結果

本学の学位規定および、生命科学専攻の申し合わせに従って試験および試問を行っ た。公開の席上で論文内容を発表し、生命科学専攻他教員、客員教員による質疑討論 をもって試験にあてた。また論文審査委員が本論文および関連分野について試問を行 った。その結果、専門分野および外国語についても十分な学力があると認め、合格と 判定した。

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