【学位論文審査の要旨】
1 研究の目的
ポリエチレンやポリプロピレンに代表されるポリオレフィンは高分子生産量の半分以 上を占め、世界全体での生産量は依然増加傾向にある。遷移金属触媒によるオレフィンの 配位重合はその基幹技術である。この分野では新しいオレフィン系高分子機能材料の創製 を目的に、特に従来触媒で使用できない嵩高いオレフィンとエチレンとの共重合体の精密 合成や特性解析に関する研究が注目を集めている。環状オレフィン共重合体は高透明性や 耐熱性、耐薬品性、低吸湿性などに優れる高分子機能材料で、使用する環状オレフィンの 種類や組成により物性が制御可能となることが報告されている。しかしながら、従来の報 告例はエチレンとひずみの高いノルボルネンとの共重合がほとんどで、α‐オレフィンと ノルボルネン(NBE)との共重合の報告例は希少で、より嵩高い環状オレフィンとの共重 合やシクロアルケンとの報告例も極めて限定される。従って、この種の共重合が進行可能 となれば、新しい高分子機能材料の開発に新しい可能性を拓くことができる。
本博士論文では、エチレンと NBE との共重合に有効なチタンやジルコニウム錯体触媒の 存在下、α‐オレフィンとノルボルネンやより嵩高い環状オレフィンとの共重合や嵩高い α‐オレフィンとノルボルネンとの共重合を検討し、新しい環状オレフィン系ポリマーの 精密合成と特性解析に取り組んだ。また、この種の反応を効率よく進行させるための有用 な触媒設計指針の取得を目的に、特に電子求引性のフェノキシ配位子を有するハーフチタ ノセン触媒によるエチレンとノルボルネンとの共重合に取り組んだ。
2 研究の方法と結果
Methylaluminoxane (MAO) 助触媒の存在下、エチレンとノルボルネン(NBE)との共重合 に高性能を発揮したケチミド配位ハーフチタノセン触媒を用いると、α‐オレフィン(1- へキセンやオクテン、ドデセン)とNBE やより嵩高いテトラシクロドデセン(TCD)との 共重合が効率よく(高い触媒活性で)進行し、均一組成の高分子量ポリマーを与えた。ま たこの共重合においては、得られるポリマー中の環状オレフィン含量が使用するモノマー 組成に既存し、助触媒や使用する α‐オレフィンに依存しないことも明らかにした。さ らに、得られる共重合体のガラス転移温度は環状オレフィン含量の増加に伴い上昇し、使 用する触媒や助触媒の種類によらないこと、ガラス転移温度は使用する α‐オレフィン の影響を受けることを明らかにした。TCDとの共重合体はNBEとの共重合体よりも同含量 で高いガラス転移温度を有し、フィルムでも優れた高透明性を示すことを明らかにした。
また、触媒性能(活性・共重合)へのハーフチタノセン触媒のシクロペンタジエニル配位 子上の置換基効果が顕著に現れた。従来のメタロセンや架橋ハーフチタノセン触媒はこの 種の共重合に低触媒活性を示し、低分子量かつ低環状オレフィン含量のオリゴマーを与え ることから、この種のハーフチタノセン触媒の使用が目的ポリマーの合成に極めて有効と なることを明らかにしている。さらに、今迄報告例のほとんどない、シクロへキシル基や
トリアルキルシリル基を有する α‐オレフィンとの共重合体や α‐オレフィンとシクロ へキセンやシクロペンテンとの共重合体の合成にも成功している。さらに、この種の共重 合を効率よく進行させる分子触媒の設計指針を得る目的で、塩素置換したフェノキシ配位 子を有するハーフチタノセン触媒を用いるエチレンとNBEとの共重合を検討し、電子求引 性の置換フェノキシ配位子の使用により、従来触媒より極めて効率よくNBEが取り込まれ ることを明らかにしている。この触媒により、従来より効率よく均一組成の共重合体が合 成可能となった。
3 審査の結果
Weizhen Zhao氏は、報告例が希少で従来技術では合成が極めて困難な α‐オレフィン
と環状オレフィンとの共重合体、特にノルボルネンやテトラシクロドデセンとの各種共 重合体の合成に成功し、このポリマーが高いガラス転移温度(優れた耐熱性)や高透明 性機能を発現することを明らかにしている。また、シクロへキシル基やトリアルキルシ リル基などの嵩高い α‐オレフィンとノルボルネンとの共重合体などの合成にもはじ めて成功している。以上の成果は、今迄報告例のほとんどない、高透明性及び耐熱性や 低吸湿性に優れる新しい環状オレフィン系ポリマーの精密合成に成功した成果として学 術的・実用的に興味深く、今後の展開が大いに期待される。また、この種の共重合を効率 よく進行させる高性能分子触媒の配位子効果に関する有用な知見を生み出しており、この 成果は今後の関連分野の研究の進展に大きな指針を与えるものと思われる。既に主要な成 果が学術論文として受理され、国内外で開催の国際会議でその成果を発表し、最優秀ポ スター賞も受賞している。
以上の理由により、本研究は博士(理学)の学位に十分値するものと判定した。
4 最終試験の結果
本学の学位規則に従って最終試験を行った。公開の席上で論文内容の発表を行い、分 子物質化学専攻教員による質疑応答をもって論文および関連分野についての試験とし、
合格と判定した。