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発達に気がかりがある子に対する 子育て支援

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発達に気がかりがある子に対する子育て支援 : 和 光大学子ども発達相談室の開設に向けて (研究プロ ジェクト 大学からコミュニティに向けた困難を抱 える人々に対する心理支援の実践的研究)

著者 常田 秀子

雑誌名 東西南北

巻 2013

ページ 142‑153

発行年 2013‑03‑19

URL http://id.nii.ac.jp/1073/00001979/

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──はじめに

深刻な子育て不安や少子化を契機として、厚生労働省は様々な子育て支援策を 行ってきた。その結果、地域には子育て支援センターなどの施設が作られ、一定 の利用者を得てきている反面、出生率は回復しないままであり、虐待やネグレク トなど不適切な養育による通報件数は増加の一途である。

それと平行して、発達障害がある子どもの問題が注目されるようになってきた。

特に、文科省で特別支援教育が本格化し、学校教育以前の発達障害に関心が向く ようになった。しかし、発達障害への関心は、教育的観点からの関心が中心であ り、子育て支援的な観点からの関心は相対的に乏しい。実際には、発達障害があ る子どもの子育ては混乱しやすいため、親に対する子育て支援も重要なはずであ る。

本研究では、このようなタイプの子どもたちに関して、和光大学の近隣の子育 て支援機関がどのように対応しているかを調査することにより、発達障害を持つ 子どもたちの子育て支援に向けて大学が何をなし得るかをさぐり、実践する。

1 ── 子育て支援の課題

1.子育て不安の現状

1989年にいわゆる1.57ショックが明らかになって以来、厚生労働省は、1994年 の「エンゼルプラン」、1999年の「新エンゼルプラン」、2005年の「子ども・子 育て応援プラン」と少子化対策を行ってきた。これらの施策は、親の仕事と子育 ての両立を支援し、ライフ・ワークバランスがとれるようになることと、家庭で 子育てをする親が感じやすい育児不安を軽減することによって、子どもを産みや すく、育てやすい社会を作るということが、その主眼である。特に家庭で子育て 研究プロジェクト:大学からコミュニティに向けた困難を抱える人々に対する心理支援の実践的研究

発達に気がかりがある子に対する 子育て支援

和光大学子ども発達相談室の開設に向けて 常田秀子 所員/現代人間学部准教授

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する親への子育て支援としては、保育所の一時保育を利用できるようにすること や、地域子育て支援センターにおいて「つどいの広場」を作ることや、子育てサ ークルを組織化することなどであり、彼らに対する地域の子育て支援は以前に比 べるとかなり手厚くなった。しかし、今なお、親の子育て不安は大きく、虐待や ネグレクトなどの不適切な養育の通報件数などは依然として多い。

親が子育て不安を感じる主たる理由として、いくつかのことが考えられる。

第一は子育てにおける孤立である。子育て中の親世代は、不況の悪化により、

父親の勤務時間が長くなっていることが多く、そのような家族では、母親が一人 で子育てに奮闘しなくてはならない。近年は、以前に比べると父親の育児への熱 意は大きくなっているが、それでも、休日以外は父親に頼ることが難しい現状自 体は大きく変わらず、母親の孤立を十分に軽減することはできていない。

また、同年齢の子どもを育てる親同士の知り合いがいても、孤立感を解消する のが難しい場合もある。同年齢の子どもを育てるというだけで、他に共有点を持 たない親同士では、集まっても当たり障りのない話をするだけで、子育ての悩み について深く話せる関係は作りにくい。お互いの子どもどうしのいざこざなどを 通して、相互の利害や価値観が対立するような緊張感をはらむ場面もおこりやす く、そのような場面で相手に気を使いながら相手の価値観に深入りしないような 関わりが求められる。そのようなコミュニケーションを蓄積すればするほど、か えって孤立感を深めることになる。

第二は、子育てにおける規範が乏しくなっていることが考えられる。社会の価 値観の多様化に伴い、子どもにどのような行動規範を求めるかについての考え方 も多様化する。それぞれの保護者は、自らの価値観に自信を持てず、子どもを甘 やかしすぎてはいないか、厳しくしすぎてはいないか、また、ほめ方やしかり方 が適切ではないのではないかと、強い不安を感じている。実際、規範を子どもに つたえるという意味での「しつけ」という言葉は、すでに現在拡散してしまって いるような印象すら受ける。たとえば、Googleで「しつけ」という語を含むウェ ブサイトを検索すると、最初に出てくる50のサイトのうち、人間の子どものしつ けに関するサイトは 5 個に過ぎず、残りはペットのしつけに関するサイトである

(2012年12月現在)。このような状況の中で、自分が親として適切か、自分の子ど もへの対し方は虐待ではないかなど、保護者は常に不安で自問自答しているので ある。

このような意味での子育て不安は、すでに1980年代からクローズアップされ てきている。たとえば1980年に実施された大規模な調査である大阪レポート(服 部・原田, 1991)の中で、専業主婦こそ子育てにおいて不安といらいらを強く感じ ていることが指摘されている。現在子育て中の母親は、1980年代に子育て不安 を訴えていた母親によって育てられた世代である。親自身が規範に悩み、時や場 面によって考えが揺れていた世代であるが故に、そのような親に育てられた子ど

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もたちが、自覚的に自らの子育て観を確立することを試みることなく、一貫性の ある子育て規範を得ることは難しいだろう。そのような中で、親の不安は深い。

第三は、子育てに求められる情動的コミュニケーションに向けた親の自己コン トロールが不得手になっている可能性がある。現代の親の多くは、出産前は就業 し経済的に自立していることが多い。社会の一員として合理的に活動してきた立 場から、乳幼児の親として社会から切り離された家庭の中で、乳幼児の非合理的 な主張に対応し続けるという移行に適応することに、強いストレスを感じる親も 少なくない。

その結果、子どもの理不尽でネガティブな感情の表出に関与し続けるのではな く、子どものネガティブな感情の表出に巻き込まれて、親の方が感情を爆発させ てしまったり、落ち着いて子どもと接するために親の方がクールダウンが必要で、

ネガティブな感情を出している子どもを放置してしまうケースなどもある。

なお、このような状況に、現代の親世代のデジタル機器を使いこなした子育て などがいっそう拍車をかけている可能性がある。現在の親世代の多くは、デジタ ル機器を使いこなすことで、退屈や苦痛を回避することが習慣化している。スマ ートフォンを操作しながら授乳をする親や、スマートフォンで画像やゲームを見 せるなどして子どもをあやす親も少なくないそうである。瞬時に気分を変える手 段が身近になったために、自分をコントロールしながらネガティブな事態に関与 し続ける耐性が低くなっていることが考えられる。

このような子育ての不安を背景にして、現代の不適切な子育ては、大きく二つ の方向に動いている。ひとつは、いい子幻想(柏木, 2001)に基づく子育てである。

少子化や親の高学歴化を背景として、少ない人数の子どもを、親の期待に合致す るように育てたいという親の願望は強い。そのため、親の期待通りに子育てが進 行しない場合の親のストレスは非常に大きくなる。

不適切な子育てのもうひとつの方向は、子どもを育てるための基本的な生活習 慣や生活スキルに欠け、子どもを安心させられる一貫性のある子育てができない ケースである。

2.子育て不安と発達障害

親が子育て不安を感じやすい現状において、子どもが発達に大きな偏りを持っ ている場合、親の子育て不安はより顕在化しやすい。乳児期に「難しい子ども」

と呼ばれるような行動特性(音や刺激に敏感、なれにくい、睡眠のリズムが整いにく いなど)や、注意集中が難しい、こだわりが強く行動の切り替えが難しい、不器 用などの特徴を持つ子どもは、親を疲弊させやすい。親はこのようなタイプの子 どもたちと関わると、子どもにいうことを聞かせられない、きちんとコミュニケ ーションを取り合えている感じがしない、遊びの中でおもちゃの貸し借りができ ず他の子にいやな思いをさせるなどの印象を抱きやすい。その結果子育ての自信

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を失ったり、子どもの仲間の親たちからなるコミュニティにも居づらくなったり する。以上のような意味で、親の子育て不安と、子の発達の偏りとは不可分であ る。菅原ら(1999)は、子どもの問題行動と親の子どもへの愛着の関係を縦断的 に追跡し、乳児期の難しい行動が、親の子どもをかわいいと思う気持ちに否定的 な影響を及ぼし、親が子どもをかわいいと思えない度合いが、子の問題行動と正 の相関を示す、という研究結果を報告している。子の発達の偏りが親の育児不安 を増幅し、親の育児不安が子の偏りをより強固にするのだと考えられる。

発達障害とは、知的な遅れはない発達の偏りのことで、社会性やコミュニケー ションの障害である広汎性発達障害、注意のコントロールの障害であるADHD 読み書きなど限定された能力の障害である学習障害などが含まれる。発達障害の 診断は、早ければ 3 ~ 4 歳、遅い場合は、現在は成人期のケースも少なくないが、

診断に至る段階では、生まれ持った発達の偏りと、親やその他の子育て不安など からくる不適切な関わりの悪影響が複雑に絡み合った状態となりがちである(杉 山, 2011)

ところで、2005年に発達障害者支援法が制定され、発達障害が法的に支援の 対象となった。次いで、2007年に特別支援教育が本格化し、知的障害やあきら かな身体の障害がない発達障害児も特別な教育的支援の対象となった。また、特 別支援教育において、学校教育の時期だけでなく、それ以前の乳幼児から、卒業 後の就労までを含めた、省庁の枠組みを越えた発達に合わせた連続的な支援を想 定することになった。従来、子育て支援は福祉の枠組みの中で行われてきたが、

学校教育の枠組みの中から「発達障害」の考え方が流れ込んできたといえる。

しかし、子育て支援施策の中での、発達障害に対する取り組みは、必ずしも進 んでいない。子育て支援は福祉、特別支援教育は教育という管轄の違いのために、

理念としては連携の必要性が認識されているものの、自治体レベルでの対応はま ちまちということなのだろう。そのため、親が我が子の発達障害を疑い子育て支 援機関に相談をしても、子の発達の偏りに合わせた支援よりも、確定診断が得や すい学齢期まで様子をみるよう励まされるのみ、といったことも多い。先進的な 自治体では、学校教育と福祉という管轄を越えた試みもあり、たとえば、新潟県 三条市では、子どもに関する相談はすべて同じ部門で受け付け、両者が連携しや すくしているとのことである(久住ほか, 2010)

筆者らは、大学という立場を生かして、大学周辺の地域で支援を必要としてい る人々に対する発達支援システムを構築したいと考えている。その際、現在両立 がやや難しい発達障害支援と子育て支援の双方に答えられる相談システムを想定 することは、一定の意味を持つと考える。

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2 ── 和光大学近隣の子育て支援に関連する施設への聞き取りから

この章では、筆者が町田市及び川崎市麻生区の子育て支援に関わるいくつかの 機関の担当者から、子育て支援と発達障害が絡むような親子への対応についての インタビューから、和光大学周辺の地域であれば、どのような活動が必要になる か、ということについて考えていきたい。

インタビューに協力していただいたのは、町田市、川崎市麻生区の保健センタ ー、両自治体の私立保育園、町田市の公立保育園、子育て支援センター、幼稚園 である。インタビューは、2011年 7 月から2012年 5 月に実施した。

1.保健センター

保健センターでは、1 歳半健診や 3 歳児健診といった母子保健の分野を主に担 当している保健師、及び、健診後の遊びグループを担当している言語聴覚士から 話を聞いた。

いずれの自治体の保健センターも、子どもが 1 歳半の時と 3 歳の時に健康診査 を行っている。健康診査で明らかな障害が認められた子どもについては、保護者 の理解を促しながら、民間もしくはそれぞれの自治体が運営している療育機関

(町田市であれば町田市子ども発達センター、麻生区であれば川崎市北部地域療育センタ ーや、民間の島田療育センターなど)の専門的な支援につなぐ。

障害の有無がはっきりしない子どもや、親の関わり方が適切でないことが子ど もの発達に影響を及ぼしている可能性が認められるケースについては、保健セン ター内で実施している遊びグループへの参加を勧めている。この遊びグループは、

月 1 ~ 2 回の頻度で数回 1 クール程度で開催され、保健師や心理相談員、言語聴 覚士、作業療法士などの専門スタッフのもとで、十数組の親子が参加する。この 中で、子どもの発達を促すような遊びを紹介して親子に体験してもらったり、子 どもの発達にとって望ましい生活習慣などに関する講義を親に行ったりする。

遊びグループは、健診で紹介を受けた新しい子どもが次々入ってくるため、最 大でも 2 クール程度以上の参加はできない。保健師はその間に、親子の遊びの観 察や親からの聞き取りを行い、子どもに深刻な発達の遅れがあるかどうかを見極 め、遅れがある場合には療育機関に紹介したり、深刻な遅れはないが家庭環境の 調整が必要な場合は地域の親子サークルを紹介したりする。子どもが療育機関の 支援を受けるようになった場合は、保健センターでの支援は打ち切るが、そうな らない場合、子どもに発達上の問題がないことが明らかにならない限り、子ども が就学するまで、保健師による支援や、数ヶ月に 1 回程度の保健センター心理相 談員による面談が行われる。

現在保健センターで課題となっているのは、三歳児健診後の遊びのグループを

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経た後、療育機関に行く必要があるほどの重度の障害は認められなかった子ども や、子どもの発達の遅れに関する親の認識が乏しく、専門的な支援を受けること を親がためらったり拒否したケースなどである。療育機関は、現在では比較的軽 度の障害がある子どもへの支援も行っているものの、伝統的に重度の障害を持っ た子どもの支援をするところという印象が強く、紹介する保健師にとっても親に とっても、軽い気持ちで行ける場所とは言いがたい。しかし、このようなケース でも、程度や頻度は各々異なるが、継続的な支援が必要と考えられる時は多い。

ところが、そのような支援を提供する機関が、この地域には存在しないため、療 育機関につながらなかった子の多くは、公的な支援なしに、幼稚園などに入園す る。

2.私立幼稚園

町田市内の私立幼稚園で主任教諭に話を聞いた。

年少で入園する幼児の中で、身辺自立、ことばやコミュニケーション、感情の コントロールなどの育ちが気になる子はクラスに数名ずついる。入園して 1 、2 ヶ月の間に、育ちが気になる子は明らかになってくるが、その問題が家庭での生 活スタイルの多様性の結果生じているのか、子ども自身の障害によって生じてい るのかを判別することは難しい。例えば、以前は、幼稚園入園の頃まで排泄が自 立していない子はほとんどいなかったが、現在は散見される。それが子どもの排 泄機能が未熟なためなのか、親が紙パンツに依存して、排泄の自立のための働き かけをしてこなかったせいなのかは、すぐには判別がつかない。その結果、年少 クラスの一年間程度をかけて、幼稚園という家庭外の生活の中で、子どもの成長 の度合いを把握したり、親の子どもへの働きかけ方を観察したりすることで、子 どもの発達の実態を把握しようとする。家庭環境にだけ問題がある場合は、一年 間で子どもの成長が見込める半面、子ども自身の問題が大きい時は、それほどま での成長は見込めないというような形で、幼稚園の教諭たちは大まかな見通しを 持っている。

しかしながら、子ども側の問題が大きいために、幼稚園での集団生活や学習の 困難が大きいことを教諭が認識した場合でも、幼稚園側がそのことを保護者に伝 えるのは難しい。伝えることで担任教諭や幼稚園全体と親の関係がこじれたり、

親の子育て不安が高まったりすることで、子ども自身にマイナスの影響があるこ とを恐れるためである。そのため年中クラスの 1 年間ほどは、教諭たちの見立て は、幼稚園内で子どもの成長を引き出すための保育上の工夫などに生かされるだ けになりがちである。

保護者に対して幼稚園側の懸念を伝える最も大きな契機は、子どもが年長クラ スになり小学校入学に向けた通常学級か特別支援学級かの就学先の判断に直面す ることである。この時期に、園は親に子の発達に関する懸念を伝え、必要に応じ

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て医療機関や療育機関への受診を勧める。最善の就学先を選択するために、親に とってよいパートナーとなれるよう、それまでに親との信頼関係を慎重に築いて きているとも言える。もちろん、それ以前にも、子どもの発達の遅れや障害が顕 著であり親からも相談があったときや、子どもの問題に起因する事故や、看過で きない他児とのいざこざなどのために、園と親の話し合いが必要となる場面で、

親と子どもの障害を巡って話し合いを行うことはある。

なお、この幼稚園では、在籍する障害を持った幼児への専門的助言を受ける機 会として、園独自の判断で、年に数回発達障害に詳しい臨床発達心理士を園に招 いている。その際、保育全体についての助言とともに、発達の遅れが気になる子 どもの状態についての見立てや、それに対する保育上の工夫についても、助言を 受けているとのことである。

3.私立保育所

町田市内及び川崎市の私立保育所 2 園で、それぞれの園長に対して聞き取りを 行った。

聞き取りを行った保育所は、いずれも都心への通勤圏にある保育所だったこと もあり、両親とも仕事が忙しい家庭が多いとのことだった。そのため、園で子ど もの発達の遅れについて懸念を持った場合、それを親に伝えても専門的な療育に つながることが難しいこともあり、伝えるのに慎重になるとのことだった。

川崎市の保育所については、市の療育機関に依頼すると、発達相談員が当該の 子どもの巡回相談に来て、子どもの障害の見立てと保育上の助言を行うシステム があり、可能な子どもには活用している。ただし、区内での巡回相談の要望は非 常に高く、要望を出した時にタイムリーに巡回に来てもらえるとは限らず、利用 しにくいとのことだった。一方、この園では、数年前に発達障害の幼児の保育に 非常に悩んだ時に、独自に横浜市にある民間療育機関と連携を取り、巡回相談や 年に数回の事例検討会を行っている。

町田市の私立保育所については、療育機関による巡回相談システムはないとの ことである。最近になって、市の療育機関が鶴川周辺にある私立保育所向けに、

地域事例検討会を年一回開催するようになり、保育所で気になっている子どもの 情報を持ち寄って、障害や発達の専門家からの助言を受けられる機会ができたと のことだった。しかし、障害の可能性のある子をめぐって実際の保育に悩む保育 所にとって、支援の頻度は未だ全く少ない。

なお、いずれの保育所の場合でも、巡回相談を受けたり事例検討会に事例を出 すにあたっての相談先との取り決めとして、子どもが相談や検討の対象になって いることを親に伝える必要はないとのことだった。親から相談があって巡回相談 につながったケースについては、巡回相談に親が立ち会うこともあるとのことだ ったが、親が子どもの発達の遅れを認識していないようなケースでは、親が知ら

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ない間に保育所が専門的な助言を受けており、助言内容を親に伝える機会を逸す る場合もあるとのことだった。

4.公立保育所・子育て支援センター

町田市の公立保育所と併設する子育て支援センターでは、支援センター長を兼 任する保育所園長と、子育て支援センター担当所属の保育士から聞き取りを行っ た。

町田市の保育士は、保育所、子育て支援センターだけでなく、療育機関も人事 移動先となっている。また、子育て支援センターが実施する出張型子育て広場事 業の一部を、近隣の保健センター出張所内で行うこともある。そのため、子育て 支援と保育、障害児福祉事業が密接な人的交流の中で行われており、私立幼稚園 や保育所が専門的支援を得るために園独自の負担をして民間の専門機関から助言 を得ているのに比して、人的交流の広がりが感じられた。実際、聞き取りに応じ て下さった 3 、4 人の保育士は、皆過去に療育機関に勤務した経験があり、発達 障害のある子への保育経験も、私立保育所の保育士よりも多く感じられた。

そのような状況の中で、療育機関と保育所を併用する子どもも、私立保育所よ りも多くいるとのことだった。保育所に通いながら週に 1 、2 回療育施設を利用 する子どもや、療育機関で 3 、4 年間過ごした後、小学校での集団生活に向けた ステップとして、年長クラスだけを保育所で過ごす子どもや、親から保育所に相 談を行った結果すみやかに療育機関も利用するようになった子どもなどが、私立 保育園よりも多く在籍していた。しかし、いずれのケースも、親が子どもの障害 を認識して、何らかのアクションを起こしており、保育所から親に子の障害の疑 いを伝えるケースは非常に少ないとのことだった。

また、子育て支援センターでは地域の親子に対して門戸を開き、曜日ごとに年 齢別の遊びの会を実施している。幼稚園に入園前の年齢の子どもと親の参加者は 非常に多い。参加者の中には、月齢に比べて泣きが激しい、動きが激しいなど、

初対面でも発達に気になる点が感じられる子どももいるが、センタースタッフ側 から発達の遅れについてのコメントをすることはない。責任を持って継続的に親 子に関われる性質の施設ではないため、そこであえて保護者にネガティブな情報 を提供することには慎重であるべきとの理念からである。

5.和光大学周辺の子育て支援施設の特徴と課題

和光大学周辺地域の子育て支援機関の聞き取りから、この地域の課題として次 の点が明らかになった。まず、3 歳児健診で発達に気がかりな点が認められた子 の中で、その後療育機関につながらなかったケースが、十分なフォローを得られ ないままに幼稚園などに就園しやすいことであった。次に、いったん入園すると 園は保護者への対応に慎重になり、園で感じられる子どもの問題を保育者と共有

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し対応するのが難しいことであった。

このようなケースには、主に 2 つのタイプがあると考えられる。

一つは、親が子どもの状態を的確に認識できないか、子どもに発達上の困難が あることを認めたくないと思っているケースである。子どもの問題を認め、必要 な療育を子どもに受けさせるのは、親にとって大きな決断だろう。精神的な準備 ができていない親にとって、それを迫る環境は負担であり、敬遠したくなるのは 無理もない。しかしこのタイプの親は支援を拒んでいるわけではない。保健セン ターでの健診後の遊びグループには勧められれば参加している。実際には、参加 を決断したり、参加し続ける過程で、保健師や心理相談員が親の不安な気持ちを 聞き取り、励ましているのだろう。遊びグループへの参加が終結する段階で、療 育機関に通うか否かというかたちで、子どもの障害を認めるか否かの判断を求め られたように感じるのかもしれない。判断を拒否したり、先送りしたいタイプの 親に必要な支援は、そのような線引きを求めることではなく、親が感じている不 安や、実際の生活上の困難を受け止めて、対応を共に考えることなのかもしれな い。

もう一つは、実際に子どもの問題が軽微で、療育機関が適切だと考えにくいケ ースである。このようなケースの場合でも、幼稚園入園やなどの環境の変化に対 して、発達的に問題のない子に比べて、大きなマイナスの影響を受けやすい。厚 い支援は不要かもしれないが、状況の変化に対応できるような継続的な支援が必 要である。なお、このようなケースの中で、幼児期は問題が少なかったのが、新 しい環境に適応できないことで、二次的に自尊感情を低下させることは少なくな い。そのような将来の困難を予防するためにも、幼児期の継続的な支援は非常に 重要だと考える。

幼稚園や保育所が示す、親と園側の心配を共有することを先送りする傾向は、

園がその子どもを巡る保育上の助言を専門機関から得る時に、保護者の了解が不 要なことが関係しているかもしれない。話を聞いた幼稚園、保育所も、公的シス テムや園独自のシステムとして、巡回相談や事例検討によって専門機関からの助 言を得る手段を持っていた。相談に当たっては、子どもの個人情報を開示する必 要がある以上、元来保護者の了解は必須だと考えられるが、対象となった地域で は保護者の了解を前提としていない。保育上の助言を得るために親の了解が必要 では、了解を得るための負担があまりにも大きく、実質的に助言を受けられなく なってしまうことを恐れての措置かもしれない。しかし、自治体によっては、巡 回相談を受けるために保護者の了解を条件にしている所もある(藤崎・木原, 2010) 巡回相談に至るまでの苦労は大きいが、了解を得るために園の説明責任の自覚が 深まり、結果的に親との信頼関係が深まるケースは少なくないようである。

一方親にとっては、子どもの状態についての情報が曖昧なまま、就学先を判断 する段階まで放置される状態は不安が大きいものだろう。知的障害を伴わない高

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機能広汎性発達障害児の場合、親は子どものコミュニケーションなどさまざまな 点に不安を感じながら、診断に至らない時期を長く過ごす。その時期が長いほど、

母親が感じるストレスが大きい(山根, 2010)。また、そのような状態から抜け出 すきっかけは、自身の不安に共感しながら支えてくれる家族や共通の問題をもつ 友人である(大鐘, 2011)。

以上のような状況から、現在当該地域では、軽微な発達の偏りに関して、親が 比較的気軽に相談ができ、親が自分の子どもの状態を認識するまで、緩やかにつ きあうことができるような支援の必要性が認識された。また、類似した不安を持 つ親同士が知り合って、問題のない親との間では共感しにくいストレスを共有す ることも有効と考えた。そこで、保健センターの遊びグループを通していったん は支援のネットワークにつながったケースの中で、その後ネットワークから抜け 落ちてしまうケースについて、地域の保健センターと連携を取りながら、必要な ケースと緩やかにつながることを計画した。

3 ── 和光大学子ども発達相談室としての取り組み

以上に述べたような問題意識に基づいて、2012年1月より、和光大学心理学実 習室を利用して、地域に向けた子ども発達相談室を開設した。

活動は大きく 2 つある。第一は、親同士が子育ての悩みや疑問について話し合 ったり、情報を得ることができる子育て支援講座の開催である。第二は、発達に 気がかりがある子どもの親に向けた発達相談および親同士が子育てについて考え るグループセッションである。

1.子育て支援講座

子育て支援講座は、和光大学で子育て支援の試みを行うことを地域に知っても らうために、3 ~ 4 歳の子を持つ親を対象に、2011年度に 3 回、2012年度に 2 回 開催した。

講座の周知は、近隣の子育て支援施設や多くの親子が出入りする場所でのチラ シ配布、及び町田市の広報などを通して行った。参加者は毎回親子 4 組程度であ り、子どもに大きな発達の気がかりはないが、日々の育児にはいろいろと悩んで いる、というタイプの母親の参加が中心だった。

毎回の講座のテーマは「『叱らない子育て』について考えましょう」「親子で楽 しく遊びましょう」「育ちの気がかりについて考えましょう」などとし、毎回、親 がテーマに関わって意見交換をできるような機会をもてるようにした。

参加者の感想は、「日頃の母親同士の話では、お互い自分たちの悩みは話すが、

お互いで聞き合うだけで、それの意味や対応までは考えたり話したりはしないた め、親同士の話し合いはとても良い」「次は父親向けの子育て講座もして欲しい」

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「子どもの行動の意味を深く考えたのは初めてでよかった」などが見られ、おお むね好評だった。

2.発達に気がかりがある子の親への相談

発達に気がかりがある子の親への相談は、2012年 9 月より開始した。

発達に気がかりがある 3 ~ 4 歳児の親向けに、子育ての悩みや、子どもの困っ た行動への対応、周囲からサポートを得る方法などについて話し会う、7 回コー スのワークショップを設定し、必要なら個別相談も行うこととした。ワークショ ップについては、地域の保健センターの担当部署に開催をお知らせし、親子グル ープや 3 歳児健診の場にチラシをおいて頂くようお願いした。保健センター保健 師の中には、担当地域の親から子育ての相談を受けた時に、発達相談室を紹介し てくれることもあった。

これまでに、メールでの問い合わせは 5 件、実際に相談につながったケースは 3 件である。

相談があったケースはいずれも、子どもの特徴としては、夜中に何度も目を覚 ます、かんしゃくを起こすと親をかむなど激しい行動をとる、長泣きする、不器 用、などであった。環境面での特徴としては、きょうだいの出産のための里帰り、

父親の転勤に伴う転居、親の看病など、理由は様々だが転居の多い家族が多く、

親が地域の子育てネットワークから切り離される経験をしていた。

一方親自身の特徴としては、静かなコミュニケーションを好む、子どもの気持 のアップダウンに同調するのが得意でない、子どもへの対応に融通がきかないな どがみられた。同時に頻繁な転居などのために、子どもときちんと向き合う機会 を逸してきたという実感を持ち、子どもの激しい感情表出に対して、おおらかに 関わらなくてはいけないとわかりながら、それができないことへの自責の念を持 っていた。

これらのケースでは、子どもに明らかな知的障害などはないものの、感情や活 動のコントロールの悪さなどがみられ、同時に子育てを苦手とする親の特性と、

安定的で継続的な育児を難しくするような環境面での特徴が絡みあっていた。そ の結果、親にとって子育てが負担となり、親の子に向けた愛着を低下させやすい 状況にあると思われた。同時に、この段階でみられる親子の問題が将来に起こる 発達上の困難の予兆となっていることがうかがわれた。障害を個人内の問題とし てとらえる医学モデルではなく、人と環境の絡み合いの中でとらえる生物心理社 会モデルに即した障害像と言えよう。いずれのケースも、元来筆者等が対応して いたいと考えていた子どものイメージと合致していた。

これらのケースに対しては、個別相談において子ども像を明確化し、親にとっ てわかりにくい子どもの行動の意味や具体的な対応を一緒に考えたり、親同士の グループセッションの中で、子どもにわかりやすい指示の出し方や子どもへの注

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目の仕方などを一緒に考える予定である。

《引用文献》

服部祥子・原田正文『乳幼児の心身発達と環境──「大阪レポート」と精神医学的視点』名古屋 大学出版会、1991年

柏木恵子 『子どもという価値』中央公論新社、2001年

菅原ますみ・北村 俊則・戸田 まり・島 悟・佐藤達哉・向井 隆代「子どもの問題行動の発達─

─Externalizingな問題傾向に関する生後11年間の縦断研究から」『発達心理学研究』10(1), 32- 45頁, 1999年

杉山登志郎『発達障害のいま』講談社、2011年

久住とも子・蝶名林稔・橘玲子・運上司子・滝口俊子「新潟県三条市の子育て支援の取り組み」

『子育て江支援と子育て臨床』2, 68-75頁, 2010年

藤崎春代・木原久美子『「気になる」子どもの保育』ミネルヴァ書房、2010年

山根隆宏「高機能広汎性発達障害児を持つ母親の診断告知時の感情体験:診断告知に至る状況 との関連」『神戸大学大学院人間発達環境学研究科研究紀要』3(2), 27-35頁, 2010年

大鐘啓伸「母子通園施設を利用した母親の心理状態──支援過程において障害児を持つ母親の 表出された気持ちか」『発達心理学研究』22(3), 308-311頁, 2011年

[つねだ ひでこ]

参照

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