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特別支援教育 と発達 支援 に関す る覚書

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上越教育大学障害児教育実践センター紀要,第11巻,25‑28,平成173

特別支援教育 と発達 支援 に関す る覚書

大 庭 重 治*

特殊教育か ら特別支援教育‑の移行 に伴 い,組織的かつ特別 な配慮 を必要 とす る子 どもの範囲は大 きく拡大す ることとなった。 また,個人差‑の対応,教育的 ニーズの把握, ニーズに応 じた支援 の実 施が よ り一層強 く求め られている。 これ らの社会的要請 に伴 い,従来 の特殊教育諸学校や特殊学級の 教師はもとよ り,通常の学級を担 当す る教師 も,様 々な発達状態 にある児童生徒 に対 して適切 な支援 を実施 していかなければな らない。 また,児童生徒 の保護者 は, その代弁者 として発達支援 に積極的 に関与す ることが期待 されている。 この よ うな ことか ら,本稿 では,発達支援過程 において配慮を必 要 とす る基本的事項 の整理 を通 して,支援 の中心 となる教師や保護者が共通理解 を得 てお くべ き内容 を覚書 として提供す る。

キーワー ド :特別支援教育,発達支援, ニーズの把握,支援の実施,障害児童生徒 1.特別支援教育 における発達支援

平成15年3月に公表 された 「今後 の特別支援教育の 在り方について (最終報告)」(2003)の中で,特別支 援教育 とは,「障害 のあ る児童生徒一人一人 の教育的 ニーズに応 じて適切 な教育的支援 を行 う教育」である と説明されている。す なわ ち,特別支援教育の実現 に おいては

,

「個人差‑の対応」

,

「教育的 ニーズの把握」,

「ニーズに応 じた支援 の実施」が強 く求め られている。

これ らの中で,個人差‑の対応 については, 日々の 実践においてその必要性を強 く認識 して きた教師は多 いものと思われ る。 これに対 して,教育的 ニーズに関 しては,そ もそ もニーズ とは何 か, ニーズを どの よ う に把撞す るのか, あるいは支援 内容が ニーズに応 じた ものであることを どの よ うに証 明す るのかな ど,検討 すべき課題 が残 されている。

ここでは, この よ うな特別支援教育を実施 してい く 過程において,特 に 「ニーズの把握」及 び 「支援の実 施」に関連 して,最低限配慮すべ きであると判断 され る内容について整理す る。 これ らの内容 は,特別支援 教育における中心的 な支援者 となる教師のみ な らず, 支援を受ける児童生徒本人, あるいはその保護者 にお いても理解 を深めてい くことが求め られ る内容である と思われ る。

障害児教育講座

2.ニーズの把握 (発達状態の理解)

ニーズの把握 は,支援 の直接的 な対象である児童生 徒が どの よ うな発達状態 にあるのかを理解す ることで あると言い換 えることがで きる。 その際に配慮すべ き 事項 について,以下 に列挙す る。

1)根拠 に基づ く評価

発達状態 を理解す るためには, その特性を把握す る ための一連 の手続 きが準備 され ることになるが,その 過程 においては

,

「根拠 に基づ く評価」を実施す るため の努力が求め られ る。「根拠 に基づ く評価」 とは

,

「個 人の経験や慣習に左右 され ることな く,客観的 な情報 を もとに確 かな理論的根拠 を背景 として評価 を実施す る」 ことを意味 している (恵羅,2002)0

この よ うな評価手続 きにおいては, まず標準化 され lた心理検査が利用 され る場合が多 い。発達検査や知能 検査 の他,運動,・知覚,言語 な ど,特定の領域 に関す る検査 も利用 され る。ただ し, これ らの検査 を全 ての 教師が実施できるよ うになることは困難であると考 え られ ることか ら,検査 の実施が必要 な時 に,それに随 時対応で きる専門性を備 えた人材の確保や外部機関 と の連携が必要である。

また,評価 のための情報 は,心理検査 の他,学習の 観察か らも得 ることがで きる。その際,教職年数が長 い教師には,それまでに蓄積 してきた実践的経験 か ら 得 られた方法論を整理す るための作業が求め られ る。

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大 庭 重 治 そ して,それ らの方法論の中か ら,真 に有効であると

考 えられ る方法 については,その有効性が検証 され る 機会が与 えられ るよ うに,その内容が広 く公開 されて い くことが期待 され る。 これによって,教職年数が短 い教師は,経験豊富な教師がそれ までに蓄積 してきた 知識の恩恵にあずかることができる。 このよ うな知識 の継承 は,教育における実践の積み重ねそのものであ り,児童生徒の評価 においては大 きな力 となってい く。

2)個人特性 と環境特性

個 々の子 どもの教育支援 に関わ るニーズの把握 にお いては,「個人特性」と 「環境特性」とい うふたつの側 面か らのアプローチが必要である。

「個人特性」 の把握では,主に心理検査や行動観察 を通 して得 られた資料が利用 される。それ らの資料 は, 現在 どのよ うな力が獲得 されてお り, さらに今後 どの

よ うな内容について学習を進め るべ きか とい う課題 の 分析を可能 とす る。

一方,「環境特性」の把握 は,支援の対象 となる児童 生徒が どのよ うな学習環境 に置かれているのかの分析 に基づ く資料が利用 され る。近年,障害のある子 ども たちにとって学習環境 は徐 々に改善 されつつあるもの の,その対策には未だ不十分であると思われ る側面 も 見 られる。 スロープやエ レベータの設置 などによる物 理的バ リアの改善 は多 くの学校 において実施 され るよ うになってきたが,学習時に必要 な情報 を収集す るた めのいわゆる情報 のバ リアに対す る改善 は今後の課題 となっている。 さらに,障害のある児童生徒が心理的 な負担を感 じることな く学習で きるよ うな環競作 りも 今後の課題であるといえる。

個人特性 と並んで このよ うな環競特性 も学習の実現 に大 きな影響を与 えることか ら,個人特性 と環競特性 との相互作用を考慮 してニーズを把握 してい くことが 必要である。

3)ニーズの把纏 における柔軟性

児童生徒 のニーズは,発達 に伴 って常 に変化 してい くものである。 このため,長期的な見通 しとともに, 現実的な時間的展望に立 った把握が求め られ る。す な わち, ニーズの把纏 を固定的 なもの として とらえるの ではな く,柔軟性をもった対応が必要であ り,実疏の 成果を評価 しなが ら,設定 されている目標の妥当性を 確認 し,必要 に応 じて修正を してい く作業が必要 であ る。明確 な根拠 をもって 目標を修正す ることは当然許 容 され るべ き作業である。

3.支援内容の選定

柔軟的 なニーズの把握 を行 う一方 で, それに応 じて 具体的 な支援 内容を選定 していかなければならない。

その際に配慮すべ き事項 について,以下 に列挙する。

1)発達評価か らみた妥 当性

支援 内容 として選定 され る内容 はニーズに応 じた学 習課題 でなければな らない ことは言 うまで もないが, その際には,個人特性や環境特性を念頭 に置いた発達 特性か らみた妥当性が要求 され る。 そ して,選定され た支援 内容 は, その子 どもが可能であると思われる最 大範囲において習得 され ることが期待 され る。 また, 支援 内容の選定 においてほ,ただ単 に内容を列挙する のではな く, どの よ うに支援 してい くのか,その支援 方法 と関連 させて考 えてい くことが必要 である。その ためには,児童生徒 と関わ も教師が どの よ うな支援方 法を提案で きるのかが問われ ることになる。

2)発達支援の 目標 (Fig.1)

児童生徒 は常 に人間社会 の中で生活 してお り,そこ では他者 と交わ ることによって歴史 の中で蓄積 されて きた知識 を獲得 してい く。 また,他者 を介 して,環境 の中にある事物 の使用方法 を学 び,そ こに活用 されて きた知識 も獲得 してい く。す なわち,人間社会の中で 生活す る児童生徒 に と?て,他者 とのや りと りは発達

Fig.1人間社会における発達支援 障害のある 「わたし」の中には障害の発生源が 存在する。それは 「わたし」に様々な影響を及ぼ し,「わたし」の「個人特性」を形成する。その「わ たし」は,人間社会の中で,「他者」との係わ りを 通 して様々な知識を獲得 していく。また,他者の 介入により,人間の知識の集積 ともいえる「事物」

の操作方法を習得 していく。このように,他者と の係わ りは,「わたし」の発達において重要な役割 を果たしている。そして,その係わ りは,「わたし」

を取 り巻 く 「環境特性」との密接な関連の下で実 現される。

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特別支援教育 と発達支援に関する覚書 において極 めて重要 な役割 を果 た して い る (鹿取,

2003)。このため,児童生徒が人間社会 の中で生 きてい くためには, コ ミュニケーシ ョン機能の獲得が支援 目 標の中核に位置付 け られ ることが必要 である。

3)内発的動機づけ

支援内容を選定す る際には,実際の学習においてで きる限 り児童生徒 の 自発的 な活動が引 き出され るよ う な状況につ なが る内容を選定す ることが必要である。

そのためには,児童生徒 の興味のある題材を取 り上 げ, さらにそれに対 して内発的 に動機づ けることが必要 で ある(川村,2002)。そ こでは,支援者 と児童生徒が一 緒に課題を遂行す ることによる交流感, 自らの力を実 感できるよ うな状況での有能感,学習 したい内容を 自 ら選択す ることに よる自己決定感 な どが充足 され るこ とが期待 されている。 この よ うな内発的動機づけは, その後の自己学習力の獲得 に もつなが ってい く。

i

4.支援実施時の配慮

実際に支援 を実施 してい く際 には, い くつかの配慮 すべき事項がある。 それ らの内容 について以下 に列挙 する。

1)インフォーム ド・コンセ ン トの実施

発達支援 におけるインフォーム ド・コンセ ン トとは, 実施しようとしている「支援 内容 について説 明を行 い, 予め理解 と了解 を得 てお く」 とい う手続 きである (日 本発達心理学会,2000)。この手続 きは,支援 の提供者 である教師 と受益者である児童生徒本人及 びその保護 者との間での合意 を得 るための手続 きであ り,教師が 支援内容に対す る責任 を明確 に自覚す るために も必要 な手続 きである。

2)セカン ド・オ どこ ョンへの配慮

発達支援 におけるセ カン ド・オ どこ ョソとは,支援 者から提案 された支援 内容や支援方法 に対す る第三者 による評価や判断である。 この よ うなセ カン ド・オ ど こョソの活用 は,提案 された内容が児童生徒 に とって 適切な課題 内容を含み,適切 な方法 に よって支援がな されようとしているのか,その ことを確認す るための ひとつの手だてである。保護者 は教育 に関す る専門家 ではないため,支援 内容や方法 の妥当性 を判断す るこ とは通常困難であ り, それを補 うものがセ カン ド・オ どこョソであるといえる.セ カン ド;ォ どこ コ,(の機 会を設けることは,受益者側 の権利であ り,支援者側 の義務であると考 えて もよいであろ う。少 な くとも, 提案内容が,連携 を持つ関係者の複数 の 目に触れ る機 会を設定す ることは必要であろ う。

3)テクノロジーの活用

発達支援 の過程 において,個人特性か ら判断 された 未獲得 の機能 を埋め合わせ る有力 な手段 として, テク ノロジーの活用がある。 コ ミュニケーシ ョンの補助手 段 として, コンピュータを初め とす る様 々な機器 を利 用す ることは,情報 の取得,発信 において大 きな力 と な り得 る。 この ことは,環境特性の配慮 におけるひ と つの具体的 な方策である。ただ し,その実現のために 紘,そのテクノロジーを提供で きる人が身近 に存在す ることが必要であ り, そのための知識 と技能を備 えた 人材 の確保 が求め られ る。

4)支援資源の配分

発達支援 における資源 としては,人的,物的,情報 に関す る資源が考 えられ る。学校 における人的資源 は 教師であ り,物的資源 は支援 の場 である教室であった り,教材 ・教具類である。 また,情報資源 は発達 の評 価方法や支援方法 な どに関す る資源である。 これ らの 資源 は実際の支援場面 において無限に準備 されている わ けではない。支援 を必要 としている児童生徒 に対 し て,限 られた資源 を どの よ うに配分す るのか,その時 の平等性 は どの よ うに保障 され うるのか。 この よ うな 問題 に対 して,平等性 は資源 に対す るアクセスの平等 性 として理解す る考 え方がある。 しか しなが ら,必要 最低限の資源の配分 は常 に確保 した上で, さらに必要 な支援 内容 に対 し,児童生徒 の要求 に応 じて随時提供 で きるよ うな体制を整備 してい くことが現実的である。

5)支援関係者の連携

限 られた教育資源を有効 に活用 してい くためには, 関係者 が相互 に役 割分担 をす る こ とに よ り, ネ ッ ト

ワークを構築 して支援を してい くことが必要である。

その際,児童生徒 に対 して組織的 な支援 を行 うために は,児童生徒 の学習状況や 目標が支援関係者の中で共 有 され ることが必要 となる。しか しなが ら,一方では, その よ うな連携 においては,個人情報 の保護 とい う極 めて重要 な義務 を負 うことになることも忘れてはな ら ない。連携が密 になるほ ど児童生徒 の情報 が流れ るこ とになるため,連携 の輪 の中で個人情報 を管理 し,保 護す るための配慮が よ り一層重要 なもの となる。各支 援者 は, どこに, どの よ うな情報が流 されているのか を常 に把握 してお くことが必要 である。

5.支援の評価

発達支援 を実施 した後,その成果を適切 に評価す る ことは,その後 の支援 に活用で きる貴重 な情報 を与 え て くれ る。 そ こで,具体的 な計画の基 に支援 を実施 し

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大 庭 重 治 てい く過程 において,支援の実施結果 に関す る記録 を

残 してお くことが重要である。 その際,可能であれば 単独で評価 を実施す るのではな く,複数の教師によっ て評価 を行 うことがで きれば,その記録 はよ り客観性 を帯 びた もの とな り得 るであろ う。そのためには,評 価 の対象を明確 にしてお くことと共 に,評価 における 観点 も明示 し,共通の物差 しによって評価で きるよ う に してお くことが必要である。 また,実際に実施 した 支援 内容に関す る事実 と, 目標 に照 らし合わせてその 事実を評価 した内容,す なわち支援結果 に対す る考察 とを明確 に区別 して記録す ることも必要である。 さら にそれ らの実施結果 に対す る考察が妥当であるか どう かを評価す るために,他の教師 と相互 に検討を行 う機 会 を持つ ことも必要であろ う。

一方,各教師に よる支援結果 に対す る評価 を,受益 者である児童生徒や保護者が どの よ うに評価 したかを 検討す ることも重要 な作業である。 また, このよ うな 受益者か らの評価 に対 して, さらに教師が どの よ うに それ らを受 け とめたかが問われ る。す なわち,受益者 による評価 を次の支援 に活か してい くためには,受益 者 の評価結果 に対す る教師のさらなる評価が必要 とな る。 この よ うな評価連鎖の構築 は,根拠 に基づ く支援 の実現 にとって不可欠 な作業である。

6.特別支援学校の役割

盲学校,聾学校,養護学校が,今後,特別支援学校 としてその姿を発展 させてい くためには,多 くの課題 が残 されている。その中で,特 に発達支援 に関連 して 配慮 してお くべ き事項 について以下に列挙す る。

1)支援の対象

特別支援学校 の構想 は,対象 となる全 ての学校が全 ての障害種 を扱 うことを期待 しているわけではない。

地域 の実情 に応 じて各学校が どのよ うな領域 の教育に 携わ ることがで きるのかを的確 に判断 し,それぞれが 専門性 を もって教育 にあた ることが期待 されている。

また,特別支援学校 における発達支援活動 は,その学 校 に在籍す る児童生徒 に対す る支援,地域の小 ・中学 校 に在籍す る児童生徒や教師に対す る支援,小中学校 における支援活動その ものに対す る支援 な ど, これま で以上 に広範囲にわた る機能 が想定 されている。

2)支援内容

支援 内容 としては,様 々な場面で展開 され る発達支 援 を実現す るための コーデ ィネー ト,発達評価のため の検査 の実施やその解釈 における専門的知識の提供, 支援 内容の選定 における判断材料 の提供 な どがある。

また,各障害 に対応 で きる専門性を備 えた教師が確保 され,それ らの教師が支援 を実現す るためのテクノロ ジーを提供 してい くことも期待 されている。

3)支援の実現

学校が全体 として,特別支援教育の実現過程におい て求め られ る支援 内容を体系的 に提供 で きるシステム を構築 してお くことが必要である。 また,そ こに含ま れ る内容を,具体的 に どの よ うな手順 によ り提供 して い くのか,す なわ ち,学校 の内外 における児童生徒へ の支援 システムの適用 を どの よ うな手順で実施 してい くのかを明確 に してお くことが必要である。 さらに, 児童生徒やその保護者, あるいは地域 の小 ・中学校の 教師が特別支援学校 のサ ー ビスの提供 を必要 とした時 に,そのサー ビスに容易にアクセスで きるよ うに,上 記 の支援 内容や支援手順 を分か りやす い形 で公表 して お くことが必要 である。

恵羅修書 2002 発達障害児の評価 と支援 :根拠に 基づ く教育実践 に向けて.発達支援研究,4,2‑4.

鹿取鹿人 2003 ことばの発達 と認知 の心理学.東 京大学 出版会.

川村秀忠 2002 学習障害児の内発的動機づけ :そ の支援方略 を求めて.東北大学 出版会.

日本発達心理学会 2000 心理学 ・倫理 ガイ ドブッ ク :リサーチ と臨床.有斐閣.

特別支援教育の在 り方 に関す る調査研究協力者会議 2003 今後 の特別支援教育の在 り方 について (最 終報告).

付 記

本稿 は,上越教育大学大学院修士課程 において開講 されている 「障害児研究法」の一部,及 び平成167 月30日に岩手県立宮古養護学校 において開催 された岩 手県高等学校教育研究会講演会 「特別支援教育 と発達 支援」 の内容 に加筆,修正 を加 えた ものである。

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