数論幾何における Galois 表現
斎藤 毅
有理数体上定義された代数多様体のエタール・コホモロジーは, 有理数体の絶対
Galois
群の進表現を定める.
進表現の各素数
p
でのようすがどのようにわかるか,そしてどんなことがまだわからないか解説する. 多様体がよい還元をもたないような素 数
p
ではとくに, 分岐とよばれるおもしろい現象がおきる. この分岐について, 最近わ かってきたことを中心に紹介する.[1]
にも関連する話題の解説があります. そちらもあわせてご覧ください.1
数論における局所と大域1.1
ベータ関数とJacobi
和の類似 ベータ関数B (s, t) =
1
0
x s−1 (1 − x) t−1 dx
の数論的な類似に, Jacobi和J(a, b) =
x=0,1∈Fp
χ a (x)χ b (1 − x)
というものがある. この類似は, 形式的には次のようなものである. ベータ関数の方で は,
x
の巾という関数は実数体の乗法群R ×
の指標で, ベータ関数は,それを和が1
にな るところでかけてたしあわせたものである. Jacobi和でも同様で,χ
は有限体の乗法群F × p
の指標で, Jacobi和は, それを和が1
になるところでかけてたしあわせたものであ る. ベータ関数とJacobi
和はたがいによく似た性質をもっている.この類似は, じつはもっと幾何的なところからきている.
C n
を方程式X n + Y n = 1
で定義される代数曲線とする. この曲線C n
をFermat
曲線という. ベータ関数B (s, t)
もJacobi
和J (a, b)
も,ともにFermat
曲線C n
のコホモロジーから生じてくるのである.まずベータ関数
B(s, t)
の方からみてみよう. 一般に有理数体Q
上定義された代数多様 体X
の,
特異コホモロジーH q (X(C), Q)
と代数的de Rham
コホモロジーH dR q (X/Q)
の比較同型H q (X(C), Q) ⊗ Q C → H dR q (X/Q) ⊗ Q C
に現れる積分を周期積分とよぶ.s, t
が分母がn
の有理数のときは, ベータ関数B (s, t)
は実はFermat
曲線のH 1 (C n )
に 現れる周期積分となっている.一方
n
をわらない素数p
に対しては, Fermat曲線C n
のF p
有理点の個数はJacobi
和J(a, b)
を使って表わすことができる[2].
有限体上の多様体の有理点の個数は, コホモロ ジーと結びついている. エタール・コホモロジーは,合同ゼータ関数についてのWeil
予 想の解決を目標としてGrothendieck
によって定義され[3],
実際それを使ってWeil
予想 が解決された[4]
ことをご存知のかたは多いと思う. 合同ゼータ関数は, もともとF p
m有理点の個数の母関数として定義される. これがコホモロジーへの
Frobenius
作用素の固有多項式として表わされるというのがこの証明の基本なのだった. このような意味 で, Jacobi和
J(a, b)
はFermat
曲線C n
のコホモロジーを表わしている.このように
Fermat
曲線C n
のコホモロジーは,有理数体を複素数体の部分体として みるときはベータ関数として, また素数p
を法とする還元からはJacobi
和として現れ てくる.Fermat
曲線C n ⇒ H 1 (C n ) (大域)
C p
ベータ関数
Jacobi
和(
局所)
このようなみかたが, 現代の数論における局所と大域の考え方の原形なのである.
1.2 Galois
群の進表現
S = {
素数} {∞} = { 2, 3, 5, 7, . . . , ∞}
とおく.S
を代数曲線のようなものと考 え, 有理数体をその関数体と考えるのが,標準的なみかたである. 無限素点∞
は有理数 体Q
の実数体R = Q ∞
へのうめこみのことである. 各素数p
は,有理数体Q
のp
進体Q p
へのうめこみを定める. これを有限素点とよび, 有限素点と無限素点を完全に対等 なものとして扱おうというのが現代の数論の基本的な姿勢である. このように考えた とき,S(正確にはその開集合)
上の局所定数層あるいは局所系とよぶべきものが,Q
の 絶対Galois
群G Q
の進表現である.
位相幾何では, 位相空間
S
上の局所系はその空間の基本群π 1 (S)
の表現と同じもの である. 基本群π 1 (S)
は空間S
の被覆を統制している. 上のS = { 2, 3, 5, 7, . . . , ∞} (の
開集合)に対しては, 絶対Galois
群G Q
が,その被覆を統制する. そこでG Q
の表現がS
上の局所系を与えると考えるのである.Q
の絶対Galois
群G Q = Gal( ¯ Q/Q)
とは,Q
の代数閉包Q ¯
の自己同型群Aut( ¯ Q)
の ことである. 素数に対し,
G Q
の進表現とは
進体
Q
上の有限(n)
次元線型空間V
への連続表現G Q → GL Q
(V )( GL n (Q ))
のことをいう. 素数はS
の点を表わすとき には文字p
を使い,S
上の局所系の係数体を表わすときはを使う習慣となっている.
進表現だけでは,無限素点の扱いかたが不十分なので, さらにこれと対応する
Hodge
構 造と対にして考える必要がある[5].
有理数体上定義された代数多様体や, 保型形式などに対し, Galois群
G Q
の進表現
(と Hodge
構造の対)を対応させることができる.代数多様体, 保型形式
⇒
進表現(+ Hodge
構造).このような対応により, 有理数体上の代数幾何的あるいは表現論的対象を, より線型代 数的な対象である
進表現をつかって調べることができる. またその逆に, Galois表現 という数論的に重要な対象を,幾何的な方法や表現論的な方法をつかって調べることも できる. 代数多様体の例として
Fermat
曲線をとると, 上のものになる.実際に
Galois
表現を構成する手段は,おもにエタール・コホモロジーである. この他にも基本群を用いるもの, 合同性を用いるものなどがあるが, ここではふれない.
X
を 有理数体上定義された代数多様体とし,を素数とすると,
進エタール・コホモロジー
H q (X Q ¯ , Q )
はG Q
の進表現を与える. エタール・コホモロジー
H q (X Q ¯ , Q )
は,Q
線型空間としては, ¯Q
のC
へのうめこみをひとつ決めれば, 特異コホモロジーの係数拡大
H q (X(C), Q) ⊗ Q Q
と同型である. これと対をなすHodge
構造は特異コホモロジー と代数的de Rham
コホモロジーの比較同型H q (X(C), Q) ⊗ Q C → H dR q (X/Q) ⊗ Q C
から定まる.例
1. E
を有理数体Q
上定義された楕円曲線とする. Tate加群T E = lim ←− n Ker( n : E( ¯ Q) → E( ¯ Q))
は, 階数2
の自由Z -加群であり,
自然なGalois
群Gal( ¯ Q/Q)
の表現を もつ.E
のエタール・コホモロジーH 1 (E Q ¯ , Q )
は,双対空間Hom(T E, Q )
と標準同 型である.E(C)
をC
の格子T
による商C/T
として表わせば,T E T ⊗ Z Z
であり,H 1 (E Q ¯ , Q ) Hom(T, Q )
である.2. f = ∞
q=1 a n q n
を, すべてのHecke
作用素T n
の同時固有ベクトルであるような, 正規化されたカスプ形式とする. このとき, Galois群Gal( ¯ Q/Q)
の2
次元進表現
V f
で, ほとんどすべての素数p
で不分岐かつTr(F r p : V f ) = a p
をみたすものが構成でき る[6].
これを保型形式f
にともなう進表現という.
Fermat
予想が, 楕円曲線や保型形式からこのように構成されるGalois
表現を使って証明された
[7]
ことは記憶に新しい. 有理数体上定義された楕円曲線に対し,上の例1
の ようにしてえられる進表現が, 例
2
のように保型形式から定まる進表現であること を示すことによって
, Fermat
予想が解決されたのだった([8]
参照).
1.3
合同ゼータ関数とGalois
表現S = { 2, 3, 5, 7, . . . , ∞}
上の局所系を調べるには, まずS
の各点ごとに調べるのが標 準的な方法である.S
の各点は, 非自明な基本群をもつS 1
のようなものである. なぜな らS
の各点は素数p
であり,その点の基本群は有限体F p
の絶対Galois
群G F
pと考えら れる. 絶対Galois
群G F
p= Gal( ¯ F p /F p )
とは, 有限体F p
の代数閉包F ¯ p
の自己同型群Aut( ¯ F p )
のことである.p
乗写像ϕ p : ¯ F p → F ¯ p
は絶対Galois
群G F
pの位相的な生成元 である. この元の逆元をF r p
で表わし幾何的Frobenius
とよぶ. 以下絶対Galois
群G F
p を同型Z ˆ → G F
p: 1 → F r p
により,Z
のpro
有限完備化Z ˆ
と同一視する. このように,S
の各点は,Z
の完備化を基本群にもち,S 1
とよくにたものである.S
上の局所系は,S
の各点でのようすでほぼ決まってしまうことが, Chebotarev密度定理から従う. だか ら,S
上の局所系をS
の各点ごとに調べることは, 特にだいじなことである.X
を有理数体Q
上定義されたn
次元射影非特異代数多様体とする.X
の進コホ モロジーを
G Q
の進表現として各素数
p
ごとにしらべるには,X
のp
を法とする還元X mod p
を調べればよい. これからみるように, そのためには, ほとんどの素数p
につ いては,X mod p
の合同ゼータ関数がわかれば十分である.X
がp
でよい還元をもつと は,X
を整数係数の方程式で定義したときに,この方程式をp
を法として還元したもの によって定義される有限体F p
上の多様体X mod p
が,F p
上の射影非特異代数多様体 となるということをいう. 有限個の素数をのぞき,X
はp
でよい還元をもつ.たとえば
E
が, 整数係数の方程式y 2 = 4x 3 − g 2 x − g 3
で定義されるQ
上の楕円曲線 のときは, 6Δ = 6(g2 3 − 27g 3 2 )
をわらない素数でE
はよい還元をもつ. Fermat曲線C n
はn
をわらない素数でよい還元をもつ. レベルN
のモジュラー曲線X 0 (N )
はN
をわ らない素数でよい還元をもつ.X
が素数p
でよい還元をもちさらにp
がと異なるとすると,
進エタール・コホモロ ジー
H q (X Q ¯ , Q )
のp
でのようすは,X mod p
の合同ゼータ関数によって次のようにして わかる[9]. 2.1
で説明するように,
このとき, p
での幾何的Frobenius F r p
のH q (X Q ¯ , Q )
への作用が定義される. この作用素の固有多項式P q (t) = det(1 − F r p t : H q (X Q ¯ , Q ))
について, 次の等式がなりたつ
P 1 (t) · · · · · P 2n−1 (t)
P 0 (t) · P 2 (t) · · · · · P 2n (t) = exp
∞
m=1
(X mod p
のF p
m有理点の個数)m t m .
右辺が有限体上の多様体
X mod p
の合同ゼータ関数Z (X mod p, t)
の定義である. 2.4 で紹介するWeil
予想の帰結として, 多項式P q (t)
はたがいに共通根をもたず左辺のよう な分解が一意的に定まることが従う. いいかえれば,固有多項式P q (t) = det(1 − F r p t : H q (X Q ¯ , Q ))
は,X mod p
の有理点の個数を数えることで,求められるのである.(X mod p
のF p
m有理点の個数)⇒
合同ゼータ関数Z(X mod p, t)
⇒
進表現H q (X Q ¯ , Q )
のp
でのようすE
をQ
上の楕円曲線とし,p
をE
がよい還元をもつ素数とする. 整数a p (E)
を(E mod p
のF p
有理点の個数) =p + 1 − a p (E)
となるように定めると,P 1 (t) = 1 − a p (E)t + pt 2
となる.X
がFermat
曲線C n
のときは, 位数がちょうどn
のF p
の指標χ
を任意にとると,P 1 (t) =
a,b,a+b≡0modn
(1 − J (a, b)t)
となる. このように
Jacobi
和によって, エタール・コホモロジーH 1 (C n, Q ¯ , Q )
の素 数p
でのようすが記述される.p
がN
をわらなければ, レベルN
のモジュラー曲線X 0 (N ) mod p
の合同ゼータ関数の分子P 1 (t)
は, 重さ2
でレベルがN
の約数の保型形 式f i = ∞
n=1 a n (f i )q n
に対する1 − a p (f i )t + pt 2
のいくつかの積として表わされる[10].
このように合同ゼータ関数を使うと
Galois
表現の素数p
でのようすがわかる.
しか し, このような一般論でp
でのようすがわかるためには, 素数p
が次の条件をみたして なければいけない.0. X
がp
でよい還元をもち,= p.
いま
X
とを
1
つ決めて考えると,S = { 2, 3, 5, 7, . . . , ∞}
の点のうちでこの条件をみ たさないものは,有限個で次の3
種類のどれかである.1.
無限素点∞ . 2. p = .
3. X
がp
でよい還元をもたないような素数p = .
したがってS
の点は次の4
種類に分けられる.S = {
よい素数} {∞} { } {
わるい素数}
進表現の
S
の各点でのようすは,S
の有限個の点をのぞき合同ゼータ関数でよくわか る.
残りの点のうち, 1
はHodge
理論だから,
ここではこれ以上ふれない. 2
の場合を扱 うのがp
進Hodge
理論である. これについてはFontaine, Messing, Faltings,
兵頭, 加 藤, 辻らにより, 現在ではほぼ満足すべき一般論ができている[12].
これについてもこ こではこれ以上ふれない. 3
の場合を扱うのが分岐理論である. 3
のような素数には,
とくに個々の多様体の個性があらわれる. ここからは, おもに分岐理論の最近の進歩につ いて解説する.
2
局所体のGalois
表現2.1
局所体のGalois
群局所系が退化する点でのようすを調べるには,その点のまわりのモノドロミーの作 用をみるのがふつうの方法である. 同じように,
X
がp
でよい還元をもたないような 素数p
でのG Q
の進表現
H q (X Q ¯ , Q )
のようすをみるには,p
進体の絶対Galois
群G Q
p= Gal( ¯ Q p /Q p ) ⊂ G Q
への制限を考えるのがよい. 絶対Galois
群G Q
p の構造は次 のようになっている[11].
Q p
に1
のp
と素な位数の1
の巾根をすべて添加して得られる体Q p (ζ m , p | m)
を,Q p
の最大不分岐拡大とよびQ ur p
で表わす. さらにQ p
の最大不分岐拡大にp
のp
と素 な巾乗根をすべて添加して得られる体Q ur p (p 1/m , p | m)
を,Q p
の最大馴分岐(tamely ramified)
拡大とよびQ tr p
で表わす. Galois理論により,これらの拡大に対応するG Q
p= Gal( ¯ Q p /Q p )
の正規部分群をQ p ⊂ Q ur p = Q p (ζ m , p | m) ⊂ Q tr p = Q ur p (p 1/m , p | m) ⊂ Q ¯ p
G Q
p⊃ I ⊃ P ⊃ 1
と書く習慣である.
I
を惰性群,P
を暴(wild)
惰性群とよぶ.商群
G Q
p/I
は標準的に有限体F p
の絶対Galois
群G F
p= Gal( ¯ F p /F p )
と同一視さ れる. 有限体F p
の絶対Galois
群G F
pは,Z
のpro
有限完備化Z ˆ = lim ←− n Z/nZ
と写像1 → F r p (=幾何的 Frobenius)
により同一視されることをおもいだしておこう. 商群I/P
は標準的にF ¯ p
内の1
のm
乗根の群μ m = { ζ ∈ F ¯ p | ζ m = 1 }
の逆極限lim ←− p|m μ m
と 同一視される. この群は非標準的にはZ ˆ
からp
成分を除いたものZ ˆ
と同型である. これ が,位相幾何的なモノドロミーと対応するものである.P
は整数論特有のもので,かなり 大きなpro-p
群である. どのくらい大きいかというと,だいたい離散群F ¯ p
のPontryagin
双対を可算無限個積み重ねたぐらいの大きさである.G Q
p/I = Gal( ¯ F p /F p ) = ˆ Z Frobenius
が位相的生成元,I/P = lim ←− p|m μ m Z ˆ
位相幾何的なモノドロミーに対応,P
整数論特有の大きなpro-p
群.絶対
Galois
群G Q
p の進表現
V
は, 惰性群I
への制限が自明なとき, 不分岐である という. 同型G Q
p/I → G F
pにより,G Q
p の不分岐表現とは,G F
pの表現のことであり, さらにこれは, 生成元F r p
の作用で定まる. 多様体X
がp =
でよい還元をもつとき は,進表現
H q (X Q ¯ , Q )
はp
で不分岐なので, ここへのG Q
p の作用はF r p
の作用で決 まってしまう. そして,F r p
の固有多項式は合同ゼータ関数で決まるのだった.ここからは多様体
X
がp
でよい還元をもたない場合を考える. このときはG Q
p の 分岐する進表現
V
を考えることになる. これについて,次の2
とおりの問題を考える.A. G Q
p の分岐する進表現
V
の同型類を決定するにはどうすればよいか.B.
進表現V
の分岐から生じる不変量はどのように求められるか.以下では, A,Bそれぞれについて, 問題の定式化と, それらについての最近の進歩につ いて紹介する.
G Q
pの進表現
V
の同型類は,よい素数では, ほぼ合同ゼータ関数で決 まる. Aのほうは, わるい素数でもその程度には進表現のことをわかりたいというこ とである. 分岐から生じる不変量は, よい素数では自明になってしまうので, Bのほう は, わるい素数固有の現象を理解したいということである. あとでみるように, こちら は特に微分形式との関わりが重要となる.
2.2
局所体の進表現
問題
A
の答は, Tate予想とweight-monodromy
予想を仮定すれば, ある種の跡公式 で与えられることが期待できる. このことを説明するため,G Q
pの進表現
ρ : G Q
p→ GL(V )
は, Weil群の表現ρ
と巾零自己準同型N
の対によって定まるということを,簡 単に復習する[13].
Weil
群W Q
pをG Q
pの元でG F
p への像がF r p
の整数巾であるようなもののなす部 分群とする.W Q
p⊂ G Q
p↓ ↓
F r p (= Z) ⊂ G F
p(= ˆ Z).
幾何的
FrobeniusF r p
の, Weil群W Q
p へのもちあげF
を1
つとる. Grothendieckのモ ノドロミー定理によると, Weil群W Q
pの連続表現ρ : W Q
p→ GL Q
l(V )
とV
の巾零自 己準同型N
の対で, 等式ρ(F n σ) = ρ (F n σ) exp(t (σ)N )
が任意のn ∈ Z, σ ∈ I
につい てなりたつようなものがただ1
つ定まる. ここで,t : I → I/P → Z
は, 非標準同型I/P → Z ˆ
と成分への射影
Z ˆ → Z
の合成である. またρ
の核と惰性群I ⊂ W Q
p の 共通部分Kerρ ∩ I
はI
の開部分群である. Weil群の元F n σ ∈ W Q
p(n ∈ Z, σ ∈ I)
につ いて, Trρ(Fn σ) = Trρ (F n σ)
がなりたつ. Weil群W Q
pはGalois
群G Q
pの密な部分群 なので, Galois群G Q
pの進表現
ρ
は, Weil群W Q
pの連続表現ρ
とV
の巾零自己準同 型N
によって定まる. したがって,ρ
を定めるには,ρ
とN
を定めればよい.(W Q
pの連続表現ρ +
巾零自己準同型N ) ⇔ G Q
pの進表現
ρ.
2.3
跡公式Galois
群の進表現
ρ : G Q
p→ V
が, 代数多様体X
のエタール・コホモロジーH q (X Q ¯ , Q )
から定まるとき,ρ
とN
がそれぞれどうすればわかるか考える. まずρ
に ついて考える. ここで基礎となるのが, 有名なTate
予想である. Galois群の進表現
V
に対し, それに進円分指標の
q
乗をテンソル積してえられる表現をV (q)
で表わす.Tate
予想. [14], [15] F
を有限体あるいは代数体, より一般には素体上有限生成な体とし,
X
を射影非特異なF
上の代数多様体,q ≥ 0
を整数とする.を
F
の標数とことな る素数とすると, 絶対Galois
群G F = Gal( ¯ F /F )
の進表現
V = H 2q (X F ¯ , Q (q))
につ いて次がなりたつ.1.
不変部分V G
F は代数的サイクルで生成される.2.
一般固有空間{ v ∈ V |
任意のσ ∈ G F
に対し(σ − 1) dim V v = 0 }
は,不変部分V G
F と等しい.H 2q (X F ¯ , Q (q))
の代数的サイクルとはX
の余次元q
の部分多様体Z
のサイクル類[Z]
の線型結合のことをいう. 次の場合をのぞくと, Tate予想が確かめられている例は, 個別的なものしかない.· X
がAbel
多様体でq = 1
のとき. [16], [17].Tate
予想の2
の部分を半単純性予想という. 半単純性予想からWeil
群W Q
pの表現ρ
は半単純であることがしたがう. 半単純な表現の同型類は跡で決まるから,ρ
を知る には, Trρ(F n σ), (n ∈ Z, σ ∈ I)
がわかればよいと考えられる. さらにn ≥ 0
のときに わかれば実は十分である. Tate予想からはK¨ unneth
成分への射影が代数的対応で与え られることも従う. ここで, 代数的対応とはX × X
のn = dim X
次元の部分多様体の(Q
係数の) 線型結合Γ
のことであり,代数的対応Γ
はコホモロジーH q (X F ¯ , Q )
のG F -
同変な自己準同型Γ ∗
を定める. K¨unneth
成分への射影が代数的対応で与えられるとは, 各整数q ≥ 0
に対し,代数的対応Γ q
でH q
(X F ¯ , Q )
の自己準同型Γ ∗ q
がq = q
ならば恒 等写像でq = q
ならば0
写像となるようなものが存在することをいう.したがって,
ρ
を知るには, 代数的対応Γ
に対して, 交代和2 dimX
q=0
( − 1) q Tr(Γ ∗ ◦ F n σ : H q (X Q ¯
p, Q ))
がわかればよい. この交代和について次のことが期待される.
予想
1. X
をp
進体Q p
上の固有非特異代数多様体とし, ΓをX
上の代数的対応とする.F
を幾何的Frobenius
のもちあげとしn ≥ 0, σ ∈ I
とする. このとき, 有限体の代数閉 包F ¯ p
上の射影非特異多様体W
とW
上の代数的対応Γ
で,素数= p
に対し,等式2 dim X
q=0
( − 1) q Tr(Γ ∗ ◦ F n σ : H q (X Q ¯
p, Q )) = (Γ , Δ W )
をみたすものが定まる. 右辺は
Γ
と対角Δ W
のW × W
の中での交点数を表わす.予想のこころは
,
左辺で表わされるような局所体上の代数多様体から定まる進表 現の数論は, それを
p
を法として還元してえられる右辺で表わされるような有限体上の 多様体の幾何に帰着されるということである. 左辺にはGalois
群の元が現れるが,右辺 はそうでない純粋に幾何的なものであることに注意してほしい. 多様体がよい還元を もちΓ = Δ, n = 1
のときには,W
としてX mod p
をとりΓ
としてはFrobenius
自己準 同型W → W
のグラフをとればよい. これが1.3
ででてきた, Frobeniusの作用が合同 ゼータで決まるということにあたる. このときも, そこでは略してしまったが, Galois 群G F
pの作用を完全に決めるためには, 半単純性予想を仮定しないといけない.予想
1
からは,左辺の交代和がによらないことが従う. 正標数での類似では, Γ = Δ のときこの各項が
によらないことが,次項で述べる
weight-monodromy
予想がなりた つことを使って, 寺杣[18]
で示されている. またp
進Hodge
理論をつかうと,= p
の 場合も同様な予想を定式化できる. 予想1
はオルタレイション[19]
をつかって重さスペ クトル系列[20]
のまだ証明されていないある性質に帰着されるものと期待される. 多 様体X
が準安定モデルをもつときには,W
としてはその還元の各既約成分, およびそれらの共通部分の無縁
(disjoint)
和をとることになる. 予想1
は次の場合になりたつこ とが知られている.· X
がアーベル多様体の場合. [21]· Γ
が対角Δ
の場合. [22]· σ
が暴惰性群P
の元のとき. [23]· X
が久賀-佐藤多様体やその志村曲線上の類似で, Γがある種のHecke
対応の場合.[24], [25]
モジュラー曲線上の普遍楕円曲線のファイバー積のコンパクト化を久賀-佐藤多様体と よぶ. この最後の場合の応用として, 楕円保型形式や
Hilbert
保型形式にともなうp
進 表現の分解群G Q
pへの制限が,p
進Hodge
理論の意味で局所Langlands
対応と両立す ることが従う.2.4 weight-monodromy
予想ρ
はTate
予想と関係していたが,N
のほうはWeil
予想と関係が深い.定理
(=Weil
予想) [4] X
を有限体F p
上の固有非特異多様体とし,= p
を素数,q ≥ 0
を整数とする. 幾何的FrobeniusF r p
のH q (X F ¯
p, Q )
への作用の固有値は代数的整数で, その共役の複素絶対値はすべてp
q2 である.
Weil
予想にでてくる, その共役の複素絶対値がすべてp
q2 であるような代数的整数 を重さq
のWeil
数とよぶ. Weil予想は, 1.3ででてきた多項式P q (t) = det(1 − F r p t : H q (X F ¯
p, Q ))
をP q (t) =
i (1 − α i t)
と分解したとき, 各α i
が重さq
のWeil
数である ということである.局所体上の多様体へ
Weil
予想を拡張したものが, weight-monodromy予想というこ とになる. 線型空間V
の巾零自己準同型N
に対し,V
の部分空間W i
の増大列で,次の 条件(1)-(3)
をみたすものがただ1
つ定まる.(1)
十分大きいi
に対しW i = V, W −i = 0.
(2) N W i ⊂ W i−2 .
(3) i > 0
に対しN i
がひきおこす線型写像N i : Gr W i V = W i /W i−1 → Gr −i W V
は 同型.たとえば
N 2 = 0
のときは,W −2 = 0, W −1 = Im N, W 0 = Ker N, W 1 = V
である.V
が局所体の
Galois
群の進表現で,
N
が2.2
のように定まるV
の巾零自己準同型N
のとき, この部分空間の増大列
W = (W i ) i
のことをV
のモノドロミー・フィルトレイショ ンという. このときW i
は部分表現になる.weight-monodromy
予想[26] X
をp
進体Q p
上の固有非特異多様体とし,= p
を素 数,q ≥ 0
を整数とする.F ∈ W Q
p を幾何的FrobeniusF r p
のもちあげとし,W
を進 表現
V = H q (X Q ¯
p, Q )
のモノドロミー・フィルトレイションとする. このときF
のGr W i V
への作用の固有値は重さq + i
のWeil
数である.weight-monodromy
予想が知られているのは次のような場合である.· q ≤ 2
の場合. [20]· X
が久賀-佐藤多様体, またはその志村曲線上の類似のとき. [24], [27], [25]·
正標数の局所体上の類似. [4], [28]weight-monodromy
予想は,重さスペクトル系列[20]
が定めるH q (X Q ¯
p, Q )
のフィルト レイションが, モノドロミー・フィルトレイションと一致すると述べることもできる.半単純性予想と
weight-monodromy
予想を仮定すると, 対(ρ , N )
の同型類は,ρ
の 同型類したがってTrρ
だけで決まってしまう. Trρは上の予想
1
でわかるはずなので,進表現
H q (X Q ¯
p, Q )
はこれら3
つの予想がなりたてば, 次の図のようにしてわかるも のと考えられる.予想
1 ⇒ (ρ , N ) ⇒
進表現H q (X Q ¯
p, Q )
の同型類.(=
跡公式)
半単純性予想+ weight-monodromy
予想3
分岐理論.
問題
B
を扱うのが, 高次元の分岐理論である. 分岐理論に特徴的なことは, Galois 表現と微分形式の結びつきである. Hodge理論やp
進Hodge
理論では, はじめからde Rham
コホモロジーとの比較同型が理論にくみこまれている. これに対し,p =
のと きは,進コホモロジーと
de Rham
コホモロジーを直接結びつける関手は存在しない.それなのに,
進コホモロジーの分岐から生じる不変量は, 微分形式や
de Rham
コホモ ロジーをつかって表わされることが多い. その典型的なものが, これから紹介する導手 公式である.3.1
導手公式.局所体の
進表現の分岐から生じる不変量のうちで最も基本的なものはその導手と よばれるものである. 暴惰性群
P ⊂ G Q
pには, 分岐群のフィルトレイションとよばれ る正規部分群の減少列G v ⊂ P, v ∈ Q, v > 0
が定義される[11]. G Q
p の進表現
V
に 対し,
そのSwan
導手SwV =
v∈Q,v>0
v · dim V G
v+/V G
v が定義される. ここでG v+ =
v
>v G v
であり,V G
v, V G
v+ は不変部分を表わす. Swan 導手SwV
は0
以上の整数であり, SwV= 0
とP
のV
への作用が自明であることとは 同値である.X
をp
進体Q p
上の固有非特異多様体とする. S.Blochは[29]
で, Swan導手の交代和Sw(X/Q p ) = 2 dim X
q=0 ( − 1) q SwH q (X Q ¯
p, Q )
が,次のように幾何的に計算できることを予 想した.X Z
pをX
のp
進整数環Z p
上の固有正則モデルとする.n = dim X Z
p= dim X+1
とおく.X Z
p上の微分形式の層Ω 1 X
Zp
/Z
pの局所化されたChern
類は,閉ファイバーの0-
サイクル類c n (Ω 1 X
Zp
/Z
p) ∈ CH 0 (X F
p)
を定める.予想
[29](Bloch
の導手公式)上の記号のもとでχ(X Q ¯
p) − χ(X F ¯
p) + Sw(X/Q p ) = − deg( − 1) n c n (Ω 1 X
Zp
/Z
p)
がなりたつ. ここでχ =
q ( − 1) q dim H q
は進コホモロジーの
Euler
数, degは0-サ
イクルの次数を表わす.この公式は
X
がp
進体Q p
の有限次拡大のスペクトルのときには,古典的な導手判別 式公式そのものである.E
が楕円曲線のときには, Tate-Oggの式[30]
と同値である[31].
Bloch
は[29]
で,X
が代数曲線のときに公式を証明している. この公式のこころは,X
の進コホモロジーの分岐から生じる不変量が,微分形式を使って幾何的に計算できるという ことである. またこの公式は, Lefschetz跡公式