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―留学生が抱えた困難と課題―

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1 調査の背景

2019年末に中国武漢で発生し、あっという間に全世界に広がった COVID19 は、我々の日 常に計り知れない影響を及ぼした。2021年3月2日現在、全世界の感染者数は113,472,187人、

死亡者は65,382,314人となっている(WHO、2021)。日本では、感染者数が431,740人、死亡者 数が7,860名となっており、感染状況が深刻なアメリカやブラジルなど他国に比べるとその数は 少ないが、それでもコロナによる身体的、健康的、経済的、環境的、精神的、心理的かつ社会 的影響は甚大である。近畿大学でも感染拡大を防ぐために2020年度は実験を伴う一部の講義を 除いて全学でオンライン授業を実施し、それによって学生の多くは一度も大学の門をくぐるこ となく履修を終えている。我々教員と学生が顔を合わせる機会を失った1年となった。このよ うなコロナ禍の状況において、大学生は何をどのように受け止め、どのような思いを抱き、ま たどのように問題を克服したのだろうか。彼らの経験や問題は、2021年度の授業が対面授業に なったからといって即時に解決したり、過去のできごととして片付けられたりするわけではな い。学生生活、キャリア形成や人生設計を含めた今後の人生を形成する上で切り離すことがで

「 “オール近大”新型コロナウィルス感染症 対策支援プロジェクト」におけるアンケート

ならびにインタビュー調査の結果から

―留学生が抱えた困難と課題―

高 橋 朋 子*

“All-Kindai University Support Project Against COVID 1 9”

From the Results of Questionnaires and Interview Surveys

―The Impact of COVID 1 9 on International Students―

(TAKAHASHI Tomoko)

*グローバルエデュケーションセンター  准教授

〔キーワード〕コロナ禍、留学生、困難、インタビュー調査、

大学生活

(2)

きないばかりか、長期にわたってなんらかの影響を与え続ける可能性も否定できない。

しかし、コロナ感染が未だ現在進行形であるために、コロナが児童生徒や大学生に与えた影 響に関する調査報告は多くない。OECD による“The Impact of COVID19 on Education at a Glance 2020”は、コロナが世界の教育機関に与えた影響を調査したものである。閉校を余儀 なくされた時期や学校数、再開の時期やその方法などが国別に報告されているが、学生一人一 人の状況や思いが捉えられているとは言えない。また、外国人に対する日本人の排外意識の実 態を調査した「多文化共生意識に関する定量調査」(パーソル総合研究所、2021)の調査内容 の中にも、在留外国人500名を対象に行われた「コロナ禍における実態・意識」の報告がある。

「困りごと」の1位は国外への旅行、出張ができないこと、2位が自国に帰国できないこと、

3位が友人、知人との交流が減ったことが挙げられている。しかし、対象者の属性(年齢や、

国籍、在留資格など)が多様であるにもかかわらず、ひとくくりに考察されているため、留学 生の抱える特有の問題を表しているとは言い難い。つまり、彼らの大学生活はいったいどのよ うなものだったのかということは全く明らかにされていないに等しいのである。現在進行中の 今だからこそ、調査しておく必要がある。それらを把握し、理解することは、今後も起こりう るパンデミックや緊急事態に備え、大学生活のあり方や学生、特に留学生への対応を考えてい く上での一助となろう。

2 調査の目的

 本調査の経緯と目的

本調査報告は、2020年度「“オール近大”新型コロナウィルス感染症対策支援プロジェクト」

の一環で実施したアンケート調査およびインタビュー調査(以下、調査プロジェクト)の報告 である。「新型コロナウィルス感染症対策支援に対して何ができるのか」という問いに応える ために、新型コロナウィルス感染症拡大が近畿大学生にどのような影響を与えているか、学生 はいかに対応しているかを把握し、求められる支援のあり方を検討することを目的に、「COVID 19 および SDGs の時代におけるレジリエントな社会づくりに関する調査研究」プロジェクト

(代表:熊本理抄 人権問題研究所)を提案するに至った。調査プロジェクトの共同研究者(以 下、共同研究者)は、Andrew Atkins(国際学部)、奥田祥子(社会連携推進センター)、熊本 理抄(人権問題研究所)、向後礼子(教職教育部)、高橋朋子(グローバルエデュケーションセ ンター)、新田和宏(生物理工学部)、藤田香(総合社会学部)、宮本多幸(経営学部)、安田直

(3)

史(社会連携推進センター)、保本正芳(総合社会学部)の10名である。ただし、本調査報告 の文責は筆者にある。

 調査方法

調査は、アンケート調査とインタビュー調査の二種類実施した。調査実施にあたっては、

「“オール近大”新型コロナウィルス感染症対策支援プロジェクト」の一つである「『近大発、

ポストコロナ社会”の設計図』プロジェクト」(代表者:安田直史 社会連携推進センター)

に参加した学生(以下、参加学生)の協力を得ている。アンケート調査は、プレ調査として 2020年8月3日から2020年8月9日の期間に、「『近大発、ポストコロナ社会の設計図』プロ ジェクト学生意識・行動調査 Vol.1」を、Google フォームを用いて実施し、261名の回答を得 た。プレ調査の自由回答を参加学生とともに分類化、カテゴリ化する作業を経て項目を検討し た。さらに参加学生が調査した他大学、他機関の同種の調査内容 の項目を参考に、「新型コロ ナウィルス感染症拡大が学生に与える影響に関する調査」の項目を作成し、共同研究者間での 議論を踏まえて完成させた。人権問題研究所内に設置する調査倫理審査会で承認を得たのち、

2020年11月18日から12月23日の期間に、Google フォームを用いてアンケート調査を実施した。

調査対象者は、共同研究者が行う授業および共同研究者が所属する学部以外の教員が行う授業 の受講生であり、1,091人から回答を得た。

インタビュー調査は、参加学生の発案により計画されたものである。したがって参加学生と 教員が2人ペアになりインタビューを実施することとした。調査対象者は、参加学生、共同研 究者、共同研究者が所属する学部以外の教員をつうじて紹介された。インタビューの方法、項 目ならびにデータの取扱いについて、人権問題研究所内に設置する調査倫理審査会で承認を得 たのち、2020年12月3日から12月22日の期間に調査を実施した。インタビュー当日には、調査 の目的、方法、倫理的考慮について調査対象者に説明し、同意書の提出をもって同意したもの とみなしインタビューを始めた。

インタビュー内容は、先に実施したアンケートの項目に基づいて構成されている。講義、学 生生活、日常生活、自分の健康状態、感染への不安や感染予防、自分の経済状況、将来展望や 就職、人間関係、ストレスを含む精神状態、社会状況の10項目について質問しながら、1時間 程度インタビューを行った。感染対策の観点からインタビューは Zoom で実施している。誰が インタビューするのかを明らかにするため、インタビュアーは教員、参加学生ともに冒頭のみ

(4)

カメラをオンにし、その後、全員がカメラをオフにして実施した。調査対象者は、1年生6人、

2年生2人、3年生5人、最終学年10人の合計23人である。同意を得て録音した音声データを 文字起こしし、文字化されたデータに基づいて分析を行った。インタビュー内容の確認を希望 した調査対象者には確認の手続きを経ている。

本報告では、インタビュー参加者のうち、留学生に焦点を絞って報告を行う。「母国から離 れてコロナ禍で生活をしている」、「日本語が母語ではない」など、留学生特有の事情があり、

日本人学生とは異なる課題があると思われるためである。本学の留学生は2020年4月時点で499 名であり、その内訳を見ると中国人が373名で1位、続いて韓国人の54名、台湾人27名となっ ている。筆者は近畿大学において留学生用の特例科目(日本語)を担当しており、長く留学生 と関わっていることから、留学生グループのインタビューを担当した。「コロナ禍の社会にお いて、留学生が直面した困難や問題を明らかにし、それらをどのように乗り越えたのか」を中 心に彼らのコロナ禍の経験について述べることとする。

調査に参加した留学生は計6名であり、その内訳は中国3名、韓国1名、台湾2名、ネパー ル1名(文系が4名、理系が2名)である。調査報告やその考察においては参加者の属性を詳 細に提示し、丁寧に解釈する必要があることは言うまでもないが、本学の留学生数は限られて おり、性別や所属学部、国籍を明らかにすることで個人が特定される可能性が非常に高い。そ のため、本報告ではその詳細を述べないこととし、考察の中では、参加協力者にR1からR6 までの番号を付して語りを引用する。

3 分析方法

インタビューデータは、佐藤(2008)を援用してコーディングを行なった。学生の語りを仮 説に当てはめて検証するのではなく、その語りからボトムアップに概念を構築するために適切 な方法だからである。手順は以下の通りである。①インタビューデータから、「留学生が抱え る困難」というテーマに基づいて、概念化の対象となる部分を抜き出す、②オープンコーディ ングを行う(抜き出した部分を文脈を考慮して抽象的な概念に置き換える)、③焦点的コーディ ングを行う(類似するコードを集め、さらに抽象度をあげたコーディングを行う)、④複数の 焦点的コードをまとめて大カテゴリーを作成し、焦点的コードを中カテゴリーとする。コーディ ングにあたっては適宜、元の文脈に戻り、発話の持つ意味や社会的背景を考慮しながら進めた。

このようなプロセスを経て表1のようなカテゴリー表を作成した。

(5)

表1からわかるように、彼らが抱えた困難は5つに分けられた。講義や学習形態の変化、就 職や進路に対する不安、コミュニケーション機会の不足、国や家族との関係性、日本に住むと いう不安である。以下、学生の語りを織り交ぜながら、考察を試みる。以下、考察の中では大 カテゴリーを《  》で、中カテゴリーを〈  〉で示している。

4 考察

 留学生が抱えた困難

① 講義・学習形態の変化

全データの中で彼らが語った困難のうち、発話の割合が最も高かったのは、《講義・学習形 態の変化への対応》であった。その中のカテゴリーには〈授業の参加度の低さ〉、〈オンライン 授業の短所〉、〈実験や実技講義への不満〉があった。〈授業の参加度の低さ〉は図1に見られ るように、授業内で積極的に発言したり質問したりできなかったことにも表れている。5名の 学生が「Zoom の授業では、話すタイミングがわからない。」(R1)、「Zoom の授業で10人の 中、外国人が話したら変かなと思って話さなかった」(R4)、「Zoom では、質問したらその声 をみんなが共有するので、恥ずかしくて質問できなかった」(R5)、「いつ話したらいいのか、

誰に向けて話すのか、他者、複数の人がいるじゃないですか。うまくいけないですね」(R2)

と答えている。参加学生が皆カメラをオフにしている真っ黒な画面に向かって口火を切ったり、

表1 留学生がコロナ禍で抱えた困難  〈中カテゴリー〉

《大カテゴリー》

授業の参加度の低さ オンライン授業の短所 実験、実技講義への不満 講義・学習形態の変化

就職状況の変化への対応 オンライン就職活動 情報入手が困難 就職や進路に対する不安

アルバイトがない 友人と会う機会がない SNS に頼る交流 コミュニケーション機会の不足

難しい帰国 心配する家族 国や家族との関係性

日本社会からのまなざし 日本の感染症対策への不安 日本に住むという不安

(6)

討論の途中でタイミングを見計らって発言したりするのは、日本人学生であってもなかなか難 しい。留学生はなおさらであろう。また、「集中力がなかなか集中できない。ずっと画面を見 ていて先生の話を聞いて、なかなか難しいですね。急にボーッとして集中できなくなりました」

(R2)とコンピュータに向かって授業を受ける難しさに触れたものもあった。

オンラインコミュニケーションは快適であったかどうかをたずねた質問では、図2に見られ るように、全員が「そう思わない」、「どちらかといえばそう思わない」のどちらかに回答して おり、授業への参加度が低い要因の1つであったことがわかる。その解決策として、授業が終 わってから先生にメールをする、授業の前に質問を全て準備し、授業で質問するなどがあった。

また学習のモチベーションを高める方法として、R5は「声を出さなくていい授業なら、家を 出て喫茶店などでたまに授業を受けるのも悪くない」と気分転換の必要性に触れ、仮に来年も オンライン授業が実施されるなら、後輩にそのようにアドバイスしたいと述べている。また、

図1 授業中の対話、質問、発言がしやすくなったか

図2 オンラインのコミュニケーションは快適か

(7)

R1は、オンライン授業によって節約できた時間を利用して資格を取るのもモチベーションを 維持するのに効果的だと述べている。大学で購入した資格取得の書籍の帯に紹介されていた塾 のインスタグラムにアクセスし、質問したり講義を見たりした体験を話してくれた。「みんな で、オンラインで一緒に資格を目指す友達と一緒に勉強しました」というR1は、旅行業務取 扱管理者という資格試験に挑戦し、3科目中2科目に合格している。R5も宅建士の資格試験 を受験し、合格したという。下の表2は、精神状態について「モチベーションが低くなってい るか」をたずねたものであるが、「そうは思わない」と答えた3名のうち2名は、旅行業務取 扱管理者の資格を取得しようとしたR1と、宅建士の資格試験を受験したR5である。学内の 講義だけでなく、外に学習の場を求めるのもモチベーションを維持する1つの方法であるとい う好例である。

〈オンライン授業の短所〉については非常に多くの語りが見られた。まず、短所には課題の 量の多さや教室での雑談がないこと、やる気が起きないことがあった。課題について「以前は 3回に1回ぐらい短い課題があったが、オンラインになってから毎回になった。それも量が多 くてかなり大変」(R1)という声があった。堀(2021)は、コロナ禍で日本の大学生は「課 題地獄」に陥ったと述べている。「課題地獄」とは、授業の参加度、理解度を評価するために 各教員が毎回課題を出すことにより、学生の負担が著しく増えた現象を言う。1日の平均履修 授業数が4コマだったR1にとっては相当苦しかったであろう。またR2は、オンライン授業 で失ったものとして授業間の雑談をあげている。「授業の合間に日常の会話がありまして、大 した用事とか大したことではないんです、くだらない会話とか、余計な会話とかその時間で日 本語能力がすごい伸びるんです。Zoom をわざわざ開いて会話する、たぶんしないので、だか ら日本語の能力はコロナ以来、伸びていないと思います」(R2)と、その残念さを述べてい る。R5は、「勉強する気を出せないし、家にいると気を抜いちゃうんです」と言い、最後ま でやる気が高まることはなかったという。

一方で、長所もあげられている。登校する必要がなく時間が有効に使えること、交通費が節 表2 モチベーションが低くなっているか

そうは思わない どちらかといえば

そう思わない どちらかといえば

そう思う そう思う 質問項目 / 回答

3 0

1 2

モチベーションが低くなっている

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約できること、(オンデマンド授業の場合)何回でも講義が聞けるので理解がしやすかったこ と、課題をオンラインで提出するのが非常に便利であったことなどであった。理解できるまで 何度でも講義が聞けるというのは、日本語能力に不安がある学生にとってはむしろ教室での一 回きりの講義より効果的だったということだ。

〈実験や実技科目の講義のあり方〉についても複数の意見があった。6名のうち、3名が実 験、実技を主とする専攻の学生であった。R6は「ずっと研究室に行っていますけど、4月28 日から6月の後半までずっと研究室に行けなかったんです」と振り返る。「研究は実際に行か ないとできないことが多くて」、論文を書くための実験結果が出せるかどうか「すごく不安だっ た」と語っていた。R5も卒業論文を執筆していたが、後期になって研究室に入れるようにな るまで全くやる気が起きなかったという。実験を主とする理系の学生にとっては研究室への出 入り制限は、研究が継続できるかどうかだけでなく、論文を書けるかどうかを左右する要因で あり、その影響は深刻であっただろう。

実技を主とするR2によると、卒業にあたって、当初は論文以外の方法を考えていたが、コ ロナにより人との接触が難しくなったことから、やむなく「論文を書く」方法を選んだという。

論文を書くにあたって、指導教官と毎週やりとりをし、論文のテーマ設定から書き方について 丁寧な指導を受けたことを感謝していたが、それでも実技をベースとした卒業方法への想いは 捨て難いという。R2は実技を中心とする講義のオンライン化について、社会状況を考慮する と仕方ないとは思うが、「授業が混乱している」といい、やはりそのやり方を再考すべきだと 話している。

② 就職や進路に対する不安

協力者6名のうち、4名が就職活動や大学院進学のための準備にかかわっていた。コロナ禍 でどのような思いを抱いて活動していたのであろうか。「将来展望や就職について」というア ンケートでは、次のような回答が見られる。

表3 将来展望や就職について

そうは思わない どちらかといえば

そう思わない どちらかといえば

そう思う そう思う 質問項目 / 回答

0 0

4 2

先行きが見えない不安がある

1 0

2 3

就職できるかどうか不安である

(9)

表3を見るとわかるように、6名全員が将来に関して不安を持っていることがわかる。その 不安はどこからきているのだろうか。コロナ禍の就職状況を見ると、留学生がその言語力や特 性をいかせる場として人気がある航空業界、旅行会社、宿泊業、免税店、空港などがコロナの ために将来が見通せず、採用を見送ったこと、そのため、多くの大学生や留学生が別の業種に 集中して競争が激化したこと、面接や研修などが全てオンラインで一度も会社に行く必要がな いことなどがあり、その不安定さは社会で共有されている。また就職(進学)の可能性に関す る不安も抱えている。「就職できるかどうか不安であるか」という質問に「そう思わない」と 答えた1名は、2020年6月には就職が内定しており、インタビュー時点では就職できるかどう かの不安はなかったと思われる。

《就職や進学に関する不安》には〈変化する就職状況〉、〈オンラインによる就職活動〉〈限ら れているサポート〉がある。まず、〈変化する就職状況〉について見てみよう。R4はこのイ ンタビューの直前に就職が内定したばかりだったため、就職活動の大変さをかなり具体的に語っ た。「外国の人がよく就職する空港や免税店とかに就職しようと思ったんですが、そこらが全 部中止になったので、えー、アパレルの仕事を探した」が、「12月まで就活をやって、できな かったら(国に)帰ろうと思っていた」という。最も大変だったのは「ある業界が中止になっ たら、またその業界を狙っていた人が他の業界に就職しようと行ってしまうので、なんかなか なか難しくなる」ことだった。内定をもらった企業は、就職活動を始めた頃に目指していた職 種とは全く異なるという。R1は、「観光業を志望していたけれども、観光関連の資格が勉強 していましたが、今はそういう観光業が非常に衝撃を受けていて、なかなか新卒採用も中止の 会社が多いので、その観光業に就職するのが辞めようかな」、「そんなことばかり考えると非常 に苦しい、毎日夜も眠れない」と語っている。R1は、もし、面接を受けるチャンスが来たと きに「日本にいないのはよくない」と思い、帰国せずにずっと日本にいた。就職難の状況下に おいて、資格を取得する勉強を続け、帰国する友人を横目に就職活動を続けるのは相当苦し かったのではないかと推察できる。R1の現在の心配は、来年度の就職活動の動向であるとい う。

〈オンラインによる就職活動〉では、R6が、「私の就職のイメージと今回実際にやった就活 は全然違うかった」と言い、「実際に一回もその会社の人に会わなくても最終面接まで行ったケー スも多かったので。本当に一回も会っていないのに『最終面接です』っていった時はすごい不 安とかありました」とオンラインによる就職活動の不安の大きさを語っている。解決策として、

(10)

学生の就職活動を支援するキャリアセンターで面接の練習をしたが、そこでもやはり全てオン ラインだったといい、「すごく不安だった」と話す。その不安は YouTube を見たり友人と一緒 に練習したりすることで埋めたという。

R4は、オンラインと対面とで面接の方法が異なっていることに柔軟に対応ができなかった ことを悔やんでいた。対面の面接では、マスクを外すことに不安があり、緊張が高まってうま く答えられなかったと述べている。むしろその後のオンラインの面接の方が、マスクの着脱を 指示されることもなく、面接官の目を見ることもないので楽に感じたそうだ。しかし、内定が 決まった後の研修も全てオンラインで行われているため、4月からの出社に不安があるといい、

オンラインの是非を経験したとも言える。

〈限られているサポート〉について、サポートが欲しかったと答えた学生は皆、内定をもら うまでにもっと情報が欲しかったし、キャリアセンターに密接に関わってほしかったと答えて いる。特に、留学生に特化した情報の公開や説明会を求める声が多かった。例えば、R6は、

キャリアセンターの Web 予約の話をしていた。朝9時にアクセスしても「1日いっぱいになっ ている」し、「自分がやりたいタイミングにはなんか埋まってできないこともあった」そうだ。

「キャリアセンターもたぶんそれ以外に何もできなかったと思いますけど、でもこっちからし たら、自分が行きたい、練習したいときにはできなかったので、もうちょっと工夫してもらえ たらよかった」という。「例えば?」という問いに「キャリアセンターはこっちから行ったら、

やってくれるという感じ。それは当たり前なんですけど、でも行けない学生もいると思います ので、そこはキャリアセンターからも『何かありますか』って聞くような」と言った後、「内 定もらってから電話が結構くるし、『メールで送ってください』と言われるので、そこはちょっ と違うなと感じた」という。

就職説明会の中止を何度も経験したR4は、コロナ前から就職活動をはじめ、キャリアセン ターを利用していた。しかし、コロナ後もセンターとの関わり度は変化がなく、「コロナある からもっとサポートして欲しいのにあんまりないなと思いました。留学生に向けた情報や『こ れを狙って就活する方がいいよ』と言った具体的かつ個別的なアドバイスが必要だった」と答 えている。しかし、オンライン面接の指導は丁寧で効果的だったという。もちろん、コロナ感 染という状況は、誰もが想定外であり、大学がコロナ禍を見据えた十全な準備をしておくこと は不可能であっただろう。おそらく、キャリアセンターはオンラインででき得る対応をしてい たに違いない。しかし、状況が目まぐるしく変化し、確かな情報が入手しにくい留学生にとっ

(11)

て頼るところはもはやキャリアセンターしかなく「〇〇してほしい」「寄り添ってほしい」と 思うのは当然であったかもしれない。キャリアセンターに多くの要望が寄せられるのは、セン ターへの不満というよりむしろセンターこそが、留学生にとって大学と社会をつなぐ代替えの ない橋渡し的存在であるからなのである。

次に進学のための準備についてである。R2は「入試がどういう形になるのか、ちょっと心 配していた」そうで、「大変だったのですけれども、何が大変か、基準がわからない」と振り 返っている。情報は全て HP を見て収集したが常に不安があったと答えている。

まとめると、彼らが抱えていた不安は、その活動が就職であれ、大学院進学であれ、情報が 十分ではなかったというところに起因していたといえる。情報不足を解決するために、彼らが 利用したのは、You Tube やホームページ、友人であった。就職活動をする学生にとって強力 なサポーターであるキャリアセンターがより柔軟に、より多様に、より密接に支援できるよう にすることが1つの解決策となろう。

さらに留学生ならではの事情がある。日本人学生であれば、就職先が見つからない、あるい は大学院に不合格だったという結果は残念ではあるが、次の方法として来年再チャレンジする、

しばらく就職状況を見ながらアルバイトをする、など複数の選択肢がある。しかし、留学生は 大学を卒業後、就職して「就労ビザ」を取得するか大学院に進学して「留学ビザ」を継続する か、あるいは近年増加傾向にある500万円という資本金を用意して起業し、「企業・管理ビザ」

を取得するかのいずれかができなければ帰国するしかない。就職や進学ができるかどうかはそ のまま在留資格が保持できるかどうか、簡単にいうと日本に滞在できるかどうかに直結してい るため、彼らにとってはまさしく人生の方向を決定する重要な分岐点となる。就職や進学の情 報が貴重であることは強調してもしすぎることはない。

③ コミュニケーションの機会の不足

他者との交流、つまり教員や学生同士、母国の友人たちなどこれまで当たり前に顔を合わせ ていた人々と《コミュニケーション機会が不足していた》状況が明らかになった。

アンケートの回答にも見られるように、「コミュニケーションや交流の機会が減った」とい う問いに、全員が「そう思う」、「どちらかと言えばそう思う」と答えており、交流の機会が 減ったと感じている。〈友達と会う機会が減った〉つまり、「会いたい時に会えなくなった」と いう問いにも、全員が「そう思う」、「どちらかと言えばそう思う」と答えている。ルームメイ

(12)

トがいるR2も、「二人の生活の時間軸は全く違う」とし、顔を合わせることも少なかったそ うだ。「友達も帰国する子が多いので、何かもし連絡したい時にもあまりそばにいなくて、そ ういう状況でなかなか友達と接することが少なくなった」(R1)、「友達と全然会えなくなっ たので、なんていうか、いつもより、今までより友達が減ったような気がする」(R4)、オン ライン講義を共に受けている日本人学生とも話すことがなく、「交流したい」(R5)といずれ もコミュニケーションが少なくなっていることに言及していた。「他者と会話することが非常 に少なくなっていて、改めて他者の大切さを認識した」というR2の語りにあるように、家族 や友人の大切さに再認識した学生が多い。R6は、後期から研究室に通うことができるように なり、顔を合わせることでコミュニケーション不足は解消されたように思うと答えている。

対面で交流することが難しい時期には、〈SNS による交流〉が主流となる。留学生の多くは、

コロナ以前から毎日のように母国の家族や友人とは SNS を利用してコミュニケーションをとっ ている。コロナ後はより SNS に依存していたと多くの学生が語っていた。しかし、「(SNS で)

連絡をとっていても『今度いつ会う?』とかの話になって、実際に会うことはなかった」(R 1)という。しかし「前は友達が家に遊びに来て、その時に友達が風邪を引いたと言って、す ごく不安で、コロナではないかなと思って。その時に友達の風邪が治ってそういう不安が、普 段の時にはそういう不安がないかな」と SNS 交流の安全性の良さも語っている。それ以降は、

対面の交流を望みつつも「今までの友達と SNS を通じて連絡をすることも今のそういう方法 だと思う」とコロナ禍の人間関係の維持の方法について述べている。

R4も「怖くて外に出られない」ので、交流はもっぱら SNS に頼っていたという。しかし、

同国人サークルで近郊に遊びに出かける計画があった際、「今は集まらない方がいいし、行か ない方がいい」と断ったところ、「変人扱いされてしまった」そうで、SNS によるテキストだ けの交流は誤解も生じやすいと指摘する。また、同国人同士でもコロナ禍での行動規準に温度 差があったといい、コミュニケーションの難しさを感じたそうだ。

表4 コミュニケーションや交流について

そうは思わない どちらかといえば

そう思わない どちらかといえば

そう思う そう思う 質問項目 / 回答

0 0

2 4

友達に会いたい時に会えなくなった

0 0

2 4

家族や友人の大切さに気づいた

0 0

3 3

コミュニケーションや交流の機会が減った

(13)

また〈アルバイトがない〉状況に陥った学生も多い。表5から明らかなように、理由はさま ざまであれ、アルバイトがなくなった、あるいはシフトが減ったなどの影響を全員が受けてい る。留学生にとっては、アルバイトは経済的なサポートのみならず日本人との交流や日本社会を 学ぶ場としての機能がある。コロナによってそのような機会を失ったことのデメリットは大きい。

顔を合わせるコミュニケーションの重要性を理解していても、コロナ禍、特に感染拡大期に は、対面交流は心理的にも身体的にも危険を伴う。だからといって SNS という空間に閉じこ もっているのも苦しい。オンラインをうまく利用して、交流範囲を広げる手段が求められてい る。例えば、近畿大学でもグローバルエデュケーションセンターが主催となり、2020年秋と冬 に Zoom を利用したグローバルオンライン交流会を開催している。今後は、定期的な開催や交 流活動の充実度を高めるなど、学生間の交流関係が生まれるような積極的な取り組みを推進し ていく必要があろう。

④ 国や家族との関係

次に、《国や家族との関係》があげられる。コロナ禍において、母国の両親や親戚、友人と はどのような関係を保っていたのだろうか。そこには〈難しい帰国〉、〈心配する家族〉という 要因が絡んでいた。前述したように、本学の留学生は中国、台湾、韓国からの学生が多い。こ れらの国では太陰暦に基づき、1月から2月に旧正月を迎えることになる。1月末に定期試験 を終えると留学生の多くは、帰国し、母国で旧正月を祝い、4月のオリエンテーション前に再 来日するものが多い。しかし、コロナは彼らの計画に大きく影響した。2020年1月末には多く の学生、特に中国の学生は、航空会社により帰国便が一方的にキャンセルされ、「帰れなくなっ

表5 コロナ前とコロナ禍のアルバイト状況

理由 コロナ禍

コロナ前 アルバイトの職種

両親に言われた やめた

1週間に2回 飲食関係

R1

客が来なくなった クビになった

1週間に2回 飲食関係

R2

客が少なくなった 1週間に1回

1週間に3回 飲食関係

R3

客が来なくなった クビになった

1週間に数回 宿泊関係

R4

客が少なくなった シフトが減った

1週間に数回 飲食関係

R5

客が少なくなった シフトが減った

1週間に数回 飲食関係

R6

(14)

た、飛行機がキャンセルされた」(2020年1月29日武漢出身の学生)と衝撃を受けていた。帰 国が困難になったのである。落胆する中国人留学生の嘆きが教室に響いていた。

その後、中国の感染事情が落ち着き始めたこと、大学の授業がオンラインになり、母国から でも授業参加が可能になったことなどを理由に「6月ごろから9月の間に今はうちの国、母国 大丈夫と思って皆が帰った」(R1)という。ではなぜ本インタビューの協力者は帰国しなかっ たのだろうか。「皆が帰国したのに、なぜ帰国しなかったのか」という問いに、R1は「対面 面接があれば、私は今、日本にいないと」、R3は「就職活動をしていたから」という就職活 動への影響、R6は「帰ったら戻って来られるかどうか分からない」という感染状況次第で国 との往来ができなくなる可能性、R5は「帰ろうと思ったが、卒論の研究もあって、帰ったら バイトもできなくなって店には迷惑と思いまして帰らなかった」と卒業論文やアルバイト先へ の影響をあげている。「就職活動」と「国の往来制限の可能性」が彼らを日本にとどまらせる 要因となっていたのである。

次に、母国のコロナ感染状況をどのように捉えていたのかを見てみたい。母国のニュースは、

全員 SNS と家族からのメールなどで入手しており、その感染事情や隔離状況をよく把握して いた。当初、日本より状況が深刻だった中国や韓国の学生は、日本にいることに不安はあまり 感じなかったといい、むしろ「日本が欧米の国に比べて感染者数が非常に少なくて、みんなも そういうソーシャルディスタンスを守るのが非常に素晴らしいと感じた」(R1)、「日本の政 策は欧米の国よりましだな」(R4)と日本の政策に安心感を覚えていた学生もいた。ネパー ルの学生も「ネパールではマスクをする人が少ないので日本の方が安心」と語っていた。一方、

感染拡大の防止に成功した国として知られている台湾の学生は「一時的に大阪の感染者数が めっちゃ増えた時があって、それでいったん台湾に帰ろうかと思いましたけど」と不安があっ た時期について言及している。

逆に、〈心配する家族〉の姿を見てみよう。協力者の母国においても、日本のコロナ感染に 関する情報は、連日報道されていたという。「緊急事態の時、両親からそういう事情からアル バイトをやめた方がいいと言われてアルバイトをやめた」(R1)や、「家族はよく日本の感染 者の人数とか見ていて『大丈夫ですか』とよく心配された」(R2)、「『マスクある?』、『お金、

生活費とか足りてる?』とお母さんから LINE が来ました」(R5)、「最初の2ヶ月家にいる ときはそれほど心配してなかったけど、毎日電車を使うと言ったらやっぱり心配しています」

(R6)など両親から心配するメッセージが届いていたようだ。それに対して「いけてるよ」

(15)

(R5)と心配させないように安全に生活していることを伝える学生が多い中で、R3は「留 学自体が自分の責任」、「20歳になって自分が責任が前より必要」ときっぱり言い、金銭的な援 助も含めてほとんど両親と話すことはなかったと答えている。心配や不安を伝えたところで国 の往来も制限されている中、両親や友人が来日できる可能性はほぼない。精神的な自立を試み ながら、コロナ禍を過ごしていた留学生もいるということがわかる。

⑤ 日本に住んでいるという不安

日本に住んでいることに対する不安には2つのタイプがあった。1つは、〈日本社会からの まなざし〉である。具体的には、中国が「ウィルスの発祥の国」であるという認識から起こる 差別発言や社会の視線を指している。R1は「印象に残っているコロナのニュースを問われて、

次のように語っている。

R1:やっぱり日本でニュースを見ると、次に自分、中国人に対してのニュースが、えっーっ と確かに、そういうニュースがあまり、ここに言うのがいいかなと思って、なかなか 中国人に対して好意を思ってないのが、その時に気づき、傷つきましたね。

(略)

けれども、少しみんなの気持ちがわかりますね。やっぱりこういうコロナで中国が最 初に発見された国として、世界的な人にそういう気持ちがもたらす、そういうことも なかなか。例えば私が中国人でないと、そういうことも話すかもしれないんですけど。

しかし、私は中国人という立場から、やっぱりちょっと悲しかったですね。

怒りや悲しさをストレートにぶつけないよう、ソフトに婉曲的に気持ちを伝えようと苦心し ている様子がわかる。コロナが発生したばかりの頃は、R1がいうように、中国にその怒りを ぶつけるものや中国の対応を批判するもの、またドナルド=トランプ前米国大統領のように公 的な場で“China Virus”と発言した例もあった。それらのニュースや発言を見ながら、R1 だけではなく多くの中国人留学生が心を痛めていたに違いない。このような言動は、世界各地 におけるアジア人に対する暴行や差別発言へと拡大しており、現在進行中の看過できない喫緊 の問題となっている。

もう1つの不安は、母国のコロナ感染対策と比べて、日本のそれが非常に緩く、信用できな

(16)

いという〈日本のコロナ対策への不信〉である。これは出身国によって捉え方に差異があった。

韓国と台湾の学生からは日本の対応に批判があったが、ネパールの学生からは日本の方が安全 であるという声があった。韓国と台湾の学生の声を紹介しよう。韓国の学生が、韓国にいる友 人から得た情報として、次のように話している。韓国では、感染者の公表と追跡に積極的な対 応をとっており、大学でも感染者が出るとすぐに HP に公開され、休校になる。感染者が行っ た場所にいたものは、二週間自宅待機を課されるなどかなり厳しく管理されているようだ。日 本では、感染者に関する情報が少なく、どこで誰が感染し、濃厚接触者がどの程度いるのかが 報道ではわかりにくい。大学の情報公開も遅く、そのことがかえって不安を増長させると語っ ていた。

また台湾の学生のうちの一人は、インタビュー時に台湾に帰国していたのだが、「日本にい るときは外に出るのが怖かったけど、台湾は全然怖くない」(R3)と述べている。インタビュー 当日、台湾の感染者はゼロ人であった。コロナ禍に台湾と日本を往復したものとして、両国の 対応の違いを尋ねると

R3:政府の多くのルールかな。強制される。日本はそんなに強制されることがない。

もし、日本に戻ったら14日隔離が設定がありますけど、水道代を払うとき、友達に聞 いたんですけど、払わなければならないから、外に出てしまいました。でも台湾はも し出たら10万円と50万円の罰金がある。

と、強制的なルールの有無について語り「台湾にいる方が安心する感じだ」という。新学年が 始まる前に彼は再来日するであろうが、日本の現状と政府の対応にまた不安を抱えながら大学 生活を送ることになるのではないだろうか。

もちろん、多くのルールの設定や情報開示のあり方、隔離の方法などは国によって政策が異 なり、この部分だけを切り取ってその是非を捉えるものではない。しかし、不安に思っている 学生がいるということは事実である。やはり不安を解消し、安心して通学できる体制を考える べきであろう。今後の対応の参考としたい。

 カテゴリーからこぼれ落ちた語り

では留学生が抱えた困難を彼らの語りを参照しながら、考察してきた。ところで、ギブズ

(17)

(2017)は、通常ではない、特異な現象、通常ではない現象に説明を要すると言い、「人々の経 験に異なることをさせた何があるのだろうか」と問うことの重要性を指摘する。つまり、逸脱 した語りにこそ意味があるという。コーディングからこぼれ落ちた2つの事例に注目したい。

1つは困難がありながらも学生生活は総じて問題がなかったという語り、もう1つは高度な 日本語能力があるにもかかわらず母語で語った語りである。1つ目の総じて問題がなかった学 生生活についてR3の語りを見てみたい。

 S:学生生活に関して何か変化はありましたか。

R3:ないですね。私にとってないです。

 S:例えば、思い描いていたものとは違うとか、そういうギャップというのはありました か。

R3:ないですね。(笑)。私、いつも、とおりです(=いつも通り)。はい。

 S:ストレスを含む精神状態について何か変化がありましたか。

R3:うーん、私、特にないです。ストレスはないですね。いつも通りに生活しています。

(笑)はい。

 S:外に出られない、学校に行けないっていうストレスはそこまでなかったですか。

R3:そうです、私、なかったです。はい。

(S:日本人学生インタビュアー) 

 T:授業は問題ありませんでしたか。

R3:そうですね。勉強の方はだいたい大丈夫ですね。

 T:先生から、R3さん、留学生にサポートはありましたか。例えば、うまくいってるか どうか心配したり。

R3:えっと、特にはないですね。一般の日本人のようにみえますね。

(T:筆者) 

Sの1つ目の質問に対して、他の学生は「授業が大変だった」、「友達と会えなくなった」「先 生に質問できなくなった」などコロナによって受けた影響を語ったが、R3は「(変化は)な い」、「いつも通り」と繰り返している。オンライン授業が主であった学校生活とコロナ前の対

(18)

面授業が主であった学校生活とを比較してみると、R3にとってはそれほど違いがなかったと 解釈できる。前述したように本学の留学生の数はそれほど多くない。これまでの講義やゼミの 中でも、多数の日本人学生の中にいて、留学生として可視化されることなく、なんら問題もな いように静かに座って講義を受ける、また、教員に質問したり、日本人学生に助けを求めたり といったことをせずに、一人で学習をこなす、そのような姿が想像される。外国にルーツを持 つ子どもたちの学校生活を参与観察した志水・清水(2000)は、子どもたちが問題を起こさず、

静かに座っていることで、学校生活を「うまくやれている」自分を演出していると指摘する。

「うまくやれている」姿が、学校生活に馴染んでいるように見せることに貢献し、「支援が必要 な」子どもの不可視化に効果的だというのである。R3は、実際の学生生活で密な交流体験は なかったが、「うまくやれていた」からこそ、オンライン授業を中心とした大学生活をそのま ま受け入れることができたのではないだろうか。端的に言えば、リアルな学校生活とオンライ ンの学校生活とで彼の行動や意識に大きな差異はなかった可能性があるといえよう。

このR3の回答は、大学における留学生の受け入れについて重要な問いを投げかけている。

留学生がいても誰も気づかず、心配もしない。留学生が大学という社会に適応しているといえ ばそうかもしれない。しかし、困難があっても声を上げることなく、同国人のネットワークや 家族間で解決をし、卒業していくという過程は、排除と言わずとも、その存在が大学の中で周 辺化している。換言すると、日本社会との関わりは同国人の友人やアルバイトといった非常に 狭小な空間に閉ざされている。逆に言えば、他の学生の語りに見られるような「誰とも話せず 寂しかった」、「学校に行きたい」という不満は、それまでの大学生活が、「友人と話をして楽 しかった」、「学校生活が充実していた」ことの証左ではないだろうか。グローバル化を目指す 大学として、留学生の受け入れや日本人学生の意識について再考したい。

2つ目は、高度な日本語能力を有しているにもかかわらず、母語で語ったR2の語りである。

R2は、日本語において四技能(読む、書く、話す、聞く)ともに非常に高度なレベルにあり、

日常の意思疎通のみならず、アカデミックな場面でもほぼ問題がない。今回のインタビューで もコロナ禍の1年で映画を200本以上観たこと、オンライン授業になって雑談がなくなったた め、代わりに「日本語の本をたくさん読んだ。会話能力は伸びてないけど、読む力は伸びた」

ことを語っていた。しかし、ある1つの質問に関して、次のようなやりとりが見られた。少し 長いが、R2の苦悩を表すために一部を詳細に提示する。

(アンケートの「大学に対する要望」欄に「学生と教員の学習環境に関して大学に真摯に検

(19)

討してもらいたい」と書いたことについて、筆者が詳細をたずねた)

 T:大学としてはどういうことをすれば、学生にもっと学んでもらえると思いますか。ど んな助けが必要でしたか。

R2:えー、まずはあの感染対策をした上で、感染対策をした上で、えー、(沈黙)えー、

ごめんなさい。先生、質問もう1回お願いします。

 T:これから学生がオンラインを受けることになった時、どういう助け、どういうやり方 であればうまくいくと思いますか。

R2:はい。うーん。

 T:いろいろあると思いますが、何か希望がありますか。

R2:(沈黙)はい、うーん。はい、えー。(沈黙)

(次に、この質問は、R2がアンケートに書いた回答の再質問であることを伝え、その部分 を再度読み上げた)

 T:学生に対してどのような助けがあればよかったのかなと思って質問しました。

R2:あ、はい。うーん(沈黙)

 T:ちょっと難しいですか。

R2:うーん、(沈黙)えー、すみません、うまく。

約5分にわたって上記のようなやりとりをした後、「中国語だったら言えるかもしれない」

とR2が言い、中国語で語ってもらうことにした。約10分にわたるR2の語りをまとめると以 下のようになる。

R2:皆が何もわからず疲れ果てた状態で授業が進んでいる。大学は、教員、学生とコミュ ニケーションをとって、お互いが何を考えているのかそのニーズを共有すべきだと思 う。曖昧な言い方だけど、授業ではどのような授業の進め方が適切なのかお互いに意 見を共有し、理解しあってうまく進められるようにした方がよいと思っている。誰も どうしたらいいかわからないように見える。

(訳・要約 筆者による) 

(20)

R2は上記の内容を何度も同じ表現を使用して語っている。R2の日本語能力とそれまでの インタビューの内容を鑑みると、日本語で十分表現できるはずの内容だ。また、これはもう一 方の言語での表現を知らないために母語を使用するといったコードスイッチング(言語交代)

でもない。なぜR2は日本語で「うーん」「えー」と言ったフィラーを繰り返し、沈黙を続け、

語ることができなかったのだろうか。Dewaele(2010)の調査では、多言語話者は怒りを表す 際に、第一言語を使用すると報告されている。第一言語以外は「心的距離のある言語」とされ、

第一言語と同じように共鳴、共振しにくいという。どのような感情をどの言語で表現するのか という問題は、話者の年齢や言語の獲得年齢、話題や言語能力にも関わっている。R2にとっ て、授業が混乱しており、皆がどうしたらいいかわからない状態は、日本語で表現し尽くせな い感情があったのではないだろうか。インタビュー時、R2は中国語で上記の内容を一気に語 り終えた後、「はい、つい長くしゃべりました」と日本語で言い、その後、また日本語で家族 や中国の話へと進んでいった。「つい長くしゃべった」語りには、講義のあり方についての思 いを「確かに話した」という満足感があったのかもしれない。R2のような高度な二言語話者 であっても、授業のあり方に関する困難や怒り、悲しさやもどかしさなどネガティブな心情を 伝えるには、日本語ではなく、母語が必要だったのである。

このR2の事例は、コロナ禍という未曾有の状況における異国での生活について彼らの母語 ではない日本語を用いてたずね、彼らの声を聞き、それを解釈しようとすることの限界を突き つけている。彼らの「大変だった」という日本語表現の背景に、この言語では表現しきれない どれほど多様な感情があるのだろうか。それを念頭におき、彼らの一つ一つのことばと向き合 う覚悟が求められる。

5 まとめ

以上、コロナ禍において留学生は何を考え、どのように生きてきたのかを調査結果をもとに 考察を試みた。データから見る彼らの困難は、講義や学習形態の変化、就職や進路に対する不 安、コミュニケーション機会の不足、国や家族との関係、そして日本に居住している不安の5 つに分けられた。またコーディングから落ちた2つの現象を拾い上げ、その特異性が持つ意味 を考察した。誰もが経験したことのない緊急事態に、困難はあったがそれでも解決策を見出し、

奮闘している姿も明らかになった。

留学生は、研究者が勝手に作り上げた「かわいそうな」学生たちではなかった。限られたリ

(21)

ソースを十分に活用し、自分の人生設計について深く考え、行動していた。健康管理のために 全員が運動をしたり、食事や水分補給に十全な注意を払ったりしていた。母国の家族と情報の やりとりをし、心配をかけないように節約したり、アルバイトをしたりして自分の生活を毅然 と保っていた。彼らは主体的に日本での生活を選び取り、そこで時に心が折れながらもたくま しく生活をする姿があった。「留学そのものが自分の責任」というR3のことばが全てを表し ているのかもしれない。だからこそ、我々は彼らの姿勢に甘えることなく、今後、起こりうる 様々な疫病や自然災害などの社会不全に備え、何をすべきかどのようにお互いに支え合うかに ついて、大学として再考すべきであろう。

最後になるが、このような調査報告にあたって次のような課題も見えた。1つ目の課題は、

オンラインインタビューが抱える功罪である。長所として、コロナ禍の対面接触に制限がある 中で、インタビューが実施できたことがあげられる。Zoom を使用することによってリアルタ イムでのインタビューが可能となった。協力者の中には母国へ帰国したものもいたが、容易に 国境や時間を越えることができた。また、学生、教員ともに既に授業で使用したソフトであっ たため、ほとんどトラブルがなかったことは、今後のインタビュー調査の方法選択に大きな貢 献を示したと言えよう。

しかし、短所として、音声のみに頼る解釈の限界がある。個人情報を守るために、協力者は カメラをオフにしたことによって、表情や身振りなどノンヴァーバルな情報が遮断されていた。

発話を解釈する手がかりとして声のトーンやスピード、使用語彙の選択に依拠せざるをえなかっ た。例えば、「えーっと、、、、えー、、、えっと、、、」というフィラーは、自分の気持ちを整理し ているのか、経験を回想しているのか、日本語の語彙を探しているのか、あるいは答えたくな いのか、音声だけを手がかりにその含意まで解釈することは困難であった。インタビューは社 会文化的、身体的行為であり、語られたことばは非言語的行為も含めて捉える必要性がある

(秋田、2019)という重要性を再認識することとなった。

2つ目の課題は、インタビューをするものとされるものに横たわる権力構造である。日常の 関係性がインタビューに与える影響を考慮すべきであることは言うまでもない。また学生が

「望まれるインタビューの姿」を演じるという危惧もある。一方、教員も学生のことを知って いるからこそ、語りの解釈に鈍感になる可能性もある。フリック(2011)のいうゴーイング ネィティブ(対象者に対する批判が弱くなり、共有されている視点を鵜呑みにしてしまう)に 自覚的であらねばならない。

(22)

そのような課題があるにせよ、このような緊急事態の中で調査に協力してくれた学生の声を 届けることが、その声に応えることであろう。本報告が、留学生はコロナ禍をどのように生き たのかを知る一助となれば幸いである。

参考文献

秋田喜代美・藤江康彦(2019)「理論編」『これからの質的研究法』秋田喜代美・藤江康彦編著,

東京図書.239.

Dewaele, J. M.(2010)Emotions in multiple languages. Basingstoke, UK: Palgrave Macmillan.

フリック, U.(2011)『新版質的研究入門:〈人間の科学〉のための方法論』小田博志・山本則 子・春日常・宮地尚子訳,春秋社.

堀和世(2021)『オンライン授業で大学が変わる』大空出版.

佐藤郁哉(2008)『質的データ分析法:原理・方法・実践』新曜社.

志水宏吉・清水睦美(2001)『ニューカマーと教育―学校文化とエスニシティの葛藤をめぐっ て』明石書店.

WEB 資料

OECD(2021)The Impact of COVID19 on Education Insights Education at a Glance http://www.oecd.org/education/the-impact-of-covid-19-on-education-insights- education-at-a-glance-2020.pdf(2021年3月15日アクセス)

パーソル研究所(2021)「多文化共生意識に関する定量調査」 https://rc.persol-group.co.jp/

research/activity/files/multicultural-consciousness.pdf?fbclid=IwAR0f3nskyGJKx9 XdGVgGIiuSgMOjC8QU5GF_LtkNEieqQucKRM2oDNOJ6rM(2021年3月15日アクセ ス)

WHO(2021)‘COVID19 Weekly Epidemiological Update’(2021年3月2日アクセス)

file:///Users/takahashitomoko/Desktop/20210302_Weekly_Epi_Update_29.pdf

参考にした調査報告は以下の通りである。

1)京都ノートルダム女子大学(2020)オンライン授業に関するアンケート(学生)結果概要

(23)

報告 https://www.notredame.ac.jp/news/news/2159/ (最終閲覧日:2021年3月30日)

2)京都ノートルダム女子大学(2020)今後のオンライン授業に向けて学生からの提案 https://

www.notredame.ac.jp/news/news/2159/(最終閲覧日:2021年3月30日)

3) 立命館大学学友会(2020)2020年度春セメスター全学アンケート集計速報 https://www.

ritsumei.club/2020/0928_8962/(最終閲覧日:2021年3月30日)

4) World Health Organization Regional Office for Europe, Survey tool and guidance:

rapid, simple, flexible behavioural insights on COVID19,(2020), https://apps.who.int/

iris/handle/10665/333549(最終閲覧日:2021年3月30日)

5) 全国大学生活協同組合連合会(2020)緊急!大学生・院生向けアンケート https://www.

univcoop.or.jp/covid19/enquete/index.html(最終閲覧日:2021年3月30日)

参照

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