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極限状態における QCD 熱力学

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Academic year: 2022

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九州大学学術情報リポジトリ

Kyushu University Institutional Repository

極限状態における QCD 熱力学

佐々木, 崇宏

https://doi.org/10.15017/1441026

出版情報:Kyushu University, 2013, 博士(理学), 課程博士 バージョン:

権利関係:Fulltext available.

(2)

QCD thermodynamics under extreme conditions

(極限状態におけるQCD熱力学)

氏 名 佐々木 崇宏

論文内容の要旨

宇宙初期の高温状態や中性子星内部の高密度状態では, その温度や密度によって物理現象が大き く変化する。このとき内部構造をもった粒子はその構造を維持できなくなるため, より微視的な視 点で現象を理解することが重要となる。原子核は陽子と中性子が核力(強い相互作用)によって束縛 した系である。強い相互作用の基礎理論は量子色力学(QCD)であり, 素粒子であるクォークとグル ーオンの運動を記述する理論である。QCDは非摂動的な性質が強く, その真空構造はカラーの閉じ 込めやカイラル対称性の自発的破れのような特徴をもつ。カラーの閉じ込めは低エネルギーにおけ る QCD のエネルギースペクトルにクォーク・グルーオンの自由度があからさまに現れず, 代わり にその複合粒子である陽子・中性子やπ中間子が現れる現象である。カイラル対称性の自発的破れ は, 実現する真空において QCD がもつカイラル対称性が破れる現象である。この機構は質量の起 源と深く関わっており, 陽子や中性子はその質量の90%以上をこの機構によって獲得する。ただし, カイラル対称性のうち UA(1)対称性は, 自発的にではなく量子異常によって破れている。これは QCD真空の位相幾何学的に非自明な構造と深く関わっており, 興味深い研究対象の一つである。

強い相互作用は高エネルギーで弱くなる性質をもつため, 高温領域や高密度領域において物性が 変化し状態変化が起こると考えられる。この状態変化を温度(T)-バリオン化学ポテンシャル(μB)平 面上で表した図は QCD 相図と呼ばれている。QCD が確立された理論であるにも関わらず, QCD 相図は未だ解明されていない。これは QCD の非摂動性のみならず, 強相関量子多体系を解析する 困難によるものである。そのため QCD相図の解明は, 素粒子物理, 原子核物理, 宇宙天体物理, 物 性物理の分野にまたがる, 学際的かつ重要な課題である。近年の計算機技術の進歩により, 有限温 度でのQCD相転移は, 第一原理計算である格子計算によって理解されつつある。しかし, 格子計算 は有限密度領域での実行が困難であるため, 有限密度における相構造は未だ不確定である。

QCD相図を解明するために有効模型による解析を行う。有効模型は不定性を伴うが, 有限μBを はじめとする広い領域で解析が行える利点がある。本論文では有効模型として, 閉じ込めとカイラ ル対称性の自発的破れの両方を同時に解析可能な, Polyakov-loop extended Nambu-Jona-Lasinio

(PNJL) 模型を用いる。そして, QCD真空の特徴が良く現れる以下の3つの項目について解析を行

った。

(1)Roberge-Weiss(RW)端点のクォーク質量依存性

(2)QCD相転移のθパラメータ依存性

(3)中性子星の質量と半径の関係

特に課題(1)では, 格子計算によるシミュレーションが可能であるため, PNJL 模型の不定性を制限 しその信頼性を向上させることが可能である。このように構築したPNJL模型を用いることで, 格 子計算が困難な課題(2), (3)に対して信頼性の高い予言ができる。

(3)

RW 端点は, 純虚数μB領域に存在する, 閉じ込め相転移に関連した臨界点である。近年, RW端 点のクォーク質量依存性が注目され, 格子計算が行われた。本論文では, 拡張された PNJL 模型で あるEntanglement-PNJL (EPNJL) 模型を用いて, RW端点とμB=0における相転移のクォーク質 量依存性を系統的に計算した。その結果, 特にRW端点に関して, EPNJL 模型は上記の格子計算結 果を再現し, PNJL模型からの拡張が本質的に重要であると分かった。EPNJL模型は現在のところ, このクォーク質量依存性を再現する唯一の模型である。

QCD 真空は位相幾何学的に非自明であり, θ真空と呼ばれている。この構造を考慮することは, 重イオン衝突実験や宇宙進化のシナリオにおいて重要である。θ真空構造の変化は QCD 作用にθ 項を付加することで解析できるが, θ項が存在する一般的 QCD において格子計算は実行不可能 である。このため, 強磁場等によって実行的にθ項が生成された QCD の性質は, ほとんど解明さ れていない。本論文では, その相構造を解明し, 格子計算を可能にする方法を新たに提案した。さ らにその実行可能性を定量的に分析し, 実行可能であることを示した。

近年, 太陽質量の2倍の質量をもつ重い中性子星が観測された。この観測は高い精度で行われ, 中 性子星の構造に関して強い制限を与える。中性子星の構造はゼロ温度・高密度領域の QCD 相転移 と強く関連しており, この観測結果は QCD 相図に対しても強い制限を与えると考えられる。本論 文では有効模型を用いて, ゼロ密度・有限温度における格子計算とゼロ温度・有限密度に対応する 中性子星観測結果の両方を, 同時に再現するQCD相転移の記述に成功した。

本論文では, 上記3つの極限状態におけるQCD相転移について, EPNJL模型を基に一貫した解 析を行った。このとき, 第一原理計算である格子計算や中性子星観測の結果を再現することにより,

EPNJL模型に含まれる不定性を強く制限した。 これにより, QCD相図の未知な領域に対して信頼

性の高い予言を与えることに成功した。

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