別紙1
論 文 審 査 の 要 旨
報告番号 甲 第 2776 号 氏 名 石塚 元規
論文審査担当者
主査 教授 中村 雅典 副査 教授 桑田 啓貴
副査 教授 長谷川 篤司
( 論 文 審査 の 要旨 )
学 位 申 請 論 文 「Changes in apolipoprotein B and oxidized low-density lipoprotein levels in gingival crevicular fluid after initial preparatioon」 に つい て 、 上記 の主 査 1 名、 副 査2 名 が 個 別 に 審 査を 行 った 。
apoB や 酸 化 LDL は 動 脈 硬 化症 の 危険 因 子 であ り 、 歯周 病 との 関 連 が注 目 さ れて い る。 こ れま で 、 健 全歯 周 組織 の 歯 肉溝 浸 出 液(GCF)中 に apoB、 酸 化 LDL が 存 在 する こ と 、ま た 、糖 尿 病 患 者 で は 健常 者 に比 較 し、有 意 に 高い 濃 度で あ る こと を 報 告し て きた 。したが っ て 、apoB、酸化LDL は 歯 周 病の 病 態と 相 関 する 可 能 性が 考 えら れ る 。そ こ で 、本研 究 では 歯 周基 本 治 療前 後 によ る GCF 中 のapoB、酸 化 LDL変 動 を 解 析し た 。その 結 果、GCF中 の apoB、酸 化 LDLは 歯 周 疾 患 罹 患 部 位 で 高 値を 示 すこ と 、ま た 、治 療 によ り 減少 す るこ と が 示さ れ た 。以 上 の結 果 か ら 、GCF中の apoB、
酸 化LDLは 歯 周 病 に よる 歯 周 組織 障 害の 指 標 とし て の 有効 性 が示 唆 さ れた 。
本 論 文 の 審 査 に お い て 、 副 査 の 桑 田 委 員 お よ び 長 谷 川 委 員 か ら 多 く の 質 問 が あ り 、 そ の 一 部 と そ れ ら に 対す る 回答 を 以 下に 示 す 。
桑 田 委 員の 質 問と そ れ らに 対 す る回 答 :
1 .本 研究 は 、歯 周 病患者 の 歯 周病 罹 患部 位 と 健全 部 位 の比 較 であ る が、健 全 部 位で 比 べた 場 合 、 歯 周 病 患者 と 健常 者 ( 歯周 組 織 健全 ) では 差 は 出る の か 。
(過 去 、歯周 病 患者 の 歯周 病 罹 患部 位 と健 全 部 位、健 常 者の 健 全部 位 から GCF を採 取 し、サ イトカ イ ン 及 び GCF 量を 測 定 した 報 告 にお い て、健 全部位 で の 比較 で は、GCF 量と GCF 中の IL-1b 濃 度 は 歯 周 病 患者 の 健全 部 位 で高 い 値 を示 し た。 健 全 部位 の 比 較に お いて も 差 が出 る こ とが 報 告さ れ て お り 、 今後 は GCF 中 の apoB、 酸化 LDL に関 し ても 健 常 者( 歯 周組 織 ) を含 め た 研究 デ ザイ ン で の 検 討 が 必要 で ある と 考 えら れ る 。 )
2 . 本 研究 の 歯周 病 患 者を 対 象 にし た GCF評 価 に お い ても 、 サン ド イ ッチ ELISA法 に よ る apoB 及 び 酸 化LDLの 測 定 方 法 は 確 立さ れ たと 思 わ れる 。 本 研究 に おい て 、測定 法 で 改善 し た点 、 また 今 後 改 良す べ き点 は あ るか 。
(薬 学 部 生 体 分 子 薬 学 講 座 生 物 化 学 部 門 と の 共 同 研 究 に お い て 、 サ ン ド イ ッ チ ELISA 法 を 用 い て GCF中 の apoB及 び 酸 化 LDL 測 定 を 行 っ て きた 。 酸 化 LDLの 測 定 に は 酸 化 PC( ホ スフ ァ チジ ル コ リ ン) を 標 識す るDLH3 抗 体 を 用 いて い る。本 研 究 では 特 に酸 化 LDL測 定 に お い て 、化 学 発光 測 定 に よ る プ ロ ト コ ー ル を 確 立 し 、 低 濃 度 に お け る 測 定 感 度 が 向 上 し た 。 今 後 は apoB 及 び 酸 化 LDL測 定 共 に 、 測 定 時 間の 短 縮 が検 討 課題 で あ る。)
3. 本 研 究 の よ う な 軽 度の 歯 周 炎 部 位 にお い て 、歯 周 病 病 態 を 鋭 敏 に 反 映し た の は 意 義 があ る と 思 わ れ る が 、こ れ らの 部 位に 対 し ての 治 療効 果 に おけ る GCF中 の apoB及 び酸 化 LDLの 変 動 を ど の よ う に 考え る か 。
(GCF中 のapoB,酸 化 LDLはSRP 術 後 4週 で有 意に 減 少 した こ とか ら 、軽度 な 歯 周炎 部 位で も そ の 変 化 を 鋭敏 に 反映 し た と考 え る 。し か し、 酸化LDL の 変 動 に お い て 、SRP術 後8 週 で は統 計 学的 に 有 意 差 は 認 め ら れ な か っ た 。 今 後 は 、N 数 の 検 討 、 そ れ に 伴 い 歯 周 炎 の 状 態 に つ い て も 軽 度 か ら 重 度 と ク ラ ス 分 け し た 研 究 デ ザ イ ン に す る こ と に よ り 、 本 研 究 か ら 得 ら れ た 軽 度 な 歯 周 炎 に お い て GCF中 の apoB、 酸化 LDLは 鋭 敏 に 歯 周 組織 の 状 態を 反 映す る と いう 結 論 をよ り 強化 で き る の で は ない か と考 え ら れる 。)
(主査が記載)
長 谷 川 委員 の 質問 と そ れら に 対 する 回 答:
1. GCF中 のapoB(LDL)、酸化 LDLと血 液 中のそれらパラメータと相関 はあるのか。
(GCF 中に滲 出してくるapoB、酸 化 LDLは血漿 由 来 であると考えられている(1)。本研 究において、apoB及 び酸 化LDLはGCF中 と血 漿中 で相関 は認 められなかった。本 研 究 は、全身 健 常者 のみを対 象 としている。
脂質 異 常症 などの被 験 者 では、GCF中 に滲 出してくる量が全 身状 態によって変 化する可 能性 は考えられる が、現 在 は不明 確 であり、今後 の検 討が必 要である。)
2. 腸 内 細菌 と生 活習 慣 病 に関して近 年言 われているが、歯 周 病 との関連 に関して、本研 究 から考察される ことはあるか。
(腸管 内には500~1000種類, 100兆~1000兆個 の腸内 細 菌が生息し腸 内細 菌叢 (フローラ) を形成して いる。医 科の領域 では、腸 内細 菌 叢と生 活 習慣 病 との関 連を調べる研 究がなされている。また、歯周 病 との 関連 を調べた報 告 では、歯 周病 原 性細 菌 であるPorphyromonas gingivalis をマウスの口 腔 から投与 する と、腸 内細 菌 叢を大きく変 化し、全 身的 な炎 症を引き起こすことを明らかにしている(2)。本 研究 において、口 腔内 細 菌との関 連 は調べていないため、apoB及び酸化 LDLと口 腔 内細 菌に関する知 見 は得られなかっ た。今 後の検討が必 要である。)
3. 本 研 究では、SRP術 後4,8週で評価 を行 っているが、術 後 4 週より以 前(早 期)の段 階 での治癒 経 過で は、GCF中のapoB、酸化 LDLはどのような変 化 をしていたと考 察できるか。
(本研 究において、GCF中 のaooB及び酸化 LDLはSRP術 後4 週 で有意 に減 少が認められたが、これら は歯周 治 療前 のBL時 との比 較のため、実 際にSRP処置がGCF中のapoB、酸化 LDLの変動 に影 響を 与えたのか、もしくはその以 前にプラークコントロールの改善 やスケーリング処 置によっても影 響されるのか は、不 明である。今後 、これらのことを含 めた研 究デザイン(GCF 変 動を観 察するポイントを増やすなど)の検 討が必要 である。)
両 副 査 は、 上 記を 含 め た質 問 に 対す る 回答 が 、 いず れ も 満足 の いく も の であ る こ とを 確 認し た
主 査 中 村 委 員 の 質 問 と そ れ ら に 対 す る 回 答 : 1. 産生 細 胞 は何 か。
(GCF中に滲出してくるapoB(LDL)、酸 化LDLは血 漿由 来 であると考えられている。LDLは主に肝臓 で合 成され、酸 化 LDLはそのLDLが酸 化 変性 をうけて生じる。歯 肉局 所における LDLの酸 化 変性 には、未 だ 不明 な点 が多 いが、本 研 究においては好 中球 などの免疫 系の因 子が関与 を考 えている。好 中 球 は 歯 周 組 織 内 に おい て 毛細 血 管 から 結 合 上皮 を 通過 し 、 歯周 ポ ケ ット へ と到 達 す ると 考 え られ 、 好中 球 の 産 生 す る ROSに よ っ てLDLは 酸 化 LDLへ と 酸 化 変 性 する と 考え ら れ る。)
2. 歯肉 中の血 管にどのような機能 変 化が起こるのか。
(本研 究において、GCF中 のapoB及び酸化 LDLの増加 には、血管・歯 肉上 皮 の透 過性 の変 化が考えら れる。また、ApoBが500kDと高分 子の物 質であることから、単 純な透過 性の亢 進だけでなく、トランスサイト ーシスを介するような apoB(LDL)を歯肉 溝に選 択的 に滲出 する機構 がある可 能 性を考 察した。しかしなが ら、これらの詳細 な機 序 は不明 であるため、今 後の研 究が必要 である。)
3. 局所 でapoB、酸化 LDL濃度 上 昇させる因 子 はなにか。
(本研 究において、GCF中 のapoB、酸 化 LDLの増 加の要因 には、二つの仮 説を挙 げた。一つ目 は歯 肉 上 皮の透過 性が変 化したことである。過 去、血管 内 皮においてトランスサイトーシスを介して選 択 的に LDLを 輸送 することが報 告されている(1 )。本研 究 より、GCF中のタンパク濃 度 と比 較して巨 大分 子 である
apoB(LDL)の上 昇が大きかったことは、apoBや酸 化 LDLを歯肉 溝に選 択的 に滲出 する機構 がある可 能 性 が示 唆され、これは歯 周 組 織の炎症 によって増強されているのかもしれないと考えた。二つ目 は、特に酸 化 LDLの増 加において、歯 肉組 織 局所 での ROS増 加により、酸 化 変性 が亢 進 したためと考えられる。歯 肉 組 織局 所 での酸化 変 性には、好 中 球などの免 疫 系の因 子が関与していると思 われる。しかしながら、これらの 歯肉 上 皮の透過 性 変化 や歯肉 局 所での酸 化 変性 の亢進 に関 する詳細 なメカニズムは不 明であるため、今 後の研究 が必 要 である。)
主 査 の 中村 委 員は 、 両 副査 の 質 問に 対 する 回 答 の妥 当 性 を確 認 する と と もに 、 本 論文 の 主張 を さ ら に 確 認す る ため に 上 記の 質 問 をし た とこ ろ 、 明確 か つ 適切 な 回答 が 得 られ た 。
以 上 の 審査 結 果か ら 、 本論 文 を 博士 ( 歯学 ) の 学位 授 与 に値 す る も の と 判断 し た 。
(主査が記載)