論文内容要旨
論文題名
The effects of lidocaine on central respiratory neuron activity and nociceptive-related responses in the brainstem-spinal cord preparation of the newborn rat
(新生ラットの脳幹脊髄標本における中枢性呼吸神経活動と 侵害受容に対するリドカインの影響)
掲載雑誌名
Anesthesia & Analgesia 2016 年 掲載予定
専攻名 医学系生理学(生体調節機能学) 氏名 釋尾知春
【背景】局所麻酔薬,抗不整脈薬として使用されるリドカインは,ナトリ ウムチャネルに結合し,ナトリウムイオンの透過を阻害して活動電位を不 活性化することにより,神経伝達を遮断する.しかし中枢神経への作用機 序は未だ解明されていない.今回我々は新生ラットの単離脳幹脊髄標本を 用いて,延髄呼吸中枢神経活動に対するリドカインの影響を検討した.【方 法】0-3 日齢ラットから脳幹脊髄を単離し,酸素化人工脳脊髄液 26℃で灌 流した.第 4 頚髄神経腹側根(C4)から呼吸性活動をモニターし,吸息先 行型(Pre-I)ニューロンまたは吸息性(Insp)ニューロンのバースト活動を 記録した.リドカインを 10,20,100,200,400 uM の濃度で 15 分間投与 し,呼吸性神経活動に対する影響を調べた.また侵害受容応答に関連する と考えられる第 7,第 8 頚髄神経背側根を刺激し,第 4,第 5 頚髄神経 (C4/5)の脊髄反射への影響を調べた.【結果】低用量(10,20 uM)リドカ インの投与では,C4 のバースト活動頻度(呼吸数)は軽度増加したが,高 用量(100,200,400uM)リドカインの投与では,用量依存的に C4 のバー スト活動頻度(呼吸数)は減少した.リドカインの投与を中止し,コント ロールに戻した時に,C4 のバースト活動がダブルやトリプルになること があった.Pre-I ニューロンにおける drive potential および吸息相抑制 性シナプス電位の低下を認めた.また,Pre-I および Post-I 相のバース ト持続時間は減少した.Insp ニューロンでは drive potential および吸 息相持続時間の減少を認めた.リドカインの投与を中止した後も,呼吸性 神経活動は部分的にしか回復せず,高用量投与時には,完全な呼吸活動停 止が起こり,投与中止後30分しても回復しなかったが,C4,Pre-I,Insp
ニューロンのバースト活動が消失していても,外部から電流パルス刺激を 加え脱分極させると,活動電位は発生した.しかしコントロールと比較す ると発火数は減少し(1-2 回),発火は刺激による脱分極初期に限局してい た . ま た 高 用 量 リ ド カ イ ン は Pre-I ニ ュ ー ロ ン の negative slope conductance を減少させた.低用量リドカイン(20 uM)は C4/5 の脊髄反 射を抑制した.【結論】新生ラット摘出脳幹脊髄標本で低用量のリドカイ ンは,呼吸活動を抑制することなく,侵害受容応答に対する脊髄反射を抑 制した.高用量のリドカインは呼吸活動を抑制した.また抑制は一部不可 逆的であった.高用量投与時に,バースト活動が完全に消失していても,
外部の電流パルス刺激により活動電位の発生は認められた.高用量リドカ インは negative slope conductance を減少させた.リドカインが第 4,5 腰髄神経の後根神経節の持続性ナトリウムチャンネルを抑制したという 報告があるので,今回の結果から我々はリドカインが呼吸中枢においても,
一部持続性ナトリウムチャンネルをブロックすることにより作用してい ると仮定する.今回の結果は,リドカインの臨床使用量が呼吸に関する副 作用を最小限にして,侵害受容応答を抑制する神経メカニズムを裏付ける ものである.