幼児期における父親行動, 母親行動と子どもの内的 ワーキングモデル
著者 井森 澄江
雑誌名 東京家政大学研究紀要 1 人文社会科学
巻 40
ページ 225‑232
発行年 2000
出版者 東京家政大学
URL http://id.nii.ac.jp/1653/00009058/
幼児期における父親行動、母親行動と子どもの内的ワーキングモデル
井森 澄江
(平成11年9月30日受理)
Relating Paternal and Maternal Behavior to Childhood Internal Working Models
Sumie IMORI
(Received on September 30,1999)
〈目的〉
本研究は,前回の報告(紀要第39集)1)で述べたよう に,行動レベルの近接から表象レベルの近接へとアタッ チメントの発達が移行していく就学前期の,実際の親子 関係の質と,子どもの内的ワーキングモデル(アタッチ メント対象にっいてのモデルとそれと相補的に形成され ると考えられる自己にっいてのモデル)の関係および両 者と社会的コンピテンスの関連を明らかにすることを目 的としている.
前回の報告])では,親子関係のうち母子関係を取り上 げ,ドールストーリー法を用いて子どものアタッチメン トの内的ワーキングモデルの推定を試みた.しかし,用 意した4っのストーリーのうち3っのストーリーで,母 親との再会行動を主とした母子関係の質の判定とドール ストーリーの叙述にはっきりとした関連がみられなかっ た.そこで,前回用いた1998版ドールストーリーは,
全体としてはアタッチメントの内的ワーキングモデルを 推測するものとして妥当でないと考えられfe.その結果,
前回は,アタッチメントの内的ワーキングモデルとの関 連ではなく,アタッチアタッチメントパターンを中心と した母子関係の質と,自己イメージ,集団内での保育者 や仲間に対する行動傾向,仲間から受け入れられている 程度との関連の検討を行った.
1998版ドールストーリーの失敗の原因としては主に
①ストーリーの問題(なかに 留守番していると,狼が きてたべられてしまう など自分を投影させるというよ
心理教育学科 発達心理研究室
り,物語を想起させてしまうものがあった)②判定基準 の問題(日本人特有の謝る反応の判定の仕方や世界観の 無視)③ドール操作の問題(全ての被験児に同じ状況を 提示することの難しさ)があげられる.今回は③に関し てドールストーリー法ではなく紙芝居法を用い,①②を 考慮してストーリーおよび判定基準を設けた.アタッチ メントの内的ワーキングモデルを推定するものとしてこ の紙芝居法が妥当であるかを検討することが本報告の第 一の目的である.
また前回の母子関係の質との関連の分析で,対人的自 己イメージや対人行動傾向では多くの関連がみられた.
一方,仲聞から受け入れられている程度に関しては母子 関係の質との間に関連は示されなかった.これに関して は母親以外との関連を調べる必要があると考えられた.
父親祖父母,兄弟,友達,教師等,その中で今回は父 親との関係に焦点をあてる.母子関係のみでなく父子関 係と子どもの内的ワーキングモデルとの関連を探るのが 本報告の第二の目的である.ラムの家庭での観察研究で は,一歳前後に子どもは父親,母親両者にアタッチメン トを示しており,父親に親和行動をより多く行っている
(父親の体全体を使う遊びを好むため)ことがみい出さ れ,子どもに対する父親の役割の大きさが示唆された
(Lamb,19772)).日本での二歳,三歳の父親ヘアタッ チメントを調べた研究でも二歳ですでに母親や見知らぬ 入とは違った接近,接触行動を父親に対してとることが 示されている(繁多,出口,1987)3).また父親の関わり 方や父親との遊びが子どもの社会的行動に影響を与える
とする報告も多く(Kotelchuck,19764);Zelazoetal.,
19775)),父親の態度と行動の質の重要性を指摘するも
井森 澄江
のもある(Easter−brooks&Goldberg,1984)6!さらに 男子の仲間関係の研究では,幼児期に父親が温かくて養 護的であると,仲間から受容されやすく仲間関係も良好 であるとの報告もある(Lynn,1974)7!ただし,これら は主に外国の研究成果であり,そのまま日本にあてはめ ることは出来ない.また1987年の総務庁青年対策本部 の調査8)では,アメリカ,西ドイツに比べて日本では平 日父親と過ごす時間がほとんどないという子どもが多く,
過ごす時間も平均36分と最も短かった.しかし,最近 日本においても,核家族の増加,家族形態,子育てに対 する意識の変化などから父親と子どもの関わり方もかな り変化してきている.本報告では,まず現在幼稚園児を もつ家庭の父親の育児参加の程度と子どもとの接し方を 調べる.そのうえでそういった父親と子どもとの関わり 方と子どもの内的ワーキングモデルとの関連を検討して いく.また,母子関係と子どもの内的ワーキングモデル との関連を再検討し,父親,母親両面から仲間からの受 容等社会的コンピテンスとの関連にっいても考察する.
〈方法〉
対象
埼玉県内の私立幼稚園年長23名1クラス,32名1ク ラス計2クラス55名(男児29名,女児 26名,年齢 範囲5歳9カ月一6歳9カ月,平均6歳2ヵ月).
手続き
L母親への質問紙の実施
各園児の父親の育児参加の程度,日常の父親行動,父 子関係を検討するために,母親に以下に示すような質問 紙に回答を依頼した.実施時期は1999年1月中旬である.
〈母親への質問紙〉
一質問紙への回答のお願い一
この質問紙は家庭における父親の役割と父親が就学前の 子どもに与える影響を調べるためのものです.年長クラ スのお母様にご回答いただきたいと存じます.調査の結 果はこの目的以外に使用することはありません.お忙し いところ,誠に申し訳ございませんが,どうかよろしく お願いいたします. ・ 1999年1月 一あてはまる番号に○をお付け下さい.また[ ] には数字をお入れ下さい.一
クラス名[ ]組 お子さんのお名前( ︶
ご家族の構成1.祖父 2.祖母 3.父 4.母 5.兄[人]6.姉[人]7.弟[人]&妹[人]
9.その他
お父様と(年長クラスにいらっしゃる)お子さんの普段 の様子について次の質問にお答えください.なお,赤ちゃ んの頃という記述がある以外は全て現在のことでお答え 下さい.
問1 一日にお父様とお子さんが接する時間(睡眠時間 は除く)はどのくらいですか.
平日 [ ]時間くらい 休日 [ ]時間くらい
問2 お父様が帰宅された時のお子さんの様子は次のど れに一番近いですか.
1.うれしそうに出迎える. 2.その時していることを 続ける. 3.どこか別の所へいってしまう. 4.その 他(具体的にお書き下さい)
問3−1 お父様はお子さんが赤ちゃんの頃お子さんの 世話をどのくらいなさっていらっしゃいましたかまた,
現在,お子さんの世話をどのくらいなさっていらっしゃ いますか.
赤ちゃんの頃 1.よくなさった 3.全くなさらなかった
現在 1.よくなさる 3.全くなさらない
問3−2 <問3−1赤ちゃんの頃
2.たまに
2.たまに
で1または2に○
をお付けになった方のみお答え下さい〉 お子さんが赤 ちゃんの頃お父様がなさっていらした世話はなんですか 当てはまるもの全てにOをお付け下さい.
1.お風呂に入れる 2.衣服の着脱(おしめかえ含む)
3.食事の世話 4.就寝時(寝かしっけるなど)の世 話 5.その他(具体的にお書き下さい)
問3−3 〈問3−1現在 で1または2に○をお付け になった方のみお答え下さい〉 現在,お父様がお子さ んになさっていらっしゃる世話はなんですか.当てはま るもの全てに○をお付け下さい.
1.お風呂に入れる 2.衣服の着脱 3.食事の世 話 4.就寝時(寝かしっけるなど)の世話 5.そ の他(具体的にお書き下さい)
問4−1 お父様はお子さんが赤ちゃんの頃お子さんと どのくらい遊んでいらっしゃいましたか.また,現在,
お子さんとどのくらい遊んでいらっしゃいますか. 赤
ちゃんの頃 1.よく遊んだ 3.全く遊ばなかった 現在 1.よく遊ぶ 3.全く遊ばない
問4−2
2.たまに
2.たまに
〈問4−1赤ちゃんの頃 で1または2に○
をお付けになった方のみお答え下さい〉 お子さんが赤 ちゃんの頃お父様がお子さんとなさっていらした遊びは なんですか.当てはまるもの全てに○をお付け下さい.
1. たかいたかい や飛行機など身体をっかった遊び 2.絵本などで話をしたり,歌をうたったり 3.お
もちゃ(具体的に)を使った遊び 4.外(公園など)
に散歩に行く 5.その他(具体的にお書き下さい)
問4−3 〈問4−1現在 で1または2に○をお付け になった方のみお答え下さい〉 現在,お父様が,お子 さんとなさっていらっしゃる遊び(スポーツを含む)は なんですか.当てはまるもの全てに○をお付け下さい.
1. たかいたかい や飛行機など身体をっかった遊び 2.絵本などで話をしたり,歌をうたったり 3.お
もちゃ(具体的に)を使った遊び 4.外での遊び(具 体的に) 5.その他(具体的にお書き下さい)
問5 お父様と遊んでいる時,お父様の都合で遊びをや めなければならない場合のお子さんの様子は次のどれに 一番近いですか.
1.楽しかったと満足そう 2.残念そうだが納得する 3.怒ったり,泣いたり,だだをこねたりする 4.その 他(具体的にお書き下さい)
問6 お子さんに対してお父様は普段どのように接して いらっしゃいますか.対にした用語のうちの近い方どち らか一方に○をお付け下さい.なお,対の用語がどちら も全くあてはまらない場合には両方の用語を斜線/で消 して下さい.
(やさしい/こわい) (あまい/きびしい) (受容的 な/拒否的な) (支配的な/服従的な) (子どもの気 持ちを考えて/自分の気分で)
問7 お母様が父親として,お父様に望まれる(こうあっ て欲しい,こういうことをやって欲しい等)ことは何で
しょう.自由にお書き下さい.
おいそがしいところご回答いただきまして誠にありがと うございました.
2.担任教諭への質問紙の実施
自然場面における各児の母子関係を検討するために,
担任教諭に,受け持ちの園児のお迎えなど再会時の様子
(アタッチメントパターンがMain&Cassidy 1987の 安定型,回避型,両極型,統制型のどれに一番近いか),
母親の子どもに対するの日常の行動傾向等についての質 問項目(研究紀要第39集p234参照)1)に答えてもらった.
実施時期は1999年1月中旬である.
3.子どもへの個別検査の実施
幼児のアタッチメントの内的ワーキングモデルと自己 にっいてのモデルを探るため,また仲間から受け入れら れている程度を測定するために,幼稚園の園長室を借り,
個別に実施した.検査者および記録者は筆者,本大学学 部生.記録用紙とテープレコーダーを用意し,検査中に 記録用紙に子どもの言語的反応,情緒的反応,全体的態 度にっいて記録し,後テープレコーダーで補完した.実 施期間は1999年1月中旬である.
(1)ストーリー完成課題からのアタッチメントの内的ワー キングモデルの推定:各園児のアタッチメントの内的ワー キングモデルを検討するために紙芝居を用い,以下に示 す父親と子ども(被検児と同性)の登場するa,b,母 親と子ども(被検児と同性)の登場するc,dの4っの 日常場面にっいて,実験者が絵を提示しながら,子ども に話した後,子どもに続きがどうなるか話を作ってもらっ た.使用した絵は各場面2枚ずっである.なお,各場面 における父子関係・母子関係安定の反応判定基準を
(「」)に示した.
a.父親と公園に行ってブランコに乗った.座って本を 読んでいる父親の隣で高くブランコを漕いでいたらバラ
ンスを崩して落ちてしまった.(「抱きしめる,病院へ連 れていくなどして親が対応していたら」)
b.雨の休日,家で新聞を読んでいる父親の傍で,ボー ル遊びをしていたら,ボールが逸れて窓ガラスが割れて
しまった.(「ガラスが片付けられ親の怒りが激しすぎな
ければ」)
c.母親とデパートに買い物に行った.とても混んでい て気付いたら母親の姿がどこにも見えない.(「探すな ど親または子どもがなんらかの対処をしていたら」)
d.台所で仕事をしている母親の傍で,おやっを食べよ うとしてお皿に手を延ばしたとたん手が滑ってお皿が割 れてしまった.(「皿が片付けられ親の怒りが激しすぎな ければ」)
井森 澄江
(2)子どものもつ自己イメージ(自己についてのモデル)
の測定:各児にパペットインタビュー法,セルフインタ ビュー法を用い,前回の報告(研究紀要第39集pp235−
236参照)Dで不必要不適当とおもわれた項目を除き,
以下に示すような質問を行った.
〈パペットインタビュー〉かえるの手使い人形を使う.
かえる人形パペット君は聞き取りはできるが,かえる語 しか話せない.人形パペット君を操作しながら,実験者 は『パペット君に』その子どもにっいてどう思っている かにっいて質問を向け,答えさせる.その後で実験者は
『子どもに』パペット君はなんと言ったと思うか質問す た(子どもは「他者は自分についてこう思っているだろ う」と想像して答えることになる).
1「パペット君は○○ちゃんのことが好きですか,嫌い ですか.」/子どもに「今なんて言ったかな.」「どうし てそう思っていると思う.」
2「パペット君は○○ちゃんとお友達になりたいかな.
なりたくないかな.」/子どもに「今なんて言ったかな.」
「どうしてそう思っていると思う.」
3「パペット君,○○ちゃんの良いところはどんなとこ ろかな.」/子どもに「今なんて言ったかな.」
4「パペット君,○○ちゃんの厭なところはあるかな.
あるとしたらどんなところかな.」/子どもに「今なん て言ったかな.」
〈セルフインタビュー〉 「これから○○ちゃんにっい て質問しますから,思ったとおりに答えてね.」と教示
し,次の質問を行った.
1「○○ちゃんは大勢の友達と遊ぶのとひとりで遊ぶの とどちらがすきかな.」
2「○○ちゃんはお友達が遊んでいるのを見たら,仲間 に入っていけますか.」
3「知らない子が仲間に入れてといってきたら,○○ちゃ んはどうしますか.」
(5)仲間から受け入れられている程度の測定
各児がクラスの友達から選択されている程度を知るた めにくソシオメトリックテスト〉を行った.具体的には
「このクラスで好きなお友達を3人言ってください.」と
(選択のみ)たずねた.
〈結果〉
(1)父親の育児参加の程度,日常の園児の父親行動,
55名中5名の母親からは家庭の事情などにより回答 を得ることは出来なかった.以下は50名の母親から得 られた回答(ただし,うち1名の家族構成員に現在父親 含まれず)の分析結果である.
1 一日に父親と子どもが接する時間
表1に示す通り平日0−5時間,休日0−24時間の 表1 父親と子どもが接する時間
時間 平日 時間 休日
0満125
未 〜 1 0Q8%
19%
27%
15%
31%
36902344 〜〜〜11112047ー 9%
21%
17%
11%
26%
6%
6%
4%
なお,各児への提示は,〈パペットインタビュー〉,
〈紙芝居によるストーリー完成課題〉,〈セルフインタ ビュー〉〈ソシオメトリックテスト〉の順で行った.
数値は全体に占める割合 範囲であった.平日に関しては平均1.9時間,中央値は
1時間,3〜5時間が約3割,一方で全く接する時間の ない父親が2名(8%)いた.1987年の調査の平均36分 に比べて,接する時間は大幅に増えている.また休日に 関しては平均16時間,中央値は10時間,12〜24時間が 52%,なお全く接する時間のない父親が1名いた.1987 年の調査に比して接する時間は急増しており,現在子ど もと父親の接する時間はかなり多い,ただし家庭による 差も大きい.
2 父親の育児行動
乳児期全く世話をしていなかったのは6%,残りの94
%は世話をしていた.44%については「よくしていた」
表2 父親の育児行動の内容とそれをした割合 乳児期 就学前期 お風呂
衣服の着脱 食事 就寝時 その他
(遊び
86%
50%
44%
42%
2%
14%
90%
10%
8%
28%
10%
22%)
と母親から評価されている.就学前期にあたる現在全く 世話をしていないのは,父親が現在同居していない1名 のみ,残りの98%は世話をしている.46%は「よくし ている」と母親から評価されている.
育児行動の内容については表2に示す通り.
3 父親の遊び行動
乳児期全く遊ばなかったのは4%,96%が遊んでお り,40%については,「よく遊んでいた」と母親から評 価されている.就学前期にあたる現在,父親が現在同居 していないケースも含み,全員が遊んでいる.46%は
「よく遊んでいる」と母親から評価されている.遊び行 動の内容にっいては表3に示す通り.
みを「安定型」と分類する.なお,「安定型」33名のう ちの26名は配慮的かっ受容的と評定されている.
(3)母子関係の質,母親の接し方
担当教諭の回答の全体的結果を母子の相互交渉に関す る子どもの行動と母子の相互交渉に関する母親の行動に 分け表5−1,表5−2に示した.
子どもの行動に関して(表5−1)再会時うれしそう 表5−1 子 ど有 も の行 動無
欠損値
分離不安 5 43 7
再会時の様子 はい いいえ
うれしそう 54 1
表3 父親の遊び行動の内容とそれをした割合 乳児期 就学前期 身体遊び
絵本,歌 おもちゃ 外遊び その他
80%
30%
32%
68%
6%
46%
26%
40%
78%
18%
Main&Cassidyの分類
安定型 回避型 両極端 統制型
8ΩUQJ1
4
乳児期,就学前期とも父親との遊びには身体遊び,外 遊びが多い.乳児期には身体遊びが最も多く,就学前期 にはそれが減り,外遊びが最も多くなっている.
現在の父親はかなり育児に参加したり子どもと遊んで いる.内容をみるとお風呂の世話や身体:遊びが多く,子 どもとスキンシップをとっていると考えられる.
(2)父親の接し方,父子関係の質
母親から得られた回答の結果,父親の帰宅時に回避的 または両極的,統制的と考えられる行動をとるものはお らず,不安定と判定される者はいなかった.
接し方の評定を表4に示した.半数以上を占めるのは 表4 父親の接し方とそのような接し方をする割合 優しい あまい 受容的 支配的 配慮的
80% 42% 72% 14% 58%
こわい 厳しい 拒否的 服従的 気分的
16% 40% 2% 18% 28%
数値は該当する人数
*サマーキャンプに不参加のため
と評定されない子どもは一名(「人の倍照れ屋のため,
自分の気持ちを言葉や身体を使って表現することが不得 意の様である」と担当教諭からコメントされている)で あった.サマーキャンプではっきり分離不安を示した子 どもは5名であった.ただし,今回は7名がサマーキャ ンプに参加していないことから,分離不安に関しては分 析項目から除く.Main&Cassidyの分類による評定 の結果は安定型一48名,回避型一3名,両極型一3名,
統制型一1名であった.
一方,母親の行動一接し方の評定一を(表5−2)に 表5−2 母親の接し方とそのような接し方をする割合
応答的 非侵害的
95% 75%
非応答的 侵害的 5% 25%
非視線担否
98%
視線拒否 2%
的%的%
悪3悪7
嫌9嫌非
優しい,受容的,配慮的な接し方である.しかし,この 接し方の評定を個別に見ると17名の父親に問題がみら れた.すなわち気分的な11名,恐怖的な4名,恐怖的か っ気分的な1名,拒否的恐怖的かっ気分的な1名であっ た.そこで父子関係の質に関して,問題のない33名の
(完全二者択一法)
示した.ほとんどの母親が子どもと一緒の時楽しそう
(非嫌悪的)で,子どもの話をうなずきながら聞いてい る(応答的).また,子どもとあまり目をあわせない(視 線拒否)母親はほとんどいないが,子どもの気持ちを考 えずに,自分の思うとおりにさせようとすることが多い
井森 澄江
(侵害的)母親は全体の1/4を占める.
Main&Cassidyの分類型と母親の行動との関係を 表5−3に示した.安定型一48名のうちの12名の母親 表5−3 Main&Cassidyの分類型と他の評定との関係 安定型 回避型 両極型 統制型 子ども再会時
うれしそうでない 母親 非応答的 侵害的 視線拒否的 嫌悪的
3冷
1r
1顕 2ゆ
1
1
1 2
1
数値は該当する人数(*は重複している)
の接し方に問題が見られた.すなわち,接し方が侵害的 な8名,侵害的かっ非応答的な2名,嫌悪的かっ視線拒 否1名,嫌悪的かっ非応答的かっ侵害的な1名.また,
回避型一3名のうち2名は各々は侵害的,嫌悪的,両極 型一3名のうち2名は侵害的,統制型一1名は嫌悪的と 評定されていた.なお,子どもの行動に関して,再会時 うれしそうと評定されなかった1名の子どもは,回避型 であり,母親の接し方は嫌悪的であった.そこで,問題 のない安定型36名のみを「安定型」,それ以外の19名 を「それ以外」に分類する.
(4>父子関係の質の評定,母子関係の質の評定とストー リー課題によるアタッチメントの安定性との関連 ストーリー反応の判定基準にしたがって,少なくとも
a,bどちらかが安定に判定されるものを父子関係安定 とした.その結果38名が父子関係安定,17名が不安定 と分類された.また,少なくともc,dどちらかが安定 に判定されるものを母子関係安定とした.その結果38 名が安定,17名が不安定と分類された.また,父子母
子関係とも安定は32名,父子母子関係とも不安定は11 名,父子安定,母子不安定6名,父子不安定,母子安定 6名であった.質の評定とストーリーでの関係の関連を 検討するため,表6に示すように各々を2群に分けクロ スさせ2x2のX2検定を行った結果,父子関係,母子 関係ともに,有意な関連がみられた(各々p〈.10).
(5)ストーリー課題によるアタッチメントの安定性と 自己イメージとの関連
自己イメージの項目のうち,分からないと答える子ど もが多かった項目などは分析の対象からのぞいた.今回 分析したのは,パペットインタビュー1(項目1)2
(項目2)セルフインタビュー2(項目3)である.自己 イメージの各項目とストーリーでの関係の関連を検討す るため,表7に示すように各々を2群に分けクロスさせ
表7 ストーリー課題によるアタッチメントの安定性と自己イメージとの関連
自己イメージ 項目 1.自分が好き
嫌い
項目 2.友達になりたい なりたくない 項目 3.仲間にはいれる はいれない
ストーリー課題での関係
父子安定 不安定 母子安定 不安定
28 8 26 10 10 9 12 7 30 11 28 13 8 6 10 4 32 13 34 11 6 4 4 6
表6 父子関係,母子関係の質とストーリー課題による アタッチメントの安定性との関係
ストーリー課題での関係 不安定
数値は該当する人数 2×2のX2検定を行った結果,項目1と父子関係(p〈
.10)項目3と母子関係(p〈.05)とに有意な関連がみら
れた.
⑥ 仲間から受け入れられている程度と父子関係,母子 関係,アタッチメントの内的ワーキングモデル ソシオメトリックテストの結果,各園児の被選択数は,
0〜7の範囲であった.父子関係,母子関係の組み合わ せと仲間から受け入れられている程度の関係を表8に示
質の評定 父子関係「安定型」
それ以外
母子関係「安定型」
それ以外
父子安定
26
12母子安定
28
10
7
10
不安定
表8 父子・母子の安定それ以外の組み合わせとソシオメトリ ックテストによる仲間からの受容度との関係
父子母子 孤立児・周辺児仲間からの受容度が高い者
80U
○ ○ (n=24)
O X(n=9)
X O (n=12)
X X(n=10)
4(17%)
5(56%)
3(25%)
8(80%)
5(21%)
0 3(25%)
1(10%)
(○は安定型,×はそれ以外)
数値は該当する人数 数値は該当する人数
した.孤立児,周辺児は父親関係「安定型」で9名(27
%),それ以外(回答なし含む)で11名(50%)であった がx2検定で有意差はみられなかった.母子関係の観点 からみると「安定型」で8名(22%)なのに対し,それ 以外で13名(72%)であり,有意差がみられた(p<.01).
また,相互選択2かっ被選択数4以上の(仲間からの受 容度の高い)者は父親関係「安定型」で5名(15%),そ れ以外で4名(18%)であった.母子関係では「安定型」
で8名(22%),それ以外で1名(6%)であったが,共 に有意差はみられなかった.
父親母親に対する内的ワーキングモデルの組み合わ せとの関係を表9に示した.孤立児,周辺児は父親に対
表9 父親。母親に対する内的ワーキングモデルの安定,不安定の紹み合 わせとソシオメトリックテストによる仲間からの受容度との関係
父子母子 孤立児・周辺児仲間からの受容度が高い者
○ ○(n=32) 10(31%)
O x (n= 6) 3(50%)
× ○ (n=6) 4(67%)
× x (n=11) 3(27%)
4(13%)
0 2(33%)
3(27%)
(○は安定,×は不安定) 数値は該当する人数
する内的ワーキングモデル安定で13名(34%)不安定で 7名(41%)であり,X2検定で有意差はみられなかっ た。また母親に対する内的ワーキングモデル安定で14 名(37%),不安定で6名(35%)であり,X2検定で有 意差はみられなかった.また,相互選択2かっ被選択数 4以上の(仲間からの受容度の高い)者に関しても父親 に対する内的ワーキングモデル安定で4名(11%),不 安定で3名(18%)でX2検定で有意差はみられなかっ た.また母親に対する内的ワーキングモデル安定で6名
(16%),不安定で3名(18%)であり,有意差はみられ なかった.
〈考察〉
1 父子関係・母子関係の質の評定と紙芝居法によるス トーリー課題
再会時の様子と日常の接し方から判定した父子関係・
母子関係の質の評定と紙芝居法によるストーり一課題で の関係との間に関連が認められ,アタッチメントの内的 ワーキングモデルを推定する方法として,今回のストー リーはほぼ妥当だと考えられる.ただし父子関係の質を 判定するために,今回は母親に対する質問紙を用いたが,
より客観的な方法を用いる必要があるかもしれない.
2 アタッチメントの内的ワーキングモデルと自己イメ ージ
紙芝居法によるストーリーの父子関係・母子関係と対 入的自己イメージの一部に関連がみられた.すなわち
他者からの受容(相手は自分が好き)と父親へのアタッ チメントの内的ワーキングモデル また, 対人積極性
(仲間にはいれる)と母親へのアタッチメントの内的ワー キングモデル が関係していた.一部ではあるがアタッ チメントの内的ワーキングモデルと自己の内的ワーキン グモデルの相補性が示唆される.
3 アタッチメントの内的ワーキングモデルと仲間から 受け入れられている程度
父親に対する内的ワーキングモデルとも母親に対する 内的ワーキングモデルとも仲間から受け入れられている 程度と関連がみられなかった.ただし母子関係の質とは 一部に関連がみられた.すなわち母子関係が「安定型」
だとそれ以外に比べて,ソシオメトリックテストでの孤 立児,周辺児が少なかった.ただし仲間から受け入れら れている程度と母子関係にっいては前回は関連がみられ なかった.この一貫性のなさは仲間から受け入れられて いる程度がクラスの担任のクラス運営方針にある程度関 連することを示唆しているのかもしれない.前回,今回 とも2クラスをまとめて,アタッチメント対象との関連 を検討したが,クラスごとに関連を検討することが必要 であると思われる.また仲間経験,仲間との類似性など を検討する必要もあると思われる.
4 子どもと父親の関係,父親の役割
今回の母親に対する調査の結果は,1987年の総務庁青 年対策本部の調査とはかなり様相が異なっていた.現在 の父親は子どもと接する時間も大幅に増えているばかり でなく,積極的に子どもに関わっている.今回のストー
リー課題から推定されるアタッチメントの内的ワーキン グモデルでは,父親に対してと母親に対してとで,安定 した内的ワーキングモデルをもっ子どもの数は同数(55 入中38人,このうち32人は父親。母親共に安定)であっ
た.幼児期において父親が,母親と同様,子どもの情緒 面に直接的に大きな影響力をもっことが示唆される.
なお父親の接し方は半数以上が優しい,受容的,配慮 的であった.母親の接し方ではほとんどが応答的で子ど もと一緒の時楽しそうだが,子どもの気持ちを考えずに,
自分の思うとおりにさせようとすることも多いことが示
された.
井森 澄江
〈要約〉
父子関係・母子関係の質の評定とストーリー課題での 関係との間に関連が認められ,アタッチメントの内的ワー キングモデルを推定する方法として,今回のストーリー はほぼ妥当だと考えられた.また,ストーリーの父子関 係・母子関係と対人的自己イメージの一部(他者からの 受容・対人積極性)に関連がみられ,アタッチメントの 内的ワーキングモデルと自己の内的ワーキングモデルの 相補性が示唆された.なお仲間から受け入れられている 程度に関しては母子関係の質との間に一一一一部関連はみられ たものの,父親に対する内的ワーキングモデルとも母親 に対する内的ワーキングモデルとも全く関連がみられな かった.これに関してはクラスの担任のクラス運営方針 にある程度関連していると考えられ,これまでおこなっ ているようにクラスをまとめて,アタッチメント対象と の関連を検討するのではなく,クラスごとに関連を検討 することが必要であると思われた.なお,今回の母親に 対する調査とストーリー課題の結果から幼児期において 父親が,母親と同様に,子どもの情緒面に大きな影響力 をもっことが示唆された.
〈謝辞〉
本研究ではM幼稚園の園長先生,理事長先生,主任先 生を始め諸先生,保護者の方のご協力を得ました.お忙 しい中,多くのご助言をくださいました園長先生,理事 長先生,主任先生,多数の質問項目にお答えくださいま
した諸先生,お母様方そして沢山のことを教えてくれた 園児の皆様に感謝いたします.
〈引用文献〉
1)井森澄江[1999]就学前児の社会的コンピテンスと 愛着表象との関連を探る試み 東京家政大学研究紀 要第39集(1),233
2)M.E. Lamb[1977]Father−infant and mother−
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Child 1)evelopment,48,167
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研究成果報告書,1
4)M.Kotelchuck(1976)The infant relationship to the father:Experimental evidence.ln M.E.
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