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思春期の子どもをもつ母親の夫婦ペアレンティング調整―父親の語りから―

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全文

(1)

調整―父親の語りから―

著者

加藤 道代, 神谷 哲司

雑誌名

東北大学大学院教育学研究科研究年報

68

1

ページ

121-142

発行年

2019-12-26

URL

http://hdl.handle.net/10097/00126991

(2)

 思春期の子どもをもつ母親は,父親に対してどのような夫婦ペアレンティング調整を行っている のかについて,6名の父親を対象とした半構造化面接を行った。特に,拒否・否定・非難を中心とし た “ 批判 ” と,支持・尊重・激励を中心とした “ 促進 ” について語りを収集した。その結果,父親に 認知される母親の促進的調整は,「子どもの言葉や気持ちを代弁する母親」「父子接触の機会をアレ ンジする母親」「父親に子どものことで相談・依頼する母親」「父親を立てる母親」と分類され,いず れも父子関係の仲介機能を果たしていた。一方,批判的な夫婦ペアレンティング調整は,「父子衝 突への割り込みとしての母親」「父親の対応に対する制止・修正者としての母親」「子育てに関する 考え方の違いを間接的に示唆する母親」であった。いずれも子どもの行動に連動して生じる父母の 相互関係であるため,今後は,母親の視点を併せて検討することが必要である。 キーワード:コペアレンティング,夫婦ペアレンティング調整,父親,批判,促進

問題と目的

 乳幼児の子育ては,新しい知識やスキルの獲得に加えて,夫婦中心だったそれまでの生活を子ど も中心へと修正することが迫られる。このため,子育てを行う親の不安や悩みを軽減するための様々 な支援やサービスが用意され,乳幼児をもつ親たちに利用されている。  それでは,その後の子育てには悩みはないかというと,決してそうではないだろう。特に思春期, 青年前期の子どもをもつ親は,子どもの反抗期に対する対応に加えて,進学,進路等,子どもの将来, それに関わる学校の成績に関することも具体的な問題となっている。高校1年生の保護者に子育て の負担や悩みを尋ねた調査では,「子育ての出費がかさむ」で59.1%,「子どもの将来(進路など)に 関すること」で53.3%(父親59.7%,母親47.1%),「子どもの成績に関すること」では24.8% の保護者 が該当するとしている(中央調査社「家庭や学校における生活や意識変化に関する調査」2015)。ま た近年は,インターネットや SNS におけるトラブル,小学校から中学校への移行の問題(中1ギャッ プ),学校や部活動内での人間関係ストレスやいじめ,不登校問題など,思春期の子どもたちをとり まく現代特有の背景に不安を感じる親も多いことが推察される。

思春期の子どもをもつ母親の夫婦ペアレンティング調整

―父親の語りから―

加 藤 道 代

* 

神 谷 哲 司

**  *教育学研究科 教授 **教育学研究科 准教授

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 一方,子ども側からみた思春期は,親への依存と自立の葛藤期である。親としては,場面ごとに,「子 どもの甘えを許容するのか,主体性を尊重し自立促進をすべきか,あるいは厳しい統制が必要か」と 迷い,児童期までに構築された親子関係のあり方は揺さぶられ,修正を迫られることになる。乳幼 児期が子育ての最初期として,親が試される時期であるのと同様に,思春期の子育てもまた,親が 戸惑い揺り動かされる時期となる可能性は高いと言えよう。  夫婦が力を合わせて子育て危機を乗り越えられるか否かは,その後の夫婦関係や親子関係にも及 ぶ,親発達の重要な課題である(加藤ら,2016)。しかし,「親であることによる発達」の研究は,乳 幼児期・児童期に集中しており,思春期・青年期については,子どもの視点から親の養育態度を回答 する研究は見られるものの(内海.2013),親がとらえる子どもの変化と親発達に関する研究は少な い。また,家族システム論では,「母子関係」と「父子関係」に影響を与える「父母関係(コペアレンティ ング:coparenting)」が想定されている。コペアレンティングは,「親が親としての役割をどのよう に一緒に行うか,どのくらい親がもう一方の親の努力をサポートするか否か(Feinberg, 2003)」と 定義され,夫妻関係とは区別される(Cowan & McHale, 1996)。しかし日本においては,夫婦関係 と子どもの発達の関連が取り上げられることは多いものの,父母関係(以下,夫婦ペアレンティング) に関しては未だ十分な知見の蓄積がない。  著者らによる夫婦ペアレンティングの先行研究では,母親は父親に対して,支持・尊重・激励を中 心とした “ 促進 ”,および,拒否・否定・非難を中心とした “ 批判 ” を行っており,母からの “ 促進 ” の高さは,父親の子ども関与,育児協働感および夫婦関係満足の高さと関連し,“ 批判 ” の高さは, 父親の関与,育児協働感や夫婦満足感の低さと関連していた。また,幼児期,児童期に比べて,思春 期,青年期は母親の “ 促進 ” が減少しており,夫婦ペアレンティングは,子どもが思春期の間になん らかの転換があることが推察されている(加藤ら,2014)。  ところで,ここで用いられた夫婦ペアレンティング調整尺度は,米国で作成された原尺度の日本 語版であり,十分な信頼性と妥当性が確認されたものである(加藤ら,2014)。しかしながら,日本 の子育て文化において,どのような日常の子育て文脈にみられる調整(行動)なのかについての十分 な吟味はなされていない。また,原尺度は乳幼児をもつ夫婦のペアレンティングに関して作成され ているが,日本語版ではこれを末子年齢4群(0―5歳,6―11歳,12―17歳,18―21歳)においても使 用可能なものであることを確認した。これにより,乳幼児期,児童期,思春期,青年期の各子育て期 についても,母親による夫婦ペアレンティング調整行動としての促進,批判が行われていることが 明らかとなっている。しかし,冒頭にも述べたように,子育ては子どもの発達段階によってその様 相を異にするため,思春期の夫婦ペアレンティング調整の背景については,必ずしも明らかではな い。特に,思春期の子どもにおける自己表現や自己主張の拡大を考慮すると,子どもの存在が夫婦 ペアレンティング調整に影響を与えている可能性を看過することはできないだろう。  これらを踏まえて,本研究は,思春期の子どもの発達的変化や問題を含めた思春期の子育てにお いて,母親が父親に働きかける夫婦ペアレンティングについて明らかにしようと考えた。特に本稿 では,母親から父親にむけた拒否・否定・非難を中心とした “ 批判 ” と,支持・尊重・激励を中心と

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した “ 促進 ” について,父親がとらえるエピソードを抽出しまとめる。その際,思春期の子どもの 存在が,どのように夫婦ペアレンティングに関わっているのかについても注目しながら,思春期の 子どもをもつ家族ダイナミクスを明らかにする。子どもが思春期を迎えることにより,夫婦ペアレ ンティングはいかなる修正を迫られているのかに関して,日常生活の文脈とともに描写することを 通じて,より具体的,実際的な親支援への一助としたい。

方 法

1.調査方法と分析対象者  第一子が14,15歳の子どもをもつ父親6名(男児の父親3名,女児の父親3名)を対象に半構造化 面接調査を行った。対象者は,第一子年齢と性別を条件として,(株)クロスマーケティングのリサー チ専門データベースの登録モニターから選定された。このため,面接者(第一筆者と第二筆者)は, いずれの対象者とも,調査時以前の面識はなく,調査時回答以外の個人情報をもたない。調査は 2015年10月に実施され,調査に協力をしてくれた回答者には,調査会社を通じてモニターポイント が付与された。 2.調査内容と手続き  父親の子育て関与に対する母親からの働きかけを検討するために作成された夫婦ペアレンティン グ調整尺度(6件法:加藤・黒澤・神谷(2014))は,母親版,父親版ともに,支持,尊重,激励を中心と した “ 促進 ”(9項目)と,拒否,非難を中心とした “ 批判 ”(7項目)からなる。本調査では,このう ち父親版を,調査協力者の父親に回答してもらった後,“ 促進 ” と “ 批判 ” のそれぞれから,日常の 子育て場面で思い当たる数項目を選んでそのエピソードを語ってもらった。その際,母親の批判行 動が生じる経緯,父親の対応,エピソードの過程における子どもの様子,父母の感情,意図等を明ら かにするため,面接者(第一著者)より適宜発問を加えた。面接内容は,IC レコーダに録音し文字 化してまとめ,エピソードのまとまりごとに抽出し,その内容を分類した。 促進項目は「あなたの妻は,あなたが子どもにかかわるのを励ましたり,促したりするために,次の ようなことをどのくらい行っていますか ?」,批判項目は「あなたの子どもへのかかわりが,妻にとっ て納得できないようなとき,妻はあなたに対して次のようなことをどのくらい行っていますか ?」と いう教示で回答を求めた。項目は以下のとおりである。  促進項目   E1 あなたに相手をしてもらっていることで,子どもがとても喜んでいるとあなたに伝える。   E2 子どもの相手をしてくれてありがとうとあなたに伝える。   E3 あなたがよい親だということを,あなたが聞いているときに他の人に伝える。   E4 あなたが一人で子どもとかかわる時間を持てるようにする。   E5 あなたをほめる(例「あなたは私より子どもの相手がうまい」)   E6 手を貸してくれるようにあなたにお願いする。

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  E7 子どものことについて,あなたの考えを尋ねる。   E8 あなたと子どもが一緒に過ごせるように手配や準備をする。   E9 「あなたはよいお父さんだ」とあなたに伝える。  批判項目   C1 子どもに対するあなたのかかわりで気に入らない行動を他の人に話す。   C2 あなたがやっていることを取り上げて,妻が自分のやり方でやる。   C3  あなたに対して怒っていることやいらいらしていることを,あなたに対する態度や表情に 表す。   C4 「あなたのしたことは間違っていると思う」とあなたに言う。   C5 「お父さんおかしいよね」と子どもに向かって言うことで,間接的にあなたに伝える。   C6 あなたを非難する(例「子どもの気持ちがわからないの ?」)   C7 ムッとして,あきれた顔をあなたにむける。 3.倫理的配慮  本研究は東北大学大学院教育学研究科研究倫理審査委員会の審査と承認を得て行われた(承認番 号15-1-016)。

結 果

1.夫婦ペアレンティング調整尺度の得点と語りに選ばれた項目(表1,表2)  促進については,多様な項目が選ばれた一方で,批判については,選定項目に偏りがみられた。 特に,C4「「あなたのしたことは間違っていると思う」とあなたに言う。」と,C7「ムッとして,あき れた顔をあなたにむける。」が多く選ばれている。各自の平均点は,促進の場合は2.46-4.44であり, 批判は1.71-3.43であった(得点範囲は1-6)。  本調査の目的は,項目の個別性を区別することではなく,促進的あるいは批判的夫婦ペアレンティ ング調整のエピソードを抽出することであった。対象者は,ある尺度項目を取り上げてそれを継起 に語るように教示されるが,語りは複数項目にまたがる内容に展開していくことが多かった。この ことは,促進尺度,批判尺度ともに,項目間に中程度から強い相関が見られるという先行結果(加藤 ら,2014)に矛盾しない。そこで,以後の分析は,対象者が選定した項目にかかわらず,語られた内 容全体を詳細に見ることで浮かび上がる,父親と子どもそれぞれの行動に対する母親の調整機能と いう視点から分類を進める。

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2.中学生親子のコミュニケーションに関する背景  最初に,語りの中から,夫婦ペアレンティング調整の背景にある中学生の生活の様子と家族との コミュニケーションの実態として挙げられた部分をまとめる。なお,協力者はいずれも,「勉強」「成 績」「進路(受験)」「部活」「娘か息子か(性別)」に関するエピソードを頻繁に語っており,これらの テーマが父子の接点を理解する上で重要であることがわかった。  #1では,子どもの生活時間の様子と,短い時間の中での親子のコミュニケーションの様子が典型 的に語られている。また #2~5では,子どもの性別による関わりの違いに言及されている。特に, 娘(女子)は母親とは仲が良く父親とは距離があると語られることが多かった。(エピソード中の下 線は筆者による)。 #1 中学生の生活は,基本的には朝も早く出てって,学校行ってそのまま部活に行って,帰ってくるのが7時くら いで,ご飯食べると,少し勉強してるかテレビ見てるかっていう感じ。場合によってはご飯食べずにそのまま寝 ちゃったりしてるんで。子どもとの接点って,「寝ないで勉強しろ」とか「お風呂入れ」だとかそういうことばっ かり言ってるような感じ。妻が,例えば「弁当箱,出せ」だとか「水筒,出せ」だとか「最低限,それくらいやれ」っ て言ってるのに,それもやらずに部屋に入って寝ちゃったりしてるんで。で,そこら辺のとこで結構子どもと妻 の間で言い合いになったりしてるんですけど,私の方がガッと言ったりしても,あんまり子どもの方からは言い 返してくる事ってなくて,どちらかと言うとそのまんま従ってるって感じ(U) 表1 「母親による促進的夫婦ペアレンティング調整(促進 E1 ー E9)」に関する父親の語りの生起 対象者 子性別 子年齢 促進平均 E1 E2 E3 E4 E5 E6 E7 E8 E9 U 女子 14 3.33 〇 〇 〇 V 男子 15 2.89 〇 〇 W 女子 15 3.67 〇 〇 〇 〇 〇 X 男子 14 2.67 〇 〇 Y 男子 15 4.00 〇 〇 〇 〇 〇 Z 女子 15 4.44 〇 〇 〇 語りの契機に選択した項目を〇で表している。 促進の得点範囲は1~6。 表2 「母親による批判的夫婦ペアレンティング調整(批判 C1 ー C7)」に関する父親の語りの生起 対象者 子性別 子年齢 批判平均 C1 C2 C3 C4 C5 C6 C7 U 女子 14 2.00 〇 〇 〇 V 男子 15 2.43 〇 W 女子 15 2.29 〇 〇 〇 X 男子 14 3.43 〇 〇 Y 男子 15 1.71 〇 〇 Z 女子 15 2.71 〇 語りの契機に選択した項目を〇で表している。 批判の得点範囲は1~6。

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#2 下は女の子なんですけど,上の子(男子)の方が素直かなあ。下は,最近ちょっと生意気です。女の子だから余 計,父親に対してはね。だんだん嫌われる時期になってくるんでしょうから。しょうがないのかな。やっぱ男 の子の方が育てやすいっていうか接しやすいですね。男同士で,気持ちもわかるし。(V) #3 (母娘は)女同士なんで,その辺で多分,分かり合えることってあると思うんですよ。だからもう,ほんと趣味 なんかはほとんど一緒で。で,私なんか,やっぱり,男なんで。恐らくそれが息子だったとしたらまた違った展 開になると思うんですけど。(W) #4 妻と娘は,まあ今日なんかも仲良く図書館行ったりとか買い物行ったりとかしてるみたいですけど,もう今は 本当に,私は私。まあ仕方ないかなっていう風には思ってます。子どもに対してはもう,手がかからなくなって きたのかな。以前と違って,だんだん本人の趣味嗜好みたいなのが成長するにつれて変わってきている。やっ ぱりそうなっていくと,どっちかっていうともう私が介入せずに。母親と娘みたいな感じ。妻と娘で共通の趣 味的に仲良くやっているので。(W) #5 上(の子)が中3の女の子で,下が小5の男の子なんですね。年齢と性差のことは,嫁さんからすごく言われてて。 「男の子はやっぱわかるからなのか,ちゃんと向き合っているよね。女の子の方は,向き合わないようにしてい ない ?」と指摘されます。だから逆に言うと無関心にならないように,「一緒に買い物行ったらどう ?」とか,嫁さ んは逆に積極的にさせようとします。やっぱ女の子の方は,女の親がどうしても本当は合うんだろうなあと。 でも,だから(妻と娘が)ぶつかっているんだろうな。男の子と男親って,まあ “ あうん ” の呼吸になる。女の子 に対しての甘さっていうのは,お金みたいな,わかりやすい形の甘さになっちゃう。(Z) 3.促進:父親の認知する,母親による父親への促進的夫婦ペアレンティング調整について ⑴子どもの言葉や気持ちを代弁する母親(U,W,X,Y,Z)  特に,「E1 あなたに相手をしてもらっていることで,子どもがとても喜んでいるとあなたに伝 える。」および「E2 子どもの相手をしてくれてありがとうとあなたに伝える。」によって語られたエ ピソードからは,子どもの代弁者あるいは “ 通訳(#8)” としての母親の姿が浮かんだ。そこでは, 父親が子どもに関わることに対する母親自身の嬉しさや感謝と,子どもが父親の関わりを喜んだこ とに対する母親の嬉しさが混じり合い,両者は一体となっていることがうかがえた。母親からそう した報告を受けると,父親自身も母親の嬉しさと子どもの嬉しさの両方を感じていた。 #6 部活で試合があるときに,メガネ忘れて持ってきてくれと,土曜日の朝7時半くらいに電話かかってきて,で, 面倒くさいからいいかなあとも思ったんですけど,さすがにちょっとかわいそうかな ? と思って,届けてあげた ら,あとからやっぱ,「(子どもが)持ってきてもらってすごく感謝してた,喜んでいたよー」と,妻から言われた。 子どもは普段あんまり親に対してありがとうとか言わない。当然と思ってるような感じなので。そういう意味 では珍しいなーっていうことで,私も嬉しかったし妻も喜んでいた。(U)

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#7 子どもの自転車がパンクしてそれを直したときとか,子どもと一緒にサッカーを見に行って,そのチームの グッズを買うとか。よく後で妻から「喜んでたよ」「ありがとう」とか言われる。やっぱり子どもが喜んでいれば, それは嬉しいですよね(Y)。 #8 いろんなことがあって子どもが不機嫌だったりしてもですね,後でやっぱりちゃんと子どもの反応を,嫁が伝 えてきます。(子どもは)男親には直接言わなくて,不機嫌だったりする時もあるんですけど,それを真に受ける なっていう意味で。嫁は「本当は嬉しいんだよ,普通に」って。「不機嫌なわけじゃなくて,照れ隠しなのよ,女 の子だから。素直に言えないんだよ」っていう感じで,嫁さんが通訳をしてくれる(Z) ⑵父子接触の機会をアレンジする母親(V,X,Y,Z)  主として「E4 あなたが一人で子どもとかかわる時間を持てるようにする。」および「E8 あなた と子どもが一緒に過ごせるように手配や準備をする。」をきっかけに語られたエピソードからは,積 極的に父親を子どもに関わらせるための機会をアレンジし,それがうまく運ぶように準備する母親 の姿が浮かび上がる。このような母親の調整行動については,父親と子どもの接触を増やしたいた めであると同時に,母親自身が自由時間をもちストレスを解消する意味もあるのではないかと言及 する父親もあった。また,日頃から子どもに関する情報を父親に伝え,子どもに関心をもって会話 が出来るように配慮する母親の姿についても語られている。 #9 私が休みの日なんかに,あえて女房一人で買い物に出かけて,私が子どもたちと一緒に居れるようにっていう か。まあ,最近は子供が遊びに行っちゃうんですけど,子どもがいるときは割と,子どもと私とで,っていう感 じの時間が持てるように。多分,女房が自分も息抜きもしたいんでしょうから,そんなのもあってだとは思うん ですけども。女房が自分の時間が持てればストレス解消にもなるし,いいことだと思うんで。口には出さない ですけど,まあ多分感謝してんのかなーって感じはしますけど。(V) #10 最近は思春期になって,何も会話しなくても1日過ごせたり,極端に言えば1週間会わなくても大丈夫ぐらい になってますけど,極力嫁さんは,話ができるようにしよう,そういうのを積極的に働きかけて,仲裁じゃない けど,やってくれてるんで。いい意味で奥さんが活躍してくれてるなと思います。だから多分,何もしなかった ら(自分と娘は)喋んなくても済む。中学生なんで。娘が友達同士とかでどこかに出かけて,甘えて「帰りのお 迎え来てよ」みたいな時なんか,嫁さんは「あなた一人で行きなよ」って。で,車の中で2人で話す時間を持たせ たりですね。(Z) #11 遅く帰ってきても最初に目のつくように,成績表とか,学校の通信,学校新聞みたいなものが机の上に置い てあって。このパターンだと読まなきゃいけないんだなと。そうすると,子ども起きた時に,「学校新聞に映っ てんじゃん」みたいな話を最初にできるんで。中学生になると,「学校の行事に来ないで」とか,「学校の面談に はママだけでいい」とか,もうそうなってきているんで。私の方はもう学校にほとんど行くことはないんですけ

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ど,わざわざ嫁が友達の名前をよく教えてくれてますね。名前を聞いているんで,「あれ,前に仲良かった友達 と変わったね」っていう話もできる。「前の子は A さんだったのに,B さんに変わったじゃん」っていうと,「ああ, なんかね,色々あるみたいよ。女子はね,大変なんだから」って。(Z) ⑶父親に子どものことで相談・依頼する母親(U,W,Y,Z)  「E7 子どものことについて夫に考えを尋ねる」や「E6 手を貸してくれるようにあなたにお願 いする。」をきっかけに話されたエピソードは,母親から父親への相談行動や依頼行動である。相談 行動は,子どものことが内容であったとしても,父・母の2者間で行われるコミュニケーションであ る。一方で依頼行動は,父親が子どもに関わるように母親が頼むことであるが,母親から頼まれた 父親が子どもに働きかけることにより,最終的には母・子・父の3者がつながることになる点で,相 談行動とは異なる。特に,母親から子どもに働きかけても効果がないことについて,父に助けを求 めるような働きかけが,子どもの学習,成績,受験や進路の話題やしつけの話題に関してあげられた。 #12 中学受験のこと。公立か私立かから始まって,私立なら大学のあるところにするのか。何回か話をしてすり あわせてったって感じですね。このまま公立一本でずっと上まで行くのか,早めに中学から行くか,小学校3年 生くらいのときから少しずつ話をしてて。そうすると塾代とかどうするんだっていうお金の話とか,どういう 学校にいかせようかとか,最後は学校見に行って。先々のこととか,子どもの性格とか,いろいろ話して。(U) #13 高校受験のこと。妻としてはなるべくいい高校に入れてあげたいと思うんですね。私は高校だったらどこで もいいじゃん的なんですけど,それでも,私の考えを聞きますね。例えば模擬試験は受けたらいいかとか。私が 大学生の時に家庭教師もしてたので,ちょっとアドバイスを求めてきたりとか。私が娘に直接勉強をさせるん じゃないんですけど,娘から妻に聞かれても,妻本人がどうしてもいいアドバイスをしゃべれなくて,私にくる 感じ。で,ああそうなんだって感謝されることが多い。(W) #14 中学生になって,帰りが遅くなってくるじゃないですか。今までは7時8時には帰ってきなさいっていうの がだんだん9時10時近くになっちゃったり。自分は「いいんじゃねーの ?」っていう方なんですけど,やっぱか みさんはちょっと心配っていうか。その辺が意見が違う所ですかね。でも考えてみれば,自分も中学の時って そうだったよなと思う。悪いことをする子ではないので,その辺は信じてあげればとは言ってるんですけど。 心配でかみさんが子どもに電話すると,「まだ帰らない」みたいなこと言うらしいんですよ。だから「ちょっと 代わって電話してくれ」って言われる。私が電話すると,誰とどこにいて,何時何分には帰るっていう風には言っ てきます。ほんとに怒ったら男の方が怖いっていうのは多分わかってはいるでしょうから。(Y) #15 もうちょっと怒ってくれみたいなことは言われるときはありますけど。「ちょっと勉強しろとか言ってやっ てよー」,とは言いますけど,自分も勉強しろって言われてもどうせしないから,「今そこの高校行きたいって言っ てるけど,今のまんまじゃ厳しいんじゃないの ?」って,まあそういう言い方ですかね。あんまり頭ごなしには

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言わないように気をつけてるって感じです。母親には言われ慣れてるんであんまり効果はない。ちょうど反抗 期なんで。言ってもどうせ反発するでしょうし。(Y)  #16 奥さんからの指示で,「ちゃんと注意してよ」と言われればやりますんで。娘と奥さんは,いつも喧嘩しす ぎてる。逆に言うと,子どもはいつも言われてることだからもういいわって顔をするので,「あなたがやってよ」っ て言うので,「わかったよ」っていう形で怒ることはありますけど(Z)。 ⑷父親を立てる母親(W,Y,Z)  「E9 あなたはよいお父さんだとあなたに伝える」とその他のエピソードから,母親が一段下がっ て父親を立てている場面が語られた。これは,母親が父親に面と向かって言うこともあるが,母親 が子どもに向かって(父親にわかるように)話し,間接的に父親にメッセージが伝わるという場合 もあり,母・子・父の3者をつなぐ結果となっていた。 #17 嫁は,半分わざとだと思うんですけど,「私は英語ができない」とか,「私はパソコンはわからない」っていう ことを子どもにアピールしてですね,「そういうのはパパに聞きなさい」と。「お前,こんなの簡単にできるじゃん」 みたいに言っても,「いやいや,あなたのためよ。私としては,一応分担してあなたがきっかけを持つようにし てるんだから,せっかくなんだから,そうやって教えてあげりゃいいんだから。ちゃんと子どもに,パパはこれ できるよねって言う風にしてね」って言われます。最初は面倒だなって思ってましたけど,やっていくうちにそ ういう作業分担はありなのかなと。嫁が「これは私はできません」っていう顔している方が,子どもは,この件 はもうパパに聞けばいいんだなってなるから,子どもが私に自発的に聞いてくるようになりますね。勉強を見 るとか,嫁がやるべきことと,任せたいことはちゃんとやってくれてるんで,どこで子どもと関わればいいかが, わかりやすいですよね。彼女は何事も計画通りに物事を進めたいタイプなんで。そういった意味では,計画の 中にちゃんとはめ込んでもらってますね。例えば化粧とか,ファッションの話みたいなのは,嫁と娘2人の方が 合ってるだろうし。そういう風にうまく棲み分けをされてますね。(Z) #18 私を直接褒めるようなことはしないですけど,子どもにね。例えば(自転車の)パンクもそうだし,いろいろ 家のこととか直しちゃったりするじゃないですか。そうすると,子どもに言ってましたよね。「お父さんすごい ねー」って。そういう言い方ですね。そうすると子どもが「お父さんスゲー」とかって(Y)。 4.批判:父親の認知する,母親による父親への批判的夫婦ペアレンティング調整について  母親からの促進的な調整の場合,父親はそのまま嬉しい気持ちで受け止められるが,批判的な調 整については,好意的にばかりは受け止められないものもある。批判を語る際に選定された項目は, 「C4 あなたは間違っていると言う」「C7 ムッとしてあきれた顔を向ける」が多かった。

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⑴父子衝突への割り込みとしての母親(U,W,Z)  「C2 あなたがやっていることを取り上げて,妻が自分のやり方でやる。」から語られたエピソー ドでは,父親が子どもとうまくいかないことについて,母親が交替するという様が浮かび上がった。 ただしその行為が,母親の悪意ではないことを父親自身わかっていることも語られている。  #20に挙げたエピソードは,子どもとの関係の中で発展的に語られた内容であった。以前は母親 が父親に直接不満を言っていたのが,子どもが同じ不満を父親に言うようになったところ,それま でとは異なり,母親が父子関係の仲裁者になったという思春期の家族変化として語られた。 #19 たまに勉強を教えることもあるけども,私と娘だとなかなかうまくいかなくて,(妻が)「もういいじゃん」, と言ってくる。娘も年頃になってきたのか,やっぱりそういったところで,距離感がだいぶ出てきた感じで。最 近は,アドバイスぐらいの感じで,中身を教えることはほとんどなくなって。今は,娘と妻が一緒に机並べあって, 頭寄せ合って,まあ仲良くやっている,みたいな(W)。 #20 私,職業柄,外でご飯食べると批評的に見てしまうので,嫁さんに,楽しく食べられないって言われます。最 近,その不満を子どもが言うようになって,嫁さんが逆に,「職業病なんだからしょうがないんだよ」ってなだめ る方に入りました。以前は,嫁が言ってましたけど,今は子どもがその真似をしたのか,言うようになってからは, 嫁はまあまあっていう仲裁役に入るようになりました。そういう変化はありますよね(Z)。 ⑵父親の対応に対する制止・修正者としての母親(U,W,X,Y,Z)  「C4「あなたのしたことは間違っていると思う」とあなたに言う」から語られたのは,父親による 子どもの対応やしつけについて,母親が父親に対して直接的に抗議し修正する場面であった。父親 は素直に従う場合もあるが,母親とは違う考え方を持っていながらその場では妥協する場合もある。  #21 子どもが,何回言っても言うこと聞かないんで,こっちが頭にきて,「お小遣い下げるよ」と言うと,「あん まりお金の話するの,良くないよ」と言われます。世の中全部お金で動いているわけじゃないんで,あんまりお 金お金言ってると子どもも「世の中お金が全てじゃん」っていう見方しちゃうって。まあ,妻の言ってることも わかるんですけど,やっぱり言いきかせなきゃいけないって思ってるんで。まあ,最後は妻に任せてて,その場 でこちらの方から言うのは一旦やめるという反応にはなってはいるんですけど(U)。 #22 子どもが,「今日は宿題がない」って嘘をついたんですよ。で,やっていなかったので,うちの妻が怒ったん ですね,「なんで嘘つくの」って。私もなんか妻に味方をしてあげようかなって感じで怒っちゃったんですね。 その時に「パパ,怒り方違うよ。それは,子どもを思って言ってないでしょ。自分の感情だけで言ってるだけで しょ ?」って言われたんですよね。私も,なんか,父親だっていうので,かっこつけようとしたのと,あとまあ, ストレスもたまってたんだと思うんですけど。なんか,理不尽に怒ったような。言われてまあ,我に返ったって いうか,勝手に,自分のいらだち,ストレスを,なんか子どもにぶつけてただけなのかなっていうので,その時は,

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「ごめんなさい」って,子どもに対してっていうか,妻に対して言ったかもしんない。妻は,「うーん,まあ,わか ればいいよ」みたいなことを。(X) #23 お小遣いの件が多くて。嫁さんが決めた月の小遣いとは別の抜け道で私に言ってきてるのは重々承知してる んですけど,子どもが(決めた額を超えて)ねだったり。子どもがどっか遊びに行くとかいうときに,父親とし てやっぱりなんとか助けてやりたいって軽々しく出してると,やはり妻は納得感がなく,むっと,「ちょっと, なんで出したの ?」って話になってですね。まあ子どもが正直で(妻に)話をしたりして。あげちゃった後なので, 彼女としては,「ちゃんと私と話してから出しゃいいじゃん」みたいな感じなんで。(Z) #24 私の趣味が旅に出たりとか,鉄道とかで。女の子ってあんまりそういうの好きじゃないですよね。趣味がも う違うので。昔は家族みんなで行ったり,娘と二人でってこともあったんですけど,最近はなかなか機会もなく, たまに「娘と二人で」って話をすると妻に「ちょっと違う」と言われてしまう。ちょっと寂しいなあ(W)。 #25 勉強やらないことに対して,「俺もやらなかったよなぁ,でも出来たんだよ」みたいな話をしちゃうんですよ。 すると「そういうことは言わないで。お父さんだってやってなかったじゃねーかって言われちゃうから」って。「頑 張ったって話はしてほしいけど,頑張らなかった話はしないでくれ」って言われますよね。(Y) #26 嫁はちゃんと勉強させたくて,しっかり5教科全部やらせるって。僕の中では,もう3教科でいいんじゃない かっていう気持ちがあったんだけれども。それはね,嫁の方から「言うな」って言われて。「そんな甘えたことは 言わせない」って。「最初から甘えるぞ,あいつは」と言われますね。(Z) ⑶子育てに関する考え方の違いを間接的に示唆する母親  「C7 ムッとして,あきれた顔をあなたにむける。」から語られたエピソードは,父母間における 子育てに関する考え方や対応の違いが背景にあり,その話題は,受験や進路,しつけに集中していた。 本調査は父親を対象に行われているため,表情や雰囲気などを含む非言語メッセージについては, 父親の受け止めによるものである。上記「⑵父親の対応に対する制止・修正者としての母親」との違 いは,母親が父親に対して直接言語的に批判をしているか否かである。 #27 私と妻の娘に対する考え方に,やっぱり,違いがあるような気がするんですね。例えば,私としては,「とり あえず高校入れればいいじゃん」っていう風に思うんですが,やっぱ妻の方が教育熱心なところがあって,でき るだけ本人に学力つけさせて,なるべくいい学校に入らせたい。そういった話で私の考えを言った時に,やっぱ りむっとされた。私も,あまり意見を押し通す方ではないので,とりあえず妻の意見の方に従ってる。それ以上 はあまり言わないというか。妻と子どもはすごい仲がいいので,断然,お母さんからの意見の方が通りやすい。 だから私はあまり関わらず的な。ここ最近ですかね。以前は,いろいろどっか遊びに行く話とかも,まあ私の意 見が通ってて,みんなで出かけてってね。(W)

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#28 かみさんが「勉強しろ勉強しろ」って,ガーガーガーガー言う方で,別にそんなにすごいいい学校行かなくで もいいけど,せめて高校は普通科出てほしいっていう感じ。僕は,別に学歴無いなら無いでいいんじゃないって 言う考え方も自分としてはあるんで。やる気ない人間に無理やりやらせたって実になんないから,あんまり言っ てもしょうがないんじゃ ? って。特に今反抗期じゃないですか。かみさんは,やっぱ努力しないのが気に入ら ないみたいで。「行きたいって言ってる学校があって,それに向かって努力しない姿は,それはどうかなって思 う」って,むっと。……まあ,どっちの言うことも。「確かにね,あるよね」って終わっちゃう感じですかね(Y)。 5.母親からの批判的夫婦ペアレンティングに対する父親の反応  夫婦ペアレンティング調整行動では,母親からの促進は父親による子どもへの関与を高め,批判 は損なうことがわかっている。本結果では,母親からの批判を受けた時,父親は以下のような対応 をとっていた。#29では,母親には否定されるので,自論は隠れたところで子どもに伝える。#30 は子どもと距離を置き,「傍観」する。#31は,母親と考え方が異なるが,母親との衝突は「回避」する。 子どもに対して「お父さんというよりも友だちになれればいい(#32)」や,家族がそれぞれに「干渉 しあわない(#33)」という語りもあった。 #29 うちの妻はあまり学歴とか言う方ではなく,世の中は人脈だって言うんですよ。私は,学力だと思ってるん ですよ。でも妻に聞かれると,多分否定されると思うんで,言わない。隠れたところ,例えばお風呂とか,長男 の部屋とかで,子どもには,「勉強なんだよって,世の中は」って,勉強の事は結構言いますね。(X)。 #30 今は傍観してますよね。中学くらいに,やっぱ自分でも覚えがありますけど,どうしても父親うっとうしい じゃないですか。話しかけられることがすごいストレスな時期がやっぱりあったんで。だから別に普通にして るだけですかね。特に積極的に会話しようとか,そういうのはないです。自分がやっぱり中学の時ってそうだっ たんで。距離を置くような感じ。(Y) #31 嫁さんは自分で子どもたちにしっかり教えるタイプ。私はどっちかっていうと,自分でやればいいじゃんっ ていう父親の態度で,「なんでそこまでやらなきゃないの」って言うと,「今の教育の中では親がちゃんとしっか りやらないと」みたいに言われてしまうんで,表立ってはぶつからないです。嫁からすると「あなたは,すべて に関して甘いんだ」って言われますね。(Z) #32 自分が子どもの時とか,親戚とかおばあさんの話で,「お父さんが毎日こうやって働いてくれてるから,ご飯 を食べられるんだよ」っていう事を言われて育った覚えがあるんですけど,うちはそういうの一切言ってくれて ないなあ…だから,父親の威厳ってもしかしたらないんじゃないかなって感じますね。あ,でも,必要以上にい らないのかなっても思うんですけど,最初子どもが生まれたときに,お父さんになろうってよりも,友だちみた いな感じで,そういう家族になれればいいかなっていうふうに,思ったんですよね。(X)

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#33 高校受験,本人が行きたいところへ行ければいいんじゃないかなと,自分自身は思ってるんですけど。そう いうの,まあ,じっくり話したことないので,女房がどう思ってるか,正直わからないですけど。女房は,多分, 子どもが行きたい方向へ行けばいいっていうので考えているとは思うんで。まあ,塾へ行きたいとか,そういう 話は息子からあった時に,「お母さんに言っとけば」っていう感じで。子どもに対しては二人とも協力はしてい ると思うんで,一致はしていると思います。子どもも,結構素直で反抗もせずに今んところ。女房がやっている ことに対しては,否定しないようにしていますし,向こうも私のやっていることにはそう干渉してこない。家事 や学校行事は,ほとんどまかせっきりなんで。私の方は非協力的なのかもしれない。「学校でこういうのがあっ たよ」っていうのは,報告はくれます。最近は,勉強もしたりしてますけど,携帯ゲームとかテレビとか,そんな 感じなんで。まあ,子どもたちと自分もそんな干渉しあわずに。お互い自分のことやってるみたいな感じなんで。 子どもたちも,ただ一緒にいるだけみたいな感じで。(V)

考 察

 本研究は,思春期の子どもの発達的変化や日常の問題に関して,母親が父親の子育てに関して行 う夫婦ペアレンティングの働きかけについて,父親はどのようにとらえているのかを明らかにしよ うとした。その際,父親と母親の役割関係が,夫と妻という役割間の交流に紛れることのないように, 思春期の子どもの存在が,父親と母親の間のやりとりにどう関わっているのかについて注目するこ とを重視した。先行研究により,夫婦ペアレンティング調整行動は,母親から父親にむけた拒否・ 否定・非難を中心とした “ 批判 ” と支持・尊重・激励を中心とした “ 促進 ” が見られることがわかっ ていることから,この2側面を問いの切り口として,父親がとらえるエピソードを語ってもらった。 1.思春期の子どもと親のコミュニケーション背景  子どもと父親それぞれの生活時間スケジュールの接点は,親子コミュニケーションが可能になる 機会である。しかし,#1が示すように,思春期以降の子どもの生活は親同様に過密で,コミュニケー ションの機会は非常に限られており,乳幼児期ほど大人主体で進めることは出来ない。最低限の必 要な注意や声がけを繰り返す親と,従ったり従わなかったりという子どもの姿がうかがえる。生活 ルールやしつけ上の注意に対して子どもが従わなければ,父親母親にかかわらず,親はさらに声を 大きくして子どもを注意しているようである。父母それぞれの注意の仕方について,父母間の調整 が頻繁に行われていたが,その詳細は,後述する “ 促進 ” や “ 批判 ” において考察していきたい。  ところで,親子コミュニケーションについて,大人主体で進めることができないのは,生活時間 の問題だけではなく,子ども自身の嗜好や意思の主張や,子どもの気持ちに対する親の気遣いによ るという点を見逃せない。本調査の父親は,「(子どもに)嫌われる」「(母子は父子よりも)分かり合 える」等の表現により,子どもが意思や感情をもった家族構成員であることを意識し,父子関係と 母子関係に質の違いがあることを認識していた。父子関係の変化や関係構築の難しさについて,子 どもの性別に原因を帰属する父親が多かったことも,娘との関係が自分の意のままにならないこと を了解しようとするためとも考えられる。

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 例えば,#2~5では,思春期の男子と女子の違いが語られ,同時に,女親と娘の親密な関係に対して, 男親である父親が入っていけず,距離をとってしまうことが語られている。男親として息子のこと はわかりやすいという父親自身の声とともに,息子と娘をもつ父親では,きょうだいによって向き 合い方が違うことを母親から指摘される場合もある。また,父親が父子関係に感じる距離感は,母 子関係の距離の近さとの比較とともに,思春期以前の父子関係の距離の近さとの比較という,2つ の比較に裏打ちされている。そこに父親の孤立感や寂しさの感覚が語られていることが印象的で あった。このことについて母親がどのように調整をしているのかについては,この後に述べる “ 促 進 ” や “ 批判 ” の中でさらに詳述することになるが,思春期の子どもをもつ父親が語る家族コミュ ニケーションの背景として見逃せない側面と言えよう。 2.父親の認知する,母親による父親への “ 促進 ” 的夫婦ペアレンティング調整  思春期の子どもをもつ家族において,父親に認知されている母親の促進的な夫婦ペアレンティン グ調整行動のエピソードから,以下の4つの母親の機能が浮かび上がった。「子どもの言葉や気持ち を代弁する母親」「父子接触の機会をアレンジする母親」「父親に子どものことで相談・依頼する母 親」「父親を立てる母親」であり,いずれも父子関係の仲介役としての調整行動である。 ⑴子どもの言葉や気持ちを代弁する母親  促進的な調整となる子どもの代弁として,本調査では2つの方法が明らかになった。1つ目は,父 親が子どもに関わったことに対する子どもの反応を,子どもに代わって父親に伝える “ 報告 ” であ る。ここでは,子どもの喜びと,子どもが喜んでいたことを伝える母親自身の喜びや感謝,それを 聞いた父親の喜びが重なり,家族全体で喜びを共有していることがわかる。例えば,普段は面と向 かって「ありがとう」とは言わない子どもが喜んでいたことについて,「私も嬉しかったし妻も喜ん でいた(#6)」と述べられた語りは,子どもの反応を “ 夫婦でともに ” 喜び合う姿であり,子どもに 向き合う調和的な夫婦ペアレンティングと言えよう。  2つ目は,子どもの代弁者としての母親が,子どもの気持ちの “ 報告 ” を超えて,“ 通訳 ” してく れると語られた点である。例えば #8では,娘が父親に見せる不機嫌さについて,母親は父親に「本 当は嬉しいんだよ,普通に」,「不機嫌なわけじゃなくて,照れ隠しなのよ,女の子だから。素直に 言えないんだよ」と伝えている。このことは,特に娘との関係に距離を感じやすい父親にとっては, 父親としての自信を回復させてもらえるサポ - ティブな示唆であり,父親による子どもへの関わり の委縮や低下を防いでくれるかもしれない。 ⑵父子接触の機会をアレンジする母親  積極的に父親を子どもに関わらせるための機会をアレンジし,それがうまくいくように準備する 母親の姿も見られた。例えば母親は,父子を残して自分だけが出かけたり,逆に父子だけで出かけ ることを促している(#10)。父親が母子間の距離の近さを感じ,相対的に父親としての自分と子ど

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もの距離が遠いと感じていることは先に述べたが,母親もまた,母子の距離の近さを感じながら父 子の交流を増やそうとしているようである。加えて,母親がその間に自分の時間を持てるというメ リットもあるだろう。実際,#9の父親は,「多分,女房が自分も息抜きがしたいんでしょうから」と, 母親の調整行動に2つの意味があることに言及している。  父子の接触を用意するための母親による調整行動は,父親への情報提供という形でも行われてい た。例えば,#11の母親は,帰りの遅い父親にも積極的に子どもの情報を伝えている。子どもの日 常の出来事や対人関係を知らなければ,父親は子どもに会話を切り出しにくく,子どもからの話に もついて行けない。子どもも父親との会話に期待を持てないだろう。母親が,子どもの学校の様子 や友人の名前を父親に伝えることで,父親は子どもとの話題づくりに困らなくなっている。ここで の母親は,このような働きかけを通じて,父親と子どもとの距離を近づけ,父親が関心を持って自 ら子どもに関与しやすくなるように調整していると考えられる。 ⑶父親に子どものことで相談・依頼する母親  父親よりも子どもとの距離が近く,子どもについての情報を多く持っている母親ではあるが,重 要なことは父親に相談し,子どもへのかかわりで困ると父親に依頼していた。中でも,子どもの学習, 成績,受験や進路の話題やしつけの考え方などは,父母間で話し合うことが多い。  ただし,子どもに対して,父母の一方が厳しい姿勢や期待を強く向ける姿勢であると,もう一方 は許容的で子どもの意思決定にゆだねようとするというように,父母が対極の立場にあることが語 られることは多かった。その議論の結果も,必ずしも一致するわけではないが,子どもを育てる上 で必要なことについて,パートナーの意見を求めたり,共に考えたりすることが,夫婦ペアレンティ ングの基盤となっていることがうかがわれる。  “ 相談 ” が父母2者間で行われているのに対して,“ 依頼 ” は,母親が父親に向けて,子どもへの 直接対応を頼むことであり,結果的に3者間の関係となる。例えば #14では,子どもの帰宅時間に ついて,母親は厳しく父親は許容的であり,態度は一致していない。しかし,母親は子どもを思っ たように統制できないため,父親に依頼している。父親は,母親を助けて子どもに関わり,その結果, 子どもは父親に従っている。父親は母親から頼られたこととともに,自分の働きかけの効果を自信 にすることができる。#15と #16も同様に,母親では子どもを統制できないことから,父親の登場 を依頼されている。  加藤ら(2012)によれば,母親が子どもとの強い一体感をもち,自分ひとりで子育ての責任を取り 込むと,他者からの援助を自ら遠ざけることになってしまう。こうした母親の行動は gatekeeping と呼ばれ,父親の関与行動を抑制し,夫婦ペアレンティングを阻害することになる。しかし,母親 が自分ひとりでは対処できない局面では,母親は,他者の手を借りざるを得ない。それはむしろ, 他者の力を借りることによって,母親が子育てをひとりで抱え込むことを避け,他者の存在に気づ きその力を信頼できる機会となる。相談や依頼は,「ひとりでは対応できない。困っている。力を 貸してほしい」という母親から父親へのメッセージとなり,父親の存在が期待され,求められている

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ことを父親に認識させ,夫婦ペアレンティングを促進すると考えられた。 ⑷父親を立てる母親  母親が父親を立てることも,夫婦ペアレンティングを促進していた。母親が,面と向かって父親 を立てることもあるが,母親は子どもに向かって(父親にわかるように)父親を尊重する話をする こともある。#17の母親は,「私は出来ない,わからない」ということを,子どもに向けて明言し, 子どもが父親を頼って働きかけることのできるコミュニケーションの経路を作っていた。母親のこ の行為について,父親は「半分わざとだと思う」と述べながらも,自分が母親の「計画の中にはめ込 まれている」ことを悪くは思っていない。むしろ「どこで子どもと関わればいいかがわかりやすい」 と語っており,子どもへの実際的な関与が促進されている。  また #18では,意図的かどうかはわからないものの,母親が子どもに向けて父親をほめたことで, 子どもが父親をほめるようになったことが語られている。母親が子どもの存在を意識しながら,良 い意味で父親を子育てに巻き込んでいる姿が浮かび上がったエピソードであった。 3.父親の認知する,母親による父親への “ 批判 ” 的夫婦ペアレンティング調整  思春期の子どもをもつ家族において,父親に認知されている母親の批判的な夫婦ペアレンティン グ調整行動のエピソードから,以下の3つの母親の機能が浮かび上がった。「父子衝突への割り込み としての母親」「父親の対応に対する制止・修正者としての母親」「子育てに関する考え方の違いを 間接的に示唆する母親」である。 ⑴父子衝突への割り込みとしての母親  “ 批判 ” の高さは,父親の子育て関与,育児協働感や夫婦満足感の低さと関連があることがわかっ ているが(加藤ら,2014),エピソードからは,父親は,母親からの批判的な割り込み行動が,悪意か らではなくその場を収めるためと理解していることがわかった。しかし,父子の衝突を避けるため であっても,#19のように父親のやっていることを取り上げて,妻が自分のやり方でより上手に子 どもに対応すると,父親は自信を失い,むしろ母子だけの方がうまくいくだろうと感じている。こ うしたことが蓄積すると,父親としての役割や意味を実感できなくなるかもしれない。また,子ど もが女子の場合,母娘の仲の良さに比べて,父親が娘との距離が遠いことをより強く感じさせるこ とにもつながるだろう。  #20のエピソードでは,以前は母親が父親に直接不満を言っていたのが,思春期になり,子ども が母親と同じ不満を父親に言うようになった。子どもの行動を見た母親は,今度は父親に味方して 子どもを止め,父子を仲裁する役目となった。「父親に対する母親の行動を子どもが見て,母親と同 じ行動を父親に向けるようになる」という行動は,#18では促進(母親が父親をほめる)行動として 表れている。しかし子どもは,母親の促進行動だけではなく,#20のように批判行動も真似るので ある。母親による批判に子どもが加担することは,「母親 - 子」対「父親」の境界をより強めてしまう

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恐れもある。#20は,そうした危険を感じた母親が,子どもの発達段階に合わせて,父・母・子ども の3者関係を変容させる柔軟さを見せた場面と言えるだろう。したがって,純粋な批判エピソード とは言えないが,子どもが加わることで夫婦ペアレンティングシステムが変容する参考例としてと りあげた。 ⑵父親の対応に対する制止・修正者としての母親  父親による子どもへの関わりに対して,直接的に異議を表明し,父親を制止したり修正を求める 母親の批判行動がみられた。語られたエピソードの内容を見ると,父親のしつけやしかり方への批 判(#21,#22,#23),父親の趣味に子どもをつきあわせようとすることに対する批判(#24),子ど もの勉強に対する声がけについての批判(#25,#26)などである。こうした母親からの厳然とした 批判に対して,父親は,それ以上自分の考えを表明するのを辞めている。母親からの意見に納得す る場合もあるが(#21),#22では,「最後は妻に任せて,こちらの方から言うのは一旦やめる」と語 られており,その場では母親との衝突を回避するために妥協することを選択していることがわかる。  また #22の父親は,母親が子どもを叱っている場面に際して,母親に重ねて一緒に叱ったことで 批判を受けている。父親は,「妻に味方してあげよう」と思い,言わば母親の行動を支持して同調し たわけだが,このことを母親が「怒り方が違う」と批判している。批判された父親は,「(父親として) かっこつけようとした」「ストレスもたまっていた」と気づき謝っている。夫婦ペアレンティングの 視点から考えて印象的なのは,この父親が,「(自分の謝罪は)子どもに対してっていうか,妻に対 して言ったかもしんない」と述べ,子育ての姿勢を共有できなかったことを母親に謝っていたこと を言及していることである。母親の「まあ,分かればいいよ」という返答とともに,2人の間で夫婦 ペアレンティングの確認がなされた場面とも考えられる。その意味では,#22に見られた母親の批 判は,敢えてともに問題に直面化することを父親に迫った行動とも言える場面であり,必ずしも父 親を子育てから遠ざけるわけではない。つまり,夫婦ペアレンティング調整における “ 批判 ” は, 父母間のやりとりの文脈から切り離して,部分的に取り上げるのではなく,母親の批判の背景,批 判を受けた父親の反応を一連のつながりとしてとらえることが必要と考えられる。  ところで,子どもに勉強をさせたい,あるいはしつけをしたい母親と,それほど力まなくてもよ いのではないかと寛容な父親の違いが話題になることは多かった。母親が子どもと直面する位置に あるのに対し,父親は少し距離を置いて母子を見やる位置にあることの違いかもしれない。#25, #26の母親はいずれも,父親の寛容な言動で,子どもが頑張らなくなってしまう,あるいは頑張ら せようとする母親の言うことを子どもが聞かなくなってしまうことを心配していた。言い換えれば, 母子が頑張っていることに水を差さないでほしいという気持ちの表れとも言えるかもしれない。こ のような場合も,父親は自分の考えを持ちながらも,それ以上に強く議論したり主張することはな かった。そして,こうした母親からの批判を受けた父親は,子育てへの自我関与を強める方向では なく,それまで通り,距離を置いて母子を遠目に見やる位置を維持することがわかる。

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⑶子育てに関する考え方の違いを間接的に示唆する母親  語られた内容は,受験や進路,しつけで,上記「⑵父親の対応に対する制止・修正者としての母親」 と同じである。しかし⑵とは異なり,母親は,子育てに関する考え方や対応の違いを間接的に示唆 するにとどまっている。父親による子どもへの対応や考え方に対して母親が納得できない場合に, ⑵のように直接批判をするのではなく,「むっとする」など,表情や雰囲気などに表すことで否定的 なメッセージを送る。また⑵では,母親が父親を抑えて自分の意見を通す結果となるが,ここでの 母親は,父親の意見を十分に論破できるほどではないため,あるいは衝突による何らかのデメリッ ト回避のため,父親との違いに納得がいかないながら言語的に強く主張することを断念している。  #26では,父親が自分の考えを言って母親にむっとされているが,父親も,それ以上意見を通そ うとしていない。したがって,父親の子育てへの関与は,母親の非言語レベルの批判によっても阻 害されることがわかる。ただし,いずれのエピソードでも,父親は母親の考えをよく知っており, 母親がむっとする理由を理解していた。子どもの問題について,それぞれの意見を出したり引いた りして,父母間の直接衝突を避けながらも,その都度,互いの考えを確認しあうコミュニケーショ ンを行っているとも考えられる。「まあ,どっちのいうことも,確かにね,あるよねって終わっちゃ う(#28)」という語りが示すように,母親もまた,自分の考えを直接ぶつけたり,間接的に示唆した りしながら,父母感の関係調整を行うだけではなく,互いの子育ての方針を繰り返し確認している ことがうかがえる。  ただし,非言語的メッセージに対する父親の感受性の程度は考慮する必要があるだろう。母親側 が父親に伝えたいことが,非言語レベルでどの程度伝わっているかについては,本結果からは明ら かにできないため,今後の課題となる。 4.母親からの批判的夫婦ペアレンティング調整に対する父親の反応  先に述べたように,夫婦ペアレンティング調整行動のうち,母親からの促進は父親による子ども への関与を高め,批判は関与を損なう(加藤ら,2014)。本調査結果においても,母親からの批判を 受けた父親は,まずは母親との衝突を回避し(#31),距離を置いて傍観し(#30),妻に隠れたとこ ろで子どもに父親としての見解を話している(#29)。あるいは,「お父さんになろうってよりも, 友だちみたいな感じで(#32)」,子どもも含めてお互い干渉しあわず「自分のことをやってる」など の姿勢が語られた。いずれにしても,母親からの批判に関するエピソードからは,家族との間に距 離を感じる父親の姿が浮かび上がる。その距離感の背景に,母子間の親密さに対する父親の認識が あることは繰り返し述べたとおりである。また,思春期以前に比べて距離ができたことを「寂しい」 と語る父親もあり,思春期の子育てにおいては,家族の中における父親の位置取りの難しさが示唆 された。

まとめと総合考察

 思春期の子どもをもつ父母が,子どもにどのように関与し,その関与について父母でどのように

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調整しあっているのかを検討した。  検討に先だち,思春期の子どもと父親のそれぞれの生活状況や生活時間の特徴が,家族コミュニ ケーションの機会や内容に影響していること,母子間の親密な関係(特に母娘)や思春期以前の父子 関係に比して,相対的に父親が父子間に距離ができたと強く感じていることが確認された。  次に,思春期の子どもをもつ家族において,母親が父親に対して夫婦ペアレンティング調整とし て促進と批判を行う際のエピソードを,父親目線でまとめた。父親の感受性に幅はあるとしても, いずれの父親からも,促進,批判エピソードが抽出され,その内容から,母親が多様な方法で父子関 係を調整する役割をとっていることが明らかになった。  特に母親の促進は,思春期の子どもと父親の距離を縮め,父親に自信を与え,父母間で子育ての 喜びを共有しあうように機能していた。そのために母親は,子どもの反応を代弁して父親に報告し, 気持ちの通訳を行っている。また,常日頃から子どもに関する情報を父親に伝えることで,父親が 子どもとの話題に困らないように仲介していた。父親と子どもがともに時間をすごせるような機会 をアレンジしたり,子どものことで父親に依頼をしたりすることは,通常,子どもとの距離を感じ ている父親に,具体的なかかわりの機会と方法を示すことにもなり,父親としては対応しやすいよ うである。父子だけですごす機会を用意することは,同時に母親自身の時間を確保することにも役 立っていた。また,父親に子どものことで相談することは,父親役割尊重のメッセージとなっており, 父親の子育て関与を高めていた。母親による父親の尊重は,子どもの中に,父親を尊重する気持ち を育てることにもつながっているようである。  一方で,母親の行う批判は,言語による明確で直接的なものもあれば,非言語的暗示的なものも ある。そしてその機能は,子どもを優先するため父親を挫くことになる場合もあれば,父子関係の 葛藤回避の仲裁となる場合もあった。調査は父親を対象としており,父親の認知する母親の言動語 りをもとにまとめているため,母親自身の意図を断定することはできない。しかし,少なくとも父 親は,父母の考え方や対応には違いがあることを理解しており,母親の批判の背景にある理由につ いても推察している。それ故か,一方が自分の考えを主張すればもう一方が主張しないという相互 作用が頻繁にみられた。本研究では,母親が父親の言動に納得がいかない場合に,非言語的に不機 嫌さを伝えることも批判として分類したが,このやりとりも,母親が葛藤回避のために主張を断念 したものと考えてよいかもしれない。その意味では,通常のような回避や妥協ではなく,父親への 批判のかたちを借りながらも,敢えて問題に直面化することで夫婦ペアレンティングの方針を確認 しあうような例(#22)が,少ないながら確認されたことは興味深い。  重要なのは,母親から父親への批判と促進は,常に一方だけ見られるのではなく,それぞれ子ど もの動きに連動して生起し得ることであった。夫婦ペアレンティング関係は,父母が,子どもの行 動や反応,影響によって,調整行動の選択が変わる。例えば,子どもが期待どおりに反応しなけれ ば父親への批判になり,期待どおりであれば促進になるというように,子ともという潜在的な存在 を基盤にした2者関係であるという点で,夫婦関係とは異なるシステムであることがエピソードを 通じて確認された。この違いについて,「二人では言い争いになるってことはまずない」が,「子ど

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もを挟むと意見の相違が出やすい(U)」と語った父親もあった。つまり,夫婦システムでは衝突し ないのに父母システムでは衝突することを述べていると言える。  本結果から抽出されたエピソードは,子どもという潜在変数をめぐる父親と母親の相互作用であ る。特に日本の子育ての日常的文脈における夫婦ペアレンティング調整を示した点で意義があるだ ろう。  最後に今後の課題を述べる。第一に,母親を対象とした同様の調査により,調整者としての母親 の実感と思いを抽出し,本稿が明らかにした父親視点の夫婦ペアレンティングと併せて考察してい くことが求められる。パートナーがどのような思いでその行動を行っているのかについて互いに知 ることにより,子どもを挟んで生じている父母間のすれ違いをさらに理解できるかもしれない。  第二に,思春期の子育ては,父母の子育ての歴史を含めて考える必要があることを挙げておきた い。この点について,父親 W は次のように述べている。 #35 小さかった時は,今ほど関わってないわけではないんです。小さい頃はうちの妻もやっぱり,子育てについ て迷ってた時期も,困ったこともいろいろあって。まあお互い助け合いながらやってきたっていうところですね。 今はそんなことはないんですが。今とはやっぱり違いますね(W)  このコメントは,思春期の子育てを,単純に反抗期や対応が大変な時期とだけ考えるのではなく, それまでの父母の子育ての歴史を踏まえた上でとらえることの重要性を示唆している。加藤ら (2016)は,第一子が乳児期と青年期前期の父親は,他の年齢群に比べて,自己を子育てに投入する ことによる制約感をより強く感じるほど,自分の家族への愛情や関係性認識の高さにつながること を示している。すなわち,乳幼児期と青年期前期の子育て期は,父親が家族に自我関与する上での 重要な時期と言えよう。子育てが大変だからこそ,二人で助け合っていたという #35の語りからは, 子育てに手がかからないという意識が逆に,夫婦がともに携わる機会を減少させる可能性を示して いる。したがって,夫婦にとっての子育ての歴史を踏まえた上で,あらためて思春期の子育てをと らえ直すことも今後の課題となる。 【引用文献】 中央調査社.(2015).文部科学省委託研究「家庭や学校における生活や意識等に関する調査報告書」.

Cowan, P. A., & McHale, J. P.(1996). Coparenting in a family context: Emerging achievements, current dilemmas, and future directions. New Directions for Child and Adolescent Development, 74, 93-106.

Feinberg, M. E.(2003). The internal structure and ecological context of coparenting: A framework for research and intervention. Parenting: Science and Practice, 3, 95-131.

Minuchin, S.(1974). Families and Family Therapy. Cambridge, MA: Harvard University Press.

加藤道代・黒澤泰・神谷哲司.(2012).母親の gatekeeping に関する研究動向と課題:夫婦ペアレンティングの理解 のために.東北大学大学院教育学研究科研究年報,61,109-126.

参照

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