自動車部品製造業の再編による経済波及効果の推計
―愛知県のトヨタ関連部品メーカーを中心に―
蒋 湧・暁敏・鈴木 伴季
Estimate the economical impacts of car parts industrial structure change A case study for Toyota related automotive parts manufactures within Aichi prefecture
Yong JIANG and Xiao Min and Tomoki SUZUKI
Abstract: Focus on the coming revolution in power technology, this paper takes TOYOTA car manufacture
and its parts suppliers located in Aichi Prefecture as an example, to investigate the eliminate auto parts caused by the evolution from fuel engine towards electric motor and estimate its negative economical impact to the regional economics.
Keywords:
自動車部品(automotive parts)、個体データ(individual data)、探索的データ解析(exploring
data analysis)、産業連関分析(input-output analysis)、マイナス影響(negative effects)1. はじめに
自動車産業界では、エンジンから電気モーターへ 移行するという動力技術革命が到来しようとしてい る。その際、エンジン関連部品の淘汰はもはや避け られなくなってきており、愛知県内に自動車製造業が 高度に集積しているため、このような動向は、同県 の経済に大きな影響を与えることが予想される。
よって本研究は、動力技術革命に伴って淘汰され る可能性の高い部品に焦点をあて、これらの部品が 消滅していくことによる、愛知県の経済に与えるマ イナスの経済波及効果および空間的影響を推計する ものである。
2. 研究手法の概要
近年、空間解析は、村山氏と柴崎氏の強調するよう に、①時空間情報の融合、②非集計的な思考、③デー タ駆動型へと進展している(村山・柴崎氏(2008))。
そこで本研究では、Individual-based Model を用いて、
データ駆動の考え方を取り入れた研究手法を試みた。
Individual-based Model
は、各々の個体の局所的な性
質と相互作用から、広範囲の集団行動パターンを探る モデルである。本モデルは、動物の群れのコンピュー タシミュレーションモデルとして提案され、近年、生 態学、環境評価、生物学などでの応用が多く、都市構 造の空間解析にも応用されている(Michael Batty, et al,
2010)。本研究における
Individual-based Modelは
Individual Factors、Individual Relationship、Group Activitiesと
Social Influence
、4 つのフェースによって構成される
(図-1)。フェース
1と
2において、製造工場の個票 情報を元に、スキャナー、
OCRとテキストマイニング を含めた一連の処理工程を経て、個体データとデータ 間の関連を抽出した。それらのデータは独自のシステ ムを通して、自動的に産業データベースに格納される。
アドレスマッチングは、東京大学空間情報科学研究セ
ンターの
Geocodingサービスを利用した。図-2 に示し
た工程を経て、トヨタ自動車関連の自動車部品製造業 の
816会社、1355 所属工場と
3223の部品ユニットの 個体データを収集した。
蒋 湧 〒441-8552 愛知県豊橋市町畑町 1-1 愛知大学 三 遠 南 信 地 域 連 携 セ ン タ ー Phone: 0532-47-4157 E-mail: [email protected]
図-1 Individual-based Model の基本コンセプトを用いた研究手法
図-2 個体データ収集の工程図
フェース
3においては、収集した個体データに、
様 々 な 統 計 デ ー タ を 加 え 、 探 索 的 な デ ー タ 解 析
(EDA)手法を用いた産業集積に関する空間分析を行 った。フェース
4では、淘汰される可能性の高い部品 を絞って、生産縮小規模の推計、産業連関表を用い たマイナス経済波及効果の算出と誘発効果の空間表 現を試みた。
3 自動車部品産業の集積に関する空間分析 本研究は、2005 年度愛知県内におけるトヨタ自動 車グループと関連自動車部品製造業に限って分析し ている
1。
3.1 出荷額の推計
企業のプライバシー保護のため、個票データに工 場の「出荷額」は記載されていない。図-3 はそのため 行った「工業統計メッシュデータ」を用いた工場出荷 額の推計方法を示している。
図-3 工場出荷額の案分計算
1
「
工業統計メッシュデータ」と産業連関表において、現 時点で取得できる最新の統計データは2005年度に限る。元データ スキャナ&OCR Excel File
Text Mining System (自作) 産業データベース
Social Influence
Group Activities
Individual Relationship
Individual Factors
Model Concept Mission Method Data
1 2
3 4
個体データの収集 Text Mining 「トヨタ自動車グループの実態」
工業統計メッシュデータ 産業データベース
の構築
オブジェクト指向
のデータ構造設計 なし 産業立地の
空間解析
探索的な
データ解析 道路網 経済波及効果
の推計
産業連関分析 GIS 空間表現
産業連関表 国勢調査データ
工業統計メッシュデータ
ここでは「輸送用機械器具製造業」の統計メッシ ュデータを 用いてメッシュごとの従業者当たりの出 荷額を算出する。そしてメッシュにおとされた工場
(点)の従業者数との掛け算で、工場出荷額の案分値 が得られる。本研究で収集した愛知県内の 723 企業デ ータは、主に 1 次と 2 次部品サプライヤーの個体デー タであり、事業所数、従業者数、出荷額の 3 つの指標 において、それぞれ愛知県における「輸送用機械器具 製造業」総額の 32.6%、94.4%、86.2%に達した。
3.2 産業集積地域の特定
産業集積地域の特定は、 (1)工場の出荷額におけ る空間クラスターの検出、 (2)検出された空間クラス ターに対する経済的な意味合いの検証、の 2 つのステ ップで行った。
図-4 出荷額における産業集積地域の特定 空間クラスターは、工場出荷額における 4 キロ検索 範囲のカーネル密度推定(Kernel Density Analysis)に よって検出された。図-4 に示した集積範囲は、カーネ ルラスタ密度値の上位
30%の範囲である。この集積地域の面積は愛知県全域の 17%であるが、愛知県内のト ヨタ自動車の 4 つの完成車組み立て工場が含まれ、愛 知県の自動車部品製造業出荷額の 44%、 従業者数の 43%
を占めている。また、集積地域の産業構造について、
輸送用機械器具製造業 51%、鉄鋼業 15%、一般機械器 具製造業 14%、金属製品製造業 6%、プラスチック製品 製造業 5%、食料品製造業 3%、電機機械器具製造業 3%
となっている。食料品製造業を除く、約 92%の集積地 域の産業は自動車製造業に関連している。
図-5 Hot Spot と
Cold Spotについて 図-5 には、工場出荷額における空間相関分析の結果 を示す。Hot Spot Analysis の結果をカーネル密度で視 覚化し、大型企業と中小企業の集積地域を特定した。
安城市、刈谷市と西尾市を含む赤い地域(Hot Spot)
においては、県内 300 人以上の大型企業の 45%が集中 している。一方、名古屋市を中心とする青い地域(Cold
Spot)では、9 人以下の中小企業の 27%を占めている。3.3 部品調達圏の特定
トヨタ生産方式の JIT(Just in Time)生産システ ムに支える道路網と部品調達圏の空間分析において、
県内 4 つの組み立て工場から各部品工場までの 20 分、
40 分、60 分の調達圏を特定し、調達圏ごとの産業集 積度と各種の部品生産分布を調べた(図-6) 。 20 分、40 分、60 分の調達圏において、それぞれ従 業者数の 27%、71%、97%を、出荷額の 26%、69%、98%
の集積度を達した。また、エンジン本体関連の部品の 約 40%が 20 分圏内、約 95%以上が 40 分圏内で生産 されていることが明らかとなった。
4 経済波及効果の推計
自動車動力の技術革命によって淘汰される可能性
の高い部品は、本研究で開発した部品データベースか
らエンジン系統、電装・電子系統と駆動系統部分の 3
系統から 151 ユニットを選定した。これによると 79
工場の 8 万 8 千の従業者と 3.6 兆円の生産規模の縮小 が予想される。それは、2005 年度愛知県自動車産業生 産の従業者数の 17%、出荷額の 34%を占めている。
図-6 道路網と部品調達圏
3.6
兆円の生産規模は、
24部門の工業統計にある「輸 送用機械器具製造業」を元に推計した結果である。そ れを
189部門ある愛知県産業連関表の中で「自動車部 品」部門に換算すると、約
2兆円の生産規模になる。
この「自動車部品」部門における
2兆円の減産額を誘 発要因として、負の波及効果を試算した。結果、生産 誘発額は約
6兆円になり、付加価値と雇用者所得への 誘発額も合算すると、約
8兆円のマイナス波及効果に なる。
図-7 波及効果の可視化と波及範囲の特定 更に、誘発額の高い
25部門を調べると、最も影響を 受ける製造業は、①自動車部品自身、②プラスチック
製造業、③産業用電機製造業、④金属加工業と判明し た。また
GISを用いた誘発効果の可視化を試みた(図
-7)。赤い範囲の自動車部品産業は誘発源として、茶色のプラスチック製造業へ、オレンジ色の産業用電機製 造業へ、緑色の金属加工業へ、誘発効果のイメージを 表現した。それぞれの誘発範囲は、工業統計メッシュ データを用いて特定した。この結果は、今後、マイナ ス誘発効果が地域経済に与える影響の推計に活かす ことができる。
5. おわりに
Individual-based Model
の基本概念を用いて、本研究
は各々の個体(企業)データの局部的な属性と関連性 をベースに、個体集団(産業)の行動パターンや空間 相関性を分析し、他集団(他産業)への影響の定量化 を試みた。本研究の問題点として、(1)研究範囲を 2005 年度、愛知県内のトヨタ自動車を関連する自動車部品 製造業に限ったこと、(2)マイナス波及効果だけを論 じたこと、(3)淘汰される可能性の高い部品が 151 ユ ニットしか検定されていないこと、がある。今後の研 究活動においてこれらの改善を目指している。
謝辞
本研究は
2010年度文部科学省私立大学戦略的基盤 研究の「地域に根差した研究」プロジェクトである「三 遠南信地域における地域連携型
GISに関する研究」の 研究補助を受けている。なお、本研究のデータ整理の 作業において、梶原純子と伊藤まり子の両氏に多大な ご協力をいただいた。ここに深謝の意を表する。
参考文献
1. 村山祐司・柴崎亮介 (2008):『GIS の理論(シリ ーズ GIS)』,朝倉書店.
2. Michael Batty, Bin Jiang, Xiaobai Yao,(2010):
Geospatial Analysis and Modelling of Urban Structure and Dynamics. Springer-Verlag.