Ⅰ.現在の子どもの齲蝕と社会背景
時代とともにわが国の社会構造は大きく変化してお り,特に子どもをもつ家庭環境の変化は小児歯科領域 における齲蝕罹患の状況を変容させている。近年の調 査によれば,齲蝕有病者率や一人平均齲歯数等,小児
の齲蝕は減少している(
図1〜4)
1,2)。しかし,これ らの数字はあくまでも集団の平均値であり,多数歯の 齲蝕をもつ小児も依然として認められ,都道府県別に みると一人平均齲歯数に4倍以上の地域差が存在する ことも事実である(
図5)
3)。子どもの口腔内の状況 は家庭環境,すなわち保護者の養育態度を示すもので
TheTopicsofPediatricDentistryWhichMedicalWorkersforChildrenShouldKnow ShigenariKimoto
神奈川歯科大学大学院歯学研究科口腔統合医療学講座小児歯科学分野
%
(厚生労働省歯科疾患実態調査より作成)
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100
1歳 2歳 3歳 4歳 5歳 6歳
昭和62年 平成5年 平成11年 平成17年 平成23年 平成28年
図1 年齢別齲蝕有病者率(乳歯)
%
(厚生労働省歯科疾患実態調査より作成)
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100
5歳 6歳 8歳 10歳 12歳
昭和62年 平成5年 平成11年 平成17年 平成23年 平成28年
図2 年齢別齲蝕有病者率(永久歯)
(厚生労働省歯科疾患実態調査より作成)
0.34 1.34 3.91 5.89 7.48 7.7
0.26 1.39 3.18 4.29 6.21 7.07
0.02 0.78 2.08 2.48 3.73 5
0.03 0.38 0.89 2.88 2.33 3.66
0.2 0.63 1.5 2.77 1.84
0.3 0.3 0.9 1.7 2.4
1歳 2歳 3歳 4歳 5歳 6歳
昭和62年 平成5年 平成11年 平成17年 平成23年 平成28年
図3 年齢別一人平均齲歯数(乳歯)
(厚生労働省歯科疾患実態調査より作成)
0.1 0.4 1 1.8 2.7 3.4 3.7 4.9
0.1 0.2 0.9 1.5 2.2 2.8 3.6 3.6
0.2 0.4 0.9 1.1 2.3 2.2 2.4
0.2 0.2 0.5 0.9 0.9 1.6 1.7
0.1 0.3 0.4 0.5 0.7 1.4
0.24 0.84 0.61 0.80 0.83
5歳 6歳 7歳 8歳 9歳
昭和62年 平成5年 平成11年 平成17年 平成23年 平成28年
10歳 11歳 12歳
図4 年齢別一人平均齲歯数(永久歯)
総 説
小児医療従事者として知っておきたい 小児歯科のトピックス
木 本 茂 成
あることは明確な事実である。特に齲蝕は生活習慣病 と同様に環境要因により発生する疾患であるため,そ の罹患状況は家庭での食生活ならびに健康行動そのも のを示している。
社会構造の変化は核家族化と共働き家庭の増加を生 み,加えて離婚率の上昇によるひとり親世帯の増加は,
その結果として保護者の子どもに接する時間を減少さ せている。平成28年厚生労働省の国民生活基礎調査
4)によれば,児童のいる世帯の母親は67.2%が何らかの 仕事に従事しているが,その半数以上は非正規の職員 や従業員となっている。また,同調査によれば,児 童のいるひとり親世帯は全世帯の6.9%を占めており,
そのうちの80%以上が母子家庭となっている。そのた め,養育に関する経済的な負担から子どもの貧困を生 み,わが国の社会問題の一つとなっている。
特に都市部においては核家族化の進行と,共働き世 帯やひとり親世帯における養育環境の変化から,子ど もの間食の内容や摂取方法の管理が困難である場合が 多く,また就寝前の仕上げ磨きが必要な幼児期から学 童期の前半においても,保護者による口腔清掃が十分 に実施されず,口腔環境の悪化を生じているケースが 少なくない。また,そのような子どもでは,多数歯に わたる進行した重症齲蝕症例が珍しくなく,虐待を疑 うような状態も一部に見受けられる。
その一方で,定期的に歯科を受診している子どもに おいても口腔内の状況が不良であるケースが見受けら れる。通常,大都市近郊に居住し,両親の健康行動へ の関心の高い家庭においては,歯科受診を開始する年 齢が低く,定期健診への受診率が高いことが多いため,
齲蝕の発生は少ないと考えられる。しかしながら, ﹁小 児歯科﹂を標榜しながら,﹁小児歯科専門医﹂の資格
を持たず,小児歯科に関する専門的知識や技能のレベ ルの低い開業歯科医へ受診している子どもの中には,
許容される水準の治療を受けていない者も少なくな い。
Ⅱ.子どもの未処置齲蝕の現状
最近の調査によれば,学校歯科健診で要受診と診断 された児童・生徒で未受診の子どもの割合は,小学生 で40~50%,中学生で60~70%となっている
5,6)。受 診しない理由としては,﹁歯科治療に対する親の意識 の低さ﹂,﹁ひとり親世帯であること﹂や﹁親の仕事の 都合﹂など家庭環境によるものが最も多い。また,一 部経済的理由も挙げられているが,実際には自治体に より福祉医療制度の範囲が異なるため,直接の理由と している数は比較的少ない。その一方で,ひとり親世 帯の80%以上で母子家庭となっている現状により,仕 事を休むことができないという理由から受診が困難と なるケースが多い
7)。また,口腔内に未処置齲蝕が10 歯以上存在する,いわゆる﹁口腔崩壊﹂の状態にある 児童・生徒がいる割合も小学校で40%以上,中学校で 約4割であり,一人平均齲歯数や齲蝕有病者率のみ では表面化しない子どもの存在も看過できない状況 となっている。平成29年度学校保健統計調査によれ ば,12歳児の一人平均齲歯数は0.82歯となっている が(
図6)
8),一方で学校歯科健診が毎年実施されて いるにもかかわらず,児童・生徒の約2割は未処置齲 蝕を有するという現状からも,子どもの口腔内の状況 は二極化していることがうかがえる(
図7)。
子どもの口腔の状態は家庭環境のみならず,社会環 境をも反映しているが,現代の少子高齢社会において,
高齢者の介護には手厚い医療サービスが届けられてい る一方で,人口に占める割合が少数なために最大の弱 者となっている子どもの現状を示しているといえる。
特に保護者が子どもに適切な医療を受けさせないこと が,ある種の虐待(医療ネグレクト)であることを認 識していない親もおり,今後,小児歯科医療を提供す る歯科医師が積極的に関わりをもち,保護者への啓発 を行うべき存在であると考えられる。
平成12年に児童虐待防止法が施行されてから,児童 相談所への虐待に関する相談件数は増加の一途をたど り,平成28年度では年間122,575件に上り,法律施行 前の平成11年度の10倍以上となっている
9)。相談件数 として表面化しているものは氷山の一角であり,日常
0 1 2 3 4
全 国 新
潟岐 阜静
岡埼 玉富
山長 野愛
知滋 賀岡
山山 形東
京神 奈 川 京 都兵
庫和 歌 山 広 島山
口佐 賀秋
田千 葉奈
良島 根岩
手群 馬大
阪香 川愛
媛高 知長
崎宮 崎北
海 道 茨 城栃
木石 川山
梨福 岡熊
本宮 城福
島福 井三
重鳥 取青
森徳 島鹿
児 島 大 分沖
縄
(平成28年度学校保健統計調査より作成)
0.4
1.9
(歯)
図5 12歳児の一人平均齲歯数(都道府県別)
では毎日のように子どもの虐待に関するニュースが報 じられている。平成29年6月,国会において児童虐待 防止法が一部改正されたことにより,平成30年 4 月よ り施行される同法においては,﹁医師﹂とならび﹁歯 科医師﹂も虐待を発見する役割を担うことが明記され た。歯科医師は子どもの齲蝕の状態や口腔内に放置さ れた外傷の状態から,ネグレクトや身体的虐待の兆候 を発見できる最前線に立つ職種の一つであり,その社 会的責任は大きいといえる。
Ⅲ.子どもにおける齲蝕以外の歯科的問題
1.永久歯の先天性欠如について
齲蝕以外にも現在の小児における注意すべき問題と して,永久歯の先天性欠如がある。日本小児歯科学会 の平成21年の調査報告によれば,1985年以降に出生し た小児の約10%に1歯以上の永久歯先天性欠如が認め られている
10)。特に第二小臼歯の欠如の割合が最も高 く,先行乳歯である第二乳臼歯をできるだけ健全歯と して保存することが重要である。約10人に1人の小児
に永久歯が欠如していることを考慮すると,乳歯列が 完成し,第三大臼歯を除く永久歯がすべて石灰化を開 始している3歳から学童期の前半にパノラマエックス 線写真を撮影し,永久歯歯胚を確認することは,その 後の小児の口腔管理への対応を大きく左右する手順と なる(
図8)。
2.不正咬合の増加
さらに歯科疾患実態調査によれば,12~20歳におけ る不正咬合は先進国の中では依然として多い状態であ り,平成28年の調査によれば,全体の 1 / 4 以上で歯 列に叢生が発現している(
図9)
1,2)。その原因として,
乳歯齲蝕の放置や早期喪失による永久歯萌出スペース の不足がある。これに対しては,乳歯の齲蝕を予防 し,適切な時期に正常な永久歯への交換を導くための 管理を行うことで対応可能である。その一方で,近年 小児のアレルギーの増加と関連する口呼吸や異常嚥下 など,成長発育期における口腔機能の異常が不正咬合 の原因となっているケースが少なくない。これに対し
(学校保健統計調査より作成)
4.75 4.63 4.58 4.51 4.35 4.30 4.30 4.29 4.17 4.09 4.00 3.72 3.51 3.34 3.10 2.92 2.65 2.51 2.28 2.09 1.91 1.82 1.71 1.63 1.54 1.40 1.29 1.20 1.10 1.05 1.00 0.90 0.84 0.82
図6 12歳における一人平均齲歯数(永久歯)の推移
(平成28年度学校保健統計調査より作成)
年 齢(歳)
%
0.00 10.00 20.00 30.00 40.00 50.00 60.00 70.00 80.00 90.00 100.00
5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17
処置終了者 未処置のある者
齲蝕のある者の割合
図7 年齢別齲蝕のある者の割合の推移
*矢印に示す部位で上顎側切歯の歯胚が欠如している(8歳児)。
図8 パノラマエックス線写真
(上顎両側側切歯先天性欠如症例)
(歯科疾患実態調査より作成)
(%)
13.4 18.0 13.7 13.4 14.8
8.5
12.5 13.4 16.7
6.6
20.3 13.0
12.9
11.3
0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50
上下顎とも 下顎のみ 上顎のみ
*昭和44年,56年は上顎・下顎含めて全体の割合を示す。
* *
図9 不正咬合(叢生)の発現率の推移
て,避けなければならないのは,﹁様子をみましょう﹂
という言葉に代表される,長期に及ぶ不作為である。
小児の場合,成長発育過程の適切な時期に適切な対応 をとることが必要であり,成人における長期間の﹁様 子をみる﹂行為は取り返しのつかない状況を招くこと になるからである。
成長発達期の口腔機能の異常は,成長終了後の骨格 性不正咬合の原因となる。乳歯列の顎偏位や逆被蓋,
異常嚥下癖や吸指癖などの口腔習癖,習慣性のものや アレルギーや扁桃肥大に起因する口呼吸などは,早期 の診断と対応が可能な小児歯科専門医の受診を勧める べきである。
3.歯ブラシによる事故について
子ども,特に歩行運動の熟達していない低年齢児に おいては,口腔顔面領域の外傷の好発する時期である。
歯ブラシを子どもが口にくわえたまま歩いたり,走っ たりした状態で転倒することで口腔内を損傷する可能 性があり,その危険性についてはこれまで繰り返し注 意喚起が行われてきた。また,口腔咽頭部は脳に近い ことから,中枢神経系組織を損傷する危険性があるこ と,さらに日常使用している歯ブラシには相当量の細 菌が付着しており,重篤な感染症を引き起こす危険性 も指摘されている
11~14)。しかしながら,東京都商品等 安全対策協議会が消費者庁国民生活センター,国立成 育医療研究センター,東京消防庁等の協力を得て実施 し,平成29年 2 月に公表されたた実態調査の報告書
15)によれば,子どもの歯ブラシによる事故の発生件数は 減少していない(
図10)。
年齢月齢別の事故発生件数によれば,1歳半から2 歳までの事故が最も多く,全体の約 3 割を占めており,
次いで1歳前半と2歳前半がそれぞれ全体の約2割で ある。 1 ~ 2 歳の時期は一人歩きを始めてから歩行運 動が熟達するまでの期間であり,乳歯外傷の好発年齢 と一致している。特に 1 歳半から 2 歳までの時期は損 傷の程度も中等症異常の受傷が最も多い時期でもある
(
図11)。この時期は第一乳臼歯の萌出とともに離乳の 完了期を迎え,幼児食への移行とともに,齲蝕予防の 観点から歯ブラシによる口腔清掃が必要不可欠となる 時期でもある。一方,受傷要因別にみてみると,1
~ 3 歳までの歯ブラシによる口腔損傷の原因では転 倒が最も多く,次いで衝突,転落の順となっている
(
図12)。この時期の受傷要因の約6割が転倒であり,
歩行運動の未熟な幼児期の初期に,歯ブラシをくわえ させたまま歩行させることの危険性が現れている。
近年,歯ブラシを製造する各企業から,歯ブラシに よる口腔軟組織の損傷を予防するため,さまざまな製 品が製造,販売されている。一方で,消費者庁や国民 生活センターなどにより,歯ブラシによる事故に関す る注意喚起が繰り返し行われてきたが,歯ブラシによ
(子供の歯ブラシの安全対策‑東京都商品等安全対策協議会報告書‑.2017より作成)
39
33 36 33 37
6
9 2 6
2 9
1
0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50
平成23年 平成24年 平成25年 平成26年 平成27年 重症 中等症 軽症
(件)
45件 44件
38件 40件
46件
図10 歯ブラシによる事故の発生件数の推移
(子供の歯ブラシの安全対策 −東京都商品等安全対策協議会報告書−.2017より作成 )
(件)
19 29
17
10 9
2 5
3 7
5
5 2
2 1 0
5 10 15 20 25 30 35 40
中等症 軽症
1件 22件
36件
22件
15件 11件
4件 6件
3件
0歳6〜11か 月
1歳6〜11か 月 1歳0〜5か月
2歳0〜5か月 2歳6〜11か
月
3歳6〜11か 月 4歳
5歳 3歳0〜5か月
図11 年齢月齢別事故件数
(子供の歯ブラシの安全対策−東京都商品等安全対策協議会報告書−.2017より作成)
4
101
64
24
5 5
17
11
8
2 2
1
32
15
10
5 4
2
2
1
1
10
7
1
3 0
20 40 60 80 100 120 140 160 180
0歳 1歳 2歳 3歳 4歳 5歳
不明 その他 衝突 転落 転倒
(件)
図12 受傷要因別事故件数(年齢別)
る口腔領域の事故は減少していない。小児の歯科口腔 保健の向上に従事するわれわれ小児歯科専門医にとっ て,口腔環境の改善,歯垢除去の主要なツールである 歯ブラシが外傷の原因となってしまうことは憂慮すべ き状況である。
平成25年3月に消費者庁国民生活センターから,保 護者への子どもの歯ブラシによる事故防止のため,乳 幼児の歯ブラシによる事故の事例について細かく紹介 されている
16)。また本来,歯科口腔保健を支えるツー ルである歯ブラシが子どもの外傷の原因となることを 防ぐため,日本小児歯科学会では歯磨きに関する啓発 用のリーフレットを作成し,小児保健関連施設に配布 しており,日本小児歯科学会ホームページからもダウ ンロード可能である
17)。
このような事故を防止するためには,歯ブラシによ る効果的な口腔清掃を開始する生後1年以降での保護 者への啓発が最も重要であり,子どもが一人磨きを開 始する1歳半頃からは,事故防止のための安全対策を とったデザインまたは材質の歯ブラシを選択すること が,歯ブラシによる事故を防ぐための有効な方策の一 つである。それには市町村や小児科を含め,保育関連 職種との連携により,1歳6�月児歯科健診の際に,
保護者に対する口腔清掃指導とともに,ポスターや リーフレットを使用して﹁子どもの一人磨きの条件(環 境と使用する歯ブラシ等)﹂についての注意喚起を確 実に行うことが最も効果的な事故防止対策といえる。
4.子どもの食の問題について
近年,歯科臨床において幼児期の子どもをもつ保護 者から,食の問題に関する相談を受けることが増加し,
定型発達を示す子どもにおける食の問題が顕在化して きた。このような状況から日本歯科医学会では,摂食 機能障害や摂食の問題で困っている子どもたちとその 親へのサポートに貢献することを目的として調査を 行った
18)。この調査は,﹁小児歯科﹂を標榜する診療 所における歯科医師と幼稚園・保育園に通園する子ど もの保護者を対象として,アンケート用紙により実施 したものである。
歯科医師を対象としたアンケートの結果,ほとんど の歯科医師が﹁子どもの噛み合わせ﹂に関する相談を 受けている一方で,約 6 割の歯科医師が保護者から﹁子 どもの食の問題﹂に関する相談を受け,また1/3の 歯科医師が﹁子どもの摂食嚥下﹂に関する相談を受け
ていた(
図13)。
大部分の歯科医師は子どもの食の問題について改 善に向けた対応をとるべきであると考えているが,
実際に改善に向けて対応している歯科医師は44.7%と 半数に満たない割合であった(
図14)。そして,子ど もの食の問題の改善に向けて,歯科医師として対応 すべき内容として,﹁咀嚼について﹂が最も多く,そ のほか間食など食育に関連して食習慣を含めた食べ 方の問題,摂食・嚥下に関する問題が挙げられてい た(
図15)。
一方,同調査では,保護者が抱える子どもの食に関 する心配事について,以下のように﹁子ども側の要因﹂
と﹁保護者側の要因﹂とで検討している。
保護者が感じている﹁子ども側の要因﹂としては, ﹁偏 食﹂,﹁食べるのに時間がかかる﹂,﹁むら食べ﹂,﹁遊び 食べ﹂が多かった。﹁偏食﹂は,好き嫌いといった嗜 好的なことから,栄養状態に影響するほどの病的なも のまで幅広いが,自分の作ったもの,用意したものを 食べてくれないということが,最も親の心配事,スト
(「子どもの食の問題に関する調査」報告書.日本歯科医学会重点研究委員会,2015.より作成)
全体 (n=712)
(相談内容)
60.1 34.8
42.6
99.2 67.4
39.7 64.9
56.6
0.7 32.4
0.1 0.3 0.8 0.1 0.1
0%
子どもの食の問題に関する相談 子どもの摂食・嚥下に関する相談 摂食・嚥下障害に関する相談 子どもの噛み合わせに関する相談 咀嚼に関する相談
はい いいえ 無回答
10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%
図13 歯科医師に対する食に関連する相談の有無
83.4 15.4
1.1
0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%
歯科医師として 改善すべきか
はい いいえ 無回答
44.7 30.6 21.2 3.5
0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%
改善に向けて 対応をしているか
はい いいえ(取り組む予定あり) いいえ(取り組む予定なし) 無回答
(「子どもの食の問題に関する調査」報告書.日本歯科医学会重点研究委員会,2015.より作成)
図14 子どもの食の問題について歯科医師としての改 善に向けた対応
レスになっていることが示された(
図16)。
﹁保護者側の要因﹂としては,﹁子どもが食べやすい 食事の作り方がわからない﹂が最も多く,ほぼ同程度 に﹁忙しくて手をかけてあげられない﹂がみられ,次 いで﹁食事を作るのが苦痛・面倒﹂,﹁食事をゆっくり 食べさせる時間がない﹂が多くみられた(
図17)。
以上のように,保護者がむし歯以外で歯科医師に相 談した内容の中で,咀嚼については非常に少なかった にもかかわらず,歯科医師が相談を受けた内容では,
咀嚼を意味する﹁よく噛まない﹂が最も多かった。保 護者が実際に困っているのは,育児の辛さや悩みであ り,また具体的には料理に関することも多く挙げられ ているようであるが,歯科医師に訴える際には料理が 負担になっている部分は隠されており,子育てがうま くいかないことについての訴えが多かった。
歯科医師が子どもの食の問題の支援者になるために は,歯科医師自身が咀嚼機能向上のための担い手であ ることについて,国民への啓発活動を行うことが必要 である。それには,親子関係を含めた食の問題につい て幅広い知識と,その解決策を有するべきである。そ して,咬合や摂食嚥下障害の問題など,専門性の高い 対応が可能となるよう,多職種と連携して地域におけ るネットワークシステムを構築することを目標とすべ きである。現在,日本歯科医学会において小児の口腔 機能の発達を歯科的な視点から評価する指標を作成し ている。子どもの口腔機能の発達と歯列・咬合の育成 は表裏一体であり,食生活全般の支援を行う体制作り が必要である。また,子育て支援体制の構築には,小 児保健に関わる多職種連携,さらに教育機関・医育機 関,行政との連携が必要不可欠である。
Ⅳ.医療における小児歯科の役割の変化について
近年,歯科領域における社会のニーズは変容し,齲 蝕や歯周病といった従来からの歯科疾患以外に口腔機 能の障害への対応を求められている。特に高齢者の摂 食嚥下機能低下に対するリハビリテーションは,現在
n=454
(複数回答あり)
9.0%
1.1%
2.2%
2.9%
4.4%
4.4%
4.6%5.1%
5.7%
6.8%
8.4%
8.6%
9.0%
16.1%
16.1%
22.7%
28.4%
28.6%
31.5%
41.4%
0% 10% 20% 30% 40% 50%
その他 よく吐く 特になし/無回答 食欲がない 食べるのを嫌がる 消化が悪い早食い 食べすぎる 口から出す アレルギー体質 ちらかし食い 朝食を食べないことがある お菓子やジュースばかりで食事が食べられない よくかまない 小食 テレビなどを見ながら食べる 遊び食い むら食い 食べるのに時間がかかる 偏食する
(「子どもの食の問題に関する調査」報告書.日本歯科医学会重点研究委員会,2015.より作成)
図16 保護者の子どもの食に関する心配事
(子ども側の要因)
n=454
(複数回答あり)
5.7%
0.9%
2.9%
4.0%
4.8%
5.9%
9.5%
11.5%
11.9%
16.7%
17.2%
0% 10% 20%
その他 相談する人がいない 食べさせるのが苦痛・面倒 夫(または妻)が協力してくれない ほかの家族と子育ての方針が異なる いろいろな情報に振り回される 食事を作っている時間がない 食事をゆっくり食べさせる時間がない 食事を作るのが苦痛・面倒 忙しくて手をかけてあげられない 子どもが食べやすい食事の作り方がわからない
(「子どもの食の問題に関する調査」報告書.日本歯科医学会重点研究委員会,2015.より作成)
図17 保護者の子どもの食に関する心配事
(保護者側の要因)
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図18 ライフステージにおける小児歯科専門医の役割
(件)
n=428
(複数回答あり)
11 12 13
15 15 16 18
20 24
28 30
34
65
0 10 20 30 40 50 60 70
姿勢に関すること 行政等による指導 軟食関連 食事内容 甘味料(砂糖等)に関すること 栄養関連(栄養指導・栄養バランス等)
学校・保育園等への啓発活動 摂食・嚥下に関すること 食生活関連 食育関連 保護者への啓発活動等 間食関連(おやつ・ジュース等)
咀嚼関連
(「子どもの食の問題に関する調査」報告書.日本歯科医学会重点研究委員会,2015.より作成)
図15 子どもの食の問題の改善に向けて歯科医師とし て対応すべき内容
の歯科医療の分野において最も重要な事項の一つを占 めているといえる。しかしながら,高齢者の口腔機能 の低下を予防し,青壮年期における健全な口腔機能の 維持を図るためには,さらに遡って成長期における健 全な口腔機能の育成が必要不可欠である。口腔は﹁食 べる﹂, ﹁話す﹂ならびに﹁呼吸する﹂ための機能を担っ ており,その基本的機能は学童期までの間に獲得され るべきである(
図18)。
Ⅴ.社会における小児歯科専門医の役割
現在の小児歯科医療は乳歯の齲蝕を治療することが 主体であった30年前とは様相が異なってきている。齲 蝕の予防と治療は最終的に健全な口腔機能を獲得する ための歯列・咬合と育成するうえでの一つの手段に過 ぎず,その前提に小児を一人の人間として捉え,その 背景にある保護者の養育態度や家庭環境についても考 慮する診療科であり,小児歯科専門医はソーシャル ワーカーとしての役割も担っている。
現在,全国の歯科医院のうち小児歯科を標榜する歯 科医院は4万件を超えているが,日本小児歯科学会会 員となっている歯科医師は約4千名であり,そのうち 学会が認定する﹁小児歯科専門医﹂は1,100名余りと なっている。小児歯科専門医が常時在籍している歯 科医院は,小児歯科という看板を掲げる歯科医院の 約1/40程度にすぎない。さらに,小児歯科専門医は 大都市周辺や大学に集中していることもあり,その分 布は地域間で大きな差があり,小児歯科専門医のまっ たくいない市町村も少なくない。そのため小児歯科学 会認定の小児歯科専門医の認知度は低く,小児歯科を 標榜する歯科医師と小児歯科専門医の区別がつく保護 者は2割に満たない(
図19)
19)。その一方で,幼稚園 児の子どもをもつ保護者の約2/3は,子どもの﹁か かりつけ歯科医﹂を決めている(
図20)。従って,小 児歯科の診療は標榜医が行うことがほとんどであり,
口腔機能や歯列・咬合の育成に対して,かかりつけ歯 科医としての小児歯科標榜医の果たす役割は大きい。
齲蝕の治療のみならず,口腔機能の異常や歯列・咬合 の育成を妨げる習癖や口呼吸などを早期に発見し,専 門医による精密な検査と診断を受けさせるように紹 介することも,小児歯科標榜医の役割である。このよ うに地域におけるかかりつけ歯科医と小児歯科専門医 は,小児患者に対する役割を分担しながら,健全な歯列・
咬合および口腔機能の育成に努めることが望ましい。
近年,小児の齲蝕が減少している一方で不正咬合は 増加しており,その原因は歯冠幅径と歯槽部の大きさ との不調和であることが多い。成長期における不正咬 合の放置は歯列完成後,口腔清掃性の低下を招き,青 年期以降に齲蝕や歯周病の誘因となる。そのほか機 能性反対咬合や上顎歯列弓幅径の狭窄,さらに顎偏 位など,口腔機能の異常が引き金となって生じる不 正咬合は,その原因を早期に発見し,成長発育終了 後の骨格的不正咬合の成立を防ぐことが最も重要な 対応となる。
これからの小児の歯科医療において,以下のような ケースは専門医への紹介が望ましい。
1.早期に重症の齲蝕が多数歯に生じている場合
保護者の歯科治療に対する意識が低く,治療のみで は対応が不十分であり,養育態度に問題があることが 多く,保護者への啓発と食生活を含めた生活習慣の改 善が必要となる。カリエスリスクが高いため,可能で あれば永久歯萌出前の対応が望ましい。
知らない85.0 % 知っている
14.2 % 回答なし 0.8 %
(簑島ら,小児歯科学雑誌 50巻 2号,2012年より引用 ) 対象:幼稚園児(3〜5歳)の保護者 (127名)
図19 小児歯科専門医に関する認知度
68.5 % 8 . 7 %
3 . 1 %
19 . 7 %
ある
どちらともいえない ない
回答なし
(簑島ら,小児歯科学雑誌 50巻2号,2012年より引用)
対象:幼稚園児(3〜5歳)の保護者(127名)
図20 子どものかかりつけ歯科医の有無
2.口腔習癖による歯列の形態異常や顎偏位・逆被蓋変 化などが生じている場合
口呼吸や異常嚥下癖による舌と口腔周囲筋のアンバ ランスにより,顎骨や歯槽部の成長方向の異常を招く ため,早期に機能を改善する必要がある。逆被蓋や顎 の偏位がある場合には特に早期の対応が必要となる。
3.乳歯列期においてすでに歯列の叢生が認められる場合
乳歯列期にすでに前歯部に叢生が認められるケース では,確実に永久歯列期に叢生を生じるため早期の診 断が必要である。健全な歯列・咬合の育成のための検 査と診断に適した時期は第一大臼歯が萌出を完了し,
上下顎の永久切歯萌出期の7~8歳頃であり,専門医 による頭部エックス線規格写真と歯列模型による分析 が必要である。
以上のように,子どもの口腔内は保護者の養育態度 を含めた成育環境を如実に表しており,問題点を表出 する兆候を見逃さず,早期に対応することが,健全な 口腔機能の育成につながるのである。
Ⅵ.最 後 に
現在,本邦における子どもを取り巻く環境は先進国 の中にあって極めて特異な状況と言わざるを得ない。
幼少期からの実体験の乏しい状況下で年齢を重ね,成 人となって初めて厳しい現実に直面し,挫折を経験し ながら人間としての成熟を求められる。本来,少子化 の著しい状況下では,国民の保健,福祉,教育,医療 に関わる職種に従事する者のみならず,社会全体が子 どもの健全な成育環境を作るべきである。
文 献
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5)宮城県保険医協会.学校歯科治療調査結果報告.
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8)文部科学省.平成29年度学校保健統計調査.2017.
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19)簑島直美,小森令賀,横山三菜,菊池暁美,熊坂純雄,
大久保孝一郎,木本茂成.保護者による子どもの歯 科医院選択基準に関する傾向と特徴.小児歯科学雑 誌 2012:50(5):414︲422.