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「実はいい人」が好き? −幼児期における他者の属性評価と目撃状況との相互作用− [ PDF

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Academic year: 2021

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問題と目的 ヒトの協力行動は多くの場面で観察されるが、様々な 意味で特異である。Tomasello (2009) は、類人猿とヒト との違いを言及し、ヒトだけが有している協力行動の構 造は、個々人が役割を持って一つの目標に向かうことや、 共同注意や個々の視点から連携することだと指摘した。 したがって、ヒトは無差別的に、協力を行うわけではな い。ヒトは、協力相手にふさわしいと判断した相手に選 択的に協力を行う。それでは、協力相手の選別はどのよ うに行われているのであろうか? ヒトは、「自分自身に対して行われた行為」、「第三者 に対して行われた行為」、そして「人伝えの評判」から形 成される社会的評価を基に協力相手を選択している (Trivers, 1971; Nowak & Sigmund, 1989)。本研究は、この 中でも広範囲に及ぶ協力行動の進化を説明するメカニズ ムとして注目されている間接互恵と関わる「第三者に対 して行われた行為」と「評判」に注目した。 間接互恵においては、第三者に対して行われた協力行 動を観察していた観察者が、その行為者のことを肯定的 に評価する。その結果、別の機会に観察者から行為者に 対して協力が行われる可能性が高まる。したがって、他 者に協力することで良い評判を得ている個体は、他個体 から援助を受ける機会が増えるため、適応価が高まる (Fehr, 2004; Nowak, 2006; Nowak, 2012; Wedekind & Milinski, 2000)。援助行動はコストを伴う行為であり、評 判から獲得される利益がそのコストを埋め合わせている と考えられる。

また、ヒトは言語によって、直接観察していない他者 の評判を得たり、直接観察していない他者に評判を伝搬 したりすることも可能である (Iwasa & Ohtsuki, 2004)。つ まり、行為を実際に観察した観察者は 1 人であったとし ても、評判を介してその何倍もの人が評判を共有しうる。 したがって、良い評判を得ることは、行為者が適応価を 上げるためにより重要となり、評判獲得は行為者にとっ て一種の報酬として機能している (Watanabe, Takezawa, Nakawake, Kunimatsu, Yamasue, Nakamura, Miyashita, & Masuda, 2014)。 観察されることで評判は報酬となっていることから、 観察者の在・不在と協力行動の生起の関係によって、行 為者を 4 種類に分類することが出来る (Table.1)。理論上、 最小限のコストで評判を得ようとする戦略が進化しうる。 実際に、匿名性が保証されている状況では、ヒトはより 利 己 的 に 振 る 舞 う こ と が 分 か っ て い る (Izuma, Matsumoto, Camerer, & Adolphs, 2011; Bateson, Nettle, & Roberts, 2006)。「観察者の前だけで援助を行う個体」つま り、Hypocritical Helper は、「観察者の在・不在に関わら ず援助を行う個体」つまり Unconditional Helper よりも、 支払っているコストは少ないにも関わらず、後者と同等 の評判を獲得することができる。支払ったコスト以上の 利益が得られるという意味でこの戦略は行為者から見る と適応的である。しかし、これは観察者にとっては一種 の欺きであり、観察者はこのような戦略を用いる他者を 検出し、区別しなくてはならない。成人は、Hypocritical Helper に対して裏切られたような気分になり、否定的な 評価を下すであろうが、こういった否定的な評価は、欺 きに対するカウンターストラテジーとして、進化してき たと考えられる。 社会的評価の発達的起源や発達的変化に関しては、多 くの研究がなされている。生後 6 ヵ月という発達の初期 段階から、第三者に援助を行ったエージェントに選好を 示し (Hamlin, Wynn, & Bloom, 2007) 、幼児期になると、 第三者に向社会的に振る舞った相手に向社会的行動を行 うという間接互恵に従った行動が観察されるようになる (Kato-Shimizu, Onishi, Kanazawa, & Hinobayashi, 2013)。し かし、「行為者が見られていることを知っているかどうか」 といった要因は扱われてこなかった。本研究では、幼児 に Hypocritical Helper と Perverse Helper を呈示し、どち らに選好を示すかどうかを検証した。そして、幼児は行 為者が見られているということを知っているかどうかと いう情報を加味して社会的評価を下すのか、さらに見ら れている場面と見られていない場面のどちらの行為が重 視されるかを検証した。

「実はいい人」が好き?

―幼児期における他者の属性評価と目撃状況との相互作用―

キーワード:社会的評価,間接互恵,評判,幼児,発達 行動システム専攻 岸本 励季 Table.1 援助者の分類

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方法 参加者

九州大学ちびっこ研究員のデータベースの中から、参 加者を募集した。4 歳児 15 名 (9 girls; age M = 1488.00 days, SD = 23.57) と 5 歳児 13 名 (6 girls; age M = 1843.60 days, SD = 40.46) が実験に参加した。この他にも 16 名の 参加児が実験に参加したが、手続きエラーで 2 名、実験 中課題に集中しなかったため 8 名、選択フェーズで選択 が見られなかったため 6 名を除外した。 実験装置 パペットを 8 個用意した。これらのパペットはすべて 異なった外見を有し、子どもにとっても馴染み深い動物 (カバ・ネコ・ウサギ・イヌ・ブタ・カエル・ネズミ・ク マ) が表されていた。 木製のボードで作成されたパペットステージが用い られた。手前に取り付けられたカーテンは自由に開け閉 めできるようになっていた。 実験手続き 実験者と参加児が十分なラポールを形成してから、実 験は開始された。 参加児と実験者は、パペットステージの手前に座り、 パペット劇を観察した。パペット劇はもう一人の実験者 によって演じられた。 1 試行には、ランダムに選択された 3 つのパペットが 登場した。それぞれのパペットはランダムに、行為者 (Perverse Helper、Hypocritical Helper) と被援助者に割り 当てられた。 刺激には、箱状況とドア状況の 2 つが用いられた。箱 状況では、被援助者は積木が入った箱を引きずりながら 運んでいた。そこで、行為者に箱を持ってほしいと頼ん だ。援助イベントでは、行為者は箱を一緒に運んだが、 非援助イベントでは、行為者は首を横に振り、拒否を表 した。ドア状況では、被援助者が大きなリンゴを運んで いた。ドアを開けようとしたが手がふさがって開けられ なかった。そこで、行為者に「ドアを開けて」と頼んだ。 援助場面では行為者は被援助者の代わりにドアを開けた が、非援助場面では、首を横に振り、拒否を表した。 各試行は、観察フェーズと選択フェーズの 2 つのフェ ーズから成った。そして、観察フェーズには Open 条件 と Close 条件が設けられた。Open 条件では、カーテンを 開けて劇を観察した。パペットたちが観察者 (参加児と 実験者) から見られていることに気づいていることを示 すために、手を振るといったコミュニケーションが行わ れた。Close 条件では、カーテンを閉じて隙間からこっ そりと観察した。Open 条件とは異なり、パペットは参加 児に対してコミュニケーションを一切行わなかった。ま た実験者は声を潜めて参加児に話した。 一つの条件は、2 回の援助イベントから成った。Open 条件では、Perverse Helper は援助を行わなかったが、

Hypocritical Helper は援助を行った。Close 条件では、 Perverse Helper は援助を行ったが、Hypocritical Helper は 援助を行わなかった。

合計 4 つのイベントを観察したのちに、ステージ上に Hypocritical Helper と Perverse Helper が呈示され、実験者 が選好を尋ねた。参加児が何かしらの反応を示すか、20 秒経過するまで、実験者は沈黙を守った。 Open 条件と Close 条件の順番、選択フェーズでの呈示 位置 (右・左) 、パペットの登場順序はすべてカウンタ ーバランスが取られた。しかし、パペットの登場順序は、 1 試行中では一貫させた。 以上を 1 試行とし、参加児は 2 試行実験に参加した。 結果 参加児は 2 試行目の流れを予想しており、選好が尋ね られることを予想していたと考えられるので、1 試行目 だけを分析に用いた。 行動面の変化 参加児が条件間の違いを理解しているかどうかを調 べるために、参加児が条件に適した行動を行ったかどう かを得点化した。「パペットに対して手を振る」「パペッ トに対して話しかける」といったパペットに対するコミ ュニケーションと、実験者と会話をする際の発話の大き さを指標とした。条件の文脈に適したそれぞれの行動が 一度でも観察されれば 1 点、1 度も観察されなければ 0 点、条件の文脈に適していない行動が一度でも観察され れば-1 点とした (Table.2)。 参加児の平均得点は、1.778 (SD = 0.847) であった。年 齢群間での差は見られなかった (t(25)= 0.854, p = .401, d = 0.342)。 得点が平均より 2SD 低い参加児は、条件間での差を理 解しているかどうか確認出来なかったため、分析から除 外した。結果、4 歳児 1 名と 5 歳児 1 名が分析から除外 Fig.1 実験のセットアップ

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された。 反応時間 質問のオフセットから回答のオンセットを反応時間 と定義した。参加児は、指さしもしくは言語反応を用い て選好を示した。指さしと言語反応の両方が使用された 場合、早く始発されたほうを採用した。平均反応時間は、 2.16 秒 (SD = 1.725) であった。反応時間に、年齢群間で 差は見られなかった (t(23) = 0.108, p = .915, d = 0.045)。 選択 実験者が質問をしてから、参加児が指さしまたは言語 反応で回答したものを選択したものと定義した。結果、 有意に多くの参加児が Perverse Helper を選好した (二項 検定, p = .043)。そして、この結果には年齢群間で差は見 られなかった (χ2 (1) = 0.016, p = .748)。 考察 本研究では、4 歳児と 5 歳児が観察者の立場に立っ て Hypocritical Helper と Perverse Helper を観察し、選好 が尋ねられた。結果、それぞれの行為者を選択した参加 児の人 数は有意に異なり、 72%の参加児 が Perverse Helper を選好した。本結果は、4 歳児と 5 歳児が、行為 者が他者から見られていることに気づいているかどうか を考慮に入れて社会的判断を下すことを明らかにした。 そして、Perverse Helper を選好したことから、行為者が 見られていることを知らない状況で援助を行うものに選 好を示すことも明らかにされた。 本研究の解釈として、「こっそり覗く」という特殊 な状況が、参加児の注意を高め、結果として Close 条件 での行為が重視されたというものがありうる。しかし、 本研究の参加児は「自分はパペットが見えているけれど、 パペットは見られていることを知らない」ことを理解し ていたと考えられる。Moll & Meltzoff (2010) は、36 ヶ月 児が同じものでも視点によって見え方が異なるというこ との理解を有していることを示した。このことから、本 研究の参加児が「こっそり見ている」という文脈を正し く理解するのに必要な能力を有していることが分かる。 さらに、参加児は行動面での変化を条件間で示した。 Open 条件でのみ、手を振る、話しかけるといったパペッ トに対するコミュニケーションを行った参加児が多く、 さらに、Close 条件でのみ実験者と会話をするときに声 を細めた発話を行う参加児が観察された。これらの行為 は、参加児が「Open 条件ではパペットは見られているこ とに気づいているが、Close 条件ではパペットは見られ ていることに気づいていない」と理解していないと観察 されないと考えられる。これらの理由により、Close 条 件では単に注意が高まったため Perverse Helper が選好さ れたという可能性は棄却された。 Fig.2 それぞれの行為者を選択した参加児の割合 グラフ内の数字は、それぞれの行為者を選択した人数を指している。 パペットに対して手を振る 得点 参加児の行動 -1 Close 条件でのみ手を振った 0 双方の条件とも、一度も手を振らなかった 1 Open 条件でのみ 1 度手を振った パペットに対して話しかける 得点 参加児の行動 -1 Close 条件でのみパペットに話しかけた 0 双方の条件とも、一度も話しかけなかった 1 Open 条件でのみパペットに話しかけた 実験者との声を細めた会話 得点 参加児の行動 -1 Open 条件でのみ実験者と声を細めて会話した 0 双方の条件とも、一度も声を細めて会話をしなかった 1 Close 条件でのみ実験者と声を細めて会話した 実験者との声を細めない発話 得点 参加児の行動 -1 Open 条件でのみ実験者と声を細めずに会話をした 0 双方の条件とも、一度も声を細めずに会話をしなかった 1 Close 条件でのみ実験者と声を細めずに会話をした Table.2 得点化の指標

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本研究の結果には 2 種類の解釈がありうる。1 つ目は、 Perverse Helper が肯定的に評価されたというものである。 Vaish, Carpenter & Tomasello (2009)は、18 ヶ月児と 24 ヶ 月児は、可哀想な立場にある他者に同情を示し、強く同 情した参加児ほどその他者に対して向社会的に振る舞う ことを示した。参加児は、Perverse Helper は、コストを 払っているにも関わらず、評判を獲得していないことに 気づき、同情し、結果として、評価が上がった可能性が 挙げられる。 次に考えられる可能性は、Hypocritical Helper が否定的 に評価されたというものである。 否定的な情報は優先的 に注意を払われ、重みづけられるネガティビティーバイ アスは、生後 3 ヶ月から有されている (Hamlin, Wynn, & Bloom, 2010) 。 Hypocritical Helper は 、 Unconditional Helper に自分を偽ることで観察者を欺くという意味で、 一種の裏切りものであると考えられる が、 Cosmides (1989) は、ヒトは裏切り者検出に特化した生得的なアル ゴリズムを進化の過程で獲得したと主張している。 本研究の結果から、ヒトは払ったコスト以上の評判を 獲得する欺きに対するカウンターストラテジーとして Hypocritical Helper に対する否定的な評価を抱くと提唱 する。実際に、ヒトは個々人の匿名性が保障されている 状況では、より利己的に振る舞う (Izuma et al., 2011; Bateson et al., 2006)。しかし、匿名性が保障されている状 況でも、ヒトは完全に利己的であるわけではない。観察 者がいない場面でも、観察者がいる場面よりも程度は弱 まるが、参加者はある程度は向社会的に振る舞う (Izuma et al., 2011)。誰かから観察されている可能性が完全にな いという状況は、理論的にはありうるが、現実的にはあ り得ない。Hypocritical Helper に対する否定的な評価が存 在するならば、見られている可能性が完全にない限り、 観察者の在・不在に関わらず向社会的に振る舞うことが 最も適応的な戦略であるといえる。本研究の結果から、4 歳、5 歳という幼児期においても、Hypocritical Helper は 好まれないことが分かった。この結果は、ヒトは観察者 がいない状況でもある程度は利他的に振る舞うことや、 その結果大規模な協力行動を可能としているメカニズム の個体発生を明らかにできると考える。 近年の研究により、5 歳児は観察者がいる時に、より 向社会的に振る舞うことが分かっている (Engelmann, Herrmann, & Tomasello, 2012)。本研究で得られた結果を 合わせて考えると、観察者と行為者間には均衡点があり、 幼児も立場によって柔軟に最善の戦略を用いていると考 えられる。立場によって、戦略を変更するのは、心の理 論を獲得していない限り不可能である。

日本の定型発達児の誤信念課題の通過年齢は、西洋で 報告されている結果よりも遅い (Naito & Koyama, 2006)。 4 歳頃から他者の誤信念への理解が見られるようになる が、完全に理解するには 6歳から 7歳である場合もある。 誤信念課題を完全に通過できるわけではない 4 歳児と 5 歳児が、他者の認知環境を推測した上で社会的判断を下 したことはとても興味深い。本研究の結果は、誤信念課 題の発達と他者が見られていることを知っているかどう かという理解は異なった発達ルートをたどる可能性を示 唆する。そして、本研究の成果はヒト社会で見られる大 規模な協力行動を可能にしているメカニズムの個体発生 の解明に貢献できると考える。 主要引用文献

Cosmides, L. (1989). The logic of social exchange: Has natural selection shaped how humans reason? Studies with the Wason selection task. Cognition, 31, 187-276. Hamlin, J.K., Wynn, K., Bloom, P. (2007). Social evaluation

by preverbal infants. Nature, 450, 557-559.

Izuma, K., Matsumoto, K., Camerer, C. F., Adolphs, R. (2011). Insensitivity to social reputation in autism. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 108, 17302-17307.

Kato-Shimizu, M., Onishi, K., Kanazawa, T., Hinobayashi, T. (2013). Preschool Children's Behavioral Tendency toward Social Indirect Reciprocity. Plos ONE, 8, e70915.(doi: 10.1371/journal.pone.0070915)

Nowak, M.A., Sigmund, K. (1998). Evolution of indirect reciprocity by image scoring. Nature, 393, 573-577. Ohtsuki, H., Iwasa, Y.(2004). How should we define

goodness? - Reputation dynamics in indirect reciprocity. Journal of Theoretical Biology, 231, 107-120.

Vaish, A., Carpenter, M., Tomasello, M. (2009). Sympathy Through Affective Perspective Taking and Its Relation to Prosocial Behavior in Toddlers. Developmental Psychology, 45, 534-543.

Watanabe, T., Takezawa, M., Nakawake, Y., Kunimatsu, A., Yamasue, H., Nakamura, M., Miyashita, Y., Masuda, N.(2014). Two distinct neural mechanisms underlying indirect reciprocity. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America,,

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