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子どもの組織キャンプ参加による母子関係の変容 [ PDF

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Academic year: 2021

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(1)子どもの組織キャンプ参加による母子関係の変容 キーワード:組織キャンプ,母子関係,質的アプローチ 行動システム専攻 馬場. 亜紗子. 問題と目的. 子どもの成長発達に必要な体験を意図した教育的手法とし. プに対する関心も高い(Chenery et al.,1987) 、母親の内実. て、野外教育という概念があり、その 1 つの形態に組織キャン. を探り、そこから母子関係の変容を検討することは、野外. プがある。組織キャンプとは、自然環境、プログラム、および指. 教育の新たな意義を見出す端緒となるかもしれない。そこ. 導者の 3 つを主な媒体として、個人の全人的な成長発達を目. で、本論文では、子どもの組織キャンプ参加の母子関係へ. 指す野外教育活動のことである(星野,1987;星野,1991)。. の影響を検討することにした。. Ewert( 1989) は、野外での教育活動の効果を、心理的、社会的、. また、本論文では、子どもの組織キャンプ参加による母. 身体的、および教育的なものに分類し、各カテゴリーで恩恵が. 子関係の変容という、新しく複雑で、かつ少数の現象を対. あることを示している。このように、子どもの組織キャンプへの. 象としているため、このような対象に有効とされる質的ア. 参加は、子どもの成長を促がす機会を提供する。また、キ. プローチを援用している。. ャンプ参加は、母子にとって物理的・心理的に分離する機 会も生む。他分野では、この母子が分離する機会は、母子 にとって非常に意味があるとされている(庄司,2002) 。そ. ―研究Ⅰ ― 子どもの母親に対する認知の変化 ―ソーシャルサポート感に着目して ―. して、丹羽(1995)は、キャンプには楽しいことばかりで なく、我慢することや家が恋しくて悲しくなることもある が、それらを友だちと共有し、親の知らない子どもたちだ けの世界を広げることが親離れを容易にさせると述べてい る。このように、子どもの組織キャンプ参加は、母子にと っての分離生活体験をもたらし、母子間の距離を修正する 機会になると考えられる。さらに、子どもが変わることに よって母親が変わり、その逆の側面もあることが報告され ており、母子の関係は相互規定的であると言われている(森 下,1988) 。以上を踏まえると、組織キャンプへの参加によ って、子どもが変わり、また母親自身も変わり、母子の関 係性が変容する可能性が推察される。 しかしながら、これまでの野外教育研究では、大部分が 組織キャンプに参加した子ども自身の変化を検討しており、 参加していない母親の変化について検討した研究は見当た らない。ましてや、子どもの組織キャンプ参加による母子 関係の変容を示唆するモデルも存在しない。父親よりも子 どもに対する意識が高く(柏木・若松,1994) 、組織キャン. 本研究では、子どもが知覚する母親からのサポートをソ ーシャルサポート感と定義し、組織キャンプ体験が母子間 のソーシャルサポート感にどのように関連するのかを検討 した。2003 年 3 月 25 日―30 日(5 泊 6 日) 、N 県で行われ た組織キャンプに参加した小学 3 年生から中学 1 年生の男 子 19 名(平均 10.1±1.35 歳)を対象に、ソーシャルサポー ト尺度(尾身,1999)を用いた質問紙調査(Pre−10days) を行った。その結果、部分的ではあるが、組織キャンプ体 験後に、母親からのサポート感が好意的に変化することが 明らかとなった(表 1) 。その要因として、 「子どもの共感性 の獲得」 「母親の気づき」 「両者の変化」があったと推察さ れた。しかしながら、実際に母親が変化したのかは明らか にできず、ゆえに第 2 次研究を行った。.

(2)           . 表 1.  キャンプ体験前後における母親からのサポート得点 (子どもが回答 n=19). やったことをほめてくれる あなたが落ち込んでいると、元気づけてくれる あなたが何かうれしいことが起きたとき、それを自分のことのように喜んでくれる あなたがする話しを、たいていおもしろそうに聞いてくれる あなたがグチ(もんく) を言いたいときに、話しを聞いてくれる あなたの失敗をカバーしてくれる ひとりではできないことがあったときに、手伝ってくれる 人間関係でなやんでいるときに、相談にのってくれる. キャンプ直前 (pre). 終了10日後 ( 10days). M(SD) 2.37( 0.90) 2.42( 0.84) 2.47( 0.70) 2.47( 0.84) 1.84( 0.96) 2.37( 0.83) 2.37( 0.90) 2.37( 0.83). t値 M(SD) 2.53(0.77) 0.76 2.47(0.77) 0.29 2.58(0.69) 0.42 2.53(0.77) 0.22 2.26(0.87) 2.19 * 2.32(0.82) -0.27 2.68(0.67) 2.05 † 2.74(0.56) 1.93 † * p<.05 † p<.10. ―研究Ⅱ ― 母親の心理的・行動的変化の探索 そこで、研究Ⅱでは、子どもの組織キャンプ参加に伴う母. キャンプ参加は、母親自身の、さらには子どもに対する心. 親自身の変化、および母親が感じた子どもの変化を探索的. 理的・行動的側面で変化をもたらすことが示唆された。し. に検討した。2003 年 7 月下旬から 8 月上旬にかけて(すべ. かしながら、子どもが組織キャンプ体験を通して心理的・. て 9 泊 10 日) 、F 県で行われた 4 種の組織キャンプのいずれ. 社会的な側面を育み、母親が子どもの心理面、行動面、お. かに参加した子どもの母親 65 名(平均 40.3±4.83 歳)を対. よび対人面の変化を感じ取ったのか、もしくは、子ども自. 象に、自由記述式の質問紙調査を行った。その結果を図 1. 身実際には変化していないが、母親の子どもに対する見方. に示す。子どもの組織キャンプ参加によって、母親に「子. が変わったために、子どもが成長したと母親が感じ取った. どもの存在・自分自身への気づき」 「子どもに対する見方、. のかは明らかにできなかった。その一方で、母子は相互規. 感じ方の変化」 「子どもに対する態度の変化」 「子どもに対. 定的な関係と言われているように(森下,1988) 、母子が互. する行動の変化」がみられた。そして母親は、組織キャン. いに変化したとも考えられる。そこで、母親の変化、さら. プを体験した子どもに対し、心理面、行動面、および対人. には母子関係の変化について、詳細に探るための研究デザ. 面において変化を認めていた。したがって、子どもの組織. インを考証する必要があると考え、第 3 次研究を行った。. 母親の見方が変化しために,子どもが成長したと. 子どもが組織キャンプに参加して. 感じ取ったのかもしれない. 母親自身変化 キャンプ中の気づき 子どもの存在. キャンプ後の気づき 子どもの存在. 母親が感じた子どもの変化. 母親自身. 自信. 自己管理. 積極性. お手伝い. 責任感. 感謝,大切さ. たくましさ. 思いやり,素直さ. 子どもに対する見方,感じ方の変化 子どもに対する態度の変化. 明るさ,生き生き,元気 話し,コミュニケーション. 子どもに対する行動の変化 殻に閉じこもった 言葉づかいが悪くなった. 子どもの成長を受けて母親が変化したのではないか. 図 1.. 組織キャンプ参加に伴う母親と子どもの変化.

(3) ―研究Ⅲ ―. ブ・カテゴリーで説明される(表 2 および図 2) 。組織キャ. 母子関係の変容モデルの構築. ンプ参加前に「 参加決定・ 準備による母親の子どもに対する態 度の顕在化」 がみられ、子どもが組織キャンプに参加すること. 研究Ⅲでは、母親からみた子どもの変化と子どもに対する. で「 分離による子どもの存在への気づき」 「 子どもの変化への. 母親の変化、そして、母子関係が変容していく過程を質的. 気づき」 「 家族への刺激」 「 母親の子どもに対する態度の再考・. に検討し、子どもの組織キャンプ参加による母子関係の変. 調整」 「 母親の行動の変化」 および「 コミュニケーションの変化」. 容モデルを構築することを目的とした。そこで、データに. が相互に作用し、「 母子関係の再構築」 がもたらされると考えら. 根ざして帰納的に引き出された理論を構築するため、グラ. れる。. ウンデッド・セオリー・アプローチ(Strauss & Corbin,1990). また、子どもの思考、言葉、および行為について、組織. を採用した。2004 年 8 月 2 日―8 日(6 泊 7 日) 、K 県で行. キャンプ体験による変化(Pre−Post−10days)を量的アプロ. われた組織キャンプに参加した子ども 37 名(男子 17 名、. ーチから検討した。その結果、 「人のために、どんなことを. 女子 20 名)と、そのうち組織キャンプに初めて参加した児. したらいいのかと考えたりする」 「落ち込んでいる人を見た. 童(小学 5 ―6 年生)を持つ母親 6 名(37―47 歳:平均 40.7. ら、どうしたのかと気になったりする」 「元気がない人がい. ±3.45 歳)を選定し、個別に半構造化インタビューを行っ. たら、言葉をかけたりする」という項目において、組織キ. た。理論的コード化による分析の結果、 「母子関係の再構築」. ャンプ体験直後に有意な向上が認められた(表 3) 。この変. をコア・カテゴリーとして同定した。この概念は、7 つのサ. 化がみられた 3 項目は、思考と言葉に相当すると思われ、. 表 2.  コード化・カテゴリー化 データ コード 「厳しい」「口うるさい」「話さない」「構っていない」 「キャンプ前の子どもに対する態度・接し方」 「前もって準備しない」 「キャンプ前の子どもの行動」 「他のお母さんの反応」 「うちの子は1週間なんて行かせきらん」 「(準備は)子どもよりも私が必死」「子どもに任せていた」 「離れることへの準備」 「離れると思うとさびしい」「不安そうな子ども」 「子どもに対するアンビバレントな気持ち」 「一人足りない食卓」 「いつもと違う家族形態」 「キャンプの日程表を見て、どうしているのかと子どものことを思う」 「子どもに対するアンビバレントな気持ち」 「これまでは自分からお手伝いしない子が料理を作ってくれた」 「子どもの変化」 「しっかり、大人になって帰ってきた感じがする」 「子どもの様子」 「さびしがる弟」 「子ども不在による他の家族の反応」 「キャンプを終えた子どもに、家族みんなが注目する」 「迎え入れる家族」 「子どもがいなくてさびしかったので、やさしくしよう」 「母親自身の子どもに対する態度の再考」 「今まではやらせた後のことを考えて、子どもに色々やらせていなかった」 「子どもが育つ環境を再考」 「自分からしたいということには、やさせてあげよう」 「子どもが育つ環境を展望」 「(キャンプ中、子どもの話をゆっくり聞いてあげようと思い)怒らないようにと 「母親の行動の変化」 抑えるようになった」 「キャンプで経験してきた子どもの様子をみる」 「子どもが自分から話してくれるので、よく会話をするようになった」 「言語的コミュニケーションの変化」 「(子どもが自分からお手伝いするのを見て)口を挟まずに、子どもにやって 「非言語的コミュニケーションの変化」 もらうようになった」. カテゴリー 参加決定・準備による母親の子どもに対する 態度の顕在化. 母子分離による子どもの存在への気づき 子どもの変化への気づき 家族への刺激 母親の子どもに対する態度の再考・調整. 母親の行動の変化. コミュニケーションの変化. 母子分離による子どもの 存在への気づき 母親の行動の変化 参加決定・ 準備による 母親の子どもに対する 態度の顕在化. 子どもの変化への気づき. 母親の子どもに対する 態度の再考・調整. 母子関係の再構築 コミュニケーションの変化. 家族への刺激. 図 2.. 子どもの組織キャンプ参加による母子関係の再構築.

(4) 表 3.  組織キャンプ参加による子どもの思考・言葉・行為の変化 (n=17). 思考 人のために、どんなことをしたらいいのかと考えたりする 落ち込んでいる人がいたら、どうしたのかと気になったりする 言葉 人のよいところに気がついたら、それを言葉にして伝えたりする 元気がない人がいたら、言葉をかけたりする 行為 困っている人を見たら、手伝ったりする 人のために役立つことをしている. キャンプ直前 (pre) M(SD) 2.65 ( 0.49) 3.24 (0.56) 2.47 (0.80) 3.12 (0.60) 3.18 (0.64) 2.59 (0.80). 終了直後 (post) M(SD) 3.18 (0.81) 3.71 (0.59) 2.88 (0.93) 3.71 (0.59) 3.29 (0.59) 3.12 (0.78). 10日後 (10days) M(SD) 2.88 (0.60) 3.53 (0.51) 2.94 (0.90) 3.29 (0.69) 3.24 (0.66) 2.94 (0.44). F値. 多重比較 ( Bonferroni). 3.73 * pre<post pre<post 3.52 * 1.70 pre<post 4.29 * 0.17 2.17 * p <.05. 子どもは組織キャンプ体験を経て、自主性や共感性が向上. の充実こそ重要であると思われ、野外教育活動のさらなる. し、社会的な思考が変化したことが推測できる。一方で、. 展開を期待する。. 子どもの行動面での変化は認められなかった。しかしなが. そして、岡村(2002)は、組織キャンプでの研究に関し. ら、母親に対するインタビューからは、子どもの行動の変. て、野外教育という立場を問い直し、野外教育の特性に目. 化が抽出されている。これは、子どもの無自覚な行動の変. を向けた研究デザインで展開していくべきだと指摘してい. 化を、母親が感じ取ったことになる。母親が子どもの小さ. る。そこで、本論文では、各章で質的アプローチの活用を. な変化や成長に気づき、その子どもの心を共感できるとき、. 試みた。組織キャンプが及ぼす母子関係への影響という複. 子どもの成長は促進される(山崖,2003) 。また、菅野(2001). 雑な現象であっても、質的アプローチを用いることにより、. は、親自身が子どもの育ちや状態を確認することは、その. 様々な要素を具体的な文脈から分離することなく事象が起. 後の子どもに対する態度の方向性を定めることになり、子. こる文脈の中で記述し、多様な視点から検討することが可. どもの発達および親自身の発達が可能になると報告してい. 能であった。ゆえに、質的アプローチは、野外教育研究に. る。本研究で示された、子ども自身の変化と母親の感じた. おいて非常に有効なアプローチであることが確認された。. 子どもの変化に相違する点がある反面、子どもが自覚して. また、野外教育研究においても、質的アプローチと量的ア. いないところまで母親が子どもの成長として気づき、確認. プローチを融合させる必要性が示唆されており(岡村,. したことは、母親の子どもに対する態度を再考・調整し、. 2002) 、今後は野外教育の特性を考慮した精度の高い研究デ. 母子関係が再構築されるための重要な要素となると考えら. ザインを用い、さらなる研究の進展が期待される。. れる。そして、子どもの組織キャンプ参加によって子ども の育つ環境を展望し、子どもに対する態度を再考・調整す. 文 献. ることは、その後の母子の共発達を促がすことが推察でき る。. 森下正康(1988) :児童期の母子関係とパーソナリティの発 達.心理学評論,31:60-75. 結 論. 岡村泰斗(2002) :冒険教育における冒険教育の始まり.野 外教育研究,6(1) :10-13.. 以上を総括すると、組織キャンプは、子どもの変化および母. 尾見康博(1999) :子どもたちのソーシャルサポート・ネッ. 親の変化をもたらし、母子の関係性を再構築させる契機となっ. トワークに関する横断的研究.教育心理学研究,47(1) :. ていた。この知見は、野外教育研究において新しく、近年の複. 40-48.. 雑化する母子関係を再構築させる好機となることを推測させる ものであった。 また、斉藤(1995)は、組織キャンプには子どものキャ. 庄司一子(2002) :母と子のよい関係とは―現代における特 徴と危機―.児童心理,56(8) :741-750. 菅野幸恵(2001) :母親が子どもをイヤになること―育児に. ンプで得たい「求め」と、指導者の子どもにかける「願い」. おける不快感情とそれに対する説明づけ―.発達心理学. と、キャンプに送り出す親の子どもに託す「望み」があり、. 研究,12(1) :12-23.. こうしたキャンプに関わるすべての人の期待が体系化され た状態が組織キャンプであると述べている。したがって、 それぞれの期待を満たすような組織キャンプの企画・運営. 山崖俊子(2003) :子どもの小さな変化や成長に気づき子ど もと共有する.児童心理,57(4) :327-331..

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参照

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