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55 論 説 CEMs Aganin Alexander and Paolo Volpin, The History of Corporate Ownership in Italy, in Randall K. Morck ed

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はじめに

 イタリアの株式会社については,その規模の大小を問わず,またその発 行する株式が取引所において公開されているかどうかを問わず,多くの会 社の株式の所有構造上,支配的な株主が存在しており,そのような株主に 過度の支配権の集中がみられることが特徴的であると言われてきた(1)。そ のような支配権の集中は,ときに過半数の株式保有によって実現され,と ( 1 )  イタリアにおいて支配権集中問題は長い歴史をもつとされ,上場会社に対す るある調査によれば,1947年,1987年と2000年の各年度の上場会社のうち20% の持ち株比率を有する支配株主の存在が確認できない会社数が全体に占める割 合がそれぞれ10%,4.35%と12.99%であるとされた(Aganin Alexander and Paolo Volpin, The History of Corporate Ownership in Italy, in Randall K. Morck ed. A HISTORYOF CORPORATE GOVERNANCE AROUNDTHE WORLD: FAMILY BUSINESS GROUPS TO PROFESSIONAL MANAGERS(University of Chicago Press, 2005) at 325─59)。 論  説

イタリアの上場会社における

支配権集中問題の現状と課題

李   艶 紅

はじめに Ⅰ イタリアの上場会社おける株式所有構造 Ⅱ イタリアの上場会社における支配権集中の状況 Ⅲ 支配権強化メカニズム(CEMs)の利用状況 Ⅳ 支配権集中に見られた変化の原因分析をめぐって おわりに

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きに半数以下の株式保有によっても実現されてきた。とくに,上場会社で は,後者の株式所有形態,すなわち,一定割合(半数以下)の株式保有の みによって,会社やその会社が支配的な地位を占める他の会社に対して実 質的な支配権を行使する例が多くみられる。このような支配構造は一般的 に「ピラミッド支配構造」と称される。また,一部の株式会社またはいく つかの株式会社が利益共同体としてのグループを形成している場合におい ては,少量のみの株式を保有しつつ、株主間契約(グループ内部において は株主間契約が実質的に会社間契約となる)を通じて,関連する会社間にお いて支配権を固定化または強化している例もみられる。さらには,無議決 権優先株式(貯蓄株式とも呼ばれる)などの種類株式を発行し,当該種類 の株式を保有する株主に対して当該株式会社の重大な経営判断事項につい て拒否権を付与している例もみられる。  他方で,イタリア政府や地方政府が一定程度の影響力を及ぼしている株 式会社においては,いわゆる「黄金株」を利用し,政府等が当該会社に対 する一定の支配権を留保してきている例もみられる。とりわけ公的なサー ビスまたは国家の基幹産業に関連する株式会社についてそうした例は多 い。  このようにして,イタリアにおいては,閉鎖的な中小規模の株式会社か ら,上場した大規模の株式会社に至るまで,支配権集中問題が 1 つの大き な特徴となっており,上述したようなさまざまな取り決め等によって,そ のような状況が作り出されてきている。これらの取り決めについては,一 般的に投下資本と会社支配権との間の不均衡的な関連を持たせるものとし て 特 定 さ れ, 支 配 権 強 化 メ カ ニ ズ ム(Control Enhancing Mechanisms,

CEMs)として定義されるとともに,そうした CEMs はヨーロッパ諸国に

おいて伝統的に利用されてきたとされる。イタリアもまさにそうした国の

1つであるといえよう。

 ところが,近年の調査研究によれば,イタリアでは CEMs の利用例が 減少傾向にあるとされている。本稿は,そのような変化がみられた状況に

(3)

注目し,近時の調査文献などを通じてその変化の状況を確認し,変化をもた らした要因を探るものである。

Ⅰ イタリアの上場会社おける株式所有構造

 本章では,イタリアの上場会社の株式所有構造について概観し,支配的 な地位にある株主の属性について紹介する。  イタリア上場会社における会社支配の形態は以下の 2 つに大別される。 すなわち,(a) 1 人の株主が独自で支配的な株式(controlling share)を所 有する形態,(b)共通の利害関係を有する株主グループによって当該上 場会社を支配する形態である(2)。 1  特定株主による単独支配  イタリアでは,たとえ大規模な会社であっても 1 人の株主が支配的な割 合の株式を所有している例が多くみられる。また,そのような支配的な株 主は, 1 人の個人(individaul)ではなく,さらに他の株主によって支配さ れている中間的な持株会社(a holding company)であるというのが典型的 である。  バーリー&ミーンズの著書(3) においても紹介された,支配権を維持する ためのツールとして「ピラミッド構造(pyramided)」というデバイスは, イタリアにおいて広く利用されてきている。このピラミッド構造を構築す ることによって,頂点に位置する株主は,支配権を留保しつつ,その構造 のなかでつながりを持つメンバー会社の 1 社または複数社を取引所に上場 ( 2 )  Lorenzo Stanghellini, Corporate Governance in Italy: Strong Owners, Faithful

Managers. An Assessment and a Proposal for Reform, 6: 1 Ind. Int’l & Comp. L. Rev. 91, 126─68.

( 3 )  Adolf A. Berle, JR. & Gardiner C. Means, THE MODERN CORPORATIONAND PRIVATE

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させうることから,長期間にわたって,こうした構造の有効性(effects) は増幅されてきた(amplify)(4)。 2  株主グループによる支配  イタリアにおいては,ほぼすべての上場会社が株主グループによって支 配されているとされ,そして,そのような株主グループは主に 3 つの形態 があるとされる。すなわち,第 1 の形態は,家族構成員による株主グルー プであり,家族が支配しているものである。第 2 の形態は,株主間契約を 通じて利害関係を共有する株主のグループが支配するものである。第 3 の 形態は,民営化された会社において政府またはその代表者が支配権を有し ている場合である(5)。以下,これら 3 つの形態について紹介する。 ( 1 ) 家族による支配  家族支配は一般的に家族企業の創設過程における遺留物であるとされ る。家族企業においては,株主間の関連性が強く,株主グループは利害関 係を共有し,株主間契約などといった束縛を必要としないことが一般的で ある。ところが,家族企業におけるこのような株主グループの拡大または 株主間の関連性が希薄である場合においては,株主間契約の締結を選ぶこ とがしばしばみられる。 ( 2 ) 株主間契約を通じた支配  株主間契約が会社支配の場面において広く利用されてきている場面は主 に 2 つある。 1 つは,高い割合の株式を保有する株主が,会社のコーポレ ート・ガバナンスに関連する事項について何らかの取り決めを定めておき ( 4 )  2001年に出版された書籍によれば,当時のイタリアにおいて産業企業の53% がピラミッド構造に内包されているとされた(Bianchi Marcello, Magda Bianco and Luca Enriques, Pyramidal Groups and the Separation between Ownership and

Control in Italy, in Fabrizio Barca and Marco Becht ed. THE CONTROL OF CORPORATE

EUROPE, Oxford University Press, 2001) at 154─86。

( 5 )  A. Alexander and P. Volpin, supra note 1 at 330─332. なお,それぞれの形態に 関する分節も,A. Alexander and P. Volpin の文献による。

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たい場合,そしてもう 1 つは,低い割合の株式を保有する株主が,会社の その他の大株主との間にさまざまな取り決めをしておくことによって会社 に対する一定の支配権を留保しておきたい場合において利用される。株主 間契約はその利用目的または契約内容によってさまざまであり,広範に利 用されてきてはいるものの,その契約自体の正当性と実現可能性について 疑わしいものもあるとされる。 ( 3 ) 民営化会社における政府等の支配  イタリアでは,1990年代に民営化された公的な企業において,政府等の 大株主が自らを取締役として選任し,自らの代理人をそうした会社に送り 込むという実態が見られてきている。

Ⅱ イタリアの上場会社における支配権集中の状況

 イタリアの上場会社における支配権集中の状況を知るため,本稿では, 以下, 3 つの資料を取り上げたい。 1  CONSOB 資料から見た状況

 CONSOB(Commissione Nazionale per le Socieà e la Borsa, CONSOB, イタリ

ア証券取引委員会(英:Italian Securities and Exchange Commission))はイタ

リア上場会社のコーポレート・ガバナンスに関する年次報告書(Report on

corporate governance of Italian listed companies)を2012年から発表してき

ている(6)。2014年版が 3 回目の報告書であり,2012年の報告書はイタリア

( 6 )  CONSOB によるこのような年次報告書は,CONSOB のホームページにおい て1998年版までにさかのぼることができる。年次報告書のタイトルと内容が年 度によって異なるが,とりわけ「上場会社の所有関係と支配構造」に関する情 報は過去の報告書においても少なからず得られる。本稿はこれらをも参考にす る(available at: (http://www.consob.it/mainen/consob/publications/annual_ report/annual_report.html?symblink=/mainen/consob/publications/annual_ report/index.html) last visited 30, JUN 2015)。

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語による16頁の簡略なものであるのに対して,2013と2014年版は英語によ る40頁を超える報告書となっており,その内容は,イタリア上場会社にお ける所有関係と支配構造(第 1 章),会社の機関(第 2 章),年次株主総会 (第 3 章)および関連取引(第 4 章)に関するものとなっている(7)。以下, 本稿では,主として2014年の年次報告書(以下,「2014 Report」または,「報 告書」という)の「第 1 章 上場会社の所有関係と支配構造」の部分のみ を取り上げ,適宜前年度の関係箇所と比較しながら紹介する。  報告書第 1 章の冒頭では,以下のような総説が掲げられている。  「高度な集中所有とそれによる支配権移転の競争可能性が制限されて いることが,依然としてイタリア上場企業の重要な特徴であり,それ は,支配モデルと所有構造に関する2013年末までのデータによって示さ れたとおりである。  上場会社のほぼ70%(それは市場資本総額のおよそ64%を計上する)が, 普通株式の半分以上の割合を保有する 1 人の株主(「過半数支配会社

(“majority controlled companies”)」),または,50%より少ない割合しか保

有していないものの,支配的な地位を有している 1 人の株主(低持分支

配会社“weakly controlled companies”)のいずれかによって支配されてい

る(majority controlled)。このような 2 種類の支配構造(coalitional control

structures)に関しては,2013年12月末時点において,上場企業数(244社 のうち38社)と市場資本総額における比重(10.4%)との双方がそれぞれ の歴史上の記録(それぞれが,1998年には28社と8.3%)に比べた場合, 2010年の数値において下落はあったものの(それぞれ,51社と12.4%), 依然として高い水準を維持してきている。」。 ( 7 )  2012年から2014年のコーポレートガバナンス年次報告書の全文は CONSOB のホームページにおいて入手できる(http://www.consob.it/mainen/consob/ publications/rcg/index.html) last visited 30, JUN 2015。以下,これら 3 年間の 報告書の引用に際しては,それぞれ,2012 Report,2013 Report と2014 Report とする。

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 また,2013年末までの統計によれば,わずか10社が分散所有,すなわ ち,何らの支配関係も確認されていない会社(widely held)として分類さ れた(8)。こうした2014 Reporrt でも分かるように,従来から,支配権の集 中は,その態様が,過半数支配会社と低持分支配会社に分かれているもの の,イタリアの上場会社における「重要な特徴」となっている。  また,2014 Report によれば,2013年12月末までのイタリアにおける上場 会社数は244社であり,それらは,大きく 3 つに分類されるという。もっ とも多いのは産業部門の会社136社であって上場会社総数の55.8%を占め ており,それに次ぐサービス部門の会社数は55社であって22.5%を占め, 第三の金融関係の会社は53社であって21.7%を占めているという(9)。  さらに,2014 Report では,イタリア上場会社の支配モデルに関して 1998年および2010年から2013年までの各年のデータを公表し,その変化を 示している。  すなわち,前述したように,会社の支配モデルを「過半数支配会社」, 「低持分支配会社」,「株主間契約支配会社」および「非支配会社」(10)に大き く分類している(11)。そのうえで,2014 Report のデータによると,1998年, そして2010年から2013年までの間に,過半数支配会社はほとんど変わるこ となく上場会社総数の半数前後を占めており,それに比べると低持分支配 会社数は 3 割から 4 割の間を推移してきているものの,市場資本総額比の 割合としては,過半数支配会社が減少傾向にあることとは反対に低持分支 配会社は増加傾向にあるとされる(12)。  このような変化について,2014 Report では関連する説明は見当たらな ( 8 )  2014 Report, supra note 7 at 11.

( 9 )  2014 Report, supra note 7 at 12.

(10)  非支配会社をさらに,「共同会社(cooperative companies)」,「分散所有会 社」に分類した。2014 Report, supra note 7 at 13.

(11)  なお,これら以外にいずれの類型にも属さないモデルに関して「非分散所有 会社(non─widely held)」に分類した。2014 Report, supra note 7 at 13. (12)  詳しくは,以下のとおりである。2014 Report supra note 7 at 13.

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い。ただ,低持分支配会社数は2010年以降,上場会社総数において占める 割合が大きくなってきており,それに伴って市場資本総額に占める比率も 増加し,もっとも多いときである2011年には45.8%を占めていたことは明 らかである(13)。 2  2012年調査論文から見た状況  CONSOB による調査以外にも,イタリア上場会社の株式所有状況に関 する資料が数多く存在する。その中でも,2012年に三人の研究者によって 発表された文献を取り上げる。なぜならば,かかる文献は確認可能な全て の上場会社を対象に,歴史的に遡って調査可能なデータを元にしている点 に特徴があるからである。同文献は,Francesca Cuomo(14) 氏 , Alessandro Zattoni(15) 氏 お よ び Giovanni Valentini(16) 氏 に よ る The Effects of Legal

  

Table 1.2─Control model of Italian companies (end of the year)

controlled companies non─controlled companies total majority controlled1 weakly controlled2 controlled by a shareholders” agreement3 cooperative companies widely held4 non─widely held5 no. market cap6 no. market cap6 no. market cap6 no. market cap6 no. market cap6 no. market cap6 no. market cap6 1998 122 31.2 33 21.8 28 8.3 10 3.1 10 24.1 13 11.5 216 100.0 2010 128 20.6 53 43.0 51 12.4 8 3.4 11 20.3 19 0.3 270 100.0 2011 123 22.3 55 45.8 48 12.0 8 3.2 8 16.4 18 0.3 260 100.0 2012 125 22.8 49 44.0 42 10.1 8 3.2 10 19.2 17 0.7 251 100.0 2013 122 24.1 48 40.1 38 10.4 8 3.3 10 21.6 18 0.5 244 100.0 (13)  同上。

(14)  Francesca Cuomo, Norwich Business School, University of East Anglia. 専門分 野は,コーポレートガバナンスなど。

(15)  Alessandro Zattoni, Parthenope University, Naples, Italy and Bocconi University, Milan, Italy.専門分野は,経営とコーポレートガバナンスなど。 (16)  Giovanni Valentini, Bocconi University. 専門分野は,テクノロジーと産業政策

(9)

Reforms on the Ownership of Listed Companies(17) (以下,「2012年調査文献」

という)である。

 2012年調査文献は,イタリアの銀行と保険会社を除いた(18) すべての上 場会社について,1985年,1995年,2000年と2005年の 4 つの年度のデータ を収集し,(ⅰ)集中的所有(ownership concentration)の状況,(ⅱ)CEMs の利用件数,および(ⅲ)所有と支配の比率(ownership─control ratio)の

3つの観点から調査分析を行っている。

 (ⅰ) 集中的所有について

 2012年調査文献によれば,当該調査では普通株式(ordinary shares)を

2%以上保有する株主に対して情報を収集して,直接保有第一株主(the

first direct shareholder)(19) の持ち株比率を通じて所有関係の集中を調査し

た。  (ⅱ) CEMs の数について  同調査文献においては,会社が支配権とキャッシュフローに関する権利 とのかい離を意図する法的なディバイスの利用状況についても調べた。調 査対象は,欧州においてもっとも普及されてきたピラミッド構造,デュア ルクラス構造およびシンジケート契約に限定して,年度ごとにどれくらい の数のそれらデバイスが利用されたかを調査している。  (ⅲ) 所有と支配の比率  所有と支配の比率を調べるために,2012年調査文献では,上場会社にお ける特定支配株主(the ultimate owner)のキャッシュフローに関する権利 と会社支配権との間のレートを計算してデータを集積している。所有と支 (17)  Industrial and Corporate Change, Vol. 22, No. 2, at 427─458, JUN, 2012.

available at, http://icc.oxfordjournals.org/content/early/2012/06/12/icc.dts015. abstract, last visited 30, JUN 2015.

(18)  銀行と保険会社を排除した理由として,当該分野の会社が銀行法またはその 他の関連法規によって規律するためであると説明された(2012年調査文献434 頁)。

(10)

配の比率は,それが低ければ低いほど,本来はキャッシュフローに関する 権限に比例すべき支配権が強いことになる。比率の数値が 1 に近いほど, 支配権と所有関係との間のかい離の度合いが低いこととなり,比率の数値 が 0 に近いということが意味するところは,当該かい離の度合いが高いこ とであるとされている(20)。  こうした 3 つの観点からの調査分析の結果,サンプルとされたすべての 会社の1995から2005年までの間の平均値の変化が明らかになった。すなわ ち下記の表 1 と 2 が示すように,CEMs の採用数が減じられ,所有と支配と の間の均衡が取れつつあり,集中所有が減少傾向にあるということである。  また,これら計算された指標の各年度の比較は以下のようになってい る(21)。  指標の変化からもわかるように,集中所有は少しずつではあるが減少し てきており,また,CEMs の数に関しても2005年の指標は1985年と1995年 に比べればほぼ半減されてきている。反対に,所有と支配の比率に関して は,増加傾向がみられる。その比率は1985年の0.76,1995年の0.81と2005 (20)  2012年調査文献435頁。

(21)  “Table 3 Means and t─test for differences in mean of ownership structure variables over time”より一部引用(2012年調査文献441頁)。

(22)  “Figure 1 Ownership structure indicators: average before and after legal reforms (1995─2005)” (2012年調査文献440頁)。

表 1 :1995年~2005年所有関係指標(Ownership Structure Indicators)の変化(22)

1 0.8 0.6 0.4 2 1.5 0.5 0 1 1995 2005 Year CEMs

O/C ratio; Own. Conc.

O/C ratio Own. Conc. CEMs

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年の0.92と推移してきており,少しずつ 1 に近づいてきていることに注目 すれば,所有と支配は比例関係に近づいてきているようである。言い換え れば,特定支配株主が保有する普通株式の割合とそれが表彰する議決権と の間に存在する不均衡が 1 株 1 議決権原則の場合の均衡さに近づいてきて いるということが言えそうである。集中所有に関する指標が1985年の 0.58,1995年の0.55および2005年の0.50と推移してきており,特定株主によ る集中所有の度合いがさほど変化してきていないとするならば,CEMs の 利用数の減少にあらわれているように,特定支配株主が支配権を行使する ツールを放棄してきたために所有と支配の比率が 1 に近づいてきたことと 考えられよう。他方で,2012年の文献のなかでは,具体的な会社の持ち株 (23)  2012年調査文献では,イタリアにおいてもっとも大規模なプライベート・グ ループである the Agnelli group のみを取り上げた。Agnelli group のメイン企 業が Fiat S. p. A である。 集中所有(%) CEMsの数 所有と支配の比率(%) 1985年 57.63 29 0.30 1995年 54.19 39 0.50 2000年 61.01 12 0.77 2005年 63.62 9 0.81    調査文献が示したように,特定支配株主による集中所有の割合は逓増である のに対して,ピラミッド構造などの CEMs 数の減少に伴い,所有と支配の比 率は 1 に近づいてきていることが見て取れる(2012年調査文献に基づき,上記 表は筆者作成)。

表 2 :1995年~2005年所有関係指標(Ownership Structure Indicators)の変化 集中的所有 CEMsの数 所有と支配の比率

1985年 0.58 1.04 0.76

1995年 0.55 1.12 0.81

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比率に関するデータは 1 例しか提供されていない(23)。したがって,特定 株主による普通株式の所有比率に変化があるかどうかについては,さらに 他のデータをみる必要がある。 3  EU 裁判所「黄金株」判決後の株式所有構造 ( 1 ) イタリア「黄金株」判決  イタリアでは,1990年代に通信部門と金融部門を中心に国有企業の民営 化が進められた。当時はヨーロッパ統合からの外圧も存在したが,第二次 世界大戦後から維持されてきた混合経済という経済構造の元で,国有企業 の民営化は,「国家財政への負担の軽減」,「当該企業の負債の削減」など の解決策として導入された(24)。OECD は,イタリアを「1993年から98年 までの間でもっとも民営化が進んだ国」と評価したが,たしかに1990年代 のイタリアにおける民営化政策は1990年に GDP 比で10.9%に達していた 財政赤字を1999年には 2 %程度にまで縮小させるというめざましい成果を 上げていた(25)。  他方で,イタリアの民営化政策の実施過程では,他の欧州諸国でもみら れるように「黄金株(golden shares)」の利用が認められた。すなわち,株式 を市場に公開する一方,政府またはその関係者にある種の特別な権利を留 保するために特別の株式が用いられたのである。このような「黄金株」の 利用は,1990年代当初の段階から EU(当時は EC)委員会によって批判的 に受けとめられ,後にこの問題は EU 委員会によって EU 裁判所に提訴さ れるに至った(26)。 (24)  堺憲一「1990年代におけるイタリア経済の特質」東京経大学会誌281号 (2007年)199─231頁。 (25)  小林浩人「民営化の進展と今後の見通し(イタリア)」JETRO ユーロトレン ド Report 5 33─42頁(2000年)。

(26)  「黄金株」事例については,拙稿「EU における『黄金株(golden shares)』 を通じた会社支配のあり方─ EU 裁判所の判例分析を中心に─」早大法誌64巻

(13)

 具体的には,2000年に EU 委員会が提訴した事例(European Commission v. Italian Republic [2000])(27),2005年 事 例(European Commission v. Italian Republic [2005])(28) と2009年事例(European Commission v. Italian Republic

[2009])(29) がある。また,それら以外にも,EU 委員会によって提訴され

たわけではないが,ミラノ市政府が保有していた「黄金株」に関して先決 判決が求められた2007年事例(Federconsumatori and others v. Comune di

Milano [2007])(30) もある(以下,個別事例を取り上げる場合を除き,これらの 事例を「イタリアにおける『黄金株』判決」と総称する)。  EU 裁判所は,いずれの事例においても,「資本移動の自由」と「開業 の権利」に違反すると判示した。すなわち,イタリア民法典に法的根拠を 持って制定された特別法で存在していた場合であっても,「黄金株」に付 与された特別権利が定められる必要性と妥当性が求められ,上記の 4 つの 事例では,いずれも必要性と妥当性は認められないとされたのである。そ の理由は,「黄金株」の利用については,極めて例外的に,かつ限定的に しか認められない,というものであった。もっとも,イタリアにおける勅 令192/2001号においては,同勅令の適用を受ける会社を「その適用範囲 は,EU 域内における電力とガス分野の完全な自由競争市場が完成される までの間に,イタリア国内で行われている当該分野の自由化と民営化の進 行状態を保護するために,国家または他の公権力に直接または間接的に支 配され,かつ,国内市場で支配的な地位を占めるものの,正規の金融市場 に上場されていない企業法人を対象にする」(31) といった形で限定していた が,それでも「黄金株」として付与された特別な権利は EU 裁判所によっ て否定された。

(27)  Case C─58/99, ECR I─03811. (28)  Case C─174/04, ECR I─04933. (29)  Case C─326/07 ECR I─2291.

(30)  Case C─463/04 and C─464/04, ECR I─10419. (31)  Commission v. Italian Republic [2005], para.6.

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 イタリアの場合,上記のように主に勅令(décret)を通じて,国務大臣 に対して特殊な権限を付与する「黄金株条項(“golden share” clauses)」を 会社の定款に記載し,国家に対して特権が付与されてきた。具体的な勅令 の内容は,その関係する分野によってさまざまであるが,勅令の根拠とな る法規定はイタリア民法典にある。すなわち,イタリア民法典2449条(32) によれば,「国家または地方公共団体が株式会社に参加する場合には,そ の定款において 1 人または数人の取締役または監査役を任命する権限を付 与することができる」( 1 項)と定められているのである。また,「そのよ うな取締役または監査役は,当該役員を任命した団体によってのみ解任で き,かつ,総会によって任命された役員の同様の権利と義務を有する」 ( 2 項)とも定められている。さらに,同2452条においては,「本節の諸規 定は国民的利益にかかわる株式会社においても,その会社事務,株式の移 転,議決権ならびに取締役,監査役および指導者の任命に関して,当該株 式会社につき特別な規律を定めた特別法の諸規定と両立しうる限りにおい て適用される」と定められている(33)。  このような法規定の下,「黄金株条項」に関しては,以下のように具体 的な利用例が見られた。  第 1 に,1994年 7 月30日勅令332/1994(GURI No 177 of 30 Jul. 1994)「株 式会社において国家と公的機関によって保有された株式持分の売却のため の促進手続き(acceleration of the procedures)」 2 条により,国家の安全保 障,運送,電信,エネルギー源とその他の公共サービス分野において活動 する国家が支配する会社の支配権を放棄するに先立ち,国務大臣が行使で きる一定の権限を留保するために,臨時株主総会の決議を通じて, 1 つま たは複数の「特別な権限」が付随した 1 つの「条項」がその会社の定款に (32)  イタリア民法典第 5 編労働・第 5 章会社・第 5 節株式会社・第12款「国家ま たは地方公共団体の参加する会社」に定めている(風間鶴寿『全訳イタリア民 法(追補版)─民法・商法・労働法─』(1973年,法律文化社)376頁参照。)。 (33)  イタリア民法典第 5 編労働・第 5 章会社・第 5 節株式会社・第13款「国民的 利益にかかわる会社」に定めている(風間・前掲注32,377頁参照。)。

(15)

導入されなければならないとされた。そのうえで,かかる「特別な権限」 について,政府の特別承認権,政府による 1 人以上の取締役または 1 人の 監査役の指名権および政府が会社の一部決定に対する拒否権であると具体 的に明示された(34)。これらの規定に基づき,イタリア政府によって,1995 年10月 5 日にはエネルギー部門の会社 ENI S. p. A の定款に,1997年 3 月21 日には通信分野の会社 STET S. p. A と Telecom Italia S. p. A の定款に,そ れぞれ「黄金株」条項が盛り込まれた(35)。  第 2 に,2001年 5 月25日勅令192/2001号において,電気とガス分野の会 社について, 2 %以上の株式を保有する株主の議決権は自動的に停止する と規定された。すなわち,そのような会社の株式資本において,その取得 方法の如何を問わず, 2 %を超えた株式保有については,超過した部分の株 式 の 議 決 権 は 自 動 的 に 停 止 さ れ な け れ ば な ら ず, か つ, 株 主 総 会 (deliberative meetings)における定足数に算入されてはならないとされたの である。また,将来のまたは繰延べられた取得権利あるいは応募する権利 も同様に行使されてはならないとされた(36)。  第 3 に,イタリア民法典2449条の規定と勅令474/1994号の結合的な規 定がある。  民法典2449条の規定は既に述べたとおりであるが,それに基づいて制定 された,勅令474/1994号 4 条 1 項の規定によれば,直接または間接的に 政府または公的機関に支配される会社において,取締役の選任は「リス ト・システム」に従わなければならないと定められた。当該システムによ れば,政府には,それが有する議決権とは関係なく,取締役の選任権とい う「特別な権利」が認められることとなる(37)。  実際,上記の規定にしたがって,ミラノの市有企業であった AEM S. p. (34)  Commission v. Italian Republic [2000], para. 1 and 3.

(35)  Id., para. 6.

(36)  Commission v. Italian Republic [2005], para. 6.

(16)

Aの民営化のプロセスの中で,ミラノ市議会は,ミラノ市が当該会社の株 式資本の33.4%を保有することを条件として,当該会社の取締役会構成員 数の 4 分の 1 を超えない取締役を選任できる権利を同社の定款に記載する 旨を決議した。これに加えて,市議会には AEM S. p. A の定款規定によっ て,市議会が直接選任できない取締役の選出「リスト」の作成に参加でき る権利が付与された。すなわち,ミラノ市は,AEM S. p. A においてその 資本の相対的多数(33.4%)を有するに過ぎないにもかかわらず,取締役 の絶対的多数を実質的に選任できる権限を自己のために留保することとな ったのである(38)。 ( 2 ) 「黄金株」判決以降における当該会社の所有構造  「黄金株」判決において,EU 裁判所は,イタリア政府またはミラノ市 が各関係する会社において行使してきた特別な権利は投資者の投資意欲を 阻害するものであると判示した。そのため,これらの一連の「黄金株」判 決以降,イタリアでは2012年の勅令21/2012と56/2012をもって1994年民営 化法の改正を行った。1994年法と比較すれば2012年勅令は,株式の所有制 限,会社支配権に関する特別な権利の定めなど詳細な規定を設けている。 さらに,勅令21/2012で見られた文言は,後に同56/2012によってさらに 厳格なものに変更されるなどした(39)。  ところで,EU 裁判所による一連の「黄金株」判決以降,これらの関係 (38)  Id., paras. 9 and 10.

(39)  勅令21/2012において,「国防および国家安全分野ならびにエネルギー,運 送と通信産業部門に関連する企業の所有関係に対する特別権利に関する規則」 と定めたところを,勅令56/2012では「勅令によって特定したネットワーク, 製品,装備および関連する他のものなどが……関連分野において政策的に重要 なものである」などといったより厳格な文言による規定が見られた。EU 委員 会によれば,2011年現在同委員会が,イタリアにおける通信・資源分野に関連 する国内法上に定められた「黄金株」関連規定が資本移動の自由原則と開業の 自由に違反するため EU 裁判所に提訴する判断を出していたところ,このよう な2012年法改正がなされたため,EU 委員会は引き続き同国の動向を注目した いと示した(OJ C 208, 3.7.2014 at 414)。

(17)

する会社において政府が保有していた株式または政府に認められていた特 別権利に変化はあったのだろうか。いくつかの上場会社のコーポレート・ ガバナンス・レポートと年次報告書を確認したところ,政府による持ち株 比率の減少などが見られ,またそれらの株式に付随された特別な権利に関 する修正も見られた(40)。しかしながら,そのような修正が関連する各社 の株式所有関係において著しい変化をもたらすまでには至っていないよう である。とりわけ,ピラミッド構造,株主関契約および議決権種類株式 (議決権優先株式(41))などのメカニズムを組み合わせて利用し,継続して 実質的支配を行っているように見受けられる。 3  小括  本章では,CONSOB の調査資料,2012年調査文献および「黄金株」判 決後の関連するいくつかの会社の実態についてみてきた。CONSOB 資料 と2012年調査文献によれば,イタリア上場会社において株式の集中所有構 造が明らかにされたと同時に CEMs の利用が減少していたことが見受け (40) 産業分類 CEMs 利用 政府保有割合 1990年代 現在 (2014年末) ENI S. p. A エネルギー 不明 37.6% 30% Telecom Italia S. p. A 通信 ある 5.2% 0% AEM S. p. A エネルギー ある 49% 33.4% ENEL エネルギー 不明 64.5% 25.5% FINMECCANICA 国防・航空 ある 30% 30%    上記会社のホームページなどを参照し,筆者によって作成。 (41)  ここでいう議決権優先株式は,それを利用した会社によって名称が異なるの みならず,実際に議決権の行使の有無,行使対象事項に関しても会社ごとに事 情が異なり,なお,一般的に“Savings Shares”という名称が定着しているよ うである(たとえば,Telecom Italia S. p. A など。同社2014年度コーポレー ト・ガバナンス・レポート参照 http://www.telecomitalia.com/content/dam/ telecomitalia/en/archive/documents/governance/cg_annual_report/2014/ relazione─CG─2013─ENG.pdf)。

(18)

られた。しかしながら,実態としては,「黄金株」判決後も,関連する会 社においては,CEMs の利用例の減少があるとは必ずしも言えないようで ある。この点は,後述するように,EU 報告書を通じても窺い知ることが できる。

Ⅲ 支配権強化メカニズム(CEMs)の利用状況

1  EU 比例性原則に関する報告書  2007年に EU 委員会は,EU における比例性原則に関する報告書(Report on the proportionality principle in the European Union, 2007(42)(以下,「EU 報告書」と いう))を公表した。比例性原則とは,「資本と支配の比例性(proportionality)」(43) のことである。EU 報告書では,その調査目的について,EU 域内上場会 社において比例性原則に対するさまざまな「逸脱(diversions)」の存在を 特定するためであるとし,とりわけ EU 構成国レベルにおいてどのような 関連規制が置かれ,それらの「逸脱」の経済的重要性,そしてさまざまな 「逸脱」が EU 投資者に対していかなる影響を及ぼしているのかを評価す るためであるとした(44)。ここで言う「逸脱」について,同報告書は,「支

配権強化メカニズム」(Control Enhancing Mechanisms, CEMs)がこれに該 当するとし,調査対象地域の上場会社をサンプルとして,利用状況の詳細 (42)  Shearman & Sterling LLP, Institutional Shareholder Services Europe (ISS

Europe) and ECGI, Proportionality Between Ownership and Control in EU Listed Companies External Study Commissioned by the European Commission. (43)  比例性については,「最終的な経済的リスクと会社支配との間の比例性のこ とであり,会社の利益または清算における残余財産分配に参加する無制限の権 利を有する株式資本およびそのような株式資本だけが,負担するリスクに比例 して,通常,支配権を持つべきであるということを意味する。会社の残余の利 益および財産に対する権利の保有者は,それらの決定の最終的な効果がそれら によって負担されるように,会社の事項について決定するためにもっとも適切 に与えられている」と解される。 (44)  EU 報告書, 7 頁。

(19)

をまとめた。  EU 報告書によれば,CEMs とは,「株式会社における支配権(議決権の 割合)が投下資本の割合に比例せず,投下資本以上の会社支配権を獲得す ることによって,特定の株主が支配権を強化するなどのことを可能にする 仕組みの総称」であるとされる(45)。  これらの CEMs の多くは,いわゆるファミリー企業における創業者一 族などの支配株主が長期的に安定した経営を維持するために用いられてき た伝統があるとされる。  EU 報告書は,EU 構成国16か国のほかに,アメリカ,オーストラリア および日本の計19カ国の規制の枠組みを調査し,EU 域内464の上場会社 を対象に行ったアンケート調査などに基づいて作成されたものである。 EU16か国とは,ベルギー,ドイツ,デンマーク,エストニア,フィンラ ンド,フランス,ギリシア,ハンガリー,アイルランド,イタリア,ルク センブルク,オランダ,ポーランド,スウェーデン,スペインおよびイギ リスである。EU 域内464の上場会社の内訳は,上記16の対象構成国の各 国における20社の大規模上場会社(Market Cap (<€2bn) Top 20)と,国によ って会社数は異なるが,直近に上場した小規模会社(Small and recently

listed companies)が含まれている。その中で,イタリアについては,大規 模上場会社20社と直近に上場した小規模会社19社の合計39社がサンプルと された。  同調査結果によれば,EU 諸国では,これまでさまざまな CEMs が利用 されてきていることが明らかにされた。イタリアの場合もその例に漏れ ず,報告書の調査結果に掲げられた13種類の CEMs のうち,複数議決権 株式,預託証書(depository certificates)と議決権上限設定が法規制上禁止 されているものの(ただし,複数議決権利制度については,2014年から 1 株あ たり 2 倍の議決権の付与を限度に認められるようになった),それらを除いた (45)  EU 報告書, 7 頁。

(20)

9種類の CEMs が利用可能であるとされた(46)。また,実際に,イタリア の上場会社39社のなかで,59%の会社においてさまざまな CEMs が利用さ れているとされた(47)。そのうえで,イタリアの上場会社のなかでもっと も一般的に利用されてきた CEMs の種類としては,株主間契約とピラミ ッド構造であるとのことであった(48)。  他方で,EU 報告書によれば,CEMs の利用によって,株式会社の「資 本と支配の比例性(proportionality)」(49) に不均衡の問題が生ずることは事 実であるものの,CEMs の利用と上場会社のパフォーマンスとの間には直 接的な因果関係を見いだすことができないとのことであった。したがっ て,同報告書は,CEMs の利用に対して否定的に評価する根拠はないと結 論づけている。もっとも,EU 報告書のなかでは,投資者サイドからの意 見として CEMs 全般に対して否定的な評価が多く(50),また,一部の CEMsに対して中立的な意見も見られたことも紹介されている(51)。以下 (46)  EU 報告書,15頁。 9 種類の CEMs については,後述する。なお,2014年 6 月24日勅令91号20条によって金融市場統合法に導入された同法127条の 5 (Ariticle 127─quinquies Vote increase)の定めによれば,定款の定めをもって,

24ヶ月以上継続して同一種類の株式を保有した場合において,最大 2 個までの 議決権を付与することができるとしている。 (47)  具体的には,23%の会社が 1 種類の CEMs,23%の会社が 2 種類の CEMs, 10%の会社が 3 種類の CEMs,3 %の会社が 3 種類以上の CEMs を利用してい る。EU 報告書,58頁。 (48)  EU 報告書,19頁,22頁と58頁。 (49)  比例性については,「最終的な経済的リスクと会社支配との間の比例性のこ とであり,会社の利益または清算における残余財産分配に参加する無制限の権 利を有する株式資本およびそのような株式資本だけが,負担するリスクに比例 して,通常,支配権を持つべきであるということを意味する。会社の残余の利 益および財産に対する権利の保有者は,それらの決定の最終的な効果がそれら によって負担されるように,会社の事項について決定するためにもっとも適切 に与えられている」と解される。 (50)  とくに否定的な評価が強かったのが,特権優先株式,黄金株,ピラミッド構 造および複数議決権株式である(EU 報告書,32頁以下)。 (51)  無議決権優先株,株主間合意などに対して,中立的であると回答された (EU 報告書,32頁以下)。

(21)

では,同報告書をもとに,EU 諸国における CEMs の利用状況(本節)と イタリアでの利用状況(本章・ 2 )について見てみることとする。 ( 1 ) 支配権強化メカニズムの種類  CEMs は,比例性原則から逸脱する概念であり,その種類としてはさま ざまなものが存在するが,EU 報告書は13種類の CEMs を取り上げてい る。その上で,EU 報告書はそれら13種の CEMs を大きく 3 類型に分類し ている。すなわち,①第 1 類型として,特定支配株主の支配権強化メカニ

ズム(Blockholder control enhancing mechanisms)を挙げ,これは,議決権

をレバレッジすることによって,特定支配株主(ブロック所有株主)の当

該会社に対する支配権を強化するものであるとし,その例として,一部の 種類株式とピラミッド構造をリストアップした。②第 2 の類型は,支配権 固定メカニズム(Mechanisms used to lock─in control)であり,こうしたメカ ニズムを通じて,当該会社に対する支配権を固定する機能を有するものと して,特権的優先株式(priority shares),預託証書(depository certificates), 議決権上限設定,株式所有の上限設定およびスーパーマジョリティー条項 を挙げた。これら以外にも,③第 3 類型として,その他支配権強化メカニ

ズム(Other control enhancing mechanisms)があり,特別な法制度に基づき

EU会社が利用しているパートナーシップ・リミテッド・バイ・シェアズ

(partnership limited by shares),政府が有する黄金株などの影響力,そして

株式の相互保有および株主間契約を挙げた。以下,これら CEMs の類型 について概観する。

 (ⅰ) CEMs の各類型

 ① 第 1 類型:特定支配株主の支配権を強化するメカニズム

・複数議決権株式(Multiple voting rights shares)

 複数議決権株式とは,ある会社が,同等の投資額にもかかわらず異なる 議決権を付与して発行される株式のことを言う。たとえば, 1 つの種類の

(22)

株式については,その種の株式の 1 単元につき 1 議決権を認め,もう 1 つ の種類の株式については,その種の株式の 1 単元につき10議決権を認める というのが一般的である。多くのヨーロッパ企業において異なった議決権 を有する株式を発行している例がみられるが,とりわけスウェーデンとオ ランダにおいて多く見られている。また,一部の国においては,同一種類 の株式において異なった議決権を付与している例が認められ,フランスの 場合,同種類の株式にもかかわらず,保有期間によって一部の株式には 2 倍議決権が認められている(52)。

・ 無議決権株式または無議決権優先株式(Non─voting shares or Non─ voting preference shares)

 無議決権株式とは,議決権を有さず,かつ,優先配当などのような特別 な権利も有さない株式である。無議決権優先株式とは,議決権は有さず, そのかわりより高い配当が分配または保証される株式のことをいう。イタ リア,ドイツとイギリスにおいてその利用例が多く見られる(53)。 ・ピラミッド構造(Pyramid structures)  ピラミッド構造とは,ある主体(たとえば家族企業または株式会社)が他 の企業を支配する場合に用いられるものであり,被支配企業の支配的持分 (controlling stake)を保有することによってそれを実現し,かかる支配のプ ロセスが複数段階に上って繰り返えされる場合に生じる構造のことをい う。ピラミッド構造のアイデアは,支配と所有関係の分離を複数の企業を 関係づける(chaining)ことを通じて実現するという発想に由来するとさ れる。ピラミッド構造は,結果として,企業グループの最上位に位置する 持株会社(またはそれを支配する個人株主)が比較的に少数の投資をもっ て,各段階における企業グループ内の従属会社の少数派株主を「犠牲にし (52)  EU 報告書, 7 頁,18頁と26頁。 (53)  EU 報告書, 7 頁,19頁と28頁。

(23)

て」企業グループ全体を支配することを可能にしている(54)。  したがって,ピラミッド構造に含まれる企業数が多ければ多いほど,支 配と所有との間の比例性からの乖離の程度がより高くなるとされている。 EU報告書では,直接的な株式所有 5 %以上と間接的な株式所有20%以上 の場合における株主構造について調査がなされている(55)。  ② 第 2 類型:支配権固定化メカニズム ・特権的優先株式(priority shares)  特権優先株式とは,ある会社において,ある種の株式を有する株主に対 して,その株式所有比率に関係なく,当該会社の意思決定に特別な権利ま たは拒否権を付与している場合の,当該種類株式のことをいう。その利用 例は,オランダ,イギリスおよびフランスで見られている。特権的優先株 式によって株主に提供される「特権」の内容等については,その利用例と 国ごとにさまざまである。たとえば,取締役会に特定の候補者を提案する 権利を与えている例から,直接に取締役を選任できる権利または株主総会 の決議を経た決定事項に対する拒否権を与えている例までさまざまであ る(56)。 ・預託証書(depository certificates)  預託証書とは,金融機関がある会社の株式を引き受け(underlying),当 該株式を裏付けにして発行される証書のことである。こうした場合におい て,金融機関は当該会社の議決権を行使する。預託証書を持つ者は,該当 する株式について議決権は有さず,株式の金銭的な権利のみを有する。こ (54)  この点,EU における会社法上級専門家グループが行った調査によれば(後 掲注95),たとえば, 6 段階に及ぶ企業グループにおいて,最上位の持株会社 を支配する株主が,最下位の会社のわずか1.56%を所有することによって当該 企業グループへの支配を可能とする。 (55)  EU 報告書, 7 頁,19頁と28─30頁。 (56)  EU 報告書, 8 頁,20頁。

(24)

のようなメカニズムはオランダにおいて見られている(57)。

・議決権上限設定(voting right ceilings)

 議決権上限設定は,株主が保有する株式の割合に関係なく,一定限度以 内でしか議決権が行使できないことをいう。このような議決権に対する上 限設定は,自由譲渡できる(outstanding)あらゆる議決権の付随する有価 証券に対して一定の割合までしか保有できないような形で設定する場合 や,または,保有株式数等にかかわらず,株主総会において行使可能な議 決権の割合について上限を設定するような場合などがみられる。  議決権上限設定はヨーロッパ諸国において非常に一般的に利用されてい るが,ベルギーとオランダでは利用例が見られていない。また,一部の共

済銀行(co─operative banks)では,頭数議決権ルール(“one head─one vote”

rule)が採用されており,このような議決権上限設定に類似した趣旨で利 用されている。すなわち, 1 人の株主はその持ち株比率に関係なく, 1 議 決権のみしか行使できないというルールである。たとえば,Italian Banche Popolariにおいて,このルールが採用されている(58)。 ・株式所有の上限設定(ownership ceilings)  この種の CEMs は,株式を所有することについて,一定割合を上限と して制限するものである。主として,ある会社において潜在的な投資者が 一定限度を超えて当該会社に資本参加することを防止するためであるとさ れる。イタリア,イギリスおよびその他多くのヨーロッパ諸国で見られ る(59)。 (57)  EU 報告書, 8 頁,20頁と30頁。 (58)  EU 報告書, 8 頁,20頁と30─31頁。 (59)  EU 報告書, 8 頁,21頁と32頁。

(25)

・特別過半数条項(supermajority provisions)  会社の定款または国内法により,特定の会社の重要な事項に対するさま ざまな変更について,50%+ 1 の議決権を有する株主に対して特別な承認 権を認めるというものである(60)。  ③ 第 3 類型:その他のメカニズム ・ パートナーシップ・リミテッド・バイ・シェアズ(Partnerships limited by shares)  特別な法律によって一部のヨーロッパ国家において認められている会社 形態のことをいう。この種の会社は, 2 種類の株式(持分)を発行したり することなく, 2 つのグループの異なったパートナーズを存在させてい る。そのうちの, 1 つのグループは一般パートナーズ(general partners) であり,会社の経営を担当する。もう 1 つのグループは休眠パートナーズ (sleeping partners)であり,会社に出資し,会社経営を監視する権限のみ を有する。一般パートナーズが無限責任を負うのに対して,休眠パートナ ーズは有限責任のみを負うものとされる(61)。 ・黄金株(Golden shares)  この黄金株は,特別な権利を留保しておくことを望む国家,地方政府ま たは政府当局がコントロールする企業において発行され,主に,元国有企 業の民営化後に政府の影響力を維持するために利用される。特別な権利と は,企業買収を阻止する場面,議決権を制限する場面,そして経営判断を 否決する場面などにおいて行使される(62)。 (60)  EU 報告書, 8 頁と21頁。

(61)  たとえば,フランスの Societes en Commuandite par Actions とドイツの Kommanditgesellschaft auf Aktienがこの類型に属するとされた。EU 報告書,

8頁と22頁。

(26)

・株式の相互保有(cross─shareholdings)  EU 報告書の調査によって確認された株式の相互保有とは,会社 X が会 社 Y の株式を保有すると同時に,会社 Y も会社 X の株式を保有する状況 のことである。また,環状保有(circular holdings)のような状況もある。 すなわち,A の株式を B が保有し,B の株式を C が保有し,C の株式を Aが保有した状況が,株式の相互保有の特殊形態であるとされた(63)。 ・株主間契約(shareholders agreements)  株主間契約については,公式または非公式な形で株主間で締結される。 その具体的な取り決めについてはさまざまなものがあるとされる(64)。  以上のような13種類の CEMs について,EU 報告書では,種類別に説明 した上で,各国における利用状況,各会社における利用状況を調査したう えで,その利用実態をまとめている。同報告書の作成に際しては,そうし た利用状況が投資者の投資判断にどのような影響を与えうるのかを調べる べく,調査対象国を含んだ世界範囲での特定可能な機関投資者に対して, アンケート調査を行い,そのうち445通の回答が得られている。それらの 回答にもとづいて,同報告書はその第 5 章において CEMs が投資者に与 えるインパクトをまとめている。以下では,そうした投資者サイドからの 評価について紹介する。  (ⅱ) 投資者サイドからの評価  上記のアンケート調査において,その回答者の内訳は,Asset Manager

(Investment Fund/Mutual Fund)が60%であってもっとも多く, Hedge Fund

が11%,Pension Fund が10%,Insurance Company が 7 %およびその他 投資者が12%という割合を占めていた。

(63)  EU 報告書, 8 頁,22頁と34頁。 (64)  EU 報告書, 8 頁,22頁と35頁。

(27)

 アンケート調査における回答では,ほとんどの CEMs に対して「否定 的」または「非常に否定的」であるという見方がなされていたが,無議決 権優先株式,パートナーシップ・リミテッド・バイ・シェアズと株主間契 約に関しては「中立的」との見方をもなされていた(65)。また,CEMs の 利用が投資判断に影響を及ぼすと回答する機関投資家が多く,その 8 割の 機関投資家が CEMs の存在によって会社の株価が10%∼30%ディスカウ ントされると回答した(66)。  他方で,上場会社が CEMs の利用について廃止すべきなのかどうかに ついて問うたアンケートの回答では,216通のうち153通が,CEMs の導入 自体は上場会社の状況などに鑑みて,ケースバイケースであるとの意見を 示し,もっとも多かった。  (ⅲ) EU 報告書の結論  調査の結果,EU 報告書の結論によれば,比例性原則への逸脱と,上場 会社の経済的なパフォーマンスまたは会社のガバナンスとの間に因果関係 が存するとの確証はないとされた。しかしながら,投資者が,それらのメ カニズムの存在に対して,否定的にとらえていること,それらのメカニズ ムに関してより多くの透明性の確保が投資決定に資することになるとの裏 付けが存在するとされた。 2  イタリアにおける CEMs の利用状況 ( 1 ) 概説  EU 報告書は,イタリア上場会社のサンプルとして,大規模上場会社の 20社と直近に上場された株式会社として19社を調査対象として挙げてい る。EU 報告書によれば,イタリア上場会社における CEMs の利用状況は 以下のとおりである。 (65)  EU 報告書,84頁。 (66)  EU 報告書,88頁。

(28)

 まず,規制の枠組みから確認した結果,13種類の CEMs のうち,複数議 決権株式,預託証書,議決権上限(67) の 3 種類がイタリアの会社法上にお いて利用不可能なメカニズムであり(ただし,複数議決権については,2014 年に採択された勅令により,現在,2 倍を限度として利用可能となっている(金 融市場とうごう法127条の 6 )。),特権優先株式が規制上からはとくに禁止さ れるかどうかについて不明確であり,それら以外の 9 種類の CEMs が法 規制上明確に利用可能とされる。  また,実際の CEMs 利用状況に関する調査結果によれば,無議決権株 式= 0 %,無議決権優先株式=30%,ピラミッド構造=45%,議決権上限 設定=10%,株式保有の上限設定=30%,黄金株=20%,株主間契約= 40%という状況にあるとされた。すなわち,イタリア上場会社にもっとも 一般的に利用される CEMs としては,ピラミッド構造,株主間契約であ るということが明らかにされた。  しかしながら,CEMs をまったく利用していない会社がサンプル会社全 体の41%を占めており,また,大手上場会社のなかでは15%が CEMs に ついて未使用であり,直近に上場された会社のなかでは,69%の上場会社 に CEMs の利用が認められないことが調査によって示された。以下では, EU報告書にもとづいてさらに詳述する。 ( 2 ) 種類株式の利用  調査対象となったイタリアの上場会社において,複数議決権株式を利用 している会社は,調査時点において確認されていないが, 2 種類以上の株 式を発行している会社は 7 社あった(68)。その 7 社とは,金融関連の会社 Unicredito Italiano社, San Paolo IMI 社,Banca Monte dei Paschi 社 と (67)  規制上禁止されているメカニズムではあるが,歴史的な原因から実際に 3 社 がこのメカニズムを利用していることが,同報告書のなかで示されている (EU 報告書,20頁)。

(29)

Banca Intesa社の 4 社以外に,Edison 社,Fiat 社および Telecom Italia 社 である。そのうち,San Paolo IMI 社以外の 6 社が普通株式と無議決権優

先株式(貯蓄株式(savings share)ともいう)を発行している。無議決権優 先株式は,株主総会において自らの利益に直接的に関連付けられる事項, たとえば,合併,会社の解散または無議決権優先株式の普通株式への転換 (conversion)などといった事項に対してのみ拒否権を有するとされてい る。無議決権優先株式には,比較的に高い配当が得られ,累積可能とされ ている。また,会社の清算に際して普通株式に優先した残余財産分配請求 権が認められるとされている(69)。

 また,Fiat 社,Banca Monte dei Paschi 社と San Paolo IMI 社において 議決権優先株式(preference voting shares)が発行され,Fiat 社では市場で の取引をも可能にしているのに対して,他の 2 社では市場に対して公開し ていなかった(70)。  この点,直近に上場した株式会社については,すべての会社が 1 種類の 株式のみを発行していた。 ( 3 ) ピラミッド構造の利用  調査対象となった20の大手上場会社のうち, 9 社がピラミッド構造を利 用していた。それらの会社は,金融関連部門の会社である Autostrade 社 と Banca Intesa 社と Mediobanca 社,事業会社である ENEL 社,Edison 社と Fiat 社,石油・ガスなどエネルギー関連部門である ENI 社と Snam Rete Gas社,通信部門の会社である Telecom Italia 社であった。

 以下では,EU 報告書でまとめた上場会社間のピラミッド構造を取り上 (69)  このような無議決権優先株式について,各会社での発行割合は,以下のとお りである。Banca Monte dei Paschi 社で0.2%,Unicredito Italiano 社で0.3%, Edison社において2.6%,Fiat 社6.3%,Banca Intesa 社13.4%および Telecom Italia社31%となる(EU 報告書,59頁)。

(70)  それぞれの発行割合は,Fiat 社8.7%,Banca Monte dei Paschi 社18.7%と San Paolo IMI社15.2%となる(EU 報告書,59頁)。

(30)

げて紹介する(71)。

 ①  金融大臣が影響力を及ぼしているいくつかの会社間の株式所有関係 の例

 まずは,ENI 社,ENEL 社と Snam Rete Gas 社の間の株式所有関係の例 を み て み よ う。ENEL と ENI 両 社 の 株 主 が と も に 金 融 大 臣 と Cassa Depositi e TPrestiti社であり,それぞれの会社においておおよそ20%と 10%の株式を保有する。Cassa Depositi e TPrestiti 社は,その株式の70% を金融大臣によってコントロールされている。また,ENI 社は Snam Rete Gas社の50%の株式を保有する過半数支配株主(majority shareholder)で ある。

 ② Edison 社のピラミッド構造の例

 次に Edison 社のピラミッド構造を例に挙げよう。Edison 社の主要株主 はフランスの Electricite de France Group(以下,EDF Group という)と

(71)  図表資料は全て EU 報告書による(EU 報告書,59─61頁)。 VR=OR: 50% VR=OR: 21.4% VR=OR: 10% VR=OR: 70% VR=OR: 20 % VR=OR: 10% Enel Eni

Snam Rete Gaz

Ministry of Finance Casa Depositi e Prestiti

OR=Ownership rights; VR=Voting rights

States/government entities Italian companies in sample

(31)

Transalpina di Energia Srl(以 下,TDES 社 と い う)で あ る。 そ れ ぞ れ Edison社の議決権株式の17.3%と71.2%を保有している。

 TDES 社の50%の株式を WGRM 社が保有し,WGRM 社は EDF Group の傘下にある持株会社であり,残りの TDES 社株式の50%が Delmi S. p. A に保有されている。また,Delmi 社の過半数支配株主が AEM S. p. A であ り,AEM 社は同社の51%の株式を保有している。さらに,AEM 社資本 の43.3%をミラノ市政府が保有している。これが Edison 社のピラミッド 構造である。

 さらに,EDF Group,AEM S.p.A,Delmi S.p.A と WGRM の 4 社の間に は,TDES 社を通じて Edison 社に対する支配権を行使するための株主関 契約をも締結しているとされる(72)(上記の図表資料参照)。

VR=OR: 43.3% Edison

OR=Ownership rights; VR=Voting rights Non─Italian companies in sample Italian companies in sample

States/government entities

Companies outside sample Shareholders agreements OR: 16.9%VR: 17% Transalpina de Energia Srl Delmi S. p. A AEM S. p. A WGRM EDF Group French State VR=OR: 51% VR=OR: 83% VR=OR: 50% VR=OR: 50% VR=OR: 50% VR=OR: 50% OR: 69.4% VR: 71% Comune de Milano ② Edison 社のピラミッド構造

(32)

( 4 ) 議決権または株式所有の上限設定  議決権株式の取得に上限が設定されている会社は,主にエネルギー関連 の上場会社であり,その取得制限は 5 %または15%が一般的であった(73)。  株式所有の上限設定も議決権に対する制限同様,一定割合を定めている 例が,産業部門,エネルギー関連部門または金融関連部門のさまざまな会 社において見られた。また,その所定の株式所有比率は,0.5%から 4 %な どさまざまであった(74)。 ( 5 ) 黄金株の利用  1994年 7 月30日法474号イタリア民営化法第 2 条にもとづき,一部の政 策的な株式会社の定款において,政府またはその他の公的機関に対して特 別な権利を付与することが定められた。これらの特別権利は「国家の極め て重大な利害関係(vital interests of the State)」(75) を守るためにのみ行使し うるとされた。EU 報告書の調査では,ENEL,ENI,Finmeccanica およ び Telecom Italia の 4 社において,そうした黄金株の利用がみられた。ま た,近時に上場した 2 つの会社においても,黄金株に類似した権利を政府 が有していることが確認された。

(72)  EU 報告書,60頁。

(73)  たとえば,Snam Rete Gas と Terna がともに石油・ガスに関連する会社であ り,議決権株式の取得につき 5 %の制限が設定され,金融部門の会社である Unicredito Italianoが15%の上限を設定した(EU 報告書,61頁)。

(74)  たとえば,ENEL,ENI,Finmeccanica および Banco di Verona e Novara な どに株式所有制限が見られた(EU 報告書,62頁)。

(75)  2004年政令(a decree of the Prime Minister of 2004)において,「国家のきわ めて重大な利害関係(vital interests of the State)」とは何かを定めた。すなわ ち,(a)石油,エネルギー,原材料(raw materials),通信および運輸の供給 と分配に関する厳しいかつ真の脅威が存在する場合,(b)公的サービスの一 時的な中断をもたらすような厳しいかつ真の脅威が存在する場合,(c)発電所 (plants)およびネットワークの安全に厳しいかつ真の危険が存在する場合, (d)国防と国家秩序(public order)に厳しい真の危険が存在する場合,(e) 公共衛生にかかわる緊急事態などの場合である(EU 報告書,62頁)。

(33)

 これらのうち,ENEL,ENI,Finmeccanica および Telecom Italia の 4 社においては,政府当局が特別な権利を有していた。すなわち,会社解散 の決議,会社分割の決議,子会社の譲渡および特別権利の修正などに対す る拒否権を政府当局に与えることがそれら会社の定款に明記されていた。  また,ENEL,ENI と Finmeccanica の 3 社においては,金融部門所管 大臣が株主総会の意見を聞くことなく取締役会の構成員を 1 人選任できる 権利を有していた。しかし,このような取締役選任が実際になされた例は ないとされている。  他方,近時に上場した会社のリストのなかで,Save S. p. A と Terna S. p. Aの 2 社において,政府機関による株式保有は見当たらないものの,黄金 株に類似した特別の権利が存在していることが明らかとなっている。すな わち,Save 社においては,イタリアの運送部門所管大臣と経済部門所管 大臣が同社に対してそれぞれ 1 名の会社経営に対する監督役(internal auditor)が選任できる権利を有するとしたうえ,経済部門の所管大臣が指

名した監督役が監督委員会(the Internal Auditors Committee)の会長になる とされた。また Terna 社では,定款において,会社の解散,分割および特 別権利の修正などの決定について政府関係者に拒否権を付与し,金融部門 所管大臣が同社に対して取締役会の構成員を 1 名選任できる権利が定めら れていた。 ( 6 ) 株主間契約  調査対象会社のうち,大手上場会社 8 社と近時に上場した 1 社におい て,株主間契約の利用が認められた。株主間契約の一般的な目的は,契約 当事者たる株主らが当該会社に関する自らの権利と義務を共同で行使し, また一定の意思決定に関して協同する立場を取るということである。たと えば,Autostrade と Telecom Italia との間に結ばれた契約によれば,当該 会社に対する支配権を行使し,取締役会の構成などといった企業統治に関 連して影響を及ぼすような内容が定められている。また,それらの契約内

表 1 :1995年~2005年所有関係指標(Ownership Structure Indicators)の変化 (22)10.80.60.421.50.50119952005YearCEMs
表 2 :1995年~2005年所有関係指標(Ownership Structure Indicators)の変化

参照

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