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 他方で,EU諸国においては,企業がその事業活動を行う上で,グルー プとして活動することが主たる形態となっており,とりわけ共通通貨であ るユーロの登場により,国境を越えた企業グループの活動が一層目立って きている。EUの企業グループに関する会社法制としては,会社法第

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指 令などが規制枠組みとなってきたが,必ずしも十分に機能していないとさ

(91) 金融市場統合法に組み込まれている(FMC Act. Chapter IV─bis Protection of investors)。

(92) FMC Act. 32─bis, 32─ter.

(93) 2012年調査文献452頁。

れてきている。なぜならば,グループ内部における個別企業の株主,債権 者等の利害関係者が晒されてきたリスクへの対策が講じられてきていない とされているからである(94)

 EU委員会は,2002年に,会社法専門家から構成される「会社法上級専 門家グループ(the high level group of company law experts on a modern regulatory framework for company law in Europe)」を設置し,会社法上のさまざまな問 題に対処すべく助言を求めた。会社法上級専門家グループは,2002年11月

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日付の報告書(95)のなかで,上述したような企業グループに関する問題 についても助言を行った(96)。その助言の趣旨は,企業グループの透明性 の確保,利害関係者間の利害対立および企業グループの構造上の問題につ いて対処すべきである,というものであった。

 その後,2004年末に,EU委員会が設置したヨーロッパ・コーポレー ト・ガバナンス・フォーラム(European Corporate Governance Forum)によ り,各構成国におけるコーポレート・ガバナンスに関連したテーマをめぐ って勧告(recommendation)または声明(statement)という形式で

EU

委 員会に対する政策助言が行われた(97)。そのうち,

2007年 9

月に公表された 声明は「資本と支配の比例性」に関するものであった(98)。この声明の中 で,同フォーラムは,CEMsの利用に関する透明性を改善すべきであり,

(94) 三浦哲男「欧州企業にみる企業グループの統治と少数株主の保護」富大経済 論集52巻2号171─91頁(2006年)。

(95) Report of The High Level Group of Company Law Experts on a Modern Regulatory Framework for Company Law in Europe, 4 NOV. 2002, available at

(http://ec.europa.eu/internal_market/company/docs/modern/report_en.pdf)

last visited 30 JUN 2015.

(96) Id. at 94─100.

(97) 詳しくは,正井章筰「EUにおけるコーポレート・ガバナンスをめぐる議論

─ヨーロッパ・コーポレート・ガバナンス・フォーラムの声明を中心として

─」早大比法43巻1号(2009年)1─46頁。

(98) European Corporate Governance Forum Working Group on Proportionality, available at (http://ec.europa.eu/internal_market/company/docs/ecgforum/

workinggroup_proportionality_en.pdf), last visited 30 JUN 2015.

情報開示を強化することによって,よりよい投資判断と評価につながり,

市場の活性化に資する旨を明示した。具体的には,公開買付け指令10条に よる開示義務および透明性指令の下での開示義務に加えて,会社は,

CEMs

を利用する場合においてそれらに関する詳細な情報開示を行うこと が求められる,とした。また,議決権を行使する事項に関して,一定の基 準値を超えて議決権株式を取得した株主に株主総会における特別な権利を 認める場合,そうした株主に関する情報,とくに,株式保有数および属性 などが明らかにされる資料を公開すると同時に,そのような特別な取り扱 いを行う理由について説明すべきであるとされた(99)

 さらに,2007年に,EUにおける「株主の権利指令(Shareholder Rights

Diretive)」と称される,「上場会社における株主の一定の権利の行使に関

する2007年

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月11日のヨーロッパ議会と理事会の指令2007/36/EC」が採 択され(100)(なお,同指令は2015年7月に改正され,「長期志向株主のエンゲー ジメントの促進に関する指令」に名称変更された),同指令のイタリア国内法 化などによる対応が求められるとともに(101),さらに,EU委員会によっ て設置されたヨーロッパ・コーポレート・ガバナンス・フォーラムが公表 してきた声明などから,いわゆる透明性指令(102)が公布され,それに対応 したイタリア上場会社のディスクロージャー要件の改善(103)なども行わ れ,高度の情報公開の進展が現に見られてきている(104)。このような

EU

(99)Id., at 4─6.

(100) 同指令を扱った和文文献としては,正井章筰「EUにおける株主の権利指令 について─ドイツと日本の制度との比較において─」早法84巻4号19─65頁

(2009年),同・翻訳「EUにおける株主の権利指令」早法84巻4号179─98頁

(2009年)など。

(101) A. Zattoni and C. Mosca, Corporate Governance and Initial Public Offerings in Italy, A. Zattoni ed. CORPORATE GOVERNANCE AND INITIAL PUBLIC OFFERINGS, Cambridge Press 2012, at 210─237.

(102) 2001年5月28日付けの指令Directive 2001/34/EC。

(103) A. Zattoni, supra note 101.

(104) いくつかのイタリア上場会社のホームページを辿って,コーポレートガバナ ンスに関する年次レポートを調査したところ,株式所有構造,会社機関,

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