共振器構造を持つ EL 素子の発光スペクトル
大西直人,岡田和之 *
Emission Spectrum of Organic-light-emitting-diode with Optical Resonator
Naoto OONISHI and Kazuyuki OKADA*
Abstract
The narrowing of the emission spectrum from organic-light-emitting-diode (OLED) with optical resonator was observed experimentally. The resonator consists of Mg-Ag and Ag thin layers. The spectral width of 95 nm was narrowed down to 12 nm. It was broadened by thinning down the Ag layer. The wavelength at the maximum emission intensity depended on the size of the resonator. The OLED with the narrowed emission is available for extension of the expressible color area on chromaticity diagram.
Keywords : Organic-light-emitting-diode, Emission Spectrum, Optical Resonator, Color Display
1. はじめに
有機EL素子は自発光・薄型という特徴を生かしてディ スプレイ分野への展開が広がっている。現在、携帯電話の ような小型ディスプレイに広く普及しており、今後、テレ ビに代表される大型ディスプレイへの活用も見込まれて いる。ディスプレイへの応用では発光色(スペクトル)が 重要である。一般的なカラー表示では赤色(R)、緑色(G)、 青色(B)の三原色を混ぜてフルカラーを表現する。混色であ るため再現できる色の領域は発光源のスペクトルにより
決まる。広い領域の色を表現するためには、3つの原色光 源それぞれが一つの波長成分のみを有し、それ以外の波長 成分は持たないスペクトルであることが必要である。
一般的に広いスペクトル幅を持つ有機EL発光は、素子 内に光共振器を構築することによりスペクトルを先鋭化 することができる。従来の研究では反射膜に誘電体多層膜 を使用しているが、構造や製膜の複雑さが欠点となる。1) 本研究ではAg薄膜を反射膜として利用する。これにより 共振器の構築や製膜が簡易になる。
近畿大学大学院システム工学研究科
* 近畿大学工学部電子情報工学科
Graduate School of Systems Engineering, Kinki University
* Department of Electronic Engineering and Computer Science, Faculty of Egineering, Kinki University
近畿大学工学部研究報告 No.48,2014年,pp.71-74 Research Reports of the Faculty of Engineering, Kinki University No.48 2014, pp.71-74
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2.有機EL素子の設計
先鋭な発光スペクトルを得るために光の共振現象を利 用した。平行した鏡に挟まれた内部で発生した光は2枚の 鏡で反射を繰り返す。このとき、ある特定の波長のみ安定 した定在波を得ることができる。定在波は鏡の距離(光路 長)が1/2波長の整数倍であるときに発生する。2) 1/2 波長からずれた波長の光はお互いに打ち消し合うように 作用するため、共振波長をピークとした先鋭なスペクトル が得られる。
本研究では素子内に共振器を構築した。作製した素子の 構造を図1に示す。共振器は平行に対面した一対の反射膜 から成る。反射膜にはMgAgとAgを使用した。MgAgは 仕事関数が低く電子の注入のしやすさから陰極も兼ねる。
もう一方の反射膜に使用したAgは可視光全域で一定の反 射率を持つとともに陽極側のホール注入を阻害しない程 度の仕事関数を有する。Agは陽極を兼ねず、反射膜とし ての効果だけを考える。共振器から光を取り出すため、
MgAgは透過率を0%とし、Agは0%より大きくした。
このため、Ag膜は必然的に薄くなり、電極として安定し た動作が行われない可能性がある。そこで、陽極は透明電 極であるITOを使用した。
図1 共振器型EL素子の構造
発光層にはAlq3を使用した。Alq3は光の3原色のひと つである緑色の発光剤であり、発光スペクトルのピークは 520nm近傍にある。520nmを中心とした先鋭な発光を光 共振によって取り出すためには反射膜である MgAg・Ag 間の光路長が520nmにならなければならない。光路長は
有機材料の膜厚を調整することによって制御した。520nm の膜厚は有機EL素子としては比較的厚い。材料が厚くな ると駆動電圧は上昇し、エネルギーの消費の増大や素子の 破壊をもたらす。そこで、520nmの半波長でも定在波は 形成できるので光路長を260nmとする。有機材料自体が 光路となるため、材料の屈折率を考慮した実効的光路長は 幾何学的な膜厚より長くなる。
キャリア輸送層にはPEDOT、TPD、α-NPD、BCPを 使用した。PEDOT はホール注入の機能を持っており、
TPD、α-NPDはホール輸送の機能を、BCPは電子輸送 の機能を持っている。BCP にはホールブロック効果もあ り、発光を担うAlq3層にホールが蓄積しやすくなり、Alq3 分子から効率の良い発光が期待できる。
本研究で作製した素子の屈折率を考慮した実効的有機 膜厚とAgの膜厚の一覧を表1に示す。素子A, Bと素子C では光取出側の反射膜であるAg膜の厚さを変えて反射率 を変化させ、共振の効果を評価した。Ag膜厚を厚くする ことで反射率が高くなり、スペクトル先鋭効果が強くなる と予測される。素子Dは共振器を構築しない素子で、Alq3 の発光がそのまま素子外へ放出される。
表1 作製した素子一覧
素子 実効的有機膜厚 [nm] Ag膜厚 [nm]
A 260 45
B 250 45
C 260 25
D 260 0
3.有機EL素子の作製手順
基板としてITO膜付ガラス(20×20[mm])を使用し、
エッチング処理により幅6[mm]の陽極を形成した。正孔注 入層を形成するため PEDOT をプロパノールで1:2とな るよう希釈した。これをガラス基板上の陽極面を覆う形で スピンコートした。次に、PVK、Bu-PBD、および発光剤 をジクロロエタンに溶解させた。正孔注入層と同様に、こ の溶液を塗布して発光層を形成した。真空蒸着装置を用い てBCPを蒸着し、その後、Mg/Agによる陰極を作製した。
近畿大学工学部研究報告 No.48
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この金属電極の幅は約7[mm]であり、短絡を避けるために 陽極と直交するように形成した。
4.計測装置の配置
発光スペクトルの計測にはファイバマルチチャンネル フォトメータ(分光計器㈱、K-1013)を使用した。EL素 子からフォトメータへの導光には、光ファイバを用いた。
ファイバのコア径は0.4mm、ファイバ入射端面とEL素子 発光面との距離は1cmである。
5.実験結果および検討
5-1共振器を構築したEL素子の発光スペクトル
EL素子内に共振器を構築した共振素子Aと共振器を構 築しない通常素子Dの発光スペクトルを図2に示す。ただ し、発光スペクトルの形状を比較し易いように最高発光強 度を1として規格化している。通常素子DではAlq3での 発光が透明電極であるITOを通してそのまま放出された。
発光ピークは520nm近傍にあり、460nmから680nmに かけて発光が観測された。共振素子Aでは530nmを中心 とした先鋭な発光スペクトルが得られた。通常素子Dの半 値幅が95nmであるのに対して共振素子Aは12nmであ り、スペクトルが著しく先鋭化されている。
5-2 膜厚を変化させたEL素子の発光スペクトル 共振素子Aと共振素子Bの発光スペクトルを図3に示 す。素子Aと素子Bは光路長である有機層の実効的膜厚 を変化させた素子である。素子Aは260nm、素子Bは
図2 素子Aと素子Dの発光スペクトル
図3 素子Aと素子Bの発光スペクトル
250nmで設計している。実際にはそれぞれ2倍の波長で ある520nmと500nmの定在波が形成されると推測される。
2つの発光ピーク波長の差は20nmとなる。図3から素子 Aの発光ピークは530nm、素子Bは510nmである。その 差は20nmであり、理論的に推測される相違と整合した。
5-3 Agの膜厚を変化させたEL素子の発光スペクトル 共振素子Aと共振素子Cの発光スペクトルを図4に示 す。素子Aと素子Cは発光ピーク強度・波長ともに若干 のずれがあったので、スペクトルを比較し易いように発光 ピークを基準として2つのスペクトルを規格化した。その ため、横軸の波長も相対的な数値となる。素子Cは27nm、 素子Aは12nmのスペクトル幅であり、素子Cの方が幅 広い発光が観測された。素子Aと素子Cは反射膜である
図4 素子Aと素子Cの発光スペクトル 0
0.2 0.4 0.6 0.8 1
350 400 450 500 550 600 650 700 750
発光強度[a.u]
波長[nm]
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1
350 400 450 500 550 600 650 700 750
発光強度[a.u]
波長[nm]
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1
350 400 450 500 550 600 650 700 750
発光強度[a.u]
相対波長[nm]
素子A
素子D
素子A 素子B
素子C
素子A 共振器構造を持つ EL 素子の発光スペクトル
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Ag膜の厚さに違いがある。素子Aは45nm、素子Cは25nm であり、透過率は0.1%と5%であった。反射膜が薄いほど 透過率が高く(反射率は低く)なるため、共振器内に閉じ 込められる光は少なくなり、共振効果が小さくなる。この 共振効果の影響がスペクトル幅の違いとなって現れてい ると考える。
5-4 発光色度の評価
発光色を評価するには、スペクトルだけではなく色度座 標も必要である。3刺激値 XYZ にもとづく表色系による xy色度図は CIE色度図とも呼ばれる。中央の点が白色
(無彩色)に対応し、周辺ほど鮮やかさが増す。色度図周 囲の境界で単色光になる。図5にCIE色度図にsRGB空 間と素子A・B・C・Dの座標を示した。sRGB(Standard RGB)は国際電気標準会議 (IEC) が定めた国際標準規格 であり、一般的なモニタはこの規格に準拠している。3) 薄 く囲った三角形がsRGB色空間である。
発光スペクトルから色度への変換にはCIE が定めた等 式関数を用いて算出した。4) ☆で記したところが素子 A(0.16,0.75)、×が素子B(0.10, 0.56)、□が素子 C(0.25, 0.65)、○が素子D(0.33, 0.57)である。括弧内の数値はCIE 色度図のX・Y座標値である。素子Cの座標は図4で示し た波長を調整したときの数値である。本実験では赤と青の 光源は評価していないため、sRGBの座標値を用いた。
図5 素子A・B・C・Dの色度図
通常素子Dを緑色の光源として利用したときはsRGB を満たさないほど色域は小さいが、共振器を構築(素子A) することでsRGBを上回る色域を実現できた。素子Dの ようなスペクトル幅の広い発光は色度図では内側に寄っ た座標になるため、混色で使用する光源としては不適当で ある。素子Aのような先鋭なスペクトルの発光は色度図の 端の座標になる。この場合、3原色で構成する三角形は大 きくなり、色域の拡大につながる。同じ共振器を持つ素子 A、Cにおいても発光スペクトル幅の相違が色度図にも現 れている。
素子Aと素子Bの発光スペクトル幅はほぼ等しいが、
発光ピーク波長が異なる。色度図では異なる色域を持って いる。同じ有機材料でありながら膜厚を調整することで色 域の調整が可能である。素子Aの光源を使用した場合は橙 や黄色の、素子Bの光源を使用した場合は青色の表現に優 れたディスプレイが実現される。
6.まとめ
有機EL素子内に共振器を構築することで発光スペクト ル幅95nmを12nmまで先鋭化することができた。光取り 出し側の反射膜厚を薄くするとスペクトル幅が拡がった。
また、有機層の実効的膜厚を変化させると発光ピーク波長 のシフトが確認された。これらにより、光共振効果が裏付 けられた。
発光色度図において、スペクトル先鋭化によって色域が 拡大していることを確認した。
参考文献
1) Siegfried Dirr, Stefan Wiese, Hans-Hermann Johannes, Wolfgang Kowalsky : Advanced Materials Volume 10, Issue 2, pages 167–171, January, 1998 2) 光と光の記録、http://www.anfoworld.com/lasers.html 3) sRGBの基礎、
http://www.motorwarp.com/koizumi/srgb.html 4) Colour & Vision Research Laboratory、
http://www.cvrl.org/
素子C 素子A
素子D 素子B
近畿大学工学部研究報告 No.48
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