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九州大学学術情報リポジトリ

Kyushu University Institutional Repository

Ti-Ni合金における変位型相変態の動的観察による組 織形成機構の解明

副島, 洋平

http://hdl.handle.net/2324/4110529

出版情報:九州大学, 2020, 博士(工学), 課程博士 バージョン:

権利関係:

(2)

Ti-Ni 合金における変位型相変態の 動的観察による組織形成機構の解明

九州大学大学院総合理工学府 量子プロセス理工学専攻

副島 洋平

(3)

目次

1 章 緒言 1

1-1. Ti-Ni 系形状記憶合金 1

1-2. 熱弾性マルテンサイト変態の概要 4

1-3. マルテンサイト変態の現象論 5

1-4. Ti-Ni 系合金 B19’ マルテンサイトにおける自己調整 6

1-4-1. 晶癖面バリアントと双晶組織 6

1-4-2. 自己調整構造の分類および構造 8

1-5. 本研究の目的および構成 12

付録 Ti-Ni 合金における PTMC 解析 13

参考文献 14

2 章 実験方法 15

2-1. 試料作製 15

2-1-1. 試料作製 , 加工および熱処理 15

2-1-2. 示差走査熱量測定 16

2-1-3. 電解研磨 17

2-2. 観察方法 17

2-3. 引張試験 19

参考文献 19

3Ti-Ni 合金の熱弾性マルテンサイト変態における動的観察手法の比較 20

3-1. 序論 20

3-2. 実験方法 21

3-3. 結果および考察 22

3-3-1. 逆変態レリーフの観察 22

3-3-2. TEM 内その場冷却観察 24

3-3-3. SEM 内その場冷却観察 25

3-3-4. 薄膜試料における逆変態レリーフ 29

3-3-5. 双晶比の測定 30

3-4. 結論 32

補遺 A 双対半正六角形 33

補遺 B 薄膜試料の SEM-EBSD 解析 34

参考文献 35

(4)

4 章 熱弾性 M 変態の SEM 内その場冷却・加熱観察 37

4-1. 序論 37

4-2. 実験方法 39

4-3. 結果 40

4-3-1. 順および逆変態の概要 40

4-3-2. 応力誘起 R 相 42

4-3-3. 自己調整構造の核生成および成長 42

4-3-3-1. 核生成 42

4-3-3-2. 成長および微細構造の形成 44

4-3-4. 組織再現性 47

4-4. 考察 47

4-5. 結論 49

参考文献 51

5 章 時効処理に伴う整合析出物 Ti

3

Ni

4

を内包した Ni 過剰 Ti-Ni 合金における 等温マルテンサイト変態 52

5-1. 序論 52

5-2. 実験方法 52

5-3. 結果および考察 53

5-3-1. 電気抵抗測定 53

5-3-2. 析出相の組織観察 54

5-3-3. 等温 B2 → R 変態 54

5-3-4. 等温 R → B19’ 変態 56

5-3-5. 等温 R → B19’ 変態の可視化 58

5-4. 結論 59

参考文献 60

6 章 自己調整構造に及ぼす材料学的諸因子の影響 61

6-1. 合金組成の影響(組成依存性) 61

6-1-1. 序論 61

6-1-2. 実験方法 62

6-1-3. 変態温度に及ぼす合金組成の影響 63

6-1-4. 各組成における自己調整構造の形態別の割合 66

6-1-5. 格子定数と晶癖面バリアント回転量 θ の Ni 濃度依存性 72

6-1-6.小括 76

6-2. 自己調整構造に及ぼす熱サイクルの影響 76

(5)

6-2-1. 序論 76

6-2-2. 実験方法 77

6-2-3. 熱サイクルに伴う変態温度の変化 78

6-2-4. 10 回熱サイクルを与えた Ti-50.75 atNi( アーク材 ) の自己調整構造 80

6-2-5. Ti-50.8 at%Ni( 線材 ) の SEM 内その場繰り返し冷却・加熱観察 82

6-2-6. 熱サイクルによる格子定数および回転量への影響 84

6-2-7. 熱サイクルによる合金強度への影響 85

6-2-8. 小括 89

6-3. 自己調整構造に及ぼす母相結晶粒径の影響 90

6-3-1. 序論 90

6-3-2. 実験方法 91

6-3-3. Ti-50.75, 51.00 at%Ni(1073- 3.6 ks) の母相粒径 91

6-3-4. Ti-50.75 at%Ni(1273- 48 h) の SEM 観察 93

6-3-5. 結晶粒界と変態ひずみ 97

6-3-6. Ti-50.75 at%Ni(1073- 75 h) の SEM 観察 99

6-3-7. 粒界のミスオリエンテーションと自己調整構造 102

6-3-8. 小括 106

6-4. 結論 106

付録 熱サイクルによって導入される転位の観察 108

参考文献 111

7 章 結言 113

謝辞 116

(6)

1

緒言

1-1. Ti-Ni 系形状記憶合金

Ti-Ni系合金は, 等原子比近傍組成において室温で形状記憶効果, もしくは超弾性を発現する機能

性合金であり, Ti-Ni(チタンニッケル), Ni-Ti(ニッケルチタン), NiTiNOL(ニチノール)等と呼ばれている.

形状記憶効果とは, 見掛け上数%~十数%の変形ひずみを加えた後でも加熱することで形状が完全 に回復する現象であり, また超弾性は通常の金属の弾性変形限を遥かに超えた数%の変形を加えても 除荷によりひずみが回復し, 元の形状に戻る現象である. 上記の現象はB2構造の高温(母)相とB19’

構造の低温(マルテンサイト:M)相間の熱弾性M変態(順変態)・逆変態によって発現する. Ti-Ni合金

は組成を1 at%足らず変化させることで変態点が大きく変化し[1-3], Ti-50 at%Ni付近では室温において

マルテンサイト相状態であり, Ti-50.75 at%NiよりNi過剰組成になると室温において母相状態である. 形 状記憶効果は, 室温でマルテンサイト相状態の組成で起こり, 一方, 超弾性は室温で母相状態の組 成で発現する. 超弾性は, 応力を除去するだけで形状が元に戻るのに対し, 形状記憶効果は加熱を 行わなければ形状が回復しないが, 本質的に両者の発現機構は同じく熱弾性マルテンサイト変態であり, 加熱の必要性の有無は, 上記した変態点の違いと変形を加える温度に起因している. マルテンサイト組 織および変態は, 最初に鋼の中で発見され, 鉄鋼材料の強靭化に利用されていたが, 現在では非鉄 金属と合金およびセラミックス, またタンパク質においても観察されており, 工業から医療分野まで広く利 用されている[4].

現在では Ti-Ni 系合金の内部組織および形状記憶効果・超弾性発現の機構は明らかになりつつあ るが, 1963年に米国海軍の武器研究所においてBuehlerら[5]がTi-Ni系合金中に形状記憶効果を 見出した当初は, 世間の関心を多いに集めこそしたが, その結晶学の複雑さから謎に包まれた合金であ った. しかし, Ti-Ni系合金の製造および利用特許が失効すると, 基礎研究や応用方法の開発が世界 的規模で活発になり, 結晶構造や形状記憶効果・超弾性の発現機構も解明され始めた. 図 1-1.に

MassalskiらによるTi-Ni二元系平衡状態図にOtsukaらの結果を加えた平衡状態図を示す[6]. Ti-Ni

の組成範囲はTi-49.5-57.0 at.%Ni, 密度は6.4-6.5g/cm3, 化学量論組成(Ti:Ni=1:1)における融点が

1583 K であり, 温度の低下に伴い等原子組成に向かって非化学量論幅が狭くなるが, 室温まで安定

な化合物として存在する.

(7)

1-1. Ti-Ni二元系平衡状態図[6]

1-1. 形状記憶合金の一覧[7]

(8)

Ti-Ni 系合金の研究が進むにつれ, 形状記憶合金が持つべき条件が明確になり, 表 1-1.に示すよ うな Cu 合金をはじめとする様々な形状記憶合金が発明された[7]. この表以外にも様々な形状記憶合 金が存在するが, 現状で実用的に最も重要なのは, Ti-Ni系合金, Cu-Zn-Al, Cu-Al-Mnを代表とする Cu系合金, およびFe-Mn-Siを代表とするFe系合金の3種類である. 以上3種類の形状記憶合金

の中でTi-Ni系合金は記憶可能な最大ひずみ量が8%と最も高く, 熱サイクルおよび変形サイクルによる

形状回復の安定性にも優れている. さらに, 他のB2型金属間化合物には見られない良好な延性を示 し, 耐疲労性, 耐食性, 耐摩耗性および生体適合性にも優れるため, 材料費がCu系合金の約10倍 と高価であるにもかかわらず形状記憶合金の主流となっている[8, 9].

Ti-Ni系合金の応用例を挙げると, 1970年代のジェット戦闘機の油圧配管に採用されたパイプ継手に

始まり, 炊飯器, エアコンのフラップ等各種アクチュエータ, ブラジャー用超弾性ワイヤー, 眼鏡フレー ム等日用品にも多く利用されてきたが, 近年は血管手術に用いられるガイドワイヤー, カテーテル, ステン ト等の医療分野における利用が最も活発である.

Ti-Ni系合金の相変態および結晶構造を図1-2.に示す[10-12]. Ti-Ni系合金はB2構造(CsCl構造,

立方晶)の母相からB19’構造(単斜晶)のマルテンサイト相へと変態するが, 加工や熱処理, 元素添加 等によって3種類の異なる変態経路がある. 1番目はTi-Ni二元合金を高温から急冷した場合, 母相 からB19構造(斜方晶)をゆがめたB19’構造に直接変態する経路である. 2番目は三元系合金(Ti-Ni- Fe, Ti-Ni-Al等), Ti3Ni4を析出させたNi過剰Ti-Ni 系合金, あるいは高密度転位が再配列したTi- Ni加工熱処理材において観察されるB2→R(三方晶), R→B19’の2段階変態である. 3番目はTi-Ni 二元合金のNiをCuで7.5%以上置換した, Ti-Ni-Cu系合金で報告されるB2→B19, B19→B19’の 2段階変態である.

1-2. Ti-Ni合金における相変態及び結晶構造[10-12]

(9)

1-2. 熱弾性マルテンサイト変態の概要

マルテンサイト(M)変態とは, 固体内で母相内の 原子が連携してせん断を行う, 無拡散型の構造 相転移である. M 変態は形状記憶合金で起こる 熱弾性型と, 主に炭素鋼や合金鋼で起こる非熱 弾性型に分けられる. 熱弾性 M 変態は, M 相と 母相間の界面が無ひずみ・無回転である整合界 面であり, 変態に伴う形状変化が小さい. その結 果, わずかな熱エネルギーによって界面が移動し, M相が可逆的に成長および収縮することが出来る 特徴を持つ. 一方, 非熱弾性M変態は, 母相と M 相の界面が非整合であり, また後述するが, 格子不変変形として大量の転位が導入されるた

め, M相が可逆的成長・収縮することができない. 従って, 非熱弾性M変態を示す合金では, 形状記 憶効果を発現しない. また, 母相に外力を加えた場合もM相が出現し, これを冷却時に出現するM相 と区別して応力誘起マルテンサイトと呼ぶ.

次に, 熱弾性 M 変態による形状記憶効果および超弾性の発現機構について簡単に説明する. 一 般的な金属に外力を加えると, ある程度までは格子が弾性的にひずむことによって変形するが, 弾性変 形限を超えると, 転位のすべり運動(塑性変形)を起こし, 永久変形が残存する. 一方, 熱弾性M変態 を起こす合金においては, 外力負荷時にM相である場合(図1-3.(b)), すべり変形が生じる前に, 変形 方向に最も適した(相互作用エネルギーが最も減少する)結晶方位関係を持つM相が, M相間の界面 を移動させることで, 選択的に成長し変形を担う(図1-3.(c)). これを逆変態終了温度(Af)以上まで加熱 を行うと, 逆変態が起こり, 原子が変形前の位置に戻ることで形状が回復する(図 1-3.(a)). 逆変態時 においても, 原子が連携してせん断を行うが, Ti-Ni 合金をはじめとする形状記憶合金の多くが, 規則格 子構造の母相を持つため, 結晶構造が元に戻るだけではなく, 結晶方位についてもまた元に戻る, いわ ゆる, 結晶学的可逆性が自動的に保証される[13](形状記憶効果). また, 外力負荷時に母相である

場合(図1-3.(a))は, 応力および変形方向に適した応力誘起Mが形成および成長することにより, 変形

を担う(図1-3.(c)). この場合は, 温度雰囲気がAf点以上であり, M相のギブスエネルギーよりも母相の ギブスエネルギーの方が低く, 熱力学的に安定なため, 除荷するとただちに逆変態が起こり, 形状が回 復する(超弾性).

M変態において, 母相の結晶方位とM相の結晶方位の間には, 特定の対応関係(格子対応)が存 在する. 格子対応には等価なものが複数あり, その数は M 変態時の構造変化によって異なる. 従って, M変態が起こると, 母相結晶から結晶構造は等しいが結晶方位の異なる複数のM相が生成し, これ を兄弟晶(バリアント: Variant)と呼ぶ. 特に格子対応により分類されるバリアントは, 格子対応バリアント (CV: Correspondence Variant)と呼ばれる(図1-3.(b)におけるAとBの関係). また, 熱弾性M変態に

1-3. 形状記憶効果及び超弾性

(10)

おいて, 母相から M 相が生じる際には, 変態に伴うひずみエネルギーを最小にするため, 母相と M 相 間の界面は無ひずみな整合界面となり, ある特定の指数の面(晶癖面: Habit Plane)となる. この晶癖 面によって分類したバリアントを晶癖面バリアント(HPV: Habit Plane Variant)と呼び, HPVには単結晶で ある場合と, いくつかの格子対応バリアントが組み合わさって構成される場合がある. 熱弾性 M 相組織 は, HPVもしくはHPVを構成するCVを最小単位として成り立つ.

M 変態が起こると, 格子変形に伴う形状変化が生じるが, 上述したように一般的な形状記憶合金に は複数の HPV が存在し, それらのいくつかが組になることで互いの形状変化を打ち消し合い, 巨視的 な形状変化を生じさせないように配列する. これを自己調整と言い, この時に形成される構造を自己調 整構造と呼ぶ. Ti-Ni-Fe系合金等で生じるB2→R変態においても自己調整構造が形成され, 図1-4.

に光学顕微鏡を用いたTi-Ni-Fe 系合金における R相の自己調整構造の観察結果を示す[14]. 1, 2, 3, 4の4つのHPVが存在し, それぞれが平行四辺形状に配列することで自己調整を行っている.

1-3. マルテンサイト変態の現象論

(PTMC:Phenomenological Theory of Martensite Crystallography)

M 変態に伴う巨視的な形状変化は, 母相内の平面および直線がM 相内でも平面および直線として 保持されるような均一なものであり, すなわち, 数学的には M 変態を座標の一次変換として記述できる.

これをマルテンサイト変態の現象論(PTMC)と言い, 晶癖面が無ひずみ・無回転の不変面であることを 必要条件として, この理論は展開される. BowlesとMackenzieによるBM理論, Whecsler, Liebarman およびReadによるWLR理論があるが, 本質的には等価である[15-17].

M変態は母相からM相への格子変形, M相内での格子不変変形, およびそれらによって生じた無ひ ずみ面を無回転とするための剛体回転からなると考える. 従って, 全形状変化を行列 Pt, 格子変形

(Bain変形), 格子不変変形, および剛体回転の行列をそれぞれB, PlおよびRとすると, それらの間に

は次式が成り立つ.

P

t

= B P

l

R または R B P

l

母相とM相の格子定数より, Bain変形の主軸ひずみが求まるので, 行列Bが決定する. また, 格子 不変変形における, せん断面および方向を仮定することによりPlが決まるので, 最終的にPtを知ることが

1-4. Ti-Ni-Fe合金のR相における自己調整構造[14]

(11)

出来る. これにより, 晶癖面の法線ベクトルp1, それに沿うせん断変形の方向と大きさd1, および結晶方 位関係を計算で求めることが可能である. また, p1, d1を用いると, 形状変化 Ptは以下のように表すこと ができる.

P

t

= I + d

1

×

p

1

ここで, Iは単位行列である. Ti-Ni合金における, 各HPVの晶癖面ベクトルp1およびそれに沿うせん断 変形の方向と大きさd1を本章の付録 表1. にまとめる. この現象論による解析は実測の結晶学とかな りの程度で一致し, M 変態およびそれに伴う形状変形量(特に形状記憶量等)の解析等に広く利用され ている. 多結晶試料においては, M 相は母相中に埋め込まれた状態で拘束を受けながら, 生成および 成長するので, 変態の際の形状変形によるひずみを緩和するための付加的変形が生じてしまい, その 分だけ M 相毎に計算結果と実測値は異なる. しかし, 自己調整が働いてひずみが緩和される場合に は, 付加的変形が起きにくいので, 計算結果と実測値は比較的良く一致する.

これまで, 一般的な熱弾性マルテンサイト変態について説明したが, これより, Ti-Ni 合金における熱弾 性マルテンサイト変態, および, 変態時に形成する自己調整構造について説明する.

1-4. Ti-Ni 系合金 B19’ マルテンサイトにおける自己調整

1-4-1. 晶癖面バリアント(HPV)と双晶組織

Ti-Ni系合金において, 母相とM相の間には図

1-5.に示すような格子対応があり[18, 20], 結晶全 体で12個の対応バリアント(CV)が存在する. Ti-Ni 合金では, 単一の CV だけでは, 母相と M 相間 において, 無ひずみ・無回転の整合界面である晶 癖面を形成することができない. そこで, 格子不変 変形と呼ばれる変形がさらに導入され, Ti-Ni合金 ではCV同士が<011>B19’ Type II双晶を形成する ことに相当する. 12個のCVの内, 双晶関係とな る 2 つの CV が組み合わさることにより, 晶癖面を 形成することが可能となる. またこの双晶組織も等 価なもの, つまりバリアントが存在する. 図1-6.に示 すような板状の M 双晶組織を晶癖面バリアント

(HPV)と呼ぶ. この HPV の内, 構成する体積分

率が大きい CV を Major CV, 小さい方を Minor

CVと区別する. Ti-Ni系合金において, 前述したPTMCによる計算を行うと, 1つの格子対応に対して 晶癖面指数の解が 2つ存在するため, 結晶全体で計24 種類の晶癖面があり, すなわち 24種類の HPVが存在することになる[19, 20]. この24種類の HPVの内, 複数が組み合わさることによって自己

1-5. 格子対応[18, 20]

(12)

調整構造が形成される.

M 相における自己調整構造は, 一般的にHPV 同士が双晶関係を成して形成する場合が多い. 従 って, 自己調整構造は双晶関係および双晶界面によって特徴づけられるので, 自己調整構造内部に 存在する双晶組織は重要な部分である.

図1-7.に, 双晶の模式図を示す. 母結晶中に単位球を考えた場合, 北半球がせん断を受けて南半 球に対して双晶になるとする. この時のせん断方向を η1, せん断前後で無ひずみ・無回転な双晶面を K1, 双晶結晶中に存在するもう一つの無ひずみ面をK2, 紙面とK2との交線をη2, さらにせん断の大き さをsと表し, これら5つを双晶要素と呼ぶ. K1とη2が有理指数, K2とη1が無理指数であり, 双晶面 K1を境に鏡映対称の関係になるものをType Ⅰ双晶と呼ぶ. また, K1とη2が無理指数, K2とη1が有理

1-6. (a): HPVの形成模式図, (b): Ti-NiにおけるHPVの分類[19, 20].

1-7. 双晶の模式図

(13)

指数であり, せん断方向η1を回転軸としてπ回転対称の関係になるものを Type II双晶と呼ぶ. 最後 に, K1, η2, K2, η1の全てが有理指数となり, 双晶面K1を境に鏡映対称, かつ, せん断方向η1を回転 軸として π 回転対称の関係になるものを Compound(複合)双晶と呼ぶ. 以上より, 双晶は 3種類に分 類される.

1-4-2. 自己調整構造の分類および構造

Ti-Ni系合金のM相は対称性の低いB19’構造であり, 母相-M相間の変態が複雑であるため, 自

己調整構造に関する研究はあまり行われておらず, これまでに報告された例も数件と少なく, 統一的な 見解が得られていない. しかし, 近年, Nishidaらにより, <111>B2軸周りに存在する6つのHPVのうち, 複数が組み合わさって自己調整構造を形成することを報告した[21]. PTMC 解析の結果によると, 晶癖 面は{0.888882, 0.404428, 0.215238}B2であり, 各<111>B2軸周りに6種類ずつ, 結晶全体では等価 な面が24種類存在する. 従って, HPVも結晶全体で24種類あり, 各<111>B2軸周りに6つずつクラ スタリングしている. 図1-8.に, [111]B2軸周りにクラスタリングする, 晶癖面の3次元模式図を示す.

図1-9.に, Nishidaらの報告した自己調整構造の模式図を示す. 各自己調整構造は, 構成するHPV

の数によって分類されており, 2, 3, 4, 6個のHPVが組み合わさった2, 3, 4, 6 HPVクラスター(C)の4形 態が存在する. この4つの構造の内, 2 HPVCが頻繁に観察されることや, 自己調整構造において最 も基本的なHPV同士の界面である, {-1-11}B19’Type I双晶界面のみで構成されることから, 2 HPVC が自己調整構造の最小(基本)単位としている. また, 2HPVC が 3 つ組み合わさった 6 HPVC は,

<111>B2周りにクラスタリングする6つの HPV全てが有効に結合しており, さらに構成する6 つのHPV 図1-8. [111]B2軸周りの晶癖面

(14)

の体積が等しく, 形状変化が平均化されて最小となるため, Ti-Ni系合金B19’マルテンサイトにおいて最 も理想的な自己調整構造だと考えられている. 各自己調整における, 形状変化を本章の付録 表 2.に まとめて記す.

各自己調整構造は, HPV同士が結合することにより形成するが, HPV 同士の結合界面は, 全部で 4種類(界面I~IV)が存在している. また, NishidaやOkunishiらにより, 各界面において, 透過型電子 顕微鏡(TEM)および走査透過電子顕微鏡(STEM)を用いた, 原子レベルの観察が行われており, 各 界面の微細構造を明らかにしている[19]. 図 1-10.に, 界面の BF-STEM 像を示す. 以下に, 各界面 における, HPVの結合状態を示す. CVおよびHPVの指数は, 図1-5., 図1-6., 図1-9.に従って付け ている.

1-9. [111]B2軸周りにクラスタリングした自己調整構造の模式図[21]

(15)

界面 I

: HPV4’(+)と2’(-)間の界面. Major CV4’とMajor CV2’(-)同士, かつ, minor CV3とminor CV1’同士が, {-1-11}B19’ Type I双晶を形成している.

界面 II

: HPV4’(-)と4’(+)間の界面. Major CV4’とMajor CV4’同士は単結晶となっており, minor CV3’とminor CV3同士は, (001)B19’ compound双晶を形成している.

界面 III

: HPV2’(-)と6’(-)間の界面. Major CV2’とMajor CV6’同士は, {-1-11}B19’ Type I双晶を 形成しているが, minor CV同士は双晶関係とならない.

界面 IV

: HPV6’(-)と4’(+)間の界面. Major CV同士, およびminor CV同士のいずれも, 双晶関係 図1-10. 各界面のBF-STEM像[19]

(16)

また, 各自己調整構造の3次元形態を図1-11.に示した. 2HPVCに関しては, 晶癖面で囲まれておら ず, 閉じた形態を取れないが, 3, 4, 6HPVCにおいては, いずれも<111>B2方位に伸びる, 多角錐の形 状を取っている. 各3次元形態は, 晶癖面および各種界面のなす角度より算出した.

1-11. 3, 4, 6HPVCの三次元構造

(17)

1-5. 本研究の目的および構成

熱弾性マルテンサイト変態において, 自己調整構造の形成は, 結晶学的な観点からすると非常に重 要な要素であり, 熱弾性マルテンサイト変態を完全に解明しようとする時には避けて通れない現象である.

しかしながら, Ti-Ni 合金においては, マルテンサイト相が B19’という対称性の低い構造であり, さらに変 態が非常に複雑なため, 自己調整構造に関しては, 長らく結論が出ずにいた. ところが, 近年, Nishida らにより, 4種類の自己調整構造が存在する事が報告された. また, それらの中で, 6HPVCが理想形態 であると結論付けており, 理論的な解析からも, 6HPVCが理想形態であることが証明されている.

しかしながら, 理想形態が存在するにもかかわらず, 実際には, 6HPVC以外の形態も多く形成し, その 原因は不明である. また, Nishida らが報告する自己調整構造の形成挙動を動的に観察した例はなく, 如何にして, 自己調整構造が形成するのか, 解明する必要がある.

本研究では, Ti-Ni合金におけるB2→B19’変態の動的観察手法を確立し, 動的観察を行うことで自 己調整構造の形成挙動を明らかにすることを第一の目的とした. また, 理想形態である 6HPVCは, 如 何なる場合においても形成するのではなく, 特にTi-50.00 at%Niなどの低Ni組成においては, ほとんど 形成しないことが定性的に知られており, 原因は明らかとなっていない. そこで, 合金組成や熱サイクル, および母相粒径の 3 種類のパラメーターを系統的に変化させ, 各条件における自己調整構造の形成 を定量的に評価するとともに, 自己調整構造の形成に影響を与える因子の解明を二つ目の目的とした.

以上のように, Ti-Ni合金における自己調整構造の形成挙動および, 組織形成に与える諸因子を明ら かにすることが本研究の目的であり, B2→B19’変態解明への重要な知見を得ることを目指す.

本論文は, 以下の6章より構成される.

第1章では, 緒言として研究背景を示し, 本研究の目的および構成について述べる.

第2章では, 本研究における実験方法をまとめる.

第3章では, TEMおよびSEM内においてその場冷却・加熱観察を行い, 両者の観察結果を比較す る. また, 薄膜効果について, 形成したマルテンサイト組織の観点からの定量的な調査を行う.

第 4章では, SEM 内その場冷却・加熱観察手法を確立し, 溶体化処理のみを行った Ti-Ni 合金に 対して動的観察を行い, B2→B19’変態時おける, 自己調整構造の形成挙動を明らかにする.

第5章では, 溶体化処理後, 時効処理を行ったTi-Ni合金における, 等温変態(B2→RおよびR→

B19’変態)を調査する. 電気抵抗測定により, 等温変態を定量的に測定するとともに, SEM内その場冷

却観察を行うことで, 等温変態を可視化する.

第 6章では, 合金組成, 熱サイクル, 母相粒径の3 パラメーターを系統的に変化させ, 各条件にお ける自己調整構造の形成を定量的に評価する. また, 自己調整構造の形成に影響を与える因子を明 らかにする.

第7章では, 結言として, 本研究で得られた知見をまとめる.

(18)

Inamuraら[22]により, B19’マルテンサイト相における全24種類のHPVに対する, PTMCを用いた解 析が報告されている. 各 HPV における, CV の組み合わせ, 晶癖面の法線ベクトル p1, およびせん断 方向ベクトルd1をまとめて付録 表1.に示す. 全てのp1およびd1は, 表下部に記している, {h k l}B2 お よび<u v w>B2に属している. ここにおいて, d1は方向だけではなく, 大きさも含まれている.

また, 複数のHPVが組み合わさって自己調整を行うことにより, 形状変化の空間平均は小さくなる. 付 録 図 2.に, 各自己調整構造における形状変化を示す[22]. 自己調整構造を構成する各 HPV の形 状変化を足し合わせ, さらに構成するHPVの数で割ることにより, 形状変化の空間平均を算出している. また, 形状変化の大きさを理解しやすくするため, 対角行列 D および回転 R に分解して表している.

6HPVCにおける平均の形状変化は, 分解して表した対角行列Dが最も単位行列Iに近づき, 回転R

も0°となることより, 最も理想的な自己調整構造の形態であると言える.

付録 表1. PTMCを用いた各HPVの解析結果[22]

付録 表2. 各自己調整構造における形状変化の空間平均[22]

平均の形状変化を対角行列Dと回転Rに分解して表している.

(19)

参考文献

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[22] T. Inamura, T. Nishiura, H. Kawano, H. Hosoda, M. Nishida: Philos. Mag., 92 (2012) 2247.

(20)

2

実験方法

本研究においては, 一貫してTi-Ni合金を用いて実験を行ったが, 各章の研究目的ごとに試料および 試料作製方法が異なるため, 本章では, 一般的な実験方法についてのみ記載する. 詳しい実験方法 に関しては, 各章の実験方法をご覧頂きたい.

2-1. 試料作製

2-1-1. 試料作製 , 加工および熱処理

第3章および第4章においては, 株式会社古河テクノマテリアルに依頼し, 作製したTi-Ni合金線材

(3 mmφ)を用いた. 作製方法は, 図2-1.に示す. 高周波真空溶解炉で黒鉛ルツボにより溶製し, 鋳鉄

製鋳型に鋳造をしたインゴット材を, 熱間鍛造, 冷間圧延, 冷間引き抜きおよび焼鈍を繰り返すことにより,

3 mmφ まで伸線した. 伸線材は, 線引き方向に<111>B2 方位が配向する繊維集合組織を有している

[1]. 本研究では, 一貫して{111}B2面を観察する事から, 線材を切り出す際は, 線引き方向に対し垂直

に切り出した.

また, 第 5 章においては, 組成を系統的に変化させる必要があるため, アーク溶解にて作製した. 純 Ti(純度: 99.9%)と純Ni(純度: 99.99%)を用い, 組成がTi-50.00, 50.25, 50.50, 50.75, 51.00, 51.25,

51.50 at%Niとなるように秤量し, アルゴン雰囲気中でアーク溶解を行った. 溶解する際は, 合金全体の

組成が均一になるように, ボタン型インゴットの上下を裏返しながら, 計 4 回ずつ溶解を行った. また, ア ーク溶解後, 局所的な組成の不均一を無くすために, 油回転ポンプおよび油拡散ポンプで排気しなが

2-1. 線引き材作製における圧延履歴

(21)

ら, 石英管中で 1173 K-10 h の均質化処理を行った. その後, ボタン型インゴットを板状に切り出し, 母 相の結晶粒径と結晶方位を制御するために, 以下の操作を行った. 室温にて, 圧下率 20%で冷間圧 延し, 次に大気中で873 K-10 minの焼鈍を行い, さらに20%の圧延を行った. 電解研磨を行う際には, 陽極のホルダーに収まるように, 2 mm×2 mm角に切り出した. 圧延材の場合, 圧延面のND方向に対 し, <111>B2方位が配向する繊維集合組織を形成するため, 圧延面に垂直に切り出す. 各自己調整 構造は<111>B2方位に伸びた多角錘であるため, <111>B2方位より観察することで, 各自己調整構造の 同定および各種 HPV 間の界面の観察を比較的容易に行うことが可能となる. 更に, 線材および圧延 材という異なる工程で作製した試料における母相結晶粒の配向を揃えることで, 試料作製方法の違い による, マルテンサイト組織の形成への影響を除いた. また, 同一試料内においても集合組織を形成し ているため, 領域ごとの不均一さをなるべく抑えた.

次に, 上記の試料に対し, 油回転ポンプおよび油拡散ポンプを用いて, 石英管内に真空封入し (2.0*10-6 torr以下), 種々の温度および時間で溶体化処理を行い, 氷水焼入れを行った. その後, 湿 式研磨により, 試料表面の酸化膜を除去するとともに, 表面を鏡面に仕上げた. 電子顕微鏡観察に用 いる場合は, 更にこの後, 電解研磨を行い, 湿式研磨による加工層を完全に除去した.

2-1-2. 示差走査熱量測定 (DSC: Differential Scanning Calorimetry)

DSC とは, 測定したい物質と標準物質(測定温度範囲内で変化しない物質)を, 調節された速度で 加熱または冷却する環境中で, 等しい温度条件においた時, 2 つの物質間の温度差をゼロに保つため に必要な熱量を, 時間または温度に対して記録する技法である. マルテンサイト変態における変態点の 測定方法はいくつか存在する. 例えば, 電気抵抗変化を利用する方法があるが, 操作が複雑である.

一方, DSC 測定[2]は比較的簡便であるため, 近年ではこの DSC を変態点測定に用いる傾向がある.

熱弾性マルテンサイト変態のDSC測定において, 冷却時ではマルテンサイト変態に伴う発熱反応, ある いは, 加熱時では逆変態に伴う吸熱反応が生じるため, 基準物質との熱量の差がピークとして現れる.

これらのピークの立ち上がる温度が変態開始点であり, ピークが立ち下がる温度が変態終了点となる.

また, ピークの立ち上がりなどは急峻でないことも多いため, ピークの立ち上がりを一概に規定できない.

そこで, ピーク前とピーク内より接線を引き, 交差する点を各変態点とする.

本研究では島津製作所(株)製示差走査熱量計 DSC-60を用いて, 標準物質にα-Al2O3(アルミナ) 粉末, 雰囲気に窒素ガスを使用し, 試料と標準物質を各々Al 製パンに入れ, 測定を行った. 熱分析 プログラムは, 室温から10 K/minの速度で373 Kまで予備加熱し, 3 min間保持した後, 冷媒に液体 窒素を用いて10 K/minの速度で最低でもMf点以下まで冷却し, 3 min間保持後, 再び10 K/minで

373 Kまで加熱した. DSC 測定を行う際, 変態点を測定したい試料の質量が非常に小さいと, 熱量差

(ピーク)も小さく, 解析が難しくなると伴に, 誤差が大きくなるため, 各試料は最低でも20 mgの重さになる

ように切り出している. 非常に薄く, 1枚では20 mgにならないような試料に対しては, 試料の両面が平滑 な鏡面になるまで湿式研磨し, 複数枚重ねることにより20 mg以上とした.

(22)

2-1-3. 電解研磨

本研究において, 電子顕微鏡観察に用いる試料は, 全て湿式研磨後に電解研磨を行うことで作製 した. 装置には, (株)Fischione Instruments 製電解研磨装置(Model 110, 電源ユニット Model 140)を 使用し, 研磨温度はメタノールと液体窒素により調整した. Ti-Ni合金においては, 冷却によってマルテン サイト変態が生じるため, 研磨温度は非常に重要なパラメーターである. 例えば, 室温で母相状態の試 料を, Mf点以下の温度で研磨した場合, マルテンサイト変態が生じるため, 試料はマルテンサイト相状態 で表面が平滑となる. そして, この試料を電解液より取り出し, 室温に戻すと, 逆変態が生じ母相へと戻 る. その際, マルテンサイト組織の形態を反映した表面起伏が生じる. この起伏を逆変態レリーフ[3]と呼 び, 本来ならば室温では観察することが不可能なMs点が室温より低い組成におけるマルテンサイト組織 の形態を観察することができる. 一方で, 母相状態で平滑な表面の試料を作製したい場合は, Ms点以 上の温度で電解研磨を行う必要がある. しかし, 電解液の種類により, 最適な研磨温度が決まっている ため, 電解研磨を行う温度に合わせて, 電解液を選択する必要がある.

本研究では, 以下の2種類の電解液を用いた.

1. 硫酸メタノール(CH3OH:H2SO4, 体積比 4:1). 最適な電解研磨温度は 373 K 近傍であり, 比較 的高温で研磨が出来ることから, 逆変態レリーフを生じさせずに, 母相状態で表面が平滑な試料 を作製する場合に多く用いた.

2. 硝酸メタノール(CH3OH:HNO3, 体積比 3:1). 電解研磨を 338 K 以下の温度で行う必要があり, 比較的低温まで電解研磨を行うことが可能なため, 逆変態レリーフ試料の作製などに用いた.

2-2. 観察方法

TEM観察

TEM 観察は㈱日本電子製のサイドエントリー型 JEM-2010 を用いて加速電圧 200 kV にて行った.

主にEB//[111]B2で入射し, また, 冷却ホルダーを用いて, TEM内その場冷却・加熱観察を行うことによ

り, 薄膜試料におけるマルテンサイト変態を動的に観察した. 試料の冷却には, 液体窒素を用いた. ま た, 熱サイクルを与えた試料に対し, 転位組織の観察を行った. その際, 晶帯軸からわずかにブラッグ条 件をずらした条件で観察を行った.

SEM観察

本研究では, (株)Carl Zeiss製ULTRA55を用いてSEM観察を行った. 室温でマルテンサイト相状 態の試料や, その場冷却・加熱観察においては, 結晶構造や結晶方位の違いを, 反射電子の量の 変化をコントラストとして可視化できる, 環状の反射電子(BSE)検出器を用い, 逆変態レリーフの観察に おいては, 表面の起伏によって二次電子の放出量が異なることから, 二次電子(SE)検出器を用いた.

また, SEM内その場冷却・加熱観察を行う際は, SEM内冷却ステージを用い, 1.5K/minのペースで冷 却・加熱することにより, 熱弾性 M・逆変態を動的に観察した. 第5章などにおいて, 母相の結晶方位

(23)

解析には電子線後方散乱回折(EBSD)を用いた.

本学が所有するULTRA55は4つの検出器を搭載した新型の電界放出型(FE)-SEMであり, 検出 器と観察条件(加速電圧, Work Distance(試料とBSE検出器間の距離), プローブ電流, 検出器と試 料の成す角度)を選択することで, 従来では得られなかった試料表面の様々な情報を得ることが出来る.

さらに, 対物レンズが特殊な構造をしており, 色収差や輝度の低下を抑制することで, 低加速電圧でも 高い分解能を保つことが出来るという特徴を持つ. 加速電圧は 0.1~30kV まで操作することができ, 分

解能は1.0~4.0nm である. 以下, 本研究に用いた検出器, 並びにSEM 内冷却ステージを簡単に説

明する.

1. SE検出器(E-T: Everhart-Thornley検出器[4])

SEMに搭載されている最も一般的な検出器で, 二次電子(SE: Secondary Electron)を検出する. 二 次電子とは, 入射された電子線により, 試料原子の価電子が放出されたものである. 試料表面より放出 される二次電子には SE1 とSE2 の 2種類があり, E-T 検出器は二次電子の中でもSE2 を検出する.

SE1 は入射電子により試料表面で試料原子が直接励起されることにより放出した二次電子であり, SE2 は試料内部に入射された電子が反射電子として試料表面に到達した際に試料原子が励起することによ り放出した二次電子である. 最表面付近からの情報が強く, 試料の凹凸等によって放出量に差が生じ るため(edge効果), 試料表面の形状を反映し易い.

2. BSE検出器[5] [AsB(Angular selective BSE)検出器]

従来に比べ低角度で最表面近傍から散乱された反射電子を検出し, チャネリングコントラストにより結 晶の回折情報を得ることが出来る. 入射された電子線は試料の表面近傍で回折・散乱され, それを利 用してコントラストをつけたものがチャネリングコントラストである. 結晶方位や結晶構造の違いを反映し, TEM で観察されるような転位や結晶粒等が明確に観察できる. また, 試料の傾斜や加速電圧など 様々な条件に左右される.

3. 電子線後方散乱回折(EBSD)[6]

試料を入射電子に対して70 °傾斜させ, 比較的高い加速電圧で電子線を入射させると, TEM観察 において観察される菊池パターンと似た擬菊池パターンとも呼ばれる電子線後方散乱回折図形が得ら れる. これは, 結晶構造や結晶方位を反映しているため, 入射した部分の結晶構造や結晶方位を知る ことができる. また, 結晶方位を解析することにより, 結晶粒径はもちろんの事, 結晶粒間の方位差を算 出し, 粒界のミスオリエンテーションを出すこともできる. 本研究では用いていないが, 一つの結晶粒にお ける測定点間の結晶方位差をもとめることにより, 局所的なひずみを可視化することも可能である.

4. SEM内冷却ステージ

本研究では, Mfが218 K以上の試料に対してはDEBEN製Coolstage MK3 Specimen Cooling Unit を使用した. ペルチェ素子および冷却ユニットによって, 323 ~218 Kまでの高精度の温度制御が可能で あり, 1.5 K/minの速度で冷却および加熱を行った.

また, 218 KよりMfが低い試料に対してはオックスフォード・インストゥルメンツ製cold stageを用いた. こ の冷却ステージは, 上記のステージとは異なり, 液体窒素および発生した窒素ガスにより, 試料を冷却す る. 温度は, 主に窒素ガスの流量により, 調節する. 従って, 試料を最大液体窒素温度(77 K)まで冷

(24)

却することが可能である. また, 加熱には電熱線のヒーターを用い, 最高673 Kまでの加熱が可能であ る.

2-3. 引張試験

第5章において, 50×5×0.2mm短冊状のTi-50.75 at%Ni(圧延材)を引張試験片として用いた. 溶体 化処理後, 表面の酸化膜を化学研磨によって除去した. 化学研磨液は, HF:H2SO4:HNO3:H2O(体 積比 1:1:1:1)の混合溶液を用いて, 約323 Kの温度で行った. 引張試験は, 1% / minのひずみ速度 で行い, ひずみが最大4%になるまで引っ張った. また, 試験温度は, 超弾性ループを得るために, ヒー ターで加熱した湯浴中で行い, Af点以上に調節した.

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(25)

3

Ti-Ni 合金の熱弾性マルテンサイト変態における動的観察手法の比較

本章では, 透過型電子顕微鏡(TEM)と走査型電子顕微鏡(SEM)の異なる特徴を持つ 2 種類の電 子顕微鏡内で冷却を行い, 形成するマルテンサイト相の観察および解析を行った. これらの実験結果よ り, Ti-Ni合金における熱弾性マルテンサイト変態の動的観察に適する顕微法を決定した.

3-1. 序論

Ti-Ni合金が発見されてから半世紀以上が経つが[1], 優れた形状記憶特性や超弾性を示すことか

ら[2-5], 今もなお基礎と応用の両分野において活発な研究が行われている. これらの特性は, 高温相 である立方晶(B2)と, 低温相である三方晶(R), 斜方晶(B19)および/又は単斜晶(B19’)間における熱 弾性マルテンサイト変態に由来しており, 変態の経路は化学組成や作製過程によって決定される[2, 3].

多くの研究者が, 様々な顕微法を用いて熱弾性マルテンサイト変態のその場観察を行い, 変態の本 質の理解に対して有益な報告を行っている[6-24]. これらの研究の中で, SEM 内その場観察は高分解 能での広範囲の観察を可能にし[18-22], 光学顕微鏡と透過型電子顕微鏡(TEM)の長所を併せ持っ ていると言える. Ti-Ni系合金における熱弾性マルテンサイト変態, 特に B2 構造から B19’構造への変 態の TEM 内その場観察を行う場合, バルク試料中とは異なる変態挙動を示すことがよく知られている.

TEM 試料において, 試料の厚さが厚い部分より B19’マルテンサイトが生成し, 厚さが薄い部分へと広 がっていくことが報告されている. また, 電解研磨孔直近の最も薄い領域において, 変態が生じないこと も観察されている[6, 14, 23]. つまり, TEM試料の薄い部分における変態温度は, バルク試料の変態温 度より低い. この現象は, “薄膜効果(thin foil effect)”と呼ばれる. そのため, TEM内その場観察は, マイ クロ電子機器やナノ電子機器に用いられる, ミクロメーターおよびナノメーターサイズの形状記憶合金に おける変態挙動に関する有益な情報を与えただろう. しかし, これらのTEM 内その場観察における薄膜 効果の考察は, 多くの報告で, 変態温度の変化についてしか行われていない[6, 14, 23-26]. 言い換え る なら ば, これら の 研 究 では, 薄 膜 試料 にお ける, マル テ ンサ イト結 晶 学の 現 象論(PTMC: the phenomenological theory of martensite crystallography)に基づく, 結晶学的および形態学的な考察は 行われていない. その場観察における薄膜効果を解明するためには, 変態温度の違いだけではなく, 薄 膜とバルク間におけるマルテンサイト組織の違いについても考察することが重要である.

本研究では, マルテンサイト相における2つの代表的な微細構造に着目した. 1つ目は, B19’マルテン サイトの自己調整構造である. Nishida らは, この自己調整構造に関して, 実験的および理論的な解析 を報告しており[27-29], 以下に報告をまとめる. 各<111>B2軸周りには, {-1-11}B19’ type I双晶で結合し た, 2 つの晶癖面バリアント(HPV)から構成される V 字状の形態が自己調整構造の最小単位として 3

(26)

組存在する. 結晶全体では計12組存在することになる. このV字状の自己調整構造は, 2HPVCと分 類されている. また, 各<111>B2軸周りには, 2HPVCを最小単位とする 3種類の自己調整構造があり, 3つのHPVから構成される三角形状(3HPVC), 4つのHPVからなる菱形状(4HPVC), 6つのHPVか らなる六角形状(6HPVC)とそれぞれ分類されている. これらの中で, 6HPVC は双対半正六角形と呼ば れる独特な形状を持っており, その詳細は補遺A(図3A.(1)および3A.(2))を参照して頂きたい. <111>B2

軸周りでは, 3HPVCは6種類, 4HPVCは3種類, 6HPVCはただ1種類の組み合わせが存在し, それ ゆえ, 結晶全体では24種類, 12種類, 4種類の組み合わせがそれぞれ存在する. 6HPVCは, 構成す る6つのHPVの体積は等しいため, 各HPVは生じる変態ひずみを均等に減少させる. 従って, 6HPVC は理想的な自己調整構造の形態である. この事から, 6HPVCの形成とは, Ti-Ni合金のバルク中にお

ける B2→B19’変態挙動を特徴づける注目すべき事象である. 次に, 2 つ目に着目したのは, マルテン

サイト変態時において格子不変変形(LID)として形成する<011>type II 双晶の, 双晶の幅比(双晶比) である. 理論的に推定される双晶比と[30, 31], 実験的に観察された双晶比[30, 32, 33]はよく一致する 事が報告されている.

本研究 では, マルテンサイト変態時の自己調整構造 と, 格子不変変形(LID)として 形成する

<011>type II双晶の双晶比の2点に着目し, Ti-Ni合金の薄膜試料とバルク試料において形成したマ

ルテンサイト相の微細構造を系統的に比較した. また, 本研究結果より, TEM 内その場観察における薄 膜効果, および, 薄膜の形状記憶特性の調査に必要不可欠である薄膜とバルク間における微細構造 の差異を定量的に示した[34].

3-2. 実験方法

冷間線引き加工により作製した, Ti-50.8 at%Ni(3 mmφ)線材を用いた. この線材を1, 0.5, 0.2 mmの 厚さで切り出し, それぞれ, 示差走査熱分析(DSC), SEM 観察, TEM 観察に用いた. 切り出した試料 は, 真空中で1173 K-3.6 sの溶体化処理を行い, その後氷水焼き入れを行った. DSC測定は, DSC-

60(㈱島津製作所)を用いて, 0.17 K/sの速さで冷却および加熱を行った. 測定結果より得られたマルテ

ンサイト変態開始点(Ms), マルテンサイト変態終了点(Mf), マルテンサイト逆変態開始点(As), マルテン サイト逆変態終了点(Af)は, それぞれ, 236, 221, 254, 269 Kである. SEM内その場観察とTEM内その 場観察に用いる試料は, 湿式研磨後, H2SO4/CH3OH(体積比 1:4)の電解液を用いて Ms点上で電 解研磨を行った. 一方で, 逆変態レリーフ[27]の SEM 観察の試料は, HNO3/CH3OH(体積比 1:3)の 電解液を用いてMf点以下で電解研磨を行った.

電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM; Ultra55, Carl Zeiss)を用いた. また, SEM内その場観察に おける試料の冷却および加熱には, 220-320 K の温度域で冷却・加熱が可能なペルチェステージ (Coolstage, Deben)を使用した. TEM内その場観察においては, JEOL JEM-2010を加速電圧200 kV で使用し, 試料の冷却および加熱には, サイドエントリー型液体窒素冷却式 2 軸傾斜試料ホルダー

(Model 636, GATAN)を用いた. TEM観察を行った領域の試料膜厚は, 電子エネルギー損失分光法

(EELS)[35]を用いて推定した. また, TEM試料を用いてSEM内その場観察を行ったが, この試料の膜

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厚は, 集束イオンビーム(FIB; NB5000, ㈱日立ハイテク)を用いて試料上面から下面まで削り, 断面を 観察することにより直接計測した.

<011>type II 双晶の双晶比は以下の手順で求めた. 先ずは, Avizo software (Thermo Fisher Scientific) およびPhotoshop(Adobe)を用いることで, SEM像とTEM像のノイズを軽減させ, HPVCより 以降の解析に用いる特定のHPVのみを分割させた. また, IMAGE J software (NIH)を用いて, 先ほど 分割したSEM像における各HPVのmajor CVとminor CVに対して二値化処理を行い, 二値化を行 った像よりmajor CVとminor CVのarea fraction(面積比)を算出することで, major CVとminor CVの 双晶比を決定した.

3-3. 結果および考察

3-3-1. 逆変態レリーフの観察

図 3-1.(a)に, B2 相に生じた逆変態レリーフの室温における SEM-反射電子(BSE: back scattered

electron)低倍像を示す. この試料は, Mf 点以下の完全にマルテンサイト相になった状態で, 電解研磨

により表面が平滑となっているため, 室温に戻ると逆変態に伴う表面起伏が生じる. この表面起伏は形 成していたマルテンサイト相の形態を引き継いでいる. また, チャネリングコントラストにより, B2相の結晶粒 が明瞭に観察されている. 電子後方散乱回折(EBSD: electron back scattered diffraction)により, 平均 結晶粒径は約30 μmであることを確かめた. EBSD解析の結果は補遺Bに記している. 母相中に見ら れる5 μm以下の暗いコントラストは非金属介在物である. また, EBSDにより, 試料表面の各結晶粒に おける法線方向が, <111>B2 方位にほぼ平行であることも確かめた. 線引き材であるため, 溶体化処理 により, {111}B2再結晶集合組織が成長したからである[36]. また, 後程説明を行うが, 他の簡易的な法 線方向の確認方法として, 3方向に放射した星状の起伏が生じているB2結晶粒の表面の法線は, ほ ぼ<111>B2に平行である. 図3-1.(a)において, 結晶粒の法線が<111>B2にほぼ平行なため, 双対半正 六角形[20, 27-29]の形状を持つ6HPVCが数多く形成している. 図3-1.(b)は, 図3-1.(a)におけるBで 示した6HPVCのSEM-二次電子(SE: secondary electron)拡大像である. 先行研究によると, 6HPVC は[111]B2軸周りに存在する, V字状の最小単位{4’(+)/2’(-), 2’(+)/6’(-) , 6’(+)/4’(-)}が3つ組み合わ さって構成される[20, 27-29]. この6HPVCはB2相の逆変態レリーフであるが, <011> type II LID双晶 と{-1-11}type I variant accommodation 双晶(自己調整構造を形成する際のHPV同士の双晶界面) における双晶要素の1つであるK1面のトレースが, 先行研究[27-29, 33, 36]における各K1面のトレース と明瞭に一致している. さらに, 図 3-1.(a)における 3 方向の放射した星形の形態の放射線は, {-1- 11}type I双晶のK1面のトレースと一致している. このK1面は母相の{110}B2に対応する. 上記したよう に, 6HPVCの出現とは, バルク試料中におけるB2→B19’変態を特徴づける微細構造の1つである.

(28)

3-1.室温における逆変態レリーフのSEM観察像. (a): 低倍率のBSE像, (b): (a)においてBで示した6HPVCの高倍率SE像.

(29)

3-3-2. TEM 内その場冷却観察

図 3-2.(a)および(b)は, その場 TEM 内冷却観察における冷却前と冷却後の TEM-明視野(BF:

bright field)像である. B2母相状態におけるTEM薄膜試料の法線方向は, [111]B2方位にほぼ平行で

ある. この薄膜試料はEELSを用いて膜厚を測定し, 点1, 2, 3の膜厚はそれぞれ, 45, 70, 120 nm(測 定精度 ±20%)[35]であった. 冷却を行うと, 研磨孔周りのほとんどの領域が110 K までにB19’マルテ ンサイトへと変態を行ったが, 図3-2.(b)において単頭矢印により示される未変態の領域も観察された. 本 実験と同様の変態挙動は, 薄膜効果として以前より報告されている[6, 14, 23]. 図 3-1.(a)の中央の結 晶粒の右上の角付近において, 非常に小さいHPVからなる3角形状の自己調整構造が見られる. 一 方で, 膜厚が薄い領域では, 比較的大きなHPVが存在している. 図3-2.(c)は図3-2.(b)における白線 で囲まれた領域Cの高倍率のTEM-BF像である. 領域Cにおいては, <011>type II双晶から構成さ

3-2.TEM内その場冷却観察におけるTEM明視野像. (a): 冷却前, (b): 冷却後.

(c): (b)における領域Cの拡大像. 各HPVより取得した制限視野電子回折像を併せて示している.

(30)

れる6’(-)と2’(-)HPVが主に形成している. 各HPVの同定は電子回折図形より行い, 図3-2.(c)の左 下と右上に示している. ここで特筆すべきは, 双晶比が PTMC に基づいてに算出された値である 2.69[30, 31]と比較すると顕著に大きいということである. それゆえ, 薄膜試料を用いた B2→B19’マルテ ンサイト変態の TEM 内その場冷却観察では, 格子不変変形の結晶学に関してはバルク試料中のもの と同じだが, 形成するB19’マルテンサイト組織の形態を解析することに関しては不適切である.

3-3-3. SEM 内その場冷却観察

次に, 試料の膜厚と形成するマルテンサイト相の微細組織の関係を明らかにする目的で, TEM 内そ の場冷却観察で用いた試料と同様の方法で作製したTEM試料を用いて, SEM内その場冷却観察を 広域に渡って行った. 本試料では, 電子線が透過不可能な領域の膜厚を測定しなければならないため,

図3-3.(a)に示すようにFIBミリングを用いて直接膜厚を測定した. また, 図3-3.(b)に研磨孔からの距離

と試料膜厚のグラフを示しているが, 研磨孔から離れるにつれ, 段々と試料が厚くなっていることが分か る. 例えば, 研磨孔からの距離が500 μmの地点の膜厚は約30 μmである. また, 研磨孔地点と研磨

孔より10 μmの地点の膜厚はそれぞれ85, 750 nmであり, 値が小さいため拡大したグラフを図3-3.(b)に

挿入している. 本試料は図 3-2.の試料と比較すると, 研磨孔付近が厚いが, 研磨孔付近において加

速電圧200 kVの条件で電子線が透過する事を事前に確認している. 図3-3.(c), (d)には, それぞれ冷

却前および約220 Kまでの冷却後における, 低倍のSEM-SE全体像を示している. 試料の研磨孔近 傍の領域において変態が生じているが, いくつかの領域においては変態が生じていない. 図 3-3.(e-i)は 図3-3.(d)における領域E-Iを拡大したSEM-SE像であり, 図3-3.(e)に示すように, 研磨孔近傍におい て表面起伏が生じていない. しかし, 研磨孔近傍において変態が生じなかった原因が, 薄膜効果に由 来するものと断定することは困難である. なぜなら, 実験方法の項で記したようにペルチェ式冷却ステー ジの冷却は最大で220 Kまでが限界であり, この温度は本試料のMs, Mf点よりそれぞれ16 K, 1 Kだ け低い温度だからである. しかしながら, 研磨孔付近では明らかに変態が抑制されている. また, 図 3-

3.(d-f)を見比べると, 研磨孔より300 μm以内の領域において, 数十μm以上の非常に大きなHPVが

形成している点は注目すべきである. この現象は, 試料膜厚が10 μm以下の領域では, 3次元的な拘 束がほとんどない事に起因する. 図 3-3.(g-i)に示すように試料膜厚が 10 μm を超えていくと, バルク試 料を用いた先行研究[27-29]でも見られるように, HPV の大きさは小さくなっていき, その形態もより形状変 化を抑制できる形態へと変化している. 次に, 各領域における HPV の双晶比を見積もり, また自己調 整構造の形態を確認するために, 図 3-3.(e-i)の領域をさらに拡大した像を下段に対応させて示した. 各 HPVの表記付けは, Nishidaらの先行研究[20, 27-29]を基に行った. V字型の2HPVCは, 試料膜厚

が 1 μm 以下の領域においても形成していた(図 3-3.(e)). 試料膜厚が増すにつれ, 2HPVC に加えて

3HPVCの形成も見られるようになった(図3-3.(f),(g)における単頭矢印). そして, 膜厚が約20 μmを超 すと, 6HPVCの形成が所々に見られるようになる(図3-3.(h), (i)における二頭矢印). 6HPVCに特徴づ けられる自己調整構造の形態の観点からすると, 試料の膜厚が 20 μm 以上の領域において, バルク 中と同様の変態挙動が再現されている.

(31)

3-3.(a): 集束イオンビーム(FIB)ミリング後のTEM薄膜試料のSEM-SE像, (b): 電解研磨孔からの距離と試料膜厚の関係.

(32)

3-3.SEM内その場冷却観察におけるSEM-SE像. (c): 冷却前, (d): 冷却後.

(33)

3-3.(e)-(i): (d)における破線の長方形で示した領域E-IのSEM-SE拡大像. また, (e)-(i)において長方形で示した領域を更に拡大した像を下部に示している.

(34)

3-3-4. 薄膜試料における逆変態レリーフ

本項では, 薄膜試料におけるマルテンサイト組織の安定性を確かめた. 何故ならば, バルク中で一度 形成したマルテンサイト組織が, 薄膜化することによって異なる組織へと変化してしまうのであれば, 薄膜 効果を議論する際に, 形成したマルテンサイト組織が変化することを考慮する必要があるからである. そこ で, 完全にマルテンサイト相状態まで冷却して電解研磨を行い, TEM 薄膜試料を作製し, さらにその試 料を室温に戻して逆変態レリーフを生じさせた. そして, このTEM試料の研磨孔付近における逆変態レリ ーフを観察した(図 3-4.). 研磨孔付近の非常に薄い領域にもかかわらず, バルク試料中において典型 的な2, 3, 6HPVC が形成しており, それらの大きさは, 図3-1.および図3-3.(g,h,i)のものと同等のもので ある. つまり, 適切な条件で試料を作製すれば, 一度形成したマルテンサイト組織は, 薄膜化を行っても 安定しており, 異なる組織へと変化しないことを示している. 現に, Mf点以下で電解研磨を行ったTi-50.3 at%Ni合金(Ms=284 K, Mf=273 K, As=304 K, Af=314 K)のTEM観察において, 6HPVCは観察され ている[16, 27].

3-4.室温におけるTEM試料の逆変態レリーフのSEM-SE像.

(a): 電解研磨孔付近における低倍像. (b): (a)においてBで示した6HPVCの拡大像.

参照

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