[判例研究] 第一審で無期懲役が言渡され、控訴審 で無期懲役が維持された事件に対し、検察官が死刑 選択基準に関する判例違反を主張して上告した事例
(最決平二一年一二月一七日裁判集刑二九九号一二 七五頁)
その他のタイトル The Appeal for the Death Penalty by the
Prosecutor (Supreme Court, 17 December 2009)
著者 永田 憲史
雑誌名 關西大學法學論集
巻 62
号 1
ページ 229‑214
発行年 2012‑05‑31
URL http://hdl.handle.net/10112/7611
第一審で無期懲役が言渡され︑控訴審で無期懲役が 維持された事件に対し︑検察官が死刑選択基準に
関する判例違反を主張して上告した事例
︵最決平ニ︱年︱二月一七日裁判集刑二九九号︱二七五頁︶
︵ ニ
ニ 九
︶
東京都在住の中国人留学生 x
︵ 当
年
一 九歳︶は︑来日後わずか 一 年余りで学業を放棄し︑両親及び親戚からの多額の送金を借金
返済や遊興費に使い果たすなどして生活費などに困っていた ︒ そのため︑報酬目当てに中国人女性と中国人男子留学生との偽装結
婚を企てるなどしていた ︒ 大分県在住の中国人留学生
Yに対し︑貸付金の返済を求めたところ︑
Yから強盗に誘われた ︒
Xは︑強
盗をすれば
Yから貸付金の返済を受けられるとともに︑生活費等が得られると考え︑
Y
と共謀の上︑大阪府内で路上強盗をするこ
そ の
後 ︑
N
から自分も別室で強盗殺人を行なうとして強盗殺人を実行するよう唆され︑
Y
と共謀の上︑ホテルの客室に呼び出し
たホテトル嬢から金銭及びキャッシュカードを強取しようと企てた︒
X
は︑大阪市内のホテルの客室へ遊客を装って
Aを 呼
び 出
し ︑
シャワーを浴びていた
Aにいきなりペティナイフを突き付けて脅迫し︑
Aを浴 室から連れ出してベッドの上に座らせ︑ペティナイ とを企てたが実行できなかった ︒ ︻事案︼ ︹
判 例 研 究
︺
永
田 四 三
憲
史
た フを突き付けながら金銭を要求し︑ て ︑
A
からその暗証番号を聞き出した︒さらに︑
とは異なり︑被害者を殺害せずに逃走しようとした︒その際︑
決 意
し ︑
ペティナイフで
Aの左側胸部等をペティナイフの刃が根本から曲がるほど力を込めて十数回刺突するなどして
Aを殺害し
︵大阪事件︒強盗殺人︑銃砲刀剣類所持等取締法違反︶︒
Xは ︑
その後︑奪ったキャッシュカードで預金を引き出そうとしたものの︑
カードを z
に 渡 し た 上 ︑
ペティナイフを投棄して罪証隠滅を図った︒
大阪事件の三週間余り後︑ クラフトテープで
Aの両手首及び両足首を縛り︑
X
は ︑
口を塞いだ上︑キャッシュカードニ枚を奪っ
A
に騒がれないようにその口にタオルを押し込んだ上︑
Yとの共謀の内容
A
が声を出したことから狼狽し︑犯行の発覚を免れるため︑殺人を
ドアの取っ手等に付着した指紋を拭き取るなどして逃走した︒
A
が述べた暗証番号が虚偽であったため失敗し︑キャッシュ
X
は ︑
Y
を含む中国人留学生及び緯国人留学生四名と共謀の上︑共犯者らが面識のあった高齢で二人
暮らしの資産家夫妻から金銭及びキャッシュカード等を強取するとともに︑夫妻を連れ出して監禁し︑その間に金融機関で現金を
引き出すことを企てた︒そして︑夫妻方や現金を引き出す金融機関の
F見を重ね︑夫妻を監禁する場所も予定した︒また︑包丁等
の凶器︑懐中電灯︑夫妻を縛ったりするためのロープ及びビニールテープ︑指紋が付かないようにするための手袋︑顔を見られな
いようにするための目出し帽等を準備し︑綿密な話合いを繰り返した末︑強盗の実行方法や役割分担等について詳細に決定した︒
その際︑夫妻の殺害に関する共謀は成立しなかった︒また︑これら犯行の発案︑計画全体の立案︑犯行計画の指示及び説明︑凶器
等の準備は︑主犯たる共犯者が行なった︒その上で︑ x らは︑刺身包丁三本等を携帯して大分県内の民家に侵入した上︑木製棒及
び手拳で妻
B
の顔面を多数回殴打したものの︑金品強取の目的を遂げず︑その際︑
X以外の共犯者のいずれかにおいて︑
Bを前記
刺身包丁で刺突して全治三四日間を要する胸部刺傷︑腹部刺傷等の傷害を負わせた︒
Xは︑共犯者が殴打する際︑
Bの足を押さえ
付けるなどしていた︒
Xは︑階下から夫
Cの声が聞こえたため︑
C方から逃げ出し︑他の共犯者らにも逃げるように促した︒しか
し︑共犯者が夫
Cを前記刺身包丁で刺突して死亡させた︵大分事件︒住居侵入︑強盗致死︑強盗致傷︑銃砲刀剣類所持等取締法違
反 ︶ ︒
X
は︑共犯者の指示の下︑共犯者とともに犯行時に倍用していた衣服等を廃棄するなどして罪証隠滅を図るとともに︑共犯
第 面
で 無
期 懲
役 が
言 渡
さ れ
︑ 拉
訴 癖
で 無
期 懲
役 が
紺 持
さ れ
た 事
件 に
対 し
︑ 検
察 官 が
死 刑
選 訳
基 準
に 関
す る
判 例
速 反
を 主 眼 し て 上 告
し た
事 倒
三 五
︵ ニ
ニ 八
︶
これに対し︑検察官が上 告 した ︒ これに対し︑検察官及び弁護人が控訴した ︒ け︑その恩返しの気持ちから︑二
0年以上にわたって多くの中国人の留学を斡旋したり︑
︵ ニ ニ
七 ︶
者の逃走資金を用立てた︒
Cは︑中国において終戦を迎えた後︑帰国するまでの間に中国人に助けられたことに感謝の念を抱き続
ア ル
バ イト等の世話をするなどの面倒を
みるようになり︑ ﹁
中国人留学
生 の父﹂と呼ばれるほど信望が厚く︑中国の日本語 学 校の名誉校長を務めるなど︑日中友好親善に
尽 力していた ︒
Cは︑共犯者の 一 人が留 学 する際にその身元保証人にな っ たり︑共犯者の 二 人に
C宅で 草 刈りのアルバイトをさせ
X
は︑捜査段階から各犯行について詳細に供述し︑その解明に寄与した ︒ また︑謝罪の気持ちを表している ︒
し か
し ︑
X
は ︑
A
及び
Cの遺族並びに
Bに対し︑何ら慰謝の措置をとっていない ︒
な お
︑
X
には日本において前科前歴がない ︒
第 一 審は︑共犯者とともに審理を行ない︑大阪事件について︑ ① z に騒されて実行した側面があること︑大分 事 件について︑
② 夫 妻の殺
害 が共謀の内容とな っ ていなか っ
た こ
と ︑
③ 夫妻に抵抗されると屋外に逃走したこと︑ ④ 共犯者に対し︑逃げるよ
うに呼びかけたこと︑ 固 以上の理由から共犯者に比べて刑
事責
任が小さいこと︑両 事
件に共通して︑⑥犯行当時少年であ
っ て ︑
(1)
特に人格の未熟さが犯行の 一 因となっていることも否定できないことなどを指摘し︑
Xに無期懲役を言渡した ︒
(2 )
控訴審は︑第
一 審とほぼ同内容の量刑理由を判示して︑
Xについて控訴を棄却した ︒
( l )
大分地判
平
i七年四月
一 五
H公刊物未登載
︒
(2)
福岡高判
平 一
九年
二 月二六
H公刊物未登載 ︒ なお︑第 一 審で無期懲役とされた共犯者の被 告 人に関する部分についてのみ
破棄自判し︑懲役 一 五年を 言 渡している ︒ るなどの面倒もみていた ︒
関 法 第 六 二 巻
一 号 三
六り後に﹂大分事件の﹁犯行に及んでいる﹂︒ 最高裁は︑﹁検察官の上告趣意は︑判例違反をいう点を含め︑実質は事実誤認︑最刑不当の主張であって︑刑訴法四
0五条の上
告 理由に当たらない﹂とした上で︑次のように職権により判断した ︒
﹁いずれの犯行動機も専ら利欲に基づくものであって酌量の余地はない﹂ ︒
執よう︑残虐である﹂︒
︵ ニ
ニ 六 ︶
大阪事件における﹁犯行態様は︑被告人が︑被害者に対し︑あらかじめ準備していた上記ナイフをいきなり突き付けて脅迫し︑
その両手首及び両足首をクラフトテープで緊縛して︑キャッシュカード ニ 枚を奪うなどしたもので︑計画的犯行であり︑さらに︑
抵抗できない被害者の左側胸部等を同ナイフで十数匝にわたり力を込めて突き剌すなどして被害者を殺害したもので︑殺害態様は
また︑大分事件における﹁犯行態様も︑計画的︑組織的である上︑被告人ら四名が︑深夜︑上記包丁︳ ︱ ‑本等の凶器を携帯して被
害 者夫妻方に侵入し︑妻に対し︑その頭部や顔面等を木製棒や 素 手で多数回殴打するなどの暴行を加え︑さらに︑共犯者のいずれ
かが︑共謀の範囲を超えたものとはいえ︑同包丁で︑妻の胸部及び腹部を数回突き刺すなどし︑続いて︑妻を助けようとした夫の
左腰部を突き刺して殺害したもので︑凶悪極まりない ︒ これらの犯行により︑ 二
名 が 死 亡 し ︑
は極めて重大であって︑その遺族や被害者の処罰感情は厳しい﹂ ︒ 特に大分事件における﹁犯行は︑身元保証人になるなど中国人
留学生の受入れ等に尽力していた被害者夫妻が︑理不尽にも︑自らが面倒を見た者を含む中国人留学 生 らによる凶行に遭 っ たもの
である ︒ いずれの犯行についても社会に与えた衝撃は大きい ︒ しかも︑被告人は⁝⁝﹂大阪事件の﹁犯行を犯したわずか 三 週間余
﹁⁝⁝これらの 事 情に照らすと︑被告人の刑事責任は誠に 重 大であって︑被 告 人に対して死刑を選択することも考慮されるとこ
ろ で あ る
﹂
︒
﹁⁝⁝しかしながら︑他方⁝⁝﹂︑大分事件の﹁犯行において︑被告人らは︑被害者夫妻を上記包丁で脅して︑金銭及びキャッ
第 一
癖 で
無 期 懲
役
が 言
渡 さ
れ ︑
拉 訳
乖 で
無 期
懲 役
が 維
持 さ れ
た 事
件 に 対
し ︑ 検
察 官
が 死 刑
選 択 基
準 に
関 す
る 判
例 違
反 を 主
眼 し て
上 告
し た 事
例 三 七
︻ 判 旨 ︼
一 名が重傷を負っており︑その結果
(4 )
最判昭五八年七月八
H刑集 三 七巻六号六
0九頁 ︒
︵ ニ ニ 五 ︶ シュカードを奪い︑その暗証番号を聞き出すなどして︑現金を引き出すことを共謀したのであり︑被告人には被害者夫妻の殺害に 関する共謀の成立及び殺意の存在が認められないにもかかわらず︑共犯者の
一 人が被害者夫妻に対する殺害行為に及んだのであ っ
て︑被告人は︑強盗致死︑強盗致像の範囲で責任を負うにとどまること︑しかも︑被告人は︑同犯行の主犯ではなく︑むしろ︑妻 が悲鳴を上げるなどし︑夫の大きな声が聞こえたため︑いち早く屋外に逃げ出し︑共犯者らにも逃走を呼び掛けるなど︑犯行の途 中から︑その言動は消極的なものにとどまっていること︑被告人は︑詳細に
事実
関係を供述し︑反省の情を 示 していること︑犯行
当時未成年であ
っ た ことなどの諸般の事梢をも考慮すると︑被告人を無期懲役に処した第
一 審判決を維持した原判決について︑そ
(3)の最刑がこれを破棄しなければ著しく正義に反するとは認められない﹂として上告を棄却した
︒
最高裁は︑昭和五八年の永山事件第 一 次上告審判決において︑死刑選択基準について初めて判 示
した
︒す なわち︑﹁死刑制度を
存置する現行法制の下では︑犯行の罪質︑動機︑態様ことに殺害の手段方法の執拗性・残虐性︑結果の重大性ことに殺害された被 害者の数︑遺族の被害感情︑社会的影響︑犯人の年齢︑前科︑犯行後の情状等各般の情状を併せ考察したとき︑その罪責が誠に重 大であって︑罪刑の均衡の見地からも 一
般予防の見地からも極刑がやむをえないと認められる場合には︑死刑の選択も許されるも
(4)
のといわなければならない﹂と判示したのである︒ ︻分析︼
(3)一︑永山事件第一次上告審判決 最決 平ニ︱年 ニ
一 月
一 七日裁判集刑二九九号
︱二 七五
頁 ︒
関 法 第 六 二 巻
一 号 三 八
ここでまず問題となるのは︑永山事件第 一 次上告審判決の判例性及びその具体性てある ︒ 永山事件第 一 次上告審判決が定立した
死刑選択基準は︑考慮すべき因子や . 般的な基準を羅列したにとどまるものであって︑本質的には事例判例にすぎず︑どのような
場合に死刑選択を行ない︑どのような場合に死刑選択を回避すべきかという具体的実質的な基準を定立した判例と考えることはで
(5)
きないとする考え方がある ︒ この理解からは︑大法廷判決によらずとも︑小法廷判決によって︑具体的実質的な死刑選択甚準を変
確かに︑その後︑本件のように検察官が永山事件第 一 次上告審判決の判例に違反するとして上告した際︑最高裁は︑実質は最刑
(6)不当の主張であって刑訴法四
0五条の上告理由に当たらないとしている ︒ この点からは︑最高裁が永 1 事件第 一 次上告審判決の基
準を具体的実質的な基準を定立した﹁判例﹂と捉えておらず︑具体的実質的な基準を定 立 したものと考えていないかのようにも思
︵ 刑訴法四
0五 条
︶
(7)
とは︑裁判の理由中で示された法律的判断を言い︑単なる是刑判断は﹁判例﹂ではない ︒
しかし︑永山事件第 一 次上告審判決の示した甚準は︑死刑選択基準に関する法律的判断であるため︑裁判の理由中で示された法律
(8)
的判断にあたり︑﹁判例﹂と考えるべきである ︒ それゆえ︑最高裁が︑実質は量刑不当の主張であって︑刑訴法四 0 五条の上告理
(9)由に当たらないとしてきたのは︑永山 事 件第 一 次上告審判決の判例性を否定したためではない ︒
もっとも︑最高裁が︑実質は最刑不当の 主 張であって︑刑訴法四
0五条の上告理由に当たらないとしてきたのは︑永山事件第 一
次上告審判決の示した基準を 一 般的かつ抽象的な﹁判例﹂であるととらえた上で︑
(なっており︑判例違反ではないと考えたためであると解する見解がある ︒
) 1 0いずれの原判決もこの基準に従って判断を行
しかし︑このような理解は妥当ではない ︒ そもそも︑永山事件第 一 次上告審判決の甚準は︑第 一 次控訴審が︑﹁ある被告事件に
第 面 で 無
期 忽
役 が
言 渡
さ れ
︑ 探
餌 癖
で 無
期 懲
彼 が
絋 持
さ れ
た 事
件 に
対 し
︑ 検
察 官
が 死
刑 選
択
基 準
に 醐
す る
判 例
速 反
を
主 眼
し て 上 告 し た
甲 例 三 九
そ も そ も
︑ ﹁ 判 例
﹂
われる ︒ 更することができることになる︵裁判所法 一 0
条 三 号 参 照 ︶
︒ 二
︑ 永 山 事 件 第 一 次 上 告 審 判 決 の 判 例 性 及 び 具 体 性
︵ ニ ニ
四 ︶
つき死刑を選択する場合があるとすれば︑その事件についてはいかなる裁判所がその衝にあっても死刑を選択したであろう程度の
(1 1
)
情状がある場合に限定せらるべきものと考える﹂と判示し︑無期懲役としたのを受けて︑﹁裁判所が死刑を選択できる場合として 原判決が判示した前記見解の趣旨は︑死刑を選択するにつきほとんど異論の余地がない程度に極めて情状が悪い場合をいうものと して理解することができないものではない﹂と述べた上で示されたものである︒永山事件第
一 次上告審判決の基準は︑
考慮すべき因子や 一
般的な甚準を羅列したにとどまるものではあるが︑その内実は︑第
一 次控訴審の基準を否定し︑破棄差戻とす
るためのものである︒それゆえ︑永山事件第 一
次上告審判決は単なる事例判例ではなく︑具体的実質的な基準を示した﹁判例﹂で
( 1 2 )
あると考えるべきである︒
もちろん︑永山事件第 一
次上告審判決の基準は︑当初から︑あらゆる事例を想定して組み立てられたものとは言い難い面がある︒
例えば︑永山事件が︑単独事件であったため︑共犯事件の場合の共犯の主導性などの因子は︑判決の中で触れられていない
︒ 永山
事件第 一
次上告審判決の基準は︑摘示していない因子を取り込みながら︑具体的実質的な死刑選択基準の判例として成長してきた
と言えよう ︒
従って︑永山事件第 一 次上告審判決は︑考慮すべき因子や 一
般的な基準を示しただけでなく︑その後の死刑事件の判断に肉付け
されることにより︑あるいは︑その後の死刑事件の判断と 一
体化することにより︑具体的実質的な死刑選択基準の判例となったと
考えるべきである ︒
( 5 )
本庄武﹁死刑求刑検察官上告五事件以降の死刑判決の分析﹂季刊刑事弁護一二七号︵二
0
0
四︶五
0頁以下︑五
0頁︑原田
國男﹁裁判員裁判と死刑適用基準﹂刑事法ジャーナル 一 八号︵二
0 0
九
︶ 五
︱ ︱
︱ 頁
以 下
︑ 六
三 貞
︒
( 6 )
永山事件第 一 次上告審判決以降︑検察官から上告されたものとして︑最判平 ︱ 一 年 ︱ 一 月二九日判時 一 六九三号 一
五 四
頁 ︑
最判平 ︱ 一 年 ︱ 二月 一
0日刑集五三巻九号一 ︱ 六
0頁︑最決平 ︱ 一 年ニ︱月 一 六日判時 一 六九八号 一 四八頁︑最決平
一 一
年
︱ 二月 一 六日判時 一 六九九号 一 五八頁︑最決平
︱ 一
年 ︱ 二月ニ ︱ 日判時 一 六九六号 一 六
0頁︑最決平 一 七年七月 一 五日裁判
関 法 第 六 二 巻
一 号
四〇
︵ 二
ニ 三
︶
● 見
す る
︑ と
集刑二八七号五七 一 頁︑最判平 一
八 年
六 月
︱
1 0日判時 一 九四 一 号三八頁︑最決平二
0年九月二九日判タ ︱
二 八
一 号 一
七 五
頁 ︑
最決平ニ ︱ 年 一 月 一 四日判タ ︱ 二九五号 一
八 八
頁 ︒
( 7
)
藤永幸治ほか編﹃大コンメンタール刑事訴訟法第六巻[第三五ご宋i第四三四条二︵青林書院ヽ ‑ 九九六︶五
O一
I五
0二頁冨田園男]°原田園男﹁上告審の量刑審査と量刑破棄事例の研究︵下︶﹂判時 一 七六六号三頁以下︑ 一
三 頁
︹ ﹃ 量 刑
判断の実際︹第三版︺ ﹄
︵ 立 花 書 房 ︑ 二
00
八︶所収︑二六四頁以下︑三
0八 頁
︺ ︒ ( 8 )
原田・前掲注
( 7 )
ニ
ニ頁︹前掲注
( 7
) 所収︑三
0八 頁
︺ ︒
( 9 )
原田・前掲注
( 7 )
一 三頁︹前掲注
( 7
) 所収︑三
0八 頁
︺
︒
( 1 0 ) 原 田
・ 前 掲 注
( 7
︶ ニ ︱ ‑ 頁︹前掲注
( 7
) 所 収 ‑
︱
10
八頁︺︒この立場から︑本件第 一 次上告審判決が永山事件第 一 次上告審
判決の示した基準を確認的に判示したと理解する ︒ 同﹃星刑判断﹄・前掲注
( 7 ) ‑
︱ ︱
二 二 頁 ︒ ( 1 1 ) 東 京 高 判 昭 五 六 年 八 月 ニ
︱ 日判時 一 〇 一 九号 二
0頁 ︒
(12)最高裁が上告棄却する場合だけでなく︑原判決を破棄する場合であっても︑職権調査を行ない︑判断を示すのが通例であ
り︑刑訴法四
0五条二号の﹁最高裁判所の判例と相反する判断をしたこと﹂にあてはまるか否かが重要な意味を持っていな
いことも理由に挙げられる︒そして︑このことは︑四
0五条の上告理由に該当するか否かの判断を示すことなく︑職権破棄
を行なうことも許されるとする判例からも窺える︒例えば︑最判昭二八年 一 一 月二七日刑集七巻
一 一
号 三
0
三
頁
︒ 同判決に
賛成するものとして︑藤永幸治ほか編・前掲注
( 7
) 五 四
一 ー五四二頁[原田國男]ヽ伊藤栄樹ほか著者代表﹃刑事訴訟法
[ 新 版 ] 第 六 巻
§ 三 五
︱ i§四 一
八
﹄
︵ 立 花 書 房
︑
一 九九八︶四五 一 頁冗木田孝夫
] 0
三
︑ 具 体 的 実 質 的 な 死 刑 選 択 基 準 と し て の 内 容
それでは︑どのような場合に死刑選択を行ない︑どのような場合に死刑選択を回避すぺきかという具体的実質的な基準として︑
(1 3 )
永山事件第 一 次上告審判決が判示した基準はいかなるものであったのか︒
まず︑近時︑検察官による死刑の求刑がない事案で死刑判決が下された例がないことから︑死刑の求刑は死刑選択の大前提であ
第 一
癖 で 無 期 懲 役 が
言 渡
さ れ
︑ 拉 訴 晦 で 無 期 懲 役 が 細 持 さ れ た
事 件
に 対 し ︑ 検 察
官 が
死 刑 選 択 基 準 に 関 す る 判 例 違 反 を
主 張 し
て
上 告 し
た 事 例 四
一 ︵ ニ
ニ ニ
︶
い場合︑死刑は回避されやすい ︒ われやすいためであろう ︒ 一 名の故意の殺害を伴う犯罪で無期懲役に処 ると考えられる︒また︑同様に︑近時︑殺害の故意を伴う犯罪による被害者の死亡が存在しない事例で死刑判決が下されたことも ないから︑殺害の故意を伴う犯罪による被害者の死亡も死刑選択の大前提と言えよう ︒
次に︑被殺者数は戦後 一 貫して極めて重要な因子であり︑複数︑特に 三 名以上になると格段に死刑となりやすい傾向にあると言
える ︒ しかし︑三名以上殺害の 事 例でも︑審級間で結論が割れた事案もある 一 方︑被殺者が 一 名の事例でも︑永山事件第 一
次上告
審判決以降︑本件決定までに最高裁は 二
0件で死刑としており︑被殺者数が絶対的基準とはな っ ていない ︒ 従って︑被殺者数で 一
定のふるい分けをした後︑以下の因子の存否及び程度を考慮する必要がある︒
第 一 に︑影響度が重大な因子として︑以下のものが考えられる ︒
まず︑重要と考えられるのは︑犯行の罪質及び目的である ︒ 特に身代金目的であると︑被殺者が 一 名であっても︑死刑の傾向が
極めて強い ︒ また︑保険金目的の場合も同様である ︒ その他の利欲目的などその他の目的の場合には︑被殺者が二名以上の場合で
あ っ て︑以下に検討するような他の加重因子がある場合に︑死刑とする傾向が窺われる ︒
また︑殺害を伴う前科があり︑今犯でも殺害した場合︑極めて死刑になりやすい ︒
されて服役し︑仮出獄又は仮釈放後に再び 一 名の故意の殺害を伴う犯罪を行なった場合︵被殺者通算二名事例︶︑今犯の被殺者が
一 名でも︑近時の判例は死刑とする慣行を半ば確立したと言ってよい ︒ これは︑被殺者通算二名事例の場合︑犯罪傾向の深化が窺
同様に︑犯罪傾向が窺われるという観点から︑複数の被害者を異なる機会に殺害した事例は︑複数の被害者を同 一 の機会に殺害
した事例に比べて死刑になりやすい ︒ これは︑服役こそしていないものの︑規範の壁を再度乗り越える点で犯罪傾向が強く 看 取さ
れるためであると考えられる︒これに対し︑被殺者二名の事例のうち同 一 の機会に二名を殺害した事例には︑罪責を相当高める何
らかの事情が見受けられることが極めて多い ︒ 逆に言えば︑同 一 の機会に二名を殺害した事例で罪責を相当高めるような事情がな
関 法 第 六 二 巻
一 号
四︵ ニ
ニ
一 ︶
に多い ︒ る ︒ さらに︑永山事件第 一 次上告審判決が摘示しなかった因子てあるものの︑近時︑共犯事例において︑主導性がある場合には︑極
めて死刑になりやすい傾向にある ︒ また︑そこまでいかなくとも︑共犯者と対等の場合や重要な役割を担っていると評価される場
合 も死刑となりやすい ︒ 逆に︑共犯者に対して従属的立場にある場合︑死刑はほぼ回避されると
言 っ
てよい ︒
同じく︑永山 事 件第 一 次上告審判決が摘示しなかった因子であるが︑計画性も重要な因子である ︒ 特に身代金目的の 事 案で︑殺
害 してから身代 金 名目で金銭を要求することを計画していた場合︑死刑の可能性が極めて強い ︒ また︑それ以外の 目 的であっても︑
殺害の計画性が高い場合や用意が周到に準備されている場合は︑死刑となりやすい ︒ も っ とも︑被殺者通算二名の事案では︑殺害
の計画性がなくとも︑死刑に十分なりうる ︒ 同種犯罪や同種態様ならば︑犯罪傾向の深化が窺われやすいため︑なおさらである︒
逆に︑被殺者が二名又は 一 名の事案で︑重大な前科がなく︑計画性がない場合には︑死刑が回避されることも多い ︒
また︑近時︑性的 目 的以外の犯行の場合︑特に利欲目的の場合に︑性的な被害が随伴したとき︑死刑になりやすい傾向が窺われ
第 二 に︑影響度がこれまで挙げた因子ほど大きくないものの︑
の執拗性又は残虐性︑遺族の被害感情︑社会的影響︑少年であることなどがある ︒
反省悔悟︑生育歴︑従前の社会生活の状況︑それらから推測される改善可能性などを含むいわゆる主観的事情についても影郷盆度
はそれほど大きくない ︒ 実際には︑殺害の計画性がないなどの罪体関係が死刑回避に決定的な影響をもたらしていることが圧倒的
結局︑検察官の死刑の求刑と行為者による故意の殺害を大前提に︑被殺者数により 一 定の振るい分けがなされた後︑犯行の罪質
及び目的︑殺害を伴う前科︑殺害の 一 回性︑共犯における 主 導性︑殺害の計画性︑性被害といった影 響 度が重大な因子の存否及び
程度により︑
一 定程度の影響を 与 える因子として︑動機の形成原因︑殺害方法
ほぼ死刑選択の当否が判断され︑その他の 一 定程度影響を与える因子の存否及び程度により︑若干の修正又は補完が
なされていると 言 える ︒ 裁判所は︑おおむね︑被殺者数︑影響度が重大な因子の大部分を占める罪体に関係する事情を中心に判断
第 一
晦 で 無
期 懲 役 が 言
渡 さ れ ︑
拉 訴 乖 で 無 期 懲 役 が
絋 持 さ
れ た 事
件
に 対 し
︑ 検
察 官 が 死 刑
選 択
基 準 に
関 す
る 判
例 迎
反 を 主 張 て し 上 告 し た 事 例 四 三
︵ ニ ニ
0 )
していると言え︑主観的事情が死刑選択に大きな影響を与えることは少ない
︒
︵著反正義︶として
︑刑訴法四 ︱ 一 条二号により破棄した事案は︑刑の質的な差に
対応する情状の質的な差があり︑いずれも死刑選択甚準から極めて明白に逸脱したもので︑類似の事案とのバランスを著しく欠く
︵ 関西大学出版部︑
二
0i0 )
二.ー三六頁並びに脚注の判例及び文献参照︒
第二次世界大戦後︑犯行当時少年であった被告人に対する死刑選択の際には︑いわゆる主観的事情が
一 定程度影響力を持つよう
になってきたとは言え︑犯罪それ自体に関わる側面が最も重視されてきた︒判例上︑こうした事情を全く考慮してこなかったわけ
( 1 4 )
ではなく︑裁判所は︑年齢それ自体や精神的な未熟さを以下に述べる二つの場面で考慮してきたと考えられる
︒
第 一
に︑犯罪に関わる側面︑特に計画性や共犯の主導性において︑精神的な未熟さが勘酌されてきた︒すなわち︑少年の場合︑
精神的な未熟さから︑衝動的に犯行を行なったり︑犯行計画の立て方が杜撰であったりす
ることが多く︑計画性がなか ったり︑乏
しかったりすると認定されやすい ︒
また︑共犯事件のうち個々の行為者の結びつきが希薄である匿名的非紐織的集団での犯行の場
合︑表面上︑共謀や犯行計 画があっても︑虚勢や攻撃性の誇 示によ
るものや︑他者に迎合的追従的で実質を伴わないものと評価さ れやすく︑共犯者に男女が混在した場合︑互いに異性からの評価を意識して大胆な行動に及びやすい︒
判例上︑死刑選択の際に計画性及びその周到さが︑さらに共犯事件の場合には犯行の主導性がより要求されるようになり︑死刑 選択に大きな影響を与えるようになってくる中で︑年齢それ自体やその特有の精神的未成熟さが計画性や共犯の主導性をはじめと する犯罪に関わる側面の判断の中に取り込まれてきたと言える︒それゆえ︑年齢それ自体やその特有の精神的未成熟さがどのよう
(
1 3)
四
︑ 判 例 に お け る 年 齢 や 精 神 的 な 未 熟 さ の 評 価
詳しくは︑拙著﹃死刑選択基準の研究﹄ ものであると言える ︒
そして︑最高裁が︑﹁著しく正義に反する﹂
関 法 第 六 二 巻
一 号
四四
︵ 二
: 九
︶
定を通じて明らかにしなければならない︒ 有しえないことも多い︒ に計画性や共犯の主導性をはじめとする犯罪に関わる側面に影響を与えたのかを鑑定を通じて明らかにしなければならない ︒
第二に︑端的に︑被告人自身に関わるいわゆる主観的事情として︑年齢それ自体や精神的未熟さが掛酌されることもある︒また︑
これらの要素が改善可能性の評価に取り込まれることも多い︒しかし︑こうした主観的事情は︑前章まで検討してきた成人同様︑
少年の場合も︑犯罪自体に関わる因子に比べると︑死刑選択の影響度に判決ごとに大きな差が生じやすく︑重視されないことも多
い ︒ また︑そもそも︑家庭裁判所は︑犯行当時少年の被告人を検察官送致︵少年法二
0条︶するか否かの判断において︑少年であ
ることを最大限考慮しているはずである ︒ それゆえ︑逆に︑いったん家庭裁判所により検察官送致の決定がなされれば︑少年であ
ることが捨象されて成人同様に扱うこととなり︑年齢それ自体や精神的未熟さを端的に担酌することは困難となろう︒そして︑こ
の理は︑少年法等の 一 部を改正する法律︵平成 ニ
一 年 法 律 第
一 四二号︶により︑故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪の事
件であって︑その罪を犯すとき 一 六歳以上の少年に係るものについては︑原則として検察官送致の決定をしなければならないもの
とされた後でも︵少年法二
0条二項︶︑変わるものではない︒なぜなら︑調査の結果︑犯行の動機及び態様︑犯行後の情況︑少年
の性格︑年齢︑行状及び環境その他の事情を考慮すること
︵ 少 年 法 二
0
条二項但書︶が適切に行なわれる限りにおいて︑家庭裁判
所が少年であることを考慮する点は同様であると考えられるためである︒
そのため︑結果として︑これらの事情は︑被殺者数が多いなど極めて重大な事件の場合には︑死刑を回避させるほどの影響力を
以上のように︑判例は︑主観的事情だけでなく︑計画性をはじめとする犯罪に関わる面においても︑年齢やその精神的未熟さを
取り込んで評価する傾向にある︒そして︑判例が死刑選択の際に計画性をより強く要求するようになる中で︑計画性の判断を通し
て︑間接的にではあるものの︑年齢や精神的未熟さが死刑選択に比較的大きな影響を与えることとなってきた︒それゆえ︑年齢そ
れ自体やその特有の精神的未成熟さがどのように計画性や共犯の主導性をはじめとする犯罪に関わる側面に影響を与えたのかを鑑
一 方︑年齢や精神的な未熟さが︑端的に主観的事情として死刑選択に影響を与えること
第 一
晦 で
無 期
懲 役
が
言 渡
さ れ
︑ 控
朗 癖
で 無
期 懲
役 が
絋 持
さ れ
た
事 件
に 対
し ︑
検 察
官 が
死 刑
選 択
基 準
に 閃
す る
判 例
違 反
を 主 張 し て 上 告 し た
事 例
四 五
︵ 二
了 八 ︶
すればよいのか︑ は︑犯罪が重大であればあるほど︑少なくなると分析できる ︒
詳しくは、拙 著 •前掲注
(13) 九四ー九八 頁 並びに脚注の判例及び文献参照
。五︑本件決定の検討
本件上告は︑控訴審でなされた無期懲役の判断に対して︑死刑選択基準に関する判例違反を 主 張して︑検察官によりなされたも
のを含んでいる ︒ こうした上告に対する判断は︑既に見たように︑永山 事 件第 一 次上告審より後︑
本件は︑利欲 目
的の
事 案であ っ て︑大阪 事 件で被殺者 . 名︑大分 事 件では結果的加重犯による被 害 者が 一 名であり︑死の結果に
ついて故意により死亡した被害者は 一 名に留ま っ ている ︒ そのため︑被殺者 二 名の利欲目的の 事 案に比べれば︑死刑は回避されや
加重因子の有無について見ると︑まず︑異なる機会に二名の被害者を死に至らしめており︑同 一 の機会に被害者を死に至らしめ
た 事 例に比べて罪 責 は大きい ︒ しかも︑両 事 件は同種の犯行であ っ て︑両 事 件の間隔は 三 週間余りしかなく︑強い犯罪性が 看 取さ
被 告 人は︑大阪 事 件では 主 導性がある 一 方︑大分事件では従属的であり︑両 事 件で主導性が異な っ ている ︒ また︑大阪 事 件では
殺害の計画性が認められるものの︑大分事件では殺害の計画まで共謀されていない ︒
このように︑両 事 件において共犯の主導性と殺害の計画性の有無がそれぞれ異なっており︑死刑選択に当たってどのように考盛 れやすい ︒
す い
︒ ある ︒
① 概 況
(
1 4
)
一 見すると評価が難しいように思われる ︒ も っ とも︑本件においては︑両事件に通底する性質があり︑ そ れが 事
関 法 第 六 二 巻
一 号
10
件あり︑本件が [ ‑ 件目で
四六
︵︱
二
七︶犯行におけるこうした消極性は︑生命侵害を伴う強盗に関する犯罪性︑共犯における主導性︑殺害の計画性の評価に大きな影響
被告人は︑三週間の間に強盗事件を惹起しており︑生命侵害を伴う強盗に関する強い犯罪性が看取されやすいはずである︒確か
に︑罪名だけを見れば︑強盗殺人並びに強盗致死及び強盗致偏であり︑かかる傾向は容易に窺われそうである︒
ところが︑その犯行の内実を見ると︑大阪事件では︑共謀の内容とは異なり︑被害者を殺害せずに逃走しようとしており︑生命
侵害の点については︑規範の壁をたやすく乗り越えることにためらいがないとまでは言えない︒最高裁判決が判決文の中で紙幅を
第 一
癖 で
無 期
懲 役
が
言 渡
さ れ
︑ 控
諒 囃
で 無
期 懲
役 が
細 持
さ れ
た 事
件 に
対 し
︑ 検
察 官
が 死
刑 選
択 基
準 に
関 す
る 判
倒 遠
反 を
主 眼
し て
上 告
し た
事 倒
四 七
③
強盗に関する犯罪性 を与えると考えられる︒以下︑順に検討する︒ の実行に対して消極的であると評価するのが妥当である︒ 本件において両事件に通底するのは︑犯行における消極性であると考えられる︒言わば︑﹁腰が引けた﹂言動が随所に見受けら れるのである
︒大阪事件では︑共謀の内容とは異なり︑被害者を殺害せずに逃走しようとしている︒大分事件では︑被害者に抵抗されると︑
﹁いち早く屋外に逃げ出し︑共犯者らにも逃走を呼び掛けるなど︑犯行の途中から︑その言動は消極的なものにとどまっている﹂︒
このように︑被告人は︑大阪事件では︑犯行の計画通りに実行するのではなく︑計画よりも抑制的な行動をとっている︒また︑
大分事件にあっては︑現場を離れ︑共犯者に対して逃走を呼び掛けるなど︑自らの犯行の継続を断念するとともに︑共犯者の犯行
の継続を断念させようとしている︒これらを踏まえれば︑殺害を含めた犯行の完遂に対して積極的とは到底一=口えず︑とりわけ殺害 ②
犯 行 に お け る 消 極 性
件ごとに異なる共犯の主導性及び殺害の計画性の有無の評価を整序することとなる︒
︵ ニ
︱
六 ︶
割いているように︑大分事件では︑その傾向はいっそう顕著であり︑被害者の抵抗を受けて︑自らの犯行の継続を断念するととも
に︑共犯者の犯行の継続を断念させようとしており︑ 生 命侵害をむしろ回避しようとしていると言える ︒
このように︑両事件の内容を比較すると︑生命侵害に関する消極性が強まっているのであって︑
生 命侵害に関する犯罪性が窺わ
れたり︑強まったりする傾向は見受けられず︑単なる強盗の限度で犯罪性が窺われるにすぎない
︒
それゆえ︑異なる機会に二名の被害者を死に至らしめたものの︑生命侵害を伴う強盗に関する強い犯罪性が窺われるわけではな
いため︑死刑選択が促進されていないと考えるべきである ︒
本件において︑死刑選択が回避されたのは︑最高裁判決が判決文の中で紙幅を割いているように︑大分事件において従属的で そして︑この従属性は︑共犯者の指示命令に唯々諾々と従うというものではない
︒ すなわち︑現場を離れ︑共犯者に対して逃走
を呼び掛けるなど︑実行行為に関与しようとせず︑﹁腰が引けた﹂関与の仕方となっている︒それゆえ︑従属的な関与の中でも︑
最も従属的な部類に入る︒こうした従属性の程度も死刑選択を回避することに影椰していると考えられる︒
殺害の計画性
大阪事件では殺害の計画性が認められるものの︑大分事件では殺害の計画までは共謀されていなかったことも︑死刑選択が回避
された大きな理由の ︱ つである ︒
大阪事件では︑殺害の計画性があったものの︑共謀の内容とは異なり︑被害者を殺害せずに逃走しようとしており︑殺害の計画 通りに殺害が実行されたわけではなく︑衝動的とも言える殺害の経緯が窺われる︒それゆえ︑殺害の計画通りに殺害が実行された
(5)
あったことが大きく影響していると考えられる︒ ④
共
犯における主導性
関 法 第 六 二 巻
一 号
四 八
二 (
]
五 ︶
* *
各審級の判決において︑被告人が犯行当時少年であったことは直接的又は間接的いずれにおいても︑最刑にほとんど影響してい これは︑既に検討してきたように︑本件は︑結果は重大であるものの︑その内実はこれまで死刑が選択されてきた他の被殺者ニ
名又は 一 名の事案よりも被告人の罪責が小さいことに起因する︒計画性をはじめとする犯罪に関わる面において年齢やその精神的
未熟さを取り込んで評価せずとも︑さらに言えば︑被告人が犯行当時成人であったとしても︑その罪体からして死刑が回避される
事案であったのである︒
それゆえ︑本件だけを見て︑被告人が犯行当時少年であった事案において︑計画性をはじめとする犯罪に関わる面に年齢やその
精神的未熟さを取り込んで評価することがなされなくなったと分析するのは早計である︒
本研究は︑第四
0回︵平成二︳︱‑年度︶公益財団法人三菱財団人文科学研究助成﹁死刑選択基準の変遷に関する総合的研究
裁判員制度の下でのよりよい判断のために﹂による研究成果の一部です︒記して謝意を表します︒
本研究は︑平成二三年度関西大学研修貝研修費によって行いました︒記して謝意を表します︒
第一嘩で無期懲役が言渡され︑拉訴審で無期懲役が細持された事件に対し︑検察官が死刑選択基準に関する判例違反を主
那して上告した事例叩
I J L