水痘抗体価 の動 向
富 山大学保 健管 理 セ ンター杉 谷 支所
松 井 祥 子、 四間丁 千 枝、 島木 貴 久 子、酒 井 渉 、舟 田 久
Shoko n/1atsui, chie Shikencho, Kikuko Shilnaki, ヽVataru Sakai, and Hisashi Funada HRecent Trend of Serurn Antibody Titers against Varicella―Zosterヽたirus in Medical and Pharmaceutical StudentsH
キー ヮー ド
水痘 抗体価 、 医薬 系学部 生、 感染 予 防
要 旨
ウイルス感染予防対策 を目的 として、医薬系 キ ャ ンパ スの新入学生274名を対象 に、4種 ウイルス感 染症 の罹 患 歴 と予 防接種歴 の ア ンケ ー ト調 査 を行 い、 その抗体価 を測定 し、水痘 ウイル スにつ いて 分析 した。 その結果、2008年度 の水痘抗体 陰性率 は IAHA法 にて 29.6%で あ り、 2007年度 の12.2%
に比 し、著 しい増加 をみ た。入学 時の ア ンケ=ト 調 査 で は、 ワクチ ン接種 歴 のあ る学生 の441%が 抗 体 陰性 で あ り、 罹 患 暦 の あ る学 生 の23.6%に も 陰性者 が み られ て いた。新 入学 生 の年 代 は、野 生 株 の ブース ターを得 な い まま青 少年期 を経 過 し、
水痘抗体 価 が減衰 して きた可能性 が示 唆 され た。
成人 の水痘 は、肺炎 な どを生 じて重症化 しやす く、
また感染力 も強 い ことが知 られて い る ことか ら、
今後 、水 痘抗 体価 の動 向 を注意深 く見 守 る必要 が あ る と考 え られ た。
は じめ に
2007年春 に、高校生 や大学生 を中心 と した大規 模 な成 人 麻疹 の Outbreakが 発生 した ことは、記 憶 に新 しい1)。この背景 には、厚生労働省調査で の麻疹予 防接種率 が80%程 度 に しか達 して いな い ため に、成人 で の初感染 が起 こり得 る ことや、予 防接種 によ る麻疹 流 行 の減 少 の結 果 と して野生 株
に よ る ブース ターを得 る機会 が な くな って きた こ とな どが あげ られ た2)。そのため、全国規模での 麻 疹 対 策 が 開始 され、 2006年6月 か ら麻 疹 風 疹 混 合 ワクチ ンを用 いた 2回 接 種 法 の開始 と、 2008年 4月 か ら5年 間の時限措 置 と して、 中学 1年 生 と高 校 3年生 に接 種 の勧 奨 が行 わ れ るよ うにな った。
この政策 で、2012年には麻疹排 除 に向 けた 目標達 成 が な され る もの と考 え られ る。
一方、他の感染症 はどのような動向であろうか。
我 々 は医薬 系学 部 の大学生 へ の感染予 防対策 と し て、毎年、大学 入学 時 に小児 ウイル ス感染症 (麻 疹、風疹、 ム ンプス、水痘)の 既往 や ワクチ ン接 種 につ いて の ア ンケ ー ト調査 と、 それ ら感 染症 に 対 す る血 清抗体 価 測定 を行 って い るが、 2008年度 は、水痘 ウイルス抗体 を持 たない学生 が増 えて き て い る傾 向がみ られてお り、 その現状 を報告 し今 後 の対策 を考 え たい。
対 象 と方法
富 山大学 医薬系 キ ャ ンパ スの医学部 医学科、看 護学科、薬学部薬学科、創薬学科 の2008年度新入 生 (編入生 を含 む) 計 274名 (男性 124名、女性 150名)を 対象 に、 水痘 感 染症 に関 す る罹患歴 ・ 接種 歴 の ア ンケ ー ト調査 を行 い、 その血清抗体価 を測定 した。測定法 は、免疫付着赤血球凝集反応
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図 1 水 痘抗体保有者数 と抗体価
<4 x4 x8 x16 x32 x64 x128
抗体 1 面
法 (IAHA法 )を 用 い、 抗 体 陰性 者 の判 定 基 準 は4倍未満 と した。
ア ンケー ト調査 の方法 は、入学 時 に提 出す る書 類一式 と して保護者 に送付 し、母子手帳等 による 確認 の後、 ワクチ ン接種歴 や罹患歴 を記入 す るよ うに依頼 した。入学後 に各種 ウイルス感染症 に関 す る抗体価測定検査 の申込書 とと もに、 ア ンケー
ト用紙 を回収 した。
水 痘罹患 歴 ・ワクチ ン接 種歴 によ る抗体 価 の差 異 は、 Kruskal Wallis検 定、 Mann―Whitney検 定 を用 いて検討 を行 った。
結果
1.水 痘抗体 の保有率 につ いて
2008年度 に水痘抗体 陽性者 は、 193名 (70.4%)、
陰性 者 は81名 (29.6%)で あ った。 抗 体 陽 性 者 の 表 1 ワ クチ ン接 種歴 ・
抗 体 価 は I A H A 法 にて4 倍が1 0 7 名 ( 3 8 . 0 % ) 、8 倍56名 (20.4%)、 16倍25名(9.1%)、32倍3名 (11%)、
64倍 0名 (0%)、 128倍 2名 (0.7%)で あ り、 4〜 8 倍 の抗 体 保有者 が多 か った (図 1)。
2.水 痘 に対 す る抗体 陰性率 の推移 について 当キ ャンパ スにお ける水痘抗体陰性率 について、
測 定 を開始 した2003年度 か ら2008年度 まで の経 時 的変 化 を図 に示 す (図 2)。 抗 体 陰性 者 は、 2006 年 度 まで は1〜3%台 で あ ったの に対 し、 2007年度 は12.2%、 2008年度 は29.6%とな って お り、 最 近
2年 間で急激 な上昇 を認 めていた。
3.ア ンケ ー トの調査結果 と水痘抗体価
入 学 時 の ア ンケ ー ト調 査 にて、 「ワクチ ン接種 歴 あ り」 と答 え た もの は、 59名 (215%)、 「罹 患 歴 あ りJと 答 えた もの は178名 (65.0%)、「ワクチ ン接種 も罹患 もな し」 が22名 (8%)、不 明 は35名 (12.8%)で あ った。 ア ンケ ー ト調 査 と水 痘抗 体価 の分布 を表 に示 す(表 1)。
罹 患歴 と水痘 抗体 価 の分 布
2∞3年度 2004年 度 2005年 度 2006年 度 2∞7年度 2∞ 8年度 年度
棒 薔 膠 罹 島 歴 合 計 ( 名〕
あ り 1 ̀
あ り 423,
不 明 6
不 明 1531
0 8
不 明 不 明 3
合 計 (名) 3 274 100,
アンケートロ査
非感 受性 者 感 受 性 者 不 明 合 計
抗体 154 502%
03 23"
︲5 7 鮮 弔 眺
︲ 9 3
8 ︲
合 l l 217 792% 22 8 35 128■ 274 100
表 2 ア ンケー ト調査結果 と抗体 の比較
表 3 ワ クチ ン接種 歴 ・罹 患歴 による抗体 判定 の 差 異
表 4 接 種 歴 ・罹患 歴 の有無 と 4群 間 の多 重比較
(n=196)
接種( ■) 罹患( ―)
接種(―) 罹患(+)
接種( ―) 罹患( ¨) 接種(+)
罹 患(+) 1000 0045
0.629
接種(+)罹患(―)
0002・
カ
0121 接種( ―)罹患( + ) 0506
M a n n ―W h i t n e y 検定 ( B o n f o r r O 面の不等式による修正後) I t p く0 1
大学入学時のア ンケー ト調査が、 どの程度正確 に水痘 の免疫状態を反映 しているかを検討 した と ころ、「罹患歴 あ り」 もしくは 「ワクチ ン接種歴 あ り」 の く非感受性者〉 は217名、「罹患歴 な し」
で 「ワクチ ン接種歴な し」の 〈感受性者〉 は22名、
「不明」 は35名であ った (表 2)。 非感受性者 にお け る抗体 陽性者 は154/217名 (710%)で あ り、
罹患歴や接種歴があ って も明 らかに抗体が陽性 と 判断できるものは約 7割 にとどまっていた。
また、接種歴 ・罹患歴 いずれか、 もしくは双方 とも不明である者 を除 き、 「接種歴 あ り 。罹患歴
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あ り」「接種歴 あ り 。罹患歴 な し」「接種歴 な し 。 罹患歴あ り」「接種歴な し 。罹患歴 な し」 の4群間 での抗体陰性者 について比較検討 を行 った。 その 結果、「接種歴 あ り ・罹患歴 な し」群 の抗体陰性 者 の割合 は52.6%と高率 で あ り、 「接種歴 な し 。 罹患歴あ り」群 に比べて有意 に陰性率が高か った
(表 3,4)。
考察
水痘や帯状疱疹の原因 は、水痘帯状疱疹 ウイル ス (varicella zoster宙rus)で ある。空気感染で 広が り、感染力 は非常 に強い。約 2週 間の潜伏期 間ののち、水庖で発症 し、発疹が痴皮化す るまで 伝染力がある。VZVの 初感染像 は水痘であるがヽ VZVは 知覚神経節 に潜伏感染 し、宿主 の免疫低 下状態 に伴 って再活性化 され、知覚神経 に沿 って 帯状疱疹 として発症す る。
水痘 は感染症法 で は 5種 感染症定点把握疾患 (約3000箇所 の小児科定点)で あ り、国立感染症 研究所感染症予防セ ンターによれば、年間25万〜
28万例の定点患者報告数があ り、 ここ数年大 きな 変動 はみ られていない3)。罹患年齢 は小学校入学 前、最近 で は 5歳 以下 が90%を 占めている4)。ち なみ に富 山県感染症情報 セ ンターの調査 で は、
2008年1月か ら12月までの1年間の定点患者報告数 は1,946例で あ り、 15歳以上 は6例 の報告 が あ っ た5)。
水痘予防のために、1974年に岡株水痘生 ワクチ ンが開発 され、1987年か ら任意接種 ワクチ ンとし て有料で接種可能 になった。発熱などの副反応が 少な く、安全性 の高 いワクチ ンとして世界中で使 用 され るよ うにな り、現在我が国では、約30%が 任意接種を受 けているとされ る。
しか し、水痘 ワクチ ンは定期接種対象疾患では ないため、その抗体保有率 に関す る全国調査 は行 われていない。国立感染症情報セ ンターによれば、
2001年に行われた大阪大学附属病院の新人医療従 事者 に271名における水痘抗体保有率 の調査ではt 水痘抗体陰性者 は4.4%であ った6)。また2004年の 久留米大学の報告では、医療系学生1139名中、水
(Kruskal Wa‖s検 定 による n=196)
り し り し あ な あ な り り し し あ あ な な
5 250%
20 526%
29 2500/0 7 3 1 8 0 / 0
X 2 = 1 0 . 5 3 , p < . 0 5
14
痘抗体陰性者 は64%で あ り7)、90%以 上抗体保有 を しているとの報告が見 られている。我々の調査 で も、2006年までは抗体陰性者 は数%に とどまっ てお り、同様 の傾向であ った と考え られるが、 こ の2年間で急速 に抗体陰性者が増加 している。 こ の現象をどのように考え るべ きだろ うか。
本邦 において水痘 は、例年野生株が季節的に流 行す るため、 その ブースター効果が ワクチ ンの免 疫を維持 していたと考え られる。 しか しその水痘 の発症す る年代層が、 1980年台前半 には5歳以下 が約60%と 比較的高学年の学童 に も流行が見 られ ていたが、徐 々に低年齢化 し、1990年代半 ばには 5歳以下が90%を 占め るよ うにな って きた8)。今 年度の入学生 は、その流行年代層がかわ りつつあ る時期 に小児期 を過 ごしている。すなわち、水痘 の流行が低年齢化 し、10歳前後 に野生株の流行 に よるブースターを得ないまま成長 した年代 の 「は しりJと とらえることができる。我々の調査にて、
とくにワクチ ン接種の集団が水痘罹患歴を もつ集 団に比べて、有意に抗体陰性率が高か ったことは、
ワクチ ン接種で得 た抗体 の減衰が、罹患者のそれ より著 しい ことを示 していると考え られた。
水痘 ワクチ ンは、抗体陽転率 は約95%と されて いる。 しか し、最近 の米国の調査では、 ヮクチ ン 接種か らの年数が経つ ほど、中等度以上の水痘 の 発症が、有意 に増加す ると報告 された9)。そのた め米国で は、 1歳以上 の全員 に水痘 ワクチ ン接種 を行 っていたが、二次性 ワクチ ン不全を防 ぐため に、2007年よ り12〜15ヶ月時 と4〜6歳時の2回接 種法を施行す ることとな った。 また、高齢者 の帯 状疱疹予防効果を期待 して、2006年か ら60歳以上 の高齢者 に水痘 ワクチ ン (ZOSTAVAX)が 認可 された1のlD。
今回の調査では、1990年前半 に水痘 ワクチ ン接 種 もしくは罹患 して免疫を獲得 した集団が、その 後 にブースターを得 ないまま成長 し、抗体価の減 衰 につなが っている可能性が示唆 された。一般的 には、 ある集団 において感染症対策を実施す る場 合、抗体保有率が95%で 流行が防げるとされてい る。麻疹 と同様 に、outbreakを 起 こさないため
にも、今後 の水痘抗体価の推移 を注意深 く見守 る 必要があると考え られた。
結語
麻疹、新型 イ ンフルエ ンザをは じめとす る様 々な 新興 。再興感染症が、マスコ ミで報 じられている。
大学 において、学生 の感染症の罹患歴や ワクチ ン 接種歴の確認 し、抗体価の有無や感染症の動向を 知 ることは、感染予防を行 う上で きわめて重要で ある。有効 な感染予防対策 をすみやかに行 うため にも、抗体価の継続調査 は必須 と考え られ る。
参考文献
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「我が国の健常人 にお ける麻疹 PA抗 体保有 率」.
http://idsc.nih.go jp/disease/measles/index html 2 ) 岡 田晴恵 成 人麻疹 総 合臨床2003:52:234
2 3 9
3 ) 国 立感染症研究所感染症情報 セ ンター. 「水 痘 過去1 0 年間 との比較 グラフ ( 週報) 」 http://idsc nih gO ip/idwr/kania/
weeklygraph/05varicella htrnl 4)国 立感染症研究所感染症情報 セ ンター.「水
痘患者の年齢分布」
http://idsc nih go jp/iasr/25/298/graph/
f2982j.gif 5 ) 富 山県感染症情報 セ ンター 「 富山県内過去
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http://www preftoyama.ip/branches/1279/
kansen/ih310400 htm 6)国 立感染症研究所感染症情報 セ ンター 「新
人医療従事者 における水痘抗体保有率サーベ イとワクチ ン接種対策の評価」
http://idsc nih go」p/iasr/25/298/di2985 html 7)吉 田典子,津 村直幹,豊 増功次,他 .医 療系
大学 ・専門学校学生 における麻疹 ・風疹 ・ム ンプス ・水痘 の血清抗体価 の検討 産 業衛 生学雑誌2007:49:2126
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