植 田 敦 紀
*コーポレートガバナンス・コードと株主総会
―持続的価値創造に向けた企業と投資家との対話―
目 次 1.はじめに ―スチュワードシップ・コードの制定による企業の持続的成 長の翼成― 2.コーポレートガバナンス・コードの制定 3.株主総会の変遷 3.1 総会屋が仕切るシャンシャン総会 3.2 1981年(昭和56年)商法改正 3.3 議長の議事整理権行使 3.4 一括上程審議方式 3.5 一般株主対応型株主総会 4.コーポレートガバナンス・コードと株主総会 4.1 【基本原則1】「株主の権利・平等性の確保」 4.1.1 【原則1-1】「株主の権利の確保」 4.1.2 【原則1-2】「株主総会における権利行使」(【基本原 則3】「適切な情報開示と透明性の確保」を含む) 4.2 【基本原則5】「株主との対話」 5.おわりに ―企業の持続的価値創造に向けた会計の役割― 1.はじめに ―スチュワードシップ・コードの制定による 企業の持続的成長の翼成― 2014年2月に金融庁より『「責任ある機関投資家」の 諸原則《日本版スチュワードシップ・コード》~投資 と対話を通じて企業の持続的成長を促すために~』 (以下,スチュワードシップ・コード)が公表され た。これは,株式会社の株式を保有する機関投資家は 委託者としての利益を実現すると同時に,投資先企業 の持続的成長に向けて積極的な役割を果たす責任があ ることを示唆した行動規範である。このことは,サブ タイトル~投資と対話を通じて企業の持続的成長を促 すために~において明文化されている。つまりスチュ ワードシップ・コードの目的は,機関投資家を規制す ることにより顧客・受益者の中長期的な投資リターン の拡大を図ると同時に,投資先企業の持続的成長を促 すものであり,企業の持続的成長と中長期的な価値向 上に資する双方向の建設的な目的を持った対話(ス テークホルダー・エンゲージメント)を要求するもの である。 ステークホルダー・エンゲージメントとは,ISO26000: 2010, Guidance on social responsibility1,『国際
規格「社会的責任に関する手引き」』において明確に された概念であり,当規格において次のように規定さ れている。「組織の決定に関する基本情報を提供する 目的で,組織と一人以上のステークホルダーとの間に
出所:資生堂[2016]pp.94-95
企業の判断が重視され,各企業がガバナンス情報をは じめとする様々なサステナビリティ情報を最善の方法 で開示することが求められている。そこでは,ガバナ ンス構造の変化がサステナビリティ情報に及ぼす影響 を明らかにし,サステナビリティ情報が ESG 投資に 及ぼす影響を明確にする必要がある。企業がサステナ ビリティ戦略を実施していくための戦略的サステナビ リティ情報開示モデルを体系的に構築し,サステナビ リティ情報を総合的に評価していくための会計制度が 必要となる。具体的には財務報告,アニュアルレポー ト,サステナビリティ報告,統合報告などにおいて開 示が試みられ,さらに効果的な情報開示の開発がすす められている。 企業はコーポレートガバナンス・コードとスチュ ワードシップ・コードを受け入れ,両コードはサステ ナビリティ情報開示とその利用を進める新たな社会制 度として位置付けられた。企業は新たに設定された2 つのコードの下で,様々な情報開示ツールを体系的に 機能させ,効果的なサステナビリティ情報開示を実行 していかなければならない。社会の変化によって法律 や規範が見直され,本稿でみてきたように成長戦略を 見据えた新たなコードが策定された。それに伴い新た なアカウンタビリティが求められ,情報開示モデルが 開発され,伝統的な会計制度やその運用を変えていく 必要が起きている。法律や規範の変化は会計制度を現 代の環境に見合ったものにする変化であり進化であ る。社会が変化し,コーポレートガバナンス・コード が策定され,企業と投資家の価値判断・行動様式が変 化してきた今,会計制度がそれに柔軟に対応していか なければ社会の実態と会計の間にずれが生じてしま う。これまで会計は権威あるものとして信頼を得て発 展してきた。今後も社会の変化に柔軟に対応し,正し い経済実態を表すという会計の役割・機能を十分に果 たしていくことを展望する。 注
11 日本経済新聞(2016年4月25日付朝刊)より。 12 ROE=1株当たり利益(EPS)/1株当たり株主資本(BPS) 企業の収益性を測る指標であり,株主資本が企業の利益にど れだけつながったのかを示す。ROE が高いほど株主資本を 効率よく使って利益を上げており,経営効率が良い。逆に ROE が低い企業は株主資本を効率よく使えておらず,経営 効率が悪い。これは企業価値にも影響することが考えられ る。 13 アクティビスト(activist)とは,株式を一定程度取得し た上で,その保有株式を裏づけとして投資先企業の経営陣に 積極的に提言を行い,企業価値の向上を目指す投資家のこと をいう。いわゆる「物言う株主」で,経営陣との対話・交渉 のほか,株主提案権の行使,会社提案議案の否決に向けた委 任状勧誘等を行うことがある。最近では株式の保有割合が低 くても,投資先企業に積極的に提言を行うケースがみられ る。 14 前掲 URL 参照。 15 昭和56年6月3日成立,6月9日公布,昭和57年10月1日施 行。主な骨子は,1.株式制度の合理化…(1)株式単位を5 万円に引き上げ,(2)単位株制度・端株制度の導入など, 2.監督制度の強化…(1)議案提案権,取締役の説明義務, 総会決議無効・取り消しの訴え,(2)総会屋排除のため,株 主への利益供与の禁止,(3)取締役会・監査役の監督権限強 化,3.株主・会社債権者に対するディスクロージャー,4. 新株引受権付社債の新設,5.商法特例法の大会社の範囲拡 大…資本額のほかに,負債総額も基準にする。(下線は筆者) 16 最判平成8年11月12日(損害賠償請求事件)。判時1598号 152頁,判夕936号216頁,金判1018号23頁。 17 これと対立する手法を「個別上程審議方式」という。それ までの審議方法は,ほとんどの会社が報告事項と決議事項を 区別して上程し,それぞれを個別に質疑または審議する方式 をとっていた。この方式では,決議事項が複数あれば個別の 議案ごとに審議を行って採決を行い,順次,次の議案へ進む という手順がとられる。 18 平成9年11月28日成立,12月23日施行。主な骨子は,1.利 益供与罪の厳罰化…総会屋根絶のために,法定刑の引き上げ のほか,利益要求罪・威迫利益要求罪を新設。 19 その後の2000年(平成12年)商法改正では,子会社の利益 供与も禁止した。 20 三井物産では,当連結会計年度より EBITDA を用いて経 常的な収益力を測定している。EBITDA は連結損益計算書上 の売上総利益,販売および一般管理費,受取配当金,持分法 による投資利益,ならびに連結キャッシュフロー計算書の減 価償却費および無形資産等償却費の合計として算定してい る。 21 トラスコ中山 http://www.trusco.co.jp/ir/meeting.html (2016年5月13日アクセス)参照。 22 2017年4月1日付で社名(商号)を「株式会社 SUBARU」 に変更することが決議された。 23 日本経済新聞(2016年1月6日付朝刊)より。 24 環 境 ( E n v i r o n m e n t ), 社 会 ( S o c i a l ), 企 業 統 治 (Governance)に配慮している企業を重視・選別して行う投 資。国際連合が2006年に投資家がとるべき行動として責任投 資原則(PRI:PrinciplesforResponsibleInvestment)を打 ち出し,ESG の観点から投資するよう提唱したため,欧米 の機関投資家を中心に企業の投資価値を測る新しい評価項目 として関心を集めるようになった。従来の社会的責任投資 (SRI)が環境・社会等の活動が優れた企業を投資家が応援 しようという発想だったのに対し,ESG 投資は環境,社 会,企業統治を重視することが最終的には企業の持続的成長 や中長期的な価値向上につながり,財務諸表などからはみえ にくいリスクを排除できるとの発想がある。 主要参考文献・資料