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身体運動が認知機能に及ぼす影響 The Influence of Physical Exercise on Cognitive Function

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Academic year: 2021

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早稲田大学審査学位論文 博士(スポーツ科学)

概要書

身体運動が認知機能に及ぼす影響

The Influence of Physical Exercise on Cognitive Function

2016年1月

早稲田大学大学院 スポーツ科学研究科

べ ソンリュウ BAE, SEONGRYU

研究指導教員: 正木 宏明 教授

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1 研究背景および目的

一過性有酸素運動の効果を検討した従来の研究では、実行機能を構成する 3 つの下位機 能(認知的柔軟性、ワーキングメモリ、抑制)について別々の実験で検証したため、一過 性運動の強度や時間、種類、認知課題開始時間といった実験変数が統制できていなかった。

習慣的身体運動の効果を検討した研究では、習慣的身体活動の評価を質問紙または心肺能 力で行ってきたため、認知機能向上に必要とされる日常の身体活動量が明らかにされてい なかった。本研究では、これらの問題点を改善した実験計画で検証することが必要である と結論づけた。一過性運動と習慣的運動の二つの視点から若年者と高齢者における身体運 動が実行機能に及ぼす影響を特に脳内情報処理過程に着目し事象関連電位(event-related potential: ERP)によって多角的に検討することを目的とした。

研究内容と成果

第 2 部「若年者における一過性有酸素運動が実行機能の異なるタイプに及ぼす影響」で は、実行機能を構成する 3 つの下位機能それぞれに対する一過性有酸素運動の効果を明ら かにすることを目的とし、以下の研究課題を設けた(研究課題1, 2, 3)。

研究課題 1から研究課題3までは、健康な大学生を対象とした。認知課題以外の実験手 順は同様であった。本実験は、安静条件と運動条件からなり、安静条件では、30 分間の座 位安静を取ってもらった。運動条件では、運動負荷試験によって得られた最大心拍数 (HRmax)を用い、各自のHRmaxの70%強度でトレッドミル運動を30分間行った。

研究課題1として、一過性有酸素運動が「認知的柔軟性」に及ぼす影響を検討した。2つ の異なるルールを持つ刺激がランダムに提示されるタスクスイッチング課題を用いた。そ の結果、反応時間とP3 潜時における混合コストが減少するだけでなく、反応時間、P3 潜 時およびP3振幅における切り替えコストも減少した。これらの結果から、一過性有酸素運 動によって課題セットの再構築処理が促進され、課題切り替えに柔軟に適応できるように なることが示された。

研究課題 2 では、一過性有酸素運動が「ワーキングメモリ」に及ぼす影響について検討 した。記憶刺激(3、5、7個の大文字アルファベットをランダム提示)を覚え、続いて提示さ れるプローブ刺激が記憶刺激の文字列に含まれているかないかをボタン押しで反応した。

その結果、反応時間と正答率、P3潜時のいずれにも一過性運動の効果は認められなかった。

しかしながら、P3 振幅は運動を実施しない安静条件に比較して 30 分間有酸素運動を実施 した運動条件のほうで大きかった。したがって、若年者は一過性有酸素運動を遂行するこ とで、メモリ探索に対して刺激評価時間を変化させずに、注意資源をより多く配分できる ようになることが示唆された。

研究課題 3 では、一過性有酸素運動が「抑制」および反応処理系に及ぼす影響について 検討した。認知的葛藤課題であるフランカー課題を用いた。両手をクロスして反応する

Cross条件と、クロスせず反応するNon-cross条件を設けた。その結果、一過性運動の効果

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として反応時間とP3潜時の短縮およびP3振幅の増大が認められた。一過性有酸素運動の 遂行によって、必要な情報に対して選択的に注意を向け、不必要な情報を抑制する機能が 向上することが示された。反応選択に関わる刺激同期LRP潜時が安静条件よりも運動条件 のほうで短縮した。一方、反応実行に関わる反応同期LRP潜時は、Non-cross条件よりも

Cross条件のほうで短縮した。これらの結果から、一過性有酸素運動の遂行によって反応処

理系のなかでも反応プログラミング段階の処理が速まることが示された。

第 3 部「高齢者における習慣的身体運動が認知機能に及ぼす効果」では、日常身体活動 の遂行が高齢者の認知機能に及ぼす影響を明らかにするために以下の研究課題を設けた(研 究課題4, 5)。

研究課題 4 として、加速度計付き歩数計により客観的に計測した日常身体活動量と反応 抑制制御との関係をNo-go N2とNo-go P3成分によって検討した。結果、No-go N2は身 体活動量との関係を示さなかったが、身体活動量の多い群では少ない群に比べてNo-go P3 の振幅が大きかった。また、No-go P3振幅と歩数および中等度強度以上の身体活動時間と の間には正の相関関係が認められた。これらの結果から、日常身体活動量の違いが反応抑 制の制御に関係することが明らかになった。この関係は、反応プログラミング段階での抑 制よりも反応抑制結果に対するモニタリングに鋭敏に現れることが示唆された。

研究課題 5 では、高齢者の日常身体活動量の違いが注意および反応処理系に及ぼす効果 について検討した。その結果、身体活動量の多い群では少ない群よりも反応時間とP3潜時 が有意に短く、正答率も高かった。P3振幅は身体活動量の多い群で増大した。習慣的身体 活動は、注意を向けるべき標的刺激に対して注意処理資源を動員するように働き、認知的 葛藤を内包する刺激の評価速度を促進させることを示している。さらに、身体活動量の多 い群では、刺激同期と反応同期LRP潜時に短縮が認められ、高齢者における習慣的身体活 動が反応選択や反応実行といった反応処理系にも影響することが明らかになった。

結論

本研究より、若年者を対象とした場合には、中等度強度(70%HRmax)での30分間の有酸 素運動は、実行機能の 3 つの下位機能(認知的柔軟性、ワーキングメモリ、抑制制御)を 向上させること、前頭前野の担う実行機能だけでなく一次運動野の担う反応プログラミン グも向上させることが明らかとなった。高齢者の場合、一日当たりの 1 万歩以上の歩行を 実践している者は、反応抑制制御と注意機能が良好であることを明らかにできた。一過性 運動の積み重ねによって身体運動は習慣化するが、一過性運動と習慣的運動ではその効果 の背景メカニズムは異なっている可能性があり、現状では両効果を直接結びつけることは できない。本研究での一連の実験から得られた知見は、認知機能に及ぼす身体運動の効果 を解明する一助となるものであり、健康・スポーツ科学の研究を発展させる重要なエビデ ンスを提供するものと考えられる。

参照

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