1 東京理科大学Ⅰ部化学研究部 2013 年度実験計画書
逆ミセルによる
変性タンパク質のリフォールディング
土曜班 Masanori.N(3K) 1.要旨 細胞膜の主成分であるホスファチジルコリンを両親媒性分子として使用した逆ミセルを 形成し,その空間を変性タンパク質の折り畳みの場として利用したリフォールディング法 の開発を試みた.モデルタンパク質としては卵由来のアルブミンを使用し,これを塩酸グ アニジン 7.0 M,2-メルカプトエタノール 0.28 M で変性した後,逆ミセル内に封入,次い で還元剤としてシスチンを含む水相にアルブミンを抽出し,ブロモクレゾールグリーン (BCG)と複合体を形成させた上で,比色定量を行なった.結果,逆ミセル内に保持した時間 が 1.5,2.0,12.0,13.0 時間の順に理論式から得られたリフォールディング率は 170,160, 210,200 %となり,異常値を示した.これを土曜班はアルブミンと BCG の複合体の発色 を強めた因子としてホスファチジルコリンの複合体への吸着などが関与しているのではな いかと考えた.このことから本実験の手法では正確なリフォールディング率を定量するに 至らず,定量法の改善が必要であるという結論に至った. 2.諸言 近年,遺伝子組換え技術の発展に伴って開発された組換えタンパク質の調製システムは, さまざまな宿主を用いた発現系あるいは無細胞タンパク質合成系により目的の機能をもつ タンパク質を大量に調製することが可能であり,簡便かつ安価であるので,研究だけでな く工業的にも広く用いられている.ところが,このような生細胞発現システムにおいて, 目的タンパク質が大量に発現してしまうと,菌体内で非天然型の不活性な凝集体,いわゆ る inclusion body の形成が起こり,可溶性画分として得られないことがしばしばある1). 一般に,inclusion body を可溶化するためには,高濃度の強力な変性作用をもつ物質(塩酸グ アニジンや尿素など)が用いられ,そこから可溶化剤(変性剤)を除去することにより,タン パク質の折りたたみ反応(リフォールディング)を進める.その方法として,工業的には希釈 法や透析法が広く用いられている.希釈法の場合は,可溶化剤の変性作用が働かなくなる まで溶液を大希釈し,それにより変性タンパク質の自発的な折りたたみを促進する手法で あるが,急激な希釈はタンパク質を取り巻く可溶化剤を除去し,分子間の疎水性相互作用 を促進してしまうことがあり,高効率のリフォールディング操作が行えない場合がある. 加えて,必要とされる希釈倍率は数十から数百倍であるため,工業的スケールでリフォー2 ルディング操作を行う場合,莫大な量の溶液を要するだけでなく,その後の濃縮操作が必 要となる.一方,透析法の場合は,可溶化剤の濃度をゆっくり低下させることができるが, タンパク質をより長く折りたたみ中間状態に置くこととなり,折りたたみ中間体から凝集 に向かいやすいタンパク質の類は,添加剤を加えるなどの工夫をしない限り,再凝集を抑 制できないという問題がある2) . 現在,これらの問題に際して,透析法や希釈法に代替する新たなリフォールディング法の 開発が望まれており,ベシクルや逆ミセル,有機ナノチューブゲル3)などのナノ集合体内部 に変性タンパク質を隔離してリフォールディングを促進する技術開発が行われているが, いまだ工業的規模での実用化の段階には至っていない. ところで,生体内ではアンフォールドなタンパク質の折りたたみを介助するシャペロニ ンというタンパク質群が存在し,これがポリペプチド一個体をナノ空間に隔離して,フォ ールディングのための安全な空間と時間を提供している.そこで土曜班は,リン脂質を用 いた逆ミセルの閉鎖的なナノ球状空間に着眼し,シャペロニンの内部環境を模倣した逆ミ セル場を利用した新規リフォールディング法の開発を試みた. 3.原理 3.1 シャペロニンの構造と作用機構4),5)
Fig.1 に大腸菌由来のシャペロニン GroEL/GroES の立体構造を示した.GroEL は 7 つの サブユニット(分子量 57 K)からなる洞穴状のリングが互いに出入り口を背に結合した十四 量構造をとっており,リングの内径は約 45 Åである.尚,リングが形成する空間は上のリ ング(シスリング)と下のリング(トランスリング)の 2 カ所に位置しているが互いに行き来す ることはできない.構造は大きく分けると,フォールディング中の基質タンパク質や GroES と相互作用する頂上ドメイン,ATP と結合して加水分解する赤道ドメイン,これらのドメ インをつなぐ中間ドメインの 3 つからなる.一方、GroEL の補佐役となる GroES は分子量 10 K のサブユニットの七量体でドーム状の構造をとっており,複合体では蓋の役割を果た している. Fig.2 に GroEL/GroES の作用機構の概略図を示した.まず変性タンパク質の疎水性領域 及び水素結合のドナーやアクセプターが GroEL の頂上ドメインに結合した後,ATP の結合 とともに GroES が頂上ドメインに結合してシス型三者複合体を形成する.次に ATP が加水 分解され,GroEL と GroES で囲まれた“ゆりかご空間”に変性タンパク質が放出される. この密室は 50~60 K の分子量のタンパク質を収容できるほど大きく,内壁はタンパク質に やさしい親水性のアミノ酸残基で覆われている.この空間内で変性タンパク質が正しく折 り畳まれた後,新たな ATP がトランスリングに結合し,GroES の蓋が開き,活性を取り戻 したタンパク質が徐放される.
3 (A) GroES (B) GroEL GroEL 33Å 80Å 71Å 3.2 逆ミセル中でのリフォールディングとその狙い 本研究では,両親媒性分子が溶解した油相中に変性した卵白アルブミンを含む水滴を滴 下し,1~100 μ オーダーの水滴を安定な状態で油中に分散させることで逆ミセルを形成す る.次いで所定時間静置し,逆ミセル中でリフォールディングを行なった後,油相と還元 剤を含む水相を混合することで水相中にアルブミンを抽出することを狙う 6). 両親媒性分子として使用するリン脂質は細胞膜の構成成分の大部分を占めており,Fig.3 に示すような脂質二重層を形成している.その他の成分の一例としては膜タンパク質があ り,膜を完全に貫いている膜内在性のものや疎水性相互作用や静電相互作用により膜表面 に一時的に結合している表在型のものがある.膜内在性タンパク質の膜貫通部位の多くはα ヘリックス構造をとっており,ロイシン,アラニン,メチオニンなどの疎水性残基を主な Fig.2 GroEL/GroES の作用機構5) 変性 タンパク質 ATP GroES
ATP ATP ADP ADP
ATP ADP ATP ATP Fig.1 大腸菌のシャペロニン複合体(GroEL/GroES)の構造 (A)横から見た図.(B)上から見た図. 変性処理 n 1 =ε A1 V d n 2 =ε A2 V d n1 n2 (n 1 n2) V d v 一部 吸光度測定 一部 吸光度測定 V d 溶液の容積Vd 逆ミセル の作製 活性タンパク質 変性タンパク質 v 1 n 2 V d v
4 構成要素としているため,脂質二重層の疎水性領域を横断することができる. 細胞膜に存在する膜内在性のタンパク質はその α へリックス部位の長さが脂質二重層の 疎水性部分の長さと一致する必要が生じるが,逆ミセル中では α へリックス部分が油相中 に飛び出すことができるため,本来膜内在性のタンパク質でない卵白アルブミンに関して も膜の構成要素としてふるまう可能性がある.このような期待から,α へリックス構造の形 成の促進および,膜内に隔離することによるタンパク質同士の吸着の抑制を狙い,変性タ ンパク質のリフォールディングを試みた. 3.3 タンパク誤差法7) アルブミンはブロモクレゾールグリーン(BCG),ブロモクレゾールパープル(BCP)などの pH 指示薬と特異的に結合し,溶液の pH 変化がないにもかかわらず,色調が変化する現象(タ ンパク誤差)を起こす.これらの pH 指示薬は溶液の真の pH 値よりも高い pH 値を示すが, このときスペクトルは溶液中のアルブミン量の増加に伴い,吸収極大を徐々に低下させな がら長波長側に移行していく(Fig.4).すると、一見乱雑なスペクトルの重なりが現れたかの ように見えるが,ある測定波長では,濃度の増加に伴い吸光度が増加する関係が成立して いる.この関係を利用して活性アルブミンの定量を行う方法をタンパク誤差法という. Fig.3 膜内在性タンパク質と逆ミセル内に取り込まれたタンパク質のふるまい
NH
3+COO
-Water
Oil
COO
-NH
3+糖鎖
Water
Water
5 BCG 法はアルブミン以外にグロブリンとも反応してしまうため,特異性に問題があること が指摘されているが,BCP 法に比べて検出感度が高いという長所がある.本研究では,試 料として卵白アルブミンのみを希薄な溶液として使用し,比較的高い感度を必要とするた め,Fig.5 の反応を利用した BCG 法を採用して比色定量を行なった. Fig.5 BCG 法によるアルブミンの測定 Br O Br Br O H Br SO3 -NH3+ CH3 CH3 Albumin pH3.6 Albumin Bromocresol green: BCG (Yellow) (Green-blue) CH3 O Br OH Br Br O H Br S O O CH3 Fig.4 BCG に様々な濃度のアルブミンを加えたときのスペクトルの変化
Wavelength /nm
Ab
s
o
rb
a
n
ce
レッドシフト (深色移動) 吸光度の増加 濃度増加に伴う6 4.実験方法 4.1 使用器具および器材 メスフラスコ,ビーカー,駒込ピペット,パスツールピペット,バイオプシー瓶,プラス チックセル,ホールピペット,安全ピペッター,マイクロピペッター,pH メーター,分光 光度計(V-660),ドラフト 4.2 試薬 軽質流動パラフィン,アルブミン(卵由来),塩酸グアニジン(変性剤),2‐メルカプトエタノ ール(還元剤),シスチン(酸化剤), BCG(Bromocresol green), PC (Phosphatidylcholine,グリセリンを含むソフトジェルカプセルを使用) クエン酸,リン酸水素二ナトリウム十二水和物,エタノール Fig.6 PC の構造 CH2CH2 O -O O P O CH2 CH2 O O CH O O N+ CH3 CH3 CH3
7 4.3 実験操作 4.3.1 緩衝液の調製 1) pH メーターの二点校正を行なった. 2) ビーカーにクエン酸 1.92 g を秤量し,イオン交換水 100 mL を加えて 0.1 M クエン酸溶 液を調製した. 3) ビーカーにリン酸水素二ナトリウム十二水和物 3.58 g を秤量し,イオン交換水 50 mL を加えて 0.2 M リン酸水素二ナトリウム溶液を調製した. 4) pH メーターを用いて溶液の pH を測定しながら,0.1 M クエン酸溶液の入ったビーカー に駒込ピペットで 0.2 M リン酸水素二ナトリウム溶液を滴下していき,pH3.6 の緩衝液を 調製した. 4.3.2 発色試薬の調製 1) ビーカーに BCG 0.349 g を秤量し,ホールピペットでエタノール 5.0 mL を加え溶解し, 500 mL メスフラスコでメスアップして 1 mM 色素溶液を調製した. 2) 100 mL メスフラスコにホールピペットで緩衝液 50.0 mL と色素溶液 25.0 mL を加え,イ オン交換水で発色試薬を調製した. 4.3.3 変性タンパク質溶液の吸収スペクトル 1) ビーカーに秤量した BCG 0.087 g にホールピペットでイオン交換水 15.0 mL,エタノー ル 5.0 mL を加えて特別試薬を調製した. 2) 10 mL メスフラスコに塩酸グアニジン 6.69 g,2‐メルカプトエタノール 0.20 mL,緩衝 液 4.0 mL を加え,イオン交換水でメスアップした後,上からマイクロピペッターで特別 試薬 0.1mL を加えて,ブランク溶液を調製した. 3) アルブミン(卵由来) 0.005 g,0.007 g を秤量し,10 mL メスフラスコに各々加える.塩 酸グアニジン 6.69 g, 2‐メルカプトエタノール 0.20 mL,緩衝液 4.0 mL を加え,イオ ン交換水で調製した後,ときおり撹拌しながら 3 時間置き,完全変性したタンパク質の溶 液を調製した. 4) 3)で調製した各溶液に 1)で調製した特別試薬 0.1 mL を各々加え,よく振り 10 分間静置 した後,プラスチックセルにこれを移し,各溶液の吸収スペクトルを測定波長 400-700 nm の範囲で測定を行なった. 4.3.4 標準曲線の作製 1) アルブミン(卵由来) 0.500,1.00,1.50,2.00,2.50,3.00,3.50 g を秤量し,100 mL メスフラスコに各々加えてメスアップした後,さらにここから 1.0 mL を 10mL メスフ ラスコに取り,アルブミン濃度 0.05,0.10,0.15,0.20,0.25,0.30,0.35 g·dL-1の標準
8 曲線溶液を調製した. 2) 各溶液 0.5 mL をバイオプシー瓶に移して,発色試薬 2.0 mL を加えて撹拌し (Alb 濃度: 0.01-0.07 g·dL-1),10 分間静置した後,吸収スペクトルを波長 400-700 nm の範囲で測定 を行なった. 3) 得られた吸光スペクトルから最大吸収波長を求め,その波長λ で吸光度の測定を行なっ た. 4) 得られた吸光度と濃度の関係をグラフにし,標準曲線を作製した. 4.3.5 逆ミセルの作製およびタンパク質の徐放 1) 25 mL メスフラスコにアルブミンを 0.500 g,塩酸グアニジン 16.73 g, 2‐メルカプト エタノール 0.50 mL を取り,イオン交換水でメスアップした後,ときおり撹拌しながら, 3 時間置き,完全変性したタンパク質の溶液を調製した. 2) 軽質流動パラフィン 20 mL に PC 0.206 g を溶解し,脂質溶液を調製した. 3) この脂質溶液 4 mL をバイオプシー瓶に移し,これに変性タンパク質溶液 1.00 mL をホ ールピペットで滴下して乳化させ,油相中に逆ミセルを分散した後,所定時間静置した. 4) 100 mL メスフラスコにシスチン 0.059 g を加えて,イオン交換水で調製した後,5.00 mL をホールピペットでバイオプシー瓶に取った.その上から 3)の逆ミセル溶液を全量静か に注いで,脂質二重層の形成およびタンパク質の抽出を行なった. 5) 試料の入ったバイオプシー瓶を 30 分静置した後,水相を静かに撹拌した.ホールピペ ットで水相 0.5 mL をバイオプシー瓶に移して,発色試薬を 2.0 mL 加えて撹拌し,10 分 間静置した後,測定波長λ で吸光度の測定を行なった. 5.評価方法 逆ミセルの性能評価は式 5.1 のように定式化したリフォールディング率 P を比較するこ とにより行う.これは発色試薬と試料を混合した後のアルブミンの最終重量のうち,どの 程度の割合で活性アルブミンが含まれるかを定量している. P=w w2 1 VD ∙ VR VW+ VR∙ v × 100 (5.1) w1 / g:変性タンパク質の重量 w2 / g:リフォールディングされた活性タンパク質の重量 VD /mL:変性タンパク質溶液の容積 VR /mL:逆ミセル内の水相の総容積 VW /mL:水相の容積 v /mL:検体量
9 標準曲線を用いて吸光度 A から得られる濃度の関数を F(A) /g dL-1,検体と混合した発色試 薬の量を VC /mL とすると,w2は式 5.2 のように表すことができる. w2= F(A) ∙ (VC+ v) 100 (5.2) したがって,最終的にリフォールディング率 P は式 5.3 のように表される. P=wF(A) ∙ (VC+ v) 1 VD∙ VR VW+ VR∙ v (5.3) 6.結果 BCG 複合体について,変性アルブミンおよび Nature なアルブミンの 400 nm から 700 nm までの波長領域における UV-vis 吸収スペクトルの結果を各々Fig.7,Fig.8 に示す. Nature なアルブミンの極大吸収波長が 640 nm の位置に観測されたのに対し,変性後の アルブミンの極大吸収波長は 635 nm に位置にあり,若干のシフトが見られた.また,Nature なアルブミンの吸収スペクトルには 400 nm から 530 nm にかけての負の吸収スペクトルが 観測されたが,変性アルブミンにはこれが現れなかった. 0 0.01 0.02 0.03 0.04 0.05 0.06 0.07 0.08 400 500 600 700 A bsorb ance Wavelength / nm Fig.7 変性アルブミン-BCG複合体のUV-visスペクトル 0.07 g/dL 0.05 g/dL
10
Fig.8 をもとに作製した Nature なアルブミンの標準曲線を Fig.9 に示した.標準曲線は最 小二乗法により三次関数 y=Ax3+Bx2+Cx にフィットさせて定数 A,B,C を求めたもので ある.この結果,A=806,B=-130,C=8.79 であり,決定係数 R2の値は 0.988 となっ た. 標準曲線を作製するに当たり,本来ならばサンプル中の活性なアルブミンのみを測定す るために変性アルブミンの吸収がない波長を採用すべきであったが,実験の結果,変性ア ルブミンも BCG と複合体を形成し,Nature なものと比べて発色は 5 分の 1 程度に減少す るものの広い波長領域で吸収が存在することが分かったため,土曜班は活性なアルブミン のみの定量を断念し,リフォールディング率の時間変化のみを追うことに指針を変えた. このため,波長は Nature なアルブミンの極大吸収波長であった 640 nm を採用し,標準 曲線を作製した. -0.4 -0.3 -0.2 -0.1 0 0.1 0.2 0.3 400 500 600 700 A bs orba nc e Wavelength /nm Fig.8 Natureなアルブミン-BCG複合体のUV-visスペクトル 0.019 g/dL 0.032 g/dL 0.041 g/dL 0.060 g/dL
11 リフォールディング率を定量した結果を Table 1 に示す.時間は逆ミセル内にアルブミン を閉じ込めていた実質の時間であり,アルブミンの抽出を行った 30 分を含めたものではな い. リフォールディング率はいずれも 100 %を超えており,また理論的にはリフォールディ ングのための時間をより多く提供するほど,活性回復も大きくなるはずであるが,結果は 単調な増加を示してはいなかった. 7.考察 7.1 アルブミンの吸収スペクトル BCG 複合体の吸収スペクトルについて,Nature なアルブミンのものでは 400 nm から 530 nm にかけて負の吸収が観測されていたが,変性アルブミンのものではそれが見られなかっ た.このような負の吸収スペクトルが観測されるのは,Nature なアルブミンと BCG の複合 体がブランクよりも,その波長領域において光を吸収しなかったことを意味している.こ Table1 リフォールディング率の定量 時間/h 吸光度 活性回復濃度の理論値/g dL-1 リフォールディング率/% 1.5 0.4623 0.11 170 2.0 0.4058 0.10 160 12.0 0.8256 0.14 210 13.0 0.7091 0.13 200 0 0.05 0.1 0.15 0.2 0.25 0.0000 0.0200 0.0400 0.0600 A bs orbance 濃度 / g dL-1 Fig.9 Natureなアルブミンの標準曲線
12 れはブランク中で主に光を吸収していた BCG が Nature なアルブミンと複合体を形成する ことで,400 nm から 530 nm にあった吸収スペクトルを長波長側に移動させたために生じ たものではないかと思われる.また逆を言えば,変性アルブミンは BCG と複合体を形成し てもこのようなレッドシフトが生じないのではないかと推察される. 7.2 リフォールディング率の定量 最終的に発色溶液を加えた段階でのサンプルに含まれる活性アルブミンの濃度は最大で も 0.068 g dL-1となる計算であったが,アルブミンの活性回復濃度の理論値はいずれの結果 もその濃度を上回るものとなった.これを説明する詳細な文献は得られなかったが,アル ブミン-BCG 複合体に両親媒性分子として溶解していた PC が吸着,または別種の複合体を 形成するなどして吸光度が上昇するという現象が生じたものと考えられる.尚,ブランク 溶液には BCG と PC が含まれており,たとえ BCG と PC が複合体を形成し,発色を示し たとしてもそれは差し引かれているため,この現象は BCG と PC のみによるものではない と思われる. 尚,実験計画の当初はこのような現象が起こることを防ぐために両親媒性分子の親水基 部分に張り付いた Ca2+イオン同士の静電反発を利用して逆ミセルからアルブミンを徐放す る方法(Fig.10)を考案していたが,Ca2+イオンなどの無機塩は BCG とも相互作用し,アル ブミン-BCG 複合体の発色を低下することが後に分かったため,逆ミセルからアルブミンを 抽出する手法に変更することとなった. Table 1 のリフォールディング率を比較したとき,逆ミセル内にアルブミンを保持した時 間が 1.5,2.0 時間のものと 12.0,13.0 時間のものとではやや後者の方が値が大きく,この 結果が逆ミセル内でリフォールディングが生じていることを示唆していると見れなくはな いが,吸光度が推定された範囲を超えている以上,データとしての信頼性に欠けるため, Ca2+Ca2+ Ca2+ Ca2+Ca2+ Ca2+ Ca2+Ca2+ Ca2+ Ca2+ Ca2+ Ca2+ Ca2+ Ca2+ Ca2+ P P P Ca2+ Ca2+ Oil Water Fig.10 ベシクル膜の破壊とアルブミンの徐放
13 本実験の手法ではリフォールディングが起こっているという証拠をつかむことは困難では ないかという結論に達した. 8.展望 今回の実験では試薬の価格という問題から,比較的安価なアルブミンをモデルタンパク 質として使用したが,本実験の方法ではリフォールディングの定量化は困難であった.多 少,資金に余裕があるのであれば変性状態で失活する GFP などの蛍光タンパク質を使用す る方が比較的容易にリフォールディング率を定量でき,かつ他の試薬との副反応など種々 のパラメータを考慮する必要も少なくなるかと思われる. また現在,リフォールディングの場として研究されている逆ミセルやベシクルの材料で 一般的に使用されている両親媒性分子はカチオン性やアニオン性のものが主流となってい るが,ノニオン性の界面活性剤に活路はないかと考えている.と言うのも,タンパク質を 安定化させる化合物として以下のような PEG,トレハロース,Triton-X などが知られてお り,これらには共通構造としてエーテル結合を含む単位の連鎖が存在している.ノニオン 性の界面活性剤にはこれと同等の構造単位をもつものが多く,それを使用したリフォール ディング法は新規性も高いため,研究の価値は十分にあると考えている. O O H n O O H O H HO O O H O OH OH OH OH O n PEG トレハロース Triton-X Fig.11 タンパク質安定化剤として知られる化合物
14 引用文献 —————————————— 1) 蛋白質科学会アーカイブ HP,2008.6.17 投稿,“蛋白質リフォールディング:段階透析 法”,〈http://www.pssj.jp/archives/Protocol/Expression/refold_02/refold_02_01.html〉 2013.04.20 取得 2) 社団法人 化学工学会 バイオ部会,『バイオプロダクション—ものつくりのためのバイオ テクノロジー—』,コロナ社,2006,p.123-132 3) 独立行政法人産業技術総合研究所 HP,2012.5.23 投稿,“変性したタンパク質の活性を 回復させる有機ナノチューブゲル”,〈http://unit.aist.go.jp/ntrc/ci/〉,2013.04.20 取得 4) 元島史尋,吉田賢右,「蛋白質の揺籃 シャペロニンの構造生物学」,共立出版,『蛋白質 核酸酵素』,43・2,1998,p.170-175 5) 河田康志,「シャペロニンの作用機構の最前線」,日本農芸化学会,『日本農芸化学会誌』, 78・6,2004,p.557-559 6) 山田彩子,濱田勉,吉川研一,「細胞サイズリポソームの新しい作製法とその応用」,日 本生物物理学会,『生物物理』,49・5,2009,p.256-259 7) 中束美明,『バイオケモメトリクス-計算の実際—』,培風館,2004,p.8-10