僑離藩第齢38灘言)
糖尿病の診断と治療
東京女子医科大学内科学教室
教授中 山 光 重
ナカ ヤマ ミッ
シゲ
(受付 昭和38年1/月2日)
はじめに
糖尿病の診断と治療ということを述べるのです が,とても30分という短時間には言いつくすこと ができませんので,現今行なわれている診断と治 療のアウトラインを申し上げ,おわかりにならな い所は御質問に応じたいと思っております.
1.診断について
口渇,多尿,易疲労,体重減少,食事元進など の糖尿病固有の自覚症状があり,糖尿を証明すれ ば,これだけで糖尿病といってまず間違いないの でありますが,糖尿病の診断を確実にするには糖 負荷試験を行なうことが必要です.
糖負荷試験として,糖を経口的に与える法と静 脈注射する方法とがありますが,一般には経口法
が用いられています.また与肖る糖質として,ブド ウ糖と米飯ないしはパンのような主食を用いる法 とがありますが,ブドウ糖では消化という問題は お乙ってこないのですが,大量例えば1009を水 にとかして与える時には,悪心とか嘔吐がおこる 人がありうまくいかないことがあります.主食を 用いる時は生理的ではありますが,消化というこ
とが入って来ます.
私の教室では,主として飽食試験といって,主 食を十分たべる方法を用いて来ました.
いま40才以上の成入で,糖尿はもちろん陰性 で,家族的にも糖尿病の遺伝カミなく,肝臓その他 にも何ら障害のない34名を選び,飽食試験を行な った結果では,空腹時血糖値は静脈血,Somogyi−
Nelson法で119mg/dl以下であり,食後1時平
目に最高糖値に達し,食後2時間,3時闇目の血糖値は120mg/d正未満です.この34名が1年経 過した時の飽食試験では,ユ年前と全く同様で,
食後2時闇および3時間の1血糖値は120mg/dl未 満でした.このことから飽食試験によって食後2 時聞,3時闇の血糖値が120mg/dl未満であれば 正常と解してよく,共に.工20mg/dl以上の揚合は 糖同化能異常者であり,しかも食後1時間の血糖 値が高く170mg/dlを越えれば糖尿病と到定して 誤りがありません.この両者の中細に位いするも のはいわゆる糖尿病の疑いのあるものとして,経 過をみてゆくことが必要です.
H.糖尿病の治療の基準
前記のようにして糖尿病の診断が確定したなら ば,糖尿病によくみられる含併症,続発症につい ても精査する必要があります.これの有無によっ て糖尿病の治療方針に多少相異があるからです.
さて糖尿病の治療の大方針としては次のことを 基準にします.
1)糖尿病の症状,殊に自覚症が消失するこ
と.
2)早期空腹時血糖値が120mg/d1以下になる こと.低血糖のないこと.
3) 1日の尿糖量が摂取糖質の5%以下になる
こと.
4)脂質代謝に異常のないこと.すなわち血清 コレ家テロールが正常で,ケトン体の排出しない
こと.
5)標準体重の維持.
6)幼若の者では発育成長の障害のないこと,
成人では1日を喩快に送ることができること.
Mitsushige NAKAYAMA (Nakayama Clinic, Department of lnternal Medicine, Tokyo Women s Medical Collage): The diagnosiS and treatment of diabetes.mellitus.
以上のようなことが糖尿病を治療してゆく上で の方針であり,以前の如く糖尿を全くなくするこ
とのみ汲々となってはなりません.それは全く無 糖尿になると低血糖を招来することが少なくない からです.また血糖,糖尿のみに注目せず,脂 質,蛋白代謝にも留意力泌要で,これがなくて は,種々の余病を防止することができません.
この基準を満足させるためには食事療法,薬剤 療法,ならびに運動療法が必要です,
m・食事療法
古来糖尿病の食事は糖:質の制限が主軸をなして いました.インスリンが発見される以前において は,飢餓療法や糖質不摂取療法が行なわれました が,その結果は良くなく,糖尿病性昏睡があとを 断たなかったのです.
インスリンが発見されるに及び,糖尿病の治 療には一転機が起こり,ある程度の糖質は是非 必要で,一定量の糖質を摂取しておこる糖尿は薬 剤,すなわちインスリン注射で抑えてゆくという ことが行なわれるようになりました。しかし,
Tolstoiの如く或量のインスリンを注射しておけ ば,食事の質にはそれ程注意する必要はないとい う,いわゆる自由食を唱えた学者もいます1しか しながら自由食を主張する学者でも,摂取総カロ リーを制限するということでは一致した意見であ ります.したがって食事療法としてきめなければ ならないことは,総カロリーをいかにするかであ
ります。
1.総カロリー
総カロリーをきめるには,まず標準体重を求め ねばなりませんf標準体重は,厚生省発表の日本 人の身長別・年令別・体重表中の3G才鉗め表の標 準値を使用するのが最も望ましいのですが,簡略
には次式から求めます.
標準体重=(身長(cm)一100)×0.9 標準体重に対し毎kg当り所要カロリーは,
臥床中のもの 室内起居御 弾勤務老
中等労働者 重労働者
20−25カロリー 25−30カロリー一 30−35カロリー 40−50カロリー 60一 カロリー
とします.
i終年者は多いほうをとり,老年者ならびに肥満 者では少ないほうをとります.
かくして求められた総熱量を1日3等分して摂 取せしめるのです.
2.蛋白:質
古くは糖尿病には脂肪蛋白豊富食が与えられま したが,美食家に糖尿病の多いことからも,蛋白
:質も1009以上になることは好ましくありませ ん.標準体重毎kg当り1.259ぐらいがよく,凡そ
1日 60−90 9の間が適当です.
二の中1/3は動物蛋白質が望ましいのです.ミ
3.脂 質
肥満のあるものでは409迄とし,主として植物 油を用います.
肥満のないものでも809以下が望ましいので
す.
4.糖 質
総カロリーから蛋白質,脂肪を除いたものが糖
:質でありますが,主として1日1509〜3009が 普通です,すなわち毎食米飯1杯か2杯としま
す.
米飯,パン,うどん,そば等その好みに応じて どれでもよく,その含墨引が等しければいずれを 食べても同じです.
よく息者は何をたべてよいか,何をたべては悪 いかと:質問するものがありますが,良い食品もな ければ悪い食品もありません.結局はその:量によ ることを理解さすべきです,.
5. 間食, 嗜女子・品
総力nり一以内ならばある程度の間食は許可す べきで,殊にインスリンや内服薬を使用し,食後 数時間以上して起きると思われる低血糖を防止す るためには,積極的に間食をとらせることもあり
ます.
アルコール飲料については,これも総カロリー の中で許可しますが,合併症について十分の留意 が必要です;またお酒の種類について可否を問う 人がありますが, これもまた糖尿を問題にすれ ば,ビール,日本酒より糖L質を含まないウaスキ ー類がよいことになりますが,要は摂取量に左右
一 634 一
第1表 酒,ジェース類比較表
重量・脚質・1轡㌍
米 飯 1杯
日本酒 1合
ビLル 1本
ウィスキー 半合
しようちゆう(35。)半合
サイダー 1本
オレンジジュース 1本
130 180 640
90.
90 360 200
42 9 20 o o 33 23
183 201 224 227 191 130 96
されるので,どれが良いとも悪るいともいえませ ん.1日,日本酒なら2合,ビールなら2本,ウ
イスキーなら8勺位は許可してもよいでしょう.
IV・薬剤療法
前述の食事療法を施行しても,コントロールで きないか,始めから食事療法のみでは不十分と老 えられる揚合には薬物療法を併用しなければなり
ません.
二二旺にはインスリンと内寸薬とがあります.
1. インスリン
糖尿病はインスリンの絶対的ないし相対的不足 によって起こる症候群でありますから,インスリ ンの持続的補給がもっとも合理的であることは論 をまちません.
インスリンには普通インスリン(R.1.)と,
持…続インスリン(Depot I.)とがあるのは第2表 の通りですが,詳細については時間の関係上省略
します.
第 2 表
作用時間
1)=普通インシュリン(R.1.)
2)持続インシュリン
a. G.1.
b一 N.P.H.
c. P.ZI.
d.セミレンテ e. レンテ
f.ウルトラレンテ
内服薬
約6時間
18N20
26 一30
24tv36 12 v18
24N30
36 一
2.
糖尿病の内服薬は古くから研究され,その類も 数多くあげられますが,多くは副作用があるか,
効果が著しくないため一般には使用されないもの が多いのです.
第3表 糖尿病内服薬 1) メゾ蔭酸塩,メゾ酒石酸塩 2) スルフォソァミド誘導体 スルフォブタマイド トルブタマイド ク ロルブロバマイ ド アセトヘキサマイド トラザマイド 3) ビグアナイド フェソフォルミソ メトフォルミソ シルビン
しかし,戦後副作用が少なく,有効な内股薬カミ 数種あらわれました.その主なものはメゾ蔭酸塩 と,スルフオニール尿素剤とグアニジン誘導体と であります.
1) メゾ蔭酸塩
東大小林教授らによって1952年創製された化合 物で,次の構造式を有しています.
HOo>c〈CcOog)))ca−2H,o
本剤をアロキサン糖尿病動物に投与すれば,糖 周化能は改善され,糖原生成が増進しますが,直 接糖代謝に作用するものではなく,インスリンの 分泌を充進ずる一方,膵臓ラ氏島β細胞の増殖を
きたし,糖尿病が好転するといわれています.
副作用はほとんどありません.ER用の注意とし て,無酸症のものではとけにくいので,人工胃液 を与えるのがよいのです.
本剤は軽症者に有効で,1日0.9〜1.59の投 与が適当です.
半年以上も使用して効果のないものは,それ以 上その量で長く使用しつづけても効果は期待でき
ません.
2) スルフォニール尿素剤
1955年BZ55スルフォブタマイド(Carbutamide)
H,N−n・一SO,一NH−CO−NH−CH,一CH,.CH,一CH,
イソベノール,メリトス,ロバン
1956年D860トルブタマイド(Tolbutamide)
H,C−n−SO,一NH−CO−NH−CH,一CH,一CH,
ジァペソ,メリトス1),ラスチノン
1957年:p607クロルプロパマイド(Chiorpropamic e)
Cl−XA−SO,NH−CO−NH−CH,一CH,一CH,
ダイアビニース,メリトスC
1961年目アセトヘキサマイド(Acetohexamide)
・H…く⊃・一…NH・・N・一〈=>
1961年トラザマイト(Tolazamide)
・駁}・餌N叢雨O
o
ス尿剤の作用機序はまだ明らかになっていませ んが,膵臓がない動物やアロキサンでラ氏島β細 胞を破壊した動物では有効でなく,また臨床的に も若年者糖尿病には無効例の多いことから,恐ら くインシェリン.の分泌を促すか,または作用を増 強するものであろうと推測されます.
本ff(Jには有効であるが,使用しているうちに何 等の原因なく薬剤の効果がうすれることがありま す.これを二次的無効(Secondary Failure)と いいます.著者の調査iではD860はユ年以内に
5%, 1年以上では24%,P607は1年以内に
1.7%,1年以上では12.5%の二次的無効例をみ ています.二次的無効が起きた揚合は,薬量を増 すより他の零墨1に切り換えることが適切です.ス尿剤の適応
臨床経験から次の適応があげられます.
i 中年以上になって発病した糖尿病患者に有 効例が多く,若年には無効例が少なくない.
iiやせた者より肥満者に有効例が多い.
iii 島 性糖尿病ζま無効侵丑カミ多ヤ、.
iv インシ リンを長年使用した老には無効例 が多い.
以上のことはあくまで原則的なことで,例外も 多くあります.
有効か無効かをきめるには,D860を39投与
し,1日の尿糖の減少を比較するか,血糖値を測 定し,投与後4時間の血糖が正常範囲であれば有 効と到定します.しかし早朝空腹時血糖値がすで に正常範囲であるものではこの法では不明であり ますから,使用時と非使用時の負荷試験成績を比 較するのがよいのです.どのス尿剤を使用するのが適当かを知るには,
各ス尿剤の血糖降下作用時間を知っておくことが
必要です.
D s60は,1時間で血糖降下作用が始まり,3
〜6時間が;最も強く,10〜16時間で弱くなり,24 時間では殆ど血糖降下作用を認めません.
BZ 55は,服用後1時間で血糖降下作用が始ま
り, 2〜12時間カミ最も弓蛮く,24時間後にも」血糖降 下作用があります.すなわち蓄積作用が認められ
るわけです.
P607は,2時間で血糖降下作用が現われ,3
〜24時間が強く,血糖降下作用は数日つづきま す.これは本剤が容易に排泄されたり,異化され たりしないためであります.
スルフォニール尿素剤の副作用としては,発現 頻度はBZ55が最も多く,ために米国では使用さ れていません.
D860は排泄が早いためか,副作用が最も少な く,胃腸障害を主とし,皮膚発疹,発熱を稀に み,白血球,肝・腎障害は殆んど認められませ ん,副作用は1%前後です.
P607も0.59以下の使用では,胃腸障害を主 として1%前後にみられるにすぎません.ただ し,P607は酒のToleranzの低下を著明に認め ます.すなわちD860では12例中2例に,:P 607 では11例中8例に酒のToleranzの低下を認めま
した.
3) ビグアナイド
グアニジンに血糖降下作用があることは古くよ り知られていましたが,近年副作用の三三的少な い誘導体が数種創製されました。
Biguanide
Phenformin(DBI)イソシェロイド,アベタール
〈}㎝舐一瞬響欄CL
HNH NH
Metoformin(DMBG)グリコラソ,メルビソ
珪ε>N一三秤一鵬HCL NH NH
Silubin(w.37) クレポソ
CH,一CH,一CH,一CH,一N−O−NH−C NH,
IU ll HNH NH
最近Silubinがクレボンという販売名で売出さ れようとしていますが,その臨床成果についてば 未知なため,ここでは省略します.
一 636 一
フ』ン7tルミン メト7tルミン
有効 や、r解力 無効
[=] 匝コ ■■■
第1図 有効率
ビグアナイドの作用機序も明らかでありません が,スルフォン誘導体とちがい膵臓ラ氏島の存在 は必要としませんから,歯性糖尿病,若年型糖尿 病にも有効であります.
1錠中フェンホルミンは25㎎を含有,メFホル
ミンは250㎎を含有し,両者とも1日3〜6錠使
用します.
本剤のもっとも欠点は,6錠以上服用すると胃 腸障害の副作用がおこることで,6錠でもコント
ロールできない揚合は,他の薬剤にかえるか併用 するかが安全です.
胃腸障害の他に皮膚発疹をみることもあり,フ ェンホルミンがメトホルミンよりやや高率です.
この早発性副作用のほかに,使用後1カ月以後 におこる脱力感,眩景,頭重感,体重減少を主と
した後発性副作用もありますから,この点も十分 注意する必要があります.
ま とめ
以上糖尿病の治療の大綱をのべましたが,合併
第4表 外来治療の総括
空腹時 血糖値
皿9..dI
インスリン 内 服 薬
RI NP耳[・ゾ灘
レソア ・
セ ミ 1
D 860 P 607 ビグアナイ ド
100以下 10単位 O.6−1.5g 1.og
150 n 16単位
200 u 8 十 20
1.0−1.5g o. 2s g 3錠
1.5g o.sg
4 6錠
200以上 8 十 28 0.59 十 3錠
症の有無,環境,経済状態などで,一・ecに取扱う ことができないのはもちろんであります.
しかし,外来で糖尿病患者と診断した時,どの ように薬剤を使用するかについて,表に一括して 示すことにします,
血糖は簡単にできるという意味で,シノテスト 100号で測定したとして表示しました.
このような基準で治療を開始するのであります が,薬剤の効果がでるには数日,時には1週以⊥
も要し,1回の検尿や」血糖検査で効果の有無や適 量を簡易に到嘉することは誤りを起乙し易いの で,常に細心の注意を以て患者に接し,患者の指 導教育にあたることが必要であります.