博 士 ( 医 学 ) 鈴 木 克 憲
学位 論 文題 名
The effCtofCytokineSOnthemigrationof 丘 broblaStS deriVedfromdi 任・erentregionSOftheCanineShoulderCapSule
(犬の肩関節包線維芽細胞の遊走能に対する各種サイトカインの作用)
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
整 形外 科領 域 にお いて 、靭 帯 /腱 など の軟 部組 織 損傷 は日 常診 療に おいてよく遭 遇する 疾 患 で あ る 。 軟 部 組 織 損 傷 の 治癒 機 転に は、 線維 芽細 胞 が重 要な 役割 を はた して いる 。そ の 治 癒 過 程 は 、 初 期 に 線 維 芽 細胞 が 損傷 部位 に遊 走し 、 新生 膠原 線維 を 産生 し、 膠原 線維 が 成熟 して いく こ と、 により新 生腱/靭帯が構築されること による。この過程を修飾す る因子 と し て 、 断 端 同 士 の 初 期 固 定 力、 靭 帯に かか る負 荷な ど のカ 学的 因子 、 ある いはCytokine などによる生物学的刺激因子などが考えられている。
肩 関 節 は 、 人 体 の 中 で 一 番 大き な 可動 域を もつ 関節 で ある 。解 剖学 的 形態 から みる と、
大 き な 球 状 の 上 腕 骨 頭 と 浅 い 肩甲 骨 関節 窩か ら成 り立 ち 、非 常に 不安 定 な関 節で ある 。関 節 の安 定性 は、 主 に肩 関節周囲 の軟部組織(関節包、靭帯お よび筋肉)により得られて いる。
し か し 、 肩 関 節 の 関 節 包 あ る いは 靭 帯の 生物 学的 特性 に つい ての 研究 報 告は ない 。今 回の 研 究 は 、 犬 の 肩 関 節 包 か ら 採 取し た 線維 芽細 胞の 遊走 能 が、 各種 のCytokineによ って いか に 刺 激 さ れ る か を 検 討 す る こ とに よ り、 肩関 節包 の線 維 芽細 胞の 生物 学 的特 性を 検討 する ことである。
犬 の 関 節包 :3個所 (上 方内 側関 節 上腕 靭帯 、下 方内 側 関節 上腕 靭帯 お よび 後方 関節 包】
か ら切 片を 採取 し 、線 維芽 細胞 を 培養 した 。関 節包 を 被う 滑膜 細胞 は、 可及的に取り 除き、
第2世代培養の細胞を使用した。
6種類のCytokine: PDGF(platelet‑derived growth factor)‑AB、HGF(Hepatocyte growth factor、 IGF‐1(msu亅mgrowmf翫tor‐1)、BMPOonem0叩hogenicprotem)12、Tく源(觚ulSfbnllmggrowm 丘Ictor)‐ ロ、およびIL血terleuk岫.1に対する各線維芽細胞の遊 走能の反応をBoydenchamber を 用 い て 測 定 し た 。Boydenchamberは 、上 下2つの プラ ス ティ ック ・ケ ー スか らな り、 各々 に48個 の 小 さ な 穴 が あ い て い る 。 細 胞 の 遊 走 能 を 検 討 す る た め に 擬 似 的mviVo状 態 を 再 現 する こと を目 的 とし てい る。 下 のケ ース の穴 にCytokmeを 含 む溶 液を 入れ、膠原線維 卩ype I) で 被っ たpolycarbonate膜を 上 下の ケー スの 間に は さみ 、上 のケ ース の穴に線維芽 細胞の 懸 濁 液 を 入 れ て4時 間 培 養 し た 。 こ の 膠 原 線 維 で お お わ れた 膜を 通過 し て膜 の反 対側 の表 面 に 生 着 し た 線 維 芽 細 胞 の 数 を顕 微 鏡に て測 定す るこ と によ り、 線維 芽 細胞 の遊 走能 を評 価 し た 。Cytokmeを 含 ま な い 対 照 群 と 各Cytokme群 と の 比 率( 遊 走能 比二 二Cytokmeを 含む
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群 の 細 胞 数/Cytokineを 含 ま な い 群 の 細 胞 数Xl00% ) を 計 算 し 、 遊 走 能 を 比 較 検 討 し た。
PDGF‑ABお よ びHGFは 、3個 所 か ら 採 取 し た 線 維 芽 細 胞 の 遊 走 能 を 濃 度 依 存 性 に 増 加 さ せ た 。PDGF‑ABで は 、Ing/mlで は171% か ら316% 増 加 さ せ 、10ng/mlでは531% か ら 743% 増 大 さ せ た 。HGFで は 、Ing/mlで は133% か ら188%の 増 加 を 、10ng/mlで は264% か ら309% の 増大 を 示 し た。IGF‑1は、 い ず れ の濃 度 に お いて も 、 そ れぞ れ の 線 維芽細 胞の遊 走 を160% か ら250% 増 大 さ せ た 。BMP‑2、TGF‑ロ お よ びIL‑1は 、 いず れ の 線 維芽 細 胞 の 遊走能も刺激しなかった。
肩 関 節 包 の 各 部 位 か ら 採 取 し た 線 維 芽 細胞 のCytokineに 対 す る 反応 を み る と、 後 方 関 節 包 の 線 維芽 細 胞 は 、上 方 お よ び下 方 内 側 関節 上 腕 靭 帯か ら 採 取 した 細 胞 に 比較し て、低 濃度のCytokineに対する遊走能の増加率が有意に低かった。
肩 関 節 の 関 節 包 あ る い は 靭 帯 の 生 物 学 的特 性 を 検 討し た 研 究 は今 回 が 初 めて で あ る 。 靭 帯 損 傷 の治 癒 過 程 にお い て 、 初期 に 線 維 芽細 胞 が 損 傷部 位 に 遊 走し て く る ことを 促進さ せ る こ と は、 治 癒 過 程を 短 縮 させ得る 可能性 がある 。各種 のCytokineあ るいは 成長因 子が、
損 傷 し た 軟部 組 織 の 炎症 期 に お ける 細 胞 浸 潤な ど を 司 どっ て い る 。今 回 の 研 究から 、いく っ か のCytokine(PDGF‑AB、HGF、IGF‑1)は 、 犬 肩関 節 包 の 線維 芽 細 胞 の遊 走 能 を 増大 さ せ て い た 。 今回 と 同 様 の手 技 に て測定し た犬膝 関節の 靭帯よ り採取 した線 維芽細 胞のCytokine に 対 す る 遊走 能 の 変 化を み た 研 究と 比 較 す ると 、 線 維 芽細 胞 のCytokineに 対 する反 応には 関 節 特 異 性 が あ る こ と が 示 唆 さ れ た 。PDGF‑ABは 、 肩 関 節 包 お よ び 膝 関節 の 線 維 芽細 胞 の 遊 走 能 を と も に 増大 さ せ た が、 膝 関 節 の細 胞 に 比 較し て 肩 関 節の 細 胞 は 約3倍 の遊 走 能 の 増 大 を 示 し た 。IGF‑1は 、 肩関 節 の 線 維芽 細 胞 の 遊走 能 を 増 大さ せ た が 、膝 関 節 の 細胞 に は 効 果 がな か っ た 。対 称 的 に 、ILー1は 、 肩関 節 の 細胞に は変化 がなか ったが 、膝関 節の 細胞の遊走能を増大させた。
関節以外の線維芽細胞の遊走能をみた報告によると、IL‑1a、basic fibroblast growth factor、 あ る い はPDGFは 、 人 の 皮 膚 の 線 維 芽 細 胞 を 増 大 さ せ た 。 ま た 、PDGF、IL‑1a、TGF‑ロ 、 あ る い はIGF‑1は 、歯 根 膜 線 維芽 細 胞 の 遊走 能 お よ び増 殖 能 を 増大 さ せ て いた 。 こ れ らの 報 告 と 比 較す る と 、 組織 特 異 性 も考 慮 に 入 れる 必 要 が ある 。 今 回 の研 究 に お いて、 肩関節 包 の 線 維 芽 細 胞 がBMP‑2、IL‑1お よ びTくJF‑pに 対し て 反 応 しな か っ た のは 、 細 胞 自体 の 受 容 体 の 欠如 、Cytokineの 至 適濃度 、あるい は種適 合性の 欠如な どの可 能性も 考えら れる。
人 間 の 肩 関節 は 、 そ の安 定 性 を 主に 周 囲 の 軟部 組 織 に より 得 て い る。 臨 床的 に代表 的 な 疾 患 と して 、 五 十 肩な ど の 可 動域 制 限 を 呈す る 軟 部 組織 の 拘 縮 に起 因 す る 疾患と 、肩関 節 前 方 脱 臼な ど の 不 安定 性 を 呈 する 軟 部 組 織の 修 復 機 転不 全 に 起 因す る 疾 患 の相反 する病 態 が あ る 。い ず れ の 疾患 に お い ても 関 節 包 など の 軟 部 組織 が 大 き な役 割 を は たして いる。
外 傷 あ る いは 何 ら か の炎 症 に より、関 節液の ある種 のCytokine濃 度が上 昇する ことに より、
関 節 包 の 線維 芽 細 胞 が反 応 し 、 これ ら の 疾 患を 惹 起 す るこ と が 考 えら れ る 。 今後さ らに肩 関 節 に お ける 軟 部 組 織の 生 物 学的特性 をより 明らか にする ことに より、Cytokineなど による 線 維 芽 細 胞 の 生 体 反 応 を 利 用 し た 治 療 方 法 を 確 立 す る こ と が 期 待 さ れ る 。
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学位論文審査の要旨
学位論文題名
The effeCtofCytokineSOnthenugrationof 丘 broblaStS deriVedfromdd 托 rentregionSOftheCanlneShoulderCapSule (犬の肩関節包線維芽細胞の遊走能に対する各種サイトカインの作用)
犬 の 肩 関 節 包 か ら 採 取 し た 線 維 芽 細 胞 の 遊 走 能 が 、 各 種 のCytokineに よ っ て い か に 刺 激 さ れ る か を 検 討 す る こ と に よ り 、 肩 関 節 包 の 線維 芽細 胞の 生物 学 的特 性を 検討 した 研 究 で あ る 。 犬 の 関 節 包 :3個 所( 上 方内 側関 節上 腕 靭帯 、下 方内 側関 節 上腕 靭帯 およ び後 方 関 節包 )か ら採 取 した 線維 芽細 胞を 用 いて 、6種類 のCvtokine: PDGF(platelet‑derived growth factor) ‑AB、HGF(Hepatocyte growth factor)、IGF‑l(insulin growth factor‑l)、BMP(bone morphogenic protein)‑2、TGF(transforming growth factor)‑ロ、およびIL(interleukin)‑lに対す る 各 線 維 芽 細 胞 の 遊 走 能 の 変 化 をBovden chamberを 用い て測 定し た 。膠 原線 維で おお わ れ た 膜 を 通 過 し て 反 対 側 の 膜 の 表 面 に 生 着 し た 線 維芽 細胞 の数 を顕 微 鏡に て測 定す るこ と に よ り 、 線 維 芽 細 胞 の 遊 走 能 を 評 価 し た 。CVtokineを 含ま ない 対照 群 と各Cytokine群と の 比 率 ( 遊 走 能 比 二 ニCvtokineを 含 む 群 の 細 胞 数 /Cytokineを 含 ま な い 群 の 細 胞 数Xl00% ) を計算し、遊走能を比較 検討した。
PDGF‑ABお よ びHGFは 、3個 所 か ら 採 取 し た 線 維 芽 細 胞 の 遊 走 能 を 濃 度 依 存 性 に 増 加 さ せ た 。PDGF‑ABで は 、Ing/mlで は171% か ら316% 増 加 さ せ 、10ng/mlで は531% か ら 743% 増 大 さ せ た 。HGFで は 、Ing/mlで は133% か ら188% の 増 加 を 、10ng/mlで は264% か ら309% の 増 大 を 示 し た 。IGF‑1は 、 い ず れ の 濃 度に おい ても 、そ れ ぞれ の線 維芽 細胞 の 遊 走 を160% か ら250% 増 大 さ せ た 。BMP‑2、TGF‑ロ お よ びIL‑1は 、 い ず れ の 線 維 芽 細 胞 の 遊 走 能 も 刺 激 し な か っ た 。 肩 関 節 包 の 各 部 位 か ら採 取し た線 維芽 細 胞のCytokineに対 す る 反 応 を み る と 、 後 方 関 節 包 の 線 維 芽 細 胞 は 、 上 方お よび 下方 内側 関 節上 腕靭 帯か ら採 取 し た 細 胞 に 比 較 し て 、 低 濃 度 のCvtokineに 対 す る 遊 走 能 の 増 加 率 が 有 意 に 低 か っ た 。 今 回 と 同 様 の 手 技 に て 測 定 し た 犬 膝 関 節 の 靭帯 より 採取 した 線 維芽 細胞 のCytokineに 対 す る 遊 走 能 の 変 化 を み た 研 究 と 比 較 す る と 、 線維 芽細 胞のCytokineに 対す る反 応に は 関 節 特 異 性 が あ る こ と が 示 唆 さ れ た 。PDGF‑ABは 、 肩 関 節 包 お よ び 膝 関 節 の 線 維 芽 細 胞 の 遊 走 能 を と も に 増 大 さ せ た が 、 膝 関 節 の 細 胞 に 比 較 し て 肩 関 節 の 細 胞は 約3倍の 遊走 能 の
男 則
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査 査
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増 大を示 した。IGF‑1は、肩関節の線維芽細胞の遊走能を増大させたが、膝関節の細胞に は効果がなかった。対称的に、IL‑1は、肩関節の細胞には変化がなかったが、膝関節の細 胞の遊走能を増大させた。
靭帯損傷 の治癒過 程にお いて、初 期に線維芽細胞が損傷部位に遊走してくることを促 進させることは、治癒過程を短縮させ得る可能性がある。
口頭発表にあたり、副査の清水宏教授より、サイトカインが線維芽細胞の遊走能を刺激 す る作用 機序、サイトカインの濃度設定および第2世代の細胞を使用した理由についての 質問が、副査の安田和則教授より、Boyden chamberの原理、刺激された遊走してきた細胞 の形態が対照群の細胞に比し変化しているか、採取した場所による細胞の遊走能の変化は 機能的部位の変化あるいは肉眼的変化と対応するか。との質問があり、主査の三浪明男教 授より、遊走能の変化は受容体によるものだけなのかどうか、肩関節疾患における細胞と 正常肩の細胞自体に遊走能に対する変化があるのか、およびサイトカインの臨床応用につ いての質問があり、これに対して申請者は自己の研究結果と文献的知識に基づいておおむ ね妥当な回答を行なった。
この論文は、肩関節の関節包の各種サイトカインに対する生物学的特性を研究した最 初 の 研 究 で あ り 、 今 後 の 肩 関 節 疾 患へ の サ イト カ イ ンの 応 用 など に 期 待 され る 。 審査員一同は、これらの成果を高く評価し、申請者が博士(医学)の学位を受けるのに十 分な資格を有するものと判定した。
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