学位 論文題名
Effects of the Forest Fragmentation on theSく )cial System and Habitat Selection of the Breeding
Great Spotted Woodpecker De7zdrocopos嬲 〇ダ
(森林 の分断 化が繁殖 期のア カゲラの 社会構 造および環境選択に与える影響)
近 年,都市 部にあ ってもで きるだ け多くの 自然を残 し,よ り多様な鳥類との共存をはかっ て いくこと が望ま れている .北海道 西部の低山帯の森林にはアカゲラ(Dendrocopos major), コゲラ(Dendrocopos kizuM,ヤマゲラ(PたUscanuS),オオアカゲラ(De耐rocoposたucot〇s),
ク マゲラ(DD′ocopusmamuヰの5種 のキツツキが同所的に分布し,いずれも留鳥である.しか し ,都市化 の影響 に伴い, 現在,札 幌の都 市域で定 着し繁 殖しているのはアカゲラとコゲラ の2種に すぎない .とく に,アカ ゲラは 他のキッ ツキの 生息しな い地域に おいて も繁殖が確 認 されてお り,最 も都市域 まで進出 してい るキッッ キとぃ える.また,キッツキ類は森林生 態 系 の 中の キ ー スト ー ン種で あり, ハビタッ トの質 の指標と して利用 できる と言われ てい る .本研究 の目的 は人為的 な環境改 変がア カゲラの 繁殖個 体群に与える影響を明らかにする と ともに, 都市域 における 鳥類群集 の多様 性を保全 するた めの基礎研究をおこなうことであ る .本論文 では, 森林の分 断化の度 合いの 異なる3つの 調査地, すなわち ,都市 緑地である 北 海道大学 構内と 付属植物 園を中心 とした 地域(以 下,北 大と略称),人為的な環境改変が 殆 ど行われ ていな い北海道 大学苦小 牧地方 演習林内 の原生 保存林地区を中心とした地域(以 下 ,苫小牧 と略称 ),その 中間的な 環境と して,都 市近郊 林である北海道農業試験場を中心 と した地域 (以下 ,羊が丘 と略称) を選ぴ ,以下の4項 目に関す る調査と 研究を 行った結果 を 報告する .なお ,これら の調査地 域内の 樹林地は いずれ も落葉広葉樹を主体としている.
(I)3つ の調 査 地 にお いて, アカゲラ の営巣木 の分布 調査,個 体の捕 獲・個体 識別し た ア カ ゲ ラの 行 動 観察 を 行い, これら の比較に より, 森林の分 断化がア カゲラ の営巣木 の密 度 ・分布バ タンお よび婚姻 形態に与 える影 響を考察 した。 (H) 都市緑地 である 北大におい て ,足環に よる個 体識別を 行った個 体群の 詳細な社 会構造 の記載と,個体レベルの環境利用 を 調査する ことに より,繁 殖期のア カゲラ の雌雄の 行動バ タンの違いを明らかにするととも に , 森 林の 空 間 分布 が 婚 姻形 態 に 与え る 影 響を 明 らか にした. (m) 繁殖に 成功した 個体 の ,育雛期 におけ る行動圏 利用のデ ータを 元に、ア カゲラ の生息地評価モデルを作成した.
ま た,札幌 市市街 地に設定 した65k一n2の地域を対象に営巣木の分布調査を行いアカゲラの生 息 状況の現 状を明 らかにす るととも に、GIS(地理 情報シ ステム) とりモ ートセン シングを 用 いて生息 地評価 モデルを 札幌市市 街地に 適用する ことに より,アカゲラの繁殖可能地域の 抽 出 を 行い , 広 域ス ケ ー ルに お け る生 息 環 境評 価 を 行 った . (W) 環 境 の異 なる2調査 地
( 北大およ び苫小 牧)にお いて,ア カゲラ が繁殖の ために 掘った巣穴の二次樹洞営巣性鳥類 に よる利用 状況を 明らかに し,本種 の鳥類 群集にお けるキ ーストーン種としての役割の評価 を行った.
(I)の結果から以下のことが明らかになった.(1)アカゲラの営巣木の空間あたりの密度 は苫 小牧お よび羊が 丘に対 して北大 で低く, 森林面 積あたりの密度は苫小牧,羊が丘,北大 の順に高くなった, (2)Nearest neighbor distanceに基づぃて解析した営巣木の分布バタンは,
苫小 牧と羊が丘で均…・分布、北大ではランダム分布という結果が得られ,北大では資源とな る森 林の空 間分布が アカゲ ラの営巣 木の分布 パタン に強く影響をあたえていることが示唆さ れた.(3)苫小牧と羊が丘では従来の報告通り,全ての営巣木でアカゲラは―ー夫一妻の婚姻形 態で 繁殖を 行ってい たが、 北大では 一夫一妻 ととも に一妻二夫の婚姻形態で繁殖を行ってい る営 巣木が 見られた .本種 の一妻二 夫による 婚姻形 態は世界的にも本研究で初めて発見され た.
(U)の結果から以下のことが明らかになった.(1)調査地では独身オス・一妻二夫オス・
一夫 一妻オ スの3つの異な るっが いにおけ る地位 のオスが 同時に 見られ,6月1日現 在におけ る雌雄の性比は例年オスに偏る傾向が見られた.(2)つがい形成パタンに雌雄で明瞭な相違が 見ら れた. オスはつ がい形 成期の早 い時期に なわば り境界線が決定し,メスは定着目にばら っき が見ら れ,いっ たん、1羽の オスとつがいを形成した後にも,オスのなわばり境界線を越 え争 う行動 や隣接す るメス を追い出 して一妻 二夫を 形成する,元のオスとのつがい関係を解 消して他のオスとっがいになるなど,オスには見られない多様な行動パタンを示した.(3)つ がい 形成期 のアカゲ ラの雌 雄の行動 パタンに 明瞭な 差が見られ,オスでは造巣行動がメスで は 採 餌行 動 が 日中 の 行動 時間の最 も長い 時間占め ていた. また, 子育てに おいて 夜間の抱 卵・ 抱雛は 全てオス が行っ ていた. この相異 はキツ ツキ科鳥類に一般的に見られる系統的な 制約 であり ,オスは 営巣木 とぃう一 点におい て行動 が制約されているのにたいし,メスでは その 傾向が 見られな い.こ のような 雌雄の行 動の差 異がアカゲラにおける一妻二夫を可能に し,メスに複数のつがい相手を獲得することを可能にしていると考えられる.(4)オスのなわ ばり の面積 ,および なわば り内に占 める森林 の面積 と,っがいにおける地位には明瞭な相関 が見 られ, なわばり の面積 が大きく なるにつ れて, またなわばり内の森林面積が大きくなる に っ れて オ ス のっ が いの 地位は独 身,一 妻ニ夫, 一夫一妻 と変化 すること が明ら かになっ た.
(皿 )の結果から,(1郎市域における緑地管理計画に応用可能なモデルを作成した.(2) 札 幌 市市 街 地 にお け るア カゲラの 繁殖可 能地域は1〜4巣の 小規模の 局所個体 群に分 断され ていることが明らかとなった.(3)モデルによる予測から,札幌市市街地で発見された営巣場 所の 半数で ,営巣木 の周囲 半径300m以内 でlha以上の森 林が伐 採される と,局所 的な絶減の 可能性を持っことが明らかとなった.
(1V)の結果から,(1)コムクドリ(Sturnus philippenses),スズメ(Passer monぬnus),シジュ ウカラ(Parusm訂or),ゴジュウカラ(Sitta europea)の4種の二次樹洞営巣性鳥類によるアカゲ ラの 古巣に おける繁 殖が確 認され, 利用率は 苫小牧 と比較して,北大で高いことが明らかに なっ た. (2)北大におけるアカゲラの古巣の利用率は,造巣後の経過年数に対して減少し,二 次 樹 洞営 巣 性 鳥類 に とっ ての古巣 の有用 性は年と ともに悪 化する ことが明 らかと なった.
以上 の結果 から以下 の結論 が導きだ された.
(1)異な る環境 において アカゲ ラの繁殖 個体群 の密度・ 分布パタ ン・婚 姻形態の特徴に異 なる 結果を 得たこと から,繁 殖期の アカゲラ の社会構造およぴ環境選択に森林の分断化が強 く影 響を与 えている ことが示 唆され た.
(2)資源 となる 森林が、 モザイ ク状に不 均質に 分布する 都市緑地 ではオ スのなわばりの質 に差 が生じ ,より質 の高いな わばり を形成す ることのできたオスがメスに選択され,高い繁 殖成 功度を 得ること が明らか となっ た.
(3)現在 ,札幌 市市街地 におけ るアカゲ ラの繁 殖個体群 は,小規 模な局 所個体群に分断さ れ, 局所的 な絶減の 可能性が 高いこ とが明ら かとな った.
(4 )都市緑地では原生林と比較してアカゲラの樹洞提供者として(キーストーン種として の役割)の重要性は高く,また本種による継続的な樹洞の提供が,都市緑地における樹洞営 巣 性 鳥 類 の 多 様 性 を 維 持 す る 上 で 重 要 で あ る こ と が 示 唆 さ れ た .
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主査教授小野有五 副査教授 平川一臣
副査教授 藤巻裕蔵(帯広畜産大学畜産学部)
副査教授石城謙吉(名誉教授)
学位論文題名
Effects of theF (冫restFra 卿ent 甜onontheSOcim SyStemandH 撕 tat 闘 eCmnoftheBreemng Great 沁 dWOOdpeCker 耽 だ め 旧 C 砂 彌 捌 〇 ゲ
( 森 林 の 分 断 化 が 繁 殖 期 の ア カ ゲ ラ の 社 会 構 造 お よ び 環 境 選 択 に 与 え る 影 響 )
本研究は、北 海道では最も都市域に進出し ているキツツキであるアカ ゲラを対象にし、人為的 な環境改変に伴 う森林の分断化が本種の繁殖 個体群に与える影響を明ら かにするとともに、都市 域 に お け る 鳥 類 群 集 の 多 様 性 を 保 全 す る た め の 基 礎 研 究 を お こ な っ た も の で あ る 。 学位 論文 は全 体で7章 からなる。第1章ではアカゲラの繁殖生態 、および森林の分断化が野 生 動物に与える影 響に関する従来の研究・知見をまとめ、都市域における鳥類群集の研究において、
個々の種の行動 圏や移動分散能カを考慮した 個体レペルでの研究、およ び空間スケールを考慮し たランドスケー プレベルにおける研究の重要 性を指摘し、このような研 究がこれまで欠けていた こ とを 明ら かに した 。 第2章では、本 研究を行った3調査地、すな わち、都市緑地である北海 道 大学構内と付属 植物園を中心とした地域(以 下、北大と略す)、人為的 な環境改変が殆ど行われ ていない北海道 大学苫小牧地方演習林内の原 生保存林地区を中心とした 地域(以下、苫小牧と略 す)、その中聞 的な環境として、都市近郊林 である北海道農業試験場を 中心とした地域(以下、
羊が丘と 略す)の概要をまとめた。第3章では、北大・羊が丘・苫 小牧において,アカゲラの 営 巣木の分布調査 と個体の捕獲・個体識別を行 い、森林の分断化がアカゲ ラの営巣木の密度・分布 パタンおよび婚 姻形態に与える影響を考察し た。営巣木の空間あたりの 密度は苫小牧および羊が 丘 に対 して 北大 で低 く 、森 林面 積あ たり の 密度 は苫 小牧 、 羊が 丘、 北大 の順に高くなった 。 Nearest Neighbor Distanceに基づい て解析した営巣木の分布パタ ンは、苫小牧と羊が丘で均 一 分布、北大では ランダム分布という結果が得 られ、森林の分断化が進ん だ北大では資源となる森 林の空間分布が アカゲラの営巣木の分布パタ ンに強く影響をあたえてい ることが示唆された。苫 小牧と羊が丘で は従来の報告通り、全ての営 巣木で一夫一妻の婚姻形態 で繁殖を行っていたが、
北大では一夫一 妻とともに、アカゲラでは世 界的にも本研究で初めて一 妻二夫の婚姻形態を確認 した。3調 査地の比較から、繁殖期の 社会構造および環境選択に、 森林の分断化が強く影響を 与
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えていることが示唆された。第4章では、北大において、足環による個体識別を行った個体群の 詳細な社会構造の記載と個体レベルの環境利用を調査することにより、繁殖期のアカゲラの雌雄 の行動バタンの違いを明らかにするとともに、森林の空間分布が婚姻形態に与える影響を明らか にした。っがい形成期の雌雄には明瞭な行動パタンの相異が見られ、オスでは造巣行動、ヌスで は採餌行動が行動時間に最も大きな割合を占めていた。また、子育てにおいても、夜間の抱卵・
抱雛は全てオスが行っていた。この様な雌雄の行動の差異がアカゲラにおける一妻二夫を可能に し、メスに複数のっがい相手を獲得することを可能にしていると考えられた。オスのなわばりの 面積、およびなわばり内にしめる森林の面積と、っがいにおける地位には明瞭な相関が見られ、
なわぱりの面積が大きくなるに連れて、またなわばり内の森林面積が大きくなるに連れてオスの っがいの地位は独身、一妻二夫、一夫一妻と変化した。すなわち資源となる森林がモザイク状に 不均質に分布する都市緑地では、オスのなわばりの質に差が生じ、より質の高いなわばりを形成 することのできたオスがメスに選択され、高い繁殖成功度を得ることが明らかとなった。第5章 では、札幌市市街地に設定した65km2の地域を対象に営巣木の分布調査を行いアカゲラのラン ドスケープレベルの生息状況の現状を明らかにするとともに、GIS(地理情報システム)とりモ ートセンシングを用いて、繁殖に成功した個体の育雛期における行動圏利用のデータを元に、生 息地評価モデルを作成した。モデルを札幌市市街地に適用することにより、繁殖可能地域を抽出 した。現在、札幌市市街地におけるアカゲラの繁殖個体群は、小規模な局所個体群に分断され、
局所的な絶滅の可能性が高いことが明らかとなった。第6章では、北大および苫小牧において、
アカゲラが繁殖のために掘った巣穴の二次樹洞営巣性鳥類による利用状況を明らかにし、本種の 鳥類群集におけるキーストーン種としての役割の評価を行った。北大では苫小牧と比較してアカ ゲラの樹洞提供者として(キーストーン種としての役割)の重要性は高く、また本種による継続 的な樹洞の提供が、都市緑地における樹洞営巣性鳥類の多様性を維持する上で重要であることが 示唆された。第7章では以上の結果に基づいて、森林の分断化が、個体レベル・個体群レベル・
ランドスケープレベルの三つのスケールにおいてアカゲラの繁殖生態に与える影響をまとめ、都 市域における野生動物の多様性を維持するためには、広域スケールにおける森林の空間分布を考 慮した緑地管理が必要であると結論した。
本研究は、森林の分断化が生物に与える影響をアカゲラを指標として初めて定量的に明らかに したものであり、地球環境科学の研究としてきわめて高い価値をもっている。とくに森林の分断 化がアカゲラの社会構造や繁殖形態を変えるほどの影響を与えていたことを明らかにした意義 は大きい。また札幌市の緑地環境が危機的な状況にあることをアカゲラを用いて明らかにしたこ とも、本研究の重要な成果といえる。
よって審査担当者一同は、これらの成果を高く評価し、また申請者は堅実かつ熱心であり、研 究者としての資質を十分備えているものと考え、大学院課程における研究や単位取得なども併せ、
申請 者が博士(地球環境科学)の学位を受けるのに充分な資格を有するものと判断した。
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