学 位 論 文 題 名
農 学 博 士 柿 本 茂 八
乳 酸 菌 の 酸 性 ウ レ ア ー ゼ の 性 質 と そ の 応 用 に 関 す る研 究
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
ア ル コー ル飲 料 には ,発 癌 性物 質であるウレタン が含有されており, ウレタン含量を低 減させ る方 法 の開 発は 重 大な 関心 事 とな っていた。著者は ,ウレタンがエチル アルコールと尿素 から生 成す る と推 定し , ウレ タン の 蓄積 抑制のためには前 駆体である尿素の分 解が有効であると 考え,
酸性 ウ レア ーゼ を 適用 して , 通常 酸性である酒類中 の尿素の分解技術を 確立することを目 的に本 研究を行った 。
ま ず ,酸 性ウ レ アー ゼを 生 産し 得る微生物を,広 く自然界および保存 菌株中に検索した 結果,
動物 消 化管 内容 物 およ び糞 便 から の分離株16,324株のうちの700株と, 保存菌株118株のうちの3 株に本活性を 見出した。これら酸 性ウレアーゼ生産 菌の菌学的諸性質 を検討した結果,大部分(98 碕
% ) は ,Streptococcus属,Lactobacillus属 に属 し てい たほ か ,Staphy Zococcus属 ,Bifido bacterium属 ,E.scんeんcん ぬ 属 ,MO曙0ne2ぬ 属 の4属 に も 分 布 し て い た 。 次 に ,己acと06acff2us属 およ び &r印 とococcMs属に 属する酸性ウレ アーゼ生産菌37菌 株の菌 体抽 出 液を 用い て ,こ れら の 産生 する 酸 性ウ レア ー ゼが,電 気泳動的に6夕イプの分子種 に分類 され る こと を示 し た。 各タ イ プか ら代 表 酵素 を1っ ずつ 選び,それらの 分子量,等電点, 酵素活 性お よ び安 定性 に およ ぼすpHおよ び温 度 の影 響を 調 べ, いず れ の性 質に も 多様性がある ことを 明ら か にし た。 酸 性領 域で 最 も安 定に活性を維持し 得た酵素は,己,んrmenとumIF014511,工.
reMとeんRT―5,s.mfとforPG−118由 来 の酵 素で あ り, この 性 質は ,既 知 の中性ウレア ーゼの いずれにも認 められないものであ る。
酸 性 域で 安定 性 の高 い工 , ルrmenとumIF014511, 工.reufeんRTー5,s.mfとforPG一l18由 来の 酵 素を 電気 泳 動的 に単 一 にな るまで精製し,そ の諸性質を明らかに した。精製酵素の 分子量 はそれぞれ220,000,220,000,200,000で,等電点は4.8,4.7,4,6であった。いずれの精製酵素 も分子量の異 なる3サブ ュニットから構成 されており,サブュ ニット分子量は,a:66,000〜68,O 00, ロ :15,000〜16,800,7:8,600〜8,800の範 囲に分布していた。 サブュニットの構 成比は
( ばIロ271)2と 推 定 さ れ , (ば1ロ271)ユ ニッ ト あた り2モ ルの ニ ッケ ルを 含 有し てい た 。
110
3
精製酵素のアミノ酸組成は互いに近似しており,チ口シン,メチオニンの含量か中性ウレアー ゼより高いことが特徴的であった。己,fermenturn
,IF014511由来の酵素のd,月,7サブュニッ トを分離し,それぞれのアミノ酸組成およびN末端アミノ酸配列を決定した。3精製酵素の基質 特異性は同じ特徴を示し,尿素とヒド口キシ尿素を基質とした。それぞれの至適反応pHは,2,2
. 4.5であり,至適反応温度はいずれも65℃であヮた。精製酵素の至適反応pH,37℃におけ るKm値は,それぞれ2.7,2.8,2.OmMであり,Vmax
値は,それぞれ440,580,460Umol/min7mg protein
であ った 。い ず れの 酵素 活性 もpH3
〜9
の 範囲 で安 定であり,一方pH4の 緩衝液中で種々温度で30分間保温したところ,L. fermentz.tm IF014511,己,reuteri RT‑―5由 来の精製酵素活性は50℃まで,S.mitior PG一118由来の精製酵素活性は40℃まで安定であった。3
精製酵素活性ともHg2十,Ag゛,Cuい,パラク口口メリクリ安息香酸,アセトヒドロキサ厶 酸により阻害された。次に,己,fermentum IF014511による酸性ウレアーゼ生産のための最適培養条件の検討を行ワ た。酸性ウレアーゼ生産に対して最適な炭素源はグルコースであり,窒素源はぺプトン,肉工キ ス,酵母工キスであった。尿素を添加して酵素を誘導生産させたところ,単位液量あたり酵素量 は4倍に も増 加し た。
0.005Y6 (W/V
)硫 酸二ッケル6水和物と,O.oosi0(W/V)硫酸マン ガン4〜5水和物の添加が有効であり,これら2
金属塩は酵素生産に対して相乗効果を示した。至適生育温度は
34
〜42℃であり,酵素生産は30 ‑‑36℃の範囲で高く,32℃で最も高かった。そこ で種培養は37℃で,酵素生産培養は32℃で培養した。炭酸ナトリウムを中和剤として培養pHを4
〜4.5に制御することにより,酵素生産量が高くなった。これらの結果をもとに,2,000セ発酵 槽での最適培養条件を設定して培養を行ったところ,酸性ウレアーゼの活性は40units/mEに達 し,これは検討開始時の約20
倍の上昇であった。次いで,L.fermentum IF014511由来の酸性ウレアーゼを用いて,清酒中での尿素除去に景彡 響する種々の要因にっいて調べた。清酒中で保温すると中性ウレアーゼは不安定であったが,酸 性ウレアーゼは安定であり,
30
℃で16日間保温後も,約50%の活性が残存していた。尿素の除去 に対する至適温度は30〜40℃であった。pH4.9以下では,pHが高いほど尿素の除去は速かった。30units/
ゼの酸性ウレアーゼを添加し,15
℃で反応させることにより,4
日間で30ppm
の尿素を 完全に除去することが出来た。一方,30ppmの尿素を含む清酒を,30℃で3月間保温すると120ppb
のウレタンが生成した。これに対し,酸性ウレアーゼで尿素を除去した清酒を同条件で保 温しても,ウレタンの生成は認められず,本酵素がウレタンの生成抑制に有効であることが示さ れた。酸性ウレアーゼ(菌体抽出液)の変異原性および毒性試験の結果,いずれも異常は認められなかった。
著者らが本研究で開発した,酸性ウレアーゼを酒質保全剤として清酒に添加する方法は,国税 庁の認可を経てすでに清酒製造業界において広く実施されて,極めて有効な方法であることが,
工業的規模で実証されている。
学位論文審査の要旨
アルコール飲料には,発癌性物質であるウレタンが含有されており,ウレタン含量を低滅させ る方法の開発は,重大な関心事であった。本論文は,ウレタンの蓄積抑制のためには酒類中に含 まれる尿素の分解が有効であると考え,酸性ウレアーゼを適用して通常酸性であるアルコール飲 料中の尿素分解技術を確立した結果をまとめたもので,総頁数95,表30,図18,引用文献95から なる和文の論文である。その他に関連論文7編が添えられている。主な内容は以下のように要約 される。
1
.酸性ウレアーゼ生産菌の検索とその菌学的性質酸性ウレアーゼを生産しうる微生物を広く自然界および保存菌株中に検索し,703株に本活性 を見出した。これら酸性ウレアーゼ生産菌の菌学的諸性質を検討した結果,大部分(98%)は,
Lactobacillus
属,Stretococcus属に属していたほか,Staphylococcus属,Bifidobacterium
属 ,E
.sc
んe
んc
ん ぬ 属 ,Mor
・g
. 。neZ
ぬ 属 の4
属 に も 分 布 し て い た 。2
.酸性ウレアーゼの多様性Lactobacillus
属およびStreptococcus属に属する酸性ウレアーゼ生産菌37菌株の菌体抽出 液を用いて,これらの生産する酸性ウレアーゼが,電気泳動的に6夕イプの分子種に分類される ことを示した。各タイプから代表酵素を1っずつ選び,それらの分子量,等電点,酵素活性およ び安定性におよぼすpH
および温度の影響を調べ,いずれの性質にも多様性があることを明らか112
司 哉
男
哮 誠
房
野 葉
田
大 千
冨
授 授
授
教 教
教
査 査
査
主 副
副
に した 。己 . fermentum IF014511,L. reuteri RT―5,sImitior PG―118由来 の酵 素 は酸 性 領 域で 最も 安 定に 活性 を 維持し ,この性質は,既知 の中性ウレアーゼ のいずれにも認め られない こ とを 示し た 。
3. 精 製酸 性ウ レ ア― ゼの 蛋 白化 学的 お よび 酵素 学 的性 質の 解 析
酸 性域 で 安定 性の 高 い, 己,fermentum IF014511, 工 .reuteri RT←5,S.mitior PG―118 由来 の酵 素を電気泳動的に単 一になるまで精製 した。3精 製酵素の分子量は200,000〜 220,000, 等電 点は4.6〜4.8の 範囲 に 分布していた。い ずれの酵素も異な る3種のサ ブュニット(血, 居,
ア) から 成 り, その 構 成比 は(aiロ27|)2と推 定され た。更に,金属含 量,アミノ酸組成 ,サ ブュ ニッ ト のN末 端ア ミノ 酸 配列 ,な ど の蛋 白化 学 的特 性を 明 らか にし た。一方,3酵素は ,尿 素と ヒド 口 キシ 尿素 を 基質 とする同 じ基質特異性を有す ることを示すとと もに,それぞれの 至適 反 応pH, 至 適 温 度 ,KmとVmax値 , 安 定 なpH領 域 お よ び 熱 安 定 性 , 阻 害 剤 な ど の 酵 素 学 的性 質を 明 らか にし た 。
4. 酸性 ウレ ア ーゼ 生産 条 件の 検討
工,fermentum IF014511に よ る酸 性ウ レ アー ゼ生 産 のた めの 最 適条件 の検討を行った。 最適 な 炭素 源 はグ ルコ ー スで あり,窒素 源はペプトン,肉 工キス,酵母工キス であった。尿素添 加に よ り酵 素 の誘 導生 産 がみ られ , 酵素 量は4倍に 増加し た。硫酸二ッケルと 硫酸マンガンの添 加が 有 効で あ り, これ ら2金 属 塩は 酵素 生 産に 対し て相乗 効果を示した。種培 養を37℃に酵素生 産培 養 を32℃ とし,炭酸ナトリ ウムを中和剤として 培養pHを4〜4.5に制御しっ つ2,000セ酉發酵 槽で 培 養し た とこ ろ, 酸 性ウ レア ー ゼの 活性 は 検討 開始 時 の約20倍 に 上昇し ,40units/泌とい う高 い 価に 達 した 。
5.酸性 ウレアーゼによる 清酒中の尿素除去と ウレタン生成の抑 制
酸性ウレアーゼ を用いて清酒中の 尿素の除去活性に影響する因子にっいて明らかにするとともに,
30units/ゼ の酸 性ウ レ アー ゼを 添 加し ,15℃ で反 応さ せ ると ,4日 間で30ppmの尿素を完全 に除 去す るこ と を確 認し た 。一 方,30ppmの 尿素 を含 む 清酒 を,30℃で3月 間保温すると120ppbのウ レタンが生成した 。これに対し,酸 性ウレアーゼで尿 素を除去した清酒を 同条件で保温してもウレ タンの生成は認め られず,本酵素は ウレタンの生成抑 制に有効であること を示した。酸性ウレアー ゼ ( 菌 体 抽 出 液 ) の 変 異 原 性 お よ び 毒 性 試 験 の 結 果 , い ず れ も 異常 は 認め られ な かっ た。
本研究 で著者 らが開 発し た酸性 ウレア ーゼを ウレ タン生 成抑制 のため の酒質保全剤として清酒 に 添加 する方 法は, 国税庁 の認 可を経 て清酒 製造界 で広く 実施 されて おり,極めて有効な方法で あ るこ とが工 業的規 模で実 証さ れてい る。本 研究は ,この よう に産業 上重要な貢献をすると同時 に ,酸 性ウレ アーゼ を精製 し, 酵素学的あるいは蛋白化学的に詳しく調べた初めてのものであり,
学 術的 にも高 く評価 される もの である 。
よって 審査員 一同は ,別 に実施 した学 力確認 試験 の結果 と合わ せて, 本論文の提出者柿本茂八 は 農学 博士の 学位を 受ける に充 分な資 格があ るもの と認定 した 。
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