博 士 ( 工 学 ) 金 東 郁 学 位 論文 題 名
マ イ ク ロ マシ ン 領 域 にお け る 流 体 シ ス テ ム に 関 す る基 礎 的 研 究
学 位 論 文 内容 の 要 旨
近 年 、VLSI加 工技 術を 転用 し、 シリ コン ウェ ハー 上に 、機 械をサブミク口ンの寸法 で設 計 し、微小な機構部品を一体加工する手法が発表されて以 来、マイクロメカニカル シ ス テ ム(Micro Mechanical System、 以 下MMS)の 研 究 が 盛 ん に 行 わ れ て い る 。 こ れま で に、静電型モータや歯車機構等、様々なアクチュエータ や動力伝達機構が報告さ れて い るが、センサ類を除くと実用的なシステムは未だ開発さ れていない。これまで開 発 され てき たMMS、特 にVLSI加 工技 術を 応用 した もの は、 平面 的 な構 成に 限ら れて い て、 任 意の方向に動カを伝達することは困難であること、摩擦 ・摩耗によって寿命が短 い こと など が指 摘さ れて いる 。現 在 、MMSの 応用 分野 とし ては 、 医療 や生 物工 学が 最 も期 待 されている。この場合、体内を含めた使用環境、使用目 的を考慮すると、システ ムと 流 体との相互作用が重要な役割を果たすと考えられる。今 までに流体を利用するマ イク ロ システムとして、微小流体回路が細胞操作等の分野で研 究されているが、回路中 の流 体 が示すカ学的な特性に関しては詳しく調べられておらず 、流体とその中の浮遊物 を対 象 として詳細に研究することが必要であると思われる。ま た流体回路を動力伝達に 用い る と3次元 的な 構成 が簡 単な 機構で実現できると期待でき 、他分野での応用にも有 用であると思われる。
本研 究で は、 将来 の医 療分 野で のMMSの基 礎的 研究 とし 、流 体 を利 用し たシ ステ ム を対 象 として、動力伝達に関するカ学的特性の把握、長寿命が 期待できる流体アクチュ エー タ の開発、微小流体回路に適したシステム製作法の開発を 目的としてマイクロシリ ンダ で の圧力伝達特性や過渡応答特性の検討、磁性流体を外部 磁場で駆動し、流体その もの を 直接駆動する新しいアクチュエータの開発、マイク口光 造形装置を用いた微小流 体回路の試作を行った。
本論 文は 次の7章に よっ て構 成さ れて いる 。以 下に 各章 につ い ての 概要 を述 べる 。 第1章は 研究 の背 景と 目的 であ り 、MMS研 究の 意義 と本 研究 の目的について述べた。
第2章で は、 緒論 で、 これ まで のMMSの研 究動 向を 述べ 、本 研究の進展方向の指標と 位 置 づ け を 行 っ た 。 ま た 、 本 論 文 と 関 連 す る 流 体 力 学 理 論 に つ い て 概 説 し た 。 第3章で は流 体を 利用 するMMSの 基礎 的研 究と して 、毛 細管 を利用したマイク口シリ ンダ シ ステ ムに おい て圧 カ一 流速 特性について検討した。内径70〜600Umの毛細管にお いて 様 々な粘度のグリセリン水溶液を使用して流体の圧力一流 速の関係を調べた結果、
層流 の 条件下のハーゲン・ポァズイユ方程式によって計算され た値と実験結果がよく一 致す る ことが示され、実験したサイズにおけるハーゲン・ポァ ズイユ方程式の有効性が 確認 さ れた 。次 に、 カン チレ バー とPSDセンサによる光テコ原 理を用いた微小力測定器 を開発し、マイク口シリンダにおいての圧力伝達の特性を調べた。内径200,400,600pmヽ
長さ32mmの毛細管と直径150,330,550lnn、長さ6rrimのプランジャによって構成された マ イク ロシ リン ダに おい て、加える圧カをゆっくりと増減したとき に伝達されたカを測 定 した 。測 定さ れた カは 、与えた圧カを毛細管断面積で換算した値 以下であるが、プラ ン ジャ 断面 積で 換算 した 値を上回ちており、極端な圧力損失はなく 、このシステムを利 用 し た マ イ ク ロ 流 体 圧 シ ス テ ム の 実 用 化 の 可 能 性 が 示 唆 さ れ た 。 第4章は 上記 のマ イク ロ シリ ンダ にお ける 過渡 応答を検討した。 システムを板ばねを 負 荷と する シリ ンダ とし て単純化し、運動方程式を立てた数式モデ ルを構成してシミュ レ ーシ ョン を行 い、 上記 した微小力測定器を用いた実験結果との比 較、検討を行った。
モ デル には 、減 衰項 とし て平 行2平 板問 の流 れに おける移動平板に 作用するせん断応カ を 用い てい る。 実験 にお いては作動流体の粘度、カンチレバーの固 有振動数、毛細管の 長 さを パラ メー タと して 変化させた。この系は流体の粘性抵抗によ る粘性減衰系であっ て 、減 衰比 をパ ラメ ータ としてまとめた結果、実験データとシミュ レーションは減衰比 c=0.05以上 の場 合、 精度 よくシミュレート出来た。また、カを受け る対象物(カンチレ バ ー) の固 有振 動数 の違 いに よっ て、 過渡 応答 波形 が 依存 する とい う結 果が 得られ、
MMSを 設 計 す る 際 に は 、ア クチ ュエ ータ が動 作す る対 象を 十分 に考 慮す る 必要 があ る ことが示された。これらの ことから、減衰比て〓O.05以上の場合のマイクロシリンダシス テ ムに おい ては マク ロサ イズの流体力学の方程式を用いて設計が可 能であることが示唆 された。
第5章は 流体 その もの を 直接 駆動 する 、新 しい マイクロアクチュ エータとして、外部 か らの 磁場 によ り磁 性流 体を駆動する方式を考案した。ギャップを 持つ環状鉄心ソレノ イ ドを 製作 し、 その ギャ ップ間に磁性流体を入れた毛細管を置いて アクチュエ―夕を構 成 した 。本 構成 では 、ダ イヤフラムなどの可動部を必要としないた め可動部の疲労によ る 破壊 など が極 力抑 えら れ、寿命の長いアクチュエータが開発でき ると期待できる。ソ レ ノイ ドの ギャ ップ の磁 場等をパラメータとして、発生可能な磁気 圧について検討し、
マ イク 口磁 性流 体ア クチ ュエ ータ の実 現可 能性 につ いて検討した。内径70〜400Umの毛 細 管を 使用 し、 直流 磁場 を加えた場合、毛細管の一端に静的な圧カ をかけたときに磁場 によって毛細管内の磁性流 体を保持できる磁気圧と磁場の強さは、ほば線形関係を示し、
理 論式 での 計算 値と 比較 すると約1.3倍 の値が得られた。また、2組 の磁性流体とソレノ イ ドで 構成 した 、模 擬マ イクロアクチュエータを用いて、ソレノイ ドに流れる電流を交 互 にON/OFFする こと によ って 、磁 性流 体を 往復 運動 さ せた 際に 生ず る動 的な 磁気圧を 検 討 し た 結 果 、 毛 細 管の 内径 が70〜200Umの 場合 、静 的条 件で 得ら れた 磁 気圧 の80% 以 上 で 、 毛 細 管 の 内 径 が70Umの 場 合 、 磁 場440kA/mで 約lOOmmHgの 磁 気 圧 が 得 ら れ て お り 、 往 復 型 の マ イ ク ロ ア ク チ ュ エ ー タ の 可 能 性 が 示 唆 さ れ た 。 第6章で は、 マイ ク口 加 工用 光造 形装 置の 試作 とマイクロ構造物 の製作について述べ る。3次元的なカ伝達を行う要素を製作するには完全な3次元的な加工手段が必要である。
光造形法は、(ニADによっ て作られた目的形状の断面データさえあれば、自由曲面や中空 形 状な ど従 来の 加工 法で は作ることが困難であった形状も実体化す ることができるとい う 特徴 を持 ち、 マイ クロ システム加工用として活用する試みがなさ れている。試作した マイク口光造形装置は平面(X―Y平面)で約5んm、深さ(Z方向)で数十ルmの加工精度が得 ら れて おり 、深 さ方 向の 加工精度の改善により、マイク口加工法と しての利用可能性は 充 分で ある と思 われ る。 また、試作したマイク口光造形装置を用い て微小流体回路を試 作 し、 応用 の可 能性 を確 認した。マイク口アクチュエータの製作の みならず、細胞操作 等 、 様 々 なMMSの 製 作 に適 用可 能で ある こと が示 唆さ れた 。こ れま での マ イク 口加 工 装 置 と 比 ぺ 簡 単 な 装 置で マイ クロ 加工 が可 能 であ り、 試行 錯誤 の多 いMMS研究 の手 頃 な加工手段として有効であ ると考えられる。
第7章 は 本 論 文 の 結 論 であ り、 本研 究で 得ら れた 結諭 を総 括し て述 ベ、 結 びと した 。
学 位論文審査の要旨
学 位論文題名
マイク口マシン領域における 流体システムに関する基礎的研究
近年、マイク口メカニカルシステムが盛んに研究されているが、センサ類を除 いて具体的なアプリケーションが検討された例は殆ど無い。このような状況で、
実用化が最も期待されているのが医用工学の分野であり、手術用内視鏡の先端の 可 動 部 な ど 、 サ ブ ミ リ オ ー ダ ー の 機 構 の 適 用 が 見 込 ま れ て い る 。 本論文はこのような背景のもとに、マイクロ流体システム、特に従来検討例の 無い液体を媒体とするシステムの、サブミリオーダーにおける実用可能性を探る ことを目的としており、流体システムの基本機構であるマイクロシリンダにおい てのカ伝達特性、ダイアフラムなどの機構を必要とせず、非接触で駆動するため 長寿命が期待できる磁性流体マイクロアクチュエータの検討、サブミリ程度の管 路などの製作に適した光造形装置の試作等のシステム構成・製作の全般にわたる 検討をまとめたものである。本論文は第7 章で構成され、各章についての概要を 述べる。
第1 章は、研究の背景と目的であり、流体を使用するマイクロメカ二カルシス テム研究の意義と本研究の目的について述べている。
第2 章に、緒論として、これまでのマイクロメカ二カルシステムの研究例につ いてマイク口理工学、マイクロアクチュエー夕、マイク口加工法の各分野毎に研 究 の 現 況 と 問 題 点 を 概 説 し 、 本 研 究 の 位 置 づ け を 示 し て い る 。 第3 章では、サブミリオーダの機構を対象とし、マイク口流体システムの基本 機構であるマイクロシリンダシステムの特性を調べた結果について述べている。
動力伝達時の圧力損失ならびにステップ入力時の過渡応答について、毛細管を使 用したシリンダによる実験とマイク口シリンダの数式モデルのシミュレーション
夫 之
猛 幸
敏 克
正
田 本
野 田
勇 山
狩 池
授 授
授 授
教 教
教 教
査 査
査 査
主 副
副 副
によ って 検討し、マイクロレベルにおいての流体圧システム実現可能性を確認し た上、設計に有用な数式モデルを得ている。
第
4章 では、 機構 部品 を必 要と せず 、流体そのものを直接駆動する、新しいマ イク 口ア クチュエータとして、外部からの磁場により磁性流体を駆動する磁性流 体マ イク ロアクチュエ一夕を提案した。基礎的データとして、環状ソレノイドと 毛細 管を 使用したシステムにおいて、加えた磁場と得られる圧カの関係を調ベ、
アク チュ エー タと して の実 用可 能性 を検討 し、 毛細 管の 内径 が70um の場合、磁 場 の 強 さ
480kA/mで
100mmHg位 の 動 磁 気 圧 が 得 ら れて いる こと から 、人 の血 管 内 で の ア プ リ ケ ー シ ョ ン が 動 作 が 可 能 で あ る こ と を 明 ら か に し て い る 。
第
5章 では、 マイ クロ 流体 シス テム の製作を目標とする加工法としてマイク口 光造 形法 を検 討し てい る。 マイ ク口 光造形 装置 を試 作し 、加 工精 度の等の基礎 デー タを 収集し、三次元の流体回路の製作可能性を検討している。試作したマイ ク 口 光 造 形 装 置 で は平面
(X―
Y平 面) で約
5,um、深さ
(Z方 向) で数 十pm の加 工 精度 が得 られており、マイクロメカニカルシステムの加工機としての微小流体回 路への利用可能性を示唆している。
第
6章 では、 医療 にお ける マイ クロ メカ二カルシステムの応用例として、マイ ク口 グリ ッパ、能動屈曲型内視鏡、インジェクションポンプを想定し、本研究で 検討 して きたサブミリオーダのマイク口シリンダと磁性流体アクチュェータを用 いて仮設計を行い、適用の可能性を検討している。
第7 章は、本論文の結論であり、本研究で得られた結論を総括して述べている。