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博 士( 薬学 )桂 木能 久 学 位論 文題 名 Development of Specific Inhibitor for Bitter Taste and lVIechanism of its Inhibitory Action

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Academic year: 2021

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     博 士( 薬学 )桂 木能 久      学 位論 文題 名

Development of Specific Inhibitor for Bitter Taste     and lVIechanism of its Inhibitory Action

(苦味抑制剤の開発とその作用機構に関する研究)

学位論文内容の要旨

  多くの毒物は苦味を呈するので、苦味物質は動物にとっては忌避物質となっている。人間にお いても、多くの苦味は不快感を与えるため食品工業や製薬業において重要な問題となっている。

とくに、「良薬は口に苦し」との諺にあるように、大半の薬は苦味を呈するので、苦味の抑制は 薬剤学の分野において克服すべき重大な課題となっている。

  本研 究では、ルン脂質の成分であるホスフんチジン酸(PA)と蛋白質から作製したりポ蛋白質 が苦 味を選 択的に抑 制する 効果を 見いだした。PAを含むりポ蛋白質は、苦味の受容サイトをマ ス キ ン グ す る と い う 従 来 に な い 機 能 で 苦 味 を 抑 制 す る こ と が 明 か と な っ た 。   リポ蛋白貿のカエル味覚応答への作用

脂 質一蛋白質複合体(リポ蛋白質)の作製には、脂質としてPA,ホスファチジルコリン(PC),

ホスフんチジルセリン(Ps),トリアシルグリセロール(TG)およぴジアシルグリセロール(DG)を 用い、蛋白質としては食品由来の蛋白質であるp‑ラクトグロブリン(LG),ロ ラクトアルプミン (LA),オボアルブミン(OVA),カゼインおよびウシ血清由来アルブミン(BS A)を用いた。リポ蛋 白 質 は 、 脂 質 お よ び 蛋 白 質 を 水 中 で 分 散 さ せ 凍 結 乾 燥 す る こ と に よ り 作 製 し た 。   リポ蛋白質の味覚に対する効果は、カエル舌咽神経(味覚神経)応答を測定することにより、

定量的に評価した。リポ蛋白質の味覚レセプターへの直接的な作用を検討するために、あらかじ め りポ蛋 白質を カエル 舌表面 に10分間前処理し、その後リポ蛋白質を含まない味溶液で刺激し た 。 そ の 結果 、PAとLGか ら なる り ポ蛋 白質(PA‑LG)はキニ ーネ, パバベ リン,L‑ロイシ ン の ような苦味物質に対する応答を抑制するのに対し、塩味物質(NaCI)、酸味物質(酢酸)、甘 味 物質(ガラクトース、Lーアラニン)の応答は抑制しなかった。このような効果は、PAを含む りポ蛋白質(PA‑LA,PA‑OVA,PA‑C as ein)すぺてに認められ、苦味抑制効果は蛋白質の種類には 依 存しな いこと がわか った。 また、PSを含む りポ蛋 白質は、 弱い抑 制作用 を示したが、PCや TG,DGを含 むりポ蛋 白質に は抑制作用はなかった。すなわち、苦味の抑制効果の発現にはPAが 最も効果的であることが明らかになった。

  っぎに、リボ蛋白質(PA ‑LG)の濃度を変えて、各種苦味応答および塩応答に対する抑制効果を 調 べた。その結果、NaCIの応答はまったく抑制されないのに対して、用いた4種類の苦味物質に 対する応答はー様に抑制された。これらの苦味物質は異なる苦味受容サイトで受容されることが 考えられているが、その抑制曲線は同じ曲線上に描かれることがわかった。苦味物質は疎水的で あることから、その受容サイトも疎水性であることが推測されている。おそらく、リポ蛋白質は 味 受 容 膜 の 疎 水 領 域 に あ る 苦 味 受 容 サ イ ト を 一 様 に ブロ ッ ク し たも の と 考 えら れ る 。

  リポ蛋白貿の疎水領域への吸着

  リ ポ蛋白 質のカエル舌乳頭表面への吸着を調べた。螢光ラベルした脂質とLGからりポ蛋白質 を作製し、カエル舌表面を処理した後に、舌を洗浄し舌乳頭の切片を螢光顕微鏡で観察した。そ の 結果、 苦味抑 制効果 の強いPA‑LGは非常によく吸着することがわかった。一方、苦味を抑制 し ないPC‑LGは 、ほと んど吸 着しな かった 。おそ らく、PA‑LGは舌乳頭表面の疎水性部位に吸 着するものと思われる。

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  そ こで、っぎにDSPC(ジステア ロイルホスファチジルコリ ン)を疎水性のモデル膜とし て用 い、 各種リポ蛋白質の吸着能を比 較した。水晶振動子の表面 をDSPC膜でコ―トし、そこに 吸着 するりポ蛋白質の 量を水晶振動子の周波数変化 により評価した。その結果、苦味抑制作用を有す るり ポ 蛋白 質ほ どDSPC膜 へ よく 吸着 する こ とが わかった。DSPC膜表面の正味電荷はゼロ であ る か ら 、PA‑LGのDSPC膜 へ の 吸 着 に は 疎 水 的 相 互 作 用 が 働 い て い る も の と 推 察 さ れ る。

  以 上の結果は、PAを含むりポ蛋 白質が、味受容膜上の疎水 的部位に吸着することにより 苦味 応答 を抑制することを示唆する。PAを含むりポ蛋白質は、苦 味応答だけを抑制し、他の味 質に は影響しない。甘 味、塩味、酸味、苦味のうち 、苦味物質だけが疎水性であり、他の味物質は親 水性 物質である。したがって、苦 味以外の受容サイトは親水 的であると思われる。PAを含 むり ポ蛋白質は味受容 膜の疎水性部位に吸着すると 考えられるので、親水性的な受容部位には影響を 与えず、結果とし て苦味が選択的に抑制される ものと示唆される。

  ヒト味覚応答に対する りポ蛋白質の効果

  ヒトの味覚に対する効 果は等価濃度試験法により定量的に行った。カエル舌咽神経を測定した 実験でぼ、舌表面をあら かじめりポ蛋白質で前処理した後に苦味刺激を行ったが、ヒトの場合に はこのような方法は適当 でない。ヒトの場合は、苦味溶液の中にりポ蛋白質を添加した溶液の苦 味強度を評価した。その 結果、カエルを用いた実験と 同様に、PAを含むりポ蛋白 質に顕著な苦 味抑制効果が認められた 。3.0ゲ。PA‑LGを含む各種の味物質への抑制効果を調べたところ、塩味 (NaCI) 、甘 味( 薦糖 )には抑制効果は認め られなかったのに対し、用い た12種類の苦味をす べて抑制した。なかでも 、疎水性の強い苦味物質を強く抑制した。ヒトでの評価の場合は、苦味 物質 とPA‑LGが共 存し た 水溶 液の 苦味 を評 価 しているため、苦味物質とPA‑LGの吸着が考えら れる 。そ こで 、 各苦 味物質がPA‑LGにどの程 度吸着するかを測定したとこ ろ、疎水性の強い苦 味物 質はPA‑LGへ 強く 吸 着す るこ とが わか っ た。したがって、これらの 物質の場合は、PA‑LG が溶液中で苦味物質へ吸 着することが、苦味抑制に大きく寄与しているものと思われる。一方、

比較 的疎 水性 の 弱い 苦味 物質 はほ と んどPA‑LGへ吸着しないので、PA‑LGが舌表面の苦味受容 サイトをマスクすること により苦味抑制が起こると考 えられる。

  苦 味抑制剤の応用

  苦 味抑制剤を工業的に生産する場合には、安価に製造することが大きな課題となる。そこで、

苦 味 抑制 のkey物 質で あり 、PA‑LGに比べ安価にそして簡単に 製造できるPAを苦味抑制剤 とし て用 いることにした。PAの苦味 抑制能を調べたところ、各種 の薬物の苦味および食品の苦味を 抑制 することが明らかとなった。苦味が問題になっている医薬品や食品へ広く応用できるものと 思わ れる。

まとめ

[1]カエル舌咽 神経応答を測定する実験によ り、PAを含むりポ蛋白質が 、苦味を抑制するこ     とを見いだした。抑制効果は苦味に選択的であり、酸味、甘味、塩味に|ま抑制効果は認め     られなかった 。

[2]PAを含むり ポ蛋白質でカエル舌表面を前 処理し、リポ蛋白質を含ま ない苦味溶液を与え     ると、苦味が 抑制された。このことは、PAを含むりポ蛋白質が味受容 膜の苦味受容サイ     トヘ吸着し、 苦味を抑制することを示唆 した。

[3]PAを含むり ポ蛋白質の舌乳頭表面およぴ 疎水膜への吸着と苦味抑制 の聞には、良い相関     関係があった 。このことは、リポ蛋白質 は味受容膜の疎水性部位に吸着することにより苦     味を抑制する ことを示唆した。

[4]ヒトヘ応用 する場合の苦味抑制の機構

    1) PAを 含 む り ポ 蛋 白 質 が 、 味 受 容 膜 の 苦 味 受 容 サ イ ト ヘ 吸 着 す る     2) 苦味 物 質( 疎水 性の 強い 苦 味物 質の 場合 ) がPAを含 むル ポ蛋 白 質に 吸着し、苦味     物質が味細胞 を刺激できないため苦味が 抑制される

    以上の2つの 機構により、苦味が抑制され ることがわかった。

[5]苦味抑制剤 として、さまざまな医薬品および食品への応用が可能であることがわかった。

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(3)

学位論文審査の要旨 主査

副査 副査 副査

教 授    栗 教 授    加 助 教 授    三 講 師    宮

原 堅 三 茂 直 樹 宅 教 尚 内 正 二

学 位 論 文 題 名

Development of Specific Inhibitor for Bitter Taste       and Mechanism of its Inhibitory Action

(苦味抑制剤の開発とその作用機構に関する研究)

   申 請 者 は , 味 覚 の 研 究 を 行 っ て き た が , こ の ほ ど ホ ス フ ァ チ ジ ン 酸 ( P A) と 蛋 白 質 か ら 作 製 し た り ポ 蛋 白 質 が 苦 味 を 選 択 的 に 抑 制 す る こ と を 見 い だ し , こ の 結 果 を ま と め て 学 位 論 文 を 提 出 し た .

   本 論 文 の 第 一 章 で は , リ ポ 蛋 白 質 の カ エ ル 味 覚 応 答 へ の 作 用 を 取 り 上 げ て い る . 研 究 で 用 い た り ポ 蛋 白 質 は 、 リ ン 脂 質 お よ び 中 性 脂 質 と 蛋 白 質 を 水 中 で 均 一 に 混 合 さ せ た 後 、 凍 結 乾 燥 す る こ と に よ り 作 製 し て い る . リ ポ 蛋 白 質 の 味 覚 に 対 す る 効 果 は 、 カ エ ル 舌 咽 神 経 ( 味 覚 神 経 ) 応 答 を 測 定 す る こ と に よ り 、 定 量 的 に 評 価 し た . リ ポ 蛋 白 質 の 味 覚 レ セ プ タ ー へ の 直 接 的 な 作 用 を 検 討 す る た め に 、 あ ら か じ め り ポ 蛋 白 質 を カ エ ル 舌 表 面 に 10 分 聞 前 処 理 し 、 そ の 後 リ ポ 蛋 白 質 を 含 ま な い 味 溶 液 で 刺 激 し た , そ の 結 果 、 PA と 日 一 ラ ク ト グ ロ ブ リ ン ( LG ) か ら な る り ポ 蛋 白 質 ( PA

― LG ) は 苦 味 物 質 に 対 す る 応 答 を 抑 制 す る の に 対 し 、 塩 味 物 質 、

酸 味 物 質 、 甘 味 物 質 の 応答 は 抑 制 し な か っ た . こ の よう な 効 果は 、

PA を 含 む り ポ 蛋 白 質 す べ て に 認 め ら れ 、 苦 味 抑 制 効 果 は 蛋 白 質

の 種 類 に は 依 存 し な い こ と が わ か っ た . ま た 、 ホ ス フ ァ チ ジ ル セ

リ ン ( PS ) を 含 む り ポ 蛋 白 質 は 、 弱 V ` 抑 制 作 用 を 示 し た が 、 ホ

ス フ ァ チ ジ ル コ リ ン ( PC ) や 中 性 脂 質 を 含 む り ポ 蛋 白 質 に は 抑

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制作用はなかった.すなわち、苦味の抑制効果の発現にはPA が 最も効果的であることが明らかにした.

   っ ぎに 、 PA を 含 むり ポ 蛋 白 質 であ る PA ― LG の濃 度を 変え て、各種苦味応答および塩応答に対する抑制効果を調べている.

その 結果、 NaCl の 応答は まっ たく抑制されないのに対して、

用シヽた4 種類の苦味物質に対する応答は一様に抑制された.苦味 物質は疎水的であることから、その受容サイトも疎水性であるこ とが推測されている.おそらく、リポ蛋白質は昧受容膜の疎水領 域にある苦味受容サイトを一様にブロックしたものと推定して しヽる・

   本論文の第二章では,リポ蛋白質の疎水領域への吸着を地理扱 っている.まずりポ蛋白質のカエル舌乳頭表面への吸着を調べて いる.螢光ラベルした脂質と LG からりポ蛋白質を作製し、カエ ル舌表面を処理した後に、舌乳頭の切片を螢光顕微鏡で観察した.

その 結果、 苦味抑 制効果 の強 い PA − LG は非常によく吸着する こと を明ら かにし た.一 方、 苦味を抑制しない PC − LG は、ほ とん ど吸着 しなか った. おそ らく、 PA ― LG は舌乳頭表面の疎 水性部位に吸着するものと推定している.

   そ こで、 っぎに DSPC ( ジス テアロイルホスフヲチジルコリ ン)を疎水性のモデル膜として用い、各種リポ蛋白質の吸着能を 比較した.その結果、苦味抑制作用を有するりポ蛋白質ほどDS PC 膜 へよ く 吸 着 す るこ と を み い だし た . DSPC 膜表 面の 正味 電 荷 は ゼ ロ で あ る か ら 、 PA ー LG の DSPC 膜 へ の 吸 着 に は 疎 水的相互作用が働いているものと推察した.

   以上の結果i ま、PA を含むりポ蛋白質が、味受容膜上の疎水的 部位に吸着することにより苦味応答を抑制することを示唆する.

PA を含むりポ蛋白質は、苦味応答だけを抑制し、他の昧質には 影響しない.甘味、塩味、酸味、苦味のうち、苦味物質だけが疎 水性であり、他の味物質は親水性物質である.したがって、苦味 以外の受容サイトは親水的であると思われる.PA を含むりポ蛋 白質は味受容膜の疎水性部位に吸着すると考えられるので、親水 性的な受容部位には影響を与えず、結果として苦味が選択的に抑 制されるものと解釈した.

   本論文の第三章では,ヒト味覚応答に対するりポ蛋白質の効果

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を取り上げている.ヒトの味覚に対する効果は等価濃度試験法に より定量的に行なった.ヒトの場合は、苦味溶液の中にりポ蛋白 質を添加した溶液の苦味強度を評価した.その結果、カエルを用 いた実験と 同様に、 PA を含むりポ蛋白質は塩味や甘味は抑制し なかったの に対し、用いた 12 種類の苦味をすべて抑制した.な かでも、疎水性の強い苦味物質を強く抑制した.ヒトでの評価の 場 合は 、苦 味 物質 と PA ー LG の吸 着 が考 えられ る.そこで、各 苦 味物 質が PA ー LG に ど の程 度吸 着 する かを測 定したところ、

疎 水 性 の 強 い 苦 味 物 質 は PA ー LG ヘ 強 く 吸 着 す る こ と を 明 ら か に し た . し た が っ て 、 こ れ ら の 物 質 の 場 合 は 、 PA ー LG が 溶液中で苦味物質へ吸着することが、苦味抑制に大きく寄与して いるものと推定した.一方、疎水性の弱い苦味物質はほとんどP A ー LG ヘ 吸 着 し な ぃ の で 、 PA ー LG が 舌 表 面 の 苦 味 受 容 サ イ トを マス ク する こと に より 苦味 抑 制が 起こると推定 した.

   本論文の第四章では,医薬品および食品への応用を取り上げて いる.医薬品や食品へ応用する場合は、製造に関るコストなどを 考慮する必要がある.そこで、実用化には、苦味抑制のキー物質 で あり 、 PA を含 む りポ 蛋白 質 に比 べ安 価 にそして簡単に製 造 できる PA を単独 で用いたところ、薬物や食品の苦味を抑制する ことを明らかにした.

     これまで、苦味を選択的に抑制する物質は見っかっておらず、

今後、医薬品や食品への応用が期待されている.以上のように,

申請者は新しい苦味抑制剤を開発し,その作用機構を明らかにし

た.したがって,本研究は博士(薬学)の学位を授与するに値す

る論文であると判定した.

参照

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