博 士 ( 水 産 科 学 ) 島 崎 光 臣
学位論文題名
Phylogenetic Systematics of the Family Ogcocephalidae(Lophiiformes) (アカグツ科魚類の系統分類学的研究)
. 学 位 論 文 内 容 の 要 旨
ア カグ ツ科 魚類はアンコウ目に属し,世界の暖海域に広く分布する底生性魚類であり,
10
属
63種 が含 まれる(Bradbury, 2003) .本科魚類は,頭部が一般に縦扁し,円盤形あるい は三 角形 を呈 する,頭部に誘引突起を収納する誘引突起腔がある,体が小棘状の鱗で覆わ れるなどの特徴を持つ.従来本科魚類の系統類縁関係に関する研究は僅かで(例.Bradbury,
1967),しかも骨格系・筋肉系などの解剖学的な知見が少ないため,それらの研究では比較 解剖学的形質がほとんど用いられていない.
そ こで ,本 研究はアカグツ科魚類の全骨格系・全筋肉系の比較解剖を行い,形態学的特 徴を 詳細 に記 載し,それらを基に本科の単系統性の検証,姉妹群の推定,科内の系統類縁 関係 の解 析を 行い,得られる系統仮説に基づく本科の分類体系を新たに提唱することを目 的と して 行わ れた.さらに系統仮説に基づき,本科魚類の体形および捕食様式の進化と,
起源の中心および系統分散について考察した.
【 方 法 と 材 料 】 ア カ グ ツ 科魚 類
10属
34種 お よ び 本 科 以 外 の ア ン コ ウ 目 魚 類
9科
9種 の 骨格 系・ 筋肉 系の 比較 解剖 を行 った .本 研究 では2 段階 の系 統解 析を 行い ,第1 解析では 本科 の単 系統 性の 検証 と姉 妹群 の推 定を ,第
2解析では科内の系統類縁関係の推定を行っ た.系統解析にはPAUP*4.Obl0 (Swofford ,2002) を用い,最節約基準の下で最適樹を求めた,
形 質 の 極 性 の 決 定 には 外群 比較法 を用 い, 形質 の最 適化 には 変換 促進
(ACCTRAN)と変 換 遅延(DELTRAN) を採用した.
【 形態 学的 特徴 の記 載】ア カグ ツ科 魚類
34種 を対 象に 全骨 格系 ,全 筋肉 系お よび外部形 態 の形 態学 的特 徴を 詳細に記載し,科内における形態変異を明らかにした.以下に記載し た 体部 位と 系統 解析 に用い た形 質数 を示 す.
神 経頭 蓋(20 形質 ), 顎(
12), 誘引 突起
(9),懸 垂骨(11 ),舌弓(3) ,鰓弓(13) ,肩帯
(5), 腰 帯
(2), 脊 柱 ・ 不 対 鰭
(0), 尾 骨
(5), 頬 部 筋 肉
(7), 頭部 筋肉 (1 ) ,誘 引突 起
筋 肉
(2), 頭 部 腹 面 部 筋 肉
(4), 鰓 弓 部 筋 肉 (
18), 肩 帯 部 筋 肉 (
1) , 腰 帯 部 筋 肉
(5), 不 対 鰭 筋 肉 (
1) , 尾 部 筋 肉
(7), 体 側 筋
(0), 外 部 形 態
(9).
【 第
1解 析 】
ア カ グ ツ 科 を 含 む ア ン コ ウ 目 魚 類
15科 を 内 群 , ガ マ ア ン コ ウ 科 魚 類 お よ び ギ ン メ ダ イ 科 魚 類 を 外 群 と し ,
91形 質 変 換 系 列 を 用 い て 系 統 解 析 を 行 っ た 結 果 , 最 節 約 的 な
3本 の 樹 形 ( 樹 長
241, 一 致 指 数
0.448)を 得 た . そ れ ら の 厳 密 合 意 樹 か ら 判 断 す る と , ア カ グ ツ 科 の 単 系 統 性 は 以 下 の
6個 の 固 有 派 生 形 質 を 含 む
18個 の 共 有 派 生 形 質 に よ り 強 く 支 持 さ れ , そ の 姉 妹 群 は フ サ ア ン コ ウ 科 で あ る こ と が 推 定 さ れ た .
1) 側 篩 骨 が 誘 引 突 起 腔 を 形 成 す る ,
2) 擬 餌 状 体 が 誘 引 突 起 骨 全 体 で 支 持 さ れ る ,
3) 下 鰓 蓋 骨 が 板 状 を 呈 す る ,
4) 最 後 部 の 鰓 条 骨 が 他 の 鰓 条 骨 の 外 側 に 位 置 す る ,
5) 尾 鰭 椎 前 第
2椎 体 の 血 管 棘 が 短 い ,
6) 前 部 脊 椎 骨 の 神 経 棘 が 互 い に 近 接 す る .
【 第
2解 析 】
ア カ グ ツ 科 魚 類
34種 を 内 群 , フ サ アン コウ 科,
Brachionichthyidae, イ ザリ ウ オ 科 お よ び
Tetrabrachiidaeを 外群 とし ,135 形質 変換 系列 を用 いて 系統 解析 を行 った 結 果,
最 節 約 的 な
72本 の 樹 形 ( 樹 長
461, 一 致 指 数
0.349)を 得 た . 本 研 究 で は こ れ ら の 厳 密 合 意 樹 ( 図 ) を ア カ グ ツ 科 の 系 統 仮 説 と し て 採 用 し た , こ の 系 統 仮 説 を 以 下 に 要 約 す る .
1) ア カ グ ツ 科 の 既 存 の 属 の う ち , ユ メ ソ コ グ ツ 属 と ム シ フ ウ リ ュ ウ ウ オ 属 を 除 く
8属 は 単 系統群を形成する.
2
) ヒ メ グ ツ 属
Halieutichthys( 分 岐 群
Ml) は ニ シ フ ウ リ ュ ウ ウ オ 属
Ogcocephalus (M2)と 姉妹群関係をなす.
3
) ヒ メ グ ツ 属 と ニ シ フ ウ リ ュ ウ ウ オ 属 か ら な る 単 系 統 群
(L2)は ツ マ リ フ ウ リ ュ ウ ウ オ 属
Zalieutes (Ll)と 姉妹群関係をなす.
4
) ツ マ リ フ ウ リ ュ ウ ウ オ 属 , ヒ メ グ ツ 属 お よ び ニ シ フ ウ リ ュ ウ ウ オ 属 か ら な る 単 系 統 群
(K2)はフウリュウウオ属Malthopsis (Kl )と姉 妹群関係をなす.
5
) フ ウ リ ュ ウ ウ オ 属 , ツ マ リ フ ウ リ ュ ウ ウ オ 属 , ヒ メ グ ツ 属 お よ ぴ ニ シ フ ウ リ ュ ウ ウ オ 属 か ら な る 単 系 統 群
(J2)は ア ミ メ フ ウ リ ュ ウ ウ オ 属
Hロ ´
fcmPf娜 (
J1) と 姉 妹 群関 係を な す.
6
) ア ミ メ フ ウ リ ュ ウ ウ オ 属 , フ ウ リ ュ ウ ウ オ 属 , ツ マ リ フ ウ リ ュ ウ ウ オ 属 , ヒ メ グ ツ 属 お よ び ニ シ フ ウ リ ュ ウ ウ オ属 から な る単 系統 群(
12) はソ コグ ツ属
Df6′ ロ門 めw (11 )と 姉 妹群 関係をなす.
7
) ソ コ グ ツ 属 , ア ミ メ フ ウ リ ュ ウ ウ オ 属 , フ ウ リ ュ ウ ウ オ 属 , ツ マ リ フ ウ リ ュ ウ ウ オ 属 , ヒ メ グ ツ 属 お よ び ニ シ フ ウ リ ュ ウ ウ オ 属 か ら な る 単 系 統 群 (
H2) は イ ガ フ ウ リ ュ ウ ウ オ 属 跏´oc 畑甜ロM ロ(
H1)と姉妹群関係をなす,
8
) 前記
7属か らな る単 系統 群(
G2) は アカ グツ 属向 り´ セ 細P ロ (G1 )と 姉妹 群関 係を なす.
9
)ユメソコグツC 伽りp 轟り岱6 朋vfca 甜ぬ細とトゲユメソコグツ爿り´ぬ 冲ぷむ所fc ′pp ロは姉妹群
で あ り , 両 種 か ら な る 単 系 統 群 は 他 の ム シ フ ウ リ ュ ウ ウ オ 属
m´ セ 甜 卿
Jむ と とも に単 系 統群
一1327 ―
(Fl
) を形 成し,その他全てのアカグツ科魚類(F2) と姉妹群関係をなす.
【分 類体 系】 本研究では上述の系統仮説に基づき,ユメソコグツ属はムシフウリュウウ オ 属 の 新 参 異 名 で あ る と し , ア カ グ ツ 科 内 に
9属 を 認 め る 分 類 体 系 を 提 唱 し た .
Family Ogcocephalidae
アカグツ科
Genus Halieutopsis Garman
,
1899ム シ フ ウ リ ュ ウ ウ オ 属
Junlorsynonym:
CIDP轟 ワ ヵ ′ . 炒
Brauer 1902 GenuS〃
7´ セ 甜 細
Pロ
V甜
enCienneS、
1837ア カ グ ツ 属
Genus馳 ´Dc おg ロ
mロBradbury ,
1999イ ガフ ウリュ ウウ オ属
GenuSDf6rロ 門
Cカ 甜 ぷ
PeterS‐
1876ソ コ グ ツ 属
Genus月
aガ
cmPr甜
JAlcock一
1891ア ミ メ フ ウ リ ュ ウ ウ オ 属
GenusMa′
f瓜
Zpぱ む
Alcock,
1891フ ウ リ ュ ウ ウ オ 属
GenusZa′セ甜セざJordan 洲Evemlann ,1896 ツマリフウリュウウオ属
Genus月
a´ セ
Hffcカ 碵 ド
Poey,
1863ヒ メ グ ツ 属
Genus〇. 〆Dc 印カ ロ´ 恥Fischer ,1813 ニシフウリュウウオ属
【 体形 およ び捕 食様 式の 進化】 アカ グツ 科魚 類を体形に基づいて3 型(円盤形,三角形,
箱 形) に区 分し ,それらの形態進化を最節約的に復元した結果,本科の祖先は「円盤形」
を 呈し ,科 内の
1つの 系統 で「 円盤 形」 から 「三角形」ヘ進化したと考えられた.外群と 類 似す る「 箱形 」の 体形 は,科 内の
1っ の系 統で「円盤形」から二次的に進化したことが 示 唆さ れた .ま た口の構造は,科内において「前向きの大きな口」から「下向きの小さな 口 」へ の進 化が 複数回起きたことが示唆され,後者の状態を持つ種は,底生生物の捕食に よ り適 応し てい ると 考え られた .
【起 源お よび 系統 分散 】各 種の 分布 域お よび 分布 水深を 系統 樹上 にマ ッピ ング し,その 変遷を最節約的に復元した.その結果,アカグツ科魚類はインド・西太平洋海域に起源し,
そこから東方,南方および西方に分散したことが示唆された.また,本科魚類の祖先は200m
以 深 の 深 海 域 で 起 源 し , 徐 々 に 浅 海 域 に 分 散 し た こ と も 示 唆 さ れ た ,
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1 3 2 9
学 位 論 文 審 査 の 要 旨
学位論文題名
Phylogenetic Systematics of the Family Ogcocephalidae(Lophiiformes) (アカグツ科魚類の系統分類学的研究)
ア カグ ツ科 魚類 はアン コウ目 に属す る底生 性魚 類で, 体形は 強く扁 平し 、頭部 に誘引 突起を 収納す る誘 引 突 起 腔 があ ること ,体が 小棘 状の鱗 で覆わ れるな どの 特異な 鯖徴を 持つ魚 類であ る. 本科魚 類の系 統類縁 関 係 に関す る研究 は僅か で, そすLらの 研究で も比較 解剖学 的形質 がほ とんど 用いら れてお ら` 吏アカグツ制魚 類 の系統 類縁関 係はま だ解 明され ていな い。
そ こで 、本 研究 はアカ グツ科 魚類の 形態学 的特 徴を詳 細に記 載し, それ らを基 に本科 の単系 統性の 検証 , 姉 妹 群 の推 定,科 内の系 統類 縁関係 の推定 を行い ,得 られる 系統仮 説に基 づく本 科の 分類体 系を新 たに提 唱 す る こ とを 目的と して行 わゎ た.さ らに系 統仮説 に基 づき, 本科魚 類の体 形およ び輔 食様式 の進化 と,起 源 お よび系 統分散 につい て考 察した .
比 轗1の 材 料 に は 、 ア カ グ ツ 科 魚 類10属34種、 お よ て 問q斗 以 外 の ア ン コウ 目 魚 類9科9種 を 用 い ,骨 格 系 ・ 筋肉 系の比 較解剖 を行 った. 本研究 では2段階 の系統 解析 を行い ,第1解析 で|ま 本科の 単系統 性の 検 証 と 姉 妹 群 の 推 定 を , 第2解 析 で は 科 内 の 系 統 類 縁 関 係 の 推 定 を 行 っ た . 系 統 解 析 に はPAUP*4.Obl0 (Swoffcrd,2002)を用 い, 最節約 基準の 下で最 適欝を 求め た.形 質の極 性の決 定に は外群 比較法 を用い ,形 質 の最適 化には 変換促 進と 変換遅 延を採 用して いる.
本 研究の 主要な 結果 は以下 に述べ るとお りで ある。
・ 本 研 究で は比較 解剖に よっ て得ら れた知 見を基 に, アカグ ツ科棄 類34種 におけ る全骨 格系, 全筋肉 系お よ び 外 部 形 態 の 形 態 学 的 特 徴 を 詳 細 に 記 載 し , 科 内 に お け る 形 態 変 異 を 明 ら か に し た .
・ 第1解 析で は , ア カ グッ 科 を 含む アンコ ウ日魚 類15科 を内群 ,ガマ アン コウ科 魚類お よびギ ンメダ イ科 魚 類 を 外 群 とし ,91形 質変 換 系 列を 用い て系統 解析を 行った 結果 ,最節 約的な3本 の樹形 を得た ,それ らの 厳 密 合意樹 から判 断する と, アカグ ツ科の 単系統 性|赳 ひ下 の6個 の固 有派生 形質を 含む18個の共有派生形質に よ り 強 く支 持され その姉 妹群 はフサ アンコ ウ科で ある ことガ 黻され た, 1)伽脇 骨カミ 誘引突 起腔を 形成 す る ,2) 擬餌 状体が 誘弓1突起 骨全体で注ヨ寺される,3)下鰓蓋骨が板状を呈する,4)最後部の鰓条骨が他の鰓 条 骨 の 外 側に 位 置 す る ,5) 尾 鰭椎 前第2椎体 の血管 棘が短 い,6)前 部脊 椎骨の 神経棘 が互い に近接 する . ー1330―
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授 授
授
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助
査 査
査
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・第2解析では,アカグツ科魚類34種を内群,フサアンコウ科,BrachJcぬich出弭dae,イザリウオ科およ びT(抽旧brachiIdaeを外群とし,135形質変換系列を用いて系統解析を行った結果,最節約的な72本の樹形 を得た.本研究ではこれらの厳密合意樹をアカグツ科の系統仮説として採用した.この系統仮説の概要は以 下の通りである。
1)アカグツ科の既存の属のうち,ユメソコグツ属とムシフウリュウウオ属を除く8属は単系統群を形成する.
2)ヒメグツ属はニシフウリュウウオ属と姉妹群関係をなす.
3)ヒメグツ属とニシフウリュウウオ属からなる単系統群はツマリフウリュウウオ属と姉妹群関係をなす.
4)ツマルフウリュウウオ属,ヒメグツ属およびと:シフウリュウウオ属からなる単系統群はフウリュウウオ属 と姉妹群関係をなす.
5)フウリュウウオ属,ツマリフウリュウウオ属,ヒメグッ属およびヒシフウリュウウオ属からなる単系統群 はアミメフウリュウウオ属と姉妹群関係をなす.
6)アミメフウリュウウオ属,フウリュウウオ属,ツマリフウリュウウオ属,ヒメグツ属およびニシフウリュ ウウオ属からなる単系統群はソコグッ属と姉妹群関係をなす・
7)ソコグツ属,アミメフウリュウウオ属,フウリュウウオ属,ツマリフウリュウウオ属,ヒメグツ属および ニ シ フ ウ リ ュ ウ ウ オ 属 か ら な る 単 系 統 群 は イ ガ フ ウ リ ュ ウ ウ オ 属 と 姉 妹 群 関 係 を な す . 8)前記7属からなる単系統群はアカグッ属と姉妹群関係をなす.
9)ユメソコグツ属はムシフウリュウウオ属とともに単系統群を形成し,その他全てのアカグッ科魚類と姉妹 群関係をなす.
・上述の系統仮説に基づき,ユメソコグツ属はムシフウリュウウオ属の新参異名であるとし,アカグツ科内 に9属を認める新分類体系を提唱した.
・アカグツ科魚類の体形を3型(円盤形,三角形,箱形)に区分し,それらの形態進化を最節約的に復元し た結果,本科の祖先は円盤形を呈し,三角形および外群と類似する箱形の体形は;円盤形から進化したする 仮説を提唱した。
・科内において前向きの大きな口を持つ状態から,下向きの小さな口を持つ状態への進化カ複数の過程を経 て起 きた こ とカ 徽さ れ後 者の 状 態は ,底 生生 物の 捕 食に より 遭応 し てい ると の仮 説を 提唱した 。
・各種の分布域および分布水深を系統樹ヒにマッピングした結果,アカグッ科魚類は東部インド洋および西 部太平洋海曦に起源し,そこから東方,南方および西方に分散し、東部太平洋には大西洋を経由して進出し たとする仮説を提唱した。また,本科魚類の起源は200m以深の深海域であり,徐々に浅海域に分散したと 推定した。
以上を内容とする本論文は魚類系統分類学及乙勅噌翁との分野に大いに貢献したものと高く評価され、審査 員 一 同 は 本 論 文 カ 縛 士 ( 水 産 科 学 ) の 学 位 を 授 与 さ れ る 資 格 の あ る も の と 判 定 し た 。
ー1331―