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Academic year: 2021

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博士課程用(甲)

(様式4)

学 位 論 文 の 内 容 の 要 旨

須田 真千子 印

(学位論文のタイトル)

成人発症甲状腺機能低下症モデルマウスは電位依存性カリウムチャネルの減少に伴って侵害受容 性線維の過興奮に起因する機械刺激過敏を呈する

(学位論文の要旨)

1. 序論

甲状腺ホルモン (TH)は中枢・末梢神経の機能維持に重要である.成人発症甲状腺機能低下症患 者のおよそ50%が痛みを含む何らかの感覚異常を呈し,甲状腺機能低下症に伴う末梢神経障害が感覚異常の 原因と考えられている.しかし,甲状腺機能低下症で痛みが生じる機序には未解明の点が多い.末梢神経 における侵害受容性線維の活動は自由神経終末だけでなく軸索においても修飾を受ける.正常神経を連続 的に電気刺激した場合,軸索で神経伝導速度の低下と伝導ブロックが起こることが知られており,末梢神 経における連続刺激に伴う変化の解析により,神経線維の活動性を推定できると考えられる.電位依存性 カリウムチャネル (Kv)は神経線維の活動制御に重要な役割を果たし,甲状腺機能低下症においても侵害刺 激感受性線維の活動変化に関与する可能性がある.本研究では成人発症甲状腺機能低下症が侵害刺激感受 性に及ぼす影響,および侵害刺激過敏状態における末梢神経の活動性の変化とその分子生物学的メカニズ ムを解明することを目的とした.

2. 材料と方法

8-10週齢のC57BL/6J雄性マウスに対し,50 ppmの抗甲状腺薬プロピルチオウラシル(PTU)を5 週間 (week 0よりweek 5まで)経飲水的に投与した (PTU投与群).健常対照群として,同週齢の同種雄性 マウスに5週間蒸留水を与えて飼育した.PTU投与期間終了後,両群に蒸留水を与えてさらに10週間 (week 15まで)飼育し,以下の実験を行った.両群において,week 4, 5, 15時点の血清中総トリヨードサイロ ニン (TT3)および総サイロキシン (TT4)濃度を測定した.また実験経過中の機械刺激に対する反応閾 値を測定した.次に坐骨神経の複合活動電位(CAP)を記録し,week 4,15時点の侵害受容性線維 (Aδお よびC線維)由来のCAPの成分を解析した.単回刺激下では閾値,伝導速度,および振幅を計測した.連続 刺激においては,刺激に伴う潜時の延長および振幅の減少割合を求めた.また両群の坐骨神経を用い,

Kv1.1のタンパク量定量を行った.

3. 結果

PTU投与群の血清中TT3およびTT4濃度はweek 4時点で同時期の健常対照群に比し有意に低く, week 15の両群で概ね同値となった.機械刺激に対するPTU投与群の反応閾値はweek 4において健常対照群 に比し最も低値となった.反応閾値は投与中止後に徐々に改善し,week 15においては健常対照群とPTU投 与群の間に差はなかった.坐骨神経単回刺激下の閾値,伝導速度,振幅については健常対照群と甲状腺機 能低下症群に有意差はなかった.次に連続刺激を行い,最初と最後の刺激に伴って発生するCAPを記録し,

AδおよびC線維の各成分について潜時延長率と振幅低下率を求め健常対照群とPTU投与群で比較した.Aδ 線維においては,week 4のPTU投与群で健常対照群に比し潜時延長率・振幅低下率ともに有意に低下し,甲 状腺機能が正常化したweek 15においては両群の潜時延長率・振幅低下率に有意差は認められなかった.C 線維においても,week 4における潜時の延長率がPTU投与群において低下しており,同変化はweek 15には

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博士課程用(甲)

認められなかった.week 4時点のKv1.1のタンパク量はPTU投与群において有意に減少していた.甲状腺機 能が正常化したweek 15においては健常対照群とPTU投与群のKv1.1のタンパク量に有意差は認められなかっ た.

4. 考察

本研究において,50 ppmのPTU投与により成熟マウスにおいて甲状腺機能低下症が誘発され,同 マウスのTH低下状態における機械刺激過敏性が示された.また機械刺激反応閾値がPTU投与群において最も 低下した時点において,連続刺激に伴う変化率はPTU投与群が健常対照群に比し有意に低かった.連続刺激 に伴う潜時の延長や振幅の低下は軸索上で起こる伝導速度の低下,ないしは伝導ブロックを反映すると考 えられる.したがって,PTU投与群の軸索は健常対照群に比し伝導速度の低下,あるいは伝導ブロックが少 ない,すなわち相対的な過興奮状態にあると考えられる.この変化はweek 15では認められず,甲状腺機能 を反映した変化であることが示唆された.Kv1.1は末梢神経において機械刺激応答性にK電流の制御を行 い,神経線維の過分極および発火パターンの制御に重要な役割を果たしている.さらに,Kv1.1をコードす る遺伝子であるKcna1はTH応答配列を有し,TH依存性の発現制御を受けていると考えられている.本研究に おいて,血中TH濃度,機械的刺激閾値の低下とともに坐骨神経におけるKv1.1のタンパク量が減少し,同因 子の改善とともに改善が認められた.以上より,Kv1.1はTHによる発現制御を介して甲状腺機能低下症患者 における体性感覚に変化をもたらすと考えられる.

5. まとめ

本研究において甲状腺機能低下マウスは機械刺激に対する過敏性を呈することが示された.過敏 性の病態の背景として,AδおよびC線維における伝導速度低下や伝導ブロックの減少による相対的過興奮 性の存在が示唆された.加えて,Kv1.1のタンパク量が坐骨神経において低下しており,神経の過興奮性を 引き起こす重要な因子であることが示唆された.以上より,THにより電位依存性カリウムチャネルの発現 量の変化が起こり,感覚神経の電気的特性に変化が生じると考えられた.

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