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Vol. 56 No. 4, はじめに 方 法 吃音とは言葉が流暢に出ない言語障害の一種である. 吃音の中核症状には, 音の繰り返し, 音の引き伸ばし, 構音動作の阻止 ( ブロック, 難発ともいう ) が挙げられる 1-3). 吃音症状の改善方法としては, 流暢性形成法, 呼

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音声言語医学 56:326 ─ 334,2015 

原  著

短期シャドーイング訓練の吃音に対する効果

阿 栄 娜  酒井奈緒美  森  浩一 要 約:本研究では,成人吃音者 16 名を対象に,短期間のシャドーイング(スピーチ・シャ ドーイング,追唱)による発話訓練を行い,吃音症状と心理面に与える影響を分析した.シャ ドーイングとは,連続して聴こえてくるモデル音声を聴取と並行して口頭で再生する行為であ る.シャドーイング前に実施した音読課題で吃音頻度が高かった 8 名全員で,シャドーイング 中に吃音頻度(特に,阻止症状)が大きく減少し,症状の持続時間も短縮した.シャドーイン グ訓練直後の音読課題では,課題文の異同を問わずシャドーイング前に比べて吃音の頻度が低 く,後効果があることが示された.一方,音読で吃音頻度が低い参加者は,シャドーイング中 の吃音頻度も低いままであった.また,心理面については,自由記述した感想・意見を KJ 法 で分析したところ,シャドーイング中に流暢な発話を体験したことを実感し,心理面にもポジ ティブな影響を与えていることが明らかになった. 索引用語:吃音,スピーチ・シャドーイング(追唱),音読,吃音頻度,流暢性

Short-Term Effects of Speech Shadowing Training on Stuttering

A-Rong-Na, Naomi Sakai and Koichi Mori

Abstract: The present study investigated the short-term effects of speech shadowing

training in 16 people who stutter (PWS). Speech shadowing is a task in which subjects listen to a spoken passage and repeat it with the shortest possible delay. In a subgroup of 8 PWS whose reading contained more than 3% of stuttered phrases before shadowing, the frequency of stuttering, especially blocking, and the mean duration of stuttering symptoms decreased during shadowing. They also produced significantly fewer dysfluencies in the reading-aloud task after shadowing than in the initial reading task, regardless of use of the same or different reading materials. The other 8 PWS with fewer than 3% dysfluencies before shadowing showed no significant change in stuttering frequency during or after shadowing. Thus, speech shadowing has a short-term aftereffect of reducing the frequency of stuttering, as well as possible usefulness by giving a chance to those with frequent symptoms to experience fluent speech during training. Analysis of the participants’ free comments after the training based on the KJ (card sorting) method showed that they felt their speech was more fluent during shadowing than usual, and that they were looking forward to more shadowing training.

Key words: stuttering, speech shadowing, oral reading, stuttering frequency, disfluency

国立障害者リハビリテーションセンター研究所:〒359-8555 埼玉県所沢市並木 4-1

Research Institute of National Rehabilitation Center for Persons with Disabilities: 4-1 Namiki, Tokorozawa City, Saitama Pref. 359-8555, Japan

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は じ め に

吃音とは言葉が流暢に出ない言語障害の一種であ る.吃音の中核症状には,音の繰り返し,音の引き伸 ばし,構音動作の阻止(ブロック,難発ともいう)が 挙げられる1-3).吃音症状の改善方法としては,流暢 性形成法,呼吸法,pull-out, cancelation, preparatory set などが使われることが多いが1,2),いずれも指導者 が必要な訓練法であり,かつ日常生活に汎化しにくい という問題点がある. 吃音が減少または消失する条件の一つに,シャドー イング(speech shadowing,スピーチ・シャドーイ ング,あるいは追唱)という方法がある4-6).シャドー イングとは,連続して聴こえてくる音声に対して,そ れを聴きながら,並行して,できるだけ遅滞なくその 音声を口頭で再生(復唱)する行為である4-7).シャドー イングは同時通訳の基礎訓練法として使われ8),外国 語の発音教育にも取り入れられている9-12).外国語学 習においては,母語の干渉が強く現れる韻律の矯正に 効果があるとされている9-12).日本語学習者の場合は, モーラ拍リズムの等時性が有意に改善される12) シャドーイングでは文字情報を提示しないで連続発 話した文章を訓練に使うことが一般的であり,逐次復 唱と違って,モデル音声を聴きつつ,それを順次口頭 で模倣して繰り返すという同時処理が必要なため,課 題負荷が高い.吃音を発話リズムの乱れと捉え,シャ ドーイングが外国語学習者において自然なリズムの獲 得に有効であるという知見9-12)と考え合わせると,シャ ドーイング訓練が吃音の改善に役立つ可能性がある. 実際,吃音者を対象にシャドーイングの効果を検証し た数少ない先行研究では,シャドーイング中に吃音の 頻度が減少すると報告されている4-6).しかし,Öst ら13)は,シャドーイング訓練が自然発話の吃頻度に 著しい変化をもたらすことはないとした.一方日本で は,シャドーイング訓練を吃音指導方法の一つとして 取り上げ14,15),吃音の改善訓練に導入する動きが見ら れ16),追唱潜時が測定されている17).しかし,シャドー イングの訓練効果は系統的・定量的に実証されておら ず,吃音者の心理面に与える影響についても調査され ていない. そこで本研究では,日本人の成人吃音者に短期シャ ドーイング訓練を実施し,吃音の改善に有効かどうか を検証することを目的とした. 方   法 1 .実験参加者 脳疾患や精神疾患を合併しない吃音者 16 名(男性 13 名,女性 3 名,18~38 歳,平均年齢 27.4 歳)が実 験に参加した.参加者全員に吃音の自覚があり,現症・ 病歴からも発達性吃音であると判断された.実験実施 前に吃音の重症度を検査するために,吃音検査法18)と, 吃 音 の 問 題 を 包 括 的 に 評 価 す る 質 問 紙 OASES (Overall Assessment of the Speaker’s Experience of

Stuttering)19)の日本語版20)を実施した.実験参加者 の吃音検査場面(文章音読,絵の説明,自由会話)に おける吃音の中核症状頻度は 1.3~26.1(100 文節当た り)であり,吃音頻度が低いことは除外基準とはしな かった.OASES の総合重症度は,「軽度~中等度」 から「重度」にばらつき,日常生活やコミュニケーショ ンに困難を抱えていることがわかる(表 1).なお, 本研究は所属施設の倫理審査委員会の承認を得てい る. 2 .課題文 音読用に 3 つの課題文(Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ),シャドーイ ング用に 4 種類の課題文(a,b,c,d)を用意した. 表 2 に課題文ごとの文節数とシャドーイングで用いた モデル音声の発話速度を提示した.音読用の課題文Ⅰ と,シャドーイング用の課題文 a,b は,阿栄娜10) 作成したものを使用した.課題文Ⅱは青空文庫に記載 されている北大路魯山人の「納豆の茶漬け」21)より一 部を抜粋した.課題文Ⅲは日本語学習者用の教材22) にある「ビルの地下の野菜畑」,課題文 c は日本語学 習者向けの読解教材23)にある「日本人の食生活」を 使用した.課題文 d のテキストとモデル音声は日本 語の聞き取りの教材24)にある「お菓子のおまけ」を 使用した.シャドーイングで使用する課題文 a, b, c のモデル音声は,東京方言話者 2 名(男性 1 名,女性 1 名)によって録音された. 3 .手続き 実験参加者は課題文Ⅰを 1 回音読してから(以下, 音読・訓練前),4 種類の課題文を 1~3 回ずつシャドー イングする訓練を実施した.参加者ごとの延べ訓練回 数を表 1 に示す.音読で吃音頻度が高いか,または元 の速度に追いつかなかった実験参加者 3 名(PWS 3, PWS 6,PWS 7)は,シャドーイング用の課題文 a に ゆっくりした速度のもの(4.15 mora/s)を用意し,1 ~2 回使用した.低速度のモデル音声 a は音声分析ソ フト Audacity25)を用いて,元の音声のピッチを変え

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ないようにして全体の時間を 1.37 倍に伸張した.シャ ドーイング訓練後には,後効果を見るために課題文Ⅰ と,ⅡまたはⅢとを用いて再度音読課題を実施した(以 下,音読・訓練後).課題文ⅡとⅢの振り分けはラン ダムに行った.ただし,2 名の参加者については,シャ ドーイング後に課題文 I のみの音読を行い,課題文Ⅱ, Ⅲの音読は実施しなかった.最後に,シャドーイング 訓練に対する感想および意見を自由記述してもらっ た. 4 .装置 実験は反響の少ない防音室内で実施した.実験装置 は, ワ ー ク ス テ ー シ ョ ン(PRECISION T5400, Dell),ヘッドセット(HSC271,AKG),マルチトラッ クレコーダー(DR-680,TASCAM)により構成され た.実験参加者にワークステーションからシャドーイ ングのモデル音声をヘッドホンで提示した.マイクロ ホンで録音した参加者の音声と,ワークステーション から出力するモデル音声を,マルチトラックレコー ダーの異なるアナログ入力チャンネルに接続して同時 録音した. 5 .分析方法 本研究では非流暢としては音読およびシャドーイン グにおける吃音中核症状(阻止:BL,音・モーラの 繰り返し:SR,語の一部の繰り返し:PWR)18)のみ を評価した.ただし,頻度の数え方は,吃音検査法18) と異なり,非流暢な文節 1 個につき 1 つの症状名のみ を付けた(2 つ以上の症状がある場合は主要なほうの み).音読およびシャドーイングにおける課題文ごと の総文節(表 2)中の何文節に中核症状が現れたか(吃 音頻度)を,100 文節当たりで算出した.この方法では, 吃音症状の頻度は 100 を超えない.シャドーイングに おける症状の頻度は,課題文 a の低速度のものによる データ(3 名の延べ 5 回分)を除外してから,参加者 ごとに全課題の中核症状の回数を合計し,繰り返しを 表 1 実験参加者のプロフィール 被験者番号 性別 年齢 吃音検査中の中核症状頻度 総合重症度OASES 延べ訓練回数 PWS 1 女 19 24.0 (未測定) 10 PWS 2 男 29 3.1 中等度 10 PWS 3 男 23 6.4 中等度 10※ PWS 4 男 34 24.3 中等度 10 PWS 5 男 28 4.4 中等度 9 PWS 6 男 26 1.3 重度 8※ PWS 7 男 24 20.9 中等度~重度 8※ PWS 8 男 23 26.1 中等度 10 PWS 9 男 18 14.1 重度 10 PWS 10 男 33 8.1 軽度~中等度 10 PWS 11 男 31 1.7 中等度 8 PWS 12 女 37 1.7 重度 7 PWS 13 男 30 6.0 中等度 10 PWS 14 男 22 2.2 中等度 10 PWS 15 女 38 2.4 中等度 6 PWS 16 男 24 1.9 軽度~中等度 6 ※内 1 ~ 2 回は課題文 a の低速度を使用した. 表 2 課題文の基本情報 課題 課題文 文節数 (mora/sec,ポーズ含む)モデル音声の発話速度 音読 Ⅰ Ⅱ Ⅲ 135 120 80 ― ― ― シャドーイング a b c d 114 118 155 134 5.68/4.15※ 5.76 5.48 6.32 ※ 一部の被験者で部分的に使用(表 1 と本文参照)

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含めた課題文の総文節数で除した値をその参加者の頻 度とした.低速度のシャドーイングのデータを除外し た理由は,他の大部分の刺激と速度が違うだけでなく, 延べ実施回数が少なく,その吃音頻度が著しく低かっ たためである(平均 0.44%:同じ参加者の通常速度の シャドーイングでは 3.25%). 中核症状が 3% 以上になる 31 個の音読またはシャ ドーイングのデータから無作為で 4 データ(計 502 文 節)を抽出し,評定者(第 1・第 2 著者)間の一致率 を求めた.Sander26)の一致率の計算式(一致した症 状の数/(一致した症状の数+不一致の症状の数))を 用いて求めた結果,評定者間の一致率は 0.92 であった. 症 状 の 持 続 時 間 の 測 定 方 法 は 吃 音 検 査法18) SSI-427)を参考にし,参加者ごとに,各課題中の中核 症 状 の 持 続 時 間 を 測 定 し( 音 声 分 析 ソ フ ト Wavesurfer, KTH28)),長い順に 3 つの平均値を算出 した.吃音症状が 2 回しか生じなかった参加者ないし 課題については,2 症状の持続時間の平均値を求めた. シャドーイング中に吃音頻度の変化の有無と,練習 効果や適応性効果があるかどうかを見るために,1 回 目から 3 回目の繰り返し別に吃音頻度を求め,吃音検 査法18)の計算式に基づき適応性効果および一貫性効 果を求めた. シャドーイングに対する感想・意見の自由記述は, KJ 法29)を参考に分析した.まず,記述された内容を 意味のまとまりのある単位に分割し項目別にまとめ た.次に意味内容が類似したものを分類し,カテゴリー 名を付けた.共著者が個別に分析を行い,一致率が高 いことを確認したうえで,協議しながらカテゴリー化 した. 統計検定は,シャピロ・ウィルク検定でデータが正 規分布しているかどうかを確認した.正規分布してい るとみなされるデータはパラメトリック法(t 検定, ANOVA)を使用し,分散に差があれば Welch の補 正を用いて検定した.正規分布していない場合はノン パラメトリック法(Wilcoxon 符号順位検定)を用いた. 結   果 1 .音読とシャドーイングの比較 1 )吃音頻度 一般的に成人吃音の診断には 3% 以上の非流暢が基 準の一つとされることが多いため18),本研究では,シャ ドーイング前の音読の吃音頻度が 3% 以上であった吃 音者 8 名(表 1 における PWS 1 から PWS 8)を群 1, 3% 未 満 で あ っ た 8 名( 表 1 に お け る PWS 9 か ら PWS 16)を群 2 と分類した. 音読・訓練前とシャドーイング(遅い課題文 a は除 外)における吃音頻度を図 1 に示す. 群 1 のシャドーイングにおける吃音頻度は,音読・ 訓練前に比べて有意に低かった(t(8.81)=3.36,p< 0.01,Welch の補正あり).また,音読・訓練前とシャ ドーイング 1 回目の比較においても,有意差が認めら れた(t(7)=3.57,p<0.01,Welch の補正あり). 群 2 の場合は音読・訓練前とシャドーイングにおけ る吃音頻度に有意差がなかった(t(14)=1.06,p= 0.31).群 2 は音読・訓練前においても吃音頻度が小 さく,統計的に扱うことが困難であるため,以下の分 析項目では,群 1 のみを対象とする. シャドーイング中の 4 課題文間の吃音頻度には有意 な 差 が 見 ら れ な か っ た(F(3, 21)=2.86,p=0.06). そのため,課題文の種類による影響を考慮せず,参加 者ごとにシャドーイングの回数別(1 回目~3 回目) の平均吃音頻度を算出し,回数による変化を検証した (図 2).参加者 PWS 6 は 3 回目のデータがなかった 図 1  音読とシャドーイングの平均中核症状頻 度(単位%).実線は群 1,破線は群 2, エラーバーは標準誤差を表す. 0 3 6 9 12 音読・訓練前 シャドーイング 中核症状頻 度 ( %) 群 1 群 2 図 2  群 1 のシャドーイング回数別の平均中核症状頻度 (単位:%).エラーバーは標準誤差を表す. 0 1 2 3 4 5 1回目 2回目 3回目 中 核症状 頻度( %)

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ため,残りの 7 名で回数別に 1 要因の ANOVA 検定 を行ったところ,有意ではなかった(F(2, 12)=3.17, p=0.08). 各課題間の適応性効果および一貫性効果の結果を表 3 に示す.効果と課題間の 2 要因の ANOVA 検定を 行ったところ,適応性効果が一貫性効果より有意に高 く(F(1, 7)=14.65,p<0.01),一貫性効果における 3 種類の課題間の比較でも有意な差が見られた(F(2, 14)=6.97,p<0.01).Bonferroni による多重比較の結 果,音読・訓練前と音読・訓練後との間の一貫性効果 がシャドーイング 1 回目と 2 回目との間および音読・ 訓練前とシャドーイング 1 回目より有意に高かった (それぞれ p<0.05). 2 )症状の種類および持続時間 群 1 の音読・訓練前とシャドーイングにおける吃音 中核症状を種類別に分析した結果を図 3 に示す.阻止 (BL)の頻度は,シャドーイングのほうが音読・訓練 前より有意に低かった(Wilcoxon 符号順位検定,p< 0.01).音・モーラの繰り返し(SR)と語の部分の繰 り返し(PWR)の場合は,音読・訓練前とシャドー イング間で有意差が見られなかった(それぞれ p= 0.11,p=0.40). 音読・訓練前とシャドーイングにおける中核症状の 持続時間を参加者ごとに図 4 に提示する.シャドーイ ング中の症状の持続時間が音読・訓練前より有意に短 いことが示された(Wilcoxon 符号順位検定,p<0.01). 2 .シャドーイング訓練の後効果 シャドーイング訓練によって,吃音の頻度に変化が あるかどうかを見るため,シャドーイング訓練前後で 実施した音読課題における吃音頻度を比較した.まず, 訓練後に実施した音読ⅠとⅡ・Ⅲの吃音頻度を比較し たところ,有意な差が見られなかった(t(12)=0.57, p=0.58,図 5).シャドーイング後に行った音読課題 における吃音の頻度が課題文によって変化しないこと から,以下,音読・訓練後の課題文(ⅠとⅡ・Ⅲ)の 平均値を音読・訓練前と比較して後効果として扱う. 図 6 に音読・訓練前と音読・訓練後の吃音頻度を示す. 音読・訓練後の吃音頻度は音読・訓練前より有意に低 かった(t(14)=2.21,p<0.05). 3 .自由記述 シャドーイングに対する自由記述の感想・意見につ いて,実験参加者 13 名から記述回答が得られた.残 りの 3 名は実験中に記録した口頭で述べた感想を分析 に用いた.これらから 17 個の項目を抽出し,それを 6 つのカテゴリー(発話面への効果,心理面への効果, 期待,課題の特徴,難しさ,改善点)に分類した.表 表 3 課題間の適応性・一貫性効果 課 題 適応性効果(%) 一貫性効果(%) シャドーイング 1 回目と 2 回目 82.3 22.3 音読・訓練前とシャドーイング 1 回目 (各課題文中に共通する文節のみで計算) 77.3 14.2 音読・訓練前と音読・訓練後 62.3 53.7 図 3  群 1 の吃音中核症状の種類別頻度(単位:%) BL は 阻 止,SR は 音・ モ ー ラ の 繰 り 返 し, PWR は語の一部の繰り返しを表す. 0.19 0.21 3.24 1.29 6.02 0.90 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 音読・訓練前 シャドーイング 症状の頻度( %) BL SR PWR 図 4 群 1 の中核症状の持続時間(単位:秒) 横軸は参加者,縦軸は症状の平均持続時間を表す. 症状の持 続時間 (秒) 音読・訓練前 シャドーイング 0 4 8 12 16 PWS 1 PWS 2 PWS 3 PWS 4 PWS 5 PWS 6 PWS 7 PWS 8

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4 には,各カテゴリーについて実人数を括弧内に集計 し,各項目の後ろにはその項目に該当する実験参加者 の番号を示した.なお,表内の表現は参加者の記述・ 発言内容を要約したものである. 16 名中 8 名の参加者が「発話面への効果」に言及 していた.「流暢に言えた」項目について具体的には, 「いつもよりスムーズに言えた(PWS 1)」「シャドー イングでは問題なく声を出せた(PWS 4)」と記述さ れていた.「効果を実感」の項目では,「最初の 2 回く らいは,かなり効果を感じた(PWS 3)」「最初に言い にくかった言葉が,最後には問題なく言えるように なったのはよかった(PWS 4)」「普段あまり話さない 人にとっては,口を動かすだけでも十分効果があると 思った(PWS 12)」と記述されていた.また,シャドー イングしているときは「言いやすかった」とした参加 者が 3 名いた. 4 名の参加者が「心理面への効果」について言及し ていた.「びっくりした」と記述した 2 名は,発話面 で「流暢に言えた」「言いやすかった」というシャドー イングの良い効果に対し,「びっくりした」と述べて いた.また,「自信がついた(PWS 5)」「シャドーイ ングをすれば緊張することがない(PWS 6)」という 図 6  シャドーイング前後の音読における平均中核 症状頻度(単位:%).エラーバーは標準誤差 を表す. 0 2 4 6 8 10 12 訓練前 訓練後 中核症状頻度( %) p < 0.05 表 4 シャドーイング訓練に対する感想 カテゴリー(実人数) 項目(参加者番号) 発話面への効果(8 名) 流暢に言えた(PWS 1,4) 効果を実感(PWS 3,4,12) 言いやすかった(PWS 9,13,14) 吃る準備をしていない(PWS 6) 心理面への効果(4 名) びっくりした(PWS 1,9) 自信がついた(PWS 5) 緊張しない(PWS 6) 期待(3 名) またやってみたい(PWS 7,8)訓練効果がありそう(PWS 4,7) 課題の特徴(2 名) 言いやすさが変化するのが面白い(PWS 11) ゲーム性がある(PWS 15) 難しさ(5 名) 1 回つまると,その後の挽回に苦労する(PWS 2,12) 先を予測してしまう(PWS 3,16) 集中力が必要(PWS 10) 疲れ(PWS 3) 改善点(2 名) 最初はゆっくりしたものがいい(PWS 2)3 回目から効果は感じなかった(PWS 3) 図 5  シャドーイング後の音読における平均中核症 状頻度(単位:%).横軸は課題文別,縦軸は 中核症状頻度,エラーバーは標準誤差を表す. 課題文Ⅰ 課題文Ⅱ・Ⅲ 中核症状 頻度 ( %) n.s.

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感想が得られた. シャドーイング訓練を継続すると吃音が改善すると 期待している感想が 3 名にあった.具体的には,「ま たやってみたい(PWS 8)」「ぜひ他の機会にもやって みたい(PWS 7)」「繰り返しの訓練ができれば,持続 的な効果が期待できそう(PWS 4)」「他の実験で読み にくかったものを練習して改善したい(PWS 7)」で あった. 課題の特徴については,「シャドーイングのスクリ プトの違いによって,言いやすさが変化するのが面白 い(PWS 11)」「聴こえた音声を追いかけながら話す から,ゲーム性がある(PWS 15)」と捉えていた. 一方,5 名から「難しさ」に関する記述があった. 2 名が「1 回つまると,その後の挽回に苦労する」と していた.「先を予測してしまう」項目では,同じ文 章で 2~3 回のシャドーイング訓練を行ったために「文 章を先読みできてしまった(PWS 3)」「モデル音声の 速度が遅いと,先を予測してしまい難しかった(PWS 16)」という記載があった.さらに,「予想以上に集中 力が必要(PWS 10)」「疲れ(PWS 3)」と,課題負荷 の高さへの言及があった.シャドーイングの訓練効果 を十分に出しながら継続的に訓練を実施するために は,セッション内での訓練回数やモデル音声の速度を 参加者ごとに調整する必要があることが示唆された. この点については「改善点」のカテゴリーで,「最初 はもう少しゆっくりしたものがいい(PWS 2)」「3 回 目からは,~中略~ 2 回目までほどの効果は感じな かった(PWS 3)」と,直接的な言及もあった. 表 3 の「発話面への効果」から「課題の特徴」まで のカテゴリーを肯定的な評価,それ以外を問題点の指 摘としてまとめると,16 人の参加者中,前者は 13 人 からあり,後者は 5 人(前者との重複 2 名)であった. 考   察 本研究では,成人吃音者 16 名を対象に短期シャドー イング訓練を行ったところ,音読で吃音症状が 3% 以 上であった 8 名(群 1)全員が,シャドーイング中に 吃音頻度が低くなった.シャドーイング中に吃音の頻 度が減少するという結果は,先行研究の Cherry ら4) Andrews ら5)を支持した.シャドーイングの回数別 で見ると,1 回目から 3 回目までで吃音頻度に有意差 がないにもかかわらず,適応性効果が数値としてはあ る程度高かったことは,シャドーイングの 2 回目に, 1 回目では吃らなかった文節で新たに症状が出ている ことを意味し,このことは,一貫性の数値が低かった ことに反映されている.さらに,音読・訓練前とシャ ドーイングの 1 回目のみとの比較でも後者の吃音頻度 が低く,一貫性も低い.これらのことから,音読・訓 練前よりシャドーイング中に吃音頻度が低くなること を,シャドーイング訓練を同じ素材について 3 回まで 繰り返し実施したことによる練習効果や適応性効果で 説明することはできず,シャドーイング自体に音読に 比べて吃音頻度を下げる効果があると考えられる. 吃音者は騒音下で話しやすくなる場合があるた め2),シャドーイングは聴きながら話すことにより, 吃音者が発話している間に聴こえてくるモデル音声が マスキングノイズの役割を果たしている可能性があ る.しかし,マスキングノイズ下での吃音頻度の減少 には個人差があり5),本研究では群 1 の 8 名全員がシャ ドーイング中に吃音頻度が減少したことを説明しがた い.シャドーイング中は,モデル音声を聴きながら発 話するという,認知負荷が高い状態であり,モデル音 声へ注意を向けることで非流暢性への注意が減ると推 測され,新規性の効果2)と同じ機序で,吃音頻度が減 少した可能性があると考えられる. 症状の種類別で見ると,群 1 では,吃音の中核症状 の内で阻止が,音読・訓練前に多かったものの,シャ ドーイング中に有意に低くなることが明らかになった (群 2 では音読・訓練前の吃音頻度が低く,シャドー イング中との比較で有意差がないため,症状別の分析 を実施せず).阻止は成人吃音者の非流暢性のなかで 頻度が第 1 位であり18),成人吃音者の阻止を簡単に減 らす訓練方法は知られていないが,シャドーイングを 使うと,阻止の多い吃音者に流暢に話すことを体験さ せることができることが判明した.この成功体験は吃 音者に心理的にもポジティブな影響を与えていること が,自由記述の分析から明らかになった.ただし,こ の効果をどのように吃音訓練に組み入れることができ るかは今後の課題である. 音・モーラの繰り返しの頻度については,音読・訓 練前よりシャドーイング中に減少する傾向が見られ た.Healey ら6)もシャドーイングにおける繰り返し の頻度がベースラインの音読より少ないことを示して いたが,統計的検定結果については言及がなかった. 症状の持続時間はシャドーイング中に短縮していた ことがわかった.吃音検査法18)では,10 秒以上の持 続時間を「非常に重度」と評価する.本実験では,そ のような吃音者 2 名(PWS 1,PWS 7,図 4)がシャ ドーイング中に症状の持続時間が 4 秒以下の「軽度」 または「中等度」に分類されるようにになった.

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シャドーイング前後の音読課題を比較すると,訓練 前より訓練後の吃音頻度が有意に低くなった.吃音者 は同じ文章を数回繰り返し読むと,適応性効果により 吃音の頻度が低下するとされている1-3).しかし,今 回の実験では,同じ課題文だけではなく,初めて読む 異なる課題文でも吃音頻度が減少していたことから, 単なる適応性効果ではなく,シャドーイング中に流暢 な発話を体験したことが貢献していると考えられる. 自由記述では,実験参加者はシャドーイング訓練で 流暢な発話を体験したことを実感し,心理面でもポジ ティブな影響を受けたと述べ,今後もシャドーイング で練習する意欲を見せていた.感想を集計すると,音 読・訓練前で吃音頻度が低く,シャドーイング中に吃 音頻度の有意な低下が見られない群 2 の参加者も含め て,参加者の約 8 割が肯定的な感想を述べていた.一 方,約 3 割の参加者から問題点への言及があり,シャ ドーイングの回数やモデル音声の速度に関する感想に 個人差があることが示された.実際,3 名の参加者で は遅いモデル音声を使ったときに吃音頻度が顕著に低 下することが観察された.参加者 PWS 3 が表 4 の感 想に「3 回目から効果は感じなかった」と自由記述し ていたが,実際にシャドーイング 1~3 回目の間に吃 頻度に差が見られなかった.今後は各個人の特性や要 望に合わせた訓練プログラムを組むことができれば, より参加・継続しやすく,かつ有効な訓練になる可能 性がある. シャドーイングはテレビやラジオなどの媒体を用い て自宅で簡単に練習することができる方法である.長 期的に訓練を継続することによる効果の有無は今後の 検討課題ではあるが,普段から手軽にシャドーイング を行うことを通して,流暢な発話を日々体験すること で,発話への自信が生まれるとともに,吃音症状の改 善にもつながる可能性がある. 結   論 成人吃音者に短期シャドーイング訓練を実施したと ころ,音読・訓練前で吃音頻度が高かった吃音者(参 加者の半数)の全員において,シャドーイング中に吃 音の中核症状,特に阻止の頻度が低下し,症状の持続 時間が短縮することが明らかになった.音読・訓練前 の吃音頻度が低かった残りの半数では,シャドーイン グ中も吃音頻度が低いままであった.短期シャドーイ ング訓練の後効果として,文章音読で吃音の頻度が低 くなることも示された.シャドーイングは課題の認知 的負荷は高いものの,ほとんどの吃音者に対して比較 的容易に実施できる訓練である.シャドーイングで流 暢な発話を体験することによって,後効果を期待した 流暢発話の練習としてだけでなく,心理的にも良い効 果をもたらすことができると考えられる. 謝辞 本研究は日本学術振興会科学研究費(第 1 著者,若手 B:26770158;第 2 著者,若手 B:60415362;第 3 著者,基盤 研究 B:23320083)の助成を受けたものである.  利益相反自己申告:申告すべきものなし. 文   献

1)Van Riper C: The Treatment of Stuttering, Prentice-Hall, Englewood Cliffs, NJ, 1973.

2)Bloodstein O and Bernstein Ratner N: A Handbook on Stuttering, Delmar Learning, New York, 2008.

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4)Cherry E and Sayers BM: Experiments upon the total inhibition of stammering by external control, and some clinical results. J Psychosom Res, 1: 233-246, 1956. 5)Andrews G, Howie PM, Dozsa M, et al: Stuttering: speech

pattern characteristics under fluency-inducing conditions. J Speech Hear Res, 25 (2): 208-216, 1982.

6)Healey EC and Howe SW: Speech shadowing characteristics of stutters under diotic and dichotic conditions. J Commun Disord, 20: 493-506, 1987.

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9)Mori Y: Shadowing with oral reading: Effects of combined training on the improvement of Japanese EFL learner’s prosody. LET, 48: 1-22, 2011.

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11)A-Rong-Na and Hayashi R: Accuracy of Japanese pitch accent rises during and after shadowing training. Proceedings of the 6th International Conference on Speech Prosody 2012: 214-217, 2012.

12)A-Rong-Na, Hayashi R and Kitamura T: Naturalness on Japanese pronunciation before and after shadowing training and prosody modified stimuli. Proceedings of Speech and Language Technology in Education 2013: 143-146, 2013.

13)Öst LG, Götestam KG and Melin L: A controlled study of two behavioral methods in the treatment of stuttering. Behav Ther, 7 (5): 587-592, 1976.

14)遠藤 真:子どもの行動療法 吃音児:その臨床例と技法, 川島書店,東京,1979.

(9)

15)国立特別支援教育総合研究所:言語障害教育における指導 の内容・方法・評価に関する研究―言語障害教育実践ガイ ドブックの作成に向けて―,国立特別支援教育総合研究所, 2010. 16)津熊良政:吃音概観:発話リズム改善のための試み.政策 科学,18(3):313-332,2011. 17)阿栄娜,森 浩一,酒井奈緒美,他:吃音者と非吃音者の シャドーイングにおける聴覚処理の容量.聴覚研究会資料, 44(2):87-91,2014. 18)小澤恵美,原 由紀,鈴木夏枝,他:吃音検査法,学苑社, 東京,2013.

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28)Sjölander K and Beskow J: Wavesurfer (Version.1.8.8p4) [Computer program], http://www.speech.kth.se/ wavesurfer/ (accessed on 30 July 2013).

29)川喜田二郎:中公新書 発想法―創造性開発のために,中 央公論社,東京,1967. 別刷請求先:〒359-8555 埼玉県所沢市並木 4-1        国立障害者リハビリテーションセンター 研究所       阿栄娜

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