175. 関節リウマチの新しい骨関節評価法の開発
田中 栄
Key words:関節リウマチ,骨びらん,テリパラチド, 有限要素法,骨強度東京大学 大学院医学系研究科
外科学専攻 感覚運動機能医学講座
整形外科
緒 言
関節リウマチ (rheumatoid arthritis: RA) は,慢性炎症を伴う免疫系の異常により破骨細胞が活性化され,その結 果,傍関節性骨粗鬆症や関節局所の骨破壊が発生し,骨びらんや関節変形をきたす.加えてステロイドなどの薬剤や身 体活動性の低下といった複数の要因により,全身の骨代謝回転が亢進し,骨密度や骨質の低下といった骨構造の変化を きたす全身性骨粗鬆症を引き起こし,骨折リスクが高くなる.このような RA 特有の骨構造変化を理解し,骨折の危険 性を評価することは RA の治療において重要である. 近年,従来の抗リウマチ薬に加え,メトトレキサート,さらには,生物学的製剤といった薬剤によって RA 疾患活動 性の厳密なコントロールが可能となってきた.中でも生物学的製剤は,疾患活動性のみならず,骨破壊の進行も強力に 抑制することが多くの臨床研究から明らかになっている.しかしこれらの薬物が,骨組織にどのような影響を与えてい るのかについては,不明な点が多い.その原因の一つとして,RA 骨組織の構造的評価が単純 X 線像を用いた定性的な 評価や二次元骨密度評価によって行われている事が挙げられる. 今回我々は RA の病態とその治療が骨組織に及ぼす影響について評価するために 1. CT を用いた骨びらん体積の定 量,2. 定量的 CT/有限要素法による RA 患者骨強度評価法を確立することとした. 1.CT を用いた骨びらん体積の定量 骨びらんは通常,単純 X 線像によって評価され,臨床において標準的な手法であるが,骨びらんの形成される部位 によっては二次元評価である単純 X 線像では評価が困難である場合がある.本来三次元的な境界を持つ骨びらんを三 次元的に評価することはより精度の高い評価を行える可能性があると考えられる. 2.定量的 CT/有限要素法による RA 患者骨強度評価 RA 患者における骨強度は,一般的に用いられる骨密度測定のみでは正確に評価できないと考えられている.すなわ ち,高骨密度であっても,RA 患者においては原発性骨粗鬆症と比較して骨折が発生しやすい1).これは,骨強度が骨 密度だけではなく,骨質などそれ以外の素因に大きく影響を受けているためと考えられる.我々は骨密度以外の素因の 代表である骨構造に着目し,CT 画像を基にした患者固有三次元有限要素法モデルを作成し,骨折シミュレーションを 行うことで,骨折荷重や骨折部位を検出可能な定量的 CT/有限要素法を開発し,テリパラチド(PTH1-34,骨形成促 進薬)による薬剤効果を定量的に評価した.
方 法
1.CT を用いた骨びらん体積の定量 RA 患者5名(平均年齢 56.2 歳,女性3名,CRP 0.24±0.07 mg/dl)の手関節周囲 CT 画像を0ヶ月,12 ヶ月にお いて撮像した. 上原記念生命科学財団研究報告集, 28 (2014)両手関節から MP 関節を骨量ファントムとともに1年間隔で二度実施し,取得した DICOM data を ZedView(レキ シー)に取り込み,各断面像において骨びらんの領域抽出を実施し,両手関節から MP 関節までの骨びらん領域を抽 出し体積を算出した.
2.定量的 CT/有限要素法による RA 患者骨強度評価
RA 患者で新規にテリパラチドを導入した患者 22 名(平均年齢 68.2 歳,女性 21 名,DAS28-CRP 2.95±0.79,mHAQ 0.84±0.25,既往骨折 78%)を対象とし,テリパラチド開始時,投与後6ヶ月における骨密度(DXA),CT/有限要素 解析による椎体・大腿骨近位部骨強度解析を測定し経時的に平均値を評価した.
結 果
1.骨びらん平均値は 右(0ヶ月)864.3 ml,左(0ヶ月)952.7 ml,右(12 ヶ月)1,131.3 ml,左(12 ヶ月)1,410.3 ml であり,12 ヶ月時は0ヶ月時と比較して有意に上昇した(p < 0.05)(t 検定). 2.開始時,投与後6ヶ月の腰椎骨密度は 0.94, 0.97 g/cm2 (p=0.01)(t 検定),増加率 3.8%,大腿骨頚部骨密度は 0.60, 0.61 g/cm2 (p=0.08)(t 検定),増加率 1.9%,一方開始時,投与6ヶ月の CT/有限要素解析による予測骨折荷重は腰椎 3,527,3,845 N (p=0.03)(t 検定),増加率 10.7%,大腿骨立位条件 3,527,3,845 N (p=0.6),増加率 0.7%,大腿骨転倒条 件 1,397,1,433 N (p=0.06)(t 検定),増加率 4.2%であった(図1).図 2. CT 骨びらん評価. 骨びらん部位を自動抽出し領域の体積を測定. 定量評価の対象骨を増やすことで,より精確に RA の構造的変化を評価できる可能性があると考え,今後取り組む予 定である. 2.定量的 CT/有限要素法による RA 患者骨強度評価 閉経後骨粗鬆症に対するテリパラチド投与後6ヶ月において海綿骨に対しては骨量増加効果が強く,骨密度が上昇す るが,皮質骨は投与後6ヶ月では皮質骨多孔性が増加するため,一時的に骨密度が低くなると報告されている4).この 違いが,腰椎骨密度が上昇し,大腿骨近位部の骨密度が一時的に低下する原因とされている5).RA を対象とした本研 究では,骨密度は腰椎・大腿骨頸部いずれも増加していたが,CT/有限要素解析による予測骨折荷重増加率はそれらを 上回る傾向にあり,腰椎予測骨折荷重は投与前より有意に上昇していた(図 3).CT/有限要素解析による予測骨折荷 重を用いた骨強度評価は DXA による骨密度評価より鋭敏にテリパラチドの治療効果を捉えられる可能性がある. また本有限要素解析ソフトによる大腿骨近位部表面骨密度分布をみると特に頚部が投与後6ヶ月において上昇して いた.
図 3. テリパラチドを投与した RA 症例の大腿骨近位部骨密度分布および三次元有限要素法モデル. 大腿骨頚部の骨密度は低下しているが,頚部は投与6ヶ月で骨密度分布は上昇しており,予測骨折荷重は立位条 件,転倒条件ともに上昇したことから,テリパラチドは頚部周辺の骨密度を上昇させ結果的に骨強度を上昇させ る可能性がある. 大腿骨頸部内側骨密度分布が予測骨折荷重増加につながることが報告されており6),テリパラチドが特に骨強度に影 響する部位の骨密度を上昇させている可能性が本法を用いて示唆された.今後症例数を増やし,12 ヶ月,18 ヶ月にお ける骨強度を評価する予定である.
共同研究者
本研究の共同研究者は,東京大学付属病院整形外科・脊椎外科の大野久美子,門野夕峰,安井哲郎,国立病院機構相模 原病院整形外科の大橋 暁,および東京大学 22 世紀医療センター関節疾患総合研究講座の岡 敬之である.4) Borggrefe, J., Graeff, C., Nickelsen, T. N., Marin, F. & Gluer, C. C. : Quantitative computed tomographic assessment of the effects of 24 months of teriparatide treatment on 3D femoral neck bone distribution, geometry, and bone strength: results from the EUROFORS study. J. Bone Miner. Res., 25 : 472-481, 2010. 5) Recker, R. R., Marin, F., Ish-Shalom, S., Möricke, R., Hawkins, F., Kapetanos, G., de la Pena, M. P., Kekow, J.,
Farrerons, J., Sanz, B., Oertel, H. & Stepan, J. : J. Bone Miner. Res., 24 : 1358-1368, 2009.
6) Kaneko, T. S., Skinner, H. B. & Keyak, J. H. : Lytic lesions in the femoral neck: importance of location and evaluation of a novel minimally invasive repair technique. J. Orthop. Res., 26 : 1127-1132, 2008.